レビュー
“画素マニア”の新兵器。デジタル顕微鏡「400-CAM025」
CES会場でも使ったガングリップ型顕微鏡の実力は?
(2014/2/25 10:55)
マニアの行く末
あまり詳しくはないが、鉄道マニアは「撮り鉄」、「乗り鉄」、「時刻表鉄」……と言った具合にジャンルが分かれているらしい。一方、筆者(西川善司)が属する「映像マニア」という分野にも「映画マニア」、「画質マニア」、「解像度マニア」という具合にジャンルが分けられると思っている。
筆者も自己分析してみたが、本誌の連載タイトルとなっている「大画面☆マニア」であることは間違いないとして、やたら同一空間に画面を並べる「多画面マニア」であり、前出の「映画マニア」「画質マニア」の気もある。
マニアは、道を究めていくと、他人から「やれ」といわれたわけでもないのに、そのジャンルを深掘りし、ひいてはそのマニア道の新ジャンルを開拓してしまうことがある。前出の鉄道マニアで喩えると、「車両鉄」と呼ばれる鉄道車両好きは外観やスペックを掘り下げて一定レベルに行き着くと、その車両の走行音やらドアの開閉音に関心が行きだす。その結果、新ジャンルのマニア「音鉄」などが誕生した(らしい)。
映像マニアである筆者は、もともとは「映画好き」が発端で「大画面」が好きになり「大画面☆マニア」となった。もう一つ専門でカバーしている分野にCG技術などがある関係で、ソフト・ハードの両局面から映像技術が好きになった。すると、いつの間にか多様な映像機器を同一空間に集めて使うことが好きになり「多画面マニア」となった。映像技術への関心はどんどん加速していき、映像パネルそのものが好きになる「映像パネルマニア」の域に到達。最近は、ここからさらに深みにはまり「画素マニア」になってしまった。
もはや変態レベルと言ってもいいかもしれない。なにしろ、CEATECやCESといった展示会や家電系コンベンションで、来場者が2メートル以上視聴距離を確保して映像を眺めている最中、1人だけ、映像表示面に顔を密着させているのだから(笑)。
筆者が表示面に密着してしまうのは、「画素を見たいから」だ。あまり情報が公開されていない新しいパネル技術などでも「画素形状」を観察することで、その技術のヒントや狙いに気づくことがある。そこで大画面マニア&画素マニアが、2014年から取材の新兵器として加えたのが、サンワサプライのデジタル顕微鏡「400-CAM025」だ。
画素愛好家の携行アイテムとは?
「Pixel Lover」……英語で言うと何となくアーティスティックでカッコイイ響きとなるが、日本語にすると「画素愛好家」…途端に変態っぽくなるこの新マニアジャンルに到達した筆者は、この「画素への愛」を深めるために、最初期は、デジタル一眼レフカメラに高倍率ズームを付けて三脚に設置して撮影する手法をとっていた。
ただ、この手法はせいぜい光学10倍程度に拡大できる程度。これでも、画素形状や、画素を仕切る格子筋の具合の概要は分かるので、連載の大画面☆マニアでは、つい最近までは、この方法での画素の実写撮影を行なってきた。
この方法は、ズームレンズの最短撮影距離である40センチ付近に三脚にカメラを置き、シャッター押したときの振動を回避するためにリモコンでのシャッター操作をしなければならず、結構面倒だったりする。
展示会の会場では、そうした「特殊な撮影行為」がなかなか難しいので、撮影は最初からあきらめ、肉眼で画素形状を確認するだけに留めている。その際に便利なのは携帯型ルーペであった。
筆者は1,000円前後で購入できる安価な精密三重鏡製「LP-31G」をAmazonで購入。このLP-31Gは、5倍の拡大レンズを3枚収納したルーペで、5倍拡大レンズを3枚引き出して覗いたときには15倍に対象物を拡大して見られる。
まあ、価格も安いし、それほど精巧なものでもないのだが、確かに15倍程度には拡大して見られるし、上着のポケットからさっと取り出して、展示されているテレビやモニターにあてがって画素構造を短時間に確認するにはちょうどいいアイテムとなったのだった。
展示会場が空いていて、筆者のことを画素マニアであると認知しているメーカー担当者などは「撮影? どうぞどうぞ」と言ってくれるので、そういう場合に限っては、そのメーカー担当者にこのルーペを持ってもらい(笑)、そのルーペの拡大像をデジカメのズームレンズで撮影する、なんてことも相当やったりした。
ただ、ルーペの拡大像は、中央付近は鮮明だが、外周になると強く歪むし、ルーペを押さえている側の手がぶれたりすると写真もぶれるので、この方法の難易度は高く、成功率は半々といったところ。
「何かいい手がないかなぁ」と、考えていたときに遭遇したのが「400-CAM025」だ。
ガングリップ型デジタル顕微鏡「400-CAM025」
400-CAM025は、当たり前だが画素を撮影するための製品ではない(笑)。本機は「デジタル顕微鏡」というジャンルの製品で、簡単に言えば「被写体を拡大接写する」ためのデジカメだ。2014年2月時点での実勢価格は18,000円前後だ。
撮影スペックは、光学ズームは300倍。画像処理によるデジタルズームは0.1倍刻みで最大4.0倍までの拡大に対応する。
撮影解像度は約500万画素。撮影は静止画と動画に対応している。静止画は内部処理で1,200万画素相当のJPG出力には対応するが、撮像素子が出力するリアル解像度は500万画素までとなっている。動画の撮影は音声付きで最大VGA解像度まで。HD解像度の撮影には未対応。
フォーカスは手動調整式で、オートフォーカス機能は未搭載。拡大倍率は基本的には300倍固定だが、密着接写した際に限り、フォーカス調整でズーム倍率を約20倍にまで引き下げることができる。逆に言うと接写したときに限って20倍の低倍率と300倍の高倍率の2ポイントにフォーカスが合うと言うことだ。
特徴的なのは、撮影レンズの外周に設置された8個のLEDだ。主に密着接写時に有効なもので、明るさを無段階に調整することができる。
外形寸法は29×103×130mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約200g。フォルムとしてはかつての三洋のガングリップ型デジカメ「Xacti」に近い。実装されている可動式液晶パネルを引き出すことで電源オンとなる。液晶サイズは3インチで、表示画素数は非公開だ。記録メディアはmicroSDカード(最大32GBまで)。カードスロットは撮影レンズ側のボディ正面に備えている。
接続端子はAV端子、USB端子、DC電源端子など。AV端子はデジカメなどによく採用されている4極のミニジャックで、付属のAVケーブルで撮影した映像をテレビなどに出力できる。
USBはmicroSDカード内の撮影像をPCに伝送するために使えるほか、USB充電にも対応。また、USBカメラモードも備えており、本機で撮影中の映像をリアルタイムにPCへ伝送することもできる。
三脚のネジ穴は本体底面部ではなく、撮影レンズ側の本体正面側にあけられている。バッテリはリチウムイオン電池で、駆動時間はLEDオン時で連続90分、LEDオフ時で連続180分。
コツのいる使い勝手。ただし、撮影写真には満足
起動速度は約3秒で、コンパクトデジカメの起動速度と同程度という印象。実際に手に持って撮影をしようとすると、幾つかの面倒なポイントに気が付く。まず、フォーカス合わせだ。
手動ダイヤル式なので右手で本機をガングリップ式に持つと人差し指でフォーカスリングを回すことになる。フォーカスリングを回した事によるレンズ移動は意外とスピーディ。なので、最後の最後に行なう、微妙なフォーカスの追い込みをするのが意外と難しい。
そして、「さあ、撮影」と意気込んで、親指に力を入れるとそこにはシャッターボタンがない(笑)。ガングリップホールドなので、Xactiのように撮影レンズの円筒のユーザー側にシャッターボタンがあるかと思ったらないのだ。
ガングリップ式にホールドしたとき、撮影ボタンはなんと「親指の先」ではなく、親指の「付け根」に来るのだ。なので親指をグイグイっと曲げなければならず、この時に親指を曲げるアクションで、せっかく合わせた撮影位置からずれてしまったりする。300倍の撮影をするデジタル顕微鏡の場合、数ミリのズレやブレは、撮影像でいうと画面のスクロール動作に匹敵するくらい動いてしまう。結局、右手で本体を持ち、左手でシャッターを押すとという両手ホールドをすることになる。
もし、強引に片手ホールド状態で親指をシャッターボタンにあてがいながら撮影しようとすると、親指の付け根を浮かせる必要があり、それはそれで本体が安定してホールドが出来ない。
筆者は一時、Xactiを使っていたことがあるが、あの時はこうしたストレスは感じなかった。400-CAM025も、次期モデルでは操作系の改善に努めてほしい。逆に言うと、不満はそれくらいで、実売価格18,000円の製品としてはポテンシャルは高い。
購入後、撮りまくったのは、やはりテレビの映像パネルの画素。ちゃんと固定させて撮影すると、かなり鮮明に撮れる。画素周辺のTFT回路の道筋もくっきりと写り、以前、デジカメのズームレンズで撮影していたときと比較すると、(当然と言えば当然だが)格段に鮮明だ。
CESに持ち込んで展示されているテレビの撮影をしてみた
実際に、ラスベガスで開催され得たCESの会場にも持ち込み、展示されているテレビの液晶パネルも撮影してみた。起動は速いのだが、やはり、撮影時にシャッターボタンを押す際に、親指を曲げたりするアクションで若干ぶれてしまうことがあった。こうした展示会では、長時間、画面に密着していると他人の迷惑になるので、その焦りから手ぶれをしてしまいがちだったのかも知れない。
時間の掛かるフォーカス合わせについては、液晶パネルの表示面に完全接写することを前提に、事前に合わせをしておく工夫で対処した。押しにくいシャッターボタンへの親指のアプローチも、慣れてくると手ぶれも抑えられるようになるが、それでも、撮影写真がぼやける場合があった。
これの理由は単純。液晶パネルは表示面が発光しているので、接写すると明るすぎて、撮影像がフレアを起こしたようにぼやけてしまうのだ。
400-CAM025にも、自動露出補正的なメカニズムは備わっており、被写体が明るい場合にはコントラストを規定内に抑え込む処理系は実装されているようなのだが、さすがにテレビの映像パネルの接写ともなると、400-CAM025が想定している明るさ以上に明るいようで、撮影像が光で飽和してしまうようなのだ。
400-CAM025自身に露出補正のような設定メニューはないので、結局筆者が取った行動は、「テレビに表示されている映像の適当な明るさの部分を探して撮影する」というものだった。
ただ、展示会で展示されているテレビのデモ映像は動きの激しいモノが多く、画面内の一部が同じ明るさで安定していることが少ない。そうなると、もうお手上げなのであった。結局、「一度、デモ映像を通しで見て、撮影に相応しい暗いシーンを見つけてから撮影する」という、綿密な計画的な撮影計画を立ててから撮影することになったのであった。
ただ、撮影している姿は、一般来場者からは異様に思われるようで、CESの会期中、撮影していると、「なにやっているの?」と話しかけられることは一度や二度ではなく、「テレビの撮影はいいが、接写はダメ」と言ってくるブースもあった(笑)
今回、「画素」以外にもいろいろなものを撮影してみた。また、等倍の撮影画像サンプルもあわせてアップロードしておくので、参考にしてほしい。【実写画像[400Cam_pict.zip]】(55MB)
価格と撮影性能には満足。細かな不満点も
購入後、実際に3カ月ほど使ってみたわけだが、撮影性能に関しては文句なし、といったところ。価格以上の機能を備えており、コストパフォーマンスは高いと思う。
操作系に関しては、「筆者の使い方」からすると不満が出たわけだが、対象物をテーブルの上に置いて、付属してくるミニ三脚にくくりつけておしとやかに撮影する分には、特に気にならないかも知れない。
ただ、露出補正が出来ないなど、荒削りな部分もあるため「こう進化すればもっとよくなるのに」というポイントが多いのも事実だ。
筆者としては、あと1万円ぐらい高くてもいいので、オートフォーカス機能や、細かい撮影調整が出来る上位モデルがほしいと思う。
デジタル顕微鏡は、本機以外にもいくつか出てはいるが、この価格帯で光学300倍、500万画素撮影に対応したモデルはないし、デジタル顕微鏡にこうした機動力を持たせた製品というのは、「新しい遊び」の可能性を秘めたデジタルガジェットという気がするので、今後も、多様な製品が登場してくることにも期待したい。
デジタル顕微鏡「400-CAM025」 |
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