レビュー

ピュア・デジタルBluetoothイヤフォン登場! オーテク「DSR5BT」

 オーディオテクニカから、3月16日に発売されるネックバンド型のBluetoothイヤフォン「ATH-DSR5BT」。一見すると、普通のBluetoothイヤフォンだが、中身は非常に挑戦的であり、音にこだわるオーディオファンにとって要注目の製品だ。キーワードは「ピュア・デジタル・ドライブ」。そのサウンドをチェックする。

「ピュア・デジタル・ドライブ」採用のBluetoothイヤフォン「ATH-DSR5BT」

 価格はオープンプライスで、店頭予想価格は4万円前後と、低価格化が進むBluetoothイヤフォンの中ではやや高価だ。だがこの製品の場合、普通のBluetoothイヤフォンというよりも、「ピュア・デジタル・ドライブ」技術を小さなイヤフォンに詰め込んだ革新的な製品という側面の方が強い。

ピュア・デジタル・ドライブとは何か

 ピュア・デジタル・ドライブという名前に聞き覚えがないという人も、「Dnote」と言うとピンと来るかもしれない。デジタル音源をアナログ変換せずに直接スピーカーを駆動する技術だ。

 通常のBluetoothヘッドフォンは、受信したデータをDACでアナログに戻し、アナログ信号を内蔵アンプで増幅してドライバを駆動する。一方、ピュア・デジタル・ドライブでは、デジタルのままDnote用のデータに変換し、デジタルのままボイスコイルに伝達。Bluetoothでの伝送から、音を出すまで、アナログ変換による劣化を抑えた再生ができる。オーディオテクニカではこの技術を「ピュア・デジタル・ドライブ」と名付けている。

 テクニカは、2014年に発売した「ATH-DN1000USB」というフルデジタルUSBヘッドフォンで、Dnote技術を採用。そして2016年に、DnoteとBluetoothを組み合わせた「ピュア・デジタル・ドライブ」を開発し、「ATH-DSR9BT」と「ATH-DSR7BT」という2つのBluetoothヘッドフォンに投入。

「ATH-DN1000USB」
「ATH-DSR9BT」

 そして、今回の新モデル「ATH-DSR5BT」は、このピュア・デジタル・ドライブを初めてイヤフォンに搭載したのが特徴、というわけだ。

イヤフォン部には2基のダイナミック型ドライバを搭載

 イヤフォンでも、ワイヤレスで受信したデジタル信号をドライバまで高純度伝送し、空気振動で音声へとダイレクト変換するという仕組みは同じだ。イヤフォン部分には、独自設計の「DUAL PHASE PUSH-PULL D/A DRIVERS」を使っている。

 デジタル音声信号をダイレクトに音に変換するという特徴に加え、9.8mm径のドライバと、8.8mm径ドライバを対向配置しているのも特徴。このユニットが、互い違いに動作する。つまり、ユニットA、ユニットBとした場合、Aが前に動くと、Bが後ろに引っ込む、Bが前に出たら、Aが引っ込むわけだ。

イヤフォン部分

 ドライバユニットは前後に振幅する際、前に動く時よりも、後方へ引く動作の方が鈍い事がある。その際、正面にあるユニットからの音圧が、後ろに引くユニットを後押しする役割をして、理想的なリニアドライブ(前後直進運動)ができる……というのが技術の基本だ。

DUAL PHASE PUSH-PULL D/A DRIVERS

 その結果、高レスポンス再生、広帯域で歪のない再生ができるという。この特徴が、ピュア・デジタル・ドライブ方式と音のマッチが良く、採用されたようだ。

 もう1つの特徴は、Dnoteを生み出したTrigence Semiconductorとオーディオテクニカが共同で開発したD/Dコンバータ「AT1962」を搭載している事。

Trigence Semiconductorとオーディオテクニカが共同開発したD/Dコンバータ「AT1962」を搭載

 ダイナミックレンジを拡張するバーチャルコイルテクノロジーを搭載したもので、「優れた分解能により、冴え冴えとしたサウンドを再現する」とのこと。その効果は、後ほどの試聴でチェックしよう。

 Bluetoothのコーデックは、aptX、AAC、SBCに加え、aptX HDにも対応している。欲を言えばLDACもサポートして欲しいところだが、aptX HDに対応しているのであれば、多くのスマホやプレーヤーと連携できるだろう。プロファイルはA2DP、AVRCP、HFP、HSPに対応。マイクも搭載しており、スマホと連携してハンズフリー通話も可能だ。

aptX HDにも対応している

 イヤフォンの筐体には、不要共振を抑えるフルメタルボディを採用。ネックバンドの内側には、スライド式の電源ボタンや、ボリュームボタン、再生/一次停止ボタンを備えている。

首元に電源やボリュームボタンを備えている

 出力音圧レベルは102dB/mW、再生周波数帯域は5Hz~45kHz。インピーダンスは10Ω。リチウムポリマバッテリを搭載し、約3時間の充電で、最大約8時間の使用が可能だ。連続待受時間は約500時間。重量は約63g。

ネックバンド部分
充電はUSB経由で行なう
付属のイヤーピース

音を聴いてみる

 aptX HDに対応したプレーヤーとペアリングして音をチェックする。音楽がスタートしてまず驚くのは、分解能の高さと、情報量の多さだ。まさに「目の覚める音」で、鋭く切り込むようなサウンドにゾクゾクする。

 「マイケル・ジャクソン/スリラー」のDSDでは、冒頭でドアが「ギィーーー!!」と軋む音からしてスゴイ。古びたドアが眼に浮かぶほど音が細かく、鋭く、むき出しで迫ってくる。思わず首をすくめたくなるようなリアルさだ。

 ドラムの低音も鋭く、深い。全体的にトランジェントが良く、音がズバッと出て、スッと消え、余計な音が残らない。これはピュア・デジタル・ドライブによる情報量の多さや、鮮度の良いサウンドという要素に加え、DUAL PHASE PUSH-PULL D/A DRIVERSによってドライバが俊敏に動く事も効果もあるのだろう。この2つの相乗効果で、鮮烈なサウンドへ昇華している。

 アコースティック・ベースが豊富な楽曲を再生しても、力強く沈む「ドスン」という低音と、その中にある細かな音の描写が共存しており、パワフルさと繊細さを兼ね備えている。

 「Daft Punk/Get Lucky」のような、打ち込みでビートが鋭い楽曲との相性は抜群。ソリッドな低域を楽しみながら、様々な音が詰め込まれた音楽の構成要素がクリアに見渡せる快感が味わえる。宇多田ヒカルのような女性ボーカルも、口の開閉がリアルで、ドキッとさせられる。色付けも少なく、モニターライクなサウンド。低域から高域までのバランスも良好だ。

 トランジェントが良く、音像の付帯音も少ないため、ステージの奥行きもよく見える。音像の定位も明瞭だ。聴いていると、“Bluetoothイヤフォンの試聴”をしている事を忘れて、まるで分解能の高いオーディオ用ブックシェルフスピーカーをニアフィールドで聴いているような気分になってくる。

 ここまで赤裸々なサウンドだと、古い録音のJAZZは大丈夫だろうかと心配になるが、ノイズが過度に目立つという事もなく、逆に、今まで聴こえなかった音まで掘り起こして描写してくれるので、録音の古さの向こう側にある生々しさみたいなものも伝わってくる。

 一方で、レートの低いMP3などを聴くと、音像の薄さなどのアラもわかってしまう。そういう時はプレーヤー側のイコライザなどで中低域をちょっと持ち上げると、音の勢いと肉付きがよくなり、痩せた印象は薄れる。設定による音の違いを克明に描き分ける描写力も印象的だ。

 登場当初のBluetoothイヤフォン/ヘッドフォンは、現在のような高音質コーデックも無く、全体的に“音は今ひとつ”な印象だった。それから、高音質な製品が多数登場し、aptX、AAC、aptX HD、LDACと高音質コーデックの対応機器も増加。「Bluetoothだから音が悪い」という印象も、過去のものになりつつある。

 ATH-DSR5BTは、そこからさらに一段上がった感じがある。“Bluetoothにしては”良いという前提条件が不要に思え、音質面でのマイナス要素であるはずのワイヤレス伝送を、“伝送から音になるまでフルデジタルで処理でき、高音質”という利点にひっくり返す意欲作だ。また、こうした「ピュア・デジタル・ドライブ」の利点は、これまでのヘッドフォンでも体験できたが、これだけコンパクトなイヤフォンで気軽に体験できるようになったのも大きい。価格は4万円前後と、ネックバンドのBluetoothイヤフォンとしては高価ではあるが、音にこだわり、ピュア・デジタル・ドライブに興味を持つユーザーにとっては、その期待に応えてくれる製品だ。

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ATH-DSR5BT

山崎健太郎