レビュー

AKシリーズの入門に最適、“薄いハイレゾプレーヤー”「AK Jr」を聴く

 高級ハイレゾプレーヤーでお馴染みの、iriver Astell&Kern「AKシリーズ」。先日、40万円を超えそうな超ハイエンドプレーヤー「AK380」の試聴記をお届けしたが、ハイエンドモデルは欲しくても、おいそれとは手が出ない存在だ。そこで注目したいのは、AKシリーズのエントリーとして5月29日に発売された「AK Jr」(エーケージュニア)だ。

AK Jr

 AKシリーズの第2世代モデルである「AK240」、「AK120II」、「AK100II」はいずれも10万円を超える価格で、最も低価格なAK100II(64GB)でも直販価格109,800円(税込)だ。他社のプレーヤーで、例えばソニーのウォークマンのエントリー「A10」シリーズは32GBモデルで25,000円、64GBで34,000円程度で販売されている事を考えると、気軽に購入しにくいシリーズだったとも言えるだろう。

 そんな中、本日から発売が開始された「AK Jr」は、内蔵メモリ64GB。価格はオープンプライスで、直販価格は69,800円(税込)と、他社プレーヤーと比べるとまだやや高価だが、AKシリーズの中ではリーズナブルな位置づけ。AKシリーズの入門機として気になる存在だ。実際、どのような製品に仕上がっているのか聴いてみたい。

上位機種との違いは?

 内蔵メモリは64GB。microSDXC対応のカードスロットも装備し、最大64GBまでのカードが利用可能。つまり、内蔵メモリと合わせて128GBまでの拡張が可能だ。

ホーム画面
アーティスト選択画面
アルバム選択画面

 再生可能なファイルはWAV、FLAC、MP3(CBR)、WMA、OGG、APE、AAC、ALAC(Apple Lossless)、AIFF、DFF、DSFと多彩だ。PCMは192kHz/32bit(Float/Integer)までの再生に対応するが、ネイティブ再生は24bitまでで、32bitデータは24bitへダウンコンバートしながらの再生となる。

 DSDも2.8MHzが再生できるが、PCM 88.2kHz/24bitへの変換再生となる。この点が、より多くのファイルがネイティブ再生できる上位モデルとの大きな機能差だ。なお、DSDを再生してみると、メニュー操作やボリューム操作と実際の動作がワンテンポ遅れる。恐らくPCM変換にCPUの処理能力が割かれているためだろう。操作できないというレベルではなく、「ちょっともたついてるな」という程度だが、ファームアップでの改善を期待したい。

 DACはWolfson製の「WM8740」。お馴染みというか、定番と言って良いチップだが、アナログ回路も含めた丁寧かつ緻密な設計を採用する事で、WM8740のポテンシャルを限界まで引き出しているというのがウリだ。ちなみに第1世代のAK100/120も「WM8740」を使っている。

 USB DACとしても機能する。PCやMacとUSB接続すると、96kHz/24bitまでのデータが再生できる。96kHzまでの制限も、エントリーモデルだと感じさせるポイントだ。対応OSはWindows XP/7/8/8.1、Mac OS X 10.7以上となる。

Bluetooth接続にも対応している

 ヘッドフォン出力はステレオミニ×1系統のみ。AKシリーズ第2世代では、2.5mm 4極のバランス出力を備えているのがお馴染みだが、このモデルにはそれが無い。ただし、出力レベルは1.95Vrms×2ch、出力インピーダンス2Ωの高出力仕様となっている。

 残る上位モデルとの違いは、無線LANを搭載していない事が挙げられるだろう。一方で、Bluetooth 4.0には対応。プロファイルはA2DP/AVRCPをサポートしている。音質第一ではなく、Bluetoothヘッドフォンやスピーカーと組み合わせ、より便利に音楽を楽しみたいというニーズにも応えられるようになっている。

左からAK100、AK120、AK Jr、AK100II。AK Jrが背が一番高い
横から見ると、AK Jrが大幅に細身な事がわかる

 上位モデルのAK100II、AK120II、そして他社ハイレゾプレーヤーと価格が近いモデルと比較したのが以下の表だ。

モデル名 AK Jr ウォークマン
NW-A17
ZX1 iBasso
DX90j
AK100II
価格(税込) 69,800円
(直販)
36,180円
(直販)
76,820円
(直販)
約56,000円
(実売)
109,800円
(直販)
メモリ 内蔵64GB
(+microSD最大64GB)
内蔵64GB
(+microSD最大128GB)
内蔵128GB 内蔵8GB
(+microSD)
内蔵64GB
(+microSD最大128GB)
PCM 192kHz/32bit
(ネイティブは24bit)
192kHz/24bit 192kHz/24bit 192kHz/24bit 384kHz/32bit
(ネイティブは192/24bit)
DSD 2.8MHz
(PCM変換)
2.8MHz
(PCM変換)
2.8MHz
(PCM変換)
5.6MHz
(PCM変換)
DAC Wolfson
WM8740
S-Master HX
※DAC兼アンプ
S-Master HX
※DAC兼アンプ
ES9018K2M×2 CS4398
Bluetooth

薄型ボディ

 ケースから取り出した第一印象は“うすっ!”。縦長な、板のような筐体で、外形寸法は117×52×8.9mm(縦×横×厚さ)だが、8.9mmという数字よりも薄く感じる。横から見るとその理由はよくわかり、ディスプレイ部分よりも、下部に行くにつれて筐体が薄くなっている。

 そのため、目に入るディスプレイ部にはある程度の厚みがある一方で、本体をつまんでいる指先では薄く感じるため、そのギャップから、より薄さが強調されるのだろう。重量は約98g。薄さのわりにはしっかりとした重さがあるが、負担に感じるような重さではなく、金属筐体の質感の高さを反映していると感じる。

横から見たところ。下に向かうにつれて少し細くなっているのがわかる
持つというより、“つまむ”感覚だ
底部にはUSB端子
胸ポケットにもスッポリ収まる

 上位モデルと大きく異なるのはボリュームコントロール部。AKシリーズは、時計の竜頭のような小さなダイヤルを備えているのがある種の“トレードマーク”だが、AK Jrは大きめの円形ダイヤルで、“指先でつまんで回す”のではなく、“親指の腹で転がす”感覚だ。

右がAK100IIのボリュームダイヤル、左がAK Jr
AK Jrの背面。円形のボリュームダイヤルが見える

 竜頭のような小型ダイヤルは、高級腕時計を操作しているような“趣味っぽさ”を演出してくれていたので、無くなったのは正直残念だ。ただ、AK Jrの円形ダイヤルも、別に使いにくいわけではない。むしろ突起をつままなくても、適当に触るだけで回せるので竜頭よりも楽かもしれない。

 音量調整幅は0.5刻みで、計152ステップと細かい。操作中、画面には波紋のようなビジュアルが表示され、これを指でタップする事で、一気にボリュームを変化させる事もできる。

ボリューム操作画面

 ディスプレイは3.1型の液晶で、解像度は240×400ドット。静電容量式のタッチパネルを採用している。OSは上位モデルのようなAndroidベースではなく、第1世代の発展形のようだ。

 だが、基本的な操作方法は第1、第2世代と変わっておらず、ホーム画面に「楽曲」、「アーティスト」、「アルバム」、「ジャンル」、「プレイリスト」、「フォルダ」のアイコンが並び、そこから楽曲などを選択していく。再生中の画面で左上の矢印をタップしていくと階層を戻る。難しい部分はないので、初めて触れる人でも戸惑うことなく使えるだろう。

機能ボタンがかなり大きいホーム画面

 UIデザインで気になるのは、ホームの機能アイコンがかなり大きい事。見やすくはあるが、あまりに大きいので、ホーム画面では再生中の楽曲ジャケットが上部に小さくしか表示されない。ユーザーがサイズ変更できるようになると良いだろう。

 再生中の画面ではジャケットが多くく表示され、その下部に再生/一時停止、曲送り/戻しボタンなどが表示される。歌詞表示やプレイリストへのアクセス、再生中ファイルの詳細表示などにも素早くアクセス可能だ。

再生中の画面。アルバムアートが大きく表示されている
アルバム選択画面
楽曲の詳細情報表示画面

 使っていて気になったのは再生中のシークバー。指先でタップして、好きなところまで引っ張るとその地点から再生できるのだが、かなり細いので、シークバー部分にきちっと指先が当たっていないと認識されない。もう少し太くして欲しいところだ。このあたりの操作のしやすさは今後のファームアップで改善される事もあるだろう。

中央のオレンジ色の部分がシークバー。バーの上、中央にある「G」マークは、ギャップレス再生のON/OFFボタンだ

音を聴いてみる

 いつものe☆イヤホンのオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」に加え、ShureのSE535、Jerry Harvey Audioの「Layla(レイラ) Universal Fit」と「Angie(アンジー) Universal Fit」などと組み合わせて試聴した。

e☆イヤホンのオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」
ShureのSE535

 これまでAKシリーズのエントリーとしてラインナップされていた「AK100」に代わる製品になり、搭載しているDACも「WM8740」で同じ、さらにシルバーの薄い筐体から連想するイメージで、「AK100のようにスッキリとした繊細な音かな?」と予想しながら再生ボタンを押すと、良い意味で裏切られる。

 驚くのが中低域が音圧豊かで、押出の強いサウンドになっている事。AK100は低域の音圧が不足気味で、どちらかというとハイ上がりのサウンドだったが、AK Jrではまったくそういう印象はなく、低重心なドッシリとしたサウンド。DACは同じだが、アンプの駆動力が大幅に向上している事が影響しているのだろう。

 「SW-HP11」を接続し、「イーグルス/ホテルカリフォルニア」(192kHz/24bit)を再生すると、冒頭のベースが「ズズーン」と深く沈み、低音が右耳と左耳から押し寄せ、頭蓋骨を揺するような迫力が味わえる。

 前モデルの「AK100」と聴き比べてみるが、比較してどうこうという次元を超えた、まったく別のサウンドに進化している。ワイドレンジで全体のバランスもよくなっているほか、音場も広く、ドン・ヘンリーのボーカルが広がる範囲もより奥深くまで見通せる。

 デュアルDACを搭載した「AK120」との比較も面白い。AK120は中低域の押出が強く、パワフルなサウンドで、AK Jrと比べるとより中低域の張り出しが強い。力強く、派手目なサウンドだが、良い音なのか? と考えると、AK120はやや“やり過ぎ”感が漂う。張り出しが強く、音像が近く、音場が狭いAK120と、そこまで中低域は張り出さず、バランスの良さを重視し、音場も広いAK Jrだと、後者の方が「音作りが上手くて、大人なサウンド」だと感じる。

 しかし、AK100ほどスッキリし過ぎてはおらず、中低域がパワフルな“元気の良さ”、“わかりやすさ”、“聴き取りやすさ”も持ち味としているのがAK Jrだ。恐らく多くの人が「良い音だ」、「好ましい音だ」と感じるバランスだろう。

ウォークマンAと並べたところ
左からウォークマンA、AK Jr、iBasso Audioの「DX90j」

 ウォークマンAとも比較してみる。「ホテルカリフォルニア」のベースを聴き比べると、「ズーン」と沈む低音の深さと、その低音自体の分解能、キレの良さなどの面で、AK Jrの方が勝っている。どちらも薄型筐体とは思えないほど、低重心なサウンドで驚かされるが、やはり価格が上だけあり、AK Jrの方が上手だ。

 低域以外でも、音像厚みや、定位の立体感がAK Jrの方が良い。ウォークマンAは楽器やボーカルが横並びに整列して見えるのだが、AK Jrは音像と音像の前後の距離感が聴き取れ、音像の向こうに広がる空間も良く見える。全体的に立体感とメリハリがあるため、AK JrからウォークマンAに変更すると、ウォークマンAの方がモワモワっとした平面的なサウンドに聴こえてしまう。

ウォークマン「NW-ZX1」

 同じウォークマンでも「NW-ZX1」(内蔵メモリ128GB/直販71,130円)になると低域の沈み込みはより深く、定位の立体感も増すので、AJ Jrと良い勝負になる。価格もほぼ同等なので当たり前と言えば当たり前なのだが、音圧の高さやメリハリの面ではAK Jrの方がハッキリした音だと感じさせる。このあたりは好みもあるだろう。

 iBasso Audioの「DX90j」は、実売約56,000円ながらESSのDAC「ES9018K2M」をデュアルで、アンプは左右それぞれにTIのオペアンプ「OPA1611」と、高速バッファ「BUF634」を搭載するなど、コストパフォーマンスに優れた製品だ。

 「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」(96kHz/24bit)でAK Jrと対決すると、DX90jはデュアルDAC特有の音圧の強さで、中低域が分厚い。AK120と似たような現象だが、これによってパワフルではあるが、空間の広さは見えにくくなる。

 また、音の輪郭はAK Jrの方がシャープ。広い空間描写も手伝い、クールで清涼感のあるAK Jrに対し、DX90jはモワッと密度の濃い描写。ロックなどを聴く際は、この濃さも良いのだが、音がくっつき気味で解像感の面でも劣るため、オーディオとして評価するとAK Jrの方が優れていると言えるだろう。

 面白いのは、上位モデル「AK100II」との比較だ。前述の通り、AK Jrはメリハリがあり、中低域がパワフルかつ肉厚なサウンドなので、音楽を楽しく、旨味たっぷりに再生してくれる。一方、AK100IIは、AK100ほどではないものの、低域の張り出しは控えめ。どちらかというとクールでシャープなサウンドだ。分解能の面ではAK100IIの方がやや上手で、バイオリンなどで聴き比べると、中高域の音のほぐれはAK100IIの方が見事だ。

 ただ、AK Jrも決してナローなわけではなく、十分に細かな描写はできている。低音を比べると、AK100は中低域の張り出しが強くないだけで、最低音の沈み込みはAK Jrに負けていない。AK100IIはスルメのように、聴くほど良い音が出ている事がわかるプレーヤーで、膨らみのある音を嫌い、タイトなモニターサウンドが好きな人にマッチする。AK Jrは、基本となる再生能力を高めつつ、パワフルさメリハリのある“気持ち良いサウンド”で、これも捨てがたい。個人的にはAK Jrの方が好みで、“下克上”が実現していると感じる。

 DSDがPCM変換になるなど、上位モデルと比べると機能面で見劣りする部分もあるが、単品で見ると、音質の良さ、筐体の作りの良さ、そつなくまとまったGUIなど、よく出来たプレーヤーだ。AKシリーズの入門にピッタリと言えるだろう。

 一方で、AK第2世代の特徴でもあるバランス出力ができず、マニアックな面に期待して購入するモデルではない。薄型筐体を武器に、カジュアルに良い音を楽しむ使い方がマッチしており、マニア向けな印象のあるAKシリーズの今後の展開にとっても重要な製品になると考えられる。

 価格面ではウォークマンAシリーズのコストパフォーマンスの良さが光るが、音質面ではAK Jrの方がワンランク上の世界を見せてくれる。できればAK Jrが4万円〜5万円程度になってくれると文句はないのだが……。いずれにせよ、これからハイレゾプレーヤーを買ってみようという人には、要注目モデルの登場だ。

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AKJR-64GB-SLV

(山崎健太郎)