本田雅一のAVTrends

第182回

有機ELテレビ2018夏。ソニーのA8Fは密かに画質向上、VIERAはFZ950推し

【訂正】

記事初出時に、「全社同仕様のOLEDパネル」と記していましたが、東芝REGZA X920の搭載パネルが異なることが確認できたため、記事に修正・追記を行ないました(7月6日15時)

ソニー BRAVIA A8F

 今年の有機EL(OLED)テレビは昨年と大きく異なる状況にある。現在発売中の製品は、全メーカーが同じ仕様のパネルを採用しているということだ。昨年は東芝が発売時期で先行した関係や、パナソニックがテクニクスブランドのスピーカーを搭載する上位モデルと通常モデルで前面フィルタの仕様を変えるなどの違いがあったが、今年は各社同仕様のOLEDパネルを使っていると思われる。

 もっとも、7月下旬に発売される東芝REGZA X920は、画素構造が変更され、赤画素が大きく、青画素がやや小さくなり、他社製品とは異なるものになっている。しかし、パネル仕様変更に伴う画質の違いは、さほど大きなものではないと見込まれる。

 ちなみにLGディスプレイは出荷年度の下二桁を用いてパネル世代を表現していたが、今年からはそれはなくなっている。業界内では今年のパネルを「18パネル」などと表現しているが、これは正式なものではないという。が、今年はほぼ同じ時期の製品発表であり、そうした意味でも“各社、横並びスタート”で比べられる初のOLEDテレビ商戦と言えよう。

 というのも例年の事であるが、出荷をしながらも細かくアップデートを重ねていたからだ。このところは落ち着いたとは言うものの、2年ほど前まではテレビ開発を行なっている最中にも品質が上がり、それに合わせて絵作りの見直しをしたことがあったようだ。

 東芝のX920に関しては、初期段階の映像が出始めたところだけしか見ていないものの、他のOLEDテレビに関しては一通りの視聴を行なった。ここでは各社のOLEDテレビに、どのような違いがあるのかを、機能ではなく主に画質面を中心に内蔵スピーカーの印象も交えながら書き進め、最後に各社製品の特徴を踏まえた上での評価アドバイスと進めていきたい。

 もっとも、“同じパネルを採用”という部分に関して、少し疑問に感じているかもしれない。なぜなら、ソニーはOLEDの「BRAVIA A8F」を発表したラスベガスCES時の取材で「A1シリーズと基本画質は同じ」と話していたからだ。

 この点を確認したところ「同じコンセプトで作っているという意味であって、パネルは最新仕様のものを調達している」とのこと。今年はパネルを駆動するT-CON(タイミングコントローラーの内部参照テーブル)の仕様が変更され、真っ黒からの光り出しの部分も、より暗いところからコントロールできる、といった違いもあり、画質チューニングはやり直しているという。

ソニー「BRAVIA A8F」

 さて、そのソニーBRAVIA A8Fから観ていこう。

 A1の普及版という位置付けに思えたA8Fだが、画質は確実に進歩している。A1は暗部から明部にかけて、昨年仕様のOLEDテレビではもっとも素直で階調性の高い絵作りだった。A8FにおいてもA1の特徴はすべて引き継ぎつつ、いくつかの進化を確認できた。

ソニー「BRAVIA A8F」

 “ほんの少しだけ”ディテールが残る最暗部の階調が、より滑らかに出るようになっている。LGディスプレイの供給する今年仕様のパネルは、スペック上、大きな画質差はないのだが、OLEDの光り出しの部分が以前より安定してきたことから、コントローラーの仕様変更も含めて暗部階調が出せるように設定されているという。

 ただし、OLEDを弱く、安定して光らせるのは極めて難しい。全画素を安定してムラなく階調コントロールするのは難しく、そうした意味ではかなりチャレンジングなところまで追い込んでいる印象だ。

 暗部再現のチェック用には、『オブリビオン』でモーガン・フリーマンがトム・クルーズを尋問するシーン、『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part II』でヴォルデモードがホグワーツに攻め入るシーンなどがよく使われるが、こうしたローライトかつ微妙なホワイトバランスが求められるシーンでも、安定した光り方と的確なホワイトバランスを出す。

 しかし、もっとも大幅に改良されていたのは全体のS/N感だ。

 A1は非常に優秀な画質を獲得していたが、大きなカラーノイズが含まれる映像が不得手で、たとえば『ラ・ラ・ランド』を再生すると、その猛烈な粒状ノイズ(もともとフィルムグレインとして含まれている情報ではあるが)が”成長”したように見えた。これは他のテレビではあまり観られなかった点なのだが、ソニーによると何らかの処理エラーではなく、パネル駆動時のなんらかの制約とかけ合わさることでノイズがやや目立ったのだと話していた。

BRAVIA KJ-65A1

 A8Fではここにメスが入り「ノイズリダクションはかけずに(ソニー)」、ノイズ強調の傾向を抑え込んだという。実際、ラ・ラ・ランドで問題となっていた粒状ノイズの成長はA8Fでは抑え込まれていた。

 また、画面そのものをスピーカーとするアコースティックサーフェイスも改良されている。A1よりもウーファーこそ小さくなっているが、実はクロスオーバー周波数が少し下がっているとのこと。実際に聴いてみると、声の帯域にクロスオーバー帯域が被りにくくなっているようだ。音質面でも落ち着きが増し、耳障りな響きが減って聴きやすくなっていた。

 ただし、ウーファと背面の壁の距離・有無で音質が大きく変わってしまう点は本機も同じ。店頭では背面に壁がない展示となっている時があるので、評価の際には注意した方がいいだろう。

パナソニックVIERA FZ950

 このA8Fの最大のライバルは、パナソニックのVIERA FZ950シリーズだ。FZ1000シリーズと書かなかった理由はコストパフォーマンスの違いだ。

VIERA FZ1000シリーズ2機種(左)とFZ950シリーズ2機種(右)

 FZ1000のテクニクス銘が与えられた内蔵スピーカーは、以前よりもエンクロージャ容量を増やしたことで低域再生能力が高まり、重心が下がって音楽も映画もより楽しめるようになっている。

VIERA FZ1000シリーズ

 しかし、スタンド部にスピーカーが配置されているため、大画面であるほどに音場定位が下にあることが気になってしまう。'17年モデルのEZ1000に比べると、若干、音場が広くなって高さ方向にも拡がりのある音にはなっているが、このクラスの製品を選ぶならば別途、スピーカーを用意する、あるいはすでに所有しているという人も多いのではないだろうか。

 音質や定位の自然さなどで言えば、同じくパナソニックVIERAのEX850シリーズの方がテレビ用としては優れた音を出してくれる。丁寧に作られた音質ではあるものの、本紙読者にはまったく同じ画質、表面処理であるFZ950をベースにシステム構築した方がいいと考える。

 とはいうものの、画質はまったく同じである。

 その画質面での変化だが、パナソニック自身が訴求しているように、明部のディテール感が大幅に向上している。たとえば白い砂浜など明るい部分で、以前ならばディテールがやや浅く感じられた部分で、しっかりと微細な画素ごとのコントラストが取れた、彫りの深い表現がされる。

 実は昨年、EZ1000/950シリーズを評価した際、同じパネルなのに明部のコントラストがソニーの方が高くなるのはなぜか? と質問したことがあった。その際には特に映像処理でディテールが失われているわけではなく、またEOTF(HDR映像をパネルに表示する際の明るさの変換特性)の問題でもないとのことで『決して悪いわけではないが、なんとなく眠い』映像という印象を持っていた。

 一方で前述したラ・ラ・ランドの粒状ノイズなどは、パナソニック側は昨年の段階からしっかりと対策をしていたため、総合的に劣っているという話ではない。しかし、平均輝度の高いシーンや明部のコントラストの低さを感じさせるところがあった。

 しかし、FZ1000/FZ950、いずれも明部のディテール表現が明確に良くなっている。パナソニックによると画像エンハンスによるものではなく、あくまでもシーンを認識した上で最適な処理をした結果とのことだが、昨年モデルの懸念点が払拭されたことは確かだ。

 一方で暗部階調も昨年モデルよりも出ており(これはパネル側の更新に合わせて映像処理を変えた結果だろう)、昨年モデルの弱点と思われていた部分はかなりの部分、対策が施されていた。

LG OLED TV

LG OLED TV「65W8PJA」

 評価に迷うのはLGだ。

 画質面では大きな進歩が見られる。OLEDテレビには液晶テレビとはまた別の課題があるが、中でも最暗部の階調性はやっかいな問題。“いちばん暗い状態”はOLEDをオフにすれば完全な黒になるため黒浮きはしないが、“ほんの少し光らせる"のが難しいからだ。しかも画素ごとに異なる発光体のため、発光量が少ない領域ではユニフォミティ(画面全体の均一性)が少しズレただけで大きなムラが見えてしまう。

 それでも、“ほんの少し光る”を実現しないと、実は色の不安定さにも繋がってしまう。たとえば、青系の色を表現する際にも、緑や赤をほんの少しだけ光らせなければ目的の色にならない場合がある。あるエンジニアが「大きな角砂糖しかない状態で、微妙な甘さを調節するようなもの」と話していたが、必ずしも最暗部だけの問題ではない。

 そして、その“ほんの少しだけ光らせる”ことを苦手としてきたのが、LGだった。そこで不安定な発光が目立たないよう、一定以下の明るさは画素をオフにすることで目立たないようにしつつ、毎年の更新で少しづつ改良していた(なお、どんなOLEDも程度の違いはあれ、同じような問題を抱えている。たとえばマスターモニターのBVM-X300でも僅かに同様の傾向はある)。

 この部分でもっとも進歩的だったのがソニーが昨年発売したA1、今年のA8Fはさらに進歩したのだが、パナソニックも真っ黒な画面からのフェードインでは僅かに「パっ」と光り始めるところが見えるものの、ほとんど気にならないレベルにはなっている。

 と長めの前振りとなったが、今年のLGは他2社には追いついていないものの、もっとも苦手としてきた“ほんの少し光る”ところを、大きく改善している。これはパネル(とT-CON)の改良もあるのだろうが、日本の研究所で行なっている画質チューニングが、徐々に本社でも認められ、製品に積極的に反映された結果でもあるようだ。

 前述したオブリビオンにおけるモーガン・フリーマンのシーン。マッチの光で微かに浮かび上がる彼の顔だけが見えるようでいて、実は背景には微かにディテールが浮かび上がっている。以前のLGのOLEDテレビは、背景が見えないどころか、モーガン・フリーマンの顔すらもその形が認識できなかったほど階調がなかったのだが、今年のモデルではきちんと背景まで描かれる。

 今年のLGは新規に起こした映像処理LSIの性能を訴求しているが、実際にはOLEDの弱点を隠すよう調整せざるを得なかった部分で、ちゃんとした絵が出るようになったところがいちばんのポイントだ。

 あるいはOLEDモデル専用に開発されたという「α9 Intelligent Processor」による色補正精度、機能の向上もあるのかもしれない。ただし、超解像やノイズ処理に関しては、他社に比べるとひと世代古い印象を受ける。

α9 Intelligent Processor

 HDMIにUHD BDの映像を入れて観るといった場合には、前述した改良もあって良さが出てくるのだが、地デジなどS/Nの悪い映像となるとノイズ処理の甘さが見えてくる。近年増えている、映像オブジェクトを認識してのノイズ対策などが行なわれていないように見受けられる。そしてS/Nを改善しないと、より積極的な超解像もかけにくくなる。

 もっとも、内蔵チューナではなく外部のレコーダやプレーヤーの映像を主に楽しむということならば、このあたりは割切ることもできる。

 なお、LGのOLEDテレビはエントリークラスを除くと3ラインあり、「W」を頭文字とするW8Pシリーズはスピーカーと映像処理部分をディスプレイと切り離したデザイン重視の、Dolby Atmos対応は「G」を頭文字とする「G8P」、「E」を頭文字ととする「E8P」はアンダースピーカーの一般的なデザインと多数のモデルを展開している。

 導入シーンに応じて、多様なデザインを選べるのは大きな利点と言える。

LG OLED TVの豊富なラインナップ

放送画質を左右するHDR復元にも注目を

 さて、今月は東芝もX920を発売予定のため、やっと全社のOLEDテレビが揃うことになる。東芝の最終画質は未確認だが、日本市場に特化した開発を行なっているのは従来のレグザシリーズと同様。地デジの全チャンネル録画機能を備え、また新4K衛生放送チューナも内蔵するのは東芝の製品だけだ。

REGZA X920シリーズ

 高級機であるOLEDテレビだけに、映画用モードを中心に画質チューニングにフォーカスしたレポートを書いたが、”リビングに置くテレビ”には多様性も求められる。必ずしも高画質な映像作品だけを観るわけではない。おそらく時間的には地デジを表示する時間がもっとも長いはずだ。

 その点において評価すると、意外に大切なのがSDR(標準ダイナミックレンジ)のHDR拡張機能である。今後、BS 4K放送が始まると、一部はHDR放送となるが、当面はSDRとHDRが混在した放送になる。

 各社のHDR復元機能を評価しているが、今のところソニーのX1 XtremeによるHDR復元機能がダントツの効き目(効果の大きさだけでなく、結果としての映像の納得感)だ。映画モードなどの繊細な画質比較は店頭では不可能だが、HDR復元機能の効き具合ならば、店頭でも試せる場合が多いハズ。是非、見比べてほしい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。