【レビュー】シンプル&高音質が魅力のプレーヤー「MG-G708」

-ケンウッド「Media KEG」新モデルを聴く


Media KEGシリーズ最新モデル「MG-G708」

 メディアプレーヤーとしても使えるスマートフォンが普及した現在、単体のオーディオプレーヤーに求められる機能は変化している。ラジオやボイスレコーダ、動画再生と、多機能が求められたのは過去の話であり、現在ではむしろ音楽再生に特化した、“割り切り”が求められていると言えるだろう。

 ケンウッドのMedia KEGシリーズは、以前から“高音質再生”にこだわってきたブランドであり、他社が多機能化していった時代でも、あえて純粋なプレーヤーとしてのスタイルを貫いてきた存在だ。

 そんなMedia KEGシリーズの最新モデルとして、昨年10月から発売されているのが「MG-G708」だ。8GBの内蔵メモリ、価格はオープン。実売は12,000円前後だ。iPod nano 8GB(10,800円)と比べると若干高価だが、microSDカードスロット(最大16GB)を搭載し、内蔵メモリの増設が可能だ。カラーはシルバー(-S)、レッド(-R)、ブラック(-B)の3色を用意している。


 



■従来から踏襲された操作性

 外形寸法は98.5×49.5×13.5mm(縦×横×厚さ)で、iPhone 4Sなどのスマートフォンと比べると大幅に小さいが、ウォークマンのAシリーズ(96.9×52.5×9.3mm)と比べると、若干分厚い。ただ、胸ポケットにも余裕で収まる厚さではあるので、持ち運びは苦にならないだろう。重量は56gと軽量だ。

 ディスプレイは2型のカラーTFT。ウォークマンAシリーズの2.8型と比べると小さめだ。操作ボタンはディスプレイ下部に集まっており、中央にサークルタイプの操作ボタン、その真ん中に再生/一時停止ボタンを配置。左上に電源ボタンを兼ねたクイックメニュー用ボタンを備えている。

 操作部がまとめられているため、右手でホールドすると、右の親指だけですべての操作が出来る。上下左右でメニュー階層を移動し、目的の曲を見つけたら中央ボタンで再生するという流れで、従来のMedia KEGシリーズを使った事がある人はもちろん、初めて触る人もすぐに慣れるだろう。

トップメニュー楽曲再生中の画面ジャケットを大きく表示する事も可能

 メイン操作の内、ボリュームボタンのみ本体右側面に備えている。「これもサークルボタンのそばに置けばいいのに」と思うが、実際に押してみるとよく考えられた配置である事がわかる。右手でホールドしていると、本体を少し左に傾けるだけでボリュームバーも親指で操作できるのだ。スペースが少ないフロントパネルに用意するよりも、側面の方が押しやすいだろうという判断だと思われる。ボリュームの下にはスライド式のホールドスイッチを備えている。

 左側面にはmicroSDカードスロットを備え、8GBの内蔵メモリを拡張できる。下部にはUSB端子とイヤフォン出力を装備。左下側面にはストラップホールも用意している。

 楽曲の転送はシンプルで、USBマスストレージとしてPCと接続。あとは好きなフォルダを作って放り込めば良いだけだ。ドラッグ&ドロップ以外の転送・管理方法として、専用ソフト「BeatJam」を使う事もできる。

下部にイヤフォン出力、USB端子を装備右側面にボリュームボタンを用意左側面にはmicroSDカードスロット
iPhone 4Sとのサイズ比較USBマスストレージクラスで楽曲転送を行なう。充電もUSB経由で可能だ

 メニュー構成はホーム画面から右に移動していくと階層を下り、左移動で上るという動き。例えばホームから上下ボタンで「アルバム」の位置に移動し、右ボタンを押せばアルバムメニューへ移動。そこから好きなアルバムを上下ボタンで移動して選び、再び右ボタンでアルバムの中に移動。好きな曲を選び、右ボタンか、中央の再生ボタンを押せば音楽スタート。戻りたい時は再生画面から左を押していけば、ホーム画面まで戻れる。

 いちいち左ボタンを押さずにホーム画面に戻りたい時は、クイックメニューボタンを押し、「ホーム画面」を選べば一瞬でホームに戻れる。クイックメニューには「お気に入りに追加」や再生モード変更ボタン、サウンドモード変更、アルバムスキップ、Supreme機能のON/OFFなど、頻繁に使いそうな機能が集約されている。

 楽曲選択はアーティスト、アルバム、ジャンル、トラック、フォルダから選択可能。前述のクイックメニューから、お気に入りに追加した曲を一覧表示する「お気に入り」メニューも備えている。シンプルならが熟成されたインターフェイスだと感じる。

 再生対応フォーマットはMP3、WMA(DRM 9対応)、AAC、WAVで、WAVは16bit/48kHzまで対応。MP3/WMA/AACは32~320kbpsに対応する。

 



■スッキリとしたマニア向け音質

 試聴にはソニーのヘッドフォン「MDR-ZX700」や、Shureのカナル型「SE535」を使用している。

 HDDモデルの頃から、Media KEGシリーズは何度もレビューしているが、フラッシュメモリタイプになっても再生音には一貫したポリシーを感じさせる。簡単に言えば“ナチュラルで誇張のない音”だ。

 “いい音”といってもいろいろなタイプがあり、例えばポータブルプレーヤーでは音のメリハリをほんの少しアップさせ、クリアさをアピールしたり、低音のパワーを上げたバランスにする事で、低域再生が苦手なヘッドフォン/イヤフォンでちょうどいいバランスの音になるよう、仕上げるモデルもある。

 Media KEGシリーズの場合は、そうした誇張や味付けが他社プレーヤーと比べて非常に少ない。これまでのレビューではそれを“品のいい音”“スッキリした音”というように表現してきたが、今回の「MG-G708」でも傾向は同じ。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、上下のレンジが広く、音場も広大。低域が膨らみすぎない、ニュートラルなサウンドが耳に入ってくる。ラーメンで例えると、透き通った塩ラーメンのような音だ。

 「Jennifer Warnes/Rock You Gently」のような透明感のある楽曲では、SNの良さが良くわかり、特に中高域に注目すると鮮度の高さがわかる。極めてクリアな再生音だ。ヘッドフォンアンプとヘッドフォン端子をモデルごとに最適にレイアウトしているとのことで、こうした取り組みが効いているようだ。

 ヘッドフォンアンプにも特徴があり、内部で負電源を生成し、ヘッドホンアンプの電力段を±電源でドライブし、変換効率を向上させる「Class-W」方式を採用している。今まで必要だったDCカットコンデンサーを不要とすることで、超低域の歪みも改善したのがウリだ。

 実際、低域に注目すると、中高域の解像度の高さがそのまま低域にも渡っており、アコースティックベースの弦の動きや、中域が盛り上がる楽曲でのベースラインなどがよくわかる。ただ、バランスとして低域は控えめで、一聴すると高域寄りのバランスに聴こえる。意識すると低音はシッカリ出ているのだが、あまり主張しないバランスだ。

 iPhone 4Sと再生音と比較もしてみよう。Girls Dead Monster「Keep The Beats!」から「Little Braver(アルバムバージョン)」を再生すると、iPhone 4Sの方がメリハリがあり、聴きやすく、わかりやすいサウンドだ。しかし厳密に比較してみるとMedia KEGの方がレンジが広く、目立たせてはいないが低域もシッカリ出ている。好みの問題だが、ニュートラルな再生ができるヘッドフォン/イヤフォンと組み合わせる場合は、G708の方が、接続機器の音に色を付けず、そのまま聴かせてくれそうだ。

 もう少し音にメリハリが欲しいと感じた場合は、イコライザのカスタム設定か、プリセットの「Rock」がオススメ。元の音が高音質であるため、低域を増強しても下品な音にならず、情報量が豊富なまま迫力が出る。だが、プリセットの「BASS」モードでは低域が強くなりすぎると感じた。

サウンドモード切り替え画面お馴染みの高域補間技術「Supreme」も搭載している

 「山下達郎/アトムの子」冒頭のドラム乱打も、「Rock」にすると凄みが出る。この状態でも中高域の明瞭度は高い。迫力のあるドラムの音が、背後の空間に広がる細かな描写も良く表現できている。中高域の音像の締まり、高域の伸びやかさ、しなやかさはiPhone 4Sよりも上手。MG-G708を聴いた後でiPhone 4Sに戻ると、エッジを立たせ過ぎな印象で、若干耳が痛い。iPhone 4Sは低域寄りのバランスで、迫力面ではiPhone 4Sの方が派手だ。

 なお、お馴染みの機能として高域補間技術「Supreme」も搭載している。機能をONにすると、高域描写のアラが抑えられ、伸びがしなやかになり、音場空間も若干広くなる。圧縮率の高い音楽ファイルに適用すると効果がよく分かるが、逆に高いビットレートのファイルではON/OFFの違いはわかりにくい。

付属のカナル型イヤフォン

 付属イヤフォンはカナル型のダイナミック型。中低域に厚みをもたせたバランスで、スッキリしたG708と組み合わせると適度にドラマチックな音が楽しめる。付属イヤフォンとしての音質は高いが、高域の抜けが今ひとつで、こもりを感じる。G708の澄んだ音色を存分に味わうためには、よりグレードの高いイヤフォン/ヘッドフォンと組み合わせたいところだ。


 



■さらなる高音質化とハイレゾ対応に期待

 シンプルで高音質、価格も手頃なプレーヤーとしてオススメできる。そつなくまとまっているが、悪く言うと“地味”だ。音質が一番のアピールポイントではあるが、iPhone 4Sも含め、他機種の音質もかなり向上している現在、音質のみで差別化が難しくなっているのも事実だ。

 また、ヘッドフォンやイヤフォンのマニア層は、外部アンプやDACと組み合わせて楽しんでいるユーザーも増えている。現状でも十分高音質だが、外部アンプのドライブ力やクオリティにG708単体で太刀打ちできるかというと、厳しい面もある。ヘッドフォンアンプを通さずにライン出力する端子を設け、外部アンプとの親和性を高めたり、デジタル出力を設けるなど、マニア層にもアピールできる機能も欲しいところだ。

ハイレゾ音源の再生には対応していない

 同時に、対応フォーマットの拡充にも期待したい。既にWAV再生に対応しているが、16bit/48kHzまでの対応で、24bit/96kHzなどのハイレゾ音源を転送しても再生はできない。また、可逆圧縮のFLACにも非対応だ。

 ハイレゾファイルが再生できれば、高音質プレーヤーとして大きなアピールポイントになる。可逆圧縮フォーマットの対応が豊富であれば、利便性も向上する。他社も含め、2012年のポータブルプレーヤーでは、これらの点が重要になるだろう。音質を重視するMedia KEGにはぜひ挑戦して欲しい部分だ。スマートフォン全盛時代の単体プレーヤーに求められるのは、機能の“選択と集中”であり、オーディオメーカーの腕の見せ所にも繋がるだろう。



(2012年 1月 13日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]