レビュー

BDも地デジも写真も。「KD-65X9200A」で味わう4Kの魅力

画/音の臨場感。幅広く活用できる4Kテレビの“いま”

KD-65X9200A

 テレビ市場では「4K」の人気が高まっている。その中でも、ソニーのBRAVIA X9200Aシリーズはトップシェアの人気モデルで、65型の「KD-65X9200A」と55型「KD-55X9200A」をラインナップ。ソニーの4Kテレビハイエンドモデルとなるが、その画質や音質には定評がある。

 4Kテレビというと、製品そのものに関心を持っている人は少なくないのだが、いかんせん価格の高さがネックとなり、なかなか購入までに踏み切れずにいる人は多いだろう。しかし、今では65型が実売価格で約60万円、55型ならば約40万円と、1インチ=1万円をかなり下回ってきて、値頃感がでてきている。

 しかも、昨年末に実施されたアップデートにより、4K/60p(4:2:0 8bit)信号の入力に対応。年内に開始される予定の4K放送を4Kそのままの画質で楽しめるようになっているなど、これから長く使っていくうえでの将来性の点も十分だ。

 大画面でしか体験できない、映像や音という特徴を持ちながら、価格的にも身近になってきた4Kテレビ。今回はKD-65X9200Aを使いながら、BDや地デジ放送などを「今」楽しむコツを紹介したい。製品の仕様などはAV Watchの別記事レビューでお伝え済みなので、そちらも参照してほしい。

高精細映像に釣り合う力強い再生音。画と音が一体となる臨場感を実感

Mastered in 4K版「天使と悪魔」

 まずは、BDソフトで画質・音質の実力を見てみよう。視聴するディスクは、Mastered in 4K版の「天使と悪魔」だ。Mastered in 4Kとは、ソニー・ピクチャーズによる高ビットレートの高画質ディスクで、4KマスターからフルHD解像度にダウンコンバートする際のデジタルフィルタ情報をディスクに記録し、ディスプレイ側で逆の特性を持ったフィルタを使って4Kに復元することで、オリジナルの4Kマスターに近い映像を再現できるようにするものだ。画質モードは「シネマ1」とし、照明を落とした暗い環境で視聴した。

 映像の基本的な傾向は、4Kらしい精細感の高さを出しつつ、輪郭のキリっと立たせた再現。階調感もスムーズだし、フルHDテレビとは映像の緻密さに大きな違いがある。

 視聴距離は4Kテレビの推奨距離である1.5H(画面の高さの1.5倍)ほどとし、従来の感覚ではかなりの近接視聴だが、その距離でも画素が見えてしまうこともない。バチカン市国のさまざまな歴史的建造物を自分がその場で目にしているような再現で、スリリングな物語を楽しめる。

 より広い色域再現を可能にした「トリルミナスディスプレイ」技術を採用しているため、色の鮮やかさや深みが増している点も好ましい。バチカンの司教たちの赤い法衣も鮮やかでありながら、あくまでも自然な色合いで描き出す。また、暗い室内でも色が抜けることがなく、歴史の重みを感じさせる教会内のくすんだ色もリアルに再現する。

 本機は、画質設定のひとつとして「Mastered in 4K」機能を備えている。これは、Mastered in 4K版ソフトなど、4K制作されたBDソフトに適した画質で楽しめるもの。データーベース型超解像を調整する「リアリティークリエーション」を「マニュアル」とすると、「Mastered in 4K」の「入/切」が選択できるようになる。

 興味深いのは、「Mastered in 4K:入」の方がディテール感はソフトになるということ。目の前に立った人物の肌のきめや、服の生地など細かい部分まで描くのは「切」の方。ただし、見比べてみると「切」では映像全体のディテール感が増える反面、フィルムの粒子感も目立つし、ややざらついた印象。また、バチカンの街を見渡すような場面での自然な奥行き感が乏しくなる。

 「Mastered in 4K:入」は、そうした不自然さを感じさせず、フィルムらしい質感を豊かに感じさせながら、映像本来の持つ奥行き感を上手に描いた。ソフトによって相性はあると思うが、Mastered in 4K版のBDソフトだけでなく、質の高いBDソフトの映画ならば積極的に使える。ディテール感の不足については、「リアリティークリエーション」の精細度を高めることで補える。ここでは、標準よりもやや精細度を高めた「30」として、自然な描写に加え、精細さも十分なレベルになった。

画質設定メニューのリアリティークリエーションの項目。マニュアルを選ぶことで詳細な調整が行えるようになり、Mastered in 4Kの入/切もできるようになる
マニュアル調整で「精細度」を調整。調整の幅は100段階あり、好みに応じてディテールの再現性を調整できる
残像を低減する「モーションフロー」は、毎秒24コマの映像を5回表示することで動画補完なしの再生を行なう「True Cinema」を選択

 Mastered in 4K版のBDソフトは、高ビットレート記録ということもあって、一般的なフルHDテレビで見てもその画質の良さが実感できるが、KD-65X9200Aで見ると限りなく元の4Kソースの映像が再現されているかのような、緻密にして自然な映像を満喫できる。「スパイダーマン」シリーズなどの人気作や、「アラビアのロレンス」、「タクシードライバー」などの名作など、タイトル数も増えてきているので、4Kテレビを手に入れたら、ぜひとも合わせて楽しみたいところだ。

 そして、KD-65X9200Aのもうひとつの魅力が音。画面の両サイドに配置された大型スピーカーは、昨今の薄型テレビにありがちな音の非力さを感じさせない、優れ物だ。

左右に迫力の大型スピーカーを搭載
左右に備えるスピーカー。ユニットサイズも大きめで見た目の迫力も十分。磁性流体スピーカー採用のため、薄型ながらも音質は良好

 ソニー独自の磁性流体スピーカーをウーファに採用し、ツイーターとパッシブラジエータを組み合わせ、背面にはサブウーファも2個備えている。アンプ出力も最大出力65Wと、テレビ内蔵スピーカーとは思えない大出力だ。

 ユニットが露出した大胆なデザインも印象的だが、その音の実力もかなりのものだ。詳しくは後で紹介するが、映画でも重低音をしっかりと再現するし、BGMや数々の効果音をしっかりと再現する情報量の豊かさも備えている。

 なにより、スピーカーをサイド配置としたことで画面から音が出ているかのような一体感があり、映画への没入度を高めてくれる。テレビの内蔵スピーカーとは思えない力強い音ということもあり、映画を見ていても不満はあまり感じない。この上を求めるならば、リアル5.1chのシステムを組み合わせるほかはないだろう。

3D再生も迫力満点!! 偏光型ながら解像感の不足もなく、高精細

別売の3Dメガネ「TDG-500P」。電源不要のパッシブ型のため、軽量だ。価格も980円と極めて安価だ

 続いては3D作品「パシフィック・リム」を見てみた。KD-65X9200Aの3D表示は偏光型で、別売の3Dメガネもパッシブ型を使用する。偏光型はパネル上に貼られた偏光フィルターが右目用/左目用の映像を1ラインずつ交互に表示する方式。フルHDテレビの場合は、タテ方向の解像度が半減してしまうが、3,840×2,160ドットの解像度を持つ4Kパネルなので、タテ方向の解像度は1,080画素が維持されるため解像感の低下の心配はない。

 4Kテレビには、今のところ4倍速表示を実現したモデルはなく、アクティブシャッター方式による120Hz表示ではクロストーク(二重像)が目に付くことが少なくないが、偏光式ではクロストークを感じることはほとんどなく、見やすく、しかも迫力満点の立体映像を楽しめる。

 65型の大画面ということもあり、ロボットや怪獣の巨大さがストレートに伝わる。港湾部でバトルが繰り広げられる場面などは、激しい動きで飛び散る細かい水しぶきまできめ細かく再現され、見応えのある映像だ。

 3Dの奥行き感のある映像と、重厚なサウンドを十分に楽しめる音で、3D作品の面白さも存分に満喫できる。偏光式の3Dメガネは価格も安価なので、一緒に揃えておくといいだろう。

地デジ放送も不自然な誇張感なく、スムーズな精細感を楽しめる

地デジ視聴時の「リアリティークリエーション」の調整値。ノイズ処理を「30」として細部のチラチラとしたノイズ感を抑え、より見やすくした

 そして、地デジ放送もなかなか良い。4K(3,840×2,160ドット)テレビで、解像度が1,440×1,080ドット、ビットレートも17Mbpsほどとなる地デジ放送を表示する場合、4Kテレビによっては精細感を欲張るあまり、放送由来のノイズを強調してしまい、映像が見づらくなりやすいこともある。しかし、KD-65X9200Aのデータベース型超解像エンジン「4K X-Reality PRO」は、なかなかの対応力の広さを感じさせてくれた。MPEGノイズなどを目立たせることも少なく、不自然さの少ない4K表示となる。輪郭の不要な強調感もなく、実にスムーズで見やすい映像だ。それでいて、アップになった俳優やタレントの髪の質感や肌のきめなどを丁寧に描き出す。高品質なBDソフトから、地デジ放送、低品質なインターネット動画まで幅広く対応するという点では、随一の実力を持っていると言えるだろう。

 ノイズ感が気になる、あるいはもっと精細さが欲しいという場合は、「リアリティークリエーション」で調整を行なうとよい。「精細度」は不自然さを感じない範囲で調整すればよいが、同時に「ノイズ処理」を併用すると見やすさをキープできる。いろいろな番組を見ながら試したところでは、効果量を30~50くらいにすると、細部のチラつきやノイズ感を抑えつつ、さらに精細な映像が楽しめるようになる。

「シーンセレクト」の選択画面。ここで好みの画質モードを選ぶほか、オートを選択して自動切り替えさせることができる

 このほか、映画やアニメ、スポーツといったジャンルによる画質モードの切り替えは「シーンセレクト」で手軽に行なえるのも便利だ。それぞれの画質モードを手動で切り替えることもできるが、「オート」を選択しておけば、地デジ放送のジャンルコードを判別して自動で適したモードに切り替わるようになる。

 BDソフト再生など外部入力の場合はジャンルコードによる自動切り替えは対応しないが、「オート(24p連動)」としておけば、1080/24p入力時は自動で「シネマ」に切り替わるようになる。基本的にはこれらを選んでおけばいいだろう。

音楽再生の実力を確認。粒立ちがよく広がり感の豊かなサウンド

 映画再生でも音の実力はなかなかのものだとわかったが、今度はCD再生でじっくりと音の実力を確かめてみた。ボーカル曲やロックなどの曲をいくつか聴いてみたが、低音がしっかりと出ることでリズムがしっかりと感じられ、エネルギー感がよく伝わる。ボーカルのクリアな再現も見事なもので、細かな表情の変化もよく出る。

 そして、サイド配置の効果で、音の定位や広がりが優秀だ。ボーカルとギターやベース、ドラムといった楽器の配置もきちんと再現できる。音色としても映像と同じく色づけの少ない自然な鳴り方で、気持ち良く音楽を楽しめる。

 テレビ番組や映画はもちろん、気軽な音楽再生も楽しめるテレビというのはあまりない。リビングにあまり物を置かず、すっきりと映画や音楽を楽しみたいという人にとっては魅力が大きいだろう。

PC接続で広大なデスクトップ画面を堪能。高精細な静止画も大画面で満喫

PCと接続し、Googleマップを表示してみた。デスクトップ画面が広大で、皇居を中心としたかなり広いエリアを一覧できた

 今度は趣向を変えてPCと組み合わせを試してみる。実はPCの4K出力は意外と多くのモデルが対応しており、HDMI接続で3,840×2,160の4K出力が可能だ。今回はVAIO Pro 13から4Kで映像出力した。

 PCでの4K出力は、デスクトップが4画面分に増えるわけで、実用的なメリットも大きい。マルチモニター表示などを行っている人なら、この使い勝手の良さはよくわかるだろう。試しにGoogleマップを全画面表示してみると、東京都内のかなり広いエリアを一画面で表示できた。

 元の衛星写真もそれなりの解像度があるが、これが超解像によってさらに高精細化されるため、ズームで拡大しなくても、探したい場所の道の様子や建物の形状などがよくわかる。単純ではあるが実に楽しい。

4K表示の精細さを拡大。大きなビルはもちろん、小さな建物の外形もわかるレベルの精細さだ

 そして、4Kの大画面の魅力を誰でも手軽に満喫できるのが、静止画の表示。今ではちょっとしたスマホでも4K相当となる800万画素以上の高精細な静止画撮影を行なえるが、そうした静止画を大画面で高精細に表示できるのだ。静止画の表示はPC接続のままで行なうこともできるが、静止画データをUSBメモリに保存したり、デジカメをUSB接続して表示させることもできる。

 今回はUSBメモリを接続したが、USBメモリの読み出しが遅いと写真表示にも影響する。そのため、ある程度早いメモリーカードやUSBメモリを使いたい。

 高精細な静止画は手軽に楽しめるネイティブ4K表示ではあるが、そのインパクトは強烈で、画面に近づいて細かい部分までのぞき込んで見てしまう。写真の展覧会などで大きなサイズにプリントされた作品を見ている感覚だ。カメラ撮影が趣味の人ならば、ぜひとも体験してみてほしい。

USBメモリー経由での静止画表示では、保存された写真を一覧で表示させ、スライドショー表示させることができる
800万画素相当の静止画を表示。大画面のインパクトも大きいが、遠景のビルの窓の奥まで見えるような高解像度は驚異的。手前の公園の石畳や樹木の質感も細部まで鮮明
「フォト色空間」の選択画面。各入力ごとに「Adobe RGB/sRGB/sYCC」などの色空間を設定できる

 静止画表示でありがたいのは、トリルミナスディスプレイによる広色域表示を生かせる点。設定画面の「フォト色空間」を選択することで、デジカメなどでよく使われる色空間定義のAdobeRGBやsRGBなどが選べる。800万画素を超える高精細な静止画を65型の大画面で表示できるというだけで高精細さを満喫できるが、きちんとカラーマッチングがとれるので、大画面の静止画モニターとして使いたい人にも有効だ。デジタル一眼などを使って、こだわった撮影を行っている人にとっては魅力は大きいだろう。

 また、KD-65X9200Aはスマホの画面をテレビ画面に表示する「ミラーリング」も可能。ワンタッチミラーリング対応のスマホなら、付属のNFCリモコンを使って背面のNFCロゴにタッチするだけで画面をテレビに表示し、撮影した静止画の大画面表示などが可能。または、MHLケーブルを使ってHDMI接続して同様に表示することも可能だ。

基本操作に絞り、手軽に使えるNFCリモコン。NFCロゴは背面にあり、対応するスマホなどをタッチする

4Kコンテンツにも期待大。4Kテレビはもっと幅広く活用できる

 BDや地デジの画質/音質の満足度が高いのはもちろんだが、これからの4Kコンテンツについても、前述のようにHDMI 2.0に対応したことから、外部機器を使った4K体験が期待できる。

FDR-AX100

 このほか、4K/60p記録に対応したハンディカム「FDR-AX1」や4K/30p/24p撮影が可能な「FDR-AX100」の登場で、4K動画撮影の楽しみがより身近になりつつあり、4Kテレビのポテンシャルを味わい尽くせるネイティブ4Kの楽しみはどんどん広がっている。KD-65X9200Aは、こうした楽しみにきちんと対応しているので、購入後どんどん充実していくネイティブ4Kコンテンツを存分に味わえる。

 大画面のテレビだけに、決して手軽に購入できる価格とは言いにくいが、画質・音質の充実度や将来性などを考えると、けっして高くはない。

 4Kテレビは、単なるテレビというよりも、4K解像度を活かした多彩なコンテンツの魅力を存分に味わえるディスプレイと言える。これからの映像と音の楽しみをさらに豊かに味わいたいならば、KD-65X9200Aは満足度の高い1台と言えるだろう。

(協力:ソニーマーケティング株式会社)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。