レビュー

実は一番売れてるAVアンプは“薄い”。マランツ「NR1710」でTVもゲームも激変

テレビと言えば“TV放送を見るもの”……というのは、もう古い。最近ではAmazonのFire TV Stickを接続し、NetflixやAmazon Primeビデオなどの映像配信を楽しむケースが増加。Nintendo SwitchやPlayStation 4などを繋ぎ、高画質なゲームを大画面で楽しむ人も多く“HDMI入力が足りない”なんて人もいるだろう。

マランツ「NR1710」

一方で「テレビは大画面化したが、音がショボい」という不満の声も聞く。今までは「サウンドバーを買うか」とか「AVアンプとスピーカーでホームシアターに挑戦!」となったわけだが、どうせならサウンドバーより本格的なものが欲しい。でも、巨大なAVアンプとスピーカーを何本も買うのはキビシイ。欲しいけど家族から「こんな大きなもの買って!」と怒られてしまう人もいるだろう。

理想を言えば“あまり高価ではなく”“コンパクトで”“HDMI入力が沢山あって”“初心者でも使いやすく”それでいて“音が良い”。さらに“趣味として本格的にハマった時には発展性もある”アンプが欲しい。「そんな都合のいい製品があるわけない」と思われるかもしれないが、実は“ある”。

高さ105mmの薄型アンプ

老舗オーディオメーカーのマランツが展開している、高さ105mmの薄型アンプシリーズがそれだ。AV機器に詳しい人は「なんだ安いAVアンプの話か」と思うかもしれないが、ちょっと違う。今回紹介する新製品「NR1710」の価格は9万円で、決して3万円とか4万円の“エントリー価格帯”ではなく、ミドルクラスだ。

さらに言えばこの製品“AVアンプ”ではない。マランツは“リビングの生活を豊かにするマルチコントロールセンター”と説明している。要するに“新時代のAVアンプ”だというのだ。

新たなAVアンプの“王道”。「スピーカーは2ch」が“当たり前”

「お、なんか面白そうな製品だ」と感じた人は鋭い。実はこのシリーズ、新しい時代のニーズにガッツリハマっているため、メチャクチャ売れている。2009年の初代NR1501から徐々に魅力が伝わり、2013年の「NR1604」から昨年の「NR1609」まではかなりの右肩上がりで出荷台数が伸びている。例えば2016年の「NR1607」と2018年の「NR1609」を比べると、なんと出荷台数が2.4倍にもなっているそうだ。

さらに、2018年6月発売以降、AVアンプの全カテゴリで市場シェアナンバーワンを獲得(GFKデータより)。2018年6月~2019年4月まで、在庫が無くなってしまった2019年1月のみ2位だったが、それ以外は全部1位だったそうだ。

“薄いAVアンプ”と聞くと、なんか亜流というか“キワモノ”っぽく感じるが、そんなことはない。全AVアンプの中で一番売れているのがこの薄型シリーズ。キワモノどころか、最近のAVアンプの“王道”になりつつあると言えるだろう。

さらに面白いデータがある。同じ価格帯の大型のAVアンプユーザーで、2chのスピーカーを繋いで使っている人は全体の7%しかいない。一番多いのは5chスピーカーの40%だそうだ。しかし、「NR1609」のユーザーは2chスピーカー利用者がなんと“25%”。非常に多いそうだ。

つまり、薄型アンプに2chスピーカーをシンプルに接続するだけ。今までの大規模な“ザ・ホームシアター”とは違う、もっと気軽な使い方をしている人が選んでいるわけだ。これが、マランツが「AVアンプです」と言わず、「リビングの生活を豊かにするマルチコントロールセンター」とアピールしている理由だ。

NR1710とDALI「OBERON1」でどこまで楽しめるか

前置きが長くなったが、今回は薄型AVアンプの新機種「NR1710」(9万円)と、デンマークDALIの人気ブックシェルフスピーカー「OBERON1」(ペア57,000円)を組み合わせ、“合計15万円を切る2chシステムでどこまで楽しめるか!?”を体験したい。なお、「OBERON1」は小型スピーカーの定番モデル「ZENSOR(センソール)1」の後継機だ。

DALIの人気ブックシェルフスピーカー「OBERON1」

まずはNR1710のセッティングだが、昨年掲載したNR1609のレビュー記事でも紹介しているので、今回は要点を抑えながら軽くおさらいしよう。

当たり前の話だが、セッティングの前に“ダンボール箱からNR1710を取り出す”作業がある。ここからいきなりNR1710の利点を感じる。というのも、サイズは440×378×105mm(幅×奥行き×高さ)、重量は8.4kgと、AVアンプとしては薄くて軽いため、取り出しが楽なのだ。大型AVアンプの場合は、覚悟を決めて「せいやっ!」と持ち上げがらないし、変な体勢では腰を悪くしてしまう。地味だがわりと大事なポイントだ。

また、当然ながら薄ければ設置できるラックの数も増える。下の写真は、おしゃれな部屋での設置イメージだが、薄型ボディで圧迫感が少ないので、ラックの中に仕舞わず、外に露出していても、あまり目立たない。これも家族の理解を得るという面では大事な性能の1つと言えるだろう。

本当に説明書いらず、親切すぎるセットアップ機能

多機能なAV機器では、分厚い説明書が付属してゲンナリするのがお決まりだが、NR1710の場合はとりあえずHDMIケーブルでテレビと繋いでしまえば、ぶっちゃけ説明書は一切開かなくてもセットアップできてしまう。

スピーカーケーブルの接続、プレーヤーなどの機器接続をセットアップアシスタントの指示に従ってやるのだが、この親切ぶりが凄い。どのくらい凄いかというと、スピーカーケーブル先端の“剥き方”まで、アニメーションイラストを交えて説明してくれる。

スピーカーケーブル先端の“剥き方”まで、アニメーションイラストを交えて説明

背面のスピーカーターミナルもカラフルに色分けされており、どの端子に、どのケーブルを繋げばいいか一目瞭然だ。

スピーカーターミナルもカラフルに色分けされており、どの端子に、どのケーブルを繋げばいいか一目瞭然

ちなみにHDMI入力は8系統も備えている。薄型とはいえ、端子数は十分だ。もちろん4K/60p映像のパススルーが可能で、4K/60p/4:4:4/24bitや、4K/60p/4:2:0/30bit、4K/60p/4:2:2/36bitなどもサポート。BT.2020やHDR映像のHDR 10、Dolby Vision、HLGもサポートしている。

音質面の設定も楽ちん。専用マイクを使ったオートセットアップ機能「Audyssey MultEQ」を搭載しており、フロントの端子にマイクを繋ぎ、スピーカーからの音を最大6ポイントで測定。スピーカーとリスナーの距離、レベル、サブウーファのクロスオーバー周波数を最適な状態に自動設定してくれる。

測定用マイクは、ユーザーの耳のあたりに設置する必要があるのだが、なんと、設置用のスタンドまで製品に付属している。紙製の組み立て式だが、組み立て自体は超簡単で5分もかからない。逆に自分で作りながら設定していくのは、DIYっぽくて楽しい。ナビに沿って測定を開始すると、スピーカーから「ビュイ、ビュイ」という音が出て測定完了。ネットワークの設定もすれば、セッティングは終了。初めてAVアンプを買う人でも、問題なく完了できるだろう。

紙製のスタンドを組み立て、測定用マイクをセット
測定中の画面

便利なサポート機能と言えば、NR1710から新たに「HDMIインプットオートリネーム機能」が追加された。これは、例えば「CD」と名前がついたHDMI入力に、Fire TV Stickを接続すると、入力名が自動的に「Fire TV Stick」になるというもの。入力名自体は手動でカスタマイズできるのだが、面倒な手間をかけずにわかりやすくしてくれるのは嬉しい。AV機器に詳しくない家族に「Fire TV Stickを見たい時は、入力をCDにしてね」などといった呪文のような説明をしなくて済むわけだ。

Fire TV Stickを接続しておくと
自動的に入力名が「Fire TV Stick」に

HDMIまわりでは、さらに3つの機能追加がある。1つは「eARC(Enhanced ARC)」だ。ARC(オーディオリターンチャンネル)はご存知の通り、対応するテレビとHDMI接続した際に、テレビの音声をAVアンプへと伝送し、AVアンプに繋いだスピーカーから再生できるようにするもの。AVアンプからテレビへの伝送と、その逆の伝送もできるため、テレビとの接続がHDMIケーブル1本で済む便利な機能だ。

eARCはその機能強化版。最近のテレビでは、Fire TVのようなプレーヤー端末を接続しなくても、テレビ自体に映像配信サービスの再生アプリがインストールされているが、そうした機器とHDMI接続した場合、eARCに対応していれば、リニアPCM 5.1chや7.1chだけでなく、Dolby TrueHD/DTS-HD Master Audioなどのロスレスオーディオ、Dolby Atmos/DTS:X などのオブジェクトオーディオまで、高音質を保ったまま伝送できる。細かな話だが、テレビのアプリ搭載が当たり前になる中、要注目機能だ。

「ALLM(Auto Low Latency Mode)」は、ALLMに対応したゲーム機、およびテレビと接続すると、ゲームプレイ時にAVアンプとテレビが自動的に低遅延モードに切り替わり、映像の遅延を低減するというもの。

最後は「マルチインプットアサイン」。これは、1つのHDMI入力を、同時に複数のインプットにアサインできるもので、例えば、スポーツの映像を入力しているHDMI端子を選択すると、テレビやプロジェクタにはスポーツの映像と音声が映るが、そのHDMI入力に対して、出力する音声としてCD入力をアサインできる。これにより、スポーツの映像を表示しながら、音声はCDからの音楽を流すなど、“スポーツバーのような雰囲気”を再現できる。

好きな映像を表示しながら、好きな音楽をかけることができる「マルチインプットアサイン」

NR1710+2chスピーカーだけで、映画もテレビもゲームも激変

さっそくNR1710 + OBERON1を聴いてみよう。まずはテレビから。NHKのニュース番組を表示させたところ、テレビ内蔵スピーカーの薄いサウンドと次元の違う音が飛び出してくる。テレビスピーカーで聞く男性アナの声は、薄くて高域にはコンコンとプラスチック臭い響きが乗るのだが、NR1710 + OBERON1では声が低く響き、音像がグッと肉厚になり、変な言い方だが“ちゃんとした人間の声”になる。つまり“テレビの音”ではなく、“この部屋に男性が現れて喋っている音”に聴こえる。

“奥行き”も凄い。テレビスピーカーではBGM、街角ニュースの背景に流れる人の声、車の音などの騒音、アナウンサーの声が、全部同じように平面的に聞こえ、まるでカキワリを見ているようなのだが、NR1710 + OBERON1では騒音が画面の奥深くの背景に展開、インタビューに答える人の声がその前にフワッと浮かび、さらにその前方の空間にアナウンサーの声が響く。音だけ3Dテレビになったようで驚くと共に、それぞれの音像が明瞭に分離しているので、会話やニュースの内容がとてもよく聴き取れる。

他のチャンネルに合わせても面白い。クイズ番組の出題時に流れる「キュピーン」という効果音や、時間制限タイマーが減っていく「チッチッチッ」というSEが鋭く、鮮烈で、ハッとする。動物番組で、珍しい鳥が「ピーピー」と鳴いていたが、その背後でザワザワと風に揺すられる木々の葉音が深く、森の深さが音で伝わってきて、自分も探検しているような気分になる。

Fire TVを接続、Amazonプライム・ビデオで配信がスタートした「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」を再生すると、テレビ番組の比較よりもさらに音が激変する。

護送車襲撃シーンでは、エンジンの低い音の背後に、お馴染みのBGMが重厚に展開。トラックで狭い路地をカーチェイスするが、エンジンの轟音の中でも、ミラーが壁にこすれる細かい金属質な音が分離され、クリアに聴き取れる。

OBERON1は小型ブックシェルフなので、さすがに単体サブウーファーのような床を振動させるような低音は出ない。しかし、お腹をドスドスと圧迫するような低音はしっかり出ており、ハイ上がりな印象はまったくなく、迫力満点だ。

ブックシェルフらしい、音場の広さと明瞭な定位も映画とよくマッチする。2chスピーカーでもBGMや環境音はしっかり全身を包み込み、画面を観るというよりも、その場を体験するような、ホームシアターライクな楽しみ方が十分できる。ぶっちゃけ、これを聴いたらほとんどの人が「5本、7本とスピーカー並べなくても、2chで十分なのでは?」と思うだろう。

テレビ内蔵スピーカーの音に満足できず、卵型のアクティブスピーカーをTVスピーカーとして使っているのだが、それと比べても、NR1710 + OBERON1は流石に次元の違う音だ。ある程度高価なサウンドバーであっても、この音を超えるのはなかなか難しいだろう。2chでもしっかりとしたスピーカー&アンプでドライブすれば、広がりと満足感の高いサウンドが楽しめるのだと、改めて実感した。

続いて、背面のHDMI入力にPlayStation 4、フロントのHDMIにNintendo Switchを接続してゲームもプレイしてみた。PS4は人気のサバイバルゲーム「Apex Legends」、Switchでは「マリオカート8 デラックス」をプレイしたが、どちらも笑ってしまうほと音が凄い。Apex Legendsは様々な武器が拾えるのだが、銃撃音の迫力が段違い。トランジェントの良いサウンドで「ズドドド!!」と撃ちまくり、その低音の響きの中でも、敵に弾が当たった時の「ピキンピキン」という硬いバリアが割れる細かな音は明瞭に聴き取れる。

Nintendo Switchを接続
「マリオカート8 デラックス」をプレイ

「マリオカート」はスタート前にエンジンをふかすところから、エンジン音の低さと深さがテレビスピーカーとまるで違う。かわいい絵柄のゲームなので、勝手に乗り物も可愛いイメージを抱いていたのだが、「ヴォンヴォン」という迫力サウンドに「エンジンはマジなヤツだった」と認識を改めた次第。レース中も左右後方から迫るライバルの音や、コインを獲得したSEなど、細かな音が微細に描写され、目のさめるような気分でプレイできる。

こうした映画やゲームはステレオ再生でもいいのだが、「DTS virtual:X」を適用すると低域の迫力が増し、包囲感も高まり、臨場感がアップする。適用後も細かな高域はしっかり描写されており、情報量の低下は感じない。

リモコンのサウンドモード選択ボタン

映画も観てみよう。UHD BDの「グレイテスト・ショーマン」から、ジェニー・リンドが「ネバー・イナフ」を歌うシーンをDolby Atmosで。2chでも、劇場の広大な空間が展開。横や奥の深さだけでなく、高さも感じられる空間描写で、そこに透き通る中高域が雑味なく広がっていく。一方で、歌唱力の凄みを感じる低音部分もドッシリと安定感があり、なおかつ低域の中にも明瞭感がある。こうしたキレのある低域は、スピーカーの素地が良いだけでなく、アンプ側のドライブ能力が高い事の証明でもある。

さらに、“将来的にスピーカーをアップグレードしたらどうなるか”も体験。B&Wの600シリーズでマルチチャンネル環境を構成し「ダンケルク」のドッグファイトシーンを再生。2chでも包み込まれるような音場が楽しめたが、リアが加わって4chに囲まれると、飛び交う飛行機の音像が左右や背後にまわった時の明瞭度がグッと上がる。バーチャルサラウンドで「なんとなく後ろの方から聞こえなくもない音」が、リアルサラウンドになるとギョッと首をすくめるほど明瞭に後方に定位する。アクション映画やホラー映画などはやはりリアルマルチチャンネルにすると満足度が大きくアップする。

ただ、良い音に包まれて映画やライブ映像をどっぷり楽しむという使い方であれば、前述の通り2chのみで、サブウーファーを入れなくても十分に楽しめる。拡張する場合も、一気に5.1ch化しなくても、2chから4chといったステップアップもアリだろう。

前モデルと比べ、低域のキレやSNが進化

昨年モデル「NR1609」からの進化も気になるところ。というのも、昨年は「Dolby Atmosへの対応!」といった新たなサラウンドフォーマットが登場せず、それをサポートするコストが浮いたため、音質面の主要なパーツの強化に注力。かなり音質が向上したモデルだったのだ。だが、新モデルNR1710の進化について、マランツのサウンドマネージャーである尾形好宣氏は、「完成度の高かったNR1609から、さらに進化させ、昨年はできなかった部分にまで手を入れた」という。

具体的にはデジタル回路、プリアンプ、パワーアンプ、デジタル用電源、プリアンプ用電源において、回路や定数、パーツ変更などの見直しを実施。さらにDAC回路、パワーアンプ用電源では、構造の見直しやパーツのグレードアップも行なっている。要するに「回路全般が進化した」わけだ。

尾形好宣サウンドマネージャー
NR1710で改善したポイント

DACチップは、上位モデルでも採用している、旭化成エレクトロニクスの32bit/8ch DAC「AK4458VN」を搭載。このチップ自体は前モデルと同じだが、その搭載方法を変更。「昨年はデジタル回路基板の隅っこに設置していましたが、NR1710ではDAC部分を独立基板にしました。それを縦向きに、ライザーボードのようにデジタル基板に接続しています」。基板ごと分離する事で、繊細なアナログオーディオ信号への干渉を徹底。「より見通しの良いサウンドになった」という。

NR1710ではDACを専用基板(写真右の、横向きに接続されている基板)に配置した

DSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給に専用のトランスを使用しているのも、アナログ回路との相互干渉を排除するためだ。デジタル電源回路の動作周波数は、通常の約3倍に高速化し、スイッチングノイズを再生音に影響の及ばない可聴帯域外へシフトさせている。

シールドにより回路間のノイズの飛び込みを抑え、電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーで除去。エルナー製オーディオグレード表面実装コンデンサーを採用するなど、尾形氏が試聴を繰り返して最適なパーツを投入した、製品に最適なものを選定した。

パワーアンプ回路に電源を供給するブロックコンデンサーには、エルナー製のカスタムコンデンサー(6,800μF×2)を採用。25Aの大電流容量に対応する整流ダイオードを使い、高速かつ安定した電源供給を実現。プリ部では、電子ボリューム出力抵抗を見直し。その他にも、約200点におよぶ汎用電解コンデンサーのメーカーを変更するなど、細かな進化も見逃せない。

実際に「エレン・ドーティ/You're Too Late」で聴き比べると、音場の静けさに磨きがかかり、音の余韻の消え去る様子などでSNの良さがわかる。ピアノの左手の低い音も、キレが良くなっており、全体的にシャープな印象の楽曲を、ゾクゾクするほど繊細に描写してみせる。

低域がモリモリ増えたとか、そういう派手さを追った進化ではなく、アンプとしての基本的な性能をコツコツと向上させた印象。それゆえ、低域も中域も高域も、様々な部分で音の進化が実感できる。

アップデートでDolby Atmos Height Virtualizer、Bluetooth送信機能追加

NR1710は7chアンプで、5.1.2ch構成、5通りのスピーカー配置に対応できる拡張性を備える。オブジェクトオーディオのDolby Atmos、DTS:Xのデコードでは、フロントハイト、トップフロント、トップミドル、フロントドルビーイネーブルド、リアドルビーイネーブルドのいずれかをオーバーヘッドスピーカーとして使用できる。

ただ、2chから5.1chや7.1chに拡張できても、「天井にスピーカーを設置するのはハードルが高い……」という人もいるだろう。

そこで、今後のファームウェアアップデートにより、「Dolby Atmos Height Virtualizer」という機能が追加される予定だ。これは、ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置していないステレオ、5.1ch、7.1ch環境でも、高さ方向を含むあらゆる方向からのサウンドに包み込まれるイマーシブオーディオ体験が可能になるというもの。

「Dolby Atmos Height Virtualizer」

同様のバーチャルサラウンド機能としてDTS Virtual:Xも存在するが、そのDolbyバージョンのような存在だ。

このDolby Atmos Height Virtualizerでは、Atmosのコンテンツはきちんとデコードした上で、バーチャルサラウンド再生する。Atmosでないコンテンツも、アップミックスした後でバーチャルサラウンド化するそうで、DTSの音声もDolby Atmos Height Virtualizer化して再生できるそうだ。DTS Virtual:XではDolbyの音声はバーチャル化できないので、こうした部分にも違いがある。

また、個人的に注目しているのがBluetooth“送信機能”。このアンプは最初からBluetooth受信が可能だが、新たに“送信”もできるようになるのだ。つまり、NR1710で再生中の音声をBluetoothで送信し、Bluetoothヘッドフォンなどで受信して聴くのだ。

例えば、家族が寝ている夜に、スピーカーから音が出せないけど映画が見たいといった場合、テレビに映像を写して、音は手持ちのBluetoothヘッドフォンで聴くといった使い方ができる。今回は試せていないが、これはなかなか便利そうだ。

もちろん、標準搭載の機能としてNASやUSBメモリーに保存したハイレゾファイルのネットワーク再生も可能。iOS 11.4で追加されたAirPlay 2にも対応し、Siriによるボイスコントロールや、Amazon Alexa搭載デバイスからの音声コントロールも可能だ。インターネットラジオの再生もでき、Amazon MusicやAWA、Spotify、SoundCloudなどの音楽ストリーミングサービスもサポート。薄型だからといって、他のモデルに引けを取らない多機能ぶりだ。

HEOSアプリを使い、ネットワーク再生や音楽ストリーミング配信をスマホから制御できる

「意地でも毎日使ってもらおう」とグイグイ来るAVアンプ

セットアップの手軽さ、UIのわかりやすさ、HDMI入力の多さ、薄型ながら音質にも手を抜かない姿勢……といった、前モデルから完成度の高い部分は踏襲しながら、NR1710ではeARCによる最新テレビとの親和性向上、ALLMによるゲーム機との連携強化、スピーカーが少なくても楽しめるDolby Atmos Height Virtualizer、音を楽しむシーンを拡大するBluetooth送信機など、最新のトレンドに対応。AVアンプをより活用できる機能を追加した印象だ。

それでいて、アンプでいちばん大切な“音質”という基本性能も着実に向上させた。“新たな時代のAVアンプ”という立ち位置に恥じない完成度だ。

大型であれ、薄型であれ、購入する以上はいっぱい活用しなければもったいない。今までのAVアンプが「週末に映画を見る時しか使わない」ものだとしたら、NR1710には「ゲームする時も、テレビ見る時も、音楽だってなんでもOKよ! なんならスピーカー鳴らさなくてもBluetoothヘッドフォン鳴らすから!」というような、「意地でも毎日使ってもらおう」という姿勢を感じる。これが、薄型AVアンプシリーズ最大の特徴であり魅力だ。“毎日耳に入る音が全部グレードアップする楽しさ”は、AV機器好きは言わずもがな、アンプを買ったことがない人にこそ強烈な体験となり、一度使ったら手放せないものになるだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス/マランツ)

山崎健太郎