レビュー

ソニー初のハイブリッドでハイレゾ対応「XBA-H3」

HDスーパーツイータで高域再生。新3機種を体験

 ソニーのイヤフォン「XBA」シリーズの新モデル3機種が、10月25日から発売された。バランスド・アーマチュア(BA)ユニットとダイナミック型ユニットを両方搭載したハイブリッド仕様で、上位2機種はケーブルの着脱にも対応するなど、見所の多い新製品だ。

 ソニーは2011年に、同社初となるBAユニット搭載イヤフォンを発売。一般的なパイプ状ではなく、フラット形状のエアーダクトを採用した独自開発のBAユニット採用しているのが特徴で、今回の3製品でもそれは同じだ。

左が一般的なBA、右がソニーのBA

 従来はBAイヤフォンとして、「XBA-10」(7,455円)、「XBA-20」(18,375円)、「XBA-30」(24,675円)、「XBA-40」(30,975円)が発売されていたが、この中の「XBA-20」と「XBA-30」が販売終了。そこに、今回の新機種「XBA-H1」(16,000円前後)、「XBA-H2」(26,000円前後)、「XBA-H3」(37,000円前後)が追加となる。

 今回は、この新3機種を試聴する。

BAとダイナミックを両方搭載

 新しい3機種に共通する特徴は、BAとダイナミックを両方搭載する事。他社からもハイブリッドイヤフォンは幾つか登場しているが、まだ真新しい方式であり、製品数は少ない。それゆえ、ソニーのようなメーカーのラインナップとして登場すると、ある種のインパクトがある。

XBA-H1
XBA-H2
XBA-H3

 ハイブリッドの基本的な考え方は、“各方式のユニットが得意とする音を組み合わせる”というもの。BAは高解像度でトランジェントの良い、スピード感のある音を得意とするが、肉厚で量感のある低音は、ユニット数を増やすなどしないと出しにくい。そこで、そんな音を出すのが得意なダイナミック型を追加。“イイトコどり”なサウンドを目指そうというものだ。

 ただし、良い事ばかりではない。例えば、異なる方式のユニットを組み合わせるため、BAとダイナミックで音色が異なると、高い音と低い音でキャラクターが変わってしまう。両者の繋がりを自然に、全体としてまとまった音に仕上げなくてはならない。

 また、ダイナミック型の良さを出そうと、大口径のユニットを採用すると、当然イヤフォン自体も大型化。ユニットが小型で、複数入れてもコンパクトなイヤフォンが作れるBAの利点が、ハイブリッド化すると発揮できなくなるというのも悩ましいポイントだろう。

HDスーパーツイータ搭載の「XBA-H3」は“ハイレゾ製品”

 搭載ユニットの詳細は以下の通り。H1はフルレンジBAと9mmのダイナミック、H2はフルレンジBAと13.5mmのダイナミック、H3はフルレンジとBAのHDスーパーツイータ、16mm径のダイナミック型ユニットを搭載している。

モデル名 XBA-H1 XBA-H2 XBA-H3
店頭予想価格 16,000円前後 26,000円前後 37,000円前後
ユニット構成 フルレンジBA
9mm径ダイナミック
フルレンジBA
13.5mm径ダイナミック
HDスーパーツイータ(BA)
フルレンジBA
16mmダイナミック
液晶ポリマーフィルム
振動板(ダイナミック型)
再生周波数帯域 5Hz〜25kHz 4Hz〜25kHz 3Hz〜40kHz
ケーブル着脱
重量 約7g 約8g 約10g
各モデルの内部イメージ

 注目はH3だ。通常のBAは、振動板に鉄を使っているが、それを軽量・高剛性なアルミ系合金に変更する事で、超高域までの再生を可能にした「HDスーパーツイータ」を追加している。これにより、高域は他の2モデルが25kHzまでであるのに対し、H3は40kHzまでの再生を可能にしている。

XBA-H3が搭載しているユニットの周波数特性イメージ

 ソニーでは、CD(44.1kHz/16bit)を超える高音質の音楽ファイルを「ハイレゾ」と定義し、24bit/96kHz以上のFLAC/WAV/DSDなどに対応した製品を強化する方針を打ち出しており、ハイレゾ再生が可能で、音質設計などハードウェアの性能面で“ハイレゾ楽曲の能力を十分に発揮できる”と太鼓判を押した商品に「Hi-Res AUDIO」ロゴを貼付。高付加価値製品として提案している。イヤフォンでは再生周波数帯域40kHz以上のモデルであると同時に、社内の聴感検査をパスしたモデルと定められており、3機種の中では「XBA-H3」が該当モデルとなっている。

 また、ダイナミック型ユニットにも、口径以外の違いがある。上位機種のH2とH3には、液晶ポリマーフィルムが使われている。ヘッドフォンのヒットモデル「MDR-1R」でも使われているのでご存知の人も多いと思うが、液晶ポリマーワニスを用いたキャスティングフィルムで、通常のPETフィルムを指で触ると「ペニョペニョ、クニョクニョ」した音が出るのに対し、液晶ポリマーフィルムはそうした特徴的な音が出ない。つまり、内部損失が高いという意味で、色づけの少ない、自然な音が出せるのが特徴だ。

XBA-H3

 3機種共通の特徴としては、ハウジング上に設けた通気孔により、低域における通気抵抗をコントロール。振動板の動作を最適化させ、リズムを正確に再現できるという「ビートレスポンスコントロール」を搭載。ハウジングには、制振性に優れた素材を使っている。

ケーブル交換が可能に。装着感は?

 音質以外の注目ポイントは、H2とH3でケーブル着脱が可能になった事だろう。形状・外観的にはMMCX端子に見えるが、ソニーでは厳密に規格に添っていないので“独自端子”としている。試しにMMCX端子を採用しているShureのSE535やE846の標準ケーブルを差し込んだところ、問題なく装着できた。

 端子部分を良く見ると、ユニークなポイントがある。端子に十字にスリットが入っているほか、先端部がわずかに膨らんでいる。オヤイデ電気のリケーブル新製品に採用されている独自の端子と似たデザインで、接続の確実性向上や、取り外しのしやすさ、ホールド性能向上などを図った工夫のようだ。

H3のケーブルを外したところ
イヤフォン側
ケーブル側。先端が膨らみ気味で、スリットがあるのがわかる。赤い樹脂部の突起で、イヤフォンが回らないようにしてる

 また、端子の根元の樹脂部分に2つの突起があり、ケーブルを接続するイヤフォン側には、その突起がハマるくぼみが用意されている。これにより、ケーブルが決まった向きにしか接続できず、接続後もグルグル回らないように工夫されている。特にH3は、ケーブルの“Shure掛け”を想定しているモデルなので、形状記憶樹脂のテクノロートを芯材とし、肌触りのいいシリコンを表面に配した「アジャストフリーイヤーハンガー」が備わっている。イヤフォンの向きと、ケーブルのハンガーの向きが常に同じであれば、素早く装着できるだろう。

Shure SE535のケーブルが問題なく接続できる
SE535のケーブルには根元に樹脂製パーツが無いため、繋ぐとイヤフォンがクルクル回せる

 一方、H1とH2はストレートなケーブルだ。3機種を装着してみると、筐体が小ぶりなH1とH2は、イヤーピースが耳穴とマッチしていれば問題なく装着状態を維持できる。

H3の「アジャストフリーイヤーハンガー」

 一方で、H3は筐体が大柄で、耳穴手前の空間には収まらないため、耳穴に横から突き刺さるような格好になる。個人的な感想としては、他の2機種と比べると装着安定性は一歩劣る。横から見るとイヤフォンが耳から横に飛び出たようになり、耳掛けしているワイヤーでそれを上から吊っているような格好になっているのがわかる。

H3の装着イメージ

 16mm径の大口径ユニットを搭載している事を考えると仕方のない部分だが、ShureのSEシリーズなど、最近のBAイヤフォンは筐体が耳穴手前の空間にスッポリハマる見事な形状のモデルが多いので、そうした製品を比べると、もう少し洗練されて欲しいなと感じてしまう。

左からH3、H2、H1
ハウジングのサイズ比較。左からH3、H2、H1
マイク付きリモコンもケーブルに備えている

 ただ、ハイブリッド・イヤーピースのSS/S/M/Lと、シリコンフォーム・イヤーピースS/M/Lと、かなり豊富な種類&サイズのイヤーピースが付属する。シリコンフォームタイプは、イヤーピースの傘の内側部分に発泡クッション材を充填する事で、耳穴の中で傘が広がり、装着安定性と静音性を高めるというもの。これらの中から耳にベストフィットなピースを入念に選ぶ事が、H3を使いこなす事にも繋がりそうだ。

付属のイヤーピース
ハイブリッド・イヤーピース
傘の内側部分に発泡クッション材を充填したシリコンフォーム・イヤーピース

音を聴いてみる

 ハイレゾ・ポータブルプレーヤーである「AK120」や、ソニーの新ポータブルヘッドフォン「PHA-2」+iPhone 4Sなどの環境で試聴した。

 ●XBA-H1(16,000円前後)

XBA-H1

 一聴してわかるのは、“まとまりの良さ”だ。9mmのダイナミックとフルレンジのBAを組み合わせているが、両者の音色の違いはあまり感じられず、ヴォーカルの口の開閉など、BAらしい緻密な描写と、バックの重厚で厚みのある中低域が、カフェオレのように融け合って融合している。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を注意深く聴いてみると、ギターやアコースティックベースの弦の音と、その響きに、BAにありがちな金属っぽさ、過度な硬さが抑えられており、滑らかな音なのがわかる。BAの音が自然であるため、ダイナミック型の音ともマッチしやすいのかもしれない。

 かといって、BAの音がナローでボヤけているのかと言うとそうではない。解像度は十分高いのだけれど、カリカリで硬質なサウンドまで行き過ぎていない、絶妙なチューニングだ。

 「スキマスイッチ/Hello Especially」(アニメ・銀の匙のエンディング)を聴くと、アコースティックな温かい雰囲気を良く表現できている。音色に色づけが少ないので、ギターの木のぬくもりも伝わってくる。「良く出来たダイナミック型イヤフォンを聴いているみたいで落ち着くなぁ」と思っていると、高音域を歌い上げる時に、かすかにキツさというか、硬さが顔を覗かせる部分があり、「ああ、BAも入っていたんだ」と思い出す……という感じだ。

 ●XBA-H2(26,000円前後)

XBA-H2

 フルレンジのBAはH1と同じだが、ダイナミック型ユニットが9mmから13.5mmに拡大、さらに振動板が液晶ポリマーフィルムになる。

 ダイナミック型ユニットが大きくなったのは、音が出た瞬間にわかる。低域の沈み込みが深く、量感もアップ。音楽に迫力やスケール感が加わり、ゴージャスになる。ベースラインがドスドスと主張し、心地良いサウンドだ。

 ただ、H1と比べると低域はパワフルで深くなったが、高域に変化は少ないので、全体的に低域に引っ張られ、頭を抑えられたような印象を受ける。低音の少ない楽曲を聴いてみると、高域の抜けが悪いわけではないのだが、どういうわけか低域のパワーに力負けしている印象が残る。あくまで予想だが、BAユニットからの音を自然にチューニングしている事で、BA特有の切り裂くような、鋭く強い音がソフトになり、ダイナミック型の量感溢れるサウンドから、ズバッと高域が抜け出る“突破力”が少ないのではないだろうか。

 しかし、優等生的なバランス重視のサウンドとは異なるが、H2自体の音に魅力が無いわけではない。むしろ低域寄りの安定感のあるサウンドは、ロックや打ち込み系でビートのハッキリした楽曲など、パワフルで低域に元気がある曲とマッチするだろう。

 ●XBA-H3(37,000円前後)

XBA-H3

 H2を聴いた時に欲しいと感じた高域の抜けを、「はいどうぞ」と追加されたようなサウンドだ。ダイナミック型は16mm径になり、フルレンジBAも引き続き搭載しているが、さらに追加されたHDスーパーツイータの効果をハッキリと実感できる。

 ダイナミック型が大型化している事で、低域もさらに沈み込んでいるが、その低域に負けない高域再生ができており、全体のレンジの広さは特筆すべきものがある。バランスも極めて良好で、モニターライクに全体域の情報がすんなりと聴き取れる。

 ただし、HDスーパーツイータによる高域は、フルレンジBAよりも“BAっぽく”、硬質でカリカリ気味。全体の音のナチュラルさという面では、H1も負けてはいない。イメージとしては、H1のバランスの良い音をベースに、上下に伸ばしてさらにワイドレンジ化し、超高域にBAらしい抜けの良さ、清涼感、カリカリさをプラスしたように聴こえる。

 上手いと感じるのは、音楽のミソとなるヴォーカルの帯域の自然さが維持されている事だ。人間の声は普段の生活で聴きなれているので、音色に色づけがあると不自然さがすぐにわかるものだが、その部分は極めてナチュラル。同時に音像は肉厚で、人間がカキワリ(書き割り)にならず、奥行きのあるリアルな音像に感じられる。HDスーパーツイータのカリカリな部分は、抜けの良さをプラスしているだけで、主要な高域部分のナチュラルさは維持しているところに、全体としての音作りのセンスの良さが光る。

 センスという面では、節度のある低域も良い。ハイブリッドイヤフォンでは、BAとダイナミックの良さをアピールしようと、双方が張り切り過ぎて、モリモリの低域と、ギラついた高域が合体したドンシャリサウンドになってしまうケースもある。H3の場合はHDスーパーツイータが尖さを持ちながらも、顔をしかめるようなキツさまでは行かず、同様に低域も不必要に膨らまず、深い最低音で静かに音楽を下支えする役割に徹している。この“抑えの効いた”感じが、モニターっぽさに拍車をかけている。

他機種と比較

 ●SE535(実売約39,800円)

左がXBA-H3、右がSE535

 BAイヤフォンのライバル機として、価格も近いShure SE535とXBA-H3を聴き比べてみた。

 何曲もXBA-H3を聴いた後、すぐにSE535に変更すると「うわっ!」と思わず声が出るほど音が“硬くて薄い”。ヴォーカルの音像がカキワリになり、しかも鉄の板のように感じるのだ。黄色いカエルが、Tシャツで潰されてど根性ガエルになったようだ。音の解像度の面では甲乙つけがたいのだが、H3でダイナミック型が担当してくれていた、ヴォーカルの厚み、ベースやドラムの音圧などが、SE535に交換すると大幅に減ってしまうので、豊かさやリッチさが洗い流されてしまったように感じるのだ。

 また、音色の面でもSE535は“まさにBA”という金属質で硬い響きを持っているため、人の声や木を使った楽器も硬質に聴こえ、“薄い”という印象に拍車がかかってしまう。ただ、そのままSE535を聴き続けていくと、耳が慣れてきて、違和感も感じなくなってくる。このあたりは、好みによると思うが、音像のリアルさの面ではH3が優れており、ハイブリッド方式の優位性が感じられる。

 ●SE846(実売約99,800円)

左がXBA-H3、右がSE846

 では、親玉にも登場してもらおう。ShureのSEシリーズ最上位「SE846」だ。価格が倍以上なのでH3には酷な比較だが、参考までに聴き比べてみる。

 SE846については以前詳しいレビューをしたが、マルチウェイBAの中では非常に音場が広く、奥行きも深く、立体的なサウンドを再生するモデルだ。BAらしい高解像度サウンドだが、固い音がこちらに向かって突っ込んで来るのではなく、音場に自然に定位。リスナーから音像までの適度な距離があり、情報量は多いのに硬さやキツさはあまり感じない。

 同時に、低域が量感豊かで分厚く、ゆったりとした情感豊かな描写もこなす。SE535で感じた“薄さ”はまったく無く、H3にも匹敵する肉厚で、ゴージャスで、満足度の高い音だ。

 さらに言えば、BAユニットを用いて分厚い低域を出しているので、低域にも独特のスピード感がある。絶対的な量感ではH3の方が豊富だが、SE846も適度な量感があると同時に、高域から低域までのスピード感が揃っており、渾然一体となった気持よさがある。

 ダイナミック型の低域が好きだという人や、硬い音が苦手だと言う人はH3を選ぶかもしれないが、よりSE846の、全体が高解像度なままレンジが広く、厚みもあり、低域もドッシリ出ているというサウンドは、自分の聴力が良くなったかのような独特のBA的快楽が強烈で、抗いがたい魅力がある。細かく聴きとる事も、ゆったりと身を任せる事も、聴く人の気持に合わせてどちらにも対応してくれる。再生能力の高さや、魅力がすぐにわかりやすいというのもSE846の良さだ。

 突き詰めると“ダイナミック型の低域が好きか嫌いか”という点に行き着きそうな好勝負だ。10万円近いイヤフォンとも戦えると考えると、H3のコストパフォーマンスの良さは好印象だ。ただ、装着感の良さ、耳への収まりの良さはSE846の方が数段上だ。

まとめ

 3機種を改めて見てみると、「XBA-H1」(16,000円前後)のコストパフォーマンスの良さも見逃せない。H3と比べると、レンジの面でこじんまりとまとまった印象もあるが、そのまとまりの良さが素晴らしく、単体で聴いている限りでは大きな不満は無い。「ハイブリッド・イヤフォンの音ってどんなものだろう?」と、気軽に体験したい人にオススメできる。

XBA-H1
XBA-H2
XBA-H3

 「XBA-H2」(26,000円前後)は、低域寄りで、個性的であるため、判断しやすいモデルだ。H1やH3のバランスの良さに対して、「もう少しガッツが欲しい」、「パワフルさが足りない」と感じる人にはH2が気にいるかもしれない。

 純粋に音の良さを求めるのであればH3だろう。偏りの少ないワイドレンジサウンドで、高域の再生能力も高いため、ハイレゾ音楽の細かな描写を楽しむ際にも実力を発揮できるだろう。ハイレゾでは高域だけでなく、音場の奥行き、音像の立体感などにも違いが出るため、ハイブリッド方式で、でそうした描写力を高めているのも見逃せないポイントだ。

 ソニーとして初のハイブリッド方式だが、独自開発BAや液晶ポリマーフィルムのダイナミック型など、これまで培われたユニットの使いこなしが、しっかり音に反映されており、成熟も感じさせる完成度になっている。

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(山崎健太郎)