レビュー

個性が大事! 尖ったBluetoothスピーカー【Olasonic編】

置き場所で音が激変。手のひらサイズの“小卵”

TW-BT5

 個性的なBluetoothを紹介する特集企画、第1回JBL、第2回Klipschに続き、第3回はOlasonic(東和電子)だ。最近はCDジャケットサイズのNANOCOMPOも注目を集めるOlasonicだが、同社の代名詞と言えば卵型スピーカーだろう。PC向けのUSB接続タイプ、テレビ向けタイプ、iPod/ウォークマン向けといったバリエーションを揃えているが、遂にBluetoothスピーカーが登場した。形状はもちろん卵型だ。

 モデル名は「TW-BT5」。卵スピーカー初代モデルである「TW-S7」(USB接続)よりも一回り小さい“小卵”と言えるサイズで、四角い台座の上に卵が乗ったようなデザイン。可愛らしい外観だが、やはり卵スピーカーだけあり、再生能力の高い製品に仕上がっている。価格はオープンプライス、店頭予想価格は9,980円前後だ。

音質に効果のある卵型

手のひらサイズだ

 基本的な仕様として、BluetoothはVer.2.1+EDRに準拠。プロファイルはA2DP、AVRCPに対応し、コーデックはSBCのみサポート。SCMS-T方式にも対応し、ワンセグ音声なども伝送できる。NFCにも対応しており、卵スピーカーの“おでこ”の部分にセンサーを搭載。対応スマートフォンとワンタッチで連携できる。ペアリング履歴は合計5台まで保持可能。

 外観的な特徴は前述のように、台座の上に卵が乗っているような形状にある。アンプやBluetooth機能、バッテリなどが、この台座部分に内蔵されている。全体の外形寸法は、87×87×152mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は480g(本体のみ)。台座にはボリュームボタンとBluetoothペアリングボタンも備えている。

卵のおでこ部分にNFCマーク。対応スマートフォンとワンタッチでペアリングできる
台座部分にボリュームボタンとペアリングボタンを搭載。動作状況を知らせるランプも搭載している

 スピーカーを卵型にしているのは、子供を守るために動物達が生み出した形状だけあり、非常に剛性が高くなるため。四角い箱のように平行面が無いため、内部定在波が発生しないというのも強みだ。

 また、通常の箱型エンクロージャでは、ユニットから放出した音がバッフルに反射して余計な音となって前方に広がる“回折現象”が問題となるが、緩やかなカーブを描く卵型ではそれも少なく、ユニットからの音だけが耳に届く理想的な点音源に近付き、定位が良くなるという利点もある。

剛性の高い卵型スピーカーが、台座に乗っているようなフォルム。スピーカーは若干上向きで、机などに設置した時に、リスナーの耳へ音を直接届けるようになっている

 ユニットは50mm径で、振動板にはポリプロピレンを採用。ユニット径を上回る55mm径のマグネットを採用し、駆動力を高めている。さらに、背面に53mm径のパッシブラジエータとプレッシャーボードも配置。低音再生能力も高めた。

50mm径ユニットを搭載
背面には53mm径のパッシブラジエータとプレッシャーボードを配置

 アンプの出力は10W(ダイナミックパワー)。Olasonicではお馴染みとなる「SCDS」(Super Charged Drive System)を採用したもので、内部搭載した大容量のキャパシタ(コンデンサ)を搭載。音楽が静かな時にキャパシタに充電を行ない、大音量が必要な時に一気に放電することで、消費電力を抑えながらパワーのある再生を可能にする技術だ。

 ACアダプタ接続で動作するが、リチウムイオン充電池も内蔵。約2.5時間の充電で、約6時間の音楽再生を可能にしている。約10分間Bluetooth接続されていないと、自動的に電源をOFFにするオートパワーオフも利用できる。

1台だけど広がる音

 ユニークなのは、このスピーカーが“1台のみ”で販売される点だ。これまでの卵スピーカーはペアのステレオ仕様だが、モノラルスピーカーというわけだ。バッテリも内蔵し、コンパクトな1個筐体とする事で、気軽に設置場所が変えられるのが利点だ。スピーカーと正対してじっくり音楽を楽しむというよりも、机や棚の端など、ちょっとしたスペースに設置し、BGM的に音楽を楽しむ……なんて使い方にマッチするだろう。

 試しにスピーカーの左右確認用にL/Rに音を振り分けたテストファイルを再生したところ、L/Rどちらの音も同じように再生された。スピーカー内でモノラルにミックスして再生している事がわかる。

TW-BT5を横から見たところ。赤い部分がディフューザー
USBスピーカー「TW-S7」のディフューザー部分。形状が違うのがわかる

 1台だと、“広がりの少ない音なのではないか”と心配になる。もちろんステレオスピーカーと比べるのは酷だ。だが、実際に再生してみると、明瞭ながら、同時にふわっと広がりのある音が展開。スイートスポットがかなり広い。

 特筆すべきは、この広がりが極めて“自然”な事だ。DSPで音をいじる“バーチャルサラウンドモード”的な機能の場合、音が広がる反面、位相やバランスが狂ったような不自然な音になってしまう場合もある。TW-BT5の場合は、卵型スピーカーらしいシンプルで色づけの少ない再生音そのままに、広がりが強化されているのが好印象。“無理やり思いっきり広げました”というのではなく、“適度”な部分も良い。

 横から見ると仕組みがわかる。前面にあるロゴマークの背後、つまりユニットと正対する位置に、赤い突起のようなものが見える。これが、ユニットから放出された音を拡散させるディフューザーだ。

 これまでの卵スピーカーにもディフューザーは装着されていたが、「TW-BT5」ではより大型で、形状を工夫したものを搭載。これにより、1台構成でも音が良く広がるようになったそうだ。

 実際に効果は大きく、スピーカーの45度くらい横から聴いていても、正面から聴いていた時とあまりバランスが変わらない。卵型スピーカーはもともと定位が良好なのが特徴だが、ディフューザーの大型化で、部屋の中で動きながら聴くような、ラフな聴取スタイルに対応できるようになったわけだ。

マニア好みのシンプル&ストレート

スマートフォンとペアリングして試聴

 再生音は、これまでの卵型スピーカーの良さを踏襲しており、とにかくシンプル&ストレート。プラスチック筐体だが、剛性が高いため、筐体の鳴きはほとんど感じられない。雑味の少ないクリアな音で、中高域の抜けが素晴らしい。

 ステレオスピーカーと比べると、音場の立体感では劣るが、定位は良好。正面で聴いていると、スピーカーに視線が行かず、無意識にスピーカーを縦に二台上に重ねた程度の空中を凝視してしまう。ヴォーカルの音像が、スピーカーの場所よりも高い位置に定位するためだ。そこから自然に音が広がるのが心地良い。

 手のひらサイズのスピーカーなので、ズシンと腹に響くような低音は出ない。だが、抜けの良い高域を“ハイ上がり”に感じさせない中低域は出ており、全体のバランスは良好だ。どのくらい量感のある中低域が出せるのだろうかと、スマホのプレーヤーアプリでイコライザをいじり、低域を増してみると、設置した机に若干の振動が伝わるくらいの低音は出せた。

 最近は小型ながら重低音再生を謳うスピーカーも増加しているが、“低音の迫力でアピールしよう”という製品とは真逆と言って良い音作りだ。付帯音や雑味を排除し、無理に低音を持ち上げず、シンプルな音にこだわる姿勢はピュアオーディオライクとも言える。従来の卵型スピーカーがそうであるようにマニア受けする音だ。逆に言えば派手さは少ないので、ダイナミックな音が欲しいという人にはあまりマッチしないだろう。

壁際に設置すると中低域が一気にパワーアップして驚く

 面白いのは設置場所によって音が激変する事だ。背面に大きなパッシブラジエータを装備しているので、試しに壁の前に置いてみたところ、パッシブラジエータからの低音が広い壁に反射し、中低域の厚みがグッと増加。一気に迫力のある音に変化した。変化量は非常に大きく、違うスピーカーになったかのようだ。

 壁の近くに設置すると、部屋全体に音が広がる事にもなる。動画コンテンツなどを、部屋に音が充満するような音量で、迫力タップリに楽しみたい時は壁際設置がオススメだ。ダイレクトな音をクリアに、シンプルに楽しみたいという時は、自分の目の前に設置すると良いだろう。聴きたい音と、利用スタイルに合わせて設置場所を変えるのがコツだ。気軽に設置場所を変えられる事が、音質にも良い影響を及ぼしている。これは、スピーカーが1台構成で、バッテリを内蔵し、手のひらサイズに収まっているからこそ活きる利点とも言えるだろう。

謎の背面端子。ステレオ展開も?

 マニア向けの音質ではあるが、正統派なサウンドは飽きの来ない音だ。価格も1万円を切って買いやすく、可愛いデザインなので老若男女に使いやすいモデルと言えるだろう。卵型スピーカーの音がどんなものか、気軽に試せる1台にもなっている。迫力重視ではなく、スッキリとしたサウンドが好みだという人にオススメしたい。

 音楽も良い音だが、動画を再生していると、役者のセリフやニュースを読むアナウンサーの声も非常に聴き取りやすかった。

背面には謎の端子が……

 気になるのは、製品の背面。台座部分に「Lch Speaker Out TW-SP5」と書かれた謎の端子が用意されている点。謎と言っても、正解がほぼ書かれているわけだが、おそらく将来的に“TW-SP5”という名前の左チャンネル用スピーカーがオプションとして発売され、それを接続すると、2台構成のステレオスピーカーとして機能するようになるのだろう。

 試しに、L/Rの判別用ファイルを再生しながら、この端子にヘッドフォンを差し込んでみると、左チャンネルの音が聴こえる。そして、スピーカーからは右チャンネルの音のみが出るようになった。前述のように、TW-BT5単体ではL+Rミックスのモノラル音声が流れるが、拡張端子に左チャンネル用スピーカーが接続されると、自動的にTW-BT5本体からは右チャンネルの音しか出なくなる仕様のようだ。

 発表されてもいないオプション製品を前提に書くのも妙な話だが、仮に追加の左チャンネルスピーカーが発売された場合、机の上では2台構成のステレオスピーカーとして利用し、眠る前に一台だけ取り外してベッドサイドに持って行く……というような活用もできそうだ。欲を言えばBluetoothで左右スピーカー両方にワイヤレス接続したいところだが、それでも拡張手段が用意されている(と思われる)点は、TW-BT5の魅力を高める事に繋がっている。

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山崎健太郎