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【レビュー】ゼンハイザーの新カナル型「IE 80/60」を聴く

−ダイナミック型の優等生機。楽しい音質調整


左がIE 60、右がIE 80

 2011年は、ソニーがバランスドアーマチュア(BA)イヤフォンに参入するなど、BAイヤフォンの新製品が活発に登場した一年だった。一方で、そんな中でもダイナミック型にこだわっているメーカーもある。お馴染みドイツのゼンハイザーだ。

 同社が昨年末の12月16日に投入したのが、ハイエンドモデル「IE 80」と、その下位モデル「IE 60」だ。価格はオープンプライスで、実売は「IE 80」が37,800円前後、「IE 60」が18,900円前後で販売されている。

 今回はこの2機種を聴いてみる。


 



■音質調整ができるIE 80。付属品も豊富

 同社のイヤフォンには「エクスプレッションライン」、「クラシックライン」などのジャンルが存在するが、IE 80/60は「イヤーモニター」に分類される上位シリーズだ。どちらのモデルも、2008年発売の「IE 8」、「IE 6」の後継となり、数字が二桁になっている。IE 80が、同社イヤフォンのフラッグシップモデルとなる。

パッケージ。左がIE 60、右がIE 80 アルミプレートが目を引くIE 80 ゴールドパーツがトレードマークのIE 60

 同じダイナミック型イヤフォンだが、デザインは大きく異なる。IE 80はアルミプレートが目を引くクールなデザイン、IE 60は金色の装飾が目立つ、どちらかというとエレガントな雰囲気だ。カラーや仕上げは異なるが、IE 80のハウジングサイズやデザインは、従来のIE 8とほぼ同じである。

左が従来モデルのIE 8、右が新モデルのIE 80 IE 8とIE 80はどちもケーブル着脱が可能。ハウジングの形状はほぼ同じだ。写真はどちらも、左がIE 80、右がIE 8
IE 60のイヤーピースを外したところ IE 60はエレガントなデザインだ

 色調も合わせ、落ち着いたデザインだ。IE 80はアルミプレートがアクセントとなっているが、他社高級モデルのオール金属素材ハウジングと比べると、高級感はやや落ちる。

 機能面で大きく違うのは2点。IE 80のみケーブルが着脱可能で、さらに音質調整機能がついている事。ケーブル着脱は珍しい機能ではなくなりつつあるが、高価格なイヤフォンだけにしっかり対応しているのは嬉しいところ。ケーブルの長さはIE 80/60のどちらも1.2mでY型だ。

IE 80はケーブルの着脱が可能 ステレオミニの入力プラグ部分

 もう1つの違いである「音質調整機能」はIE 8にも備わっていたもので、ハウジングに設けられたネジのような調節ダイヤルを、付属ツールでクルリと回すと、低音の量感がコントロールできるというユニークな機能だ。IE 80に付属するクリーニングツール(クリーニング用の棒)の反対側が、マイナス用ドライバーのようになっており、これを使って前述の音質調整機能ダイヤルを回せるようになっている。

ハウジングのダイヤルを回すと低音の量感が調整できる クリーニングツールの反対側が、ダイヤルを回すためのドライバーのようになっている クリーニングツール兼ドライバーは、付属のキャリングケースに収納できる

 

モデル名 IE 80 IE 60
実売 37,800円前後 18,900円前後
音質調整機能
ケーブル着脱
付属イヤーピース 標準タイプ:S/M/L
ダブルフランジ:S/M/L
ウレタン:S/L
モールド:S/L
標準タイプ:S/M/L
ダブルフランジ:S/M/L
周波数特性 10Hz〜20kHz 10Hz〜18kHz
インピーダンス 16Ω
音圧レベル 125dB 115dB
重量 約16g 約14g

 

 付属品が多いのは両機種共通の特長。面白いのが、イヤーハンガーが後付けでき、耳掛け型にできる事だ。もともと、ケーブルを耳にかけて装着するタイプの製品であるため、ハンガーを取り付けた方が装着しやすい。

イヤーハンガーが付属しており、後付けできる 装着イメージ。ケーブルを耳にかけて装着するタイプだ

 両機種とも、イヤーピースは標準タイプがS/M/Lの3サイズ、さらにダブルフランジタイプもS/M/Lを同梱している。これに加え、IE 80ではウレタンタイプをS/L、モールドタイプのS/Lも同梱。合計で10個という多彩さだ。

IE 60の付属イヤーピース。左側がダブルフランジ、右が通常タイプ IE 80の付属イヤーピース。左端の2つがウレタンタイプのS/L、右端の2つがモールドタイプのS/Lだ
付属のケース

 ほかにも、ケーブルクリップとキャリングケースも同梱。ケースはイヤーピースも一緒に持ち運べる本格的なもの。前述のように内部にクリーニングツールも収納できる。


 



■音を聴いてみる

 試聴には第6世代iPod nanoと、ALO AudioのDockケーブル+ポータブルヘッドフォンアンプの「iBasso Audio D12 Hj」を使用。iPhone 4Sの直接接続でも聴いている。

 ●IE 80

IE 80

 まずはIE80から。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、低域がシッカリした、安定感のある、ナチュラルな音が耳に入る。冒頭アコースティックギターに注目すると、弦の金属的な表現と、ギター筐体の木の響きの暖かさが描き分けられており、ダイナミック型ならではの自然な音が楽しめる。

 カナル型(耳栓型)らしく、中低域がドッシリしたバランス。中低域の張り出しは強めだが、高域にかぶさってナローになる事は無く、高い音はクリアに抜け出ているのが特徴。迫力がありながら、多くの情報を聴きとれるバランスに仕上がっている。

 豊かな中低域の特徴として、膨らんだ音が音場に充満するタイプではなく、適度な締まりがあり、低音が消える細かな様子も聴き取れる。「Best OF My Love」では、1分過ぎから入るアコースティックベースの低音が豊かだが、「ヴォーン」という低域が手前に張り出すだけでなく、奥の空間までグーンと伸びていく様子が見える。これにより、音場全体が立体的に感じられる。

 なお、この音は音質調整機能のダイヤルを、低音量が最も少ない状態にしたものだ。しかし、この状態でも十分な低域が出ている。


 そこで、ダイヤルを最小と最大のちょうど中間くらいにセットし、同じ曲を聴いてみる。確かに量感が増え、同時に押し出しも1.5倍くらい強くなったように感じる。「ゴーン」という低音が、鼓膜に体当たりしてくるようだ。迫力はアップするが、前述の微細な表現は聴き取りにくくなるため、好き嫌いが分かれそう。ベースのうねりや、疾走感のあるロックを力強く再生したいという時に使いたい機能だ。

 ただ、感心するのは低域がパワーアップしても、中高域の明瞭度がほとんど落ちないところ。高い音の描写をキッチリ残したままで、低域のキャラクターを変化させているのは凄い。このため、「低域がパワーアップしたけど、音全体がボワボワになっちゃった」という事が無い。「結局は使わなくなるオマケ機能」ではなく、積極的に活用したいと思わせる機能になっているところが良い。

 試しに、低域ダイヤルを最大にまで回してみた。さぞや凄まじい低音が……と思ったが、中間に合わせた時よりちょっと強くなった程度。最小状態の1.6〜1.7倍といったイメージだ。

 ●IE 8

 旧モデルのIE 8に付け替えると、音が“軽く”なる。低域の沈み込みが浅く、坂本真綾「トライアングラー」のベースのうねりが薄まり、全体的に高域寄りの、腰高なバランスだ。

 低域の派手さは減るが、逆に中高域の描写は見やすくなる。それゆえ、抜けの良さというか、独特の“爽やかさ”があり、これはこれで悪くない。付帯音も少なく、出ている音がクリアなのはIE 80と同様だ。

 しかし、IE 80を聴いた直後では、音像の厚みが減り、全体的に“旨み”が抜けたように聴こえてしまう。ダシをとった後の煮干しをしゃぶっているような感じだ。コントラストが低く、音像の輪郭も見えにくい。多くの人にはIE 80のほうが好ましい音だと感じるだろう。

●IE 60

IE 60

 最後にIE 60も聴いてみよう。「IE80よりは低価格だから、音もそれなりに……」と予想しながら装着したが、なかなかどうして、素直でバランスの良い音が出てくる。

 方向性はIE 80と同じだが、レンジは若干狭い。特にわかりやすいのは低域で、最低音が浮きぎみ。ズシンと沈み込む、“芯のある重さ”は、IE 80に軍配が上がる。

 一方で、中域の量感は豊か。中高域のクリアさも兼ね備えており、閉塞感が少なく、豊かな中域に埋もれず、高域が無理せずスッと出ている。カリカリに輪郭を強調せず、素直に音が出ている感じが心地良い。

 IE 80と比べると、狭い空間に盛り上がる中低域と、中高域がやや窮屈そうに同居しており、音場の狭さが気になる。IE 60を聴いた後でIE 80に戻すと、パッと目の前が広がったようだ。音場が広いため、長時間聴いていても閉塞感やストレスを感じにくいのはIE 80だろう。IE 60(実売18,900円前後)もイヤフォンの中では高級モデルで、IE 80(実売37,800円前後)は、さらにその倍ほどするわけだが、「価格なりの違いはあるな」というのが個人的な感想だ。



 IE 80/60の2機種はどちらも、低域から高域までバランスの良い再生が可能であり、完成度の高い“優等生サウンド”だ。ナチュラルな音色もダイナミック型ならではで、バランスド・アーマチュアとは異なる魅力が味わえる。「最近のダイナミック型は低域が膨らみ過ぎる」という人にも聴いて欲しい。

 その中でも、立体的な音場や、低域のさらなる描写力を求める場合はIE 80……という結論になりそうだ。IE 8からの音質向上も大きいため、IE 8からの買い替えも検討に値する。

 着脱可能なイヤーハンガーや、イヤーピースの豊富さなど、ユーザー自身がより使いやすいカタチにカスタマイズできるのも魅力。低域の調整機能やケーブル着脱に注目してIE 80を選ぶという選択もアリだろう。

 


(2012年 1月 20日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]