レビュー

小型でもPC/iPhone/ウォークマン/バランス対応。ラトックのポタアン「REX-KEB02iP」を聴く

ラトックシステムが7月下旬から発売している、DAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプ「REX-KEB02iP」。

 見た目はシンプルなポタアンだが、384kHz/24bitまでのPCM、5.6MHzのDSD再生に対応し、iPodもウォークマンもPCも接続でき、おまけにヘッドフォンのバランス駆動も可能という、昨今のトレンドを積極的に取り入れた注目機だ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5万円前後となっている。

iPhoneにウォークマン、PC、豊富な接続相手

 外形寸法は69.2×102.2×23.4mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約230gと、ポータブルアンプの中でも小型だ。特にバランス駆動対応のモデルでこのサイズはなかなか魅力的。

 デザインは“黒い四角い箱”で良くも悪くも地味だ。アンプの存在をあまり主張したくないという人や、この“無骨さ”が良いという人もいるだろう。個人的にはもう少しデザイン性が欲しいと感じる。しかし、筐体やボリュームつまみは金属製なので触ってみると質感は高い。

REX-KEB02iP
側面
天面

 連携できる相手は豊富だ。大きく分けて、Windows/Macなどと接続する「USB DACモード」、Ligntning-USBケーブルや30pin-USBケーブルで接続したiPhoneやiPodからのデジタルオーディオ出力を再生する「iPod互換モード」を備えている。

 前述のようにUSB DACモードでは、384kHz/24bitまでのPCM、5.6/2.8MHzのDSDファイルにも対応、DSDのネイティブ再生(DoP)にも対応する。実際に、Windows 7のPCと接続し、foobar2000を使ってPCMやDSDのハイレゾファイルを再生したところ、問題なく音が出た。

 ディスプレイは備えていないが、背面にインジケーターがあり、PCMのデータを受けていれば緑に、DSDデータであれば赤く光る。

 USB B端子がPC接続用。左端にあるUSB A端子はiPod接続用だ。Ligntning-USBケーブルや30pin-USBケーブルでiPhoneと接続すると、48kHz/16bitまでの再生となる。iPhoneからハイレゾデータを再生する場合は、後述するカメラコネクションキットを介して、PC用の入力端子に接続する必要がある。

通常のDockケーブルでiPhoneと繋いだところ
カメラコネクションキットとHF Prayerなどを組み合わせれば、iPhoneからハイレゾ再生も可能
PCと接続してUSB DACとしても動作する

 オンキヨーのハイレゾ再生アプリ「HF Prayer」をインストールしたiPhoneを用意。カメラコネクションキットを介してアンプとUSB接続し、192kHz/24bitのPCMや、DSDファイルを再生したところ、問題なく音が出た。PCの代わりにiPhone+HF Prayerを使っているようなイメージで、iPhoneの標準音楽アプリではハイレゾ再生はできないので注意が必要だ。

背面端子部
インジケーターのカラーでPCMやDSDが判別できる

 さらに、ウォークマンとの接続にも対応している。ウォークマンには周辺機器として、ハイレゾオーディオ出力ケーブル「WMC-NWH10」が用意されている。NW-F880に、このケーブルを介して接続する事で、DACにデジタルデータでの伝送が可能。REX-KEB02iPからキッチリ音が出た。

ウォークマン用ハイレゾオーディオ出力ケーブル「WMC-NWH10」を使って、組み合わせたところ
プレーヤーとアンプを固定するゴムバンドも付属している

 なお、USB DACモードとiPodモードの切替は背面のスイッチで行なうが、USB DACモードにはバスパワーで電源供給する「USB-BPモード」と、内蔵バッテリで動作する「USB-BTモード」が用意されている。

 パソコンとの接続時にはUSB-BPモードとUSB-BTモードが両方使用できる。iPad+カメラコネクションキットやウォークマンのハイレゾ出力用USBケーブル利用時にはUSB-BTモードを利用する形だ。

 DACはESS製の「ES9018K2M」が採用されている。高速クロック(80MHz)からマスタークロックの生成と、リクロックによるオーディオ入力のジッタ除去が特徴。さらに、内部には2個の独立した高精度水晶発振モジュール(22.5792MHz/24.576MHz)も搭載。USBから入力されたデータをI2S信号へ変換し、DAC部に供給している。

 なお、「ES9018K2M」のデジタルフィルタ切り替えスイッチも用意されている。ユーザーが好みに合わせてシャープ/スローの設定変更が可能だ。

バランス出力にも対応

 出力端子を見てみよう。通常のステレオミニのアンバランス出力を1系統備えるほか、2.5mm、モノラルミニミニのバランス出力端子(2端子構成)も備えている。ラトックがこれまでポータブルアンプで積極的に採用してきたもので、対応するケーブルを使えば、イヤフォン/ヘッドフォンのバランス駆動が可能だ。

前面の出力端子部

 昨年、ラトックの低価格なバランス駆動対応ヘッドフォンアンプ「REX-KEB01F」をレビューした際に、クリエイティブのヘッドフォン「Aurvana Live!」(HP-AURVN-LV)を改造。2.5mmモノラルミニミニ端子×2のバランス接続対応とした。このヘッドフォンがあるので、後ほどバランス駆動の音も試聴してみよう。

クリエイティブのヘッドフォン「Aurvana Live!」(HP-AURVN-LV)を改造したバランスヘッドフォンと接続

 バランス駆動回路には、TI製「TPA6111」をフルバランス構成によるBTL接続で採用している。L/Rチャンネルそれぞれに搭載し、チャンネルセパレーションの向上や、クロストーク特性の改善、分離感、定位感、表現力の向上が期待できる。

 一方、アンバランスの出力向けにはTIの「TPA6138A」と独立したアナログフィルタを搭載。バランスとアンバランスの出力回路には、どちらも出力コンデンサを使用しないOCL回路を使っている。出力はバランスが1.7Vrms/131mW(22Ω時)、アンバランスが1.62Vrms/38mW(68Ω時)。

 バッテリを内蔵し、iPodモード/USB DACモードのいずれも約5時間の連続再生が可能(バランス接続/300Ω負荷/ボリューム12時位置)。外形寸法は69.2×102.2×23.4mm(幅×奥行き×高さ)。重量は約230g。

音を聴いてみる

 まずはPCとUSBで接続、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」、「イーグルス/ホテルカリフォルニア」などのハイレゾファイルを再生してみる。ヘッドフォンは「e☆イヤホン」オリジナルの「SW-HP11」で、アンバランス接続だ。

 空間描写が広く、精密な描写。細かな音がよく見えるサウンドだ。低域はさほど強くなく、パワーでグイグイ前に出てくるタイプではなく、スッキリとしたワイドレンジサウンドだ。丁寧で繊細な描写はESSのDACらしいサウンドだが、繊細過ぎて“線が細い”とまではいかない。華奢な音ではなく、メリハリもキチッとある。今までのESS DAC搭載製品のイメージと少し違う音だ。

 静かな環境で聴く場合は、繊細な描写も良いが、ポータブルアンプの場合は外で使う機会が多いので、適度なメリハリがあった方が音楽の“美味しいところ”が聴き取りやすいだろう。

 ボリュームを上げていくと、低域もパワフルになり、安定感のある腰の座った再生になる。ボリュームを少し上げ目に使った方が良いアンプだ。逆に言えば、小音量時は高域寄りの腰高なバランスに聴こえる。組み合わせるイヤフォン/ヘッドフォンにもよると思うが、ゲインの切り替えやボリュームによって、気持ちのいい音が出るポイントを探すと良さそうだ。

 iPhoneにカメラコネクションキットを介して接続。HF Prayerを使ってDSDファイルを再生する。繊細な描写とDSDの相性は良く、クラシックの弦楽器などの描写が、PCMへの変換再生よりも質感豊かでアナログライクなサウンドが楽しめる。低域の膨らみが少ないので、細かな音の変化はわかりやすい。

 ウォークマンのNW-F880とハイレゾ転送ケーブルで接続。ウォークマンからの直接再生の音と聴き比べると、音場の奥行方向がグッと拡大、左右の広さも1.5倍くらいになる。同時に、中央のヴォーカルの音圧もアップし、こちらに一歩近づいてきてくれる。音が良く聴き取れると同時に、その背後に広がる空間も広くなるため、非常に立体的なサウンドに変化した。ギターの弦の動きや、ピアノの響きの余韻などの描写もより丁寧だ。

 ここまではアンバランスで聴いていたが、バランス接続のヘッドフォンに切り替えると、印象がまた変わる。輪郭にメリハリがありつつも、どちらかというと大人しめのサウンドだったが、バランス接続で駆動力がアップと、音の1つ1つがパワフルに、押し出す力が強くなる。穏やかなサウンドから、アグレッシブなサウンドに変化する印象だ。

 ただ、大味でドンシャリな音になるわけではない。音場の広さや奥行きは、むしろアナログ接続よりも拡大。その広いサウンドステージの上から、力強く音楽が奏でられて気持ちが良い。低域もパワフルになるが、勢いが変化するだけで、音の沈み込みはそこまで深くはならない。

 また、音の出方が強くなる事で、女性ヴォーカルやドラムのシンバルの高音などが、強すぎて痛いと感じる部分もある。前述の、輪郭のメリハリも、さらに鮮明になる印象だ。個人的に、質感を重視した艶やかなサウンドが好きなので、アンバランスの方が好みではあるが、バランスのパワフルな心地良さも捨てがたい。「アンバランスとバランスの中間くらいの音がいいなぁ」と感じる。ただ、1台のアンプで2つのキャラクターが楽しめると考えると、バランス対応アンプにはお得感がある。

まとめ

 PCでもウォークマンでもiPhoneでも利用でき、なおかつトレンドのバランス駆動も取り入れつつ、コンパクトな筐体にまとめられている。可搬性も高く、使いやすいポータブルアンプと言えるだろう。

 「REX-KEB02iP」にはバリエーション違いと呼べるようなモデルとして「REX-KEB02AK」という機種が2月に発売されている。これは、USB入力の代わりに、光/同軸デジタル入力を備えたもので、デジタル出力を備えたAstell&Kernのハイレゾプレーヤー、AKシリーズとの組み合わせを想定したものだ。iPhone/ウォークマンには「REX-KEB02iP」を、AKシリーズなら「REX-KEB02AK」というわけだ。

 1点気になるのが、バランス接続が2.5mmのモノラルミニミニ×2端子という、ラトック以外ではあまり見かけない仕様になっている事。この端子に対応したケーブルを用意すればいいだけの話だが、AKシリーズは4極の2.5mm×1端子でバランス駆動を行なっており、両者に互換性は無く、バランス接続ケーブルの使い回しができない。

 AKシリーズの人気も手伝い、4極の2.5mmがバランス駆動の新たなスタンダードになりそうな昨今だけあり、「REX-KEB02iP」も4極2.5mmのバランス端子を採用して欲しかったところ。なお、IFA 2014では、ソニーもバランス駆動対応のヘッドフォンアンプやヘッドフォンを発表しており、これらはバランス駆動に3.5mm端子×2本を使っているようだ。一ユーザーとしては「そろそろ業界的に1つに統一して」と願わずにはいられない。もっとも、この悩みは、“ケーブルにどれだけの投資をするか”によっても変わってくるだろう。

山崎健太郎