レビュー

バランス接続が約3万円で、“超便利”な変換プラグにも注目。マクセル「RF550B」を聴く

 “日立マクセルのイヤフォン”と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか? 御存知の通り、イヤフォン市場では各社から5万円、10万円といった高級モデルが投入され、沢山のバランスドアーマチュアユニットを搭載したり、デザインが独特だったり、値段のインパクトも手伝って、よく目立つ存在だ。一方、日立マクセルはそうした超高級モデルをラインナップしていないので、“印象が薄い”と感じている人もいるかもしれない。

 ただ、同社は決して“安くて、ありがちなイヤフォン”ばかりを作っているメーカーではない。

今回レビューする「MXH-RF550B」

 2012年に、BAとダイナミック型ユニットを両方搭載したハイブリッド型の「MXH-DBA700」(実売1万円前後)、ダイナミック型ユニットを2基搭載した「MXH-DD600」(実売8,000円前後)を投入、2014年にはハウジング内に空間を2つ設けたデュアルチャンバー構造の「MXH-RF800」を発売するなど、新しい技術に果敢に挑戦している。いずれも完成度は高く、開発費もかかっているハズだが、完成したイヤフォンはすこぶる低価格という、「儲ける気がないのか?」と妙な心配をしてしまうメーカーでもある。

 そんな日立マクセルが昨年末に発売したハイレゾ対応イヤフォンも、ユニークで思い切った製品だ。「MXH-RF550」と「MXH-RF550B」という2機種があるのだが、型番最後に“B”がつくモデルは、Astell&Kernのハイレゾプレーヤーなど、2.5mm/4極のバランス駆動に対応したケーブルが最初から採用されているモデルだ。つまり、ケーブル交換ができないのである。

左が2.5mm/4極のバランス駆動の「MXH-RF550B」、右がステレオミニアンバランスの「MXH-RF550」

 さらに注目すべきは、スマホなど、3.5mm/アンバランス端子のプレーヤーでも利用できるように、珍しい“2.5mm/4極のバランス→3.5mm/アンバランス”という変換プラグまで同梱している。なかなか尖った製品だ。

 価格はオープンプライス、店頭予想価格は3.5mmアンバランスの通常モデル「MXH-RF550」が25,000円前後、2.5mm 4極バランスの「MXH-RF550B」が30,000円前後と、同社の中では高価であり、フラッグシップモデルとなる。

 なお、イヤフォンのリケーブル市場では、2.5mm 4極バランスケーブルは安いものでも1万円程度、上を見れば3万円、4万円と続いている。3万円でバランス接続のサウンドが楽しめる「MXH-RF550B」は、価格的にもリーズナブルな注目モデルと言える。

なぜリケーブルではなく、個別モデルを用意したのか

 今時のイヤフォンは、MMCXなどのケーブル交換機構を備え、「バランス駆動やグランド分離接続がしたい人は、自分でサードパーティ製のバランスケーブルを買ってね」というタイプがほとんどだ。

 気になるのは、なぜケーブル着脱方式ではなく、わざわざアンバランス、バランス接続モデルを個別に作ったのか? という点だ。

2.5mm/4極バランスの入力端子
3.5mm/3極アンバランス

 メーカーに聞くと、3つの理由があるという。

 1つ目は「音質」。当然ながら、着脱式にすると1つ接点が増える事になるため、音質は劣化する。それを防げるというわけだ。

 2つ目は「耐久性」。コネクタで着脱するとなると、当然そこが故障する可能性も出てくる。

 2つ目までは個人的に予想できていたが、3つ目が「本体の紛失」と聞いて、「確かに!」と思わず膝を打った。

 リケーブル対応イヤフォンを複数持っているようなマニアには頷いてもらえると思うが、気に入ったケーブルを複数のイヤフォンで使い回す場合、ケーブルから外した方のイヤフォンはとても小さいので、無くしてしまいそうになるのだ。カバンの中に入れたハズなのに見当たらず、青ざめてひっくり返したら、底からイヤフォンがコロンと転がり落ちてきたなんて事もある。

ステレオミニアンバランス接続の「MXH-RF550」

 一方、2.5mm 4極バランスの「MXH-RF550B」は、バランス接続でしか使えないのかと思いきや、そんな事はない。3.5mm ステレオミニへの変換プラグを同梱。スマホなどにも簡単に取り付けられるようになっている。

2.5mm/4極でバランス駆動に対応する「MXH-RF550B」
2.5mm/4極のバランスから3.5mm ステレオミニへの変換プラグ
このように使用する

 私は普段、バランス接続イヤフォンを使う事が多く、当然AKなどのプレーヤーと接続している。だが、ふいに「スマホでYouTubeの動画が見たいな」とか「radiko.jpが聞きたいな」という時もある。

 その場合は、イヤフォンからケーブルを外し、アンバランスケーブルに付け替えるという手間が発生する。家の中でなら苦にはならないが、駅のホームなどで立ったままやろうとすると、かなり怖い。イヤフォンは小さいので、ケーブルから外した勢いで地面に落としてしまうのではとヒヤヒヤするのだ。

 それが嫌で、スマホ接続用に別のイヤフォンを持ち歩くなんて事もしているのだが、この変換プラグさえあれば、プレーヤーを選ばず「MXH-RF550B」が使え、なおかつ手間もほとんどかからない。実際に使ってみると、もう戻れない快適さだ。このプラグだけ単品販売しても売れるのではないかと思う。

4極プラグの振り分け情報もしっかりと公開されている

“デュアルチャンバー構造”がミソ

 「MXH-RF550」と「MXH-RF550B」の違いは、アンバランス接続か、バランス接続かのみ。それ以外の仕様はほぼ同じだ。

 10mm径のダイナミック型ドライバを採用しており、振動板は軽量・高剛性を追求。CCAWボイスコイルやネオジウムマグネットも使っている。ユニットの前には「拡散音場バランサー」も備えた。

内部構造。ユニットの背後に2つのチャンバーエリアがある

 大きな特徴は、ユニットの背後にある。マグネットの背後に、第1のチャンバーエリアがあり、その背後にもう1つのセカンドチャンバーが設けられている。つまり、1つのハウジングの中に、2つの空気層があるわけだ。

 この“デュアルチャンバー構造”は、広帯域でフラットな再生をしつつ、豊かな音場を再生する周波数特性を実現できると仕組みだという。また、カナル型イヤフォンで問題となる、塞がれた外耳道で発生する6kHz付近のピークを抑制する効果や、音響回路が、ささりのない伸びやかな高域再生にも寄与するとしている。

2つのチャンバーエリアを色分けした図

 インピーダンスは32Ωで、音圧感度は107dB/mW。再生周波数帯域は10Hz〜40kHzとワイドレンジでハイレゾ再生にも対応している。

 ハウジングの素材にも特徴がある。ユニットの前にあるフロントボディと、セカンドチャンバーを構成するリアボディはABS樹脂製、ハウジングの外側と、ケーブルの根本にあたる部分には高剛性アルミニウム合金と、2つの異なる素材が組み合わされている。共振点の異なる素材を組み合わせる事で、不要な共振を抑え、クリアな再生をする仕組みだ。

イヤーピースを外したところ。ABS樹脂とアルミニウム合金を組み合わせている

 カラーリングはRF550、RF550Bどちらもブラックだが、よく見ると微妙に色の配置が異なる。RF550はケーブルの付け根部分がレッド、RF550Bはブルー、ハウジングのアルミニウム合金部分はRF550がガンメタリックに対し、RF550Bはシルバーになっている。

右のRF550はケーブルの付け根部分がレッド、左のRF550Bはブルーになっている
付属のイヤーピース

 カスタムイヤーによくある豆のようなカタチではなく、やや横長の筐体を採用している。装着してみると、ハウジングの外に貼りだした部分が、耳穴の端に当たり、抜けにくくなる。耳孔に触れるので痛くならないかと心配したが、丸く加工されているため、食い込んだりはしない。ただ、強く当たると違和感を感じると思われるので、イヤーピースは小さめにして耳穴にしっかり挿入し、あまり飛び出さないようにすると良いだろう。

 デザインに対する評価は人それぞれだと思うが、個人的にはもう少し奇抜というか、特徴のある形状やカラーリングにして欲しかった。有機的でカッコ良くはあるのだが、あまり印象に残らない。25,000円〜3万円程度するイヤフォンには、やはりオーラというか、ある種のインパクトが欲しいところだ。

音を聴いてみる

 まずは、3.5mmアンバランス接続の「MXH-RF550」を聴いてみよう。

 リファレンスとして使っているハイレゾプレーヤーの「AK380」と接続。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(96kHz/24bit)を再生してみる。なお、試聴には価格のバランスも考慮し、AK100IIやXperia Z5なども使っている。

まずはアンバランスの「MXH-RF550」から聴いてみる

 音が出た瞬間に感じるのは、非常にクリアである事。筐体の響きなどが一切感じられず、色付けの無い、“素の音”が出ている。ABS樹脂とアルミ合金の異種素材の組み合わせが効いているのだろう。

 ダイナミック型ドライバらしく、低域の量感はキチンと出ており、高域との繋がりも自然だ。10mmのユニットサイズは大口径ではないが、低い音の沈み込みは十分に深く、全体としてワイドレンジな、完成度の高いサウンドに仕上がっている。

 特筆すべきはやはりこのクリアさだろう。付帯音が無いと先ほど書いたが、音像にまとわりつく余分な響きが無いだけでなく、音像自体も線がとてもシャープで、スッキリと音楽が描かれる。低域の分解能も高く、「Best OF My Love」のアコースティックギターベースの“うねり方”が良く見える。

 ダイナミック型のイヤフォンでは、低域の量感を出そうとすると、どうしても中低域全体が膨らんで、その響きが充満して中高域が不明瞭になり、ボワッとした音になってしまう事が多い。

 RF550の場合は、ダイナミック型らしい量感がありつつも、それをタイトに締め、全帯域でビシッとシャープさが貫かれている。ぼんやり聴いているとマルチウェイのBAイヤフォンを聴いているような気がしてくる。一方で、音の繋がりの良さや、低域の量感は間違いなくダイナミック型ならではの自然さがある。これがデュアルチャンバー構造の恩恵なのだろう。

 簡単に言えば、“優等生タイプの、モニターライクなサウンド”だ。人によっては、付帯音の少なさをそっけなく感じたり、「ダイナミック型なのだからもう少し低域のパワフルさが欲しい」と感じるかもしれない。ただ、ベーシックな再生能力の高さを追求しているので、楽曲を選ばず、結果としては人にオススメしやすいモデルになっている。

 聴いていると、ぶっちゃけ「アンバランスのRF550で十分良い音だ」と満足しそうになる。これをバランス駆動で聴くとどうなるだろうか? RF550Bに交換し、AK380のバランス端子に接続し、同じ曲を再生してみる。

RF550Bでバランス駆動のサウンドをチェック

 当然ながら、出てくる音の傾向はアンバランス時と似ている。だが、切り替えた瞬間にハッキリと違いがわかる。一番わかりやすいのは音の余韻が広がる空間の広さだ。ヴォーカルやギターの位置は同じだが、RF550Bではその背後の空間がグワーッと奥まで伸び、そこに音の響きが波紋のように広がる様子がわかる。

 奥だけでなく左右の音場も拡大する。その音場に定位する音像の立体感もアップするので、音楽がさらに生々しくなる。分解能も高まり、ヴォーカルの口の開閉や、背後のパーカッションの「パコ、カコ、パコ、カコ」という音のキレも良くなる。視力が良くなったような感覚で、「μ's/僕らのLIVE 君とのLIFE」を再生しても、キャラクターごとの声の違いや音像の分布がわかりやすい。

 空間が広くなるので、「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)の「バーバ・ヤーガの小屋」など、クラシックを再生しても、ホールの広さや音の余韻の細かさが、アンバランス接続より勝っている。僅かではあるが、低域の沈み込みも深くなり、低音がより重くなったようにも聴こえる。

念のため、RF550Bに変換プラグを取り付け、アンバランスでも聴いてみたが、RF550のサウンドとほぼ同じだった

バランス接続の世界をリーズナブルかつ高音質に楽しむ

 リケーブルやバランス駆動、グランド分離駆動は、購入したイヤフォンに追加投資をしても、より高音質を追求したいというマニアックな趣味で、ある程度高価なイヤフォンを買ったユーザーの中でも、一部の人が楽しむものだった。

 バランス接続を前提としたイヤフォンの登場は、イヤフォンのマニアックな楽しみ方が、多くの人に認知されるようになった証拠と言ってもいいかもしれない。

 RF550Bは、そんなバランス接続の世界が手軽に楽しめる製品だ。冒頭に書いたように、2.5mm 4極バランスケーブルが安くても1万円程度すると、「ケーブルに追加で1万円はちょっと……」と敬遠したくなる。高音質なイヤフォンとバランス接続ケーブルが最初からセットになった製品と考えれば、実売約3万円という価格はリーズナブルと言えるだろう。

 価格だけでなく、音のクオリティも高く、バランス接続の利点をしっかりと楽しめるポテンシャルがある。同時に、スマホやゲーム機などと絡めて使おうとすると、なにかと面倒なバランス接続イヤフォンを、付属の交換プラグで便利に楽しめるのも見逃せないポイントだ。

 (協力:日立マクセル)

(山崎健太郎)