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デノン、バランス構成&新UHC-MOS FET採用、“匠の技の結晶”最上位プリメイン「PMA-SX1」

 ディーアンドエムホールディングスは、デノンブランドの新製品として、プリメインアンプのフラッグシップモデル「PMA-SX1」を10月中旬に発売する。価格は58万円。カラーはプレミアムシルバー。

フラッグシッププリメイン「PMA-SX1」
CSBUデザインセンター デノンサウンドマネージャーの米田晋氏

 同社6年ぶりとなるプリメインのフラッグシップモデル。CSBUデザインセンター デノンサウンドマネージャーの米田晋氏は、コンセプトとして「メディアを問わず、コンテンツ制作者(アーティスト)の作品に込めた情熱を余すことなく再現すること。昨年発売したフラッグシップのディスクプレーヤー・DCD-SX1で実現した、ハイレゾなどの次世代ソースプレーヤーのクオリティから、アナログソースのクオリティまで、そのエネルギーを、繊細な再現力と圧倒的な駆動力で余すことなく出していけるアンプとして開発した」という。

フラッグシッププリメインの系譜
2008年発売のPMA-SX
2005年発売のPMA-S1
左がフラッグシップのディスクプレーヤー・DCD-SX1

バランス駆動にこだわる理由

 定格出力は50W×2ch(8Ω)、最大出力は100W×2ch(4Ω)。従来のSシリーズと同様に、全段バランス構成とし、スピーカーのプラス/マイナス端子を、パワーアンプの出力段によって直接駆動するBTL接続を採用。高いドライブ能力を特徴としている。

CSBUデザインセンターで、SX1の主任技師を務めた新井考氏

 CSBUデザインセンターで、SX1の主任技師を務めた新井考氏は、バランス構成にこだわる理由として、「シングルエンドのアンプは、例えるなら地面に打った杭に片側を結んだロープで、縄跳びをするようなもの。基本的には縄を回す事ができるが、地面や杭が軟弱だった場合、スピーカーが上手くドライブできなくなる事がある。バランス構成は、ロープの両側を人が持って回すようなもので、スピーカーのコントロールに優れている」と表現。

発表会の冒頭では、ディーアンドエムホールディングスのConsumer Strategic Business Unitのプレジデント、ティム・ベイリー氏が挨拶した

 バランス回路の場合は、シングルエンドとは異なり、スピーカーのドライブ電流がグラウンド回路に直接流れ込まない。そのため、増幅の基準となるグラウンドに信号が流れず、グラウンドが揺すられず、正確な増幅ができるようになるという。

 さらなる利点として、スピーカー端子の両側を使ってドライブすることで、一方の端子の電源電圧が半分で済む。そのため、低電圧用の部品も利用できるようになり、選べる部品の幅が広がり、より高音質なパーツを採用できるという。

こだわりの新型UHC-MOS FET

 出力段には、新型のUHC-MOS FETを使ったシングルプッシュプル構成を採用。微小電流から大電流まで、リニアリティが優れているのがUHC-MOS FETの特徴となる。

 他社のアンプでは、多数の素子を並列駆動して大電流を流すモデルも存在するが、デノンによれば、その場合は素子の性能のバラつきが問題となるという。そこでSX1では1ペアの素子での増幅にこだわっている。これは「POA-S1」の開発以来、繊細さと力強さを高い次元で両立するための手法として採用し続けられている。

 新型のUHC-MOS FETは、従来品と比べ、定格電流が30Aから60A、瞬時電流が120Aから240Aへと倍増されており、余裕を持った再生が可能という。さらに、カスコードブートストラップ接続により、UHC-MOSのドレイン、ソース間電圧を一定に保つことができ、電圧に依存する増幅率(伝達アドミタンス特性)を安定化し、アンプ回路全体の動作も安定させた。

PMA-SX1の内部

内部もデザインもシンプルに。最上位機初の“リモコン対応”

 内部やデザイン面でシンプルさを追求しているのも特徴。プリアウト、トーンコントロール、バランスコントロール、ヘッドフォン出力も省いており、音楽信号の経路となる内部配線を最短化し、素材にはOFCを採用。フロントパネルのボタンも削減され、ボリュームツマミ、電源ボタン、セレクターのみとなっている。

 なお、同社ハイエンドアンプでは初めて、リモコン操作に対応。「少しでも音質に影響を与える要素は極力取り入れないという方針から。しかしながら、時代の移り変わりとともにユーザーの皆様からご要望を多くいただくようになったため、リモコン対応とした」という。しかし、音質への影響を避けるため、アンプを操作していない時はマイコンへの電源供給をストップするマイコンストップモードを搭載している。リモコンからはデノン製CDプレーヤーの操作も可能。

 フォノイコライザはMC/MMそれぞれに専用入力を装備。3個並列接続されたデュアルFET差動入力回路のヘッドフォンアンプを備えたCR型イコライザー回路となっている。CR型は、NF型の課題である低域と高域での音色の違いが出ず、フラットな再生ができるというもので、かつてプリアンプの「PRA-2000」に採用された。

 NF型(NFBループの中にRIAA素子を入れ、F特を補正する方式)と比較し、規模が大きくなり、SN比を確保するのが難しくなるが、エネルギーバランスが均一になり、音質的なメリットが大きいという。なお、イコライザ回路はPhono入力を選択した時のみ電源が入る仕様となっており、CDなどを再生する場合は電源がOFFになり、他の回路への影響を抑えている。

リモコン操作に対応
CR型フォノイコライザの基板

 入力端子はアンバランス×4、Phono MC×1、Phono MM×1を用意。フロントスピーカーの強要など、ホームシアターシステムと併用するためのゲイン固定入力・エクストラプリも1系統、レコーダ入出力も各1系統装備する。さらに、XLRのバランス入力も1系統装備。3番HOT、2番HOTはリアパネルのスイッチで切り替えられる。

 バランス、アンバランスどちらの入力信号も、変換回路を用いず、ダイレクトにバランス構成の電圧増幅段に入力されるバランスダイレクト設計を採用。インバーテッドΣバランス回路により、低ひずみ率、高SN比を実現し、バランスアンプながら、シンプル/ストレートな信号経路を実現できるという。

 電源部には、大型の電源トランスを搭載。出力段と電圧増幅段には、試作を繰り返して吟味したという低倍率箔使用のカスタムブロック型コンデンサを採用。トランスの専用巻き線から独立電源として供給され、クリーンな電流を供給できるという。

 電源トランスは、従来のSシリーズと同様に砂型アルミ鋳物のケースに特殊樹脂を充填した上で格納されている。トランスから発生する振動を排除するための工夫で、磁気シールドも施し、漏洩磁束に起因する筐体内のノイズも抑制している。

写真の左側が電源部
砂型アルミ鋳物のケースに覆われた電源トランス
天面パネル

 筐体は重心を下げたハイブリッドレイヤー構造で、シャーシに電源部を設置。内部の振動発生源をフット近くに配置し、グラウンドに振動を逃している。トランス、大型ブロック電解コンデンサ、整流ダイオードには異種素材を使ったフローティング処理を施し、増幅回路への振動の伝搬を排除。外部から流入する振動から電源回路を守っている。

 インシュレータは鋳鉄製。トップパネルには風穴を設け、その寸法を調整することで共振周波数を分散させている。

 ボリュームはオーディオグレードのモーター式ボリュームで、入力バッファ回路が不要なアナログ式ボリュームを採用。デジタルボリュームと比べ、よりシンプルな回路構成となっている。アルミ無垢材削り出しのボリュームツマミは非常に大型で、振動に対して強くなっているという。

 フロントパネルは最大15mm厚。ボリュームの周囲には琥珀色のイルミネーションを装備。イルミネーションは明るめ、暗め、OFFから選択できる。

ボリュームの周囲には琥珀色のイルミネーションを装備

 スピーカーターミナルは大型タイプで、横一列に配置することで、太いケーブルも接続しやすいという。外形寸法は434×504×181mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は30.4kg。消費電力は275W。

 なお、価格は58万円で、従来のフラッグシップ「PMA-SX」(75万円)よりも低価格化している。しかし、音質面では「十分凌駕するモデルとして開発した」(米田氏)という。

 コストを抑えたポイントとして新井氏は、「PMA-SXはサイドにウッドパネルを搭載しているが、その左右の木目を揃えるなどのコストが高かった。'90年代のコンポでサイドウッドを使っていた頃と比べると、ウッドパネルの価格は高価になっている。今回はそれを使わないことで、かなりコストを抑えられている」という。

 なお、SX1は福島県の白河高原にある白河工場で生産されている。米田氏は、「日本の熟練工が丹精込めて作っている。エンジニアの匠、サウンドマネージャーの匠、デザイナーの匠、クラフトマンシップの匠、デノンの“匠”の技の結晶と言えるモデル」と締めくくった。

背面端子部
「デノンの“匠”の技の結晶と言えるモデル」だという
白河工場で生産

聴いてみる

 デノンの試聴室で試聴した。プレーヤーはフラッグシップコンビとして「DCD-SX1」を接続。スピーカーはB&Wの801Dだ。

試聴の様子
アナログも試聴。カートリッジはデノンの「DL-103」。NHKとの共同開発で1964年に完成し、NHK-FMや民放各局に採用され、その後一般販売。現在もラインナップされている名機だ

 音が出た瞬間にわかるのが、圧巻の駆動力だ。801Dの38cmウーファをキッチリドライブしており、シンセベースの俊敏な低音が、トランジェント良くパワフルにバッと出て、スッと消える。単に低音をパワフルに再生しただけで、その後がフラフラせず、音が消える時も素早く制御しているのがわかる。

 肺やお腹を圧迫されるような音圧を感じるボリュームでも、中央の女性ヴォーカルの音像はブレず、クリアな高域はシャープなまま描写される。試聴室全体の空気感を変貌させるようなパワーがありながら、極めて繊細な描写が両立されており、ハイエンドモデルならではの余裕も感じさせてくれる。現代的なハイスピード&繊細さを持ちながら、音楽の美味しい“熱さ”もキッチリ再生する極めてポテンシャルの高い1台だ。

(山崎健太郎)