レビュー

Amazon Music HD対応で7.5万円、ネットワークプレーヤーの風雲児Bluesound「NODE 2i」

昨年9月にAmazon Music HD が、11月にはmora qualitas(モーラ クオリタス)がスタート。ついにわが国でもハイレゾ品質の定額制音楽ストリーミングサービスが楽しめるようになり、それから数カ月が経過した。

今回紹介するBluesoundのネットワークプレーヤー「NODE(ノード) 2i」

両サービスが始まってしばらくして、MacBook Airを用いて自室でAmazon Music HDとmora qualitasの音源を比較試聴してみた。Amazon Music HDは最大192kHz/24bitまで、mora qualitas は96kHz/24bitまで、ともにFLACファイルだが、わが家のネットワーク環境では、どちらのハイレゾファイル再生でも音が途切れることなく、快適に音楽が楽しめることがわかって、まずは一安心。

Macと愛用DACであるCHORD「DAVE」を繋いだ状態で比較すると、Mac上で排他モード設定のできないAmazon Music HDよりも、mora qualitasのほうが音質面で優れる印象だった。スタート時点では楽曲数でAmazonが圧倒しているけれど……。

しかし、LINNの「KLIMAX DS」(現在はDS/3) を購入して以来、10年以上ネットワークプレーヤーを愛用している筆者にしてみれば、音楽を聴くのに今更いちいちパソコンを開かなければならないのは、億劫といえば億劫。LINNは新しい再生アプリ「LINN」でのAmazon Music HD対応をアナウンスしているが、 2月下旬現在まだ果たされていない。

Amazon Music HDのネットワーク再生をすでに実現しているのはD&M(デノン&マランツ)で、同グループ独自のネットワークオーディオ機能「HEOS」(ヒオス)搭載モデルならば、スマホやタブレット片手にPCレスで簡単に高音質音楽ストリーミングサービスが楽しめる。HEOS搭載機の一つであるマランツのプリメインアンプ「NR1200」でAmazon Music HDの音源を聴いてみたが、音質は排他モード設定のできないMac+USB DAC再生よりも、断然優れる印象だった。

「高音質音楽ストリーミングサービスを楽しむならネットワーク再生で!」と改めて確信を深めていた折、Amazon Music HDが自在に楽しめる興味深いワイヤレスミュージックストリーマーに出会った。Bluesound(ブルーサウンド)の「NODE(ノード) 2i」である。

Bluesoundとは?

本機はAmazon Music HDのみならず、TIDAL、Deezer HiFi、Qobuz、Spotifyといった数多くのサブスクリプション型ストリーミングサービスがワイヤレスで楽しめるネットワークプレーヤーなのである(mora qualitasには現在のところ未対応)。

「NODE 2i」

加えてファイルサイズを小さくしながら、デジタルデータ送出時にビットタイミングを揃えて時間軸精度を向上させるMQAファイルのフルデコードに対応しているのも注目ポイントだろう。詳細は後述する。

ちなみに本機の対応レゾリューションの上限は192kHz/24bit。DSDファイルは、PCMを介したFLAC変換での再生となる。DSD128やDSD256も変換可能だ。ワイヤレス機能については音途切れが生じにくいデュアルバンドWi-Fi対応で、AirPlay2もサポート。Bluetoothは音質評価の高いaptX HDまで対応する。

Bluesoundの名前は初めて聞くが、2012年に設立されたカナダのオーディオメーカーとのこと。Lenbrook(レンブロック)というオーディオ複合企業の傘下にあり、同グループは創設されて半世紀近い英国の老舗メーカーNADなどを擁する。

同社には専用のソフトウェア開発チームが組織されているが、エレクトロニクスの設計についてはNADの熟練エンジニアの支援を受けているそうだ。

また、意匠(外観デザイン)はニューヨークのインダストリアルデザインの専門集団DF-ID に任せているという。

NODEファミリーには、ネットワークプレーヤー「NODE 2i」のほか、ネットワークプレーヤーにアンプを加えた「POWERNODE 2i」、ネットワークプレーヤーに2TBのHDDとCDリッピング機能を追加した「VAULT 2i」がラインナップされている。

ネットワークプレーヤーにアンプを加えた「POWERNODE 2i」
「POWERNODE 2i」の背面。スピーカーターミナルがある
ネットワークプレーヤーに2TBのHDDとCDリッピング機能を追加した「VAULT 2i」
「VAULT 2i」は前面にスロットインのCDドライブを備えている

輸入元のPDNによると、POWERNODE 2iとVAULT 2iのネットワークプレーヤーとしての性能・機能は基本NODE 2iと同じだそうだ。価格はすべてオープンプライスで、実売はNODE 2iが約7万5,000円、POWERNODE 2iが約12万円、VAULT 2iが約18万円だ。

さっそくこの3モデルをお借りし、ぼくのリスニングルームで一週間ほど使ってみたので、そのインプレッションを述べたい。

NODE 2iでAmazon Music HDを堪能する

まずNODE 2iをラック上段にセット、アナログ出力を常用プリアンプのOctave「Jubilee pre」につないで音を聴いてみることにした。本機は先述の通りワイヤレス再生可能なプレーヤーだが、まずLAN ケーブルを本機のRJ45端子につなぎ、わが家のネットワーク環境に置いた。

NODE 2iをラック上段にセット
背面

操作ボタンのあるトップパネルはフラットサーフェス、瀟洒なジュエリーボックスを思わせる素敵なデザインで、オーディオ機器然とした無骨さはない。サイズは220×146×46mm(幅×奥行き×高さ)と驚くほど小さいが、デザイン・仕上げに安っぽさはなく、オーディオラックではなく美しいサイドボードの上に置きたい雰囲気だ。仕上げはブラックとホワイトの 2色が用意される。

220×146×46mm(幅×奥行き×高さ)、1.12kgと小型軽量。片手で簡単に持ち上がる

Bluesoundでは、「BluOS」と名づけられた無料の専用アプリ(iOS/Android/Kindle/Windows/Mac)を用意しており、これを手持ちのiPad Miniにインストール、操作用とした。実際に使ってみて、このアプリの使いやすさと機能性の高さに大いに感心させられた。

「BluOS」アプリを起動。Amazon Music HD、TIDAL、Deezer HiFi、Qobuz、Spotifyなどに対応しているが、それらのサービスから使いたいものを選んでいる画面

狭いわが家では活躍の機会はなさそうだが、このアプリ、最大64ゾーンのマルチルーム・コントロールも可能だそうだ。ちなみに同社はワイヤレススピーカーとして「PULSEシリーズ」を3モデル用意しているので、それらとの連携も楽しそう。

ワイヤレススピーカーとして「PULSEシリーズ」を3モデル用意している

また、このアプリは先述したMQAファイルに対応しているだけでなく、今話題の先進的な音楽管理・再生ソフト「Roon Ready」仕様でもある。

「BluOS」アプリからAmazon Music HDを選んで、再生しているところ

Amazon Music HDから聴きたい音源を何曲かピックアップ、アナログ出力の音を聴いてみた。BluOSの操作画面上には、CDクォリティ(44.1kHz/16bit)の音源は「CD」の、それ以上のハイレゾ音源は「HR」のアイコンが表示される。しかし、サンプリング周波数と量子化ビット数の具体的な数字は表示されない。これはちょっと残念なポイントだ。

再生バーの左下に「HR」アイコンが表示される

周波数レンジを欲張らず中低域に十分な力感を持たせた音調、よく弾むリズミックな表現に独自の魅力を感じさせる、というのがアナログ出力のファースト・インプレッションだ。なお、DAC素子はTI製「PCM5122」を採用している。ロック/ポップス系音源との相性はとてもよい印象だ。

7万5,000円という価格を考えれば十分納得できる高音質が実現されているのは間違いない。NODE 2iよりも高価な、例えば10万円台、20万円台の単品アンプなどと組み合わせても、高いパフォーマンスを発揮してくれるだろう。

その上で、よりワイドレンジな音を目指したいとか、オーケストラ弦の繊細な描写をなめらかに描写したいといった、欲求が出てきたら、NODE 2iはデジタル出力も備えているので、ハイグレードな単体DACと接続するのも良いだろう。

例えば、値段が20倍もする愛用DACのコードDAVEとデジタル接続すると、さらなるクオリティアップが実感できる。NODE 2iの同軸デジタル出力をDAVEにつなぎ、そのアナログ出力をJibilee Preに接続した音を聴いてみたが、その音質向上ぶりに大いに驚かされる。弦はしなやかにまろみを帯び、オーケストラは雄大に伸びやかにその全貌を顕す。本機のデジタル出力の実力がきわめて高いのは間違いないだろう。

また、ハイレゾファイルの魅力もいっそう明らかになる印象。Amazon Music HDでHRグレード(96kHz/24bit/FLAC)の松任谷由実の1982年の傑作アルバム「パールピアス」を聴いてみたが、手応え十分な厚みのある響きでリズムセクションの絶妙なグルーヴを描写、切れ込んでくるエレピやオルガンの輝きもすばらしい。米国のソウルやAOR に影響を受けた当時の我が国のスタジオ・ミュージシャンの演奏の巧さに改めて感心させられた次第。ヴォーカルのニュアンス豊かな表現も、ハイレゾならではの味わいだ。

ユーミンと並ぶベテラン女性シンガー・ソングライター竹内まりやの作品は、Amazon Music HDではハイレゾファイルの用意はなく、CDクオリティで配信されている。その中から1994年発売のベスト盤「Impressions」を聴いてみたが、これが「パールピアス」と比較するとちょっと残念な音質。ラウドネスが効き過ぎていて、高域が歪みっぽくシンバルなど鳴り物がうるさく感じられる。小型スピーカーの小音量再生では問題ないのかもしれないが……(うちのスピーカーは、15インチ・ウーファー+4インチ・コンプレッションドライバー+ホーンのJBL K2S9900)。

TIDALでMQAの再生もチェック!

「そういえばTIDALでもユーミンの全アルバムが96kHz/24bitのMQAファイルで配信されていたナ」と思い出し、Amazon Music HDのFLACファイルと比較試聴してみることにした。

TIDALも利用できる

TIDALは、世界数十カ国でサービスインされている高音質音楽ストリーミングサービスだが、残念ながら日本では正式にスタートしていない。ぼくはLINN「DS」が操作アプリ「Kazoo(カズー)」でTIDAL再生に対応した2015年に同サービスのアカウントを取得、以後毎日のように自分のリスニングルームで楽しんでいる。TIDALは数年前にMQAファイルの配信を開始、今では2万タイトルに迫るMQA音源が存在するという。

NODE 2iのMQA再生時の仕様は、アナログ出力時にはMQAをフルデコード(最大192kHz/24bit)、デジタル出力時は、ぼくが使っているDAVEのようなMQA非対応のDACと組み合わせる場合(MQA外部DACモードOFF時)は、MQAをコアデコード(最大96kHz/24bit)してDACに受け渡す仕様。また、MQA対応のDACと組み合わせる場合(MQA外部DACモードON時) は、未処理のMQA音声データをバイパス/パススルーで受け渡す仕様となる。

TIDALもBluOSアプリで快適に操作できる

NODE 2iとDAVEの組合せで聴く96/24 FLACと、96/24 MQAの音質上の優劣はほとんど感じられなかった。どちらも「パールピアス」という優れたアルバムの魅力が存分に楽しめる高音質が実現されていると言うほかない。MQA対応の高級D/Aコンバーターを使った場合は、結果がどう転ぶかわからないが……。

いずれにしても、NODE 2iはアナログ出力でも十分楽しめ、さらにデジタル出力を用いて好みのDACとの組合せてさらなる高音質化を図ることができるわけで、ちょっとマニアックなオーディオファンにもアピールできる製品に仕上がっている。

MQAファイル再生時のアイコン

MQA-CDもリッピングできる「VAULT 2i」

さて、先述のようにNODE 2iの兄弟モデルとして、2TBのHDDを内蔵し、CDリッピング機能を持たせたVAULT 2iがラインナップされている。CDダイレクト再生は不可で、一度HDDに取り込んだ後にファイル再生する仕様。PCを介在させることなく、デジタルファイル再生が縦横に楽しめるマシンと言っていいだろう。本機はMQA-CDのリッピングもでき、同CDデータのフルデコード再生が可能。MQA再生時の仕様はNODE 2iと同様だ。

VAULT 2i
左からNODE 2i、VAULT 2i
MQA-CDをリッピングしてみた
リッピング中のステータスも、BluOSアプリから確認できる

実際にスティーリー・ダンの1977年の名作「彩/エイジャ」のMQA-CDをリッピング、VAULT2iの同軸デジタル出力をDAVEにつないで聴いてみたが、これがなんともすばらしい。複雑に綾なすリズムセクションの妙技を明瞭に描き分け、クールな質感で音楽の胎動を伝える。

これは時間軸精度を向上させてDACにデータ送出するMQAフォーマットの良さが反映されているからだろうし、CDダイレクト再生のようにエラー訂正に頼ることなくストリーミング再生している良さでもあるだろう。また、本機で使われているリッピングソフトの優秀さもこの高音質に寄与していると思われる。

HDMI入力付きの「POWERNODE 2i」はテレビともマッチ

最後に「POWERNODE 2i」について触れておこう。本機はNODE 2i同様のネットワークプレーヤー機能にプリメインアンプを合体させたモデル。駆動部はハイペックスのデジタルアンプ(クラスD増幅)が採用されており、出力は45W+45W(8Ω)。

左からNODE 2i、POWERNODE 2i
HDMI入力も備えている

ARC(オーディオ・リターン・チャンネル)対応のHDMI端子が装備されているので、テレビとHDMI接続すればレコーダーや、Blu-rayプレーヤーなど、テレビに繋がったあらゆる機器の音を本機で再生できる。オーディオとホームシアターの司令塔として活用できるわけで、まさにリビングルーム・ユースにふさわしい製品だ。

カナダからやって来た、高音質音楽ストリーミングサービス時代にぴったりフィットした3モデル。「え、月々2,000円以下でCDクォリティ以上の音質で6,500万曲以上が聴き放題? そうか、それならちょっといいスピーカーでも買ってみようか」とお考えの方に、ぜひご注目いただきたい。

(協力:PDN)

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。