レビュー

第2世代ハイレゾポータブル「AK100II」、「AK120II」を第1世代と比較。バランス駆動も体験

 iriver Astell&Kernのハイレゾポータブルプレーヤーの新モデル「AK100II」と「AK120II」がいよいよ出揃う。AK120IIは一足先に6月から直販価格は208,000円(税込)で発売されており、「AK100II」は7月下旬に直販価格109,800円(税込)で発売予定だ。2モデルとも、具体的な価格がわかった事で、より気になっている人も多いだろう。

 音質や概要については、以前、アユートに潜入して速報的な試聴記事でレポートした通りだが、今回はAK100II/120IIを手元にお借りして、バランス接続なども含め、前回レポートできなかった部分を中心に使ってみたい。

AK100/120が第二世代に。筐体は縦長

 外観や概要は、以前の試聴記事でレポートしているが、軽くおさらいしておこう。AK100/120と比較し、AK100II/120IIはどちらも縦長筐体になっているのが特徴だ。

まずはケースから。左がAK120II、右がAK100IIだ
左がAK120II、右がAK100II。AK120IIの方が少し背が高い
第1世代モデルにあたるAK120(左)、AK100
左からAK100、AK120、AK100II、AK120II、AK240

 ディスプレイは3.31型の有機EL、解像度は480×800ドットで、最上位のAK240と画面サイズは同じ。複雑な形状をしているAK240と比べ、AK100II/120IIはシンプルな板状だ。スマホなどの操作に慣れていると、こちらの方が持ちやすく、操作しやすく感じるかもしれない。

左がAK120II、右がAK100II。ディスプレイのサイズは同じだが、高さが違う

 右側面の上部にダイヤル式のボリュームノブを搭載。AK100/120からデザインは大きく変わったが、飛び出したボリュームノブだけは変わらず、AKシリーズ共通のデザイン・アクセントと言えるだろう。回すとカチカチと精密な動作が心地よく、回し心地の良さは、従来モデルより格段に進歩していると感じる。腕時計の竜頭を参考に、質感を追求したとのことだ。

右がAK120II、左AK100IIのボリュームツマミ
手前がAK240のツマミ

 素材はどちらのモデルもアルミニウム。手にした時の質感は高く、縦長筐体だが、内部パーツがミッチリ詰まった感覚も高級機ならではのものだ。凝縮感や本体の固さという意味では、上位モデルのジュラルミンとカーボンプレートを使った最上位のAK240がさらに上質ではあるが、AK100II、AK120IIが安っぽいという事は決してない。

左からAK100II、AK120II、AK240
左からAK100II、AK120II、AK240

 形状がよく似ているのでAK100IIとAK120IIは同じサイズのボディなのかと思いがちだが、実はAK120IIの方が少し縦に長い。外形寸法はAK100II111×55×14.9mm、AK120IIが118×55×14.9mmだ。重量は170g、177gであまり違いはない。

 また、カラーも少し違う。写真を見るとAK100IIの方がわずかに青っぽいのがわかると思うが、カラー名は「スモーキーブルー」、AK120IIは「ストーンシルバー」となる。色味の面ではAK120IIの方が“アルミの素材っぽさ”がよく出ているが、落ち着きのあるストーンシルバーの方がカッコイイと感じる人もいるだろう。

 AK240を含め、3機種に共通する特徴は、通常のステレオミニヘッドフォン出力に加え、2.5mmマイクロミニの4極バランス出力も装備している事。バランス駆動対応のヘッドフォン/イヤフォンに、対応のケーブルを用意すれば、ポータブル環境でもバランス駆動が楽しめる。これまではAK240の特権だったが、AK100II/120IIでより身近になるわけだ。人気プレーヤーのバランス駆動対応モデルの拡充は、リケーブルやイヤフォン/ヘッドフォン市場にも影響を与えそうだ。

AK120II
AK100II
どちらも2.5mmマイクロミニの4極バランス出力も装備している。並べてみると、カラーが違うのがわかる

 内蔵メモリはAK120IIは128GB、AK100IIは64GB。microSDスロットも1基搭載しており、最大128GBまでのカードまで利用できる。

 DACはシーラス・ロジックの「CS4398」で共通だが個数が異なり、AK100IIは1基、AK120IIはデュアルDACだ。AK120IIは続くアンプ部分もデュアルDACにあわせ、左右独立したディスクリート構成のアンプを採用している。

 再生可能なファイルに違いはない。WAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE(Normal/High/Fast)、AAC、Apple Lossless、AIFFとDSDのDFF/DSF。FLAC/WAV/Apple Lossless/AIFFは384kHz/32bit Float/integerまで再生可能だ。ただし、384kHzは192kHz、352.8kHzは176.4kHzへ、32bitは24bitへダウンコンバートしての再生となる。

 DSDは2.8/5.6MHzのファイルが再生できるが、AK100II/120IIでは、ネイティブ再生ではなく、PCMの176.4kHz/24bitに変換しながらの再生となる。AK240はXMOSのチップを搭載し、DSDのネイティブ再生が可能。これが最上位モデルとの大きな違いだ。

 PCとUSB接続し、USB DAC+ヘッドフォンアンプとしても利用できるが、対応データはPCMで最高96kHz/24bitまで、DSDも5.6MHzまで再生は可能だが、PCMの96kHz/24bitに変換しながらの再生となる。

AK120IIに付属するイタリアの皮革ブランド・BUTTEROのリアルレザーケース
AK100IIのケースはイタリアン・ポリウレタンレザー

AndroidベースのOSで直観的な操作性

 AK240と同様に、独自にカスタマイズされたAndroidベースのOSを採用している。Androidと言っても、スマートフォン/タブレットのようなアイコンが並んだホーム画面があるわけではなく、Google Playでアプリを追加する事はできない。あくまで音楽プレーヤーとして作りこまれているものだ。当然、動画再生機能なども無い。

 ホーム画面にはプレイリスト、アルバム、ジャンル、アーティストなどの楽曲検索用ボタンが並び、階層を降りていくシステム。再生中画面では、左上の矢印ボタンをタップすると、上の階層へと戻れる。また、写真では見にくいが、ディスプレイの下部中央に丸いセンサーが埋め込まれており、ここに触れる事で戻る事もできる。

 メニューはこなれており、マニュアルを見ずに操作ができるだろう。こうした基本操作をしているだけでは、正直Androidなのかどうかはわからない。しかし、ちょっと複雑な操作をしようとすると、「まさにAndroidベースだな」という部分が顔を覗かせる。

 例えば楽曲をプレイリストに登録する場合は、曲の一覧画面で、リストに追加したい曲を長押しすると、楽曲を“掴んだ”状態になり、プレイリストや、再生リストなどに追加するためのボタンマークが現れる。目的のマークの上に曲をドラッグし、指を離してドロップすると、プレイリストに追加できるという仕組み。直観的な操作であり、今までの音楽プレーヤーとは雰囲気の異なる操作性だ。

 プレイリストに名前をつける時も、ソフトウェアキーボードが現れ、漢字変換も含めた日本語入力ができる。

 前述のホーム画面では、並んでいるタイル状のアイコンも長押しタップで“掴む”事ができ、配置を自由に変えられる。こうした点も、今までの音楽プレーヤーではなかなか無かった点だ。

楽曲一覧で曲を長押しタップし、プレイリストにドラッグ&ドロップ
目的のリストに曲を追加できる
ボリューム調整画面
日本語入力も可能だ
左からAK120II、AK100II。メニューデザインはほぼ同じだ
ホーム画面に並ぶ操作ボタンを長押しタップで掴み、配置をカスタマイズできる
楽曲一覧表示
アルバム一覧表示
デザインテーマも選択できる
画面を上から下にスワイプすると、ショートカットメニューが現れる

 また、画面を上から下へとスワイプすると、ショートカットメニューが表示される。ここからイコライザ設定やバランス出力、再生モードの切り替え、無線LANやBluetooth機能のON/OFFなど、よく使う設定項目に瞬時にアクセスできる。

音を聴いてみる

 以前の記事ではAK100II、AK120II、AK240との比較をメインに書いたので、今回は第1世代モデルとなるAK100、AK120との比較をメインにしてみよう。

AK100、AK120と比較した
AK100(左)とAK100II(右)を較べてみる

 まずAK100(BOOST ON状態)と、その第2世代モデルとなるAK100IIを較べてみる。再生曲は192kHz/24bitの「イーグルス/ホテルカリフォルニア」だ。

 AK100のサウンドはスッキリとした印象で、中低域の主張が弱めだが、それゆえ高域を中心に、細かい音の動きが見やすい。精密なサウンドだ。AK100IIに切り替えると、音場にグッと奥行きが出て、そこに定位する音像にも立体感が生まれる。全体的に肉厚になり、旨味が増える。再びAK100に戻ると、音が薄く感じてしまう。

 簡単に言ってしまえば、AK100IIは低域の馬力がアップするという事だ。低音が出れば良いというわけではないが、AK100自体は高域寄りのバランスであるため、AK100IIの方がバランスとしては理想に近い。音楽に迫力が出ると同時に、立体感が生まれる事で、演奏がリアルに感じられるようになり、意識に対する支配力がアップ。AK100でさらりと聞き流せて他の作業もしていられた曲が、AK100IIでは思わず手が止まってしまう。

 次にAK100IIとAK120を較べてみる。価格が近いだけあり、これが実に良い戦いで、悩ましい。厳密に聴いていくと、音場の広さはAK100IIの方が優れており、細かな音は聴き取りやすいが、デュアルDACのAK120の方が低域の沈み込みが深く、響きも豊かだ。低域がしっかりした音が好きな人はAK120の方が好みだと感じるだろう。

 ただ、ここで終わらないのがAK100IIだ。バランス駆動にも対応しているので、バランス駆動に切り替えてみると、音の勢いが増し、厚みがAK120にかなり近づく。それでも張り出しの強さはわずかに及ばない印象だが、逆に「AK120ほど低域が強くなくて、このくらいスッキリしていた方が好き」という人も多いだろう。低域以外の面では、中高域の音の広がり、音の細かさはアンバランス時よりさらに向上。AK120IIの方がこれらの面では上手だ。

AK120(左)とAK120II(右)

 次に、AK120とAK120II(アンバランス)を較べてみる。AK120を聴いた後で、AK120IIに切り替えると、上下のレンジが拡大、音場の奥行きも深くなり、サーッと空間が広くなったように感じる。AK120はボーカルなど、個々の音が前に出て、ミッチリ感のあるサウンドだが、AK120IIは空間表現を得意とするサウンドになっているのが大きな違いだ。最前列でボーカルの声と対峙しているようなAK120に対し、AK120IIは、ボーカルの響きが背後の空間に広がり、消えていく様子に気づかせてくれる。好みによって評価は別れると思うが、AK120IIの方がピュアオーディオっぽい、大人なサウンドと言える。音の張り出し、パワー感、低域の音圧の強さなどはAK120の方がインパクトがある。

 ラストにAK100IIとAK120IIをアンバランスで比較。どちらもワイドレンジで高精細な描写だが、低域の深みや音場の広さはAK120IIの方が上手。デュアルDACによる情報量の多さに加え、低域もドッシリと低重になっているため、安定感を感じる。

AK100II(左)とAK120II(右)

 AK120IIは音のコントラストも深く、コクというか、音楽の美味しいところをより情感豊かに再生してくれる。音が派手になるのではない。1つ1つの音の出方が強いため、細かな音もハッキリ聴き取れる。

 AK100IIの良さは、スッキリとした音場の見通しの良さと、まとまりの良さにある。「Suara/sakura」のようなシンプルな女性ボーカルでは、歌手の口の開閉が生々しく、すぐ目の前に立っているかのように感じるAK120IIと比べ、AK100IIは広い空間に音像が定位している様子を、一歩下がって、全体を見渡しながら聴く事ができる。情報量が少ないわけではない。口の開閉など細かな音も聴こえるのだが、それを目の前にグッと出されるAK120IIと、綺麗に整列させてみせるAK100IIという違いだ。

 AK120IIの音は、音質の良さがわかりやすく、メリハリもあるため、恐らく多くの人が「こちらの方がより高音質」と感じるだろう。ただ、AK100IIの音が悪いというわけでは決してない。見通しが良く、低域をさほど張り出させず、かすかな質感も丁寧に描写する姿勢にはAK120IIには無い魅力がある。「低域を控えめにして、中高域の繊細なAK100IIの方が好きだ」という人がいてもまったくおかしくはない。

バランス駆動にもチャレンジ

 第1世代と比較した際、AK100II、AK120IIの大きな魅力となるのがバランス駆動への対応だ。前述の通り、2.5mm 4極のバランス出力を備えており、ケーブル着脱が可能なヘッドフォン、イヤフォンと、対応するケーブルを用意すれば、手軽にバランス駆動が楽しめる。

 ケーブル交換だけでも音は変化するものだが、バランス駆動ではそれに輪をかけた音の変化が体験できるため、今までリケーブルをしたことがなかった人も、バランス駆動への対応とセットで挑戦してみると面白いだろう。

2.5mm 4極のバランス出力に対応している
試聴には「e☆イヤホン」のオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」を使用

 試聴には「e☆イヤホン」のオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」を使用。このヘッドフォンはMMCXを採用しているため、MMCX-2.5mm 4極のケーブルを用意すれば、バランス駆動が楽しめる。

 そこで、ミックスウェーブが販売しているBeat Audioの「2.5 mm Balanced Supernova」(オープンプライス/実売28,500円前後)と、ALO audio製の「2.5mm Balanced SXC 24 Earphone Cable-MMCX」(ALO-2439/オープン/42,000円前後)を用意。聴き比べてみた。

Beat Audioの「2.5 mm Balanced Supernova」

 「SW-HP11」に標準で付属するアンバランスケーブルは導体にOCCを使ったものだが、バランスケーブルの「Supernova」の導体は銀メッキを施した高純度銀線、ALO audioの「SXC 24 Earphone Cable」は、クライオ/アニール処理を施した高純度銀メッキ銅(SXC)を使っている。

 まず、付属のアンバランスケーブルと、バランスの「Supernova」を比較すると、付属ケーブル時に聴こえた中低域の盛り上がりが大人しくなり、全体的にスッキリした描写になる。この傾向は、情報量の多いAK100II/120IIの細やかな音と相性が良く、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生し、ギターの弦を聴くと、ギターの筐体の響きがタイトになり、弦の動きが見やすくなる。

 音場は広く、情報量も多い。これはバランス駆動による恩恵も効いているだろう。ただ、これは銀線のケーブル全般に言える事だが、低域や響きがタイトになる事でクールなサウンドにはなるが、迫力は薄くなる。低域のパワー感、響きの芳醇さなどを重視する人には、スッキリし過ぎと感じるかもしれない。

 ALO audioの「SXC 24 Earphone Cable」に変更すると、「Supernova」の微細な高域描写を維持したまま、中低域のグォッというパワーが戻ってくる。響きも芳醇で、低域の沈み込みも深く、バランス駆動になった事で音場もアンバランス時よりさらに広い。

ALO audio製の「2.5mm Balanced SXC 24 Earphone Cable-MMCX」

 じっくり聴いていると、やや硬さのある「Supernova」の高域に対して、「SXC 24 Earphone Cable」はクセが無く、同時にしなやかさもある、質感がよくわかる高音になっている。バランスの良さ、色付けの少なさは、付属ケーブルと良く似ているが、そこを起点に、全方位にグレードアップした“上位ケーブル”という風格だ。

 実売2万円を切る「SW-HP11」に、実売4万円を超えるケーブルを組み合わせるのはややアンバランスではあるが、高価なだけはあると感心する完成度だ。

約10万円の価格差をどうとらえるか

 AK100/120の第1世代モデルと、AK100II/120IIの第2世代モデルを比べた場合、AK120とAK100IIなど、音質的にどちらが上から悩ましい機種もあるが、それ以外の部分、例えば操作性やバランス駆動への対応なども加味すると、あえて第1世代を買うのではなく、AK100IIかAK120IIをオススメしたい。

 AK100IIとAK120IIどちらを選ぶかと考えると、価格差がわずかであれば「せっかくだからAK120IIを買っちゃおう」となるが、AK120IIは直販208,000円(税込)、AK100IIは同109,800円(税込)と、10万円近い開きがあり、なんとも悩ましい。聴き比べて、価格差をどう感じるかにかかってくるが、AK100IIで十分と感じる人も多いかもしれない。

 AK100IIをあえて選び、残った予算で良いイヤフォン/ヘッドフォンを買うというのも1つの選択肢だろう。

 AK120IIを選ぶ人は、むしろその上に君臨するハイエンドモデル「AK240」(293,143円)が気になるところだろう。こちらも価格差は小さくない。詳しい比較は以前掲載した通りだが、AK240の方がじゃっかん低域寄りのドッシリした音で、高域の質感、空気感はAK240の方が優れており、ピュアオーディオライク。対するAK120IIはクールなモニター調だと感じる。

 AK120IIの音は、AK240にかなり迫ってはいるが、DSD再生ではネイティブ再生のAK240が明らかに一枚上手で、DSDらしいアナログライクな滑らかな音が楽しめる。DSDファイルのライブラリをどれだけ持っているかでAK240かAK120IIかを決めるというのもアリかもしれない。

 費用を抑えつつ、操作性に優れたハイレゾポータブルプレーヤーが欲しいという場合はAK100IIだろう。この価格でも、外部アンプなどを繋がずにバランス駆動が楽しめる発展性もある。AK120はデュアルDACの情報量と、張り出しの強い音を持ちつつ、モニターライクな空間表現も実現したオールマイティーに使える一台と表現できる。音場の広さより、低域のパワフルさ、元気の良さが欲しいというのであれば第一世代のAK120という選択もある。AK100II、AK120II登場後もAK100/120は併売されるため、ニーズや予算に合わせたラインナップが純粋に増えるのはユーザーとして歓迎したい。入門から超ハイエンドまで、AKシリーズの勢いを感じさせる、多彩かつ完成度の高い新ラインナップだ。

山崎健太郎