藤本健のDigital Audio Laboratory

第860回

超コンパクト! 約1.6万円のUSB-Cオーディオインターフェイス「ESI UGM192」を試す

ESIのオーディオインターフェイス「UGM192」

PCにオーディオの入出力機能を付加するオーディオインターフェイス。今や数多くのメーカーが参入し、数多くの種類の製品が発売されるようになった。

USB接続タイプが大半を占める中、入出力ポートの数の違いや対応するサンプリングレート、デジタル入出力の有無、マイクプリアンプの品質などの性能面のほか、筐体サイズも各製品で異なる。中でも極めて小さいオーディオインターフェイスが先日、ドイツブランドESI Audiotechnikから発売された。

それは「UGM192」というUSB Type-C接続のオーディオインターフェイスで、その名の通りサンプリングレート192kHzにまで対応した機材だ。これが実際どんな性能のものなのか、チェックしてみたので紹介してみよう。

手のひらサイズの小型オーディオインターフェイス

昨今のコロナ禍においてオーディオインターフェイスの品薄状況が続いている。

もともとオーディオインターフェイスはDTMユーザーや音楽制作を行なう人のための機材だが、オンライン会議を高音質化させることが可能であることから、DTM関係以外でのニーズが高まっていること。さらに家にこもる生活が強いられるために、この機会にDTMをはじめる人、再開する人が増えていること。そして、コロナ関係で生産ラインや流通がストップしたり、遅れが出ていること、などの複合的状況から、とにかくモノがない。

昨年まではどこでも簡単に入手できた1~2万円程度のオーディオインターフェイスが片っ端から品切れで、人気の機材だと数か月~半年待ちという異常な状態が続いているのだ。

そんな状況下においても、ポツポツと新製品が登場している。今回紹介するESIのUGM192もその一つだ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は16,000円前後。

ESIと聞いて「懐かしい」と感じる人も少なくないのではないだろうか? ESIはもともと韓国のEgo Systems, Inc.に由来するブランドで、かつて韓国メーカーだった時代はProdigy、Juli@(ジュリエット)、QuataFire、MAYA……といったマニアックな製品を出して、日本国内でも結構人気のブランドだった。このDigital Audio Laboratoryでも15、16年前の記事で何度もレビューしたことがある(第156回第161回)。

Juli@(ジュリエット)
QuataFire 610

そのEgo Systemsだが、事業を広げすぎたことで経営が傾き、2006年にドイツRIDI multimedia GmbH、および中国Ringwayが出資する形で、ドイツ・レオンベルグにESI Audiotechnik GmbHが設立された。2010年までに、すべての設計はドイツの新しいESI Audiotechnik GmbHに移管され、2013年にRIDI multimedia GmbHとESI Audiotechnik GmbHが統合される形でできたのが現在のESIとなっている。

新生ESIでは、これまでもさまざまな製品を開発してきているが、その新製品として注目を集めるのが、今回取り上げる手のひらサイズの小型オーディオインターフェイスUGM192だ。

UGM192は、手の平に乗るコンパクトなサイズも特徴

実は本機と同じタイミングで「GIGAPORT eX」という小さな製品もリリースしている。今回その詳細は割愛するが、正確にはオーディオインターフェイスではなく、USB-DACの一種。つまり入力機能はないのだが、出力を8ポート持つ0in/8outという仕様になっている。

写真右が「GIGAPORT eX」

7.1ch出力用などに使うことができなくもないが、オーディオファンをターゲットにしたものではなく、コンサートなどで利用するマルチチャンネル出力用として設計開発されたもの。UGM192もGIGAPORT eXも赤と黒のツートンカラーで、USB Type-C接続のバスパワー動作という意味では共通となっている。

前面。2系統のヘッドホン出力を搭載
背面には、8つのアナログ出力端子を用意する

では、本題のUGM192について見ていこう。

こちらは2in/2outで最高192kHzのサンプリングレートまで扱える機材で、サイズとして約87×67×17mmで、約100gという、とにかくコンパクトなサイズが特徴だ。同じ2in/2outで192kHzまで扱える人気オーディオインターフェイス・Steinberg「UR22C」と比べてみると、いかに小さいかがお分かり頂けるはずだ。

Steinberg「UR22C」とのサイズ比較

フロントを見ると左右に6.3mmのフォン入力がある。左側はハイインピーダンス対応で、ギター入力用のTS(2極)となっている。それに対し右側はTRS(3極)だが、これはバランス入力で、基本的にはマイクを接続するためのもの。一般的にマイクはXLR端子だが、それをTRS変換して使う仕様になっていて、ここに+48Vのファンタム電源も送ることができる。

前面左右に6.3mmフォン入力を搭載
マイクをTRS変換して使う仕様になっている

そのファンタム電源のON/OFFを司るのが一番右のボタン。これを押してONにすると、上のLEDが赤く点灯する。そのマイク入力を増幅するためのマイクプリアンプが搭載されており、その設定を切り替えるのが真ん中のボタン。OFFの状態だと+0dBだが、1回押すとオレンジに点灯して+20dB、もう1回押すと赤く点灯して+30dBとなる。

設定切り替えボタン

一番左のMONITORボタンはギターおよびマイクから入ってきた音を、そのままモニターするためのダイレクトモニタリング用。消灯時はOFFだが、1回押してMONOが緑に点灯するとギターもマイクも中央に定位するモノラルでのモニタリングに、もう1回押してSTEREOが緑に点灯するとギターは左、マイクは右という形でステレオで定位する形になる。

リアパネルにも6.3mmのフォンジャックがあるが、これはヘッドホン出力兼ラインアウト。これもTRSとなっているが、普通のステレオ出力の形だ。また左側にはUSB Type-CとmicroUSBの2つの端子が用意されている。このうちUSB Type-CのほうがPCと接続するための端子で、microUSBのほうは補助電源となっている。

背面。ヘッドホン出力兼ラインアウトの標準ジャックを搭載

通常はUSB Type-Cの端子だけを使えばOKであり、USBバスパワーで動作するのだが、UGM192自体はUSBクラスコンプライアントなデバイスであるためWindowsやMac以外にもiPhoneやiPadまたAndroidスマホ、タブレットなどでも利用可能。ただ、これらのデバイスだと電源供給が足りず動作しなかったり、安定した動作ができないケースがあるので、その時のためのmicroUSB端子を用意するわけだ。

このような仕様であるため、何に接続してもドライバ不要ですぐに利用できるのが大きなメリット。ただし、よりレイテンシを小さくしたり、DAWでしっかり使うためにWindows用、Mac用のドライバも用意されており、これでバッファサイズなどの調整が可能になっている。

WindowsのドライバをインストールするとタスクトレイにUGM192 Panelというアイコンが常駐し、これをクリックすると、UGM192の入出力およびサンプリングレートの状況が表示される。また、UGM192のハード上はボリュームなどが用意されていないため、出力音量の調整はこのUGM Panelのフェーダーを使って行なう形となる。

インストール後はタスクトレイにUGM192 Panelアイコンが常駐
UGM192の入出力およびサンプリングレートの状況を表示

レイテンシーとRMAA Proを使った入出力の音質実験

Configメニューを見るとサンプリングレートの設定ができるほか、USB BufferとLatencyというバッファサイズ設定のパラメータが2つある。

Configメニューからサンプリングレート設定が可能
USB Bufferパラメータ
Latencyパラメータ

USB Bufferのほうは2~7の範囲で設定でき、Latencyのほうは32~2048サンプルまで7段階で設定できるようになっている。デフォルトではUSB Bufferが5、Latencyが256という設定だ。

ここで実際どのくらいのレイテンシーがあるのか、入出力をループ接続する形で測定してみた。44.1kHzの場合のみでUSB Bufferをデフォルトの5、Latencyを128サンプルでも測定したほかは、各サンプリングレートにおいてUSB Bufferを2、Latencyを32サンプルで測定した結果がこちらの値だ。

128 samples/44.1kHzの結果
32 samples/44.1kHzの結果
32 samples/48kHzの結果
32 samples/96kHzの結果
32 samples/192kHzの結果

試してみて気がついたのは、測定するたびに、その値が結構変動すること。例えば、USB Bufferが5、Latencyが128サンプルの状態で測定してみると、一番小さいと11.84、一番大きいと14.21といった感じになって毎回値が変動するのは気になった。

次に毎回実施しているRMAA Proを使った入出力の音質実験を行なった。

この実験を行なうための前提には、ステレオの入出力装備が必要だ。しかしUGM192の場合、出力はステレオで出せるものの、入力は片チャンネルがギター用、もう片チャンネルがマイク用で、モノラル2chというものだし、左チャンネルがTSで右チャンネルがTRSであるなど、測定条件にマッチしていない。

ただ、左右同じフォン端子なので、試しにファンタム電源オフ、マイクゲイン0dBの状態でステレオ信号をTSケーブルで送って録音してみたところ、あまり違和感なく録音することができた。

あくまで“参考用”という形でRMAA Proでの実験を行なってみた結果を下記に掲載する。正しい実験方法ではないので、あまりこのまま受け取る必要はないが、性能を見るうえでの一つの参考にはなるかもしれない。

44.1kHz
48kHz
96kHz
192kHz

ESI製品のWindowsドライバにおいて、他社製品にないユニークな特徴がある。それはDirectWIREというシステムで、韓国EGO Systems時代から脈々と続くものだ。

ご存知の通りWindowsには標準のMME/WDMドライバのほか、DAWなどで用いるASIOドライバがある。通常は互換性のないMME/WDMとASIOだが、その間を自由にルーティングできるようにするのがDirectWIREだ。例えば、DAWから出てきた音を、MMEに送るといったことが可能で、DAWの出力をそのままOBSなどのネット配信ソフトを送ることが可能となる。

DAWの出力をOBSなどのネット配信ソフトへそのまま送れる

またDirectWIREの画面を見てもわかる通り、VIRTUAL 3~6という仮想ポートも用意されている。

Windowsのサウンド設定画面から見ても、DAWから見ても、6in/6outのオーディオインターフェイスに見えるようになっている。さらに実入力であるINPUT 1と2もこのDirectWIRE上でルーティングできるので、アイデア次第でさまざまな活用が可能になるのだ。例えば、ゲームのサウンドを3/4chに送り、マイク入力はDAW経由でエフェクトをかけた上で5/6chに出力。それらをミックスさせてOBSに送る……なんてこともできるわけだ。

DirectWIREを利用すれば、様々な活用が可能

メインのオーディオインターフェイスとして使ってもいいし、サブ機としてポケットに入れて持ち歩くのもよし。小さいだけに、さまざまな活用法が考えられそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto