レビュー

他社製品まで鳴らす!? 最高峰の名を冠したBluetoothヘッドフォンJBL“EVEREST”

 かつては“ガジェットに詳しい人が買うもの”というイメージがあったBluetoothヘッドフォンも、スマホの普及ですっかり当たり前のものになった。音質がイマイチというイメージも過去のもので、無線であるマイナスをあまり感じさせない音質の製品も増えている。

今回紹介するJBL EVERESTシリーズ。左奥から時計回りにEVEREST 300、EVEREST 700、EVEREST 100

 市場が成熟し、価格もこなれてきたので「そろそろちゃんとしたBluetoothヘッドフォン/イヤフォンを買おう」という人も多いだろう。一方で、成熟すると機能面で大きな違いが出にくくなり、「どれを選べばいいわからない」となりがちだ。音質で選ぼうにも、Bluetoothヘッドフォンを店先でいちいちペアリングして試すのが面倒だったり、有線接続で聴き比べた決めたのに、Bluetoothに切り替えたら音がガラリと変わってしまったなんて事も。

 今回取り上げるJBLの新ヘッドフォン/イヤフォン「EVEREST(エベレスト)」は、音質が良く、有線/無線の音質差も少なく、バッテリ寿命がやたらと長く、ユニークな機能も搭載するなど、注目のモデルだ。ラインナップはイヤフォンの「EVEREST 100」(14,880円)、Bluetoothヘッドフォンの「EVEREST 300」(21,880円)、「EVEREST 700」(27,880円)の3機種。

EVEREST 700
EVEREST 300
EVEREST 100

EVERESTの名を冠したヘッドフォン

 EVERESTと聞いてピンと来るのは、ピュアオーディオに詳しい人だろう。JBLと言えば、約70年の歴史を持つ泣く子も黙る老舗スピーカーメーカー。伝説的な「ハーツフィールド」、「パラゴン」、モニターの「4312」など、オーディオスピーカーの代名詞と言っても過言ではないメーカーだ。

 そんなJBLは、ハイエンドスピーカーに「Project K2 S9900」(1台220万円)や「Project EVEREST DD67000」(同360万円)といった最高峰の山の名前をつけている。そして、今回のヘッドフォンも“EVEREST”の名を冠している。“JBLのハイクラスなヘッドフォン”という位置づけが、名前だけでわかるわけだ。

Project K2 S9900
Project EVEREST DD67000

 今回は紹介しないが、ノイズキャンセル機能や個人の耳に合わせたキャリブレート機能を備えた“EVEREST ELITE”シリーズも存在する。つまり、JBLのポータブルハイエンドは「EVEREST」と「EVEREST ELITE」の2シリーズで構成されている。

 エベレストなんて名前がついていると、むちゃくちゃ高価なのではと身構えてしまうが、イヤフォンの「EVEREST 100」は14,880円、Bluetoothヘッドフォンの「EVEREST 300」は21,880円、「EVEREST 700」は27,880円と、意外にもリーズナブルだ。カラーも豊富で、イヤフォンはブラック/ホワイトの2色だが、「300」はブラック/クリアブルー/ピンク/ホワイトの4色、「700」もブラック/ブルー/グレーの3色と豊富に用意されている。

EVEREST 100、左からブラック/ホワイト
EVEREST 300、左からブラック/クリアブルー/ピンク/ホワイト
EVEREST 700、左からブラック/ブルー/グレー

ヘッドフォンのEVEREST 300/700

 デザインも先進的だ。300/700のどちらもハウジング部分は段差のない滑らかな仕上がりで、その曲線がヘッドバンド部分まで一体化している。イヤーカップとハウジングは別パーツとなっており、カップの角度がある程度自由に変化し、頭部にフィットしやすくなっている。

EVEREST 300。滑らかなハウジングにはJBLの大きなロゴマーク
イヤーカップとハウジングは別パーツとなっており、カップの角度がある程度自由に変化する
300はオンイヤータイプ

 300はオンイヤー、700はアラウンドイヤー型。300も耳全体を押し付けるタイプではなく、耳の外周にフィットする形状なので、不快感は少ない。側圧も適度にあるので密閉感は高く、耳の下側などに隙間ができる事はない。700は耳の周囲をガッポリと覆ってくれ、ホールド力も強い。頭をゆすったくらいではズレず、長時間の使用でも負担は少ない。

 ハウジングとヘッドバンドの上部に「JBL」の大きなマークを配している。

EVEREST 700。こちらにもJBLの大きなロゴマーク
イヤーカップの角度がある程度自由に変化し、頭部とフィットする
700はアラウンドイヤータイプ

 操作ボタンは左右ハウジングの側面に配置。右ハウジングが電源ボタン/Share Meボタン、左がボリューム操作 兼 送り/一時停止/戻しボタンだ。側面で操作するので、何かの拍子にハウジングに手が当たって操作してしまったという事が起きづらい。ボタン形状にも凸凹がつけられているので、指触りだけで何のボタンか判断もできる。

右ハウジングが電源ボタン/Share Meボタン
左がボリューム操作 兼 送り/一時停止/戻しボタン

 ペアリングは右ハウジングの電源ボタンを長押し。ペアリングモードに入ったら、スマホ側でヘッドフォンの型番を選ぶだけだ。特に難しくはなく、一度ペアリングしたら、次回は電源をONにするだけで、近くにスマホがあれば自動で接続される。特に不満はないが、トレンドのNFCにも対応して欲しかったところだ。

ヘッドバンドにもJBLロゴ

 どちらのヘッドフォンもBluetooth 4.1に対応。プロファイルはA2DP V1.3、AVRCP V1.5、HFP V1.6、HSP V1.2をサポートしており、ハンズフリー通話も可能だ。再生周波数帯域は10Hz~22kHz。搭載する新開発ユニットの口径も40mmで共通している。

 有線接続も可能で、ヘッドフォン側は2.5mmのステレオミニ、入力プラグは3.5mmだ。有線時の感度は102dB/mW、インピーダンスは16Ω。バッテリの充電はUSB経由で行なう。ケーブルを除いた重量は300が245g、700が274g。どちらのモデルも折りたたみできる。

有線接続も可能。ヘッドフォン側は2.5mmのステレオミニ、入力プラグは3.5mm
どちらのモデルも折りたたみ可能だ

イヤフォンのEVEREST 100

 ネックバンド型のイヤフォンで、世界最小クラスという5.8mm径の新開発ダイナミック型ドライバが使われている。

EVEREST 100

 耳に触れるハウジングの内側がラバーっぽい素材でできており、装着感はソフト。滑り止めの効果もありそうで、脱落防止にも寄与していそうだ。リモコンも指に触れる表側にはこの素材が配してある。

 ユニークなのは、3サイズのイヤーピースに加え、3サイズのスタビライザーを同梱している事。簡単に言えば、耳穴の周囲の空間にフィットし、イヤフォンが動いたり抜け落ちたりするのを防ぐ“突起”を、ハウジングにかぶせるように取り付けられるのだ。

スタビライザーの着脱が可能
突起がこのように耳穴の周囲にフィットする
イヤーピースとは別に、3サイズのスタビライザーを同梱している

 ネックバンド型イヤフォンの場合、耳からイヤフォンが抜け落ちると、そのまま地面に全部落っこちる危険がある。スタビライザーがあると、抜け落ちにくくなるので安心感がアップする。スポーツ向けモデルではよくあるが、普通のBluetoothイヤフォンで後から取り付けられるのは珍しい。実際に装着して小走りしたり、首を軽く振っても、ズレ落ちる気配はない。

 Bluetooth 4.1に対応し、プロファイルはA2DP V1.3、AVRCP V1.5、HFP V1.6、HSP V1.2をサポート。周波数特性は10Hz~22kHz。重量は16gだ。

ヘッドフォンを聴いてみる

 まずはヘッドフォンから音をチェックしてみよう。Bluetooth接続相手はXperia Z5だ。

 EVEREST 300を装着。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best of My Love」を再生する。

EVEREST 300

 デザインがカジュアル、カラーも明るい色なので「Beats by Dr Dreのような、低域がズンズン来る感じなんだろうか?」と予想しながら聴いてみると、良い意味で予想を裏切る、非常にバランスが良く、ピュアオーディオライクな音が出てくる。

 すぐに気づくのは全帯域のバランスの良さだ。低域など、どこか特定の帯域だけが盛り上がるような事はなく、低い音から高い音までキチンと耳に届く。当たり前の事にも思えるが、なかこの“当たり前の音”が出せるヘッドフォンは無い。

 低域は量感は豊富で、アコースティックベースの筐体で増幅された分厚く、暖かい音が気持よく吹き寄せてくる。だが、これが必要以上に膨らまず、タイトさを維持している。ブルンと弦の震える様子もクリアで、ベースの歯切れが良い。よけいな響きが膨張しないので、中高域もクリアだ。

 特に高域の抜けの良さは特筆すべきものがある。付帯音は一切感じられず、気持ちがよくヴォーカルの高音が伸びていく。輪郭を強調している様子もなく、声の質感も良く出ている。ソースを96kHz/24bitのハイレゾから、MP3の320kbpsに切り替えても高域が痩せたり、荒くなるような印象は受けない。全体的に音圧があり、音の密度感もあることで、Bluetoothヘッドフォンとは思えない“ゆったりさ”があるのも特徴だ。

EVEREST 700

 EVEREST 700に変更すると、音の変化が面白い。色付けの少ない、バランスの良いサウンドという傾向は同じなのだが、ハウジングが大きくなる事で、音場が拡大。密閉型なのだが、開放型のように、音の余韻が周囲に広がっていくような感じがする。音場が広くなった事で、そこに浮かぶ音像と音像の距離にも余裕がでて、全体として開放的で清々しい気持ちで聴けるようになる。

 しかし、面白いのは音が“遠く”ならない事だ。開放的になっても、ヴォーカルの口の開閉やギターの弦など、細かな音はむしろ300よりも生々しく、ストレートに、音の鮮度が高いまま届いてくる。実際に口の開閉など、本当に細かな音が700よりも微細に聴き取れる。なんというか、音の広がりが開放型っぽくなるだけでなく、分解能の高さもダイナミックの開放型やコンデンサ型ヘッドフォンのそれに似てくる印象だ。

 どちらも“ドンシャリ”ではないのだが、700と300を比較すると、700の方がモニターライクな音作り、300の方はモニターよりもほんの少しパワフル寄りに振ったサウンドと言えるだろう。

 ここまではBluetooth接続での話だが、有線接続も試してみる。

 結論から言うと、700も300も、ワイヤレスの時と極めて音の違いが少なく優秀だ。Bluetoothヘッドフォンはどうしても、ワイヤレス時の音がメインに作られているので、有線で電源をOFFにして聴くと音が痩せたり、音場が小さくなるものが多い。700と300はバランスや広がりがほとんど変化せず、同じ音のイメージで有線/無線を使える。厳密に聴くとワイヤレス時の方が音圧が少し強いが、気になるほどの違いではない。

有線のサウンドもチェック

イヤフォンのEVEREST 100も聴いてみる

 ヘッドフォンが良い意味で“マジメ”なサウンドだったので、イヤフォンもそうなのだろうと聴いてみると、やはりこちらも良い音だ。

EVEREST 100

 バランスとしては、ほんの少し低域寄り。量感の豊かな低音がズズんと響いてくる。恐らくだが、ハウジング内側のラバー素材が耳との密着を高めている事もあるのだろう。サイズからは想像できないほど豊かな低音が楽しめる。

 同時に、それがボワボワと膨らまずにタイトに締まる部分があるのが好印象だ。中高域のフォーカスが甘くならず、低音がゆたかに広がっている最中でも、ドラムのシンバルなどの硬くて鋭い音がキッチリ輪郭シャープに描かれ、ヴォーカルの声に変な響きがまとわりついたりしない。

 静かな部屋から出て、屋外を歩いたり電車に乗ると、少し低域寄りのバランス効果が活きる。外の騒音に低音が負けず、かといって「くるり/ワンダーフォーゲル」のような、ビートが分厚い楽曲でも、ヴォーカルがまったく埋もれない。通勤通学にも適した音作りだろう。

どう使う? ShareMe 2.0

 JBLのBluetooth製品には「ShareMe」機能がついている。例えば、BluetoothでスマホとShareMe対応ヘッドフォンAをペアリングし、音楽を流しているところに、ShareMe対応ヘッドフォンBを追加。ヘッドフォンAから、ヘッドフォンBへと音楽をワイヤレスで転送し、AとB、2つのShareMeヘッドフォンで同時に音楽を楽しむ事ができる。

 最近のBluetoothヘッドフォンでは、この手の機能を備えているものも幾つかある。しかし、実際問題として、2人で音楽を一緒に楽しみたいと思った時に、相手も同じメーカーの、さらにShareMe対応ヘッドフォンを持っている可能性は低いだろう。

 しかし、EVERESTシリーズではこのShareMe機能が2.0に進化。なんと、追加相手がShareMe対応の製品でなくても良くなった。つまり、相手が他社のBluetoothヘッドフォンでも、もっと言えばBluetoothスピーカーであっても同時に鳴らす事ができるわけだ。

 EVEREST 700/300はShareMe 2.0に対応しているので(1.0は非対応)、まずは両者を同時に鳴らしてみる。スマホと300をペアリングしている状態で、300の右ハウジング側面にあるShareMeボタンを押すと、接続先のBluetooth機器をペアリングモードにするよう英語のガイドが流れる。

2台のBluetooth聴きを同時に鳴らせるShareMe 2.0。相手がBluetoothスピーカーでも鳴らす事ができる

 次に700の電源を入れ、ペアリングモードにすると、すぐに300が700を見つけて、ペアリングが完成。300から流れている音楽が、700からも流れ出てくる。転送しているためか、わずかに音が遅れて出ているが、同じ音楽を楽しむとか、スマホでちょっとした動画を二人で見ながら音を聴くといった使い方は問題なくできるだろう。

UEの「BOOM」

 他社の違う製品ともペアリングしようと、BluetoothスピーカーのUE「BOOM」を用意。同じように300のShareMeボタンを押した後で、BOOMをペアリングモードにすると、すぐに両者が接続され、BOOMからも音が流れだしてきた。あっけないほど簡単に他社製品との連携ができるところが面白い。

 どのように活用しようかといろいろ試してみたが、例えばベランダで何か作業しながら家の中に道具や洗濯物を取りに戻るとか、家の前で車や自転車を洗いながら、洗車用具を玄関に取りに戻るとか、異なる空間を頻繁に行き来する時に便利だ。家の中にはBluetoothスピーカーを設置、家の外に向かって音を出すのは恥ずかしいので、屋外に出る時はヘッドフォンといった使い分けができる。室内に戻ってヘッドフォンを外しても、聴いていた曲が屋内にも流れているというのはなかなか新鮮。ちょっとしたマルチルーム・オーディオのような使い方がマッチするだろう。

やたらと持つバッテリ

 日々使っていると気になるのがバッテリの持ち具合だろう。あまり頻繁に充電が必要だと、充電が面倒になって使わなくなってしまうという事がありえる。

 ただ、EVEREST 300は公称で約20時間、700はなんと約25時間と、やたらとバッテリが持つ。実際に通勤時に30分ほど電車に乗るので使っているが、バッテリが無くなる気配がない。休日に長めに利用してEVEREST 300のバッテリが無くなるまで鳴らしてみた。ボリューム値が日々細かく違うので正確な時間はわからないが、合計で19時間以上使えていたのは確かだ。

 行き帰りで1時間使うとしても、単純計算で20日や、25日持つ事になる。1週間どころか、3週間充電しなくてもいけるかもしれない。頻繁に充電するのは面倒なので、これは大きな利点と言えるだろう。充電所要時間も300で約2時間、700で約3時間とさほど長くはない。

 EVEREST 100はサイズが小さいので、さすがにそこまで長時間はもたない。それでも連続使用時は約8時間ある。1日の利用時間にもよるが、通勤通学で使って、毎日充電しなければならないという製品ではない。

EVEREST 100は、ケーブル途中のリモコン部分から充電する

総論

 EVERESTという、JBLにとっては特別な名前を与えられたヘッドフォンにしては低価格で、カラーやデザインもカジュアルなので、「こんなに安いヘッドフォンにEVERESTと付けちゃっていいのかな?」と余計な心配をしていたが、実際に使ってみると、非常にマジメに作りこんであり、操作性も良好。面白いShareMe 2.0機能に、やたらと持つバッテリなど、実際に使ってみると「キッチリ作られた良い製品」という印象が残る。

 特に音に関しては、700/300はこれだけカジュアルな見た目なのに、超正統派な音が出てくるので「お前、見た目と音が全然違うじゃん」というギャップが面白い。外観は今風でも、「音はエンジニアが超マジメにクオリティを追求して作ってしまいました」感があり、JBLらしくて逆に小気味いい。

 ズンドコしたサウンドのヘッドフォンも迫力という面では良いのだが、毎日使っていると飽きがくる。肉汁たっぷりのハンバーグもたまにはいいが、毎日は胸焼けがしてくる。やはり正統派な音作りのヘッドフォンがオススメしやすい。

 市場が成熟し、製品数が増え、機能面の違いが少なくなっているからこそ、音作りのうまさや、バッテリの持ちなど、ヘッドフォン/イヤフォンの基本的な性能を大事にする姿勢に老舗オーディオメーカーらしさを感じる。これが新しい時代のEVERESTの1つのカタチなのだろう。

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 (協力:ハーマンインターナショナル)

山崎健太郎