【レビュー】“見ないで操作”が快適になった新iPod nano

Bluetooth/ビデオ対応。手軽なプレーヤーとして魅力向上


第7世代iPod nano(ピンク)

 約2年ぶりのモデルチェンジとなる第7世代iPod nanoが、アップルから発売された。以前の第6世代モデルはiPod shuffle並みに小型化されたことが印象的だったが、新モデルはその前の第5世代モデルなどに近い縦長のタイプになったことが大きな違い。

 また、新たにBluetooth対応となったほか、第6世代では省かれた動画再生機能も復活。サイズが大きくなった代わりに、プレーヤーとしては高機能化している。カラーはスレート、シルバー、パープル、ピンク、イエロー、グリーン、ブルーの7色とApple Store限定カラーの(PRODUCT RED)。メモリ容量は16GBのみ、価格は12,800円で従来(2011年10月の値下げ後)と変わらない。なお、第6世代にあった8GBモデルは用意されていない。

 正方形に近くなった第6世代モデルの登場時は、クリックホイールの非搭載など操作系の変更に戸惑いの声も聞かれたnano。アップルの製品サイトでは新モデルについて“nano、変身”というキャッチコピーがつけられているが、これがどういった変化をもたらしたのか、試してみた。

カラーは、PRODUCT REDを合わせると全8色


■ 縦長の本体。ホームボタンを採用

パッケージ

 大きく変わった外観からチェックする。ディスプレイは2.5型/240×432ドット(202ppi)のマルチタッチ液晶。縦長の筐体になったが、単に第5世代へ逆戻りしたのではなく、画面下にホームボタンを採用するなど、見た目はiPhoneやiPod touchに近い形になった。側面にはボリューム上/下と再生/停止ボタンを装備。この3ボタン構成にしたことが、プレーヤーとしての操作性を高めており、この点については後述する。

 上部には電源ボタンを、下部にはヘッドフォン出力とこれまでのDock(30ピン)に代わる新接続端子のLightningを採用している。外形寸法は76.5×39.6×5.4mm(縦×横×厚さ)で、従来より38%薄型化されている。なお、第6世代モデルにあった背面クリップは省かれている。

 画面の構成は、従来と同様に、画面上にアプリのようにアイコンが並び、必要な機能を起動する。従来モデル同様に、画面をロングタップしてアイコンがブルブル震える状態にすると、並べ替えや別ページへの移動が可能。あまり使わない機能は後ろのページに移動しておけば、誤ってタッチして起動することが減るだろう。アプリのアイコンは8個あり、1画面で表示できるのは最大6個のため、デフォルトでは2ページ構成だが、ページを増やすことも従来同様できる。なお、iOSモデルとは異なり、アプリの追加は行なえない。

側面
天面
底面背面同梱のLightningケーブルと、イヤフォンのEar Pods
第6世代nano(右)と比較クリップが無いこともあり、第7世代の方が薄い縦のサイズは2倍近い
左から、第5世代touch、第7世代nano、第6世代nano
iPod nanoソフトウェアを1.0.1にアップデートした

 まずは、メインとなる音楽再生機能を試した。楽曲転送は、従来と同様にiTunes経由で行なう。なお、第7世代モデルを使うには、iTunesのバージョンを最新の10.7以降に更新することが必要。また、iTunesとの同期時に、iPod本体のソフトウェアも1.0.1へアップデートするよう求められた。変更点として「iPod nano(第7世代)のサポート」と書かれていたのは意味がよく分からないが、とりあえず適用した。

 再生可能な音楽ファイルはAAC、HE-AAC、MP3、Audible(フォーマット2、3、4、Audible Enhanced Audio、AAX、AAX+)、Apple Lossless、AIFF、WAV。MP3とAACのビットレートは8kbps~320kbps。プレイリスト機能のGeniusにも対応し、iTunesで作成したGenius Mixと同期できる。

 音楽再生の画面はiPhoneなどに近いレイアウト。再生中にタップするとシークバーや、シャッフル/Geniusプレイリスト/リピートなどのアイコンが現れ、これらのON/OFFなどが行なえる。新しいホームボタンをダブルクリックすると、写真表示など他の機能の利用中でも音楽再生画面を呼び出せる。イコライザなどの音質調整機能や音量のノーマライズ機能なども引き続き搭載している。


音楽再生画面タップするとシャッフルやリピートの設定が表示Genius Mixなども利用できる

 10月から、音楽配信サービスの「mora」で、AAC 320kbps/DRMフリーの配信が始まっており、以前のレビューではiPhoneやiPod touchでそのまま転送/再生できないという現象が見られた。iTunesでの再エンコードや、アルバムジャケットを表示させないなど再生する方法は存在するようだが、iPod nanoではこの現象は起きず、他の音楽ファイルと同様に何の区別もなく、転送/再生できた。なお、これは第6世代モデルでも同じ。iTunesでnanoに転送したファイルのプロパティを見ると「ビデオ」と定義されているが、通常通りミュージックのライブラリに分類されていた。

 再生音質については第6世代と比べて大きな変化はなく、ジャンルを問わずバランスが良く、音楽を気持ちよく聴かせるパワフルさも持っている。新イヤフォンのEar Podsは、付属イヤフォンとして十分に広帯域な再生が行なえる。ただ、筆者の耳が大きめなせいか装着があまり安定せず、奥まで突っ込むと全体的にこもり気味に聴こえた。低価格なイヤフォンに比べ、パワーのある低域などが魅力的なので、装着感が好みに合えば十分に使えるイヤフォンだと思う。

moraで購入した320kbpsのAACをnanoへ転送再エンコードすることなく転送、再生できた音楽の設定メニュー


■ 側面3ボタンで音楽再生の操作が格段に向上

側面の3ボタン

 従来と大きく違うのが、側面の3ボタンの採用。音量+と-、再生/一時停止というシンプルなボタンだが、これはアップル純正のイヤフォンケーブルなどにあるリモコンでおなじみの3ボタンの機能を踏襲しているのがポイント。例えば中央(凹んでいる部分)をダブルクリックすると曲送り、トリプルで戻し。2回目のクリック時に長押ししたままだと再生しながらの早送りとなる。さらに、再生中の1回長押しだとVoiceOverで、再生中の曲名/アーティスト名が読み上げられる。これらの操作が画面を見ることなく行なえるのは便利だ。

 第6世代モデルは、ハードウェアキーが「電源/スリープ」と、「音量+」、「音量-」の3つだった。また、一度アップデートされたことで、電源キーのダブルクリックによる動作は「次のトラック」または「再生/一時停止」のどちらかを割り当てられるようにはなっている。画面が小さいので慣れれば見なくてもほぼ操作できるとは思うが、確実さではハードキーの方が上。全てがタッチ操作というのに抵抗がある人にとっても、新nanoの方が便利だろう。

 長方形に戻ったことで、手に持った時のボタンの押しやすさも、新モデルの形が上回っていると感じる。これには手の大きさや慣れなど個人差もあると思うが「従来のnanoが小さすぎて操作しにくい」と感じていた人なら特に恩恵が大きいだろう。また、3ボタン操作の利便性を持ちつつ、純正以外のイヤフォンを使えることは、音質の面からも魅力的。この点は、iPhone/iPod touchをも上回る専用プレーヤーならではの部分。逆にiPhoneやtouchでも側面3ボタンを採用して欲しいくらいだ。

 新たにBluetooth 4.0にも対応。対応プロファイルは公開されていないが、手持ちのBluetoothレシーバ「LBT-AR300」(ロジテック)と接続したところ、楽曲の再生/一時停止や曲送り/戻しも行なえたので、A2DPだけでなくAVRCPにも対応しているようだ。従来に比べて本体の大きさが気になる人や、スポーツに使いたいという人は、本体をポケットやカバンに入れて、Bluetoothイヤフォンでワイヤレス化するのも一つの手だろう。

 そのほか、従来モデルに比べて本体の動作性能もやや向上したように感じる。例えば、曲の一覧表示時に、下から上へ大きくフリックして何回もスクロールさせると、第6世代では時々カクカクになったり、ひっかかる場合もあるが、第7世代ではほとんどそうしたところは見られなかった。また、スクロール時に第6世代は液晶の残像感がにじみのように見えるが、第7世代ではそうしたことは無く、スムーズにスクロールするのが分かる。これらは、普段の利用で気になるほどの差ではないが、細かいながら品質が上がっているのはうれしい。

Bluetoothを搭載LBT-AR300とペアリングして音楽再生、操作ができた


■ 小さな画面で動画再生も可能

 今回、復活した動画再生機能も試した。再生対応ファイルは、MPEG-4 AVC/H.264が720×576ドット/30fpsまでのBaseline/Main Profileと、High Profile Level 3.0(256 Kbps AAC-LCオーディオ)。MPEG-4は、720×576ドット/30fps、2.5MbpsまでのSimple Profile。ファイルフォーマットは.m4v、.mp4、.mov。

 手元にあった720×480ドットや640×480ドットのMPEG-4をiTunes経由で転送したところ、問題なく再生できた。動画再生時は自動で横画面となるため、本体を横に持つ形となる。かなり横長な画面ではあるが、4:3の映像を再生しても、極端に横へ引き延ばしたり、上下をバッサリとカットするといった不自然さは無かった。

 iTunes Storeで購入した動画(SDコンテンツ)も転送してみたが、字幕もつぶれることなく表示されていた。一般的なスマートフォンより小さな2.5型という画面で映像に没入するというのはちょっと厳しいが、例えば購入した海外ドラマをどうしても消化したい場合や、短いミュージックビデオなどなら、使えなくはないという印象。もし国内のiTunes Storeでもテレビ番組の配信などのショートコンテンツが充実していけば、もう少し用途が広がるかもしれない。なお、ビデオの連続再生時間は最大3.5時間で、音楽の連続再生時間(最大30時間)に比べるとやや心もとない。充電時間は従来と同じで、80%までの充電は約1.5時間、完全充電時間は約3時間。

iTunes経由で動画を転送して再生(右上)。元の縦横比(左のPC画面)から大きく崩れることは無かったiTunesで買った海外ドラマの再生。字幕もちゃんと読める(映像部分はモザイク処理しています)

 写真の表示も可能。サムネイルで5×3個(縦×横)に一覧表示された中から選んで全画面表示可能。フォルダ単位で管理することもできる。従来モデルからの変更として、写真の1枚表示時に画面を2本指でピンチイン/アウトすると無段階で縮小/拡大が可能。これがディスプレイのマルチタッチを最も活かせる点だろう。

 FMラジオも引き続き搭載。受信中の放送を最大15分バッファリングして、巻き戻して聴き直せる「ライブポーズ」も利用できる。なお、アンテナとしてイヤフォンのケーブル利用するため、FMを聞くときはイヤフォン接続が必須となる。Podcastにも対応。加速度センサーを搭載し、Nike+と歩数計にも対応。パソコンを使って「nikeplus.com」へデータを同期して管理できる。

写真のサムネイル表示縦画面、横画面で表示可能。2点タッチで拡大縮小できる
FMラジオPodcastNike+
設定画面一般設定時計表示
ストップウォッチタイマー
【第7世代と第6世代との主な仕様】

モデル第7世代第6世代
価格12,800円
(16GB)
12,800円(16GB)
10,800円(8GB)
ディスプレイ2.5型
240×432ドット
1.54型
240×240ドット
音楽再生AAC(8~320kbps)、
HE-AAC MP3(8~320kbps)、
Audible
(フォーマット2、3、4、
Audible Enhanced Audio、
AAX、AAX+)、
Apple Lossless、AIFF、WAV
AAC(8~320kbps)、
MP3(8~320kbps)、
Audible(フォーマット 2、3、4)、
Apple Lossless、WAV、AIFF
Bluetooth-
ビデオ再生-
PodCast
写真表示
ピンチイン/アウトで
縮小/拡大

ダブルタップで拡大
FMラジオ
Nike+
コネクタLightning
8ピン
Dock
30ピン
音楽連続再生時間30時間24時間
外形寸法
(縦×横×厚さ)
76.5×39.6×5.4mm37.5×40.9×8.78mm
重量31g21.1g


■ 操作感の改善で堅実な仕上がり

 メモリ容量や価格だけで「これがライバル機」と挙げるのは難しい。ウォークマンならSシリーズ(S770)あたりがメモリ容量で近いが、16GBが直販16,800円とnanoより若干高価で、デジタルノイズキャンセル(NC)機能の搭載や、フルHD動画再生/録画番組持ち出し対応など機能差は大きく、直接比較しづらい。エントリーのEシリーズ(E060)は価格的に近い(4GBが直販10,800円)が、容量の差は大きい。一時期に比べ「低価格なオーディオプレーヤー」を発売するメーカーが減ってきた中、12,800円という価格を維持したままBluetooth搭載など機能を着実に強化してきたnanoの存在は、一層大きくなったといえる。

 操作性という観点では、第6世代nanoとの比較だとウォークマンが有利だと思っていたが、新nanoの改善で、大きな差は感じられなくなった。ウォークマンと比較するよりも、例えば第6世代nanoの操作性が好みに合わないという人や、音楽以外の機能はあまり必要としないがshuffleのメモリ容量では足りないという人にとって、買い替えるメリットが大きいだろう。

Amazonで購入
iPod nano 16GB


(2012年 10月 26日)

[ Reported by 中林暁 ]