レビュー

UEのカスタムイヤモニターを約1カ月使ってみた

驚異的な遮音性で細かな音を堪能。「UE 18 Pro」

 9月に米国でUltimate Ears(UE)のカスタムインイヤモニター(以下カスタムIEM)の製作工程を取材した。その際、耳型をとる体験もして、“自分の耳型”を作ってもらったのだが、型だけでは味気ないと、自分用カスタムIEMの製作もお願いしておいた。その後、ほどなくして完成品が到着。この1カ月ほど、日々愛用している。そこで、音質も含め、カスタムIEMを実際使ってみてどうなのか? をレポートする。

 9月の記事でも紹介したように、e☆イヤホンで取扱が開始されているUEのカスタムIEMは、7機種がラインナップされている。具体的には、「Ultimate Ears(UE) 18 Pro」(参考価格189,800円)、「UE 11 Pro」(同159,800円) 、「UE インイヤ リファレンスモニター」(同139,800円)、「UE ボーカル リファレンスモニター」(129,800円)、「UE 7 Pro カスタムインイヤモニター」(同119,800円)、「UE 5 Pro カスタムインイヤモニター」(99,800円)。

モデル名 ユニット構成 参考価格
Ultimate Ears 18 Pro
カスタムインイヤモニター
【4ウェイ6ドライバ】
サブウーファ×1
ウーファ×1
ミッド×2
ハイ×2
189,800円
Ultimate Ears 11 Pro
カスタムインイヤモニター
【3ウェイ4ドライバ】
ロー×2
ミッド×1
ハイ×1
159,800円
Ultimate Ears インイヤ
リファレンスモニター
【3ウェイ3ドライバ】
ロー×1
ミッド×1
ハイ×1
139,800円
Ultimate Ears ボーカル
リファレンスモニター
【3ウェイ3ドライバ】
ロー×1
ミッド×1
ハイ×1
129,800円
Ultimate Ears 7 Pro
カスタムインイヤモニター
【2ウェイ3ドライバ】
ロー/ミッド
(ロー×1:ミッド×1)
ハイ×1
119,800円
Ultimate Ears 5 Pro
カスタムインイヤモニター
【2ウェイ2ドライバ】
ロー/ミッド×1
(ローとミッド一体型)
ハイ×1
99,800円
2ウェイ2ドライバの「Ultimate Ears 5 Pro」
2ウェイ3ドライバの「Ultimate Ears 7 Pro」
3ウェイ3ドライバの「Ultimate Ears ボーカル リファレンスモニター」(参考価格:129,800円)。左の黒いモデルが「Male」、赤いのが「Female」
3ウェイ3ドライバの「Ultimate Ears インイヤ リファレンスモニター」
3ウェイ4ドライバの「Ultimate Ears 11 Pro カスタムインイヤモニター」
4ウェイ6ドライバの「Ultimate Ears 18 Pro カスタムインイヤモニター」

 各モデルの音質についてのインプレッションは9月の記事を参照して欲しいが、試聴機を全モデル聴いた後の個人的な好みとしては、3ウェイ3ドライバの「UE インイヤ リファレンスモニター」がトップ。フラットかつワイドで、誇張が少なく、多くの人にオススメできそうな“優等生サウンド”が強く印象に残った。

 ではそれを作ってもらったのかと言うと、そうではなく、4ウェイ6ドライバの上位モデル「18 Pro」を選んだ。「18 Pro」は音場が広大で、ワイドレンジ、上位モデルにふさわしい貫禄を感じさせるモデルだが、低域がパワフルで、高域も綺羅びやかな、どちらかというと派手目なサウンドだ。

作ってもらった私の耳型

 正直「リファレンスモニターで」という言葉が喉元まで出かかっていたが、「人生でそうそう何台もオーダーしないカスタムIEMなんだから、一番高いやつじゃなくて良いのか!? 俺」という誘惑が勝った。店に入って「一番良いやつをくれ!!」という勢いと同じだ。欲を言えば両方欲しいが、なかなかそうはいかない。販売するeイヤフォンでは注文前に試聴もできるそうなので、注文時は熟考を重ねて決断したい。高価な製品の時には、勢いも重要かもしれないが……。

箱からして凄い

 そんなこんなで日本の自宅に海を越えて到着した18 Pro。化粧箱を開けると、立派なハードケースが出現。明らかに“イヤフォンケースのサイズ”では無い大きさで、楽器を購入したような質実剛健なケースが面白い。かさばるので常日頃イヤフォンを持ち歩く際に、いちいちこのケースに入れる事は無いが、“特別なものが届いた”というオーナー心は十分くすぐってくれる。

外箱
中にはハードケース
名前も入っている

 中にはクリーニングキットなどが入っている。通常のカナル型(耳栓型)イヤフォンとの最大の違いは、イヤーピースが入っていない事だ。ユーザーの耳のカタチに合わせて作られているので、そもそもピースは不要なわけだ。

ケースの内部
クリーニングキット

 カラーは試聴機の色に惚れたので、明るめのレッドをチョイス。背面はもとより、フェイスプレートも半透明であるため、内蔵されたサブウーファ×1、ウーファ×1、ミッド×2、ハイ×2のユニットがよく見える。

 作っているラボ見学では、複数のバランスド・アーマチュアを、ユーザーごとに形状が違うハウジングに工夫しながら収め、そこから出る音を複雑な形状のノズルでまとめ、最終的に耳に届く音を「18 Proの音」としてまとめあげる職人芸が見学できたが、半透明筐体のおかげで、その構造がよく見えて面白い。背面には山崎健太郎のイニシャル「KY」が刻印されており、オーダーメイドならではの満足感がある。「KY(空気読まない)」みたいにも見えるが……。

完成した18 Pro
裏面にはイニシャルも
ケーブルは着脱可能

 なお、今回は注文していないが、ユーザーが用意したイラストなどをフェイスプレートにプリントする事も可能だ。ケーブルは着脱可能で、2ピンのプラグを採用。接続は強度があり、ちょっとやそっとでは抜けない。

脅威の遮音性

横から見るとBAがどのように入っているのかわかりやすい

 装着した第一印象は「何も聞こえない」の一言に尽きる。まだプレーヤーの再生ボタンを押していないので当たり前だが、そういう意味ではなく、外の音がほとんど聞こえなくなる。カナル型イヤフォンも遮音性は高いが、カスタムIEMは静かさの次元が違う。

 自分の耳型から作ったイヤフォンなので当たり前なのだが、フィット感が尋常ではなく、ちょっと恐ろしいほど。普通のカナル型では、イヤーピースをとっかえひっかえして、“抜けにくく、ちゃんと安定して装着できるサイズ”を選ぶものだが、カスタムイヤモニは、とぐろを巻いて耳孔の中を侵入し、みっちりハマる。安定感はカナルとは別次元で、ケーブルを引っ張った程度では抜ける気配すらない。

 そもそも、抜く時も本体をひねりながらでないと“抜けない”。飲み屋で“サザエの壺焼き”を食べる時、殻からニュルリとサザエを抜き出して食べるが、あれと似たようなイメージだ。

 それゆえ、フィットし過ぎて何も聞こえない状態でしばらく座っていると、「このまま装着していても大丈夫なんだろうか? 抜けなくなったりしないよな?」などと、漠然とした不安にかられ、一度ニュルリと抜いてみて「ああよかった、ちゃんと抜ける」と安心してから再度装着する……という、傍から見ると意味不明な行動を何度かしてしまった。

 そんな驚異のフィット具合なので、隙間から入る騒音がほとんど無い。カナル型イヤフォンでも、外の音は小さくなるが、隣で喋っている人の声はくぐもった状態で聴き取れる。カスタムIEMの場合は、誰かが喋っているのはわかるが、何を言っているのかはほとんどわからない。

 電車の中でも、ガタンゴトンという音がかすかに残るくらいで、乗客の声やアナウンスなどはほとんど聞こえない。音楽への没入という面では最高なのだが、使い始めの1週間で、降りる駅を2回も乗り過ごすという笑えない失敗をしてしまった。

 ユニバーサルタイプのイヤフォンの中でも、遮音性に優れるShureの「SE535」と比較しても圧勝だ。編集部にある飲み物の自販機が「ゴー」という騒音を出しているのだが、SE535を装着すると低音をメインとしてこれが大幅に低減され「コー」という薄い音になる。だが、カスタムIEMを装着すると何も聞こえない。かすかに唸る音が聞こえるのだが、それは“あそこから騒音が出ている”と知っているからわかるレベルで、おそらくカスタムIEMを装着したままこの編集部に初めて入った人なら、騒音自体に気づかないだろう。

 通勤時だけでなく、家や喫茶店で記事を書く時にも活躍する。普段、集中力を高めようと密閉型ヘッドフォンを装着。何も音を出さずに作業をしている。アクティブノイズキャンセリングヘッドフォンやカナル型イヤフォンなど、気分によって使い分けるのだが、それらの製品と比較しても、カスタムIEMの遮音性の高さは抜きん出ており、“集中力向上効果”もアップ。早い話が仕事がはかどる。

高い遮音性を持っている

 例えば、喫茶店で隣の席に、泣いている赤ちゃんを連れたお母さんが座っても、大声で喋るおばちゃんの集団が座っても、カスタムIEMを装着すればまったく気にせずに作業に没入できる。NCヘッドフォンも得意とするジャンルではあるが、カスタムIEMの方がはかどる。

 理由はあくまで想像だが、NCヘッドフォンは、耳すぐ外側に“静かな空間”を作り出す製品で、“静かな部屋にいる”感覚に近い。カスタムIEMは、窓も雨戸も閉めきった狭い四畳半で、さらに布団に頭からくるまったような、“自分の殻に閉じこもっている感”がより強い。そのため、家の外はもとより、布団の外、つまり部屋の様子にもまったく意識が向かわない。自分の思考と、目の前のノートPCにだけ意識が集中する。強力な“オーダーメイド耳栓”としても便利なものだ。

 一方で、街中を歩いている時や、駅のホームなど、遮音性の高さが危険に繋がる場所では要注意だ。街中で、エンジン音の無い電気自動車が近づいているのに気付かず、ギョッとした経験がある人も多いと思うが、カスタムIEMを装着していると、全部の車が電気自動車になったようだ。

 駅のホームでも同様で、電車がホームに入って来る音がしないので、白線の内側で立ってスマホに目を落としていたら、目の前に巨大な電車が突然滑り込んで来たように感じてドキッとした。人通りや車通の多い場所、踏切の近くなど、危なそうな場所では片耳を外したり、使用を控えるなどの癖をつけると良さそうだ。

 ちなみに、他の編集スタッフが装着すると「隙間から外の音が入って来る」、「そして痛い」との感想が。当然ではあるが、耳穴のカタチは人それぞれなので共用は無理だ。

小音量でも音楽が聴き取れる

 この遮音性の高さは、音質面にも大きく影響している。通常のイヤフォンが、ある程度騒音のある空間で音楽を奏でるのに対し、カスタムIEMはクラシックのホールのように、耳がシーンとするほど静かな空間で音楽が再生されるので、細かな音の聴きとりやすさが最初から優れている。

 特にワイドレンジなクラシックのオーケストラで、弦楽器をつまびくような微細な音、観客の咳払い、女性ヴォーカルのささやくような歌声などが、今までのイヤフォンより明瞭に聴き取れてゾクゾクする。耳の能力がアップしたように錯覚してしまう。

 また、比較するイヤフォンの能率によっても異なるが、小音量でも音楽の情報がキッチリ聴き取れるため、あまりボリュームを上げる必要を感じない。例えば試聴に使ったハイレゾプレーヤー「AK120」では、SE535よりもボリュームが8メモリほど少なく済み、iPhone 4Sに直接接続した場合では、サイドのボリュームボタンでメモリを“2マス”にしただけで、「BGM的に聴くならこれでいいかな」というほど十分な情報が聴き取れる。“3〜4マス”でかなり満足で、“5マス”にするとロックなどでは「ちょっとうるさいな」と感じてしまう。

 逆に言えば、通常のカナル型の気分で音量を上げてしまうと、音が大き過ぎる可能性がある。同じカスタムIEMのメーカーであるFitEar(須山歯研)が、「SAFE LISTENING」というサイトを立ち上げ、適正なボリュームでの利用などを呼びかけているが、音漏れが少ないとはいえ、くれぐれもボリュームの上げすぎには注意したい。

 前述の通り、18 Proの音場は広く、ワイドレンジなサウンド。特筆すべきは、サブウーファ×1、ウーファ×1、ミッド×2による、厚みのある中低域だ。BAイヤフォン特有の“音の線の細さ”は無く、ダイナミックユニットを彷彿とさせるパワフルで押し出しの強い低音が心地よい。同時に、BAユニットらしいハイスピードや分解能の高さも両立しており、肉厚だが、もったりとはしていない。

ShureのSE846(実売約99,800円)と並べたところ

 この中低域のパワフルさに負けじと、高域は高域用ユニット×2基で抜けの良さを確保。アコースティックベースの低域がブワッと吹き寄せる中でも、その背後に「シャラシャラ」と鳴るマラカス高音が、埋もれず明瞭に抜け出てくる。さらにその音像は、広い音場の、意外なほど遠い場所に定位。立体的なサウンドだ。全体のバランスとして、低域が強めではあるが、“過多”までは行かない。ギリギリのバランスが見事だ。

 音の押し出しが強いので、ボーカルの音像は頭内の中央に定位するのだが、その外側にある音場は広さを維持している。ユニバーサルタイプの高級モデルであるShureの「SE846」(実売約99,800円)とも比べてみたが、広い音場を再生する傾向は似ているものの、BAの金属質な音を抑えて滑らかさを出した「SE846」に対し、「UE 18Pro」はBAらしいメリハリの効いた高解像度サウンドを持ち味としている。ゴージャスで、若干ドンシャリ傾向ではあるが、1カ月使っていると、「外で音楽を楽しむ時には、このくらい派手目な音の方が美味しいところが味わいやすいな」と思うようになってきた。

まとめ

 3ウェイ4ドライバである「SE846」のように、ユニバーサルタイプのBAイヤフォンも多くのBAユニットを搭載するようになった現在、単純に“BAユニットの数”だけで価格を見ると、カスタムIEMの価格は高価に感じられる。

 だが、ユーザーの耳に合わせて作る事で実現する圧倒的な遮音性の高さや、装着安定性は、音質面でも、使い勝手の面でも大きな魅力を持っており、ユニバーサルタイプのイヤフォンではなかなか得られないものだ。この魅力は、オーダーしたカスタムIEMを末永く愛用する理由としては十分なものだろう。

 今回カスタムIEMを使って強く感じたのは、音楽を再生する上での“静けさの重要性”だ。遮音性が高く、静かであれば、騒がしい屋外であっても細かな描写が聴き取りやすく、また、アンプで目一杯ドライブしなくても十分な情報量が得られる。基本的な事ではあるが、その重要性を再確認できる。小音量でもバランスの良いアンプだと、より相性が良さそうだ。

(山崎健太郎)