レビュー

バランス駆動に外部アンプデジタル接続、6万円台のてんこ盛りプレーヤー「AK70」

 Astell&Kernのハイレゾプレーヤーと言えば、約50万円の「AK380」が君臨するなど、高機能・高音質ながら高価なモデルが多いイメージだった。しかし、6月に直販129,980円(税込)の「AK300」が登場。さらに、7月15日に発売された「AK70」(AK70-64GB-MM)は直販69,980円(税込)と、購入しやすいモデルが増加している。「AK300」は先月紹介したが、今回は「AK70」を聴いてみる。

Astell&Kernのハイレゾプレーヤー「AK70」

 「AK70」の立ち位置は、これまでAKシリーズの低価格モデルとしてラインナップされていた「AK Jr」(直販税込69,800円)の後継機種だ。価格もほぼ同じである。同じような価格帯では、AK100 IIも発売当初は10万円を超えていたが、7月14日時点では実売7万円程度になっている。

 大きな特徴は、低価格なモデルでありながら、AK380やAK300といった、AK第3世代モデルの特徴を多く取り入れているところだ。それは外観デザインの時点でわかる。ディスプレイが大きく、右側にボリュームツマミを備えたフォルムは、AK3xxシリーズと良く似ている。しかし、サイズは96.8×60.3×13mm(幅×奥行き×高さ)、重量は132gと、一回り小さく、軽い。実物を目にすると“AK第3世代ミニ”という印象だ。

ミスティミントのカラーが爽やかだ
背面。上位モデルと異なり、カーボンプレートは使われていない
右側面にボリュームツマミを備えている

 ユニークなのはカラーもだ。ミスティミントという、やや緑がかったブルー系のカラー。ハイレゾプレーヤーはブラックやシルバーが多いので、爽やかなカラーはインパクトがある。

左からAK Jr、AK70、AK100 II、AK300。AK70が一番背が低い

 AK Jr、AK100 II、AK300と並べてみると、AK70が一番背が低い。厚みはAK Jrが一番薄い。AK70は、AK100 IIやAK300よりやや薄い。手に持つと、AK Jrは“薄い板”という感じだが、AK70は“小さなカタマリ”という感覚。だが、上位モデルほど分厚くはないので、ワイシャツの胸ポケットにも難なく入る。

 ただ、重厚感という意味ではやはりAK300などの方が格上の風格が漂う。また、AK70は筐体のフチがやや鋭利だ。実際指を怪我するほどではないのだが、もう少し丸みがあっても良いと個人的には感じる。

左からAK Jr、AK70
左がAK100 II、右がAK70
左がAK300、右がAK70

上位モデルとの違いをチェック

 小さく軽いのは前述の通りだが、機能面やパーツで上位モデルとの違いはどこにあるかチェックしよう。注目すべきはDACだ。AK380/320/300は、個数の違いはあれ、いずれのモデルも旭化成の「AK4490」を採用している。

 一方、AK70のDACはシーラス・ロジックの「CS4398」だ。これは、第2世代の「AK240/120II/100II」で搭載していたものと同じである。個数は1個(シングル)だ。「AK4490を採用して欲しかった」という感じもする一方で、多くのモデルを手がけ、ノウハウが既に蓄積されている「CS4398」を使うメリットもあるだろう。

 内蔵メモリは64GBで、AK300と同じだ。これだけでは心もとないが、microSDカードスロットも装備しており、最大128GBまでのカードも利用可能。これならば、ハイレゾ楽曲のライブラリも持ち歩きやすいだろう。

側面にmicroSDカードスロットを備えている

 端子類の注目ポイントは、ヘッドフォン出力だ。従来のAK Jrはステレオミニのアンバランスのみだったが、AK70ではそれに加え、2.5mm 4極のバランス出力を備えている。AKと言えば“2.5mm 4極のバランス出力”がトレードマークになっており、「バランス駆動を体験してみたいのでAKを買う」という人もいると思われるので、低価格モデルでも上位機種と同じ仕様になったのは嬉しいポイントだ。

 アウトプットレベルは、アンバランスが2.3Vrms、バランスが2.3Vrms(負荷なし)。SN比はバランス/アンバランスどちらも116dB。

2.5mm 4極のバランス出力を備えている
モデル名AK70AK JrAK100IIAK300AK380
※参考
直販価格
(税込)
69,980円69,800円109,800円
※実売約7万円
129,980円499,980円
内蔵メモリ
※microSDあり
64GB256GB
DACシーラス
CS4398×1
Wolfson
WM8740×1
シーラス
CS4398×1
旭化成
AK4490×1
旭化成
AK4490×2
PCM192kHz/24bit
ネイティブ
(最大384kHz/32bit)
192kHz/24bit
ネイティブ
192kHz/24bit
ネイティブ
(最大384kHz/32bit)
384kHz/32bit
ネイティブ
DSDDSD 2.8/5.6MHz

176kHz/24bit
変換再生
DSD 2.8MHz

88.2kHz/24bit
変換再生
DSD 2.8MHz

88.2kHz/24bit
変換再生
DSD 5.6MHz

176.4kHz/24bit
変換再生
DSD 11.2MHz
ネイティブ
USB DAC96kHz/24bit384kHz/32bit
DSD 11.2MHz
USB出力×
(今後対応)

(今後対応)

(今後対応)
筐体素材アルミジュラルミン

 再生対応ファイルは、192kHz/24bitまでのネイティブ再生が可能。それを超える384kHz/32bitまでも再生は可能だが、ダウンコンバート再生となる。DSDもネイティブ再生は非対応だが、5.6MHzまでのファイルを、PCM 176.4kHz/24bitへ変換しながら再生できる。

 ファイル形式は、WAV/FLAC/MP3/WMA/OGG/APE/AAC/Apple Lossless/AIFF/DFF/DSFをサポート。ギャップレス再生も可能だ。

 OSは上位モデルと同様、Androidベースで、操作性などはAK3xxシリーズとほぼ同じだ。ディスプレイは3.3型の液晶で、解像度は480×800ドット。静電容量式のタッチパネル仕様となっている。

AndroidベースのOSを採用。タッチ操作が可能だ
アルバム一覧を表示したところ
上からフリックすると、クイックメニューが表示される

 IEEE 802.11b/g/n 2.4GHzの無線LAN機能も備え、DLNAネットワーク機能「AK Connect」にも対応。スマホのアプリからAK70を制御し、NAS内に保存した音楽のストリーミング再生などもできる。

 Bluetoothにも対応しており、プロファイルはA2DP/AVRCPに、コーデックはSBC/aptXに対応。低価格モデルでも、機能的に上位機種に劣るところはほとんどない。強いて挙げるとすれば、パラメトリックイコライザが無くなり、デジタルイコライザになっている事。また、第3世代ではジッタを低減するフェムトクロックを備えているが、AK70は非搭載となっている。

 バッテリは、内蔵のリチウムポリマーバッテリで、容量は2,200mAh/3.7V。筐体の素材はアルミで、パステルカラーのミスティミントを採用。アルマイト処理も施されている。上位モデルで同梱されている、専用のケースは付属しない。このあたりがコストパフォーマンスに優れる理由でもあるが、持ち運びにはやはり何らかのケースが欲しいところだ。

AK100IIやAK300はケースが付属するが、AK70のケースは別売だ

 上位モデルや過去モデルと比べ、AK70のみに搭載されている機能もある。トップメニューの「アートワーク拡大表示」だ。

 AKでは、トップメニューの下部にアーティスト、アルバムといったボタンが並び、ボタンのカスタマイズもできる。しかし、ボタンが多いと、アルバムジャケットの表示面積が少なくなるという問題がある。

 そこで、トップメニューでボタン部分を画面の下に格納するようにフリックすると、ボタンが一段下に隠れるようになるのが「アートワーク拡大表示」機能だ。AK70限定機能というわけではなく、今後、第2、3世代の他機種にもファームウェアアップデートで同様の機能が提供される予定だという。

AK300のトップメニュー。ボタンは多いが、アルバムアートの表示面積が少ない
AK70ではボタン部分を下にフリックすると……
このようにボタンが一段、ディスプレイの下に格納される

音を聴いてみる

 従来モデルの「AK Jr」だけでなく、価格的に近い「AK100 II」、「AK300」とも聴き比べてみる。イヤフォンは「AK T8iE」(初代機)やJH Audioの「TriFi」を使っている。

 まずはアンバランス接続で「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を再生する。外観からすると、こじんまりとした音を出しそうだが、出てくるサウンドはスケールの大きな堂々とした音で良い意味でイメージと違う。

 上下のレンジは広く、低域は肉厚で迫力がある。高域は色付けの無い、クリアなサウンド。音場も十分に広く、基本的な再生能力の高さがわかる。

左からAK Jr、AK70

 前モデルにあたるAK Jrと聴き比べる。AK JrのDACはDACはWolfsonの「WM8740」だ。最も大きく違うのは、情報量の多さ。ベースの弦の動きやドラムのキレなど、細かな音がAK70の方がよく聞こえる。さらに、前に出ている音の背後にある空間の広がりも、AK70はスーッと音が広がっていくのが見えるが、AK Jrは前に張り出す音が目立ってあまり背後がわからない。それゆえAK70の方が立体的で、閉塞感も少ない。

 張り出しが強いからと言って、AK Jrの方が低音も強いわけではない。ベースに注目して聴き比べると、低い音の沈み込みの深さはAK70の方が上手だ。AK Jrは中域が膨らみがちで、低域の芯が緩い。DACがどうこうというよりも、ドライブしているアンプ自体が、AK70の方がシッカリしているという印象だ。新旧モデル比較になるので当然ではあるが、全面的に音質はAK70の方が上回っている。

左がAK100II、右がAK70

 次の相手はAK100 IIだ。10万円を切るAK100 IIは、位置付けとしては上位モデルだが、価格面ではライバルと言って良いだろう。さらに言えば、前述のとおり搭載しているDACはAK70と同じ、シーラス・ロジックの「CS4398」、シングルで搭載している点も同じだ。

 AK70 VS AK100 IIの聴き比べは非常に面白い。音の傾向としては、両者はとても似ている。大きく違うのは中低域の深さだ。AK100 IIはどちかというとハイ上がりで、低域が弱めのサウンドだ。対してAK70は、先ほど書いたように低域も低い音がシッカリと沈み、中低域の厚みもある。聴き比べると、ドッシリとした安定感のあるAK70に対して、AK100 IIの音は頼りないというか、不安定で、なよっとした感じに聴こえてしまう。

 よく言うとAK100 IIの音は、爽やかで透明感がある。悪くいうと低域の力感が不足している。これはAK100 IIの個性だが、AK70にはこうした極端な傾向が良い意味で無い。情報量の多さは両者良い戦いだが、SNの良さはAK70に軍配が上がる。クリアでメリハリもあり、恐らく多くの人が聴き比べても、AK70の方が良い音だと感じるだろう。DACは同じなので、アンプ部分のパワーアップが効いているようだ。

 数値で比べてみると、AK70のアウトプットレベル(負荷無し)はアンバランスで2.3Vrms、バランスで2.3Vrms。AK100 IIはアンバランス2.0Vrms、バランス1.7Vrmsだ。最上位のAK380もアンバランス2.1Vrms、バランス2.3Vrmsなので、AK70が見た目以上にドライブ力のあるプレーヤーだという事がわかる。

左がAK300、右がAK70

 次に、さらに格上の相手となる「AK300」と聴き比べてみる。AK300のDACは旭化成の「AK4490」だ。AK70からAK300にイヤフォンをつなぎ替えると、音場がふわっと一回り広くなり、低域の沈み込みがより深く、さらに低い音の分解能が向上。うねる低域の中の音が、細かく見えるようになる。中高域の質感も、AK300の方が丁寧で、女性ボーカルの響きも味わい深い。AK300は約13万円で、約7万円のAK70とは2倍近い差があるので当たり前ではあるが、確かに両者の間には音質の違いが存在する。

 だが、AK Jr、AK100 II、AK300と織り交ぜながら聴き比べると、AK70の“音作りの上手さ”を実感する。つまり、AK Jrのように中低域がちょっと雑に出っ張ったり、AK100 IIのように低い音が心もとなかったりという、気になるポイントがAK70には無いのだ。

 確かにAK300と比べると音のランクは落ちるが、その“落とし方”が上手い。AK70自体、ワイドレンジであり、低域もしっかり出ていて、これ単体として満足度の高い音に仕上がっているので大きな不満を感じないのだ。恐らくアンプの世代というか技術が、AK70とAK300などAK3xxシリーズで似ているのだろう。このアンプの良さが“エントリーモデルっぽさ”を感じさせない理由でもある。「AK300と比べると違うのはわかるけど、別にAK70も良い音だし、これでいいんじゃない?」という意見の人がいても、まったく不思議ではない。

 さらにAK70には、音質をアップさせる手段が用意されている。2.5mm 4極のバランス出力だ。実際にアンバランスからバランスに切り替えると、チャンネルセパレーションが向上。音場が広く、立体感が増す。同時に、低域の描写も丁寧になり、透明度がアップ。パワーで押すのではなく、細かな音の集合体としての低音が押し寄せる感じになる。AK300(アンバランス)と比べて、ちょっと劣ると感じていた部分がかなり解消されるので、バランス接続を利用しない手はないだろう。まあ、AK300もバランス接続するとさらに音質が良くなるので差は開いてしまうが、それは考えない事にしよう。

バランス接続でさらにクオリティアップ

ポータブルDACアンプと組み合わせて純粋なプレーヤーにも

 音のグレードアップ方法は、バランス駆動以外にもう1つある。それがUSBオーディオデジタル出力だ。

 AK70は底部にmicroUSB端子を備えており、PCと接続してUSB DACとして動作したり(96kHz/24bit対応)、充電に利用したりするのだが、それに加え、USBから音楽をデジタルのまま出力し、外部のUSB DACなどから再生する事ができる。

 要するに、スマートフォンとポータブルアンプ(DAC内蔵)をUSBケーブルで繋ぐような使い方が、“AK70+ポタアン”で可能というわけだ。これにより、AK70を単なるプレーヤーとして使い、DA変換とアンプを、別の製品に担当させる事ができる。組み合わせ相手としては、音質のグレードアップも可能だ。

 また、伝送はPCM 384kHz/32bit、DSDはDoPで5.6MHzまでをサポートしている。つまり、AK70本体ではネイティブで再生できないデータであっても、相手のDACが対応していれば、DSDのネイティブ再生などもできるというわけだ。

DSDはDoPで5.6MHzまでをサポート

 試しに、AK70と同様に小型の「CHORD Mojo」(直販73,440円)と組み合わせてみた。接続にはオーディオテクニカのUSB OTGケーブルを使用。接続した後、AK70のディスプレイを上から下にフリックすると出てくるクイックメニューから、USB端子のようなマークをタップすると、USBオーディオデジタル出力が開始。Mojoから音が出るようになる。

USB端子のようなマークをタップすると、USBオーディオデジタル出力が開始
CHORDのMojoと組み合わせたところ

 Mojoのサウンドは、個々の音が非常にパワフルで、パツパツと、はじけるようなサウンド。全ての音が前へ前へとパワフルに前身してくるのだが、それが押し付けがましくならず、情報量の多さと分解能の高さを維持しながらせり出してくるのがなんとも心地よく、驚くべきポイントだ。当たり前だがAK70のサウンドとはまったく違う、Mojoのサウンドが楽しめる。

 「スマホでも同じ事はできるのだから、わざわざAK70をプレーヤーとして使わなくてもいいのでは?」という意見もあると思うが、実際に使ってみると、スマホ+Mojoよりも便利だ。スマホと違い、AK70ではストレージ容量を音楽に全て割り振れる事、さらにスマホよりも小さく、Mojoと近いサイズ感である事も利点と感じる。

 そしてもっとも大きなポイントは、スマホが音楽再生から開放される事だろう。スマホとポタアンが接続されていると、「音楽は聴かないけれど、ちょっとWebやTwitterが見たい」といった場合に、いちいちポタアンから外さなければならない。当たり前だが、音楽を聞く時は、ポタアンと再接続する必要がある。

 しかし、AK70+Mojoであれば、その1セットが1つの音楽プレーヤーであるため、日常でスマホをいじっている時は、AK70+Mojoに触れる必要がない。これはやはり便利であり、スッキリする。

 なお、このUSBオーディオデジタル出力は、AKの第2、第3世代機にも今後のファームウェアアップデートにより追加されていく予定だ。AK70ではそれらに先駆けて、先行的に機能を搭載している形になる。

 また、拡張性の面では、AK3xxシリーズでは、底部に専用のバランス出力端子を装備。ジャケット型の外部アンプを装着できるようになっているが、AK70にはそれが無く、利用はできない。ただ、同じくAK3xxシリーズ向けに展開されているCDドライブ「AK CD-Ripper」との接続はサポート。PCを使わず、プレーヤーに直接リッピングする事も可能になっている。

「AK CD-Ripper」との接続は可能。関連の設定項目もある

低価格だが多機能で懐の深いモデル

 操作性の良さは上位モデル譲り。また、バランス駆動への対応や、それによる空間の広がりといった利点が体感できるところなど、“AK第3世代ミニバージョン”ではあるものの、大きな不足は感じない、満足度の高いプレーヤーに仕上がっている。

 DACが上位モデルと異なるのが気になるかもしれない。確かに、空間の広がりなどの面では確かに上位モデルの方が良いと感じる部分はあるが、これ単体で聴く限りでは十分高音質だ。また、コンパクトなサイズでこの音質を実現している事にも価値がある。AK3xxシリーズが大きすぎると感じている人には、AK70はとても魅力的だろう。

 ラインナップが終了となっていくAK JrやAK100 IIの値下がりなども気になるかもしれないが、個人的には、音質で選ぶならそれらよりもAK70をオススメしたい。

 “AKの世界”へのエントリーモデルと位置付けられているが、音質の満足度が高いため、すぐに上位モデルが欲しくなるような事はないだろう。バランス接続や、USBデジタルオーディオといった音質アップ手段も用意されているので、そうしたものを利用し、音の変化を楽しむ、“オーディオの面白さ”をこの価格で味わえる。安くて小さいが、懐の深いプレーヤーだ。

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山崎健太郎