大河原克行のデジタル家電 -最前線-

ソニーストア福岡天神はアップルストア向かいに'16年4月オープン。その狙いは?

 ソニーマーケティングは、福岡・天神に、同社直営店舗のソニーストア福岡天神を出店する計画を明らかにした。2016年4月にオープンする予定だ。6月26日に、福岡市内で行なわれた会見で、その場所が明らかにされたのだが、場所を聞いて驚いた。なんと、アップルストア福岡天神から道路を挟んで反対側。まさに目の前の立地だったからだ。

ソニーストア福岡天神の外観イメージ

 ソニーストアは、東京・銀座、名古屋・栄、大阪・梅田に出店している。銀座、栄は、アップルストアにも歩いていける距離だが、いずれも少し離れた場所にある。だが、4店舗目となるソニーストア福岡天神は、一転して真正面の場所に出店することになる。

 では、なぜ、ソニーストアは、アップルストアの正面に出店することになったのか。

ソニーストアとしては全国4店舗目となる

九州におけるソニーファンづくりを加速する

 ソニーマーケティングは、ソニーストアの福岡への出店を、かなり前から検討していた。最初の店舗である梅田への出店が2004年、銀座が2009年、そして栄が2010年であり、栄への出店からも5年が経過している。その間、同社では、福岡および札幌への出店を模索してきた経緯がある。

 本誌が今年2月に伝えたように、ソニーマーケティングの河野弘社長は、「福岡、札幌は、商圏としても重要なエリア。最適な立地があれば、早めに出店したいと考えている」とコメントしており、出店準備を進めてきたことを明らかにしている。

ソニーストア福岡天神の概要
ソニーストア福岡天神が出店する場所は、地図右上の中央児童会館と書かれた場所。国体道路を挟んで自転車のマークがあるところがアップルストアだ

 とくに、福岡への出店は、「ソニー製品のユーザー登録においても、福岡におけるID発行全体の6%に達し、全国人口比の4%と比べても比率が高い。市場ポテンシャルは大きいと考えており、九州、山口県の方々に利用していただけことができる拠点になる」(ソニーマーケティング カスタマーマーケティング本部の浅山隆嗣本部長)と、早期の出店が課題となっていたことを明かす。

ソニーマーケティング カスタマーマーケティング本部の浅山隆嗣本部長

 これまでにも会議室などを借りて、九州エリアのユーザーを対象としたα Cafe体験会を開催。本来ならば、ソニーストアで実施するイベントを、店舗がなくても福岡市内で独自に開催することで、撮る楽しさを学べる場を提供してきた経緯がある。こうした活動も、今後はソニーストア福岡天神を活用して実施できることになり、「九州地区におけるソニーファンづくりの拠点として、購入後の満足度を高めるための拠点として重要な拠点になる」と、浅山本部長は語る。

 出店まであと9カ月もありながら、あえて出店を発表したのは、事前に認知度を高める狙いもあるといえよう。

ソニーストア福岡天神で目指すもの

アップルストアとの相乗効果を狙う?

 福岡への出店に際して、ソニーマーケティングでは、出店エリアを入念に検討してきた。

 ビジネスの中心となる博多、繁華街となる中州、そして、商業施設が集まる天神といったように福岡にはいくつかのエリアがある。いずれもそれほど距離が離れた場所ではないが、街の顔は大きく異なる。だが、ソニーストアの役割からすれば、天神への出店が最も適したエリアだったのは明らかだ。

ソニーストア福岡天神の建設地

 だが、天神エリアでも、いくつかのエリアに分かれる。西鉄福岡駅近辺は、岩田屋をはじめとする大型店舗が軒を連ね、この場所で路面店舗を確保するのは難しい。また福岡市役所方向はビジネス街としての色彩が強くなる。一方で、今回ソニーストアが出店するエリアは、天神としてはかなり端のエリアとなり、西鉄福岡駅からも5分以上かかる地域だ。目的を持った人が来るエリアといってもいいかもしれない。

 浅山本部長は、「どうしても路面店舗にこだわったわけではない。だが、認知してもらえる場所には出店したいと考えていた。こだわりを持って探していても、なかなかいい物件がみつかるわけではない。ここ数年は、力を入れて探したり、しばらく様子を見てまた探したりといったことの繰り返しだった」とする。

建設地の前で取材に応じてくれたソニーマーケティングの浅山本部長

 しかし、福岡への出店が、今回の場所に決定したことはソニーストアにとっては大きなメリットがあると考えられる。

 最大の要因は、なんといっても、アップルストア福岡天神の正面であり、集客面において、アップルストアとの相乗効果が見込める点だ。アップルストアを出て、左側の国体道路の片側2車線の横断歩道を渡れば、すぐそこがソニーストア福岡天神となる。

 アップルユーザーとソニーユーザーはかなり趣向が重なる部分がある。アップルストアに寄ってから、ついでにソニーストアにも寄るというユーザーはかなり見込めるといえよう。しかも、駅から少し離れた立地だけに、「ここまで来たんだから、ついでに寄ってみよう」ということになりやすい場所ともいえる。

 「対抗意識を持つというよりも、ソニーストアにとって、多くの方々に訪れてもらいやすい環境にあることが、大きなメリットになる」と、浅山本部長も、アップルストアの正面への立地はプラス効果になると読む。

建設現場の反対側にはアップルストア福岡天神がある
アップルストアを出て左側の横断歩道を渡ると、そこがソニーストアが出店する場所
ちょうどアップルストアの方向から見たところ。1,2階のガラス張りがソニーストアになる

 目的を持った人が訪れるという点では、アップルストア以外にも、このエリアにはいくつかの店舗および施設がある。ソニーストア福岡天神の隣接地には、TSUTAYA BOOK STORE TENJINが出店。「本や雑貨との偶然の出会い」をコンセプトとした中核店舗のひとつで、カフェでくつろぎながら商品を選ぶこともできるユニークな取り組みが注目を集める。また、ここの3階フロアには福岡市が展開しているスタートアップカフェも入居し、ベンチャー育成の拠点でもある。さらに、福岡天神からランニングの楽しさを発信することを目的にアシックスがオープンした「アシックスストア福岡」も目の前にある。このように、目的を持った人が集まる店舗や施設が集中しているエリアともいえるのだ。

建設場所の隣にはTSUTAYA BOOK STORE TENJINが出店。「3階フロアには福岡市が展開しているスタートアップカフェも入居する

 また、天神の中心部方向から、ソニーストア福岡天神の前まで伸びる天神西通りには、H&Mやフォーエバー21などのファストファッションの大型店舗が軒を連ねる通りでもあり、若い女性などが、その流れでソニーストアにまで訪れることも想定できる。ビックカメラやベスト電器といった大型量販店とも、近すぎず、離れすぎずといった距離にある。

 そして、ソニーストア福岡天神が入居するビルは、かつて福岡市の福岡中央児童会館が入居していた場所だ。現在は更地だが、それを立て替え、新たなビルが完成したあとも、4階~8階までは中央児童会館が入ることになる。

 つまり親子連れなどが訪れる場所にもなるわけで、ここでもソニーストアにとっては新たな集客が期待できるというわけだ。従来の福岡中央児童会館は、年間8万5,000人の来館があり、今後はそれを上回る来館者を見込んでいるという。

 実は、中央児童会館といえば、福岡在住の人は、だいたい場所がわかるという。ソニーマーケティングのなかにも、子供のときにはここで遊んでいた経験がある社員がいるという。

 「アップルストアの前」、「中央児童会館がある場所」、「TSUTAYAの基幹店舗の横」といったように、ソニーストア福岡天神の場所を示す言葉はいくつかある。これも集客しやすいことを裏付けるものになろう。

中央児童会館建て替え整備事業として新たなビルを建設
5階~8階までは中央児童会館が入居することになる
現在は更地になっている

西鉄から提案したソニーストアの入居

 ソニーストア福岡天神が入ることになる新たなビルは、先にも触れたように、福岡中央児童会館が入っていたビルを建て替えた、新築ビルの1階、2階部分になる。

 福岡中央児童会館は、2014年3月から休館。ソニーストアと同じく、2016年4月に開館する予定だ。

建て替え後の新たなビルの完成模型

 この建て替え事業を担当しているのが、西日本鉄道(西鉄)だ。

 この建て替え事業は、福岡市とのPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業として、総事業費13億円をかけて、官民合同で推進しているものである。敷地面積は1,125平方メートル、延べ床面積は5,525平方メートル。2015年2月から着工しており、2016年2月に竣工する予定である。

 西日本鉄道の倉富純男社長は、「福岡中央児童会館の過去の建て替えは福岡市が単独で行なったが、今回は、それぞれのテナントがつながることもでき、西鉄ならではの魅力を持った建て替え事業ができた」と語りながら、「様々な方々に、天神を回遊してもらうための拠点になると考えている。お子様を連れたお母さんが、天神を回遊するためのひとつの基点になるとも考えている。さらに、ビルのなかでも融和したテナント構成を実現しており、ビルのなかだけでも楽しんでもらえる。目の前にアップルストア、隣にスタートアップカフェ、そこにソニーストアと福岡中央児童会館がある。回ってみようかな、歩いてみようかなということになれば幸い。天神を面として捉え、広がりを提案できることが魅力である」と語る。

「西鉄ならではの魅力的な建て替えができた」とする西日本鉄道の倉富純男社長

 また、西日本鉄道 都市開発事業本部副本部長兼企画開発部長の堀江広重執行役員も、「ソニーストアをはじめとした入居テナントは、中央児童会館との親和性が大きいと考えている。子供たちの創造力をかき立てることができるいいテナントに入ってもらった。福岡・天神のさらなる魅力向上に寄与できる場所になる」と胸を張る。

 実は今回のソニーストアの入居は、西鉄側からの提案によって実現したものだ。

 西日本鉄道の堀江執行役員は、「ソニーストアは、こちらからお願いして、来ていただいたものである」と明かす。西鉄の提案にソニーマーケティングが応じたという格好だ。西鉄としても、子供が出入りする施設が入るビルの1、2階に、「SONY」のブランドを持つテナントを入居させることで、ビルそのものの価値を高め、来館者にも安心感を与えることができるようになるのは明らかだ。

 ソニーマーケティングでは、ビルのデザイン段階から参画。ソニーストア名古屋の路線店舗で成功した角地にガラス張りの外観デザインを踏襲。予定では、SONYのロゴは、建物上部には掲示できないが、アップルストアの方向に向けて、ガラス面にSONYのロゴを表示することになりそうだ。だが、アップルストアは、ソニーストアに面した側は壁となっており、アップルストア店内からは、SONYのロゴは見ることができない。これはちょっと残念である。

 ちなみに、1階フロアの奥半分は、カカオから手作りしたチョコレートを提供するカフェ「green」の国内2号店が出店。3階には福岡に本社を置くグルーヴノーツが、3Dプリンターなどを活用したデジタル工作スペース「TECH PARK MAKERS」と、学童保育機能も持つITテクノロジー学習施設「TECH PARK KIDS」を開設。4~8階に福岡市が運営する中央児童会館や、NPOボランティア交流センター「あすみん」が入居することになる。また、2階フロアの半分には、現在、長浜にあるソニーコンスーマーセールス九州支社が入居する予定だ。「ソニーストアと支社、営業拠点が同じ場所に入居するのは初めてのことになる」(ソニーマーケティングの浅山本部長)という。

 ソニーストア福岡天神の売り場構成は、まだ詳細は決まっていないが、1階は主に体験型の製品展示を中心に、製品販売を目的とした売り場構成に、2階フロアは、セミナーなどでの活用を視野に入れた体験型スペースとする予定である。

 2フロアあわせた売り場面積は約600平方メートル。1階の売り場は、ソニーストア名古屋とほぼ同じ面積だという。

 「このエリアは、天神のなかでも、若い人たちが集うとともに、親子連れやシニア層も気軽に訪れることができるエリアだといえる。ソニーが、九州地域に向けて情報発信するには最適な場所になる」(ソニーマーケティングの浅山本部長)と位置づけた。

ソニーストア福岡天神の外観イメージ

福岡ならではのイベント企画も検討へ

 ソニーストアの各店舗は、それぞれに特徴を持った店舗展開をしているのも特徴だ。それはまさに競っているようにすらみえる。

 ソニーストア大阪では、アニソンファンやマイケル・ジャクソンファンを対象にしたハイレゾ視聴イベントを随時開催して、新たな顧客層を獲得。ソニーストア名古屋ではデジカメの展示スペースを半分以上に拡大し、すべての交換レンズを試用できる環境を構築し、同店におけるデジタルイメージング関連製品の売り上げ構成比を4割以上に引き上げてみせた。

 こうした取り組みは、福岡天神でも期待できそうだが、さらにアジアのハブといわれるように、インバンウド効果を期待して、同社が用意しているオーバーシーズモデルの展示や販売強化も、福岡天神ならではの取り組みとして注目されそうだ。また、福岡は数多くのミュージシャンを排出している地域でもあり、ソニーが得意とする音楽を軸にした取り組みも期待できそうだ。かつて、アップルストアも音楽関連のストアイベントを、福岡天神を皮切りにスタートした経緯があり、音楽を得意とするソニーストアとアップルストアとが、道を挟んだ場所で競争することは、福岡のユーザーにとっては歓迎すべきものになるだろう。

 さらに、ソニーストアでは、最新のソニー製品を触れる形で一堂に展示するだけでなく、発売前の製品をいち早く展示。九州で最も早く新製品に触れられる拠点にするほか、ソニー製品に熟知した専門スタッフが接客。ソニーの開発者などによる店頭イベントなども行なわれることになりそうだ。

 ソニーマーケティングの浅山本部長は、「ソニーストア名古屋で実施しているジオラマによる動体撮影、特設ブースによる暗所撮影やポートレート/マクロ撮影、望遠撮影の体験といったシューティングスペースの設置も行ないたい。また、α Cafe体験会を通じて、デジタルカメラを購入した後のカメラの使い方、楽しみ方を提案し、ニーズや習熟度にあった提案も行なっていきたい。アイデアの段階ではあるが、建て替え事業を担当した西鉄との連携によって、電車の流し撮りを習得するといったセミナーも開催したいと考えている。デジカメは、レンズ、イメージセンサー、画像処理エンジンの3つのコア技術を、ソニー自らが持っている分野。最重点製品のひとつである。また、ハイレゾオーディオは、ウォークマン全体の25%の販売比率にまで到達。ここでもソニーの強みを発揮できる。さらに、4Kテレビは国内トップシェア。2015年度は46型以上の大型テレビ購入者の半分が4Kテレビになると予想している。ソニーは、高付加価値戦略により、4K、ハイレゾ、デジカメの3つのカテゴリーで市場活性化を図る。そのなかでソニーストアは、購入の場だけでなく、継続的に顧客とコミュニケーションをしていく場にしていくほか、近隣の家電量販店と連携して、地域全体を活性化する拠点にしたいと考えている」と語る。

 ソニーマーケティングでは、ソニーファンの創造に向けて、カスタマーマーケティングを実行。顧客志向での展開することを目指している。顧客とのダイレクトマーケティングの実現、そしてカスタマーマーケィングの実行においても、Face to Faceで対応するリアル店舗のソニーストアの存在は重要だ。

 α Cafe体験会も、2014年度実績では、全国で1,300回を開催。9,000人が受講し、ソニーファンを増やすことにつなげているが、来年以降は、福岡でもその役割がさらに加速することになりそうだ。

 ところで気になるのは、5店舗目と目される札幌への出店。浅山本部長は、「まだ具体的に話せるものはなにもない」とするが、福岡同様に出店場所を模索していることは、すでに同社・河野社長が明らかにしている。今後は、札幌への出店時期と場所が気になるところだ。だが、福岡同様に、アップルストアの近くというのがひとつの選択肢にはなりそうだ。福岡の店舗の中身も気になるが、同時に札幌への出店も気になる。

 なお、ソニーストア福岡天神の住所は、福岡県中央区今泉1-19-22。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など