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【レビュー】ソニーの“本気ポタアン”「PHA-1」を聴く

迫力と高解像度を両立。ライバルとの比較も


 屋外で少しでも良い音が聴きたいという欲求から誕生したポータブルアンプ。一昔前は海外から個人輸入で購入するようなマニアックなジャンルだったが、現在では商品数も増加。都内で電車に乗っていると、時折スマホの下に黒い小箱をサンドイッチしている人を見かけるようになった。

 だが、利便性や価格の面も含めて、まだまだ“誰もが利用している製品”とは言えないだろう。そんな中、ソニーがこの市場に参入。10月10日から発売しているのが「PHA-1」というポータブルヘッドフォンアンプだ。

 このマニアックな世界に、ソニーという大きなメーカーが参入したインパクトは大きい。発表時の記事へのリアクションを見ても、製品以前に“ソニーが参入した”事への驚きのコメントが多数を占めていた。 

 もう1つ驚くのは、「PHA-1」の仕様や価格だ。大手メーカーが参入するとなると、それらの面で“堅実”というか、“無難”な製品になりそうなイメージがあるが、「PHA-1」はアンプだけでなく、DACも内蔵し、PCとのアシンクロナス伝送もサポート。価格も定価49,350円と“バリバリの本気モデル”だという事。「マニアックな製品なんだから、とことんこだわったモデルにしよう」という姿勢は好印象だ。

 さっそく、“ソニーの本気ポタアン”を聴いてみたい。


 



■ハードなデザインと考えられたシリコンベルト

 まずはデザインから。特に、ボリュームノブがある正面の左右に設けられた突起が目を引く。亜鉛ダイキャスト製のダンパーで、可搬時の衝撃から、ボリュームノブやケーブルのプラグなどを保護する役目だそうだ。このダンパーがある事で、デザイン面で無骨&ハードな印象を与えている。男性向けのフォルムと言えるだろう。なお、端子を保護してくれるのは嬉しいが、L型プラグを挿した時に向きを回しにくいという欠点がある。そもそもあまり回すものでもないが。

 筺体はアルミ製でヘアライン仕上げ。一見すると黒だが、実際は若干赤みを帯びており、光の加減で印象が変化する。側面にはゲイン切り替えスイッチを用意。

アルミ製でヘアライン仕上げ亜鉛ダイキャスト製のダンパーが特徴だ
ダンパーを横から見たところ側面にゲイン切り替えスイッチを備えている

 天面と底面には2本のゴム製ラインが走っている。これは、プレーヤーを重ねてみるとよくわかる仕組みで、プレーヤーの背面とアンプの筺体が直接触れず、ゴムがクッションになる事で双方が傷つかないようになっている。傷防止でゴムパッドなどを挟む製品もあるが、本体のみで完結するのでスマートな仕組みだ。なお、ラインの間に入ってしまうほど小さなプレーヤー用に、ゴムパッドも付属している。

天面と底面には2本のゴム製ラインが走っているプレーヤーを重ねても傷がつきにくい

 個人的に「良くできているなぁ」と唸ってしまったのが、アンプとプレーヤーを固定するシリコン製のベルトだ。ポータブルアンプ用の結束ベルトは、簡単に言えば大きな輪ゴムが多いのだが、「PHA-1」に付属するベルトは輪っかになっておらず、両端にベロのようなものがついた平たい形状になっている。

 両端のベロは、アンプ左右の側面にある“コの字”型の突起に引っ掛けられるようになっており、プレーヤーを挟むとちょうどピッタリ合う長さ。輪っかになっていないので「外れやすいのでは?」と思うが、意外に強い力で固定でき、ベロを持ちあげない限りそう簡単には外れない。iPhone 4Sを2本のベルトで固定し、逆さまにしてみたが、まったく落下したり、ズレたりする気配はない。

シリコン製のベルトプレーヤー側面に引っ掛けるようにして固定する2箇所で固定したところ
ベルトの端の形状縦にしても逆さまにしても落下しない

 輪っかタイプと比べ、この固定法が優れているのは、アンプ+プレーヤーから抜かずに取り外しできるため、イヤフォンやアンプとプレーヤーを接続するケーブルを接続したままで固定位置を楽に微調整できる点だ。iPhoneのようにタッチパネルの占める範囲が大きく、ベルトが操作の邪魔になる時、調整しやすい。

 ただ、構造上、片方のベルトがアンプの横に“ビヨン”と飛び出す形になるため、ワイシャツの胸ポケットに入れようとしたところ、引っかかってすんなり入らない。指でベルトを抑えれば入れる事は可能。逆に入れた後、中で飛び出すベルトがストッパーになり、ホールド性は良いように感じた。

ハイレゾプレーヤー「iBasso HDP-R10」とのサイズ比較付属品一覧

 



■現在求められる機能をほぼ網羅

 機能を見ていこう。入力端子として、前面にステレオミニのアナログ入力を1系統搭載。背面にUSB端子をタイプAと、USBマイクロのBタイプの2つ備えている。AタイプはiPod/PC接続に利用。BタイプはPC接続や充電などに使用する。背面には、入力切替用のスライドスイッチも備えている。

 USB入力はiPod/iPhoneとのデジタル接続に対応。DACとして、Wolfsonの「WM8740IC」を搭載しており、これでD/A変換する事で、iPod/iPhone本体で変換するよりも高音質が得られる。電圧増幅部にはオペアンプICとしてTIの「LME49860」が使われ、出力段には電流帰還型高級ヘッドフォンアンプICの「TPA6120」などを使っている。これらは正負の2電源によるOCL構成としており、パワフルな駆動力が特徴だ。

背面の入力端子部付属の入力ケーブルiPhone 4Sと接続したところ

 対応インピーダンスは8Ω〜600Ω。最大出力は約175mW×2ch(8Ω)、約26mW×2ch(300Ω)。

 なお、iOS 6が入ったiPhone 5と、iPhone 5付属のLightning-USBケーブルで接続してみたが、しっかりと音が出た。ウォークマンとの接続も可能で、接続用にWM-PORTとステレオミニの変換ケーブルも付属。ただし、ウォークマンはWM-PORTからデジタル出力ができないため、接続としてはアナログになるのが残念だ。iPod/iPhoneはデジタル接続できるのに、自社のウォークマンは無理というのも、考えてみると妙な話だ。

iPhone 5とLightning-USBケーブルで接続しても音が出たウォークマンとの接続はアナログになるiPhone 4Sと接続したところ

 また、PCとUSBで接続し、USBオーディオインターフェイスとしても動作する。この場合、24bit/96kHzまでの入力が可能。さらに、非同期のアシンクロナス伝送で、ジッタを抑えた伝送も可能にしている。ハイレゾ対応は嬉しいポイントだが、できれば24bit/192kHzまで対応して欲しかったところだ。

PCと接続し、foobar2000+WASAPIモードを使って24bit/96kHzの楽曲を再生しているところ24bit/192kHzの曲はエラーが出て再生できない

 その他にも、アナログ回路部に35μmの厚膜銅箔プリント基板を使ったり、フィルムコンデンサなどの高品位なオーディオ用パーツを投入。アナログ回路とデジタル回路を分離したレイアウトにするなどの工夫も施されている。

 内蔵バッテリの充電はUSB経由で行ない、所要時間は約4.5時間。なお、充電はアンプの電源をOFFにした時のみ可能。この点はちょっと残念だ。バッテリ持続時間は、アナログ入力をしている場合は約10時間、iPod/iPhoneをデジタル接続している場合は約5時間となる。

 



■ライバルとの価格差/機能差

フォステクス「HP-P1」

 気になるのは他機種との違いだ。性能的にライバルとして挙げられるのが、フォステクス「HP-P1」だろう。このモデルもiPodのデジタル接続が可能で、DACを内蔵しているが、「PHA-1」とは異なり、USB DAC機能は備えていない。

 反面、「HP-P1」はアナログライン出力、光デジタル出力を備えているが、「PHA-1」には無い。

 なお、価格は定価が「PHA-1」49,350円、「HP-P1」68,250円。ヨドバシカメラで10月14日に確認したところ、「PHA-1」が39,800円、「HP-P1」が52,800円で販売されている。2機種で1万円以上の価格差がある。どちらも高価ではあるが、出たばかりにも関わらず4万円を切る「PHA-1」の価格は魅力だ。


 



■迫力と高解像度を両立

試聴の様子

 試聴はデジタル接続を基本にした。プレーヤーはiPhone 4S。同梱のUSBケーブルで接続する。ヘッドフォン/イヤフォンは、Shureの「SE535」、ソニーの「MDR-ZX700」や「MDR-Z1000」を使っている。

 まずはアンプを使わず、iPhone 4S本体のイヤフォン端子から「山下達郎/希望という名の光」を再生。ベースの張り出しが胸に響く楽曲だが、iPhone 4Sでは張り出す中低域のパワーにヴォーカルが負け気味で、埋もれがちになる。

 「PHA-1」を介して聴いてみると、低域の押し出しの強さと、量感が大幅にレベルアップ。力強くなると同時に、低い音の中に“硬い芯”が感じられるようになり、それが杭で胸を打たれたようにズシンと響いてくる。

 こんなに低域が力強くなると、ヴォーカルがさらに埋もれてしまうのではと思うが、そうはならない。低域の上にヴォーカルが重なっているような描写で、声が濁らず、むしろよりクリアに聴こえる。ヴォーカルとベース、その他の楽器が、多層構造的に重なり、組み合わさって1つの曲になっている様子が音だけで理解できる。

 情報量が多いため、ベースの音だけを聴いてみたり、ドラムの旋律だけに注目するといった、部分的な聴き方が可能になる。個々の音がくっついて描写されていると、なかなか音を頭で分離できないが、もとから“音のほぐれ”が良いため、意識を集中させるだけで今まで気付かなかった音が聴こえてくる。初めてポータブルアンプ/DACの音を体験した人は、恐らく今まで聴き慣れた曲を、最初から全部聴き直したくなることだろう。


 



■ライバル機種と比較

 フォステクスの「HP-P1」と比べてみると、どちらもデジタル接続の利点を活かし、極めて解像度が高く、精細なサウンドを聴かせてくれる。どちらも優秀だが、細かく聴き込むと、HP-P1の方が音場が左右、奥行き共にやや広く感じる。だが、その差は僅かだ。

 違いがわかりやすいのは中低域。「Kenny Barron Trio」の「Fragile」を聴いてみると、ルーファス・リードのベースが沈み込む様子がかなり異なる。HP-P1は地鳴りのように地を這う「ズーン」という低域を凄みと共に再生するが、その上に重なる「ヴォーン」という中低域はあまり膨らまない。そのため、最低域の振動のみが印象に残る。

 一方、ソニーの「PHA-1」も、「ズズン」と響く低域を再生してくれるが、その上に膨らむ中低域もボリューム豊かで、サインカーブとしては自然な曲線に感じる。力強さのある低域だ。

 基本的には高解像度&クリアで、バランスがとれているが、個性として「PHA-1」はコントラストが強く、同時に低域の量感を豊かに再生する傾向がある。“ストイックにニュートラルなサウンドを追求”というよりも、ほんの少し“ドラマチック寄り”なキャラクターと言えるだろう。

 逆に、ストイックにニュートラルなサウンドを追求しているのが「HP-P1」だ。低域の盛り上がりが控えめであるため、中高域の透明感や細かい描写が見やすく、何より精細感や音場の広さを重視する人は、HP-P1の方が好ましいと感じるだろう。マニア受けする音作りだ。

 一方で、「PHA-1」は、情報量の多さと共に、多くの人が“心地良い”、“迫力がある”と感じる低域が魅力。だからと言って低域が過度に“出すぎている”わけではなく、ドンシャリサウンドまでは行かない絶妙なバランスで留まっている。多くの人にわかりやすく、オススメしやすいサウンドだ。

ハイレゾプレーヤー「iBasso HDP-R10」

 次に、アンプ/DACではないが、最近の注目ハイレゾプレーヤー「iBasso HDP-R10」と比較してみたい。「HDP-R10」は最高24bit/192kHzまでのハイレゾ音源や、FLAC/Apple Lossless/DSDなどの様々なファイルも再生でき、高音質なDAC/ヘッドフォンアンプも搭載しているAndroidベースのプレーヤーで、実売88,000円と高価だが、生産が追いつかないほどの人気ぶりだ。

 同じ曲で聴き比べてみると、低域の主張は「PHA-1」より控えめで、どちらかと言うと「HP-P1」寄り。“フォステクスとソニーの中間”と言ったところ。見通しが良く、細かなニュアンスは「HP-P1」に匹敵するものがある。「HP-P1」ではちょっと素っ気ない、「PHA-1」では低域が派手だと感じる人には、ピッタリ来るだろう。

 ダイアナ・クラールの「Temptation」で比べてみると、冒頭のベースは「PHA-1」の方が迫力があり、硬い芯も感じさせる。ヴォーカルも低域成分にパワーがあるため、凄みがある。だが、音場は狭く、中央からヴォーカルが張り出すと共に、左右から他の楽器が「俺も俺も」と争うように前に出てくる。

 「iBasso HDP-R10」は、ヴォーカルが中央に一歩前に出て、その左右に楽器が行儀よく収まっており、全体を見渡しやすい。

 クラシックやジャズなどは前述のように感じられるが、打ち込み系のアップテンポな楽曲で比べると印象が変わる。「坂本真綾/トライアングラー」では、メリハリのある音が「PHA-1」と良くマッチ。ベースのゴリゴリとしたラインの太さが存分に楽しめ、安定感と疾走感のあるサウンドとなる。「iBasso HDP-R10」は、こうしたエネルギッシュな描写にはならず、淡白だ。


 



■まとめ

「iBasso HDP-R10」と重ねたところ。音は良いが、実用的なサイズとは言えない

 「PHA-1」はアナログ入力も備えているので、試しに「iBasso HDP-R10」のアナログ出力と接続してみた。すると、低域がやや大人しくなり、スッキリとした印象に変化する。「PHA-1」のパワフルな低域は、アンプだけでなく、DAC部分にも理由がありそうだ。

 アナログ接続になってしまうため、分解能や高域の繊細さは「iBasso HDP-R10」で直接聴いた方が生々しい。だが、描写をほじくりかえすようなキツさが、アナログ接続する事でまろやかになり、聴きやすくなり、これはこれで魅力的なサウンドだ。しかし、だからといって「iBasso HDP-R10」+「PHA-1」のサンドイッチはもはやポータブル機器とは呼べないサイズ&重さで、実用的ではないだろう。

 前述の通り、中低域がパワフルでドラマチックな「PHA-1」は、初めてポータブルアンプに挑戦してみるという人にもオススメしやすい、旨味のあるサウンドに仕上がっている。簡単にまとめると、オーケストラやシンプルなアコースティックがマッチする「HP-P1」、ロックやJAZZライヴの熱気も気持ちよく聴かせてくれる「PHA-1」という印象の違いがある。

 「HP-P1」も含め、このクラスのポータブルアンプの購入を検討する人は、恐らく“自分が好きな音”、“この曲を、こんな風に聴かせて欲しい”という、自分なりの指標がある事だろう。愛用のプレーヤーにそんな1曲を入れて比較してみて欲しい。


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ソニー
PHA-1

(2012年 10月 16日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]