[BD]「とらドラ!Blu-ray BOX」

最強の学園ラブコメ、遂にBD化
彼女はどうしてツンデレなのか?


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ アニメの様式美



とらドラ!
Blu-ray BOX
【完全限定生産版】

(C)竹宮ゆゆこ/アスキー・メディアワークス/
「とらドラ!」製作委員会
価格:39,900円
発売日:2011年12月21日
品番:KIXA-90159~90164
収録時間:本編598分+特典129分
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:6枚組(本編5枚+特典1枚)
画面サイズ:16:9 1080p(特典一部1080i)
音声:(1)日本語(リニアPCM 2.0ch)
発売・販売元:キングレコード

 歴戦の戦士がそうであるように、私のような長年のアニメオタクになると、一目見ただけで敵の力量が見抜ける。例えば、小柄で髪の色がピンクで、美少女だが目つきが鋭いとツンデレ率が高い。CV欄に釘宮理恵と書いてあれば99.9%間違いない。同じ小柄でも、水色 or 灰色ショートカットで目が半開きならば無口無表情キャラで決まり。たまに喋ると毒舌で、黒いウサギのぬいぐるみを隠し持っているはずだ。黒髪ロングのポニーテールなら、設定欄を見なくとも剣道道場の純情跡取り娘だとわからねば戦場では生き残れない。

 このスキルを体得していると、原作のラノベやゲームをプレイしていなくても、髪の色を見ただけでキャラクター設定が理解できる。設定だけではない。金髪高笑いお嬢様キャラが登場したら「ああ、校門を出た主人公を執事が運転するリムジンで拉致するだろうな」とか、「6話あたりでこのお嬢様の別荘がある南の島で水着サービス回があるだろう」など、ストーリーの先読みまで可能だ。

 最近のアニメは画一的だマンネリだと嘆いているのではない。独創的でチャレンジ精神に溢れた作品も多いし、“ありがち”な作品でも、嫌いならばスキルを会得するまで見たりはしない。これはアニメ界における、一種の様式美だ。わび・さびと言っても良い。ツンデレキャラに、“どこかで見たようなキャラだ”と突っ込むのは、水戸黄門に「お約束だ」と文句を言うのと同じである。

 12月21日、ファンの声がキッカケとなり、「とらドラ!」というアニメのBlu-ray BOX化が実現した。経緯は過去の記事を参照して欲しいが、「名前は聞いた事があるけれど、見たことない」という人も多いだろう。作品自体は2008年に放送されたテレビアニメ。竹宮ゆゆこさんのライトノベルを原作としている。

 主人公をとりまくヒロインは、ミニマムサイズで、口より先に蹴りが飛ぶ凶暴ツンデレ少女と、ネジが3本くらい抜けているような天然マイペース少女、モデルとしても活躍する美貌の持ち主だが腹黒な毒舌少女の3人。

 アニメはそこそこ見ているが、「とらドラ!」は見たことが無いという人には、「よくあるキャラクターが登場する学園ラブコメ」に見えるかもしれない。なぜ人気があるのか不思議に思うかもしれない。実際、キャラクターの設定的には真新しさは少ない。だが、戦う前にわかった気でいる私のような視聴者に、思わぬキツイ一発を叩きこんでくれる快作だ。


■ どうしてツンデレになったのか?

 高校2年生の高須竜児(たかす りゅうじ)は、スナックのママとして働きながら、女手ひとつで自分を育ててくれる母に代わり、炊事洗濯をこなす真面目で優しい少年。だが、蒸発したヤクザな父親から受け継いだ目つきの悪さと三白眼が原因で、学校では不良と勘違いされている。親友・北村祐作は、そんな彼の良き理解者だ。

 竜児はある日、新しいクラスで1人の少女と出会う。超ミニマムサイズ、人形のような美少女でありながら、ワガママで短気。暴れ出したら誰にも手がつけられない、通称“手乗りタイガー”こと、逢坂大河(あいさか たいが)である。そんな大河にも、想い人がいる。竜児の親友・祐作だ。だが、彼女がラブレターを入れるカバンを間違えた事から、竜児に秘めた想いを知られてしまう。一生懸命だが、不器用で危なっかしい大河を心配し、竜児は、彼女と親友の仲を取り持つ手助けをする事に。

 一方で、竜児自身にも想い人がいる。マイペースで天然だが、元気で明るいクラスメイトの櫛枝 実乃梨(くしえだ みのり)だ。実乃梨は大河の親友でもあるため、竜児と大河の利害は一致。互いの恋を応援&サポートする事になるのだが……。

 恋愛を応援してくれる異性の友人を、いつの間にか好きになってしまうというのはよくある話。背中合わせで互いの恋と格闘しながら、いつしか安心して背中を預けていた人の存在の方が大きくなって……というやつだ。主軸になるのは竜児と大河の関係。ドラゴンとトラのお話で、「とらドラ!」。彼らが悩みながらも成長していく姿を、瑞々しく描いている。

 ヒロインの大河は感情表現が苦手で、自分をサポートしてくれる竜児を憎からず思っているが、感謝の言葉より悪態と蹴りが飛ぶタイプ。分類的にはツンデレキャラで、「無茶苦茶な奴だな」と最初は笑って見ていられる。しかし、暴れまわった後で、彼女は人目につかない所で「“手乗りタイガー”なんて言われて平気なわけない」、「私の気持ちをわかった気になるな」と、泣きながら電柱やテーブルに蹴りを入れる。「勝手にキャラクターの枠にはめるな」と自分が蹴られたようで、ハッとする。

 作品の最大の特徴は、3人のヒロインの心の変化の過程を、恐ろしく丁寧に、長期間描いている点だ。“ツンツンした大河が、主人公と2人になると可愛くデレて視聴者を骨抜きにして終了”ではない。そもそも、どうして彼女は何に対してもイラついていて、感情表現が苦手で、自己嫌悪のスパイラルにハマっているのか? 両親の姿は無く、高級マンションで一人暮らしをしているのは何故か? 話数が進むにつれ、家庭の事情や、上手く愛情のキャッチボールができない少女に育った理由が見えてくる。

 ふとした仕草や、他人との接し方、気を許したときにチラリと見せる本音。時間をかけてそれらを描き重ねていく事で、破綻が少ない、大河の確かな“思考”が感じられる。キャラクター達が自分でしっかり考え、動き、“生きている”と感じられるのが最大の魅力だ。とても人間臭いキャラに、アニメの枠を超えた愛おしさを感じてしまう。そんな彼女が見せる可愛い仕草には、型抜きで量産されたキャラのテンプレート・ツンデレを軽く凌駕する破壊力がある。

 もう1つ、この作品で特筆すべきは、キャラクター達の内面をチラ見せして終わらせない事だ。キャラに厚みを出すための演出にとどまらず、それを主題とし、最終的には裏返して、良いところも悪いところも全部ぶちまけてしまう。人間、建前を捨てたら殴りあいになる危険性があるが、本当に流血の殴り合いまでやってしまう。BD-BOXで見返していて改めて思ったが、美少女キャラ同士がこれだけ殴りあう作品も珍しいだろう。河原で番長同士が殴りあって“心の友”になるのとノリは同じなのかもしれない。

 恋愛や進路など、立ちはだかる壁をよけたりせず、真正面から体当たりするストーリー展開が痛快だ。ズタボロになっても突進をやめない姿には、「何青春しちゃってんの」と、斜に構えたツッコミを黙らせる“凄み”がある。劇中にある、「逃げていたら、誕生日が来ても大人になれない」という竜児のセリフが象徴的であり、恋愛や友情もひっくるめ、“人や社会との付き合い方”を学んでいく物語と見る事もできる。青春のどまん中を、あまりにもストレートに貫くため、鑑賞後にはアクション映画を見終えたような、不思議な爽快感が残る。終盤にかけては前のめりで鑑賞してしまうため、脱力感も強烈。グッタリと椅子に沈み、ハンカチを探す事になる。


■ SDマスターアップコンバートして収録

 SD解像度で作られた作品だが、BD-BOX化にあたってはフルHD解像度にアップコンバートされている。既報の通り、アップコンバートには、ソニーPCLのサービスである「Real Scaling for HD」が使われている。

 作品の雰囲気を出すためか、どちらかというと淡い絵作りで、意図的にコントラストが低めに作られている。それゆえ、BD化されても目の覚めるような解像感の高い映像にはならないのではないかと思っていたが、比べて見てみると、やはりDVDの画質とは情報量の多さがまったく違う。

 キャラクターや背景、インコちゃんの鳥籠など、各部の線に擬似輪郭が無く、主線のラインが滑らかに見えるため、BDには画面全体にフォーカスが合ったようなスッキリ感があり、非常に見やすい。コントラストも向上しており、DVDで画面全体を覆っていた白っぽいモヤのようなものも消える。制服や髪の毛など、特に赤系の発色がより鮮やかだ。

 解像感を出すために輪郭を強調するような処理は控えめで、斜め線のジャギーもほとんど見られない。OP/EDテロップの文字つぶれもDVDより低減されている。キャラクターの髪の毛や背景のグラデーションも滑らかで、階段状になる事もない。鑑賞中に気になるアラが少ないため、そうした部分に気をとられず、スッと作品の世界に入っていけるのが嬉しい。

 ビットレートは30Mbps台後半を中心に推移。激しい動きのあるシーンや、雪がちらつくようなシーンでも圧縮ノイズはほとんど見られない。HD映像にコントラストの強さや、カリカリした解像感を求めると方向性が少し違うが、元映像を活かした、滑らかで安定したアップコンバートになっており、マニア向け高画質に仕上がっていると感じる。よりメリハリが欲しい時などは、この元映像から、テレビやプロジェクタなど、表示機器側で好みのアレンジを加えると良いだろう。

 BD-BOX特典の目玉は、新作エピソード「弁当の極意」。ショートストーリーではなく、まるまる1本、完全な新作が追加されているのは太っ腹だ。キャラクターも総登場しており、久しぶりに再会できたような感覚だ。内容は、家事の天才・竜児が、お弁当の達人である祐作の祖母相手に、勝手に“お弁当バトル”を繰り広げるというもの。やたらと美味しそうな料理が出てくる「とらドラ!」らしい内容で、見ているとお腹がすいてくる。そういえば、かの宮崎駿監督も、キャラクターに実在感を出すため、必ず食事をするシーンを入れるという話をしていた事を思い出した。

BD-BOXの内容物一覧
(C)竹宮ゆゆこ/アスキー・メディアワークス/「とらドラ!」製作委員会
 ちなみに新作は当然ネイティブHD映像であり、HD解像度で作られたキャラクター達を見る事ができる。細かい線や背景の情報量などを本編と比較しても面白い。だが、コントラストを控えめにした絵作りなどは共通しているため、新作になると絵がガラッと変わって違和感を感じるなんて事はない。オープニングのテロップも新しくなり、別次元のクッキリさを味わう事ができるだろう。

 特典映像として他にも、DVDの特典である、シュール過ぎて必見の「とらドラ!S.O.S~食いしん坊万々歳~」や、「とらドラ!体験記」シリーズも収録。さらに、新規のインタビューを追加したブックレットや、版権イラスト集、「大橋タイムズ」も付属している。新規インタビューは読み応えのある内容で、スタッフ・キャスト陣の作品への想いの強さを感じさせる。当然ネタバレは多いので、本編を見てから読んだほうが良いだろう。



■ アニメを見ない人にも

 今回改めて鑑賞して、メインヒロインが3人しか登場しない作品にも関わらず、全26話、高いテンションを維持している“密度の濃さ”に感心した。物語が停滞してくると、テコ入れとばかりに新しい萌えキャラがガンガン投入される作品も多いだけに、王道的な展開でもあるが、王道の真ん中をしっかり歩ける“本物感”が逆に新鮮ですらある。

 学生時代だからというのもあるだろう。何気ない毎日の中に様々なドラマがある事にも気付かせてくれる。テンプレート枠にはまらず、ある意味“アニメっぽくない”作品でもあるため、普段アニメをあまり見ない人にも楽しんでもらえる作品だ。男性・女性どちらの心情も丁寧に描かれているため、性別問わずオススメしたい。学生には刺激的な物語として、学生時代を過ぎた人にはもう一度、いろいろ必死だった放課後にタイムスリップできる、そんなBD-BOXだ。

●このBD DVDビデオについて
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前回の「耳をすませば」のアンケート結果
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(2011年12月27日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]