レビュー

よりパワフルに! タッチ操作やDSD対応した新ウォークマン「NW-A30」

 ハイレゾ対応のウォークマンがリニューアル。先行して発表された無酸素銅筐体で4.4mmバランス出力搭載、実売30万円の「NW-WM1Z」と約12万円の「NW-WM1A」も話題を集めたが、ハイレゾのエントリーモデルとなる「Aシリーズ」もリニューアル。「NW-A30HM/A30シリーズ」を10月29日から発売する。実売価格は22,000円~44,000円前後。

 新しいA30シリーズでは、デジタルアンプの「S-Master HX」を一新し、イヤフォン出力の向上やノイズ低減による音質向上を図ったほか、DSDなど対応ファイル形式も拡充。11.2MHzまでのDSDを本体で再生可能になった(PCM変換)。さらに、ディスプレイも3.1型に大型化し、タッチ操作に対応するなど、操作性の改善も注目点だ。

 ノイズキャンセリングイヤフォン付属の「NW-A30HN」は16/32/64GBの3モデル、イヤフォンを省いた「A30」は、16GBモデルのみ。合計4モデルで展開する。タッチ操作/DSD対応に生まれ変わったウォークマンAを、早速テストした。

NW-A30HNNW-A30
型番NW-A35HN
NW-A36HN
NW-A37HN
NW-A35
容量16GB
32GB
64GB
16GB
NCイヤフォン付属-
実売価格29,800円(16GB)
34,800円(32GB)
44,800円(64GB)
22,000円(16GB)

画面も大きくデザイン一新

 NW-A30の外形寸法は97.5×55.9×10.9mm(縦×横×厚さ)。重量は約98g。従来のA20シリーズは109.1×44.4×9.1mm/66gだったので、若干縦が短く、一方横幅が広くなっている。ただし、液晶ディスプレイはA20の2.2型/320×240ドットから、A30では3.1型/800×480ドットに大型/高精細化し、タッチ操作にも対応した。OSはAndroidではなく独自のものとなっている

正面。液晶は3.1型/800×480ドット

 左側面にmicroSDカードスロットを装備。最大128GBまでのmicroSDが利用できる。右側面には電源ボタンとHOLDスイッチ、ボリューム、スキップ/バック、再生/停止ボタンなどを装備。下面には楽曲転送用のWM-Port、ヘッドフォンジャックを備えている。

右側面に再生停止やボリューム、スキップ/バックボタン
左側面はmicroSDカードスロットを備えている
ヘッドフォン出力やWM-Portを装備する。
背面

 NW-A30HNシリーズには、「MDR-MW750」(直販価格12,800円)相当のノイズキャンセルイヤフォンが付属。ノイズキャンセルを適用しながらもハイレゾ再生が可能という、新開発のカナル型(耳栓型)イヤフォンで、本体とカラーを共通化したデザインも特徴だ。

ノイズキャンセルイヤフォンが付属する「NW-A35HN」

 カラーはチャコールブラック、ビリジアンブルー、ボルドーピンク、シナバーレッド、ライムイエロー。

NW-A35HNの同梱品

 実売価格69,800円(税込)で、バランス出力対応のAstell & Kern「AK70」とサイズを比較してみると、NW-A30のほうがやや横幅が小さく、薄い。本体サイズの違いより、NW-A30は角が丸まっているため、手に持った際に馴染みやすい印象を受けた。

NW-A30とAK70のサイズ比較

 パソコンからの楽曲の転送用は、Windows用のアプリ「MediaGo」を利用。もしくはドラッグ&ドロップでも転送可能だ。MediaGoは、音楽配信サービス「mora」の機能も内包している。

タッチ操作対応で使いやすい。ハードウェアボタンも便利

 NW-A30のホーム画面には、音楽再生系の機能が並ぶ。全曲/アルバム/アーティスト/ジャンル/リリース年/作曲者/プレイリスト/ハイレゾ/最近追加した曲/フォルダー/おまかせチャンネル/録音した曲の各楽曲検索モードが用意される。

 操作面の大きな進化点が、タッチパネル操作対応。[アルバム]などのアイコンをタッチするだけで、検索画面に移行し、リスト表示される楽曲を選択して再生開始できる。逆に、A20シリーズまでは備えていたディスプレイ下のカーソルキーは削除されている。

ホーム画面
ホーム画面2
アルバム
ハイレゾ
おまかせチャンネル
再生画面

 タッチパネル対応は、一言で言えば「とても便利」だ。A20世代では、店頭などで「画面にタッチ」している人が多かった(当然動かない)が、A30世代となり、ようやくスマホ的な使い勝手で選曲や再生操作ができるようになった。加えて、再生/停止やボリュームなどのハードウェアボタンも備えているので、画面を見なくても基本操作ができるため、この点はスマホに対する優位点といえる。手に持ったときのサイズ感も絶妙。A30シリーズのちょっと幅広になったデザインは、個人的にはとても気に入った。

 ホーム画面のアルバムやアーティストなど検索モードのアイコンは整列や表示のON/OFF切り替えが可能。また、ホーム画面上部のアイコンは、FMチューナ、語学学習、録音の各モードも選択できる。

 タッチ対応のインターフェイスは、音楽に特化しているということもあり、使いやすい。上下のスクロールや選択操作も全てタッチで行なえる。慣れ親しんだスマートフォン的な操作でより直感的といえる。

 製品版ファームウェア(Ver.1.00)の製品でテストできたが、動作のレスポンスも良好だ。ボリュームや曲送りの反応も良く、再生操作は気軽に行なえる。スクロール操作もiPhoneなどのスマートフォンと遜色なく、タッチパネルを活かした楽曲検索に加え、再生画面でタッチパネルを使ったタイムシークバー操作(楽曲の再生時間の位置を指定)も行なえる。A20シリーズより大幅に使いやすくなっている。

ホーム画面上部のアイコンでFMチューナなどを起動

 また、側面にHOLDスイッチも備えており、タッチパネルの誤操作も防げる。HOLDスイッチの適用範囲は、タッチパネルだけでなく、ボリュームや再生/停止ボタンなどのハードウェアキーを含めることも可能だ。

 なお、A20シリーズまで搭載していた動画再生や写真表示機能などは省略されている。A30シリーズはより音楽再生に特化した形だ。

NC ONでもハイレゾ対応。パワフルになった新ウォークマン音質

 付属イヤフォン(MDR-MW750N)を使って「ノイズキャンセルONでもハイレゾ対応」が、A30HNシリーズの特徴。まずは、NC ONで聞いてみる。ノイズキャンセル(NC)はON/OFF可能で、[電車・バス]、[航空機]、[室内]の各モードと、環境に合わせて自動で設定する[フルオートAINC]か選択できるが、通常はフルオートAINCで問題ないだろう。

付属イヤフォン「MDR-MW750N」
ノイズキャンセル設定
NCは3モードとオートAINCが選択可能
再生画面

 中域の押し出しがしっかりしており、ウォークマンとしてはパワフルな印象。Robert Glasper Experiment「Afro Blue」のエリカ・バドゥのボーカルのセンター音像は明瞭で、聞きやすい。低域の質感も量感も十分で、かなり骨太になった印象だ。

 イーグルス「ホテル・カルフォルニア」(192kHz/24bit)は、セパレーションが良く、シンバルの音も明瞭。ベースの沈み込みはそれほどでもないが、キレがあり、歪んだギターの情報量も申し分ない。

 DSD対応も特徴で、11.2MHzまでのDSDファイルを再生できる。DSDファイルはPCM変換再生となるが、ウォークマンへの転送時に変換せずに、ファイルをそのまま転送できるというメリットは大きい。そのほか、WAV、FLAC、Apple Losslessなどにも対応している。DSD-PCM変換フィルタは、ボーカルや弦楽器に適しているという「スローロールオフ」と、明瞭なアタック感やエネルギッシュな音の「シャープロールオフ」の2種類が選択できる。

DSDもPCM変換で本体で再生可能に
2種類のDSD-PCM変換フィルタを用意

 静かな場所でノイズキャンセルをONにしても“サー”というノイズはほぼ感じられず、しっかりと外部音を消してくれる。電車ではレールからの振動やノイズが完全に消えるわけではないが、それでも相当カットされるし、発車時のモーター音などは顕著に削減されている。

DSEE HX

 京葉線で、キース・ジャレット「ケルン・コンサート」(96kHz/24bit)をNC ON/OFF切り替えて聞いてみたが、静かな曲はやはりNC OFFだと外部音が煩わしい。明らかにNC ONのほうが良い。また、NCをOFFにすると、少し中域の押し出しが弱くなるが、付属イヤフォンを使う限りはNC ONで常用で良さそうだ。

 CD音源や圧縮音源の高域補間やハイレゾ相当へのアップコンバートを行なう「DSEE HX」も搭載。CDリッピングした柴田淳「あなた」ではボーカルのアタック感が少し和らぎ、奥行き感が出て、ピアノもやや穏やかに感じられる。あまり差がわからない音源もあるが、アコースティック系の楽曲にはマッチする。基本的にはONで良さそうだ。

 NCイヤフォン別売の「WN-A30」も発売されているように、ハイレゾのエントリーモデルとしての役割も担う「A30シリーズ」。付属のイヤフォンだけでなく、ほかのイヤフォン/ヘッドフォンでも聞いてみた。

MDR-1AとNW-A30

 NCをOFFとし、設定のイヤフォン設定を[その他]に変更。Shure「SE215 Special Edition」で聞いてみたところ、付属イヤフォン時より中域の押し出しが弱めになる印象で、こちらのほうが「ウォークマンのサウンド」の印象に近い。低域のスピード感や量感も十分で、バランスも自然。ボリュームを上げていくと、それに応じてパワフルさが増していき、気持ち良い。

 さらに、ヘッドフォンをソニー「MDR-1A」に変えてみると、付属イヤフォンであっさり目に感じていた、「ホテル・カリフォルニア」のベースも重厚に、腹まで響くような重さ。A30シリーズでは、ヘッドフォン出力も35mW×2ch(16Ω)に強化されている(A20は10mW×2ch)が、ボリュームを最大にしても歪まず、パワフル。もっともボリューム最大はうるさすぎるが……。ドライブ能力の向上は明らかで、イヤフォン・ヘッドフォンの選択肢は広がっている。

 ウォークマンAのサウンド傾向は残しつつも、パワフルになった「A30シリーズ」。個人的にはNCが必要な時以外は好みのイヤフォン/ヘッドフォンで使い分けたいと感じた。ただ、イヤフォン設定の変更が面倒なのは気になった。

 通勤・通学電車では付属NCイヤフォン、自宅ではヘッドフォンと使い分けるときに、[設定]-[ヘッドフォン]からMDR-NW750N/NE(付属イヤフォン)と[その他のヘッドフォン]を切り替える必要があるのだが、これが面倒くさい。NCのON/OFFのようにワンタッチでできると嬉しいのだが……

ヘッドフォン設定で[付属イヤフォン]と[その他]を切り替えるのが面倒

 また、NCが不要な人にとっては、NCイヤフォン無しの「NW-A30シリーズ」が容量16GBの「NW-A35」のみ、というのも心許ない。シンプルでリーズナブルなハイレゾプレーヤーとして、64GBモデルなどの拡充も望みたい。

microSDカードスロットを装備

 サウンド関連の新機能としては、イコライザに[EDM]、[R&B/HIPHOP]を追加。かなり派手目のイコライジング(特にEDM)で、個人的には「使わないかな」と思っていたが、実際に使ってみると結構ハマる楽曲も多く、楽しめる。

イコライザはEDMとR&B/HIPHOPを追加
EDM

高音質をより手軽かつ使いやすく。魅力的な「NW-A30」

 お求めやすい価格のハイレゾ対応ウォークマンAシリーズ。NW-A30では、まずタッチパネル対応という操作性の大きな改善が図られたほか、DSDなど対応ファイルフォーマットを拡充し、「再生できない曲」がほとんどなくなった。それでいて、音質の面でもよりパワフルで、ヘッドフォンも選ばないドライブ能力を手に入れた。それでいて、価格もイヤフォンなしであれば22,000円から、NCイヤフォン付きでも3万円台とリーズナブル。隙の無いモデルチェンジといえそうだ。

 細かい要望を言えば、カジュアルな利用を考えれば、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービス連携も欲しいし、PCとの接続も専用のWM-Portではなく、microUSBなど汎用的なものが望ましい。特に端子については、スマートフォンとの2台持ちを考えると、ケーブルを共用できるものにして欲しいところだ。

 とはいえ、ポータブルプレーヤー市場では、5万円、10万円を超える上位モデルで、バランス出力対応など、よりハイグレードな音を求める製品が増えている。それらに対しては、A30は明らかに価格競争力があるし、NCなどの付加価値も備えている。なにより小さなボディに、ポータブルに必要なほとんどの要素が詰め込まれており、ハイレゾを気軽に楽しむめる魅力的な製品になっている。

Amazonで購入
ウォークマン
NW-A36HN

臼田勤哉