レビュー

前代未聞!? 銅から削り出した超弩級ハイレゾプレーヤー「AK380 Copper」を聴く

 Astell&Kernのハイレゾポータブルプレーヤー「AK380」と言えば、11.2MHzまでのDSD対応や、旭化成エレクトロニクスのフラッグシップDACをデュアルで搭載。ハイスペックで、価格も直販499,980円(税込)と豪快な超弩級モデルだ。「これ以上のプレーヤーは当分出てこないだろう……」と思いきや、さらなる驚きのモデルが登場した。

左が筐体に銅を使った「AK380 Copper」(AK380-256GB-CP)

 その名も「AK380 Copper」(AK380-256GB-CP)。製品名からわかるように、プレーヤーの筐体を“まるごと銅(Copper)で作った”という凄まじいモデルで、価格も直販549,980円(税込)とさらに高価だ。ただ、そもそも銅で作ると音はどう変わるのか? 重くないのか? 約55万円ってどうなのよと、興味は尽きない。とりあえず使ってみよう。

なぜ銅なのか

 まずケースからして銅色だ(※銅製ではない)。銅を模したカラーリングで、「AK380 Copperだ!」と全身で主張している印象。ケースを開いて本体を取り出すと、思わず「おっほー!」と謎の言葉が漏れる。編集部の他スタッフに手渡しても、皆「これはスゲェ!」と驚く。まさに“銅そのもの”なのだが、人生でこんなに大きな銅のカタマリを手にした事がないので、ちょっと“どうしていいかわからない感”が漂う。

ケースも銅色

 最もインパクトがあるのが光沢だ。日本人に一番馴染み深い銅と言えば10円玉だが、10円のようなくすみはまったくない。ピカピカに綺麗にした10円玉よりも光沢があり、反射光がまぶしいほど。オリンピックでは金、銀、銅と、銅は3位のイメージだが、じっくり眺めていると「銅ってこんなに綺麗だったのか」と感心してしまう。通常モデルより確実に“目立つ”。

「AK380 Copper」

 重量は、通常モデルが230gに対して、AK380 Copperは約350gで120g重い。数字で書くとたいした違いは無さそうだが、実際に持ち比べてみると、AK380 Copperの方がズシリとくるので“別格感”が漂う。通常モデルもジュラルミン(航空機グレードのアルミ)を使っており、高級感は抜群なのだが、銅のカタマリと比べてしまうと流石に勝てない。

持ち比べてみると、AK380 Copperの方がズシリと重く、“別格感”が漂う

 所有している満足感では、通常モデルよりも上だ。コートの胸ポケットに入れた時も、ズシリと来る重みで存在感がスゴイ。もちろんポータブル機器としては軽いに越したことは無いのだが、ここまでくるとポータブルプレーヤーというよりも何か“貴重品”を持っている感覚になる。高価な腕時計がやたらと軽かったら興ざめなのと同じかもしれない。

銅メッキシャーシを採用したピュアオーディオ機器も多い

 ただ、寒い時期なので手袋をしたまま屋外で使っていたところ、重いので一度ズルっと落としそうになって冷や汗をかいた。これを足の上にでも落としたら悶絶するだろう。高価なプレーヤーなので大切に扱いたい。

 使われている銅の純度は99.9%。ご存知の通り、銅は管楽器の材料にも使われているが、銀の次に伝導率が高いのが特徴だ。この伝導性と外来ノイズを防ぐシールド効果が、音質にも良い影響があるという。ピュアオーディオに詳しい方はご存知だと思うが、ハイエンド機器のシャーシなどを銅メッキして、高い周波数におけるインピーダンス低減などを図るモデルも多い。また、比重が重くなる事も音質と関係する部分だ。

銅の光沢が美しく、高級感がある
筐体の素材が異なるだけで、デザインや端子類は通常モデルと同じだ

 以前からAstell&Kernは筐体の素材の追求に熱心で、以前のハイエンドモデル「AK240」でも、筐体にステンレスティールを使ったモデルを追加している。音の良い素材を見つけたら、実際に筐体を作ってみて、発売するというのは、AKシリーズの特徴と言っても良いだろう。

AK240のステンレススティールモデル

 ただ、良い素材を見つけたからといって、簡単にプレーヤーの筐体にできるわけではないようだ。AK380 Copperのボディシャーシを1台(175g)製造するために、なんと1.7kgのブロックから削りだしているという。なんとも贅沢な話だ。

1.7kgのブロックから削りだして筐体にしている

 表面は職人が研磨したヘアライン加工。銅は酸化しやすいので、それを防ぐためのコーティングも施されている。グリス除去、エッチング、皮膜処理、乾燥と、それぞれに最適な処理時間で4段階実施しているそうだ。

 背面にも違いがある。通常モデルはカーボンプレートが使われているが、AK380 Copperでは、カーボンとケブラー繊維を併用している。じっくり見ると、カーボングレーとケブラーのブルーが、ツートンカラーを織りなしているのがわかる。光線の具合によって、通常モデルよりも明るい色の変化が楽しめ、銅の鮮やかな筐体の光沢と良くマッチしている。

背面。カーボンとケブラー繊維を編みこんでいる

 ケースも豪華だ。天然皮革の中でも最高級の品質を持つというトルコ産の天然皮革「The V1」を使っており、例えばルイ・ヴィトンのバッグのハンドル部分にも採用されているそうだ。

 “高級そう”な光沢ギラギラタイプではなく、表面はあえてコーティングしておらず、使い込むとキャラメル色に風合いが変化していくのが楽しめるそうだ。銅のボディとカラーはマッチしており、赤い糸がデザインアクセントにもなっている。女性にも好まれそうなカラーリングだ。

付属ケースもこだわりの逸品

 直販549,980円(税込)と聞いた時は「高い」と感じたが、こうした裏側を知ると、「通常モデル(税込499,980円)と5万円くらいしか変わらないのか……そんなに高価でもないな」と思えてくるから不思議だ。AK380の購入を検討している人にとっては、この価格差は悩ましいところだろう。

音はどう違うのか

 筐体の素材は異なるが、プレーヤーとしての機能は同じだ。256GBのフラッシュメモリを搭載し、microSD/SDHC/SDXCカードスロットも搭載。DACは、旭化成エレクトロニクスの32bitプレミアムDACのフラッグシップ、「VERITA AK4490」をL/R独立して1基ずつ搭載。グランドもL/R独立させている。

 再生対応ファイル形式はWAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE、AAC、Apple Lossless、AIFF、DFF、DSF。PCMは384kHz/32bitまで、DSDは11.2MHzまでのネイティブ再生が可能。200フェムト秒という超低ジッタを実現するVCXO Clock(電圧制御水晶発振器)も特徴の1つだ。

 同じハイレゾ楽曲と、同じイヤフォンを使い、両者の音の違いを体験してみる。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(96kHz/24bit)を、beyerdynamicの「AK T8iE ブラック」(AK-T8IE-BLK)で再生。バランス接続で聴いてみる。

 筐体が異なるだけで、DACや回路などは同じであるため、「まったく違うモデルかと思うほど音が激変」するわけではない。だが、聴き比べると確かに違いがある。

 まず気がつくのはSNの良さ。AK380も非常に優秀なプレーヤーだが、AK380 Copperでは空間の静寂がよりアップし、音場の奥行きがより深く感じられる。それに合わせて、音像の立体感もCopperの方がやや上だ。

 1分過ぎから入ってくるアコースティックベースの響きにも違いがある。低域の迫力がアップしたように聴こえる。だが、ボワッと低音が膨らんだわけではない。どちらかというと適度にタイトな低音が消える際の響きが長いというか、深いというか、より聴き取りやすくなっており、低音の存在感が増した印象だ。描写が細かく、ノイズ感が少なくなった事で、こう感じるのかもしれない。SNの良いスッキリ感と、どっしりした響きが同居している。

 通常モデルに戻ると、Copperで感じた“響きの深さ、穏やかさ”が少なくなり、シャープでメリハリのある音に感じる。もう一度Copperに戻ると、音がまろやかに、響きも自然に聴こえる。いわゆる“デジタル臭さが抜ける”印象だ。

 個人的には据え置きのピュアオーディオっぽいCopperの音が好みだが、PCオーディオっぽいクリアさや、ハイレゾの音の細かさなどを分析的に楽しみたいという場合は通常モデルの方が向いている気もする。

 バランスドアーマチュア(BA)イヤフォンでも聴いてみようと、JH Audioの「TriFi」も繋いでみたが、BAユニットらしい硬さというか、金属質な音が、Copperと組み合わせるとおだやかに変化して面白い。

 ただ、「μ's/僕らのLIVE 君とのLIFE」(48kHz/24bit)のような音の数が多い楽曲では、通常モデルと組み合わせたパリッとした音の方がマッチするようにも感じる。このあたりは使うイヤフォン/ヘッドフォンと、どんな音を求めているかによって評価が変わってくるだろう。個人的には女性ヴォーカルを聴くことが多いので、Copperのサウンドはとても魅力的だ。

 ポータブルハイレゾプレーヤーも高機能化が進み、再生対応ファイルの多さでは差別化が難しくなってきた。となると、値段や搭載するDACなどにばかり気が向きがちになるが、ハイエンドプレーヤーの代名詞と言えるAstell&Kernが、オーディオとしては良い意味でオーソドックスな“筐体素材の追求”で、さらなる音のレベルアップを図る姿勢には、興味深いものがある。

(山崎健太郎)