【レビュー】小さくてもハイレゾ高音質「Astell & Kern AK100」を聴く

通好みのナチュラル高音。専用チューニングイヤフォンも


Astell & Kern AK100

 ハイレゾ音楽配信が活発化する中、屋外で気軽に高音質が楽しめるハイレゾ対応ポータブルプレーヤーにもニューフェイスが登場した。マウスコンピューターのiriverから発売される、「Astell & Kern AK100」だ。

 iriverはポータブルプレーヤーで既にお馴染みだが、新たに「Astell & Kern」という新しいブランドを立ち上げた。音のクオリティを追求するブランドで、その第1弾として投入されるのが「AK100」となる。キーワードは「Hi-Fiオーディオの“極み”を、ポケットに。」で、ポータブル界のピュアオーディオ的な立ち位置をアピールしている。

 10月27日より発売が開始されており、価格は直販で54,800円。その音質や使い勝手などを、ライバルプレーヤーとも比較しながら体験する。




■高級感溢れるデザイン

 外形寸法は約79×59.2×14.4mm(縦×横×厚さ)、重量は約122g。ヘアライン仕上げの金属筐体は質感が高く、適度な厚みがあり、ちょっと横に大きいジッポーライターのようなサイズ。最新スマートフォンや、ウォークマン、iPod touchと比べると、短くて分厚い。厚いと言っても、Yシャツの胸ポケットに簡単に入る程度。凝縮感が高級感へと繋がっている。ひんやりと冷たい金属筐体に触れているだけで、「なんだか音が良さそうだ」と聴く前から期待が高まる。

ケースにも高級感がある
正面はヘアライン仕上げ左側面には再生/一時停止や曲送り/戻しボタンを搭載上部にはイヤフォン出力と光デジタル入力を装備。イヤフォン端子は光デジタル出力兼用

 ハイレゾプレーヤーのライバルとして「iBasso HDP-R10」(実売88,000円前後)を用意したが、118×71.8×27.5mm(縦×横×厚さ)、重量は260gと、二回り以上大きい。胸ポケットやジャケットの内ポケットに入れるのに躊躇するほどのサイズで、取り回しの良さという面ではAK100の圧勝。音質が良ければサイズや重さは問わないというユーザーも多いとは思うが、ポータブルプレーヤーである以上、やはり小さくて軽いに越したことはない。

左が「iBasso HDP-R10」、右がAK100左から「iBasso HDP-R10」、ウォークマン「NW-F800」、AK100
Yシャツの胸ポケットに入れたところ。左がAK100、右がiBasso HDP-R10。R10はなんとか入るが、それ以外のものは入らないと思った方がいい

 内蔵メモリは32GBで、ハイレゾ音源を大量に保存するには心もとない。しかし、拡張用としてmicroSD/SDHCカードスロットを底部に、2スロットも用意している。ここに32GBのカードを2枚追加できるので、合計で96GBのプレーヤーとして使う事ができる。価格が安いmicroSDを2枚も使えるのは魅力的だ。底部のスロットにはスライド式のドアまで付いており、抜け落ちを防止している。ドアパーツの精度も高く、こうした細かなギミックがオーディオ機器っぽい雰囲気を醸し出している。

底部にmicroSD/SDHCを2枚入れる事ができる。スロットにはスライド式ドアも完備

 なお、アルバムやアーティストといったメニューから楽曲にアクセスする場合、その曲が本体メモリにあるのか、microSDにあるのかをユーザーが意識しなくても良いような作りになっている。ただ、フォルダ構造で音楽を探すモードの場合は、意識的にSDカード内を指定してフォルダを降りていく事になる。

再生しているファイル名の上に注目。32bit/192kHzのファイルも再生できた

 再生対応ファイルは、FLAC/WAVに加え、APE/MP3/WMA/OGGに対応。FLACとWAVは最高24bit/192kHzまで対応する。量子化ビット数は8/16/24bit、サンプリングレートは8/16/32/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzに対応。MP3/WMAは8~320kbps、FLACは0~8、APEはFast~High、OGGは最大Q10まで対応だ。

 なお、仕様としては24bit/192kHzが上限とされているが、試しに32bit/192kHzのWAVファイルを入れたところ、あっさり再生できてしまった。公式にはサポートされていないが、ハードウェアとしては32bit/192kHzを再生できるポテンシャルを持っているようだ。

 iBasso HDP-R10の対応フォーマットは、FLAC、WAV、APE、MP3、WMA、OGGに加え、DSD(DSF)、ALAC(Apple Lossless)、AIFF、AACもサポートしている。

 AK100の場合、ALAC(Apple Lossless)、AIFF、AACといった、iTunesやiPhoneと親和性の高いフォーマットに対応していない点に注意が必要だ。iTunesでAAC/ALACエンコードしたライブラリが沢山あるとユーザーは、使いにくく感じるだろう。試しにAACの音楽を転送してみたが、楽曲メニューにすら表示されないので、まったく再生できない。

 また、現在はOTOTOYやe-onkyo musicなど、配信サービスも限られているDSDも、今後注目が集まりそうなフォーマットであるため、ハイレゾ対応を謳う新プレーヤーとしては対応して欲しかったところ。今後のアップデートで対応フォーマットの拡充に期待したい。なお、再生機能面ではギャップレス再生にも対応していない。

 搭載しているDACはWolfsonの「WM8740」。ダイナミックレンジは110dB以上、周波数特性は10Hz~20kHz(±0.02dB)。

 充電とPC接続用に、microUSB端子を底面に搭載。イヤフォン出力はステレオミニを1系統、上部に備えている。光デジタル入力も上部に搭載。イヤフォン出力は光デジタルの出力も兼ねている。CDプレーヤーの光デジタル出力と接続し、AK100でアナログ変換/ドライブしてヘッドフォンで楽しんだり、光デジタルで出力して、別のデジタル入力対応ポータブルアンプに接続するといった使い方もできる。さらに、Bluetooth 3.0も搭載。プロファイルはA2DP/HFPに対応する。


24bitのサンプル音源5曲が入った2GBのmicroSDカードも付属する



■新ブランド第1弾ながら、こなれた操作性

 OSはHDP-R10やウォークマンのようなAndroidではない。ユーザーがアプリを追加したり、Webブラウザでネットサーフィンするような機能は無く、純粋な音楽プレーヤー。動画再生機能も無いという割り切りぶりだ。だが、音質を最重視する人には、逆にその潔さが魅力と感じるかもしれない。

 なお、以前レビューした「HDP-R10」はAndroidを採用しているが、様々なアプリを入れていくと標準の高音質プレーヤー機能に問題が出てくるとして、Google Play非対応にするファームを11月30日に公開予定だ。今後登場してくるハイレゾ高音質プレーヤーでも、こうした“割り切り”が当たり前になるかもしれない。

 操作ボタンは左側面に曲送り/戻しと再生/一時停止ボタンを用意。ユニークなのは、右側面に飛び出したダイヤルで、ボリュームつまみになっている。ポータブルでも、据え置き型アンプのようにダイヤルでボリュームが操作できるのは嬉しい。回すたびにカチカチとした感触があり、"確かに回した感”が得られる。飛び出しているので、ポケットに入れたまま、手探りで操作できるのも良い。

右側面にあるボリュームつまみつまみを回して音量調節をしたり、オレンジ色のバーをタッチして移動させて増減する事もできる

 ボリューム調整は152ステップ(0~75/0.5刻み)と細かく、絶妙な調整ができるのはR10と同じだ。つまみが小さいので、何かの拍子に回ってしまう事もあるが、増幅ステップが細かいので、急激に大音量になったりはしない。

 なお、ボリューム表示が出ている時に、画面に表示されるボリューム現在位置バーを指でドラッグすると、つまみを回すよりも早く目的のボリュームまで増減できる。あくまで現在位置バーに触れる必要があるため、画面をタッチしただけで意図せず大音量になったりはしない。よく考えられた操作性だ。なお、設定項目で、画面表示をOFFにしている際に、ボリュームをロックする機能も備えている。

 ディスプレイは2.4型のIPSカラー液晶で、表示は鮮やか。視野角も広い。静電容量式のタッチパネルで、アルバム、アーティスト、プレイリスト、ジャンルなどのメニューで楽曲を検索。再生が始まったら、ダイヤルをまわして音量を調整し、あとは左側面のボタン、もしくは画面タッチで再生操作をするというのが基本的な使い方。メニュー動作やフォルダ移動はキビキビとしており、ストレスは少ない。

 ユニークなのは、アルバムやアーティストと言った定番の選択モードの中に、「マスタークオリティ」というのが用意されている事。これはライブラリ中の、ハイレゾファイルを自動的にピックアップし、まとめてくれるもの。ファイル数が多くなると、どれがハイレゾファイルだったか忘れてしまいがちだが、こうして自動でまとめてくれると便利。このプレーヤーを買う人が喜ぶであろう機能を先回りで入れる姿勢は素晴らしい。どこからがハイレゾなのかという話だが、試しに24bit/48kHzのファイルを入れてみたところ、このファイルもピックアップされていた。

 再生画面は、背景にソフトフォーカスされたジャケットが表示され、そこに楽曲情報がオーバーレイ表示されるというデザイン。タイトルの上に、オレンジ色の文字で「24bit/192kHz」といった楽曲の量子化ビット数/サンプリングレートが表示されるのが面白い。オプション設定を選べば、再生している曲のプレイリスト追加や、詳細なデータの仕様、イコライザのON/OFFも可能になっている。

楽曲再生中の画面。アルバムジャケットがある場合は、背景のように表示される。タイトルの上に「24bit/192kHz」と表示されている楽曲情報を消すと、背後のジャケット画像が明るく、全画面表示されるハイレゾ音楽だけをまとめて表示してくれる「マスタークオリティ」画面。ユーザーニーズを先取りした機能と言えるだろう

 おそらく説明書を読まなくても、操作に迷うことは無いだろう。レスポンスも良いため、間違ってもサクサクと違う曲までたどり着ける。R10はメニューまわりが洗練されておらず、レスポンスも遅いので、比べるとAK100の使いやすさが際立つ。これまで多数のプレーヤーを手掛けてきたiriverらしい、こなれたUIだ。

 内蔵バッテリはUSB経由で充電。再生可能時間は、24bit/192kHzのFLACで約12時間、24bit/96kHzのFLACで約15時間。MP3の128kbpsの場合は約15時間となる。バッテリ消費を抑えるため、一定時間が経過すると電源を抑えるOFFにする機能も備えている。

 UIのレスポンスは高速だが、起動所要時間は気になる。ファームウェア1.12JPを適用した個体で、約20GBのファイルを本体メモリに転送、SDスロット1枚、600MBのファイルを入れたカードを挿入した状態で、起動するまで約30秒かかる。これはすぐに音楽を楽しもうと思っている時には、かなり遅く感じるだろう。

 我慢できないという場合は、バッテリ持続時間を妥協し、自動電源OFFまでの時間を長めに設定して、電源がOFFにならないようにするといいだろう。10分、30分、1時間、2時間から選択できる。スマートフォンのように、常に電源をONにしておくような使い方はできない。

 楽曲の転送は、エクスプローラーなどを使ってドラッグ・アンド・ドロップで転送し、プレーヤー側でライブラリ更新をかければ完了するが、iriverのページから「iriverPlus4」という管理ソフトをダウンロードして使う事もできる。プレイリストの作成などは、本体でやるよりも便利だろう。オシャレなデザインのソフトなのだが、気になるのはアイコンやメニューボタンの小ささ。文字が見にくく、何の機能がどこにあるのかわかりにくく、わかっても押しにくい。しばらく我慢して使っていたが、面倒になってエクスプローラーで直接放り込んでしまった。

「iriverPlus4」の画面



■シンプル&ストレートな通好みの音質

試聴の様子

 では音を聴いてみよう。イヤフォンにはShureのSE535を、ヘッドフォンにはソニーのMDR-ZX700などを主に使っている。ソースはハイレゾの配信サービスからダウンロードしたものや、CDからWAVでリッピングしたものをメインにしている。

 なお、普通のプレーヤーは標準でイヤフォンが付属するが、AK100にはついていない。思い切った仕様ではあるが、このプレーヤーを購入するユーザーにとって、付属イヤフォンは不要だろう。ここも、ハイレゾプレーヤーらしい割り切りポイントだ。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、極めて高解像度で、癖の無い、さっぱりとしたサウンドが流れる。1分過ぎから入るベースも、弦の動きを微細に表現している。一方で、「ブルン」、「ヴォーン」と言うような、その下に付随する中低域の膨らみがあまり感じられず、地面に響くような低域も無い。

 低域を分厚く再生する傾向ではなく、どちらかと言えば腰高のバランスで、高域の自然な描写を得意とするタイプだ。音数の少ない女性ヴォーカル、ヴォーカル・グループのアカペラなど、低音の少ない楽曲では、個々の音の細かな描写、音の構成具合などがよくわかり、モニターライクなプレーヤーと言える。大編成のクラシックも、低音の迫力は少ないが、ホールの広がり、編成の配置、観客席の足音や咳払いなどがよく見える。

 中低域の膨らみが少ないためか、高域は若干硬質。女性ヴォーカルは温かみよりもクールな描写。まったりとした雰囲気の楽曲である「Rumer/P.F. Sloan」も、広がる音場に清涼感があり、普段聴いている印象とは異なる。コントラストを強調せず、音像のエッジもあまり際立たせず、誇張の少ない落ち着いた描写だ。余計な演出を極力排除し、原音再生を追求したいという人にはマッチするが、スッキリし過ぎて迫力のない音だと感じる人もいるだろう。

 iBassoのR10と「ダイアナ・クラール/Temptation」で比較すると、高域の描写が微細で、抜けが鋭く、パーカッションの歯切れの良さなどを細かく聴き取れるのがAK100だ。しかし、低域が薄いため、高域が目立つ傾向で、かさついた描写だと感じる。R10はしなやかさが残った高域描写で、低音も豊富に含まれているので音像が肉厚で立体的、薄っぺらくならず、生々しい。AK100の透明感抜群のサウンドも魅力的だが、おそらく一般的に多くの人がイイ音だと感じるのはR10の方だろう。

 「山下達郎/希望という名の光」は、ベースの押し出しの強さが印象的な楽曲だが、その張り出しのパワー感、低域の深みはR10の方が良い。AK100も切れ味鋭い低域と、クリアなヴォーカルをきっちり分離して描写してくれるが、R10と比べると薄味になり、もう少し迫力が欲しいなと感じてしまう。

イコライザも装備。タッチパネルを活かし、指でなぞってイコライジングカーブを引く事もできる

 「Yes/Roundabout」やSteely Danの楽曲など、細かな音が鋭いグルーヴを刻むような楽曲をAK100で再生すると、耳が良くなったような解像度の高さとマッチして心地良い。切れ味鋭い描写で、今まで聴こえなかった音が掘り起こされる。「川田まみ/Borderland」のような疾走感があり、硬質でクールな曲調ともマッチする。

 こうした楽曲は、高域の描写が雑なプレーヤーでヴォリュームを上げると、単にキツイ音になり、ガチャガチャした、うるさい音に聴こえてしまうのだが、AK100の場合は情報量が多いまま増幅されていくので、心地よさを維持したまま勢いが増す。基本的な再生能力の高さを実感させてくれる瞬間だ。

 描写の細かさはハイレゾ音源ではより印象深くなる。24bit/192kHzの「Eagles/Hotel California」を再生すると、冒頭ギターの弦の細かな動きと、続いて入るヴォーカル、背後のベース、ドラムといった音がきちんとバラバラに描写され、個別の音に意識を集中すると、その音が埋もれず聴きとれる。CDだとなかなかこうはいかない。なお、ハイレゾファイルでも読み込みや再生開始まで時間がかかったりする事はなく、サクサクと再生できるのも好印象だ。

  R10で同じ曲を再生すると、腰が座り、音場が平面的な広さだけでなく、上下にも拡大。低い音が音楽を支え、その上に中高域が乗っかってと、多層構造的に見えてくる。また、ヴォーカルと高音と、ギターの弦の金属的な細かい音の質感の差、ベースの太くて温かい音の温度がキッチリと描き分けられる。

ウォークマンとも比較してみる

 16bit/44.1kHzの音源を使い、ウォークマン「NW-F800」(クリアフェーズなどの音質調整機能OFF)と比較してみると、AK100の方が、“素のままの音”を出している印象で、女性ヴォーカルなどは少しかさついて聴こえる。ウォークマンもクリアで抜けは良いのだが、高域が若干きらびやかで、コントラストを強くする事で、クリアさを演出しているきらいがある。

 音場の奥行きもAK100が深く、余韻が奥まで広がる様子がよくわかる。じっくりと聴き込むとそうした良さがわかってくる。ウォークマンはわかりやすい音作りで、すぐに良さが実感できるが、聴き込むと音像の描写が平坦で、中低域にもメリハリがつき、細かな小さい音が聴き取りにくい。こうした傾向は従来のウォークマンから続いているものだ。ただ、細かい見ていくとこうした違いがあるというだけで、正直言ってクオリティの差はそれほど大きくない。

 もっとも、ウォークマンは24bit/48kHzのFLAC再生は可能だが、それ以上の24bit/96kHzや24bit/192kHzは再生できない。ハイレゾプレーヤーとしての能力はAK100の方が大きく上回っている。

 なお、AK100の低域再生能力の強化をしたい場合は、外部アンプと組み合わせるという手もある。AK100は、ステレオミニ出力から光デジタル出力も備えている。ここに光デジタルケーブルを繋ぎ、DAC内蔵で光デジタル入力を備えたポータブルアンプを組み合わせる事も可能だ。試しに、iBassoの「D12 Hj」とデジタル接続してみたが、駆動力の高いD12 Hj」を通して聴くと、低域の厚みと沈み込みが大幅に向上。AK100から直接再生した時と、イメージが随分変わる。

 プレーヤー本体より巨大なアンプを繋ぎ、追加で約3万円が必要になる組み合わせだが、24bit/96kHzのハイレゾ音楽を、中高域のクリアさと、低域の馬力を両立させながら再生でき、音質的には魅力的だ。光デジタルを備えている事で、こうした拡張性、発展性も備えているのはAK100の魅力だろう。なお、D12 Hjのデジタル入力は24bit/96kHzまでしか対応していないため、24bit/192kHzのファイルを再生するとノイズしか出て来なかった。

iBassoのDAC内蔵アンプ「D12 Hj」と、光デジタルケーブルで接続したところ

 



■AK100の特徴を伸ばすイヤフォン

 なお、プレーヤーだけに留まらないユニークな展開も進んでいる。11月9日に予約受付が開始されているのは、AK100用にチューニングされたという、カナル型(耳栓型)イヤフォンの「AK100-111iS」だ。

AK100用にチューニングされた「AK100-111iS」

 監修しているのは、カスタムイヤーモニターを手掛けるFitEar(須山歯研)。受注生産だが、カスタムイヤモニではなく、普通のイヤフォンだ。構成はバランスド・アーマチュアのシングルタイプで、直販価格は49,980円。プレーヤーが54,800円なので、両方購入すると10万円近いが、プレーヤー専用チューニングのイヤフォン自体珍しいので気になる存在である。さっそくこのイヤフォンも借りてみた。

 ハウジングは小ぶりで、ケーブルを耳の裏から通す、いわゆるShure掛けが可能。ケーブル交換もでき、ケーブルには「FitEar cable 001」というものが使われている。イヤーピースは通常タイプのS/M/Lに加え、ダブルフランジも付属する。

イヤーピースを外したところ。ノズル部分は純チタン製ケーブルは着脱可能接続端子部分

 また、ケースはハードタイプとソフトタイプの2種類を同梱。ハードタイプは耐衝撃性能が高そうなもので、かなりカッコイイ。大型なのでAK100にイヤフォンを接続した状態で、一緒に収納できるのかと期待したが、イヤフォンジャックが引っかかって入らなかった。イヤフォンを抜いて、うまく配置すれば両方収納はできるがちょっと面倒臭い。“専用チューニング”を謳うのであれば、付属ケースも、イヤフォンを接続した状態で仕舞えるようにして欲しかった。

ハードタイプのケースハードタイプとソフトタイプのケースが付属
イヤフォンを接続したまま収納はできない付属のイヤーピース

 肝心の音質だが、シングルのBAという事もあり、どちらかと言うと高域よりのバランス。低域をズンズン響かせるのではなく、中高域のクリアさ、情報量の多さを楽しむタイプだ。AK100自体、前述のとおり、情報量の多い高域再生を得意とするので、高域描写が緻密なBAイヤフォンを組み合わせると、音像のエッジがカリカリに立ち、目の覚めるような、細かな音にもフォーカスがバッチリ合った描写が楽しめる。AK100の弱い部分を補強するのではなく、得意な部分をさらに伸ばすという考え方のようだ。

 高域寄りではあるが、低域がスカスカと言うわけではなく、締まりのある低域も出ている。しかし、中域を膨らませたり、重低音をズシンと響かせるようなことはせず、あくまでタイトに、中高域のクリアさを邪魔しないような低音だ。迫力というよりも、切れ味を楽しむ低音というイメージ。エージングが進めば、高域のカリカリ具合や低域の深みはより増していくだろう。いずれにせよ、ハイレゾ音源の高域の細かさをとことん掘り起こしたいという人にマッチするイヤフォンだ。

 逆に、先ほど使ったShure「SE535」と組み合わせると、「AK100-111iS」よりも低域の量感がアップ。バランスのとれた、ワイドレンジな再生音になる。「AK100-111iS」の先鋭化した描写も魅力だが、音が硬質過ぎる印象もあり、音色の面では若干不自然さを感じる。個人的には、SE535の方が、ヴォーカルと楽器の質感が的確に描き分けられており、幅広い人にオススメしやすい組み合わせだと感じた。



■まとめ

 こなれたUIを備え、ハイレゾ音楽をサクサクと再生できる小型プレーヤーとして貴重な製品だ。再生音も誇張が少なく、原音再生を追求する人は、ここから外部アンプの追加や、お気に入りのイヤフォンを組み合わせる事で、自分好みの音を追求できる。使いやすいプレーヤーと言えるだろう。AACやDSDに対応していないのがライブラリ的に問題なければ、コンパクトで高音質なプレーヤーを探す際、まっさきに検討したい1台だ。

 一方で、ハイレゾプレーヤーに外部アンプいらずのドライブ力を求め、1台で完結させたいと考える人にとっては、音は繊細だが、馬力が足りないプレーヤーと感じる。iBasso「HDP-R10」との最大の違いはここだろう。

 個人的には、プレーヤーと外部アンプのセットで持ち歩くのが面倒に感じてきたので、AK100の再生能力をそのまま活かしつつ、筐体は一回り大きくなっても構わないので、アンプをより強化したモデルも欲しいところ。いずれにせよ、ハイレゾオーディオを盛り上げる新たなプレーヤーの登場を歓迎したい。

Amazonで購入
Astell & Kern AK100

(2012年 11月 14日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]