レビュー

トランスコードダビングが便利な新「RECBOX +REMOTE」

録画容量を大幅節約。チャプタ対応で捗る番組消化

 アイ・オー・データ機器から、DTCP+対応NAS「RECBOX +REMOTE」の最新モデル「HVL-ATAシリーズ」が発売された。前モデル「HVL-ATシリーズ」の後継機という位置付けで、価格は2TBの「HVL-AT2.0A」が34,900円、3TB「HVL-AT3.0A」が43,400円、4TB「HVL-AT4.0A」が58,300円。

HVL-AT2.0A

 HVL-ATAシリーズでは、外出先から録画番組をリモート視聴できる「DTCP+」対応に加え、番組視聴に便利な機能がアップデートされた。本記事では改めてDTCP+とNexTV-Fベースのリモート視聴を比較しつつ、HVL-ATシリーズに搭載された新機能を中心にレビューする。

DTCP+とリモート視聴は一長一短。PC視聴対応のDTCP+

 近年のテレビ業界における大きなトピックの1つがテレビ番組のリモート視聴だ。RECBOX +REMOTEシリーズが初の対応となった「DTCP+」に加え、2014年には次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)による「リモート視聴」(デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0)が規格化され、ソニーやパナソニック、シャープ、東芝のレコーダ、SCEのネットワークレコーダ「nasne」、パナソニックのテレビなどが次々にリモート視聴に対応した。

 厳密にいうと、NexTV-Fのリモート視聴も著作権保護技術としてDTCP+を使っているものが多いのだが、ここではRECBOXのようなNASを活用したソリューションをDTCP+、NexTV-Fの規格を使ってレコーダやテレビ単体で動作するものをリモート視聴として、違いをまとめてみた。

 どちらの規格も外出先からテレビ番組を遠隔視聴できるという点では共通だが、細かな点で使い勝手に差がある。最も大きな違いは放送中番組の扱いで、DTCP+は録画番組のみが対象なのに対し、リモート視聴は録画番組に加えて放送中のテレビ番組もリモートで視聴可能だ。

 また、DTCP+は基本的にレコーダとDTCP+サーバーという2つの製品で構成され、レコーダに加えてDTCP+対応NASやアダプタなどの機器を用意する必要がある。NexTV-Fはレコーダ自体が搭載できる機能のため、対応レコーダさえあれば別途機器を用意する必要はない。

 一方、DTCP+が有利なのはペアリングの仕様だ。どちらもリモート視聴する機器を事前に登録するペアリングは必要だが、NexTV-Fはペアリング有効期間が90日に制限されており、期間内にレコーダど同一ネットワークに接続して再度ペアリングを行なう必要がある。一方、DTCP+の場合、再ペアリングの必要はなく、一度ペアリングした機器はそのまま継続して利用可能。出勤中や外出先などで視聴する場合はどちらもさほど使い勝手は変わらないが、90日以上自宅を離れるケースではDTCP+のほうが便利だろう。

 対応クライアントは、リモート視聴がiOSとAndroidのみ(nasneの場合はPlayStation Vitaも対応)に対し、DTCP+はiOSとAndroidのほかWindowsにも対応する。ただし、DTCP+対応のAndroidはプリインストールモデルのみで、富士通製の「ARROWSシリーズ」など一部機種に限られている。

 ここまではDTCP+とリモート視聴の仕様比較だが、RECBOXはネットワーク録画に特化したNASということもありさまざまな録画機能を備えているのが特徴。録画機能搭載テレビのHDDとして利用できるほか、スカパー!プレミアムの録画、録画番組のダビング、録画番組のスマートフォン視聴といった多彩な機能が用意されている。

【DTCP+とリモート視聴の比較】
DTCP+リモート視聴
録画番組
放送中番組-
機器NAS+レコーダレコーダ単体
ペアリング期間制限なし90日
ペアリング台数20台6台
対応クライアントiOS
Android
(プリインのみ)
PC(Windows)
iOS
Android

トランスコードダビングやチャプタ対応など新機能を搭載

 「RECBOX +REMOTE」の最新モデルとなる「HVL-ATAシリーズ」は、前モデル「HVL-ATシリーズ」の基本機能を受け継ぎつつ、細かな点で使い勝手の向上が図られた。

HVL-AT2.0A
背面。EthernetやUSB、ファンなどシンプル
パッケージ
Smartplaying Engineを搭載

 その1つがトランスコード機能「Smartplaying Engine」の強化。HVL-ATでもトランスコード機能は搭載されていたが、トランスコードの対象はリモート視聴など録画番組を再生する時のみに限られていた。HVL-ATAシリーズではリモート視聴に加えてダビング時にもトランスコードを行なえるようになり、録画済み番組の容量を最大15倍まで圧縮して保存できる。大量に番組をバックアップしておきたいユーザーには嬉しい機能だ。

 チャプタ情報付き番組をチャプタ情報ごとダビングする機能も搭載。対応クライアントは現在のところiOSアプリ「DiXiM Digital TV for iOS」のみだが、レコーダに録画したときと同様、見たいシーンをチャプタ単位で選択できる。

 なお、ダビング時のトランスコード機能やチャプタ情報のダウンロードにつ
いては、HVL-ATシリーズにも8月のファームウェアアップデートで追加。HVL-ATAシリーズと同等の機能に強化された。

 前モデルまでの機能も引き続き搭載。SCEの「nasne」や、パナソニック「DIGA」、シャープ「AQUOSブルーレイ」など対応機器の録画番組を自動でダビングする「自動ダビング」を使い、録画番組をすべてHVL-ATAシリーズに自動でダビングできる。

 スマートフォン操作にも対応しており、番組視聴だけでなく本体設定やダビングといった一連の操作をスマートフォンで完結することも可能。録画機能搭載テレビやスカパー!プレミアムチューナーの録画先として利用することもできるなど、幅広い録画機能を備えたテレビ向けNASという位置付けになっている。

 HVL-ATシリーズの後継機ということもあり本体デザインはHVL-ATAを踏襲。前面の電源ボタンや前背面のUSBポートなどインターフェイスも変わらず、本体サイズや重量も外形寸法が215×183×40mm(幅×奥行き×高さ)。重量が約1.2kgと共通になっている。

トランスコードは自動ダビングのみ。3段階から圧縮率を設定

無料ソフト「Magical Finder」から設定画面にアクセスできる

 録画番組のトランスコードダビングは、ブラウザからHVL-ATAシリーズへアクセスすることで設定が可能。HVL-ATAシリーズに割り当てられたIPアドレスをブラウザへ入力するか、無料ソフト「Magical Finder」からアクセス可能。HVL-ATAシリーズのホーム画面から「詳細設定」「録画設定」「自動圧縮保存」から設定できる。

 自動圧縮保存は「3倍録画」「5倍録画」「15倍録画」の3段階のみで、番組ごと個別に設定することはできない。また、この圧縮保存が適用となるのは自動ダビング時のみで、手動でダビングする時は通常通りHDかSDかという2択になる。

設定画面
「録画設定」から「自動圧縮保存」を選択
自動圧縮は3段階
圧縮ダビングした番組は「HR」アイコンで表示される

 筆者がメインのレコーダとして利用しているnasneで録画した番組を、最大圧縮である15倍でダビングしたところ、3倍モードは約6Mbps、DRモードは約14Mbpsという高いビットレートだったのが、どちらも約1.6Mbps程度まで圧縮された。15倍というのは、DRモードに対しての圧縮比率のようだ。

 実際に7倍と3倍でも転送してみたところ、7倍は約4Mbps、3倍はnasneで3倍モード録画した番組と同じで約6Mbps程度のビットレートでダビングされた。普段から3倍モードで録画しているユーザーの場合、圧縮率を活かすのであれば7倍または15倍の設定がいいだろう。

DR録画のビットレート
3倍録画のビットレート
15倍録画のビットレート

 最大圧縮率の15倍モードで転送した番組を視聴したところ、フルHD解像度の5インチスマートフォン程度であれば十分に美しい画質で視聴できたが、同じフルHDでも画面サイズの大きい10インチのタブレットで見るとブロックノイズが目立った。とはいえ10インチサイズで視聴してもワンセグに比べれば圧倒的に美しく、スマートフォンで視聴する画質としては十分だ。

録画容量の大幅節約が鍵。最大で10倍近い容量を節約

 しかし、スマートフォンでの再生画質は、実際のところこのトランスコードダビング機能の本質ではない。というのも、対応アプリである「DiXiM Player for Android」「DiXiM Digital TV for iOS」、そしてWindowsソフト「DiXiM Digital TV」のいずれもトランスコードでのストリーミング再生に対応しているため、再生時に好きな画質を選択できるからだ。外出時に通信速度を抑えて視聴したいというだけであれば、わざわざ圧縮率を上げて保存する必要はなく、再生時にストリーミング画質を選べばいい。

「別冊主治医が見つかる診療所」をDRモードと15倍モードでダビング。容量は10倍近い差

 それではトランスコードダビングが不要なのかというとそうではない。トランスコードダビングの本質はむしろ録画番組の保存容量だ。例えば3倍モードで録画した30分番組の容量は1.3GB近いが、これを15倍でダビングすると約400MBまで容量を減らすことができる。同様に30分番組のDR録画は容量が3.2GBだったのに対し、15倍でのダビングは377MB.4とほぼ1/10近くまで容量を減らすことができた。

 番組の録画時間だけで考えれば、トランスコードダビングを使うことでDRモードの約10倍、3倍モードの約3~4倍は番組を録画できることになる。もちろんトランスコードで圧縮しているため画質は落ちるのだが、スマートフォンやタブレットで見る限りは十分な画質だ。画質より録画番組数を優先するユーザーにとってこれは非常に魅力的な機能だろう。

 筆者はドラマやアニメをシリーズで連続録画予約しておくことが多いのだが、なかなか見る時間はないが削除するには惜しい、という番組がnasneのHDDを圧迫し続けている。しかし、このトランスコードダビングを使ってHVL-ATAシリーズに録画番組を待避しておけば、いつか見ようと思う番組はHVL-ATAシリーズに残しつつメインとなるnasneのHDDは常に余裕を持たせられる。もちろん、HVL-ATAの容量も無限ではないのだが、2TB容量をnasneの3倍以上効率的に使えるというのは番組の退避先として非常に有効だ。

 なお、バックアップといってもネットワークダビングの場合、ダビング10の回数を1消費して書き出しているため完全なるバックアップではない。それでも「後で1回見たら消していい」番組であればほとんど問題はないだろう。DVD/BDに書き出す可能性がある番組だけレコーダに残し、それ以外は直近の番組をレコーダで視聴、しばらく見なかった番組はHVL-ATAに自動ダビングしておく、という使い分けがよさそうだ。

スマートフォンのチャプタ再生は現在iOSのみ

 HVL-ATAシリーズもう1つの新機能がチャプタ情報付番組のダビングだ。チャプタ機能に対応したDTCP-IPアプリやソフトであれば、チャプタ単位で番組をスキップすることができる。

 DTCP+対応のiOSアプリ「DiXiM Digital TV for iOS」は、「Ver.3.0.0」からチャプタ機能に対応しており、nasneなどで録画した番組をチャプタ単位でスキップできていたが、RECBOX +REMOTEシリーズはチャプタに非対応だったため、せっかくチャプタが付いた番組もRECBOX +REMOTEに転送するとチャプタが使えなくなっていた。HVL-ATAシリーズがチャプタ機能に対応したことで、ダビングした番組もダビング前と同じ感覚で視聴することができる。

 なお、DiXiMのAndroid版となる「DiXiM Player for Android」はプリインストールのため搭載端末によって仕様が異なる部分はあるものの、筆者の「ARROWS NX F-05F」ではチャプタ機能を利用できなかった。また、DTCP-IP対応の別アプリ「Media Link Player」はチャプタ機能を搭載しているがHVL-ATAシリーズに転送した番組は再生できず、Twonky Beamは動画の再生はできるがチャプタ機能を搭載していない。このため、現在のところHVL-ATAシリーズのチャプタ機能が利用できるのは「DiXiM Digital TV for iOS」のみということになる。

HVL-ATAシリーズに録画した番組のチャプタ操作が可能に

 チャプタ機能を利用するのに特別な設定は必要ない。チャプタが付いた番組をHVL-ATAシリーズへダビングすればそのままチャプタ付きの番組として再生できる。なお、チャプタ操作が利用できるのは宅内などの同一ネットワークのみで、外出先からのリモート視聴時はチャプタ機能は利用できない。

 nasneがチャプタ機能に対応して以来、自宅のテレビで視聴する際はチャプタで操作するのが当たり前になっていたが、HVL-ATAにダビングした番組も同じように操作できるのは嬉しい。前述の通り、HVL-ATAを後で見たい番組の保存用途として使うのであれば、チャプタ操作も変わらず利用できるという操作性の向上もメリットと言えるだろう。

自動ダビングやスカパー! プレミアム録画なども引き続き搭載

 ここまでHVL-ATAシリーズの新機能を中心に見てきたが、RECBOX +REMOTEならではの便利な機能も引き続き搭載している。

 HVL-ATAシリーズはあくまでNASで、録画機能は搭載しないが、レコーダの番組を自動ダビングすることでHVL-ATAシリーズをレコーダ感覚で利用することが可能。トランスコードダビングにより保存できる番組数も大幅に増えたことで、後で見たい番組を貯蔵する役割として非常に便利だ。

レコーダの番組を自動的にダビングすることでHVL-ATAをレコーダ感覚で使える

 RECBOX +REMOTEの特徴であるDTCP+対応も、最新BDレコーダやnasneがリモート視聴に対応したことでやや役割を失いつつあるように思えるが、nasneのリモート視聴は録画ビットレートが1Mbpsまたは2Mbpsに固定されるのに対し、DTCP+は数百kbpsから数十Mbpsまで複数のビットレートへトランスコードできるため、環境によって画質を選択することも可能。また、現状PCでリモート視聴できるのはDTCP+のみとなるのが大きなメリットだ。

 また、リモート視聴はnasneやソニー、パナソニックの録画機能付テレビやレコーダで対応しているが、これらは比較的新しい製品のみの対応となっているため、対象外のテレビやレコーダではリモート視聴が利用できない。しかしHVL-ATAシリーズを組み合わせれば、あくまでHVL-ATAシリーズの対象機器であるという条件はあるものの、リモート視聴非対応の機器であってもDTCP+を使った遠隔視聴が利用可能になる。

 HVL-ATAシリーズはネットワーク録画にも対応しており、テレビの録画にも利用可能。筆者宅ではREGZA 42Z7000のネットワーク録画用HDDとして前モデルの「HVL-ATシリーズ」を設定しているほか、スカパー! プレミアムサービスチューナーの録画先としても設定している。USB HDDなどで録画した場合、録画した機器と接続した状態でないと番組を視聴できないが、ネットワーク録画であれば別の機器やスマートフォンからも番組の視聴が可能。こうした録画に対する汎用性の高さもHVL-ATAシリーズの魅力の1つだ。

スカパー!プレミアムチューナーの録画先にも設定できる

録画番組を消化しきれない人に。トランスコードが便利

 前モデルと比べると、トランスコードダビングとチャプタ付ダビングという機能が強化されたHVL-ATAシリーズだが、トランスコードダビングは使い方によっては非常に面白い。録画したはいいもののタイミングを逃して見ることができず、しかし消すには惜しい……、という思いが重なってHDD容量を圧迫しているユーザーにとって、画質をある程度落としてでもバックアップしておける環境は非常に魅力的だろう。

 録画番組の遠隔視聴という点でもトランスコードストリーミングで幅広いビットレートを選択でき、一度ペアリングすればその後しばらくは必要ないという優位性もある。また、PCからも外出先から録画番組を視聴できるというメリットも大きく、外出先からはPCの視聴がメインというユーザーにとっては手放せない存在と言える。

 レコーダと連携したダビング先としての使い方はもちろんのこと、本来の使い方である録画機能搭載テレビやスカパー! プレミアムのレコーダとしても活用できる。本体の機能面ではほぼ満足のHVL-ATAシリーズだが、今後期待したいのはアプリの機能向上。例えば、PS3/4/Vita用torneのシリーズ連続再生機能は、見たい番組を効率よく探すのに便利なのだが、番組を大量に蓄積できるNASだからこそ、効率的な視聴を手助けしてくれる提案に期待したいところだ。

(協力:アイ・オー・データ機器)

甲斐祐樹