藤本健のDigital Audio Laboratory

第851回

約1,200円の48kHz/16bit対応「USB-DAC自作キット」で遊んでみた

ノースフラットジャパンの「USB DAC/DDC自作キット」

ひとまず緊急事態宣言はほとんどの地域で解除されるメドがたったものの、新しい生活様式ということで、まだしばらくはテレワークなど、自宅での巣ごもり生活が続くという人も多いだろう。これによって余裕ができた時間を趣味などに活用できる、と考えれば悪くないようにも思うが、どんな趣味に当てるかは人それぞれだろう。

今回で取り上げてみたいのは、オーディオ機器の自作だ。いきなり難しいものを制作するのは大変だし、予算もそれほど多くはかけられないので、比較的簡単に作れそうで、1,000円ちょっとで楽しめるUSB-DACのキットに取り組んでみたので、紹介してみよう。

【お詫びと訂正】記事初出時、タイトルで“48kHz/24bit対応 ”と記載しておりましたが、DACチップ「PCM2709」は48kHz/16bit対応です。本文にもその旨を追記しました。お詫びして訂正します。(5月26日14時)

送料込みで1,200円程度の自作USB-DACキットをAmazonで買った

緊急事態宣言が発令されて間もない4月上旬、ふと「はんだ付けして作る手ごろなキットってないだろうか……」とネット検索してみたのだ。

子どものころから電気系の道を歩んできたので、電子工作は大好きではあるのだが、もともと不器用で、はんだ付けもパターン制作も正直いって下手。だからやるなら、穴あけされたプリント基板に組み込んでいくキットを楽しむのが精いっぱいだし、それもあまり複雑なものになると、うまく完成させられる自身もない。また、あまり高いキットを作って、まったく動かなかったりすると悲しいので、安くて面白そうなものはないかな……と探していたのだ。

すると、すぐに見つかったのがAmazonで販売されていた「NFJオリジナル設計 Ti-BB製PCM2704搭載 USB DAC/DDC自作キット」なるものだ。Amazonから直送される製品ではなかったけれど、送料込みで1,200円程度だったのと、単なるUSB-DACでなく、S/PDIFも搭載されたDDCのようなので、ほとんどまともに調べることもなく、すぐにポチッと購入したのだった。

Amazonで発見した「NFJオリジナル設計 Ti-BB製PCM2704搭載 USB DAC/DDC自作キット」。残念ながら、Amazonでは5月24日現在品切れ中

数日後、茶封筒に入った形で郵便で送られてきたのだが、なぜかいろいろと忙しくなって、封も明けずにそのまま放置状態に……。先週ようやくちょっと時間ができたので「そうだ、キットがあったのだった」と開封してみたのだ。

茶封筒に入って送られてきた
エアパッキンで梱包されていた

中を確認すると、名刺大の赤い基板と小さな部品がいろいろ出てきた。小さすぎてはんだ付けが不可能なDACチップなどは予め基板に取り付けられているので、大きな部品であるコンデンサや抵抗、LED、またスイッチや端子類を取り付けるだけでできそうだ。

またパターンを見てみると、それほど配置も込み入っていないので、不器用な筆者でも作れそうな気がする。はんだ付けをするのは半年ぶりくらい。以前、この連載で取り上げたIchigoJamのキットを作って以来、楽しくて何度か電子工作をしてはいるが、この20年で数えると、5回目くらいな素人ではある。

開封すると、名刺大の赤い基板と小さな部品が
DACチップなどは予め基板に取り付けられている
パターンを見る限り、それほど難しくはなさそう……?

さっそく作ってみよう……と思ってみたら、説明書が入ってない。改めてAmazonのページを見てみると、やはり説明書は存在しないようで、ネットから部品表のPDFをダウンロードしろ、と記載されている。まあ、下手に小さな字で書かれた紙1枚送られてくるより、ファイルで見れるほうがありがたいのも事実。そう、近頃、小さいものを見るのが厳しく、はんだ付けなどのために、半年前に100円ショップでルーペを購入したところなので、これを使いながら制作していくことにする。

説明書は同梱しない。ネットからPDFをDLする

ついでに、このキットがどんなものなのか、改めてネットで検索してみて分かったのは、この製品自体かなり古いもので、最初に発売されたのが2014年というからもう6年も前からあるキットだったのだ。

もっとも、古いから安売りされているわけではなく、当初から1,200円程度の価格であり、NFJ=ノースフラットジャパンという大阪の会社が開発したものだ。改めて、先ほどの送られてきた封筒を見ると、まさにノースフラットジャパンから送られてきていたので、メーカー直送だったわけだ。

中枢に搭載されているのはテキサスインスツルメンツ製「Burr-Brown PCM2704」というDACチップ。あまりよく知らなかったが、調べてみるとさまざまなキットで使われている5V動作のチップで、サンプリングレートは32kHz、44.1kHz、48kHzをサポート。つまり96kHz以上のハイレゾで使えるものではないようだが、お遊び用途としては十分だろう。

もう一つチップが搭載されているのでオペアンプかな?と思ったら、さにあらず。74HC04Dと書かれており、高速CMOSロジックICのようだ。「74HC04」だから、NOT回路が6つ入ったチップだ。なんでそんなものが……と思ったら、これをバッファとして利用して、S/PDIFへ信号を送り出す仕組みになっているらしい。

TI製DACチップ「Burr-Brown PCM2704」
高速CMOSロジックIC「74HC04」

ネット上には、購入して制作した人のブログ情報などもたくさんあった。パラパラと読んでみると、説明書が無くて分かりにくいとか、部品表と実際に入っている部品が違うとか、音量が大きすぎて使いづらい、作ったけどすぐ壊れた……などネガティブな発言が目立つので、やや不安にもなってきた。とはいえ、たかだか1,000円程度のものなのだから、ダメ元で始めてみた。

いざ工作開始。背の低いパーツから”はんだ付け”していく

キットのセオリーにしたがい、まずは低い背のものから……と小さな積層セラミックコンデンサから取り付け開始。ルーペなしにはまったく手元が確認できないのが情けないところ。

小さな積層セラミックコンデンサから取り付けていく

無事にはんだ付けできたところで、余剰部をニッパーで切り落とそうとしたら、これがまったく切れない。ルーペと同じ100円ショップで購入したものだが、やはり安物はダメということか……、改めて工具箱を探してみたら古いニッパーが出てきて、こちらはしっかり使えたので、新品ニッパーは捨てて、改めて工作続行。

抵抗を取り付け、次に背が低いものは……とみると、コンデンサより背が低いクリスタルがあった。見ると12.000MHzの水晶発振器で、これを分周して、32kHz、48kHzのほか、比整数倍率ではあるが44.1kHzを作り出しているということなのだろう。

12.000MHzの水晶発振器

ダイオードとインダクタを取り付けた後、赤いLEDと緑のLEDへ。ここで、しまった……と思ったのは、アノードとカソードってどっちが、どっちだったっけ? というもの。確か端子が長いほうが「+」だったような……なんていい加減な記憶しかったが、ネットで調べれば一発で答えが出てくる。便利な時代だ。

ダイオードやコンデンサ、LEDなど

さらに緑のマイラコンデンサを並べ、また、あれ? と思ったのが電解コンデンサ。これも長いほうが「+」でいいはず……と調べて取り付けたが、最後に残った6つの電解コンデンサは、足があらかじめ短く同じ長さで切られている。

足が短く同じ長さでカットされた電解コンデンサ

まあ電解コンデンサはどちらがマイナスかは記載されているから極性はわかるが、オーディオ出力部に取り付ける2つは、当初の設計ではもっと大きな容量を搭載する予定だったのか、プリント基板上のサイズが大きく端子間も離れているから、思い切り広げて無理やり取り付けた。

部品表と実際の部品が異なるようなことはなく、最後まで取り付けることができた。途中、はんだ付けの失敗をしてないか、テスターでチェックなどもしてきたが、たぶんこれで問題なくできているはずだ。

電解コンデンサの足幅が少し合わない……
テスターでチェック

最後にステレオミニ出力、S/PDIF用のRCA端子、USB端子、ACアダプタ用端子の取り付けて完了か……と思ったら、ヘッダーピンが残っていた。部品表を確認すると確かに、2列ヘッダーピン、4列ヘッダーピンというのがあったので、ニッパーで分割した上で、これらをつけて完成だ。

ステレオミニ出力端子など、各インターフェイスを取り付ける
残っていたヘッダーピン
ニッパーで分割して取り付けたら完成!

PCにつないで動作確認。想像していた以上のサウンドが楽しめた

ACアダプタの用意がないが、各種情報を見る限り、電源は高音質化のためのもので、とりあえずUSBバスパワーで動く模様。

恐る恐る手持ちのUSBケーブルでPCにつないでみると……緑のLEDが点灯するとともに、すぐにWindows 10に「USB Audio DAC」として認識され、セットアップが始まる。数秒で完了し「デバイスの準備ができました」と表示された。問題なく動いているようだ。

恐る恐る手持ちのUSBケーブルでPCにつないでみる
緑のLEDが点灯
「USB Audio DAC」として認識されセットアップ開始
「デバイスの準備ができました」と表示された

とりあえずステレオミニジャックに、モニターヘッドホン「MDR-CD900ST」を取り付けて音を出してみると……想像していた以上にいい音がする。高域のキレがよく、クリアで、パンチのあるサウンドといったところ。下手なオーディオインターフェイスよりもいい音なのでは……という印象だ。

このキットを作った人のブログやYouTubeでは、音量が大きすぎて、0~100で動かすWindowsのボリュームでは7前後にしないとまともな音が出ないから使いずらい…という情報があったが、少なくともMDR-CD900STでの場合、最大レベルの100にしても音は割れないし、適度に大きな音量まで出せて、非常に使いやすいという印象だ。

ソニーのモニターヘッドフォンを取付け試聴。高域のキレがよく、クリアで、パンチのあるサウンドが……

S/PDIFのコアキシャルの端子が搭載されているが、本来はその横にS/PDIFのオプティカル端子が搭載できるように基板設計されている。が、先ほどの部品表を見ると、オプティカル端子はそれに利用するパルストランスとともにオプション扱いになっており、このキットには含まれていない。

そして、パルストランスを取り付けないでS/PDIFコアキシャル端子を利用するにはJ14、J15の端子をそれぞれショートさせろ、と記載されている。TOSLINKモジュールなどは、今度、秋葉原にでも行った際に入手しようと思うが、とりあえずはコアキシャル端子を使ってみたいので、J14、J15にはんだを盛ってショートさせた。これでうまく動くのだろうか……。

J14、J15にはんだを盛ってショートさせた

普段使っているちょっと古いローランド(EDIROLブランド)のデジタルミキサー「M-16DX」のS/PDIF入力に接続。48kHz/24bitの楽曲を再生してみると、M-16DXの液晶パネルにはデジタル入力を認識し、同期に入った。

数秒でクロックに同期し48kHzの表示がされ、レベルメーターが動き出す。M-16DXのボリュームを上げてみると……バッチリ。キレイな音で再生されたのだ。試しに、Windowsのボリュームを動かすとヘッドフォン出力の音量は変わるが、S/PDIF側は固定されたままなので完璧。

とはいえ、TIのスペックシートを見ると16bitとあるため、48kHz/24bitの楽曲が再生できても実際の出力は16bit止まりだろう。まあ、はんだ付けに1時間近くかかったけれど、 1,200円程度でこれだけのものが入手できたら、大成功ではないだろうか?

ローランドミキサー「M-16DX」のS/PDIF入力に接続
48kHz/24bitの楽曲を再生してみると、M-16DXがデジタル入力を認識し同期に入る
数秒でクロックに同期し48kHzの表示がされた
動き始めたレベルメーター
S/PDIF側は固定されたまま

S/PDIF出力でビットパーフェクトできるか実験してみた

続けて44.1kHz/16bitのファイルを再生しても、キレイに音が出た。

せっかくだから一つ実験してみることにしよう。そう、このS/PDIF出力でビットパーフェクトが実現できるかの実験だ。ただし、このUSB-DACは特別なドライバをインストールすることなく自動で入ったドライバだから、ASIOには対応していない。

そこで汎用ASIOドライバである「ASIO4ALL」をインストール。こうしたビットパーフェクトの実験においてDAWはあまり信用できないので、いつも確実に仕事をこなしてくれる「Sound Forge」を使ってこのDACをASIO4ALL経由で鳴らす。そのS/PDIF出力をM-16DXで受けて、もう1つのSound Forgeで録音した上で、比較するという手順だ。残念ながら同じSound Forgeを2つ起動することはできないので、Sound Forge Pro 13 SUITEと、廉価版のSound Forge Audio Studio 13の2つをインストールして、並べて起動し、ダビングしていくわけだ。

「Sound Forge」を使ってこのDACをASIO4ALL経由で鳴らす
Sound Forge Pro 13 SUITEと、廉価版のSound Forge Audio Studio 13の2つをインストールし、並べて起動&ダビングした

ところがここでトラブル発生。

試しにダビングした際はうまくいったのだが、44.1kHzの素材をセットすると再生はできるものの、録音側が44.1kHzに設定しようとしたところでサンプリングレートが合わないと、エラー表示が出る。

おかしい……と1つ1つ確認していくと、44.1kHzのファイルを再生しているのに、M-16DXでの受信は48kHzのままになっていた。しっかり音は出ているのになぜだろう……とすべて電源を入れ直してみたが、改善されない。そもそも何の音も出していなくても、キットのUSB-DAC/DDCと接続すると、必ず48kHzで同期されて、44.1kHzにならないのだ。これで問題なく再生できているということは自動でサンプリングレートコンバーターが動いていて、それを通した音になっていたのだ。

普通に音楽を聴く分には、ノイズも乗らないし、キレイな音で鳴るのだから困ることは何もないけれど、意図しないサンプリングレートコンバーターが使われているのは、ちょっと気に入らないところ。では48kHzで試せばうまくいくのか。48kHz/24bit、48kHz/16bitのデータでそれぞれ試してみたが、結果は残念ながら一致しなかった。48kHzで再生しても、何らかの改変をしてしまっているようなのだ。この辺は過剰な期待は禁物だった、ということなのだろう。

なお記事掲載後に、PCM2704のチップ自体は44.1kHzでの動作に対応し、サンプリングレートコンバーターのような回路は入っていないという情報が寄せられた。今回ビットパーフェクト出力できなかったのは、チップ以外の箇所に原因があるようだ。

【追記】PCM2704に関する情報を追記しました(2020年5月29日15時)

48kHz/24bitデータの場合
48kHz/16bitデータの場合。いずれも一致しなかった

ところで、この手のキットを作っても基板のままでは扱いにくいのでケースに入れておきたいところだが、ケースこそ工作の技術が問われるところで、筆者にとっては苦手中の苦手……。アルミケースを買ってきて、穴あけなどして取り付けても、まともな見た目のものが完成した試しがない。

しかし、キットの組み立てに関していろいろ調べていたところ、このキットには専用のアルミケースがあることを知った。これなら、ただネジ留めするだけでOKだし、価格も760円+送料650円と手ごろなので、先ほど注文することに。届いたら、この基板を組み込んで、ヘッドホンで使うためのDACとして、しばらく使ってみようかと思っているところだ。

専用のアルミケースが販売されていた。価格は760円

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto