レビュー

“至高のBluetooth”はどんな音!? オーテク新製品から注目機種を聴く

 オーディオテクニカは13日に、今年の年末に向けて発売するヘッドフォンやイヤフォン、アナログターンテーブルなどの新製品を一気に発表した。その中でも、デジタルスピーカーのDnote技術とBluetoothを組み合わせた「ATH-DSR9BT」など、注目のモデルについて、発表会場でチェックした音質の印象をレポートする。

Bluetoothヘッドフォン「ATH-DSR9BT」

“至高のBluetooth”ヘッドフォン

 最大の目玉はBluetoothヘッドフォンの「ATH-DSR9BT」(オープンプライス/実売6万円前後)と、「ATH-DSR7BT」(同33,000円前後)だ。

「ATH-DSR9BT」
「ATH-DSR7BT」

 両モデルは普通のBluetoothヘッドフォンではなく、デジタル音源をアナログ変換せずに直接スピーカー駆動できるDnote技術を採用しているのが特徴。

 通常のBluetoothヘッドフォンは、受信したデータをDACでアナログに戻し、アナログ信号を内蔵アンプで増幅してドライバを駆動するが、ATH-DSR9BT/7BTではデジタルのまま、Dnote用のデータに変換し、デジタルのままボイスコイルに伝達。アナログ変換による劣化を抑えた再生ができるという。オーディオテクニカではこの技術を「ピュア・デジタル・ドライブ」と名付けている。

「ピュア・デジタル・ドライブ」のイメージ

 もう1つの特徴は、Bluetoothのコーデックが、SBC、AAC、aptXに加え、aptXの上位バージョンで、48kHz/24bitの伝送が可能なaptX HDをサポートしている事。対応端末はまだ少ないが、今後の増加が見込まれている。

 また、既報の通り、13日にはAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「AK70」、「AK380」、「AK320」、「AK300」がアップデートされ、aptX HDに対応した。人気ハイレゾプレーヤーのサポートにより、一気にヘッドフォンの魅力も高まったと言えるだろう。

音を聴いてみる

 会場で用意されたaptX HD対応のスマホを使い、ハイレゾの「宇多田ヒカル/First Love」などを恐る恐る試聴した。

 “恐る恐る”と書いたのは、DnoteとBluetoothの組み合わせに不安を感じていたためだ。Dnoteのスピーカーなどを聴いた事がある人はおわかりだと思うが、その仕組みから想像した通りの、非常に鮮度の高い、“ハッキリとしたクリアな音”というイメージがDnoteにはある。そこに、aptX HDとはいえ、圧縮して伝送するBluetoothが組み合わさると、圧縮音楽の悪い部分が包み隠さず、むき出しになってしまうのではと心配だったのだ。

 だが、ATH-DSR9BTを装着して音を出した瞬間に驚いた。まず意識を持っていかれたのは、空間の広さだ。SBCコーデックでBluetoothを聴くと、イヤフォンやヘッドフォンの実力にもよるが、有線接続よりも音場が狭くなりがちだが、DSR9BTのサウンドは驚くほど広く、さらに音場が立体的。宇多田ヒカルの声の余韻が、空間の奥へと広がっていく様子が非常によくわかる。

 これは、デジタルデータのままドライバまで伝送される事で、左右チャンネルのセパレーションが良いためだ。例えるなら、ヘッドフォンをバランス駆動、もしくはグランド分離接続してセパレーションがアップした後の音に似ている。

 デジタルのまま伝送する事で、SN比も良く、静かで広大な空間に音楽がスッと出現する様子が生々しい。音の細かさは特筆すべきレベルで、とても圧縮されたBluetoothで聴いているとは思えない。口の開閉や、伴奏のギターの弦のほぐれぐあいなども見事だ。

 高域が荒れたり、音像や音圧が薄く感じることもない。aptX HDの圧縮はなかなか優秀だ。また、ATH-DSR9BTのヘッドフォンとしての低域の沈み込みの深さや、音圧の豊かさなども、圧縮の弊害を上手くサポートしているのだろう。

 開発者スタッフによると、専用開発した45mm径のトゥルー・モーションD/Aドライバに、4芯撚り線構造の高純度7N OFCショートボイスコイルを採用している事が、高域の質感描写などにはかなり“効いて”いるそうだ。なお、振動板には剛性を高めるためにDLC(Diamond Like Carbon)コーティングを施し、高域特性が高められている。

45mm径のトゥルー・モーションD/Aドライバに採用された、4芯撚り線構造の高純度7N OFCショートボイスコイル

 気になるのは、「aptX HDだから良い音なのでは?」という点。会場を探すと、AACで伝送している機体もあったので、同じ曲で聴き比べてみた。

 音の広がり、SNの良さなど、aptX HDで聴いた際の印象はそのままで、大きく音質が下がるという事はない。厳密に聴くと、声の質感や、音像の厚みにやや薄さを感じ、やはりaptX HDの方がいいなとは思うが、逆に「AACでもこんな音がするのか」という驚きの方が先に立つ。聴き慣れていたはずの“Bluetoothの本気”に初めて触れたような気分だ。

 下位機種の「ATH-DSR7BT」も、基本的にはATH-DSR9BTの傾向と同じで、広がりやSNの良さ、細かな描写が楽しめる。

 ヘッドフォン部の仕様は異なり、ATH-DSR9BTは、同日発売の「ATH-SR9」(実売5万円前後)がベース。ATH-DSR7BTは2014年発売の「ATH-MSR7」(発売当初実売約27,000円)がベースになっている。

 この違いは音にも出ており、DSR7BTは、MSR7の音と確かに似ている。低域の沈み込みは深く、中高域はヌケが良く爽快。スカッとしたMSR7のサウンドが、DSR7BTでも継承されていると感じる。それと比べると、DSR9BTは上位機らしい空間の広さや、ドッシリとした低域などに違いを感じる。

 また、DSR9BTとDSR7BTを比べると、高域の質感描写はDSR7BTの方がやや劣る。これは、DSR9BTが4芯撚り線構造の7N OFCショートボイスコイルを採用しているのに対し、DSR7BTは1芯のボイスコイルになっている事も影響していそうだ。

ハイレゾ対応の密閉型ヘッドフォン「ATH-SR9」

 有線接続では「ATH-SR9」に注目だ(オープン/実売5万円前後)。前述の「ATH-MSR7」の上位モデルにあたり、「ATH-DSR9BT」のベースモデルでもある。

ハイレゾ対応の密閉型ヘッドフォン「ATH-SR9」

 ケーブルは両出しの着脱可能タイプとなり、オーディオテクニカ独自のオーディオ専用設計「A2DCコネクタ」を採用。左右の音声信号を分離して伝送する事でクロストークを低減している。

オーディオテクニカ独自のオーディオ専用設計「A2DCコネクタ」を採用

 ユニットは専用開発の45mm径、トゥルー・モーション"ハイレゾ・オーディオ・ドライバで、採用振動板には剛性を高めるDLC(Diamond Like Carbon)コーティング。振動板の前後の空間を均一とし、前後空間を仕切るダンパーも配置して、不要な低域成分の伝搬を抑える「ミッドポイント・マウントテクノロジー」も導入している。

 MSR7と比べると、音場が拡大。低域もさらに深く、音圧豊かになり、スカッとしたMSR7のサウンドと比べ、上位機らしい質感描写が豊かな、堂々としたサウンドになっている。

 ケーブル交換が可能なところも注目ポイントで、既報の通りA2DC端子の交換ケーブルも初めてラインナップされた。ケーブル交換による音の変化を楽しめ、断線時に気軽に交換できるのは嬉しいポイントだが、交換ケーブルにバランス駆動用やグランド分離駆動用のタイプが無いのはやや残念だ。今後のケーブルラインナップ拡充にも期待したい。

A2DC端子の交換ケーブルも初めてラインナップされた

イヤフォンでは「ATH-LS400」や「ATH-LS200」に注目

 バランスド・アーマチュア(BA)ユニットを搭載したイヤフォンとしては、今年前半にモニター向けの「ATH-E」シリーズが発表されているが、今回新たにLSシリーズ5機種が発表された。

ATH-LS400

 LSシリーズはコンシューマ向けに、より音楽をゆったりと、楽しく、心地よく聴けるラインナップと位置付けられており、BAを4基(低域×2、中域×1、高域×1)搭載した「ATH-LS400」(実売6万円前後)が、この立ち位置を最も良く体現。肉厚な中低域と、クリアな高域を持つリッチなサウンドが楽しめる。

 一方で、デュアルドライバ(スーパー・ツイータ×1、フルレンジ×1)の「ATH-LS200」は、モニターライクでバランスを重視したモデル。再生する音楽を選ばない、オールラウンドモデルとして完成度が高く、実売25,000円前後というコストパフォーマンスの良さも合わさり、要注目のモデルになっている。

ATH-LS200

山崎健太郎