レビュー

PCいらずでネットワークオーディオ、アイ・オーの「RockDisk for Audio」を使ってみた

 かつてはPC/オーディオに興味のあるユーザーが楽しんでいたネットワークオーディオも、今では当たり前のものになりつつある。ハイレゾを中心に人気を集める音楽配信サービス、AVアンプを買えばネットワーク音楽再生機能が搭載されているのは当たり前で、最近では小型コンポにもネットワーク対応モデルが増えている。

中央にあるのが新「RockDisk for Audio」

 こうしたネットワークオーディオの“要”となるのは、音楽ファイルを蓄積したNASだ。オーディオで使うのであれば、静音でしっかりした筐体のオーディオ用NASが欲しいところだが、いかんせん高価なモデルが多い。また、オーディオに興味があっても“PCに詳しくない”、“そもそも家にPCが無い”などの理由で、NASを買ってもキチッと設定したり、使いこなす自信が無くて手が出せないという人も多いはずだ。

 そんな中、「オーディオ用NASとしては低価格」で「小型で静音」、さらに「セットアップがPCいらずで簡単」、おまけに「PCを使わずにCDの音楽をNASにリッピング・蓄積までできる」という面白い製品が登場した。アイ・オー・データの「RockDisk for Audio」だ。

アイ・オー・データ機器は、ネットワークオーディオの楽曲保存場所として使えるNAS

 「RockDisk」という名前に聞き覚えがある人も多いだろう。もともと、アイ・オーのマニア向け製品を扱うブランド・挑戦者で、「RockDisk Next」というNASが販売されていた。オーディオ向けとしても使えるNASでありながら、低価格で、人気を集めたモデルだ。しかし、主要部品が調達不能になった事で販売終了となり、新たなモデルが開発される事になった。その際、マニア向けの挑戦者ブランドではなく、より多くの人に使いやすいモデルとして、アイ・オー・データブランドからから発売される形となり、それが今回紹介する新モデルというわけだ。

「RockDisk for Audio」。写真はHDDの2TBモデル「HLS-C2.0HF」
従来の「RockDisk Next」

 筐体も一新された。従来モデルは、海外製の基本システムを採用していたが、新モデルではアイ・オーのNASと同じシステムを用いて開発されており、「安定動作に磨きがかかった」という。デザインもよりコンパクトかつシンプル。さらにファンレス仕様となっている。ドライブはHDDモデルとSSDモデルを用意。SSDを選べば、ほぼ無音で動作する。HDDモデルも、発熱や動作音の少ない2.5インチHDDが採用されている。

 なお、デジタル放送の録画番組などを保存するDTCP-IPには対応していない。外形寸法は約85×79×130mm(幅×奥行き×高さ)で、手のひらに乗っかるコンパクトサイズ。重量も約340gと軽量だ。ルータの近くや、オーディオラックのちょっとした隙間などにも置きやすいだろう。消費電力は最大9.5W、平均8W。

サイズは非常にコンパクト。筐体側面はマットな仕上げだ
LANケーブルとACアダプタを同梱する

 直販サイトの「ioPLAZA」で6月下旬から販売され、価格はオープンプライス。直販価格は、SSDの500GBモデル「HLS-C500SHF」が49,800円(税込)、HDDの2TBモデル「HLS-C2.0HF」が28,864円(税込)、1TBモデル「HLS-C1.0HF」が22,384円(税込)。オーディオ用を謳うNASは5万円を超える高価なモデルも多いので、それらと比べるとリーズナブルに感じる。今回はHDDの2TBモデル「HLS-C2.0HF」を使用した。

 なお、6月24日に確認したところ、「スタートダッシュクーポン」として「HLS-C1.0HF」が3,404円、HLS-C2.0HFが3,884円値引きとなるクーポンも提供されていた。

PCを使わずに設定・活用

「導入ガイド」と、各種注意が書かれた「必ずお読みください」が入っている

 従来のNASは、設置時の設定や、音楽蓄積用のNASとしてDLNA関連の設定を行なう際に、PCを使うのが一般的だ。しかし、「RockDisk for Audio」はスマートフォンやタブレットのブラウザから、こうしたセットアップができるという。とにかく“簡単設置”、“簡単利用”を追求しているわけだ。

 “簡単さ”は、製品を箱から取り出した段階でわかる。NASには分厚い取り扱い説明書が付属しているのがお決まりだが、この製品にはそれが無く、カラーでイラストが沢山使われた一枚紙を折りたたんだ「導入ガイド」と、各種注意が書かれた「必ずお読みください」しか入っていない。基本はこの「導入ガイド」に沿っていけば、設置が可能だ。

イラストが多く、わかりやすい「導入ガイド」

 筐体の方もシンプルだ。背面にはEthernet端子と電源ボタン、ACアダプタ接続端子くらいしかない。ACアダプタを接続すると自動的に電源がONに。ルータとLANケーブルで接続したら、スマホの出番だ。iOS/Androidのアプリ「Magical Finder」をダウンロードする。これはLAN内にあるNASを検索するためのアプリだ。

背面端子部

 スマホはNASと同じ無線LANルータに繋がっているので、アプリを立ち上げると、既にNASが見つかっており、「HLS-xxxxxx」(xxxxxx部分は個体によって番号が異なる)という型番が表示されている。「Web設定画面を開く」をタップすれば、ブラウザが立ち上がり、NASの設定画面に移動。管理者パスワードを入力した後、「メディアサーバー設定」から、NASのどのフォルダを音楽サーバーとしてLAN内に公開するのか? を決めれば、オーディオ用NASとしての設定はほぼ終わりだ。

 ホントにPCを起動する事なく、寝っ転がってスマホを何回かタッチしただけで設定できてしまった。PCに詳しくないという人でも、これであれば自分で設定できそうだ。

「Magical Finder」を起動したところ。もうNASが見つかっている
NASの設定画面
AV Watchというフォルダを作成
「メディアサーバー設定」から、AV Watchフォルダを共有フォルダとして登録した

 なお、メディアサーバーは、ネットワークオーディオではお馴染みのTwonky Serverが採用されている。配信できる音楽ファイルはWAV/MP3/WMA/m4a/m4b/OGG/FLAC/AAC/mp2/AC-3、mpa/aif/aiff/asf/dff/dsfと、ほぼ網羅されている。

 NASによっては、DLNAの音楽配信を行なうためのメディアサーバー機能を利用する前に、メディアサーバーのプログラムをユーザーがインターネットからダウンロードし、NASに追加する工程が必要なものもある。“音楽/映像配信用のサーバープログラムがあって……”という仕組みを理解していれば大丈夫だが、最初からインストールされていれば、そんな事を理解する必要はそもそもない。「RockDisk for Audio」の手軽さの特徴と言えるだろう。

 なお、スマホ/タブレットではなく、PCからの設定ももちろん可能だ。「http://www.iodata.jp/r/3022」にアクセスすると、PC向けのMagicalFinderがダウンロードでき、そこからNASを探し、ブラウザで設定ができる。

e-onkyo musicから自動でハイレゾ音楽を保存

 基本的な設定は上記の通りだが、RockDisk for Audioは、NASに新しい音楽を追加する手段として、ユニークな機能を2つ備えている。1つはハイレゾ音楽配信のe-onkyo musicと連携した“e-onkyo musicの自動ダウンロード機能”、2つ目は“PCを使わずCDをNASにリッピングする機能”だ。順に見ていこう。

 「メディアサーバー設定」の中にある「Twonky設定/e-onkyoミュージックダウンローダー設定」をタップすると、「デバイス認証キー」の入力を促される。これは、e-onkyo musicのユーザーIDと、このNASを紐づけるためのキーだ。

 既にe-onkyo musicを利用している人は、e-onkyo musicのマイページを見ると、このキーが書かれている。利用していない人は、これを機にアカウントを作ってみるのも良いだろう。もちろんe-onkyo musicも、スマホのブラウザから利用できる。なお、7月31日までに3モデルのいずれかを購入すると、e-onkyo musicで好きな楽曲を1曲無料でダウンロードできるクーポンもプレゼントされる。

「Twonky設定/e-onkyoミュージックダウンローダー設定」をタップしたところ
e-onkyoミュージックダウンローダー設定画面。「デバイス認証キー」を入れるところがある
e-onkyo musicのマイページに書かれている「デバイス認証キー」を入力する

 この紐付け登録を行なっておくと、e-onkyo musicで購入したハイレゾ楽曲を、NASが自動的にダウンロードしてくれるようになる。というのも、e-onkyo musicには、「購入した楽曲のダウンロード期間は30日間(720時間)」という決まりがある。「購入したけどダウンロードを忘れた」という場合、30日経過するとダウンロードできなくなり、再度楽曲を購入する必要がある。そういうミスを防げるわけだ。

 また、ハイレゾファイルはサイズが大きいため、ダウンロードや、ダウンロード後にPCからNASに移動するのに時間がかかる。だが、この機能を使えば、例えば出先のスマホや、会社のPCから楽曲を購入すると、自宅のNASが自動的にそれを検知し、勝手にダウンロードしておいてくれる。帰宅後に、すぐ購入したハイレゾファイルがネットワークオーディオで再生できる……というわけだ。

 PCを使っても、どのみち購入したハイレゾファイルをNASに保存するのであれば、最初からNASがダウンロードすれば良いじゃんという、ある意味、シンプルな考え方だ。実際にスマホのブラウザからe-onkyo musicで、「響け! ユーフォニアム」の主題歌「TRUE/DREAM SOLISTER」(96kHz/24bit/FLAC)を購入、NASのe-onkyo musicステータス画面をチェックしていると、自動的にダウンロードがスタート。あらかじめ指定したフォルダにキチンと保存してくれた。執事ロボではないが、ちょっとSFチックな機能でニヤニヤしてしまう。

スマホでe-onkyo musicにアクセスしたところ
「TRUE/DREAM SOLISTER」(96kHz/24bit/FLAC)を購入してみる
ダウンロード可能期間は30日間(720時間)
NASのe-onkyo musicステータス画面を見ていると、ダウンロードが自動的にスタートした
e-onkyo musicの購入情報をNASが自動的にチェックし、ダウンロードする間隔は30分、1時間、2時間など、ユーザーが指定できる
PCからNASのフォルダをチェック。キチンと指定したフォルダに保存されている

PCを使わずにCDからリッピング

 ハイレゾ楽曲の購入・蓄積はこれでOKだが、手持ちの音楽CDをリッピングし、NASに保存する時はどうしてもPCが必要になる……と思いきや、これもPCを使わずにできてしまうのが、このNASの特徴だ。

 アイ・オーでは、スマートフォンと連携し、CDをスマホに直接リッピングできる「CDレコ」という製品を展開している。この「CDレコ」用アプリが3月のバージョンアップで、アイ・オー製のNASに音楽を保存できるようになった。これに、「RockDisk for Audio」も対応しているのだ。

PCを使わずに、NASへの音楽CDリッピングにチャレンジ
iOS/Androidの両方に対応した「CDレコ Wi-Fi」(CDRI-W24AI)

 実際にやってみよう。用意したのは、iOS/Androidの両方に対応した「CDレコ Wi-Fi」(CDRI-W24AI)と、Androidスマホ(Xperia Z1)だ。まず、スマホにアプリの「CDレコ」をインストール。CDレコに付属するUSBケーブルで、スマホと接続。すると、CDレコのドライブに挿入している音楽CDが、アプリから見えるようになる。

 アプリのメイン画面には「CDを取り込む」、「曲情報を表示する」、「CDを作成する」という3つの大きなアイコンが並ぶ。右上には設定画面へのメニューがあり、この設定画面から、リッピングした音楽の保存先として、「RockDisk for Audio」を登録できる。

アプリ「CDレコ」のメイン画面。シンプルなデザインだ
リッピングした音楽の保存先としてNASも登録できる

 保存音質はロスレス圧縮(FLAC/ALAC:Apple Lossless)、AACの高音質2(320kbps)、高音質(256kbps)、標準(128kbps/出荷時設定)、長時間(96kbps)から選択可能。FLAC/ALACがあるのは、オーディオユーザーに嬉しいところだ。なお、ロスレス圧縮はAndroidだと標準でFLAC、iOS版ではALACとなる。設定画面の「互換性」の項目をONにしておくと、両方のフォーマットで取り込まれるが、片方で良い場合はOFFにしておけば、取り込み時間が短縮できる。

 設定が終われば、メイン画面から「CDを取り込む」を押し、リッピングしたいトラックにチェックを付けて、取り込みを開始するだけ。リッピング後、データを無線LAN経由でNASに転送し、無事にNASに音楽CDのFLACファイルが保存された。

 なお、Gracenote MusicIDを採用しているので、曲名、アルバム名、アーティスト名、ジャケット写真はインターネットから自動で取得できる。ユーザーが修正する事も可能だ。

アプリ「CDレコ」からドライブの音楽ファイルを認識、取り込む楽曲を指定する
リッピングし、NASに転送しているところ
取り込みが完了。アプリから確認できる。NASに保存されている楽曲は、緑のマークがつく

 アプリの「CDレコ」は良く出来ており、スマホのストレージメモリに保存した楽曲と、NASに保存した楽曲を同じ画面で管理できる。スマホのストレージが満杯になったので、楽曲をNASに転送するといった事も可能だ。

 また、スマホ内のストレージに保存した楽曲と、NASに保存した楽曲を同じ画面で管理できる。NASに保存されている楽曲には緑のマーク、スマホ内ならば青いマークだ。ユーザーはその楽曲がどこに保存されているか、気にせず使う事ができるというわけだ。

 今回はわかりやすさを重視し、CDレコとスマホをUSBで接続したが、無線LANで繋いだり、同じ無線LANルータに接続して連携する事も可能だ。その際も、スマホ側の無線LAN設定は、CDレコ付属のシートに描かれたQRコードをカメラで読み取る事で完了する。無線LANルータとの連携は、ワンタッチのWPSが利用可能と、こちらも設定のハードルが低くなっている点が評価できる。

音楽を聴いてみる

 あれこれとNASに保存してきたが、実際にネットワーク経由でその楽曲を聴いてみよう。用意したのは、パナソニックのハイレゾ対応コンポの「SC-PMX100」。USB DAC/ネットワークプレーヤー/Bluetooth/CDプレーヤー/アンプなどの機能をまとめたメインユニットと、ブックシェルフスピーカーのセットで、実売7万円前後。コンパクトかつ低価格ながら、本格的なハイレゾ再生機能を備えたコンポだ。

パナソニックのハイレゾ対応コンポ「SC-PMX100」

 メインユニットにはIEEE 802.11a/b/g/nの無線LAN機能も搭載。WPSを使い、ルータと接続すれば準備完了。スマホにアプリ「Panasonic Music Streaming」をインストールし、音楽ソースとしてNASを選択、出力先として「SC-PMX100」を選び、楽曲を選択すると、無事コンポから音楽が流れ出した。

 アプリは「Panasonic Music Streaming」でなくても構わない。「BubbleUPnP」というアプリでも試したところ、同様にNASからの音楽再生が可能だった。

「SC-PMX100」のメインユニット。ハイレゾマークも入っている
背面。無線LAN用のアンテナも備えている
「Panasonic Music Streaming」の画面。ソースにNAS、再生先として「SC-PMX100」を選択している
楽曲選択画面
再生中の画面
先程e-onkyo musicで購入した「TRUE/DREAM SOLISTER」を再生しているところ
「BubbleUPnP」でも同様に再生が可能だ

 「SC-PMX100」は、PCMの192kHz/24bitまでをサポート。電源ノイズやジッタを大幅に低減したという第3世代のデジタルアンプ「LincsD-Amp III」を搭載しているのが特徴で、「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(FLAC/24bit/96kHz)を再生すると、アコースティックベースの量感豊かな低域の中で、弦がブルンと震える細かな音がしっかりと見える。ハイレゾの情報量の多さと、それを損なわずに分解能の高いドライブを行なうデジタルアンプが連携した結果の、生々しく、ハイスピードなサウンドだ。

 なお、数日間、NASをベッドの近くに設置した状態で就寝してみたが、HDDモデルにも関わらず、動作音はほとんど聞こえない。サイズもコンパクトなので、良い意味で存在を忘れられるNASだろう。静かなオーディオルーム、シアタールームで騒音に悩まされる事もなさそうだ。

無理なくPCレスのネットワークオーディオ環境を実現

 今回テストはしていないが、このNASには複数台でファイルを自動同期する「Remote Link Cloud Sync」という機能も搭載されている。2台のNASを用意し、同期の設定をしておけば、購入した音楽ファイルをダウンロードしたり、CDを取り込むと一定時間で同期される。つまり、片方のNASが故障などしても、もう1台がバックアップとして利用できるというわけだ。

 音楽ファイルを大量に保存している人は、そのドライブが故障したらと考えるとゾッとするだろう。e-onkyo musicでダウンロードしたハイレゾ楽曲が失われた場合、ダウンロード可能期間を過ぎていたら、また購入しなおさなければならない。そうしたリスクを低減するためにも、「Remote Link Cloud Sync」には注目したい。オーディオ用NASの中では低価格で、コンパクトな「RockDisk for Audio」だからこそ、「2台買ってバックアップ」というのも、やりやすいだろう。

 今回、実際にセッティングから、ネットワークオーディオの再生まで行なってみて驚くのは、本当にPCレスで、無理なく完遂した事だ。UIもスマホ用に最適化されており、説明書をじっくり読むのが苦手という人でも、迷わず進められるだろう。

 オーディオは好きだけれど、PCが苦手……という年配の方や、家に自分用のパソコンは無いけれどスマホはあるという中高生などにも、マッチしそうな製品だ。

(協力:アイ・オー・データ機器)

山崎健太郎