ミニレビュー

プロ向けのGENELECモニタースピーカー最小機「8010A」をデスクトップオーディオに

 取材でレコーディングスタジオなどプロの現場に行くと、見慣れたコンシューマ向け製品とはちょっと違った、業務用の様々な機材を目にする。そこでレコーディングされた音を聴くと「これがエンジニアやアーティストがいつも聴いている音か……」と驚くとともに、自宅でもこんな音が聴けたらという思いが強くなる。そこで、プロの音そのままとまではいかないが、少しでも憧れに近付くために導入したのが、GENELEC(ジェネレック)の小型アクティブモニタースピーカー「8010A」。これを手持ちのUSB DACと組み合わせて、省スペースなデスクトップオーディオ環境を作ってみた。

GENELECのプロ向け大型モニター(写真はビクタースタジオで使われていたもの)

 GENELECのモニタースピーカーは、スタジオや放送局などプロの現場でよく使われている機材の一つ。様々な現場で聴く機会があるため、個人的にも「プロの音」というイメージが定着している。音楽や映像の制作者ではない筆者にとっても憧れの存在だ。

 レコーディングスタジオなどで使われている本格的なモニターシステムを、普通の家に導入するのは予算/設置環境どちらの面でも難しいが、DTMなどの利用を想定した小型モニターも数多く存在する。GENELECは、1月の米国「NAMM show 2014」に合わせて小型2ウェイモニターの「8010A」を発表。国内代理店のオタリテックを通じて国内でも6月頃から入荷され始めたようだ。

 「8000」シリーズの最小モデルである8010Aは、既に生産完了した「6010BPM」と同じ片手で持てるサイズの小型筐体で、2ウェイユニットを搭載。さらにバイアンプを内蔵する。クラスDアンプで、出力は6010BPM比で約2倍となる25W + 25W(低域+高域)に強化されている。6010BPMの入力はRCAだが、新モデルの8010AはXLRという違いもある。外形寸法は121×116×181mm(幅×奥行き×高さ)で、スタンド込の高さは195mm。

 これは業務用製品であり、本来はパーソナルスタジオや、プロが外出先のライブレコーディングなどで正確にモニタリングするために作られたスピーカー。モニターをオーディオ用に使う人も少なくないとは思うが、もともと想定する用途は異なる製品だ。入力端子もXLRのみなので、環境を選ぶことは理解した上で、読んでいただきたい。

8010Aは、片手にのるサイズ

明確な定位でタイト&ストレートに届く音

 GENELECは1978年に創業したフィンランドのメーカー。プロオーディオで初めてパワーアンプ内蔵のアクティブモニタースピーカーを実用化したという。テレビ/ラジオ局やレコーディングスタジオなどプロの現場に数多く導入されている定番モニタースピーカーであるだけでなく、コンシューマ用のオーディオシステムなどにも導入されている。10年前の'04年に、丸みのある特徴的なエンクロージャの「8000シリーズ」が登場。このデザインは現行の多くのモデルに引き継がれており、GENELEC中小型モニターの象徴ともいえる。

 筆者は3月にティアックのUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「UD-301」を購入し、これでパソコンやNASの音楽をデスクで聴くときは主にヘッドフォンのHD595(ゼンハイザー)や、MDR-1R(ソニー)を使用している。UD-301の内蔵アンプはヘッドフォン用のため、スピーカーで聴くには別途アンプも必要だが、アクティブスピーカーであれば省スペース化も図れる。UD-301のアナログ出力はRCAアンバランスとXLRバランスを備えており、せっかくなのでXLRバランス接続で使えるスピーカーが欲しいと思っていたところ、入力がXLRで、小型サイズというピッタリなのが今回の8010Aだったというわけだ。

ティアックのUD-301
XLRとRCAのアナログ出力を備えている

 購入した時の価格は、Amazonで2台合わせて86,400円だった(販売は1台単位)。このサイズにしては高価な方だと思うが、バイアンプ内蔵で、別途ステレオアンプなどを購入する必要は無いことを考えると、納得できる価格ではある。PC + USB DAC +アクティブスピーカーで省スペースなデスクトップオーディオを構築でき、スタジオモニターサウンドを家で実現できるかもしれないという期待を持って、購入を決めた。

XLRケーブルはオヤイデ電気の「d+ XLR class B」を使用

 8010Aの導入にあたり、XLRケーブルも用意した。XLRケーブルも様々なクラスが存在するが、8010Aは本体下側からケーブルを差し込む形式で、ケーブルの端子部があまり長いと設置面につかえてしまうため、なるべくコンパクトなものにしなければならない。価格が比較的手ごろなこともあって、オヤイデ電気の「d+ XLR class B」を選んだ。2mモデルで、購入時の価格は4,530円だった。オーディオインターフェイスやミキサーなどの音楽制作向けというシリーズで、導体に高純度OFCを用いている。フラットケーブルで、被覆がゴム状のため、曲げやすいのも特徴。

 早速、普段PCを使っているデスクに設置した。8010Aのエンクロージャはアルミダイキャスト製で、片手で持てるサイズだが1台1.5kgという重さがある。ザラッとした表面はまさに金属のカタマリといった手触り。丸みのある外見は、MDE(Minimum Diffraction Enclosure)という回折現象の抑制を図ったもの。本体下部にゴム状のスタンド「Iso-Pod」を備えており、本体を前後にスライドさせるとバッフル面を上下に傾けられる。これにより、ニアフィールドで使う場合にもリスナーの耳へなるべく真っ直ぐ音を届けられ、机などの反射の影響も抑えられる。

横から見たところ
本体を前後にスライドさせることで、上下に角度調整が行なえる

 ユニットは76mm径ウーファと19mm径メタルドームツイータの2ウェイ。各ユニットがバッフル面に対してくぼんだような配置で、横から見ると波を打っているようなデザインは「DCW(Directivity Control Waveguide)」と呼ばれる技術で、壁の反射などを含む周波数特性の変化を抑え、広いリスニングエリアでフラットな周波数特性となるよう設計したものだという。

ツイータ部
ウーファ部
丸みのある筐体。近くで見ると石のようなザラッとした表面

 マニュアルを見ると、スピーカーの適正な配置は、真正面から左右各30度で、ホームシアターのITU-R BS.775-1基準と同じ。リスナーにバッフル正面が向くように置く。電源は左右個別のため、それぞれに電源ケーブル接続が必要だ。

背面。リアパネルにマウント用のM6/VESA M4ネジ穴も付いており、天井などからの吊り設置も可能

 8010Aはボリューム調整機能を搭載せず、パソコンなど接続機器側から音量調整する形をとっている。このため、UD-301に接続する場合に1つ注意するのは、UD-301の背面にある出力レベルスイッチを「VARI」にしておくこと。こうすることでUD-301側からボリューム調整が行なえる。もしこのスイッチが「FIX」になっていると、アンプ側から最大音量で出てしまう。スピーカーをつないで電源を入れる前に、まずはDACやプレーヤーなど接続機器側の設定を確認しておきたい。

 パソコンでハイレゾ対応再生ソフトの「TEAC HR Audio Player」や、「X-アプリ」のWASAPI排他モードで再生してみた。最初に鳴らした感想は、当たり前だが「このサイズでも、まさにモニターの音」。余計な味付けがなく、広帯域に渡って引き締まった音だ。アンプのパワーもあって、低域の力強さも予想以上。小さくても低域が強いスピーカーは数多く存在するが、ここまでタイトでスピード感のある低音が耳へとまっすぐ届く感じは、なかなか得られないものだ。

パソコンに接続してTEAC HR Audio Playerで再生

 何より満足しているのは、ハッキリとした音像の定位。スタジオなどの大型モニターで聴いた場合、目の前のどのあたりにボーカルがいて、どのような位置関係で演奏しているかが分かるといった体験ができるが、それと全く同じとまではいかないまでも、かなり近い気持ち良さがある。ハイエンドのオープンエア型ヘッドフォンのように、音が広がりを持ちつつ直接頭に届くのとはまた違って、目の前の机にステージがあって、はっきりと「ここにボーカルがいる」という感覚を味わえる。8010Aに期待していたのは、まさにこの感じだ。

 こういった特徴を実感しやすいのは、女性ボーカルの楽曲や、小編成のアコースティック演奏など。例えば青葉市子の「つよくなる」は、ギターを弾きながらささやくような繊細な歌声と、跳ねるような小気味良いリズムが魅力の楽曲。この柔らかな声を発する口の動きと、ギターをボディヒットする右手の軽快な動きが両方とも目に見えるようだ。

 他にも、藤田恵美「Best of My Love」や、Short Straps「Montgomery」といった、“ピアノ+ボーカル”や“ギター+ボーカル”中心のシンプルな編成の音源は、何度も聴いた曲ながら聴き入ってしまう。再現性の高さだけでなく、「この場所から声(や楽器)が聴こえてくる」というのがハッキリしていることで臨場感が増しているからだろう。

 ジャンルを変えて、海上自衛隊東京音楽隊/三宅由佳莉「交響組曲『高千穂』~第2章:仏法僧の森」を聴くと、透き通ったボーカルがストレートに届くだけでなく、音楽隊による演奏の広い音場も自然に再現できており、こぢんまりしたサウンドには収まっていない。クラシックなどのダイナミックレンジの広い楽曲も鳴らし切り、ホールの残響まで丁寧に描けていると感じた。「モニターサウンドだからアッサリした特徴の無い音」というのではなく、アンプのパワーに余裕があるためか、ニアフィールドで聴くのに物足りなさは感じなかった。業務向けの強固なエンクロージャにより、ボリュームを上げても余計な箱鳴りなどはもちろん無い。

 定位がキッチリと決まった気持ち良さなどが味わえるかどうかは、収録時など制作の状態にも左右されるので、楽曲によっては“それなりの音”でしか聴こえない場合もある。また、特に圧縮音源だと音の“軽さ”がハッキリ分かってしまうケースもあった。これは、正確な音が求められるモニターなのでむしろ必要なことだ。筆者の環境では低域に不足は感じなかったが、もっと低音が欲しいという場合には、別売サブウーファ「7050B」との組み合わせが推奨されている。

ウォークマンとUD-301をデジタル接続して再生したところ

机による反射など、環境に合わせた音質調整も

背面の音質調整部

 もう一つ、モニタースピーカーならではの機能として、背面にあるスイッチで細かな音質設定などが可能。このスイッチで切り替えられるのは、オート電源ON/OFF機能を無効にする「ISS DISABLE」と、感度を-10dBに減衰できる「SENSITIVITY -10dB」、机などの反射による低域の余分なブーストを防ぐ「DESKTOP CONTROL」、壁や床/天井近くに配置する場合に低域特性を3段階(-2/-4/-6dB)で減衰させる「BASS TILT」の4種類(BASS TILTはスイッチ2個で調整)。

 これらのON/OFFを試したところ、大きな違いがあったのは感度を-10dBにするスイッチ。内蔵アンプにパワーがあることからボリューム値が小さくても結構な音量が出るため、接続機器や環境によっては感度を下げることで、ボリューム調整がしやすくなるだろう。また、音の反射を防ぐ「DESKTOP CONTROL」は、200Hz付近を4dB減衰させるものだが、机の手前側に置いていたため反射の悪影響はほとんど感じられず、あえて低域を抑える必要もなかったので今の環境では使わないことにした。

 8010Aの導入目的は、あくまでデスクトップのニアフィールドスピーカーとしての利用だったので、これでいつも音楽を聴くというのではなく、パソコンでの作業や机で読書しながらといった時に限って使っている。例えば広い音場のBlu-ray音楽ライブを楽しみたい時は、フロア型など大きなスピーカー+アンプを使いたくなるし、ダンス音楽をヘッドフォンで頭に直接届くように聴きたい時もある。そうした使い分けをする中の一つとして、これまでヘッドフォンで聴くことが多かった音楽も、このスピーカーでリラックスして聴ける環境が作れたことに満足している。

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8010A

中林暁