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シャープ、4Kスマホ用タッチパネルやNFCなど液晶新戦略

インセルタッチ液晶は6月量産。JDI協業は否定

 シャープは10日、液晶ディスプレイのタッチパネルの新技術や、今後の液晶事業戦略などに関する説明会を開催。モバイル機器向けの「インセルタッチパネル」の量産開始を6月より開始することなどを明らかにした。また、新技術としてタッチ機能搭載のフリーフォームディスプレイ(FFD)や、NFCカードリーダー搭載のディスプレイなどを披露した。

展示された「インセルタッチパネル」搭載ディスプレイの試作機

中型と小型を分けて展開。BtoBtoBの比重を4割へ拡大

 今回の説明会は、モバイル機器向けの中小型から電子黒板などの大画面まで、用途に応じた最適なユーザーインターフェイスを紹介するとの目的で開催。シャープの代表取締役専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当 方志教和氏が、IGZOなどディスプレイ技術そのものに加え、タッチ機能などデバイス技術との融合を今後さらに進めることで、新たな付加価値提案を行なう方針を説明した。また、液晶事業において、コンシューマ向け製品(BtoBtoC)が85%を超える現状('14年度見込み)から、業務向け製品(BtoBtoB)の割合を'21年度までに40%まで拡大する計画を示した。

シャープ 代表取締役専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当 方志教和氏

 液晶事業の現状の認識として、タブレットなど中型市場の需要拡大の遅れや、中国スマートフォン市場における流通在庫増加、モデルミックスの悪化といった課題を挙げた。その対策として2月の第3四半期決算時に発表した内容は、亀山第2工場における中小型生産比率の50%までの向上などによる新規顧客開拓と拡販、IGZO液晶の高付加価値化やインセルタッチパネルの早期量産化などによる中国市場での競争力強化、中小型/大型液晶のアプリケーションミックス最適化など。

 組織体制については、同社デバイスビジネスグループのディスプレイデバイス事業統轄 ディスプレイデバイス事業本部が、従来は「大型」と「中小型」という分け方だったのに対し、4月1日からは、小型と中型を分割。中型の「ディスプレイデバイス第二事業本部」を新設することで、大型/中型/小型の3つに分けた展開となる。

 さらに、中期('17年度~)の対応として、車載/IA(産業用)/医療といった社会インフラなどを中心としたBtoBtoB事業の比重を拡大する方針を発表している。

 スマートフォン/タブレット/PC/テレビといったBtoBtoC向け製品は製品サイクルが短く、売価ダウンのリスクが高いのに対し、電子黒板やサイネージといったBtoBtoB(非コンシューマ)製品は、用途ごとにカスタム性が高く、技術力だけでなくサポート力や提案力が求められる点で参入障壁が高いことなどを、BtoBtoB向けの比重を高める理由として挙げている。

液晶事業に関する現状認識
4月1日からの組織体制
中期の対応など
BtoBtoBの比重を高める
競合に対する優位性
事業拡大のためのコア技術

新コンセプト「フリードローイング」。JDIとの協業は否定

 ディスプレイの技術進化については、「人間の視覚レベルに近い精細化が進んできた」との考えから、大規模な投資が必要とされる高精細化や狭額縁化といった競争が限界を迎え、より新たな競合軸の創出が求められるとの認識を示し、その一つとして同社の「ディスプレイUIソリューション」を強みとして挙げた。これは、IGZO/LTPS(低温ポリシリコン)/a-Si(アモルファスシリコン)といった「ディスプレイ技術」を、インセル/カメラ/ジェスチャーなどの「センシングデバイス」や独自アルゴリズムによる制御「センシングコントローラー」と融合することで、従来のディスプレイUIにおける課題の解決を目指すもの。

 同社は、ディスプレイ技術と電子デバイス技術の融合を軸にした、ユーザーインターフェイスの新コンセプト「フリードローイング」を提案。紙とペンの使用感を、タッチパネルで実現することを目指した新しいディスプレイUIを総称したもので、スマートフォンから大型電子黒板まで、あらゆるサイズのディスプレイの感度を向上させ、小型/中型/大型のタッチパネルが同じ操作で使える統一した使用感の実現を目指す。

現状のディスプレイUIの課題
ディスプレイUIソリューションの強み
新コンセプトとして掲げた「フリードローイング技術」

 「フリードローイング」の主な利用シーンとしては、ノートPCのように手書きできるというスマホ/タブレットや、筆圧検知で、様々な文字や絵を筆で描画するというディスプレイ、手袋やガラス越しでの入力、より直感的に使える電子黒板といった、小/中/大型それぞれの課題を解決する例を示した。方志氏は、「'16年までにフリードローイングを、スマホから電子黒板まであらゆるディスプレイに採用していく」と述べ、目標として15年度中に全体の4割、16年末で6割程度の対応を目指すという。

フリードローイングの利用シーン例
独自UIにより様々な画面サイズで統一した使用感の実現と連携の向上を図る

 現在、電子デバイス事業では福山工場(広島県福山市)や、三原工場(同三原市)が稼働している。今後の取り組みの一つとしては、従来のスマホ用カメラ偏重から、ディスプレイ部門との連携強化により高演色LEDやタッチパネルソリューションなど高付加価値/成長領域へのカテゴリーシフトを進めていく。

 記者からの質問で、「競合であるジャパンディスプレイ(JDI)と一緒になって液晶事業に取り組まない理由」について言及があると、方志氏は「私たちの液晶は小型だけではない。スマートフォン向けは、高精細化により今までは半導体と同じくらいの大規模な投資規模がかかっていたが、高精細化は、人間の視神経の限界まで近づいている。既に我々は有力な技術を持っており、中型や大型パネルを含めたディスプレイ全体の事業としては、(JDIと協業するのではなく)単独でやるべき」と答えた。

電子デバイス事業の2つの工場
今後の取り組み

小型インセルタッチパネルは6月量産、円形FFDなどの'16年製品化も

5型フルHD IGZO採用のインセルタッチパネル液晶

 今回発表された「ディスプレイUI」の進化に向けた具体的な取り組みとして、初展示の試作機を含む液晶パネル/ディスプレイを多数展示した。

 スマートフォン向けのインセルタッチパネルは、5型フルHDのIGZOと、5.7型WQHD(2,560×1,440ドット)のLTPSを展示。インセルとは、タッチパネルを液晶パネルの上に重ねる従来の方法に対し、タッチパネル機能そのものを液晶パネルに一体化する方式。タッチパネル部材が不要となるため、薄型化や低コスト化などが期待されている。従来のインセル方式は、感度の低下などで大型や高精細に適さない構造とされていたが、シャープは、高感度技術を進化させることで課題を解決。これにより、4K対応スマートフォンや、タブレット、ノートPCなど、より高精細/大画面への高感度タッチパネルも実現可能になったとしている。

タッチパネルの高感度化技術
ペン先1mm径を検出可能で、鉛筆などでも小さな字で手書きできる
高感度化によるタッチパネル機能の拡張

 同社は、2月の決算発表において、インセルタッチパネルを今夏ごろに量産開始予定としていたが、今回の説明会で方志氏は、小型のインセルタッチパネルを6月より量産開始することを明らかにした。まずは小型を重点的に進める予定で、中型の開発は'16年度を予定。

インセルタッチパネルのこれまでの課題と、シャープのインセル技術
5.7型2,560×1,440ドットのLTPS
インセルタッチパネルの技術

 フリーフォームディスプレイは、自由な形状の液晶ディスプレイを実現できることが特徴。車載用途としてスピードメーターやその他のモニタを1つのディスプレイに組み合わせたインパネや、円形ディスプレイを搭載したウェアラブル機器などを可能にする技術で、早期量産化に取り組むとしている。

 このフリーフォームディスプレイを応用し、ダイヤルを回す操作などがタッチでできる「円形UI」、形状と結びついた直感的操作を可能にするという「アーチ形UI(エッジUI)」も展示。車載や産業用途を想定したもので、ディスプレイとしての製品化は円形が'16年、アーチ形は'17年を目指す。

フリーフォームディスプレイの「円形UI」
同じくFFDの「アーチ形UI(エッジUI)」
横から見たところ
ダイヤルを回すようにタッチ操作
ふちをなぞって操作
カーオーディオの選曲をイメージした操作

 また、スマートフォン向けの「フレームレスUI」も紹介。超狭額縁スマホの額縁部分にタッチパネルを内蔵することで、持ち手の親指で操作でき、画面を隠すことなく操作する新しいUIを実現可能にする。

スマートフォン向けフレームレスUIディスプレイ
親指で画面を隠さず操作

 さらに、NFCカードリーダーを搭載した16型業務用ディスプレイも提案。外付けや、フレーム部分ではなく、透明なアンテナをディスプレイに内蔵することで、表示部にカードをかざして決済処理できるといった、デザイン性が高く直感的なUIを実現できるという。

NFCカードリーダー搭載ディスプレイ
画面中央にNFCカードをかざして決済

 これ以外にも、70型の“デカ筆”入力タッチパネルや、20型筆圧検知タッチパネル、7.9型高精度ペン入力/筆入力対応高感度タッチパネル、12.1型の手袋入力/厚板(5mm)ガラス越し入力対応高感度タッチパネル、10.26型デュアルビュー液晶+近接ジェスチャーセンサなどの新技術を展示した。

70型の“デカ筆”入力タッチパネル
20型筆圧検知タッチパネル
7.9型のペン入力対応タッチパネル
20型有線アクティブペン入力タッチディスプレイ
12.1型の手袋入力/厚板(5mm)ガラス越し入力対応高感度タッチパネル
10.26型デュアルビュー液晶+近接ジェスチャーセンサ

(中林暁)