レビュー

究極ハイレゾポータブル「AK240」の究極ぶりを聴く

ハイレゾストリーミング対応。単体でバランス駆動

AK240

 iriver Astell&Kernブランドのハイレゾオーディオプレーヤー「AK240 256GB ガンメタル」が2月21日に発売される。概要は7日に発表された通りだが、ストレージメモリ容量最大384GB、ネイティブDSD再生対応という小さいながらモンスタースペック、そして直販価格285,000円という、価格も別次元な超弩級プレーヤーだ。

 メーカー側としても渾身のモデルと位置づけているようで、「BE THE ULTIMATE」をキーワードに、「据置型高級ハイエンドオーディオに迫る音質を、ポケットに入るサイズで実現する究極のポータブルオーディオプレーヤー」をコンセプトとしている。

 ファーストインプレッションとして、音質と操作性に関しての簡単な紹介は既に掲載したが、ライバル機種との音質比較や、詳しい使い勝手など、もう少し詳しくレポートする。約30万円の“究極のポータブルオーディオプレーヤー”がどのようなものかに迫ってみたい。

デザインと使い勝手

 簡単にAK240の特徴をまとめると、以下の通りだ。

  • 見た目の角度で印象が変わる独特のデザイン
  • ハイレゾ音楽を大量に持ち歩くための内蔵256GB(最大384GB)メモリ
  • DSDネイティブ再生や32bit/192kHz PCMなどハイスペックな再生機能
  • 無線LANを搭載してワイヤレスで音楽再生可能
  • 単体でバランス駆動に対応したアンプ部
  • 光デジタル出力やラインアウトも備え、据え置きプレーヤー活用も提案

 独特のデザインは、ライカのカメラなどを手がけたデザイナーによるものだそうだ。“斜め上から光を当てた陰影をイメージした”というコンセプト通り、細長い箱状の筐体に、ヒレのような突起パーツが右側と下部に取り付けられているのだが、このヒレ部分が箱の影のように見える。それゆえ、真上から見ると「分厚い箱だな」と思うが、実際に手にしてみるとAK120/100と大きく厚さは変わらない。脳が騙されるトリックアートのようなユニークなデザインだ。

 また、面白さだけでなく、持ちやすさにも貢献している。右手でホールドすると、ヒレの部分を手のひらで包み込みやすく、持ちやすい。また、指があまり画面を隠さないように持つことができる。

真上から見ると分厚い箱のように見えるが
実際はこのように薄型だ
右側面と底部の突起は持ちやすさにも貢献している
左からAK240、AK120、AK100
背面にはカーボンプレートを配している

 航空機グレードのアルミ(ジェラルミン)を採用した筐体はひんやりして、剛性が高く、質感も良い。ポケットにすんなり収まる適度なサイズ感も魅力だ。内部にミッチリパーツが詰まっている凝縮感も高級感に拍車をかける。背面にはカーボンプレートを配し、光の加減で見え方が変化。革製の専用ケースも付属し、独特な形状の筐体をスッポリとカバーしてくれる。この革ケース単体でもかなり“高そう”だ。

革製の専用ケースも付属する。ケースに入れたままでも各種端子にアクセス可能だ

 さらに、右側面にはAKシリーズのトレードマークとなっているダイヤル式のボリュームも備えているのだが、ヒレパーツがダイヤルを保護するガードも兼ねている。これにより、何かに当たってダイヤルが回ってしまったり、ケーブルなどが引っかからなようになっている。

 直感的な操作ができるほか、ポケットに手を入れ、指先の感覚だけで画面を見ずに操作できるのも利点だ。ただ、使っていて不満な点もあった。ダイヤルを回すとディスプレイにボリューム値が表示されるのだが、その状態で、タッチパネル対応ディスプレイに触れると、指先の移動でもボリューム増減できるのだ。

 これはこれで良いのだが、画面にボリューム表示をした状態でポケットに仕舞った瞬間、意図せず指で画面に触れてしまい、一気にボリュームが上がって驚くという事が2回ほどあった。キチンと画面を消画してからポケットに入れれば良いだけの話だが、つい忘れてしまう。設定で“タッチパネルでのボリューム増減”をOFFにする機能が欲しいところだ。

側面にダイヤル式のボリュームを搭載
ボリューム操作中はこのような画面になる。この状態では、タッチパネルからもボリューム調整が可能

 OSがAndroidベースなのも特徴だが、プレーヤーを起動すると、音楽再生メニューがダイレクトに表示され、一般的なAndroid OSのホーム画面は存在しない。アプリの追加/削除にも対応しておらず、動画の再生も非対応。Androidと言うと汎用性が高いイメージがあるが、AK240はあえて機能を絞り込んでおり、純粋なオーディオプレーヤーとして作りこまれている。

 それゆえ、言われなければAndroidだとわからない人も多いだろう。ただ、画面上部から下部にフリックすると、無線LAN機能などの設定ショートカットメニューが降りてくるなど、たまにAndroidっぽい操作方法も存在する。

メイン画面
楽曲選択画面
上から下にフリックすると、ショートカット設定メニューが出てくる

 メイン画面には再生中の音楽のジャケットが表示され、その下に「曲」、「アルバム」、「アーティスト」、「ジャンル」、「プレイリスト」、「フォルダー」というボタンが並ぶ。一番上のボタンが大きいのだが、このボタン配置は指先で自由に変えられる。

 メニュー階層を下りて目的の楽曲に辿り着き、再生を開始した後は、左上の“戻る矢印”を押していけば、メイン画面へと戻れる。面倒な時は、画面外下部にあるセンサーに触れると一気にメイン画面へジャンプ。余談だが、使い始めた当初、このセンサーの存在に気づいていなかった。真っ黒で凸凹も無く、黒いディスプレイの外周に溶け込んでいたためだ。

画面の下部に小さなセンサーがあるのがわかる
このセンサーに触れると、再生画面などからメイン画面に一気に戻れる

 楽曲のリスト画面や再生画面で、タッチし続けると、その楽曲を“掴んだ”状態になり、プレイリストへと運ぶことができる。プレイリストにはユーザーが自分で名前を付ける事もでき、ソフトウェアキーボードも現れる。メニューボタンの配置カスタマイズや、直感的かつグラフィカルなプレイリスト作成方法は、Android OSならではと言えるだろう。同社のプレーヤーとしてAndroidを使ったモデルはこれが初めてとなるが、デザイン・機能共に“こなれ”た印象で、完成度が高い。壁紙のデザイン変更も可能だ。

メイン画面の機能ボタン配置は自由に変えられる
楽曲をつかんで、プレイリストに投げ込む事も可能
プレイリストの名前入力なども本体だけで可能

 内蔵メモリは256GBで、microSDカードスロットも1基搭載。ここに128GBのカードを挿入すれば、384GBが利用できる(システム領域除く)。一昔前のHDD内蔵プレーヤーとくらべてもひけをとらない大容量だ。

 既発売のAK120は内蔵64GBメモリ、microSDスロットは2基あるが、microSDカードは1枚最大64GBまでの対応であるため、合計では64GB+128GBの192GBとなる。単純計算で、メモリ容量は2倍だ。様々なハイレゾ音楽ファイルを再生できるAK240は、ハイレゾファイルを大量に持ち歩く事が求められるため、大容量であるに越したことはないだろう。底部にはPC連携用のUSB端子を搭載している。

底部のUSB端子
左側面には操作ボタンとmicroSDスロット

スペック面では文句なし

 ディスプレイは3.31型、静電容量タッチパネルを採用。解像度は480×800ドットの有機ELだ。発色は綺麗で、輝度も必要十分。有機ELらしく、黒に締まりがあるので、ディスプレイ周辺のベゼル部分の黒との境目がわからず、結果的に画面が実際のサイズより大きく見える。

PCM 32bit/192kHz float/Integerの再生にも対応する

 再生対応ファイル形式は、WAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE、AAC、Apple Lossless、AIFF、DFF、DSF。PCMは32bit/192kHzまで対応。32bitはfloat/Integerに対応、24bitにダウンコンバートしながらの再生となる。

 DSDの再生にも対応し、PCM変換せず、ネイティブ再生できるのが特徴。AK120はPCM変換かつ2.8MHzのファイルのみ対応だったが、AK240はネイティブで5.6MHz(DSD128)まで対応している。

 ハイレゾファイルへの対応と言う意味では、現時点で“文句なしのフルスペック”と言って良いだろう。据置型の最新USB DACや、USB DAC機能付きのSACDプレーヤーなどでようやく実現できているスペックが、こんな手のひらサイズのプレーヤーでカバーできているのは驚きだ。高価なモデルだからこそ、購入後すぐに「最近流行りの○○ファイルは再生できないんだよなぁ」と悔しがる事がないのは嬉しいポイントだ。

 なお、ハイレゾファイルの再生には高い処理能力が必要となるが、AK240ではデュアルコアのプロセッサが搭載されている。また、さらに負荷が高いDSDの再生用には、専用のサブチップまで内蔵。DSDファイルであると認識すると、そのサブチップが目覚め、処理を行なうという。こうした工夫で、実際にDSDファイルを再生していても、GUIの動きがもたつくような事は無かった。

 DACは、シーラス・ロジックのハイエンドDAC「CS4398」を、L/R独立で搭載。グランドもL/R独立する事で、クロストークやSN比の改善、ダイナミックレンジの拡大と低歪み化を実現したという。

出力端子部。右端がステレオミニのアンバランス、隣がバランス用のステレオミニ端子だ

 また、これを活かすべく、ディスクリート構成のアンプ部も採用している。出力は、ステレオミニのヘッドフォン出力(光デジタル出力兼用)を1系統装備するほか、バランス出力も用意している。現在、外部ポータブルアンプでのバランス駆動が1つのトレンドになっており、“外部ポタアン”に挑戦する1つの理由にもなっているが、その機能をプレーヤー本体に内蔵してしまったカタチだ。

 ただ、注意が必要なのがバランス出力端子が2.5mmのマイクロミニで4極と、特殊な点だ。通常のステレオミニより細身の端子で、ピンアサインは先端からR-/R+/L+/L-となる。ポータブルのバランスアンプでは4ピンのスクエア型端子が採用されるモデルが多いが、その端子のケーブルは利用できない。とはいえ、AKシリーズは人気モデルなので、おそらくAK240用のバランスケーブルは今後各社からイロイロ登場するだろう。ただ、既に4ピンのバランスケーブルを使っている人にとっては、そのケーブルが流用できないのは残念だ。イヤフォン側はMMCX端子が事実上の標準端子のようになりつつあるが、アンプ側のバランス駆動端子も統一して欲しいというのがユーザーとしての願いだ。

 なお、出力インピーダンスは1Ω、アンバランスで2.1Vrms(L/R)、バランスで2.3Vrms(L/R)と従来モデルより高出力化している。、

これがステレオミニミニの4極端子
ケーブル交換が可能な両出しのヘッドフォン/イヤフォンと、ステレオミニミニ4極のバランスケール部を組み合わせる

ハイレゾをワイヤレスストリーミング再生

foobar2000でUSB DACとして再生しているところ

 AKシリーズではお馴染み、USB DAC機能も備えている。PCとUSB接続し、アンバランス/バランスのヘッドフォンと組み合わせて再生できるほか、ラインアウトモードも用意。据置のアンプなどへの出力も可能だ。USB DAC動作時は24bit/192kHzまでのPCM、5.6MHzまでのDSDに対応する。対応OSはWindows XP/Vista/7/8/8.1で、7/8/8.1は64bitにも対応。Mac OS X 10.7以上もサポートする。

 つまり、屋外で利用するポータブルプレーヤーとしてだけでなく、家でPCと接続したヘッドフォンアンプとして使ったり、本格的なオーディオ機器の中にプレーヤーやUSB DACとして組み込む事ができるというわけだ。高価なプレーヤーだからこそ、家の外でも中でも活用できる機能は歓迎できる。

ライン出力モードをONにすると、ボリューム値を一気にマックスにするボタンが現れる

 なお、ライン出力端子はイヤフォン端子と兼ねており、フルボリュームでのイヤフォン出力がライン出力と位置づけられている。つまりメニューから選択するラインアウトモードとは、“1ボタンでフルボリュームにしてそのボリューム値を固定する機能”と言い換えていい。わざわざそんなモードが必要なのか? とも思うが、フルボリュームで据置コンポと接続し、そこから取り外してイヤフォンを挿入、うっかりフルボリュームのまま聴くと危険だ。そこでラインアウトモードを解除すると、その前に聴いていたイヤフォンモードの音量に一気に戻る仕様になっている。

 音質調整としては、10バンドのイコライザ機能も搭載。設定を任意の名前で複数プリセットできる。また、プロのエンジニアが設定した「PRO EQ」も搭載している。他にも、ギャップレス再生やフォルダ単位での連続再生、前述のようにプレイリスト作成も可能だ。

 もう1つ、忘れてはならないのがWi-Fi(IEEE 802.11b/g/n、2.4GHz)を搭載している事。専用ソフト「MQS Streaming server」をインストールしたPCのフォルダにAK240からアクセス。DSDなどのハイレゾも含め、ストリーミング再生できるのだ。

 PC側ソフトの設定は簡単で、共有したいフォルダを指定し、共有PCの名前を付ける程度だ。後はAK240側で同じ無線LANルータに接続し、メインメニューから「MQSストリーミング」を選ぶと、共有PCの名前が見える。そこをタップすれば、共有指定したフォルダの中にアクセスできる。

「MQS Streaming server」の設定画面。共有したい楽曲が保存されたフォルダを登録する
サーバー名などのカスタマイズも可能
同じLAN内に接続すれば、サーバーPCにAK240からアクセスできる

 気になるのはファイルサイズの大きいハイレゾ楽曲を本当にストリーミング再生できるのか? という点。家の無線LANルータ(AtermWR8370N:IEEE 802.11b/g/n対応)でテストしたところ、24bit/192kHzの「イーグルス/ホテルカリフォルニア」(246MB)は引っかかる事もなく再生可能。32bit/192kHzの楽曲(339MB)では、音が出るまでに7秒程度のバッファが必要で、音が出てから数秒して停止、3秒ほどして再び再生、その後は詰まらずに再生できた。

 無線LANルータとの距離や電波状況によるのだが、読み込みが完了している部分はシークバーが薄いグレーになり、そのスピードが、再生スピードを上回っていれば途切れる事はない。逆に言えば、再生を一時停止してある程度読み込まれた状態でスタートすれば重いファイルでも問題なく再生可能だ。電波状況が良ければ、24bit/96kHzや24bit/192kHz程度のファイルであれば、ローカルファイルと同じような感覚で再生できると言って良いだろう。

 この機能を何に使うかだが、PCに保存している音楽フォルダを共有に指定しておけば、プレーヤーに転送していない音楽ファイルもAK240から楽しめる気軽さがある。また、ストリーミング再生だけでなく、ファイルをダウンロードする機能もついているので、どの曲をAK240に転送するかをストリーミング試聴で決め、そのままダウンロードするという流れがAK240側の操作だけで完結する。また、据置プレーヤーとしてAK240を使う場合でも、オーディオルームから離れたPCの内部ファイルを再生できるという利点がある。

ファイルサイズが非常に大きいと、ファイルの先読み速度を再生速度が追い越してしまい、ストップしてしまう。ただ、24bit/192kHz程度のファイルであれば大丈夫そうだ
再生だけでなく、端末へのダウンロードも可能
このようにバックグラウンド処理でダウンロードできる

 ただ、利便性という面であればDLNAに対応して欲しいところ。PCの専用ソフトをサーバーとしている以上、PCが起動していなければならず、ハイレゾファイルをNASに保存している人には対応できないからだ。

 一方で、ハイレゾ音楽配信サービスから直接楽曲を購入できるようになる計画もあるようだ。韓国では既に実現されており、日本でもe-onkyo musicとOTOTOYに対して、対応を協議しているとのこと。こちらの今後も楽しみだ。

 さらに、Bluetoothにも対応している。この価格のプレーヤーでBluetoothイヤフォン/ヘッドフォンを使う人がいるのかと疑問を感じていたが、最近はBluetoothスピーカーも増えてきているので、「今再生している曲を、Bluetoothスピーカーで聴きたい」と思った時に、すぐに実行できるのは便利だ。

 無線LANとBluetoothに対応している事は、今後の機能拡張にも有利だ。CESのインタビューで、iriverのHenry Park CEOはBluetooth機能の今後として、iOS/Android機器からAK240をリモコン操作できるアプリを開発している事を明らかにした。AK240を単品コンポの1つとして、アンプなどと組み合わせた場合、リモコン制御できなければ、曲を変える時にいちいちAK240のところまで移動しなくてはならない。「ポータブルだけでなく、据置コンポとしても使える」と謳う以上、リモコン操作は必要な機能と考えているのだろう。Android OSを採用した事で、こうした“機能追加”は従来のプレーヤーより活発に行なわれそうだ。

次元の違いを感じさせる音質

 MMCX端子でリケーブル可能な「e☆イヤホン」オリジナルヘッドフォン「SW-HP11」や、カスタムイヤフォンのUltimate Ears「18 Pro」、ShureのSE535などを使って試聴した。

 音質についてはファーストインプレッションで書いた通りだが、簡単に言えば“音場の広さ”と“定位の良さ”が、従来のポータブルプレーヤーと一線を画すクオリティに到達している。

 Wolfsonの「WM8740」をデュアルDACで搭載している下位モデル「AK120」は、1つ1つの音の輪郭がクリアで、押し出しの強い“パワフルだけれど情報量が多いワイドレンジサウンド”を実現していたが、AK240はそうした要素を踏まえつつ、すべての面でレベルアップしている。

 SNの良さが優秀で、ピアノ伴奏+女性ヴォーカルなどのシンプルな楽曲を再生すると、静粛で音場に音の波紋がどこまでも広がる。音像は広大な空間にキッチリ定位するが、その位置がリスナーと“シッカリ離れている”。音量を上げてもその位置がブレない。AK120はピアノやヴォーカルがこちらに押し寄せてくるイメージだが、AK240はステージと観客席の間にしっかり空間がある。同時に、音像の背後に広がる空間も呆れるほど広く、ヘッドフォン/イヤフォンで聴いていても息苦しさを感じない。開放的で気持ちの良いサウンドだ。

 サウンドステージを精密に再現し、音像が節度をわきまえ、所定の位置にキッチリと並ぶ。いわゆる、据置ピュアオーディオによくある、“音場再生型”とか“音場創生型”を彷彿とさせる鳴り方だ。

 では優等生のワイドレンジサウンドで、パワフルさは無いのかというとそうではない。中低域の張り出しはAK120よりも控えめなので“大人しめのサウンドかな?”と思いきや、「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」のベースの沈み込みは、AK120よりさらに深く、地鳴りのような腰の座った重い音だ。しかも低音の分解能が高く、モコモコと不明瞭に膨張せず、タイトであり、ベースの弦の揺れ具合もよく見える。

 高域もクリアで、付帯音や雑味は一切感じられない。無理な強調も無く、ボリュームを上げていっても耳が痛くならず、破綻しにくい。女性ヴォーカルのサ行など、高域も質感がしっかり描写できている。e-onkyo musicで配信されている、ランティスの「ラブライブ!」の楽曲や、1月31日から配信が開始された「ガールズ&パンツァー」のエンディング・テーマ「Enter Enter MISSION!」など、異なる声質の女性が集まって歌うハイレゾ楽曲を聴くと、高域の質感が豊かなので、誰が、どんな声で歌っているのかがシッカリと聴き取れる。このあたりが雑なプレーヤーだと、皆同じような声に聴こえてしまう。ハイレゾの良さが味わいやすいプレーヤーと言えそうだ。

 特に中低域のドッシリ具合を堪能していると、「このクオリティならば外部アンプはいらないな」と思わせてくれる。実際にそうなのか、試しにiBassoのハイエンドポータブルアンプ「D12 Hj」とアナログ接続してみた。当然ながら、音に変化はある。「D12 Hj」の方が中低域の張り出しが強い。だが、低域の深さ自体にさほど変化はない。一方、アナログ接続した事で、鮮度が低下し、細かな描写にはベールがかかる。アンプの能力の違いと言うより、“キャラクターの違い”のレベルで、聴く人の好みによるとは思うが、「やっぱり外部アンプが無いとダメだわ」と思うほどの違いは感じない。情報量の多さや利便性を加味すれば、「AK240単体で十分だ」というのが素直な感想だ。

 音質面のトピックが、これだけで終わらないのがAK240の凄いところだ。前述のようにバランス駆動にも対応しているため、ここからさらに音がグレードアップする。バランス駆動での音質についてはファーストインプレッションで書いた通りで、新しいケーブルは調達できていないので今回は割愛するが、音場の広がりや情報量の面で、よりグレードの高い音が再生できる。バランス駆動が可能な外部アンプはまだ数が少なく、高価なモデルが多いので、そうしたモデルを追加せず、気軽に楽しめるのは大きなアピールポイントだ。

ウォークマンとも比較

 AK120との違いは前述の通りだが、他のハイレゾプレーヤーと比べるとどうだろうか? ウォークマンの「NW-ZX1」とも聴き比べてみた。

ウォークマン「NW-ZX1」(右)とのサイズ比較

 「Best OF My Love」や24bit/192kHzの「ホテルカリフォルニア」などで聴き比べてみると、ZX1は全体的にスッキリとしたサウンドで、空間表現はうまい。だが、音の1つ1つの輪郭はぼんやりしており、AK240ほどクリアではない。コントラストが低く、音像の特に奥行方向の立体感は今ひとつだ。低域の沈み込みも浅く、AK240ほどズシンと響かない。

 また、SNや音場の広さにも大きな違いがあり、ZX1からAK240に交換すると、最初の一音ではっきり次元の違いを感じる。AK240の方が奥行き、高さいずれも広く、サウンドステージも静粛だ。そこに定位する音の実在感、生々しさもAK240の方が上で、“ステージの近くに自分がいる”というリアルさを感じる。輪郭がクリアで奥行きも深いため、音像の前後の位置関係もAK240の方がわかりやすい。

 中低域の量感や、最低音の沈み込みの深さではさらに差が広がる。ZX1を聴いた後でAK240を聴くと、まるでZX1に外部アンプを加えた音のようだ。高域も、ZX1の音はカサつき、輪郭も荒く感じてしまう。

 ZX1にはデジタル信号処理技術により、「クリアベース」など、様々なクリアオーディオテクノロジーの設定をワンボタンでバランスよく最適化し、“ソニーおすすめの高音質”にしてくれるという「クリアオーディオプラス」という機能もある。これをONにすると、空間は確かに広がるのだが、音に若干違和感が生まれ、高域にもクセが乗る。コントラストは深くなり、音の輪郭はクッキリし、中低域の押し出しは強くなる。だが、情報量は若干低下し、派手にはなるが、最低音の深さ自体はあまり変わらない。“広がりのあるダイナミックな音”になるのは確かだが、AK240とのバトルで武器になるかと言うと、残念ながらOFFにした方が良い。

 「いやぁZX1も悪くないけど、AK240の方が上手だなぁ」と試聴を終えたが、はたと価格を思い出すと、実売約7万円(ZX1)と、直販285,000円(AK240)でバトルしていたわけで、AK240の価格は実に約4倍だ。ぶっちゃけ「音が良くて当たり前」だ。もちろん、ZX1単体で聴く限りは十分高音質なプレーヤーであり、ポータブルプレーヤーとしては間違いなくトップクラスだ。それに輪をかけて、AK240の方が確かに文句無しに音が良いが、「それでは差額の21万円払いますか?」と言われるとグッと言葉に詰まる。そしてAK240をもう一度聴くと「でもやっぱ良い音だなぁ」となり、値段を思い出して再び黙るという無限ループに陥る。

ポータブルの域を超える音質と価格

 音の良さに幾らまで払うか? というのはその人によって異なる。音にこだわるオーディオファンとして、音質の良さは至上命題であり、“そのためならばコストや利便性は気にしない”というのもマニア心だ。だが、一般的に音が良いとされるプレーヤーから、さらに20万円以上高価というのは、なかなか踏ん切りが付かない世界だ。

 例えば、既にポータブルプレーヤー環境として、ハイレゾ対応プレーヤー、ポータブルDAC、バランス駆動対応ポータブルアンプなどを揃え、高級ケーブルで繋ぎ、それを三台重ねし、なんだかんだで20万円を越えているというユーザーにとっては、AK240の価格でもそれほど高いとは感じないだろう。それらを組み合わせて出た音と渡り合える音質が、この小さなプレーヤーから出ているという利便性も加味すれば、安いと感じる人もいるかもしれない。

 ただ、多くの人にとっては、屋外で音楽を再生するためだけの機器に28万円払うのは難しいだろう。その点で、据置型プレーヤーとして活用できるという点は外せない。自宅のPCと接続し、ヘッドフォンアンプやUSB DACとして使えるほか、本格的なオーディオシステム用のプレーヤーとしても使える。つまり、“屋外”、“PCまわり”、“オーディオ機器まわり”の3ゾーンで活用できる製品なのだと言われれば、「まぁアリかな」と思えてくる。

 実際、「ポタ研 2014冬」で行なわれた「AK240」の発表会では、本格的なピュアオーディオ用アンプやスピーカーと組み合わせ、AK240を据置型プレーヤーとして活用するデモが行なわれ、確かにポータブルプレーヤーからバランス出力しているとは思えないスケールのピュアなサウンドを実感できた。

「ポタ研 2014冬」で参考展示されたスタンドとバランス出力ケーブル
発表会では据え置きオーディオ機器としても使える音質の良さがアピールされた

 この“据置プレーヤー活用提案”を現実味のあるものにするためにも、“3つのゾーン”でAK240を手軽に使いまわせる環境整備が必要だろう。いくら音が良くても、ポータブルアンプの存在を“かさばって面倒なもの”と感じてしまったら、使わなくなってしまう。それと同じように、“家の中でも活用できますよ”と言われても、上着のポケットからAK240を取り出し、家のオーディオシステムやPCに毎日接続するという“一手間”のハードルを越えなければ“上着のポケットに入れたまま”になってしまうだろう。

 そのためにも、自然にAK240を家の中で活用する“流れ”を作る周辺機器が求められる。発表会では、AK240を設置して充電できるスタンドと、バランス出力するための“据置化セット”のような試作機が展示されていたが、実際に製品化するかは未定だそうだ。だが、このようなカタチの周辺機器が用意されれば、“沢山活用するイメージ”がリアルに湧き、「これだけ使い倒すのだから、この出費は高くないんだ」と納得してから買う……そんなプレーヤーだろう。

 今回屋外でAK240に約18万円のカスタムイヤモニターを接続して使う事が多かったが、このセットで合計約46万円。ポケットの中に46万円突っ込んで歩いた経験のある人はあまりいないと思うが、かなりドキドキで、はじめの数日は「よし、ちゃんとここにあるな」とポケットの上から何回も確認してしまった。紛失した時の精神的・金銭的ダメージは半端ではないので、できればネックストラップなど、体のどこかに繋げられるようなケースも欲しいところだ。

 いずれにせよ、ヘッドフォン・イヤフォンブームや、ハイレゾのムーブメントなど、ポータブル市場における盛り上がりの、1つの到達点に至った記念碑的なモデルと言って間違いはない。価格さえ許容範囲であれば、音質・使い勝手の面で、文句無しのモデルだ。「28万円のプレーヤーって、どんな音よ」という興味本位でも構わないので一度試聴して欲しい。個人的には据置利用はさておき、忙しくて家でじっくり音楽を聴く暇がないという人にこそマッチした、新しいピュアオーディオのカタチを垣間見せてくれる名機だと感じる。もちろん、このプレーヤーで培われたハードウェア&Android OSのノウハウを活用し、より“買いやすい”モデルの登場にも期待したい。

(山崎健太郎)