レビュー

ハイレゾウォークマン「NW-ZX1」、「NW-F880」を体感する

抜群の完成度と音質。最上位機の音とは?

NW-ZX1とNW-F880

 ソニーが「ハイレゾ」に本気だ。HDDオーディオプレーヤーやUSB DAC、プリメインアンプ、ヘッドフォンアンプなど、多種多様な製品で、24bit/96kHzといったCDを超える音質のハイレゾオーディオ対応を強化してきた。多くの製品でDSDに対応するほか、スピーカーやヘッドフォンも、ハイレゾ対応にリニューアルしてきた。

 そして、ソニーオーディオ製品の橋頭堡ともいえる「ウォークマン」も上位モデルの「NW-F880」シリーズと最上位「NW-ZX1」の2モデルでハイレゾ対応を果たした。24bit/192kHzまでのWAVやFLAC、AIFFファイルなどに対応。あわせて、音楽配信サービスの「mora」でもハイレゾ楽曲配信がスタートした。

 ウォークマンでは'12年の「NW-F800シリーズ」などがFLACに対応していたものの、16bit/48kHzまで。mora以外にも、e-onkyo.com、OTOTOYなどの国内勢や、海外の配信サービスなどで盛り上がりを見せているハイレゾに対応したというトピックは大きなものだ。ホームオーディオ製品だけでなく、ポータブルオーディオにおいても「ハイレゾ」が大きなトピックになっていきそうだ。

 もちろんこれまでもハイレゾ対応のポータブルプレーヤーが無かったわけではない。iriver/Astell&Kernの「AK120」および「AK100」を筆頭に、iBasso「Basso HDP-R1」などのハイレゾプレーヤーは発売され、オーディオファンやマニアからの人気を集めている。しかし、やはり中高生など若い世代から年配まで高いシェアをもつウォークマンが「ハイレゾ」対応を果たしてきたというインパクトは大きい。また、この市場でウォークマンに並ぶビッグネームである「iPod」にはハイレゾ対応製品は無い。

 そのハイレゾ対応ウォークマンの先陣をきって「NW-F880」シリーズが10月19日に発売、そして最上位モデル「NW-ZX1」も12月7日に発売される。F880シリーズは容量16/32/64GBの3モデルで、直販価格は26,800円(16GB)、29,800円(32GB)、39,800円(64GB)。NW-ZX1は128GBで直販価格は74,800円だ。

 今回は、そのハイレゾウォークマン2モデルの実力を検証する。なお、NW-ZX1については製品版では搭載予定の音質補間技術「DSEE HX」を未搭載の試作機だが、それ以外の音質や機能については製品版と同等のものだ。

S-Master HXや電源など“根本”から音質強化

 NW-ZX1/F880とも、オーディオ/メディアプレーヤーとしての基本機能はほぼ共通で、いずれも高音質に向けた設計やチューニングを行なっている。ただし、ZX1はより「物量」を投入して音質強化を図った製品といえる。

NW-ZX1
NW-F880

 4型/480×854ドット液晶ディスプレイを搭載し、OSにはAndroid 4.1。Google Playによるアプリ追加に対応するほか、YouTubeやGmail、Google Map、Webブラウザなどの標準アプリに加え、ソニー独自のW.ミュージックや、ビデオプレーヤー、フォトビューアなどを搭載。IEEE 802.11a/b/g/nの無線LANや、Bluetooth(A2DP/AVRCP/OPP/HID)に対応する。CPUは、OMAP 4 Coretex-A9 1.0GHz(デュアルコア)。

 対応音楽フォーマットは、FLAC、Apple Lossless、AIFF、WAV、MP3、AAC、WMA、ATRACで、新たに24bit/192kHzのFLAC、Apple Lossless、WAV、AIFFなどのハイレゾオーディオファイルに対応した(従来は16bit/48kHzまで)。ただし、DSDには対応しない。

 ハイレゾ音源ではCDの3倍(96KHz/24bit)~7倍(192KHz/24bit)の情報量を持つことから、電源やアンプ、高音質化処理などの各領域を強化した。

 まずは、NW-F880の音質強化点を紹介しよう。アンプについては、独自のデジタルアンプ「S-Master」をハイレゾ対応とした「S-Master HX」を搭載。主な強化点は、ハイレゾ音域でのノイズ低減、コンデンサ除去による低音強化、電源強化の3点だ。

NW-F880と付属イヤフォン
側面にボリュームや再生/停止、スキップ/バックなどのボタン
ヘッドフォン出力
WM-Portはデジタル出力対応
背面にBluetoothペアリング用のNFC
スピーカーも内蔵

 ハイレゾ音域でのノイズ低減については、ノイズを除去する音域を従来より高周波帯まで拡げ、音質への影響を排除。また、カップリングコンデンサの除去により、低域の沈み込みを高め、力強くキレのある低音出力が可能になったという。電源も、ヘッドフォンとオーディオ出力のために4つの独立電源を搭載した(従来は1つ)。これにより、合計出力を向上したほか、左右の音の相互干渉を低減。ステレオ感を高め、力強い再生を可能にした。

 また、12月にはハイレゾ対応の音質補間「DSEE HX」に対応予定(ZX1は発売時に対応)。DSEEは圧縮音源でも、24bitへのビット拡張と192kHzへのアップサンプリングを行なうことで、圧縮で消えがちな微小な音の再現性を高めるもの。

 従来モデル同様にクリアベース、クリアステレオ、EXヘッドフォン、クリアフェーズなども引続き搭載する。F880は、付属イヤフォンを使ったデジタルノイズキャンセリング(NC)にも対応する。

・ZX1の高音質化機能

 これらのF880シリーズの改良に加え、NW-ZX1はさらに音にこだわり、高品位パーツの採用や、振動の徹底した抑制などに取り組んだ。

 シャーシは、アルミ削りだしフレームをベースとし、高剛性かつ不要な振動による音質への悪影響を低減。ヘッドフォン駆動用に大型のコンデンサを搭載したため、背面下部には膨らんでいる。また、ヘッドフォンジャック部も円筒形の真鍮切削パーツで包み込み、より強固に固定する。

NW-ZX1の付属品
NW-ZX1。側面にボリュームや再生/停止、スキップ/バックなどのボタンを装備
ウォークマンロゴ
真鍮切削のヘッドフォンジャック
背面にはNFC。Bluetoothペアリングに利用

 DACには専用のクロック発振器を使用。高精度クロックを供給することで、内部演算回路の精度を向上させ、歪率やノイズの低減を図った。電源も大型コンデンサ(OS-CON)の採用により、力強い中低音を実現。電池接続に低抵抗のケーブルや保護回路を採用している。また、デジタルアンプの不要なノイズを取り除くため、フィルムコンデンサを採用するなど信号回路のブラッシュアップを図っている。

 ヘッドフォン出力はF880の10W×2ch(16Ω)に対し、NW-ZX1では15W×2ch(16Ω)に強化。一方で、F880シリーズとの比較では、デジタルノイズキャンセリングやFMラジオなどの機能が省かれた。これは、音質への影響を極力排除するため、とのこと。また、ハイエンドユーザーの利用を想定しているため、ヘッドフォンも付属せず、ユーザーが好みのものを接続できるようにしている。

NW-ZX1NW-F880
容量128GB16/32/64GB
アルミシャーシ-
アンプS-Master HX
再生可能ファイルFLAC、WAV、AIFF、Apple Lossless、
MP3、WMA、AAC、HE-AAC、ATRAC
NFC/Blutooth
デジタルNC
FMラジオ
-
付属ヘッドフォン-EXヘッドフォン
バッテリ駆動時間音楽再生:32時間
ビデオ再生:5時間
音楽再生:35時間
ビデオ再生:5時間
外形寸法
(縦×横×厚み)
122.8×60.7×15.3mm
(最薄部9.8mm)
116.6×59.9×8.5mm
重量約139g約103g
店頭予想価格75,000円27,000円(16GB)
30,000円(32GB)
40,000円(64GB)

転送ソフトは「MediaGo」に。ハイレゾ検索が便利

MediaGo 2.5

 パソコンからの楽曲の管理/転送は、「MediaGo」Ver.2.5から行なう。従来は「x-アプリ」を利用していたが、ハイレゾ対応にあわせてMediaGoに統一された。MediaGoの対応OSは、Windows XP/Vista/7/8。また、ドラッグ&ドロップでの楽曲転送も可能なので、Macでリッピングや購入した楽曲をウォークマンにUSB経由で転送することもできる。

 なお、x-アプリで購入した著作権保護コンテンツのウォークマンでの継続利用については、引続きx-アプリでウォークマンに転送する必要がある。

 また、10月17日以降は、ウォークマンで直接Moraからハイレゾファイルの購入が可能になる。パソコンを使わずにハイレゾ楽曲の購入から再生までが行なえる。

MediaGoの「ハイレゾ」タブでハイレゾ楽曲を

 MediaGoでは、楽曲(ミュージック)と、ムービーとテレビ番組、ポッドキャスト、フォトなどの管理が可能。秀逸なのが、左ペーンの「ビュー」以下に「ハイレゾオーディオ」の項目があること。これを開くことで、ハイレゾ楽曲だけの検索や選択が可能になるので、ウォークマンにハイレゾだけを転送した場合はこの機能を大いに活用したい。

 ただ、ソニーの定める「ハイレゾ」は24bit/48kHz以上の楽曲のようで、CD(16bit/44.1kHz)をリッピングしたFLACファイルなどは「ハイレゾ」タブに含まれない。「ロスレス/非圧縮をまとめたい」と考えている人にとっては、あれ? あの曲は? となるかも知れない。

 VAIO Z21(Intel Core i7 2620M/2.70GHz)のMediaGoから、USB経由でFLACを中心としたハイレゾファイル18曲のプレイリスト(2.1GB)を転送した際の転送時間は約3分25秒。同じ楽曲をドラッグ&ドロップで転送するより、MediaGoからの転送のほうが早く終わった。ただし、今回のテスト機ではNW-F880/ZX1ともに、MediaGoで作成したプレイリストが、本体上で再現されなかった。

 なお、WAVやAIFFファイルは機器に転送した後に正しいアルバム順で再生できないことがあるが、その場合もMediaGo上でファイルのメタデータを設定することで、ウォークマン上で指定通りの曲順で再生できる。

プレイリスト
WAVファイルのトラック番号をMediaGoで指定

 また、Media Goは、DSDファイル(.dffと.dsf 2.8MHzのみ)に対応しているが、NW-ZX1とNW-F880はDSD非対応となっている。試しに、MediaGoからNW-ZX1にDSDファイル(.dsf 2.8HMz)を転送してみたところ、やや時間がかかったものの転送実行され、楽曲もZX1のマイライブラリー上に登録され、再生もできてしまった。

 「実はDSDにも対応している?」と驚いたが、NW-ZX1の再生画面には、ハイレゾ楽曲を示す[HR]マークが表示されていない。ZX1上で楽曲情報を確かめると、256kbpsのMP3と表示されていた。MediaGoでの転送時にNW-ZX1でも再生できるようMP3にコンバートして出力しているのだろう。DSDがそのまま再生できないのは残念だが、とりあえずNW-ZX1/F880上で再生できるように細かな配慮されているのは評価したい。

MediaGo上のDSD(.dsf)ファイルをNW-ZX1に転送
NW-ZX1で再生できたが、転送時にMP3形式に変換されていた

再生/停止やスキップボタンを装備。本体だけで操作可能に

 操作系も改善され、再生/停止、スキップ/バックなどのハードウェアボタンが装備された。従来のF800シリーズではボリューム以外の操作キーとして「Wボタン」を装備し、このボタンでミニプレーヤーを呼び出してタッチパネルで操作を行なう仕組みだったが、NW-F880/ZX1では、再生/停止、曲送り/戻しが専用ボタンで操作できるようになった。そのため基本操作は画面を見ることなく行なえる。

 これにより、単体プレーヤーとしての操作性は大幅に向上した。例えば電車から降りる場合など、全く画面を見ずに再生停止できる。これだけの事なのだが、スマートフォンだけでなく、オーディオプレーヤーにおいても、タッチ操作全盛時代なので、専用機ならではの特徴としてこれは歓迎したい。

本体ボタン操作誤操作防止

 ただ、少し気になったのはハードウェアのホールドスイッチが無いこと。そのため、ウォークマンを取り出そうとして、誤ってスキップボタンを押してしまうこともあった。

 この誤動作を防ぐために、[設定]-[本体操作]内に、[本体ボタン操作誤操作防止]という項目がある。これを設定することで、画面オフ/ロック解除画面時には、ボリューム以外の本体ボタンの操作を受け付けなくなるのだが、ここをONにしてしまうと、一度[電源]ボタンを押してから、画面をタッチして画面ロックを解除し、再生停止操作しなければいけない。これではハードウェアボタンの意味が無いので、慣れるか、誤操作しにくいようなカバーを装着する、といった対策が必要だ。

マイライブラリー
マイライブラリーで再生中の楽曲を表示

 選曲操作はタッチパネルを用いる。基本的にタッチパネルと、液晶最下部の「バック」、「ホーム」の各ボタンを用い、タッチパネルで決定、戻るボタンで前の画面に遷移し、ホームボタンでトップメニューに戻るという形になる。また、トップ画面には、最下段にW.ミュージック、ビデオプレーヤー、アプリ、フォト、DLNAなどへのショートカットを表示しており、各機能を呼び出せる。操作体系はシンプルで、すぐに使いこなせるだろう。レスポンスも高速で不満は全くない。

 W.ミュージックにおける、楽曲検索画面[マイライブラリー]は、従来モデルからはやや変更されており、全曲、アルバム、アーティスト、ジャンル、リリース年、最近追加した曲、プレイリスト、フォルダー、録音した曲、おまかせチャンネル、カバーアートビューの各検索モードを表示。この中から任意の検索方法で、楽曲を見つけることができる。また、本体のみでのプレイリスト作成にも対応する。UI自体はこなれており、楽曲検索で戸惑うことは無い。

アルバム(リストビュー)
アルバム(グリッドビュー)
フォルダー
カバーアートビュー
おまかせチャンネル

ポータブルオーディオで感じる「ハイレゾらしさ」

 それでは音質をチェックしてみよう。個人的には'12年モデルのNW-F800ユーザーなので、まずは、NW-F800とF880を簡単に比較してみた。24bit/48kHzを超えるハイレゾ楽曲の転送が出来なかったF800ユーザーのとしては、手持ちのファイルのどれがハイレゾなのか、考えずに転送できるだけでも魅力的と感じてしまう。

 ヘッドフォンはソニーの「MDR-1R」と、Shureの「SE846(実売12万円)」を利用した。

MDR-1R
Shure SE846
再生画面。ハイレゾファイル再生時には[HR]の表示

 NW-F800とMDR-1Rで、ビートルズの「Something」(24bit/44.1kHz FLAC)を聞いてみたところ、低域がやや軽く感じるものの、音像は明瞭でセパレーションもしっかり。ハイレゾらしい情報量も味わえ、現在も十分に高音質なプレーヤーだと思う。

 NW-F880に変えてみると、ギターとベースがより太く、それでいてしっかりと分離して聞こえる。音場も広く、さらに音像も立体的になる。よく聞いてみると低域の沈み込みも深く、それぞれの音の奥行きが1段深くなったような印象を覚える。予想していた以上に大きな違いを感じた。

 MDR-1RとNW-F880の組み合わせで、24bit/192kHz FLACの「The Eagles/ホテルカリフォルニア」をF880で再生すると、冒頭のギターの解像感に驚きつつ、ベースの重さがじわっと広がる。ベースの消え際の繊細な響きやバスドラの強烈な重さをしっかり再現しながら、ギターの突き刺さるような高域や歪みが心地よい。何十回も聞いている曲だが、モニターで解析するような情報量を感じながら、後半のツインギターの掛け合いに熱くなってしまう。単純に、聞いていて楽しい。

 ジョニ・ミッチェル「Both Sides Now」(24bit/96kHz FLAC)では、サーというヒスノイズと薄いリヴァーブの中から立ち上がるボーカルの艶めかしさと存在感に耳を奪われる。昔懐かしのヒスノイズを感じていたと思うと、それがいつの間にかストリングスに包まれて空間を埋め尽くす。その中にもドラム ブラシの微かな響きや息遣い、ヒスノイズすら感じられるような、やわらかな空気感が感じられる。情報量や解像感ではなく、その場にいるような存在感がハイレゾらしさ、と思えてくる。

 Shure SE846に変えてみると、バランスは中低域よりで、特に低音の量感が強烈になる。やや低域過多とも言えそうなバランスだが、「ホテルカリフォルニア」のギターの歪みやテクスチャ、高域の伸び、ボーカルの明瞭さなどはよりイキイキと感じられる。よりロックっぽく、楽しめる印象になる。

 これだけで十分ハイレゾの魅力を堪能できたが、NW-ZX1とMDR-1Rの組み合わせに換えて、ホテルカリフォルニアを聞いてみる。すると、低域はより一段深く沈み、音像はさらに立体的になっているように感じられる。何度か比較してみると、最低域自体はさほど違わないのだが、同じ低域の中でも音の分離が明瞭で、バスドラの響きも硬質。ベースの倍音成分の広がりに、しなやかな空気感が出てくる。

 それぞれの音の見通しがより明瞭になり、ボーカルの定位もくっきりする。ツインギターの共演も2つのギターが生み出す音像の違いもより明確に感じられる。

 「Both Sides Now」では、より音像が立体的で、センターにピシっとボーカルが決まる。目の前で睨まれているかのような凄みを感じてしまった。音にその場の雰囲気というか、「実体感」が出てくるという印象だ。

 NW-F880とNW-ZX1で、ディテールに着目しながら解析的に聞いても、違いは把握できるが、印象的なのは、楽曲を通した空気感や雰囲気の違いを感じること。それが顕著だったのは、John Coltraneの「Naima(Altanete Take)」(24bit/192kHz FLAC)では、NW-ZX1のほうが低域から中高域まで、全体域にわたって情報量が豊かで、サウンドステージの広さも1段上だ。それ故、突き抜けるようなサックスの高音がより印象的に感じられる。

 こうした違いをさまざまな楽曲で発見していくうちに、自分のライブラリのすべてをハイレゾにしたくなってくるのも困ったところだ。

 同じハイレゾプレーヤーのAstell & Kern「AK100 MKII(76,800円)」や「AK120(129,800円)」とも比較してみよう。曲は「ホテルカリフォルニア」、ヘッドフォンは「MDR-1R」を中心に試聴した。

左からAK100(試聴に使用したのはAK100MKII)、AK120、NW-ZX1、NW-F880

 NW-F880/ZX-1から、AK100 MKIIとMDR-1Rに切り替えると、低域の深みや量感はやや物足りなく感じる。情報量は十分に感じられるが、全体的なバランスはウォークマンよりやや高域よりの印象で、すっきりとした印象。ボーカルをしっかり聴かせるという点では、AK100が好ましく感じるが、ツインギターの掛け合いなどはロックらしい“熱さ”を好むのであればウォークマンが良いかもしれない。音場もウォークマンのほうが広めだ。

 AK120に変えると、ベースの膨らみや倍音がふわっとした質感が感じられ、低域もより深く感じられる。ハイレゾらしさというか、先に触れた「実体感」のような曲の雰囲気の深みが味わえるようになる。ウォークマンとの比較で、やや高域よりという印象はAK100 MK2と共通するものだが、ボーカルの実体感や聴きやすさが魅力的。音場はウォークマンのほうが広いように感じるが、音の分離の良さや立体的な音像はAK100 MKIIの上位モデルに相応しい仕上がりと感じた。

NW-ZX1の魅力とNW-F880の拡張性

 音質については、NW-F800ユーザーとしてはF880での音質改善に驚いたが、NW-F880とNW-ZX1との比較では、もちろんNW-ZX1に軍配が上がる。低域の量感や音像の立体感といった点で、ハイエンドモデルらしい音の良さがたしかにある。

 64GBのNW-F880の約4万円に対し、128GBのNW-ZX1は75,000円。個人的にはNW-ZX1の方に気持ちが傾いた。35,000円という価格差は決して小さなものではないが、音質差に加え、ZX1の128GBという容量が魅力的だ。一昔前は64GBで「十分」と感じていたメモリ容量も、ハイレゾになると話は別。正直128GBでも、手持ちのライブラリ(CDのFLACリッピング含む)は全然収納できないのだから、ハイレゾ楽曲を中心に考えると、大容量モデルのNW-ZX1を選びたくなる。

NW-ZX1とPHA-2をデジタル接続

 ウォークマン「単体」で考えるとNW-ZX1が魅力的と感じたが、留意したいのはNW-F880/ZX1で、WM-PORTからのデジタル出力に対応したこと。新ヘッドフォンアンプ「PHA-2」(実売55,000円)などの組み合わせでは、ウォークマンからデジタル出力した音声をアンプ側で高品位に変換して、出力することが可能だ。今回PHA-2との組み合わせは試せていないが、ウォークマンを単純なトランスポートとして使うと考えると、NW-ZX1とNW-F880の音質差がそれほど大きくなるとは考えにくい。また、PHA-2であればPC用のUSB DACとしても利用可能で、DSDにも対応している。

 つまり、音質を重視する人でも、単体での完成度をとるか、ヘッドフォンアンプなどの拡張性をとるか、といった観点では、選択肢は分かれてきそうだ。

 もちろん携帯性という観点では、重量103g(F880)/139g(ZX1)や厚さ8.5mm(F880)/15.3m(ZX1)など、F880のほうが薄く軽いため、スマホとの2台持ちを考えると、F880が魅力的に感じる人も多いだろう。まずは、F880を購入し、更なるステップアップとしてアンプを追加する、などと考えると、NW-F880が魅力的に思えてくる。

 また、今回あまり紹介していないが、「音質」以外のマルチメディアプレーヤーとしては、NW-ZX1/F880は最高レベル。動画や写真の再生だけでなく、Android 4.1端末として動作。nasneやソニーBDレコーダの「おでかけ番組」転送に対応した端末として楽しむことも可能だ。

 他社製品比較では、操作性、音質、マルチメディア性能、ノイズキャンセリング(F880)など、多くの機能面で圧倒的に充実している。ただ、容量の拡張性とDSD対応という2点においては、他社製品に及ばない部分も残す。microSDカードを差し替えて利用できる「AK100」、「AK120」も存在するし、AK120はDSDにも対応している。特にDSD対応については、DSDの祖といえるソニーだけに、キャッチアップを望みたいところだ。

 しかし、ハイレゾのポータブルオーディオに強力な選択肢が生まれ、こうして悩めるようになったという状況は数年前を考えれば大きな進歩で、嬉しい悩みといえる。自分に必要な音や機能はどんなものなのか、じっくり悩んだり、試して、ハイレゾを楽しんで欲しい。

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臼田勤哉