レビュー

アニメグッズの進化に驚き“エヴァイヤフォン”こと「A.T.EVA HQ-3.0」を聴く

 エヴァンゲリオンのテレビ版が放送中の'95年頃、当時学生で、既にアニオタだった私は、アニメイトで買ったのか、オタク仲間にもらったのか覚えていないが、劇中に登場する特務機関ネルフのマークが付いたキーホルダーをカバンにぶら下げていた。私が既に手遅れな人である事はクラス内で周知の事実であり、今さらそれをぶら下げようが下げまいが、教室内での立ち位置に何ら変化は無かった。だが、そのキーホルダーを見て、普段アニメの話なんてしないクラスメイトが2人、恥ずかしそうに「実は俺もエヴァ見てるんだ」と小声で話しかけて来て、以降アニメ話をする仲間になった。イカ釣り漁の漁灯のようなものだ。一人で見ていると不安になるほど、わけのわからないアニメ(特に後半)だったというのもあるだろう。

 「だからどうした」という話だが、今のようにネットが普及していない時代、ドラえもんやサザエさんのようなアニメを除いて、今で言うところの「進撃の巨人」や「まどか☆マギカ」のように“皆がオープンに放送中のアニメについて話ができる土壌や雰囲気”は学校にまったく存在しなかった。皆が中高生になってアニメを観なくなったのか、観ているけれどその事を学校で公言しなかったのかは定かではない。学校によるとは思うが、アニメ好きと知られると、クラスで孤立しかねない時代だ。アニメグッズを身につけて登校するというのは、クラス内での立ち位置の変化を恐れないという、ある種の決意が必要な行為だったように記憶している。

 TwitterやFacebookなんてあるはずもないので、アニメオタク同士の“横のつながり”も弱く、各校に点在する少人数の同志が、身を寄せ合っていた。声優のラジオ番組が増加し始める頃で、リスナー同士が靴紐やベルを身に着けて街を歩き、“目立たないようにリスナーだと知らせる”なんて慎ましい仲間探しが流行ったりもした。それが今や、「ニコニコ超会議」の取材などに行くと、「クラスの大半で来てる」という子がいたり、「アニメやVOCALOID系に詳しいとクラスで人気者になれる」という話を聞いたり……オッサンにはまったくついていけない。私の知らないうちに、学校ではある種のパラダイムシフトが起きているようだ。

 あさっての方向から書き始めてしまったが、なんとイヤフォンのレビュー記事を書くつもりだ。モデル名は「A.T.EVA HQ-3.0」。昨年12月20日から発売されている製品で、モデル名を見ればわかるように、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」をテーマとしたイヤフォンだ。キングレコードの製品だが、オーディオテクニカも協力。価格は23,800円で、数量限定商品となっている。

イヤフォン、プレーヤー、Tシャツがセットに

「A.T.EVA HQ-3.0」のケース

 いきなり昔話からスタートしたのは、この記事で使うイヤフォンの写真を撮りながら「アニメグッズもかっこ良くなったなぁ」と改めて感心し、記憶の蓋が開いたからだ。

 アニメグッズと言うと、人気キャラクターの顔がデカデカ描かれたクリアファイルとか、メモ帳とか、マグカップとか、Tシャツとかいろいろ存在するが、そうした“ザ・アニメグッズ”という雰囲気の製品とは別に、“そのアニメを知っている人が見るとアニメグッズだとわかるが、そうじゃない人にはわからない”というタイプの製品も存在する。

 例えばロボットアニメなら、キャラやロボットの顔ではなく、主人公が所属する軍隊のエンブレムをワッペンやシールにしたものだとか、主人公がアニメの中で使っている腕時計と同じ時計だとか……ひねりの効いた“大人向けアニメグッズ”とでも言う感じだろうか。私が学生の頃にはあまり無かったタイプで、アニメを楽しむ大人が増えたのか、パラダイムシフトが起きていない学校の学生向けなのか、アニメグッズの多様化を感じる。

 「A.T.EVA HQ-3.0」のケースは、黒地に光沢ブルーでロンギヌスの槍などが描かれ、ミステリアスでカッコイイ。言われなければエヴァ関連のグッズが入っているとわからないだろう。「ゼーレの会合に参加して松花堂弁当が出たらこんな箱なんだろうか」などと考えながら開けると、これまたスタリッシュに3つの製品が収納されている。

TV版のDVD-BOXと並べてみた
高級感のあるケースだ
ケースを開けたところ

 1つはカナル型イヤフォン。14mmのドライバを搭載したダイナミック型で、筐体はチタニウム切削×アルミニウムのハイブリッドメタルハウジングを採用。表面にはレーザーで刻印が施されている。

 ハウジングの傘のような部分はガンメタル風の落ち着いた発色。この部分の素材はチタニウムだ。そこにエントリープラグのように突き刺さっているのが、アルミニウムのケース。硬度の異なる2つの金属を使い、金属の間には振動を抑制するダンパーを追加。制振性を高めている。ベースになったイヤフォンの情報は特に無いが、構造やデザインを見ると、恐らく「ATH-CKM99」(21,000円)だろう。エヴァイヤフォンは23,800円だが、このデザイン&加工、いろいろオマケ付きで3,000円程度アップというのはアニメグッズとしてはかなり良心的だと思う。

セットのイヤフォン
内容物を出したところ
チタンの筐体に、筒型のアルミニウムケースが組み合わさっている
ベースモデルと思われる「ATH-CKM99」

 なお、デザインは「ヱヴァ:Q」の楽曲をフルバージョンで収録したCD「Shiro SAGISU Music from "EVANGELION:3.0" YOU CAN(NOT)REDO.」のデザインを担当した市古斉史氏(TGB design.)によるものだそうだ。これまでの高級イヤフォンにあまり無かった色味なので、エヴァはさておき、デザインだけで欲しいという人もいるだろう。なお、イヤフォンでは赤など、色の付いたハウジングが右チャンネルというパターンが多いが、このイヤフォンは、ブルーの側が左チャンネルだった。

ブルーの筐体が左チャンネルだ
右チャンネル
イヤーピースを外したところ

 もう1つの製品は缶バッジ……に見えるが、ポータブルプレーヤーだ。「PLAYBUTTON」というもので、音楽アーティストのアルバムに、特典として限定曲などを付属する時にも使われたりする。缶バッジとして使えるほか、背面に簡単な操作系ボタン、側面にイヤフォン出力を備え、音楽を聴くことができる。エヴァイヤフォンでは、鷺巣詩郎氏による未発表最新音源「3EM26_twenty five degrees of frost」を収録する。ワルシャワにて、140人のオーケストレーションでレコーディングされたもので、映画本編で使用されたものとは異なる、別テイクバージョンだ。

 なお、写真の「PLAYBUTTON」はブルーだが、日本テレビのサイトで扱うバージョンは白となる。

缶バッジに見えるポータブルプレーヤー「PLAYBUTTON」
背面には操作ボタンを用意
イヤフォン出力も用意。ここに付属の専用ケーブルを用いてUSB経由で充電する

 もう1つは、オリジナルTシャツ。前述の市古斉史氏がデザインしたもので、正面には外装箱と同じマークがあしらわれている。このTシャツも、知っている人が見ないと、エヴァ関連だとわからないだろう。アスカやレイの顔がデカデカ描かれていると着にくいという人も多いと思うが、このデザインならば活用できるだろう。カラーはグレーが基本だが、EVA STOREバージョンは黒、日本テレビ限定バージョンは水色だ。

 内容物はいずれもデザイン性とクオリティが高く、神秘的なエヴァ(特に劇場版)の雰囲気が感じられる。

オリジナルTシャツも付属している

音を聴いてみる

 イヤフォンの音を聴いてみる。再生機器はハイレゾプレーヤーの「AK240」やスマートフォンの「Xperia Z1」を使用した。

 14mmのユニットを内蔵しているが、ダイナミック型らしいパワフルな中低域が特徴だ。ハウジングで制振制御がキッチリ行なわれているため、中低音が膨らみ過ぎて音がモコモコと不明瞭になるほどではない。分解能も維持するタイトさも兼ね備えている。

 ただ、パワフルな低音が高域まで若干かぶっており、抜けの良さはもう一声欲しい。金属筐体のわずかな響きも乗っており、綺羅びやかな独特のキャラクターを感じる。モニターライクで高解像度のサッパリしたサウンドが昨今の流行りだが、エヴァイヤフォンは音圧の高い中低域と、ゴージャスな高域の響きを楽しむタイプだ。様々な楽曲をドラマチックに聴かせてくれるという面で、「ヱヴァ:Q」のサントラCDなどを聴くにはマッチしていそうだ。

 なお、イヤフォンの開発にあたっては、エヴァの音楽を手がける鷺巣詩郎氏がカスタマイズチューニングを担当しており、「ヱヴァンゲリヲンの世界を再現するにふさわしいサウンドを実現した」とのこと。再生周波数帯域が5Hz~28kHz。出力音圧レベルが104dB/mW。ケーブルはY型で60cm。60cmの延長ケーブルも同梱する。

 缶バッジ風のポータブルプレーヤー「PLAYBUTTON」とも接続してみる。中に入っているのは未発表音源「3EM26_twenty five degrees of frost」別テイクバージョンで、140人のオーケストラによるスケール感のあるクラシックが楽しめる。

 プレーヤーとしての音質はスッキリ系でクセが無く、オマケとしては悪くないクオリティだ。ただ、低域の馬力や空間の広さは、スマートフォンや専用プレーヤーには敵わない。スケールの大きなオーケストラを楽しむには、もう少し中低域のパワーやレンジの広さが欲しくなるが、オマケのプレーヤーにそこまで要求するのは酷だろう。

 PLAYBUTTONの背面には曲送り/戻しボタンと、再生/一時停止、イコライザボタン、イコライザのリセットボタンを備えている。曲送り/戻しボタンは長押しでボリューム増減を兼ねている。

 なお、PLAYBUTTONの充電は付属のケーブルを使ってUSB経由で行なうが、その際にマスストレージとして認識はされず、単に充電のみとなる。つまり、収録されている楽曲データをPCなどに取り出す事はできない。他のプレーヤーでもこの楽曲を聴きたいが、現状ではその術が無くて残念だ。購入者はどこかのサービスから無料ダウンロードできるような配慮も欲しいところだ。

アニメグッズの枠を超える品質

 社会現象的な人気を獲得したエヴァは、グッズの豊富さも通常のアニメ作品の枠を超えている。そうした流れの中で、エヴァグッズがいかに洗練され、ハイクオリティになっているのかが「A.T.EVA HQ-3.0」を見ると良く分かる。従来の“アニメグッズ”という枠に収まらない、コラボ商品と言えるだろう。

 エヴァンゲリオン仕様のスマートフォンどころではなく、ガンダムとコラボした「シャア専用自動車」(トヨタ・オーリス)まで商品化される時代だ。アニメ要素を別にしても、十分実用品として活用できるクオリティのコラボ商品は今後も増加していくだろう。AV関係であれば、「このアニメ映画用にチューニングされたサラウンドヘッドフォン」とか、「このハイレゾアニソンで声優の歌声が最高に魅力的にドライブできる、USB DAC搭載管球ヘッドフォンアンプ」とか、どんどん突き抜けた商品が出て欲しいところだ。

 それにしても、タイムマシンで学生時代の自分に会って「エヴァグッズの専門店が原宿とか箱根湯本にあって、こんなカッコイイイヤフォンまで発売されてるよ」と言ったら、おそらく信じないだろう。

山崎健太郎