レビュー

古いレコーダでも遠隔視聴、「Slingbox 350」を試す

レコーダのアナログ出力を有効活用。スマホ視聴も

Slingbox 350

 スマートフォンやタブレットなどで、自宅のレコーダに録画した番組を遠隔視聴するための製品が、ソフトバンク(エリアフリー録画対応デジタルTVチューナー)や、au(Remote TV)から登場。さらに、DTCP+に対応したNASや、BDレコーダに取り付ける事でネット配信を可能にするパナソニックのDTCP+用アダプタ「DY-RS10-W」なども発表され、2013年は“TVの遠隔視聴”が本格化する年と言えそうだ。

 そんな中、この分野では定番製品と言える「Slingbox」からも、新モデル「Slingbox 350」が登場。イーフロンティアから、3月22日より販売が開始されている。価格は19,800円だ。

 既存のレコーダやチューナなどに接続する事で、遠隔視聴機能を手軽に追加できる製品で、コンパクトかつ高画質に進化したのが特徴だ。さっそく試してみよう。

アーチ型から手のひらサイズへ

 外観から見ていこう。従来の「Slingbox PRO HD」(29,800円)は34×15×5.5cm(幅×奥行き×高さ)で、アーチのような形状だったが、「Slingbox 350」は18×11×4.5cm(同)と、大幅に小型化した。

 従来モデルはそのサイズや形状から、テレビラックの上部などにドッシリ設置するイメージだが、新モデルはレコーダの横のスペースなど、ちょっとした隙間にも設置できそうだ。

コンパクト化したSlingbox 350
従来モデル「Slingbox PRO HD」

 筐体には無数のくぼみが設けられている。くぼみは均等に設けられているのではなく、前方は大きく、後方は小さく、グラデーションがついている。さらに前方はくぼみが内部まで貫通し、筐体内部が透けて見える。恐らく放熱も兼ねているのだろう。この独特のデザインにより、形状は“単なる黒い箱”だが、味のある変化に富んだ外観になっている。

筐体には無数のくぼみがついており、光によって微妙に見え方が変化する

 仕様面をチェックしよう。背面を見ると、コンポーネント、コンポジット、アナログ音声(RCA)の入出力を各1系統装備している。BDレコーダなどからの出力を、ここに接続。出力端子はスルー出力になっているため、テレビなどに接続する。つまり、テレビとレコーダの間に「Slingbox 350」を挟むイメージだ。製品にはD端子からコンポーネントへの変換ケーブル、コンポジットケーブル、ステレオの音声ケーブルも同梱する。

 現在のBDレコーダは、テレビとHDMIで接続している事が多いだろう。その場合、レコーダのアナログ出力はフリーになっている事も多いはず。そこに、Slingbox 350を接続する事で、遠隔視聴機能を追加できるというわけだ。

背面
コンポーネントとD端子の変換ケーブルなどが付属する
BDレコーダと接続したところ
付属ケーブルの一覧

 だが、ここで1つ注意しなければならない事がある。当然ながら、接続するレコーダ側にコンポジット、コンポーネント、D端子のいずれかの出力が用意されていなければならない。高画質で使いたい場合はコンポーネントかD端子が欲しい。しかし、現在のレコーダではアナログ出力は削減される傾向にある。例えば、ソニーのBDレコーダ現行モデルでは、スカパー! HDチューナを搭載した「BDZ-SKP75」以外のモデルではD端子出力やコンポーネント出力は省かれている。パナソニックのレコーダでも、4月下旬発売の「BZT750」などの新モデルや、全録の「BXT3000」には、コンポーネント/D端子出力は無い。

 ただ、こうした最新機種ではなく、少し前のレコーダであれば、搭載されている事の方が多いだろう。いずれにしても、組み合わせようと考えているレコーダの出力を一度チェックした方が安心だ。

セットアップは簡単

 前面には何もないように見えるが、中央に赤外線発光部を備えている。遠隔のスマートフォン/PCなどからの操作指令をここからレコーダなどに向けて発光する。そのため、この前に何かを置くなどしないように気をつけたい。

 なお、レコーダなどと正対して配置しなくても、壁に反射するなどして、隣に置いたレコーダを操作できる。それでも上手く信号が届かない場合は、同梱している別体の発光部をSlingbox 350本体と有線で接続して、レコーダの前に引き出して置く事もできる。

レコーダの上部に設置したところ。この状態でも赤外線操作が可能だった
付属の発光部を引き出してくる事もできる

 ネットワークのセットアップは簡単。というか、Ethernet端子を備えているだけなので、ここにルータを接続するだけだ。最近では無線LANで接続するAV機器も増えているが、このわかりやすさは1つのポイントだろう。ただ、当然ながらルータからここまでLANケーブルを引っ張って来る必要がある。それが難しい場合は、他のアクセスポイント/Ethernetコンバータなどを用意する必要がある。

 ハードウェアの接続が完了したら、ソフトウェアの設定となる。まず、PCから、説明書に書かれたアドレスにアクセスすると、視聴用のアプリ(ブラウザプラグイン)のインストールを促される。今回はGoogle Chromeを利用した。

 まずはSlingboxのIDを取得。その後、PCとSlingbox 350が同じLAN内にあれば、ブラウザの設定画面にSlingbox 350が現れる。後はウィザードに沿って進めていけば、迷わず設定できる。注意する必要があるのは、入力端子の選択部分。コンポーネントかコンポジットのどちらに、何の機器を接続しているかを設定する部分だ。ここで違う入力を選択していると、「繋いでいるのに映らない」となってしまうので要注意だ。

初期設定に進むスタート画面
接続機器の名前を入力する
豊富なデータベースが用意されており、型番を途中まで入力しただけで多数の候補が提示され、絞りこまれていく
接続端子の設定画面

 設定が完了すれば、既にブラウザ内の画面に、レコーダの映像が表示される。また、接続機器の設定段階で、レコーダの型番も入力しているので、レコーダのリモコンも画面上に呼び出す事ができる。マウスなどを使ってこのリモコンを操作すれば、その指令がSlingbox 350から赤外線で送信され、レコーダに届くという仕組みだ。

設定が正しければ、レコーダの画面がもう見える
EPGを表示したところ。レコーダに付属するものと同じリモコンも、画面上に呼び出せる

画質をチェック。スマホからの視聴も可能

 視聴は、ブラウザ内での表示だけでなく、全画面表示も可能。映像の隣にリモコンを表示するモードも用意している。これらの表示モード切り替えは瞬時で、ストレスは無い。

 一度視聴を初めてしまえば、画質/滑らかさに不満は無い。Slingbox 350では1080p入力までに対応し、より高画質な転送を可能にしているのが特徴だが、今回組み合わせたBDレコーダはD4までの出力なので、高画質をフルに活かしているわけではない。ただ、それでもアナログ入力だという事を忘れるほど高精細で、テロップなどもキッチリ解像されており、TV視聴という面で画質的な不満は感じない。

レコーダ側の番組詳細情報を表示したところ。文字もしっかり読める
テロップも細かく解像され、読みやすい
映像だけを別のウインドウで切り離して表示する事も可能。ながら見には便利な機能だ

 テストとして、BDレコーダの静止画表示機能を用いて、デジカメで撮影した写真を表示。それをLAN経由でPCで表示した画面をキャプチャしてみたが、高い画質を維持している事がわかるだろう。テレビで放送された洋画なども見てみたが、アクションシーンでの安定感や、人肌の滑らかさなども十分表現できている。

レコーダ側で静止画を表示させたところ。一番右は全画面表示

 PC以外の端末でも視聴してみよう。今回はiPhone 4Sを使ってみた。アプリは「SlingPlayer for Mobile」と言うのもが用意されている。注意しなければならないのは、このアプリが有料だという事。具体的には、iPhone/iPad向けが各1,300円、Androidのスマホ/タブレット向けが各1,099円だ。Slingbox 350自体は19,800円と、従来モデル(29,800円)から低価格化されたが、アプリで追加料金がかかるのは覚えておく必要がある。

 アプリの利用方法は簡単で、必要な設定はSlingboxのIDとパスワードを入力するくらい。起動すれば自宅のSlingbox 350が発見できるため、ここに接続すれば、その映像が見られる。

 PCでも十分な画質が楽しめたが、iPhoneで視聴すると、画面が小さく凝縮されるので、より高画質に感じる。ワンセグと比べ、滑らかな点も特徴で、スポーツ番組も快適だ。

iPhone 4Sで「SlingPlayer for Mobile」を起動したところ
操作パネルをオーバーレイ表示できる
EPGをカーソルボタンで操作しているところ

 リモコン操作モードとして、テンキーやカーソルなどのモードを用意。画面を見ながら指先で操作ができる。タッチで直感的な操作ができるという面では、PCでマウス操作するよりも快適度は高いと感じる。スマートフォンの小さな画面でEPGを表示し、録画予約する時などは文字が小さくて見づらいが、拡大表示するモードも備えているなど、定番製品らしい熟成度を感じさせる機能もある。

 なお、ネットワーク環境は、HD画質で視聴する場合は2Mbps以上、SD画質選択時には600Kbps以上の回線が必要となる。ルータはUPnPまたはNAT-PMPに対応したものが必要だ。

EPGなど小さな文字を読むために、拡大モードも備えている
テンキー入力も可能だ

気になる遅延はどの程度?

 気になるのはネットワーク経由での再生による遅延だろう。かなり短縮されているとは感じるが、それでもやはりタイムラグはある。

 PCから視聴している場合、チャンネル変更にかかる時間は3~4秒。接続しているレコーダ自体のチャンネル変更所要時間は1秒もないので、やはり時間はかかる。ただ、数字だけみると長く感じるが、実際に使ってみると、映像が表示される前に音声は変更後のチャンネルのものが流れてきて、そこから少しして映像が表示されるという流れなので、心理的にあまり待たされている感じはない。

 同じ宅内無線LAN環境で、iPhone 4Sでチャンネル変更してみると、こちらも所要時間は3秒程度でほぼ同じだ。

 また、アプリからLAN内のSlingboxに接続し、最初の映像が出てくるまでの時間を計測してみると、約11秒かかった。

 次に、iPhoneを手に屋外へ。iPhone 4Sを3G通信状態にする。そこで、同じように自宅のSlingboxに接続し、映像が出るまでの時間を計測してみると、今度は25~26秒と、倍以上の時間がかかってしまった。

 そこで、NTTドコモのLTE「Xi」に対応したモバイルルータ「L-03E」を用意。iPhone 4Sを無線LAN接続モードにして、このモバイルルータに接続してみた。つまり、LTE経由で自宅のSlingboxと接続する状態だ。この環境で、Slingboxへの接続から絵が出るまでを計測すると、今度は16秒と大幅に短縮。自宅のLAN内で使っている速度にかなり近づいた。

回線接続から絵が
出るまでの時間
無線LAN約11秒
LTE
(無線LAN経由)
約16秒
3G約25秒
画質モードはHQとSQ、自動を用意

 受信の安定度はどうだろうか。自宅の無線LANでは当然ながら、映像が止まる事なく、非常に快適に視聴できる。画質モードは高画質の「HQ」と、標準画質「SQ」が用意されており、自動で切り替えるモードも用意。HQモードに指定しても、まったく問題ない。

 3G接続でテストすると、ニュースでアナウンサーが正面を向いて喋っているような動きの少ないシーンではたまに映像がひっかかる程度でなんとか視聴できるが、サッカーや旅番組の移動シーンなど、情報量が増えるとカクカクと止まる頻度が増え、快適視聴とは言いがたくなる。自動モードからSQモードに手動変更してみたが、あまり状況は変わらなかった。

 接続をLTEに変更すると、SQモードで安定した視聴が可能になる。スポーツ番組などでもカクつく事はない。ではさらにとHQモードに切り替えると、動きのあるシーンでやや引っかかるが、3G回線ほど厳しくはないと感じた。個人的には、3G向けに、音をメインに、映像はフレームレートや画質を大胆に落としたモードも欲しいと感じた。

 基本的には、宿泊先のホテルや喫茶店などの無線LAN、もしくは有線LANに接続して利用するのがメインと考えられるが、SQ画質で利用する場合、LTEの回線速度があれば、通勤通学などの移動中に、スマートフォンでも十分に視聴できるだろう。

 ワンセグとくらべても、野球やサッカーなどのスポーツでは、フレームレートに余裕があるため、動きが滑らかで、プレイ内容がよくわかり、「ボールが何処に行ったのかわからない」とか、「動いている選手の背番号や輪郭が崩れて誰だかわからない」などのストレスも少ない。SQモードでも、バラエティ番組のテロップはしっかり解像され、読み取れる。内容確認というレベルではなく、しっかりテレビを楽しめるクオリティと言える。

 映像/音声のクオリティは満足だが、少し工夫が必要なのは操作のタイムラグだ。iPhoneで宅内無線LANに接続し、操作しているBDレコーダを横目に見ながらタイムラグを確認してみると、先ほどのチャンネル変更と同じように、例えばカーソルを横に移動させた場合、移動後の映像がiPhoneに表示されるのは約3秒後となる。

 ちなみに、iPhoneから操作を行なうと、レコーダ側でカーソルが移動するのは、操作時から1秒もかかっていない。つまり、指令が届くまでは1秒もかからないのだが、届いた後の映像がiPhoneに送られ、表示されるまでに計3秒程度のラグがあるわけだ。

 そのため、この3秒を意識しながら操作すると良い。例えば、EPGで「右に3カーソル移動した番組を選択したい」時は、iPhoneのスクリーンボタンの矢印を3回押し、押した後で3秒程度待って、カーソルが移動できたことを確認。そこから決定ボタンを押す、などの“心の余裕“が求められる。

 これに慣れていないと、「あれ? 押したはずなのに画面のカーソルが移動していないぞ?」と早とちりし、もう一度カーソルを押してしまう。すると、本当はしっかり3マス動いていたのに、4マス動いてしまう。その間違った移動画面が届くのは3秒後、そこから1マス戻す操作をしても、それが表示されるのは3秒後で……と、しっかり待機しないと、誤動作の堂々巡りのような事態になってしまう。これは完全に“慣れ”で、数日使っていると、操作のリズムがつかめてくるだろう。

まとめ

 アプリは別料金となるが、19,800円の投資で使っていないレコーダのアナログ出力を活用。最新のレコーダなどで実現される遠隔試聴機能を追加できるという意味で、注目度の高い製品だ。セットアップや機能は洗練されており、画質も良好。完成度の高さも魅力である。

 筐体がコンパクトになった事で、AVラック内に空きスペースが少ない環境でも追加できるのも大きなポイントだろう。

 前述の通り、レコーダからアナログ出力は省かれる傾向にあり、DTCP+対応機器が今後本格的に広がる中での、過渡期向けの製品である事は間違いない。しかし、BDレコーダ自体の基本機能である“録画・蓄積・ディスクへの書き出し”機能は既に成熟しており、現在は全録機能や、自動録画機能の快適度、効率的な再生機能、そしてDTCP+などのネットワーク配信機能で差別化を図っている現状だ。そうした新機能に対して、「今のレコーダで満足していて新しいレコーダを買うほどでもないけれど、ネットワーク視聴はしたい」というニーズもあるはず。そこに上手くフィットする製品と言えそうだ。

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山崎健太郎