レビュー

北海道のローカル番組を東京でDTCP+リモート視聴

バッファロー「LS410DX」活用で自宅&実家で相互視聴

 筆者の自宅は東京に、実家は北海道にある。気候も違えば、暮らす環境としてもいろいろ違うので、たまに実家に帰ると気分も変わるし、リフレッシュにもなる。しかし、少しストレスを感じることもある。その一例は地デジのテレビ放送だ。

 当たり前ではあるが、東京でしか放送していない番組や、北海道でしか放送していない番組はたくさんあるし、東京で先に放送し、数日後に北海道で放送するといった“時差”のある番組は多い。

バッファロー「LS410D0201X」

 東京暮らしも10数年。最近は「そういうもの」と諦めてはいたものの、2013年に入って盛り上がりつつあるのが「DTCP+」。デジタル放送をネットワーク経由で再生できる技術で、特定の条件を満たすことで、外出先からもインターネット経由で自宅のデジタル放送録画番組などを視聴可能にするものだ。これを活用すれば、北海道の帰省時にも東京の録画番組を見ることができる。さらに、実家にも機材を設置すれば、北海道の放送を東京で見ることもできるハズ。

 そこで、今回はバッファローのDTCP+対応NAS「LS410D0201X」とSCEのネットワークレコーダ「nasne」を組み合わせたリモート視聴環境を構築。帰省にかこつけて、東京の自宅と北海道の実家にLS410DX/nasneを設置し、双方で不自由なくリモートテレビ視聴できるかどうか、チャレンジした。

DTCP+対応NAS「LS410DX」でテスト

LS410D0201X

 DTCP+の実現には、レコーダ、配信するサーバー、そしてクライアントの3つが必要だが、配信サーバーについては、現時点ではNAS(LAN HDD)が中心といえる。'13年に入ってから対応製品が増えてきたが、'13年8月に発売されたバッファローのNAS「LS410DXシリーズ」もその1つ。容量が2TB(38,850円)、3TB(47,775円)、4TB(61,215円)の3モデル用意され、このうち4TBモデルは受注生産となっている。

 「LS410DXシリーズ」は、1000BASE-T対応のEthernetを備えたNAS。LAN内のWindows/MacやiOS/Android端末などからアクセスし、ネットワークHDDとしてファイルのやり取りが可能なのはもちろんのこと、ローカルネットワークのメディアコンテンツを視聴するためのDLNAやDTCP-IPに対応。DTCP+にも対応することで、対応機器からの「リモート」視聴にも対応した製品だ。

バッファロー「LS410D0201X」。横置きに対応
側面
1000BASE-T EthernetとHDD増設、USBデバイスサーバー用のUSB 2.0ポートを装備

 目玉となるDTCP+以外にも、iTunesサーバーとして稼働させ、宅内の複数の機器で音楽再生できるようにする機能や、Macのバックアップに用いる「Time Machine」対応、BitTorrentなどの機能を搭載。また、USB 2.0ポートも備えており、HDDを増設できるほか、USBデバイスサーバー機能によりUSBプリンターなどを複数のPCで共有することもできる。NASとしての標準機能をほぼ全てカバーしながらDTCP+に対応した製品だ。

DTCP+の枠組みをおさらい

 すでに他の記事でも解説されているが、改めておさらいすると、LS410DXはあくまでもHDDのため、宅内、宅外にかかわらず番組の視聴には録画するための機器が別途必要になる。また、その録画機器がムーブ(ダビング)に対応していなければならず、プレーヤーとなるクライアント機器も用意しなければならない。整理すると、DTCP+を利用するのに必要な機材は以下の3つだ。

【DTCP+に必要な機器】
・LS410DXシリーズ
・ムーブ(ダビング)に対応した録画機器
・DTCP+対応のクライアント機器(メディアプレーヤー)

LS410DXと、ムーブに対応したレコーダーであるSCEのnasne
DTCP+対応アプリがプリインストールされたARROWS NX F-06Eと、「DiXiM Digital TV for iOS」を対応のiPhone 5

 現在利用可能なDTCP+対応のクライアントアプリケーションは、デジオンのiOS端末用アプリ「DiXiM Digital TV for iOS」と、Windowsアプリケーション「DiXiM Digital TV 2013」、Android端末用の「DiXiM Player 4.0 for Android」の3種類。

 「DiXiM Digital TV for iOS」はiPhone 4S以降、iPad 2以降、第5世代のiPod touchに対応。10月7日公開のVer.2.1.0により、iOS 7とiPhone 5s/5cに正式対応した。アプリ本体の販売価格である1,000円に加え、アプリ内課金による500円の計1,500円でDTCP+に対応する。

 「DiXiM Digital TV 2013」はLS410DXに同梱されており、「DiXiM Player 4.0 for Android」は現在のところ富士通製のARROWS NX F-06E、Disney Mobile on docomo F-07E、ARROWS A 202Fの3機種にプリインストールされている。

Windows用の「DiXiM Digital TV 2013」
DTCP-IP対応の「DiXiM Digital TV for iOS」アプリは1,000円。DTCP+対応にするにはさらに500円を支払う

 LS410DXへの録画番組のムーブに対応している機器には、東芝REGZA、日立Wooo、シャープAQUOS、パナソニックVIERAなどのテレビの他、各社のソニーやパナソニックのレコーダの一部機種、SCEのnasneなど。ムーブ対応機器の詳細はバッファローのWebサイトでご確認いただきたい。

 レコーダからLS410DXへのムーブは手動で行なう必要があるが、LS410DXではトランスコーダを搭載しているため、クライアントからの再生時は適切な画質・フォーマットに自動変換され、快適に視聴できるのが特長だ。手動での変換画質設定も可能。

 回線速度や再生用端末の性能などに応じてユーザーがわざわざ動画を圧縮・変換するような作業は必要ない。クライアントの「DiXiM」側ではリモート再生時の画質(ビットレート)を設定できるため、低速な3G回線で接続している場合も、高速なWi-Fiで接続している場合も、可能な限り高画質を保ちながらストレスなく再生できる。

「DiXiM for Android」ではLAN内からアクセスしている時とリモートからアクセスしている時とで、再生画質をそれぞれ調整可能
「DiXiM Digital TV for iOS」でもリモートからの再生画質を明示的に選択可能

 DTCP+で外から番組を見るための手順を簡単に説明すると、以下の通り。

【DTCP+で番組を視聴する際の手順】
1.前述のDTCP+に必要な3種類の機器を用意する
2.録画機でテレビ番組を録画する
3.LS410DXか録画機の機能でLS410DXに録画番組をムーブする
4.「DiXiM」で宅外からアクセスし再生する

 対応機種が限られており、DTCP+による宅外視聴を実現するためのハードルはまだ低くはない。しかし、8月30日にデジオンのiOSアプリ「DiXiM Digital TV for iOS」がDTCP+対応し、iOS端末をクライアントとして利用できるようになったため、利用可能なクライアント機器は飛躍的に広がったといえる。ある程度手軽に“いつでもどこでも”テレビ視聴できる環境が整いつつある、というのが現状だ。

録画番組を外で見たい時は?

 今回は入手性や取っつきやすさなどの面からnasneと組み合わせたパターンを例に解説していきたい。

 DTCP+を使い始めるための準備や設定は複雑に思えるかもしれないが、「単に録画番組を外でも見たい」という要望をかなえるだけであれば、実はそれほど難しくない。nasne自体の初期設定については省くが、LS410DXにムーブした録画番組をスマートフォンで外から視聴したいときは、“無線LAN環境”と“手動でムーブする手段”を用意する必要がある点に留意すればOKだ。

 まず自宅のLANに有線でLS410DXおよびnasneを接続した後、LANにWi-Fi接続したスマートフォンで「DiXiM」を起動し、スマートフォンのLS410DXへの“登録”を行なう。スマートフォンは基本的に有線LANでは接続できないため、宅内に無線ルータや無線LANアクセスポイントの設置が必要だ。

DiXiMでLAN内の機器を一覧。LS410DXを検出したら、その右に見える家のアイコンをタップ
規約に同意して「サーバー機器へ登録」ボタンを押す
登録が完了すると家のアイコンが黄色に変化。これでリモートからLS410DXにアクセスする準備は整った
外出先からは“リモートサーバー”画面からアクセスする

 次に、nasneで番組を録画したら、PCやスマートフォンなどでLS410DXのWeb設定画面を開き、「DLNAサーバー」の項目をクリックしてムーブ画面にアクセス。nasneを検出後、必要な番組データをLS410DXにムーブすれば準備完了だ。このムーブ画面はどこにあるかわかりにくいので、一度アクセスしたらブックマークしておくとよい。

WebブラウザーでLS410DXの設定画面を表示。「DLNAサーバー」の歯車アイコンではなく、枠内をクリックする
規約に同意して「サーバー機器へ登録」ボタンを押す
nasneが検出されると、nasne内の録画済み番組が一覧される
一覧から選んだものを“ムーブ”すれば、非同期処理でムーブが開始
再びDiXiMでLS410DXに接続すると、ご覧のようにムーブ済みの番組を一覧し、再生できる
もしこのようなエラーが表示されてしまったら、DiXiMを強制終了して起動し直してみよう
実家のソファでゴロゴロしながら、東京の自宅で録画されている番組を見る

 あとは外出時にスマートフォンからDiXiMを起動して、“リモート”画面に一覧されるLS410DXを選べばよい。しばらくすればカテゴリー一覧が現れ、動画や写真などを選んで再生できるようになる。もしエラーが表示される場合は、いったんDiXiMのタスクを強制終了させ、もう一度起動させるとうまくいくだろう。

録画後に自動で視聴できるようにしたい時は?

 録画番組をムーブしておけば、後はクライアントから見るだけ。しかし、ムーブを忘れてしまうこともあるし、やはり都度録画番組をムーブするのは面倒だ。LS410DXには、残念ながら自動でムーブを行なう機能がないが、バッファローによると、10月末にファームウェアアップデートにて自動ムーブ機能を追加する予定とのこと。

 それまでは基本的に「録画後に即視聴」という使い方はできず、必ず自宅内で、PCやスマートフォンから手動でムーブしなければならないわけだ。

ムーブの開始時刻をスケジューリングすることもできるが、手動操作しなければならないことに変わりはない

 ただし、常時電源をオンにしているPCが自宅にあれば、リモートデスクトップを使うという手もある。外出先から自宅PCをリモート操作し、ムーブ画面にアクセスして録画が終わっている番組をムーブすればよい。「Splashtop 2」などのリモートデスクトップを実現するスマートフォンアプリを使うのもアリだ。小さい画面では操作しにくいかもしれないが、ノートPCを持ち歩いていない場合や、出張で自宅に帰れず、どうしてもすぐに見ておきたい番組があるような時には役立つテクニックと思われる。

Androidアプリの「Splashtop 2」。PCをリモート操作することでムーブも行える
「Splashtop 2」でPCのデスクトップを表示したところ。拡大もできるので細かい部分もきちんと操作できる

・Android版「Splashtop 2 Remote Desktop」
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.splashtop.remote.pad.v2
・iOS版「Splashtop 2 - Remote Desktop for iPhone & iPod」
https://itunes.apple.com/jp/app/splashtop-2-remote-desktop/id561386772

 さらに録画予約も外からしたい、という話になると、対応機器はかなり絞られそうだ。幸いなことにnasne向けには「CHAN-TORU」というテレビ番組表・予約録画サービスが提供されており、PCやスマートフォンを使ってリモートから番組の録画予約を行なえるようになっている。こちらもDTCP+の時と同様に、一度nasneと同じLAN内で“機器登録”を行なう必要があるが、オンラインヘルプに沿って設定を進めていけば難しいことはないはずだ。

「CHAN-TORU」でテレビ番組表を表示。のnasneに対して録画指示を行なえる
もちろんスマートフォンからもアクセス可能

実家と自宅でローカル番組の相互視聴環境を実現!

実家にもLS410DXとnasneを設置

 LS410DXを使うことで、録画番組を外で視聴できることはわかった。「見たいときに見られる」という安心感はなにものにも代えがたい魅力がある。

 しかし、自宅で録画した番組を外で見る機会というのは、社会人にとってみれば遠方への出張時や移動時間くらいかもしれない。仕事中に見るわけにはいかないし、その日帰宅するまでガマンすればいい。

 ところが、LS410DX(とムーブ対応録画機)が2台あると話は違ってくるハズ。1台を自宅に、もう1台を実家に置いて予約録画しておき、あとは定期的にムーブするように決めておけば、実家帰省中には自宅のエリアの番組を、自宅にいるときは実家のエリアの番組を、それぞれ好きなように見ることができる。

 前述の通り、筆者の場合は自宅は東京に、実家は北海道にある。東京、北海道のいずれかしか放送していない番組や、東京で先に放送し、数日後に北海道で放送するといった“時差”のある番組も存在する。そのため、このパターンではかなり有効に2台のLS410DXを使いこなせるのではないか、というのが筆者の狙いだ。帰省中でも東京でしか放送していないアニメやバラエティ番組をすぐに見られて、逆に普段は北海道ローカルのテレビ番組を視聴できるわけだ。

 というわけで、帰省にかこつけて、自宅だけでなく北海道の実家にもnasneとLS410DXの録画環境を設置した。設置自体は簡単、なはずだが、実家が有線LANしかない環境であることに後から気付いて、急遽無線アクセスポイントを買いに走るというトラブルもあった。スマートフォンなどのDiXiMをLS410DXに“登録”するため、一度ローカルネットワークでの認証作業が必要なのだが、このために無線LAN環境が必須ということは改めて強調しておきたい。

試される大地、北海道へ

 先日はルーキー大谷投手と連勝記録がかかっている田中投手の投げ合いが注目となった日本ハム対楽天の試合があったのだが、残念なことに東京の地上波では日本ハム戦の放送がほとんどなく、その一方で日本ハム本拠地の北海道ではローカルテレビ局による長時間のライブ中継が行なわれている。こういった通常であれば見たくても見られない番組を、どこにいても視聴可能になるというのは、やはりうれしい。

 ただしDTCP+の規格上、配信できるのは「録画番組」のみ。放送中の番組をそのままストリーミング配信できないのはやや残念なところだ。

北海道でしか放送されていない野球中継を予約録画
東京の自宅に帰った後は、ムーブしてもらった野球中継を視聴できる
「CHAN-TORU」では複数のnasneを登録できる。北海道にあるnasneか、東京にあるnasneかを選択して録画を実行可能。名前をきちんとつけて区別できるようにしておきたい
LS410DXも2台になるので、DiXiM上でも2台表示される。こちらは自由に名前を付けられないので、下3桁の型番らしき部分で判別する

 気になるリモートからの動画再生のレスポンスも、ほぼ瞬時に再生できるLAN内と比べれば遅くはなるものの、極端にユーザビリティーが劣ることはない。たとえば、リモートから光回線の宅内に置いてあるLS410DXにLTEでアクセスした際、動画の再生品質をLTE向けの1.6Mbpsに設定した場合であれば、コンテンツを選択してからおよそ10秒弱で再生が開始する。早送り・早戻し時に発生するバッファリングも5、6秒程度だ。

 もちろん使用しているインターネット回線やモバイルネットワークの状況によっても左右されるだろうが、使用しているネットワークに適切な動画品質で再生する限り、レスポンスの遅さが気になることはまずないだろう。

 とはいえ、“ムーブ”という問題は残る。自宅で北海道の番組を見る場合は、実家に住む高齢の両親には難しそうな操作をお願いしなければならない。また、帰省中は自宅の家族にムーブを頼むなど、「家族の協力頼み」な状況というのは望ましくない。筆者の場合、Web設定画面など必要なページへのブックマークをわかりやすく設定しておいたおかげか、60歳半ばの父親でもなんとかムーブ操作を覚えてもらえたが、PCの電源だけ入れてもらい、前述のリモートデスクトップで操作する方が効率的かもしれない。

 ということで期待されるのが、「自動ムーブ」への対応だ。バッファローでは10月末頃のファームウェアアップデートを予定しているとのことだが、この対応により実用的なリモート視聴環境が構築できそうだ。

リモートアクセスの色々な魅力

 また、DTCP+とは異なるが、録画番組と同様にLS410DXに保存した動画や写真もDiXiMを使ってリモートからアクセスできるため、帰省時や出張中には自宅で留守番している家族に写真をどんどん保存してもらい、自宅や子供の様子を随時チェックできるようにするという使い方も面白い。

留守番している家族に画像をコピーしてもらえば……
こんな風に自宅に置いてきた我が子が元気かどうか遠くからでも確認できる

 これを応用すれば、実家の両親との間で大容量の動画・写真を共有する、プライベートクラウドのような活用もできるようになる。忙しいのと離れているのとで、なかなか実家に帰れないような場合でも、LS410DXを介して近況を報告し合うことができれば、お互いに安心できるのではないだろうか。もしかすると、孫の顔をすぐに見られるという動機付けがあれば、実家への機材設置や操作にも快く協力してくれる、なんてこともあるかもしれない。

LS410DXnasne


協力:バッファロー

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。