レビュー

超弩級ハイレゾプレーヤー「AK240」を聴く

バランスもテスト。ポータブルの枠を超える!?

AK240

 2月21日に発売が決定したiriver Astell&Kernブランドのハイレゾオーディオプレーヤー「AK240 256GB ガンメタル」(AK240-256GB-GM)。AK120(直販129,800円)の上位モデルとして登場するハイエンドモデルだが、直販価格285,000円という、従来のポータブルオーディオプレーヤーの概念を覆す思い切った価格設定が特徴だ。

 気になるのは、AK120と比べてどのように音が進化したのかという点。詳細なレビューは後日掲載予定だが、ファーストインプレッションとして操作性と音質に絞って、簡単に印象をお伝えする。

 製品の詳細は別記事で紹介しているが、3.31型の有機ELディスプレイと、256GB内蔵メモリ+別売128GB microSDXCカードで計384GBの大容量メモリに対応。シーラス・ロジックのハイエンドDAC「CS4398」をL/R独立で搭載し、外部アンプを加えずにバランス駆動も可能。DSDの5.6MHzや、32bit/192kHのPCM再生(24bitダウンコンバート再生)に対応し、USB DACとしても動作。無線LANでPCと接続し、PCに保存したハイレゾファイルをストリーミング再生するといったユニークな機能も備えている。

ファーストインプレッション:操作性

 製品写真を見ると分厚いプレーヤーなのかと錯覚するが、厚さは17.5mmで、従来のAK120/100からわずかに厚くなった程度だ。正面から見ると分厚く見えるのは、本体右側に突き出たヒレのようなパーツの色味が影のように見え、本体の側面かと錯覚するためで、“トリックアート”のようなユニークなデザインだ。

 独特の形状に目を惹かれる一方、手にしてみるとジュラルミンのひんやりとした質感と、適度な重さ、背面のカーボンプレートなど、質感は非常に高い。コンパクトな製品だが、高級プレーヤーとしての風格を感じさせる。

この画像では分厚く見えるが……
左からAK240、120、100。従来モデルと比べて極端に厚いわけではない

 AndroidをベースにしているOSだが、Androidの標準的なホーム画面は無く、電源をONにすると、すぐにプレーヤーの再生メニューが表示される。使っていてAndroidと意識する事はほぼ無いだろう。画面の上から下へ指でなぞると無線LANやBluetoothをON/OFFするメニューが現れるなど、Androidっぽい部分も探せば無くはないが、Google Playでアプリをインストールするような事はできない。

 メニュー操作はホーム画面に「アルバム」、「アーティスト」、「ジャンル」、「プレイリスト」、「フォルダー」ボタンが並び、画面の左上を押すとメニュー階層を上がっていく。また、画面外の下部中央にあるセンサーに指で触れると一気にホーム画面に戻る。GUIの動きは滑らかで、DSDやハイレゾPCMファイルの再生中でも引っかかったり、もたつく事はない。ホーム画面のボタンは長押しで配置が変えられるなど、新モデルでありながら、これまでのAKシリーズで培ったノウハウが活かされ、完成度の高いUIに仕上がっている。

写真では見にくいが、画面下部の中央にセンサーがある
センサーに触れるとホーム画面に戻る

 また、AKシリーズのトレードマークでもある、側面のボリュームダイヤルは引き続き搭載。ヒレのような部分がダイヤルの場所だけ省かれており、ボリュームの誤動作を防ぐバンパーとしても機能している。ボリューム調整は画面のタッチでも可能だが、ポケットの中で手探りでも直感的に変えられるダイヤルは利便性が高い。

ファーストインプレッション:音質

 24bit/192kHzの「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」で比較。ヘッドフォンはMMCX端子を備えた「e☆イヤホン」オリジナルヘッドフォン「SW-HP11」や、カスタムイヤフォンのUltimate Ears「18 Pro」、ShureのSE535などを使っている。

「e☆イヤホン」オリジナルヘッドフォン「SW-HP11」
Ultimate Ears「18 Pro」
ShureのSE535

 比較となるAK120は、Wolfsonの「WM8740」をデュアルDAC構成で搭載しているのが特徴。音の傾向としては、ベースの張り出しが強くパワフル。なおかつ、情報量が多く、個々の音の輪郭を1つ1つ、クッキリと描写。パワフルさとハキハキとした明瞭さが両立しており、AK100の繊細な描写とは若干異なるキャラクターだ。

 このAK120は、ポータブルプレーヤーとしてはトップクラスの音質だが、AK240に切り替えると、一気に音場が拡大。パワフルで前へ前へとせり出していた音が、節度を持って綺麗に整列。リスナーと音像の間に適度な距離感が生まれ、同時に、音像の背後にも果てしなく空間が広がる。クラブハウスで濃密な音のパンチを浴びるのと、大ホールで音が上や奥に広がっていくくらい、空間描写が異なる。この差は大きく、誰にでも、切り替えた瞬間に「あ、ぜんぜん違う」とわかるレベルだ。

 そのため、AK120を目を閉じて聴いていると、知らずに顔が下を向いていくが、AK240では椅子に背中を預けて、上空を見上げるような姿勢になっていく。音の違いをどうこう言う以前に、音場がここまで広くて見通しが良いと、開放的で聴いていて気分が良い。

 AK120はパワフルな低音を外部アンプ無しで実現しているのが特徴で、ベースにモコッと膨らむ張り出しの強さと、ズシンと沈み込む深さが同居している。AK240は、モコッとした中低域の膨らみがやや弱まる一方で、ベースの弦が震える様子など、埋もれていた細かな音まで丁寧に描写する。同時に、最低音の沈み込みはAK120よりも深く、低域に芯がある。中低域の膨らみで誤魔化さず、高分解能と重い低音が同居できており、外部アンプ無しでこのクオリティの低音が楽しめるのは凄い。

 高域もクリアで、付帯音や雑味は一切感じられない。無理な強調も無く、ボリュームを上げていっても耳が痛くならず、破綻もしにくい。女性ヴォーカルのサ行など、高域も質感がしっかり描写できており、ハイレゾの良さが味わいやすいプレーヤーと言えそうだ。

 ここまではアンバランス接続での印象だが、バランス駆動にも対応している。出力端子は2.5mmのマイクロミニで4極。採用製品の多い4ピンプラグではないので注意が必要だ。今回、くみたてLabが試作したケーブルを用いて試聴した。イヤフォン側の端子はMMCXなので、ヘッドフォンの「SW-HP11」を接続した。

くみたてLabの試作ケーブルでバランス駆動を試す

 一般的にバランス接続ではレンジや音場が拡大したり、情報量が増加、音の出方がパワフルになるなどの変化があるものだが、AK240での変化もそれに近い。アンバランスで驚くほど広大だった音場がさらに広くなり、細かな音もより見やすくなる。

 一方で、中低域のパワフルさはそれほどアップせず、むしろアンバランス接続時よりも高域の繊細さ、描写の細かさが印象に残る。高域はアンバランス時より若干綺羅びやかな響きを帯びて、さわやかなサウンドだ。

 試作ケーブルが銀線であるため、そのキャラクターによる部分もありそうだ。他のバランスケーブルと聴き比べたわけではないので想像だが、高域寄りのキャラクターを持つケーブルでバランス駆動をしたので、高域の張り出しが強くなり、腰高なバランスに感じられるのだろう。試しに、低域が良く出るカナル型イヤフォン(Shure SE535)に交換すると、アンバランス時よりも低域の膨らみが控えめになり、分解能がアップし、ヘッドフォンよりバランスの良い音になった。低域が豊富なヘッドフォン/イヤフォンと組み合わせると相性の良いケーブルだろう。また、他の素材のバランスケーブルでAK240のバランス駆動を試すと、またガラッと印象の異なる音になりそうだ。

 285,000円という価格は、ポータブルプレーヤーとしては挑戦的であり、ある意味で“ポータブルプレーヤーの枠を逸脱した製品”と言っても良いだろう。これは、屋外の移動中だけでなく、据置型のプレーヤー/DACとして活用して欲しいというメッセージが、価格やDSDネイティブ再生などのスペックに内包されていると言い換えられる。確かに音質面でも、従来のポータブルプレーヤーの枠から一歩抜け出ていると感じる。

 前述の通り、2月8日に東京・中野サンプラザにおいて開催される「ポタ研 2014冬」において、プレス&一般向けの発表会が行なわれ、その後、会場で試聴も可能だ。あいにく雪の予報だが、いち早く自分の耳で確かめたい人は足を運んでみてはいかがだろうか。

山崎健太郎