第517回:「Sound Blaster」ブランドのスピーカーを試す

~マイク/Bluetooth搭載の「SBX 20」。スマホ連携も ~


Sound BlasterAxx

 Sound Blasterといえば、Windows PC用の内蔵サウンドカードというイメージが強いが、新たに登場した新型Sound BlasterであるSound BlasterAxx(サウンドブラスター・アックス)は従来とはまったくコンセプトの異なる製品。写真の通り、細い縦長の1本のスピーカーなのだ。

 フラグシップモデルのSBX 20(直販価格19,800円)、中位モデルのSBX 10(同14,800円)、エントリーモデルのSBX 8(同9,800円)と3種類あるが、いずれも黒い縦型で上から見ると六角形というユニークな形状。なぜ、スピーカーがSound Blasterという名前になっているのか、どんな使い方をする機材なのか、紹介していくことにしよう。

左からSBX 20(直販価格19,800円)、SBX 10(同14,800円)、SBX 8(同9,800円)六角柱というユニークな形状の縦型スピーカー

■ USB/Bluetooth対応の一体型スピーカー。iOS/Androidアプリも

 Sound BlasterAxxを一言で表現すればDSP内蔵のパワードスピーカー。1本ではあるけれど、左右から音が出るステレオのスピーカーであり、ここにマイクも内蔵しているというかなり変わったスピーカーだ。やはりSound BlasterというネーミングだけにPCとの接続が最大のポイントとなるのだが、USB接続であるためにWindowsと接続できるほか、Macとも接続が可能になっている。さらに、上位2機種であるSBX 20とSBX 10はBluetoothに対応しているため、iPhoneやiPad、さらにはAndroidといったデバイスとも接続して使うことができるようになっているのだ。

 従来のSound Blasterにも例外的にMacに接続可能なデバイスもあったが、基本的にPC一筋で製品開発してきたシンガポールのCreative Technology、今回のSound BlasterAxxで、大きく舵を切ったという印象だ。もっとも、Creativeは、これまでも数多くのパワードスピーカーを出してきたし、iPhone/iPadに接続可能なスピーカーというのも、今回が初めてというわけではない。ZiiSoundシリーズとしてBluetoothでiPhone/iPadに接続できるスピーカーがあったので、今回の製品もその延長線上にあるともいえるのだ。

 とはいえ、今回の製品はただ接続可能というだけでなく、iOS対応のアプリ、またAndroid対応のアプリも同時にリリースし、これらのアプリからSound BlasterAxxのさまざまな機能をコントロールできるようにするなど、かなり踏み込んだ製品へと進化している。結果的に、Sound BlasterAxxはWindowsでもMacでも、またiPhone/iPad、さらにはAndroidでもほぼ同じように接続し、コントロールすることができる新世代デバイスとなっているのだ。なお、3機種の主な違いは以下の表のとおり。


Sound BlasterAxx
SBX 20
Sound BlasterAxx
SBX 10
Sound BlasterAxx
SBX 8
SB-Axx1
マルチコアプロセッサ
静電式タッチコントロール
パネル
内蔵マイクハイクオリティ
デュアルマイクアレイ
ハイクオリティ
デュアルマイクアレイ
高品質マイク
アンププレミアムHiWaveアンプクラスDアンプクラスDアンプ
SBX Pro Studio
CrystalVoice
Bluetoothオーディオ再生
ボイスコミュニケーション
×
USB接続オーディオ再生
ボイスコミュニケーション
Creative Central
(iOS、Android)
×
Sound BlasterAxx
コントロール
ソフト(パソコン、Mac)
Sound BlasterAxx
ボーナスパック
ソフト(パソコン)

■ クアッドコアDSP「SB-Axx1」搭載。PCからさまざまな音作り

背面の端子群とBluetoothペアリングボタン。右にPC接続用のマイクロUSB端子(タイプB)がある

 では、ここからもう少し具体的にSound BlasterAxxの機能について見ていこう。ここでは、フラグシップモデルのSBX 20を使い、メインとしてWindows 7の入ったPCと接続して使ってみた。

 とりあえず試しに、ドライバをインストールする前に、付属のUSBケーブル(Sound BlasterAxx側はタイプBのマイクロUSB)で接続してみたところ、あっさり動作してくれた。基本的には普通のUSBスピーカーとして使える仕様のようだ。もちろん、ドライバを入れないと、すべての機能を使うことができないので、すぐにドライバもインストールしてみた。再起動すると、これでセッティングは完了。再生デバイスとして、また録音デバイスとしても確認できる。

ドライバのインストール画面サウンドの再生デバイスリストサウンドの録音デバイスリスト

 さっそくWindows Media Playerなどで音楽を再生してみると、確かにステレオで音が鳴ってくれる。やはり、1箇所から左右に音が飛び出す構造だけに、ステレオ感、立体感では、やや物足りない気もするが、音的にはなかなかパワフル。前述のとおり、USBでPCと接続しているわけだが、ほかに電源はないので、USBバスパワーでの駆動。出力が何ワットであるかの記載はなく、Creativeに聞いても非公開とのことだったが、感覚的には10W×2chのスピーカーで聴いているような感じの大きな音量で、一般家庭であれば爆音ともいえるレベルでも音が出せる。

トップの静電式タッチコントロールパネルで音量操作が行なえる

 そのスピーカーの音量操作は、トップの静電式タッチコントロールパネルを用いて行なう。反応がやや遅い感じもしたが、指で動かすと中央のレベルメーターが上がったり、下がったりするわけだ。最大音量に上げても音が割れるということはなかった。また音質的には若干低音が強めな感じはあったが、極端な偏りはなく、比較的落ち着いたサウンドである。

 ただし、それはノーマルの音。Sound Blasterとしての機能はここからいろいろと出てくる。まず、このタッチコントロールパネルにある「SBX」というボタンをオンにすると、SBX Pro Studio機能がオンになる。これはDSP処理によりオーディオエンハンス機能で、さまざまな音作りを可能にするもの。そう、Sound BlasterAxxにはSB-Axx1というクアッドコアのDSPが搭載されており、これによって処理を行なうのだ。

SBX Pro Studio機能をオンにしたところSound BlasterAxxに搭載されているクアッドコアDSP「SB-Axx1」

 本体で行なえる操作はオン/オフのみ。具体的な設定は、「Sound BlasterAxxコントロールパネル」というソフトを用いて行なう。このソフトのスピーカー設定においては、大きく「ミュージック」、「ムービー」、「ゲーム」の3つのカテゴリがあり、そこに各種プリセットが用意されているので、ここから選んで設定するのだ。必要に応じて、それぞれのパラメータを細かくいじることも可能となっている。

Sound BlasterAxxコントロールパネルの画面各種プリセットを用意。好みのパラメータに設定することも可能

 このパラメータの中にはサラウンドをシミュレーションする機能もあり、5.1ch風のサウンドが出せるということになっているが、残念ながらこれはあまり立体感が得られるほどのものではなかった。また10バンドのグラフィックEQも用意されているので、好みに応じて設定することもできる。

サラウンドシミュレーション機能10バンドのグラフィックEQ

■ マイク搭載でボイスチェンジャー/ミキサー対応。Skype通話も

 さて、Sound BlasterAxxがユニークなのは、このスピーカー自体にマイクが搭載されているということ。このSBX 20とSBX 10にはそれぞれ2個のマイクが、ローエンドモデルのSBX 8には1個のマイクが搭載されている。このマイクもDSP処理する設定が4つほど用意されている。具体的には「音声通話」、「VoiceFocus」、「音声認識」、「Voice FX」のそれぞれ。基本的には通話などを目的としたマイクなのだが、Voice FXを利用することで、ロボット声にしたり、男性ボイスを女性ボイスにリアルタイム変換するといったことも可能になる。こうしたエフェクトはニコニコ生放送やUstreamなどで使ってみるというのも面白いかもしれない。

マイクの設定画面。「音声通話」、「VoiceFocus」、「音声認識」、「Voice FX」を選択可能「CRYSTALVOICE」機能でVoice FXを利用してボイスチェンジャー機能も楽しめる
サウンドカードのものとほぼ同様のミキサー設定も搭載

 一方、ちょっと不思議にも感じるのがVoice Focusというもの。これは2つのマイクを利用することで、音を拾う広さを指定できるようになるのだ。ナロウからワイドの間で設定することが可能で、設定値によって、拾う音がかなり違ってくるのは面白いところ。またNoise Reductionをオンにすると、周りの環境音をある程度軽減してくれ、比較的クリアな声を送ることができるのだ。

 そしてもうひとつ、ミキサーの設定を行なうことも可能。これは、従来のSound Blaster、サウンドカードのものとほぼ同様のもの。そう、リアにはAUX入力とマイク入力があるので、ここからの信号とのミックスが可能になっているのだ。

Skypeを使って名古屋工業大学の案内をしてくれる3Dキャラクター「モバイルメイちゃん」と通話してみる

 ここで試しにSkypeを使って通話をしてみたが、確かにこれなら、まさにハンズフリーでの会話ができる。その通話相手として、先日、名古屋工業大学の徳田恵一教授が発表したばかりの3Dキャラクター「モバイルメイちゃん」と会話をしてみた。

 これは音声インタラクションシステム構築ツールキット 「MMD Agent」を基盤技術として開発さた音声合成・認識技術を駆使した3Dキャラクターで、会話をしながら、名古屋工業大学の案内をしてくれるというもの。このモバイルメイちゃん相手にSBX 20を通じて話したのだが、なかなか快適に通話ができるのは面白かった。

 ちなみに、この際に、マイク入力に対してエフェクトをかけると、さすがに人間の声として認識されないのか、会話をすることはできなかった。


■ リモコン感覚で使えるスマホアプリ。DTM系アプリへの対応は?

 さて、このように、Sound BlasterAxxは、USB Sound Blasterにスピーカーとマイクを搭載したようなものといえそうだ。しかし、違いがあるのは、ここから。まず、いま見てきたSound BlasterAxxコントロールパネルが、Macでもまったく同じように使えるということ。画面デザインも機能もまったく同じように使うことができた。またサウンドの出力先としても、USBデバイスとして認識されるので、切り替えて使うことができた。

MacでもWindows用Sound BlasterAxxコントロールパネルとまったく同じ機能を、同じ画面デザインで使える  サウンドの出力先はUSBデバイスとして認識される

 そして、やはりSound BlasterAxxの最大の特徴といえるのは、これがiPhone、iPad、Androidデバイスからも利用できるという点だろう。各デバイス用にCreative Centralというアプリがあるので、これをダウンロードして起動する。

Creative Central iPad版Creative Central Android版

 また、これらのデバイスとはBluetoothでやりとりするため、Sound BlasterAxxの背面にあるBluetoothボタンを長押ししてペアリング、そして接続する必要がある。ちなみに、この際、Sound BlasterAxxへの給電はUSBケーブル経由でPCと接続してもいいし、別売のUSB出力のACアダプタを利用してもOKだ。

iPadでBluetoothをペアリングしているところAndroid端末でペアリングしているところ

 PCと接続している場合、Sound BlasterAxxからはPCの音も出るし、iPhone、iPad、Androidからの音も出て、両方がミックスさせる形にはなった。ただ、PCのSound BlasterAxxコントロールパネルと、iPhoneなどのCreative Centralの両方を起動させると、操作系が競合するため、PC側のSound BlasterAxxコントロールパネルは無効になってしまうようだ。なお、クリエイティブによれば、「後から起動した方が制御権を持つ」とのこと。例えば、一旦Sound BlasterAxxコントロールパネルを閉じてもう一度起動すると、再度PC側からコントロールが可能になり、スマホ側からの制御ができなくなるという。

 さて、このアプリの画面を見ても分かるが、基本的にはPC用のSound BlasterAxxコントロールパネルとほぼ同等の機能を持っている。これで操作をすれば、まさにリモコン感覚で音量やモード設定を行なえる。当然、iPhone、iPad、Androidで音楽再生した音もSound BlasterAxxで鳴らすことができるし、iPhone、iPadの場合はCreative Centralの画面内にiOSのミュージック機能も統合されるので、より扱いやすくなる。

 ただ、どんなアプリの音でも出せるというわけではないようだった。ソフトシンセなどDTM系のアプリを鳴らしてみたが、iOSもAndroidも一部を除いて音を鳴らすことができないのだ。さらには、これらのアプリを使うことで本来出ていた音楽再生機能からの音の出方も不安定になるなどの問題もあった。もっとも試用したのが発売前の評価版であったため、製品版では改善されている可能性もありそうだ。

【8月7日訂正】
記事初出時、「iOSやAndroid上のSkypeからは利用できない」としていましたが、Skypeの通話接続後、Bluetoothデバイスに切り替えることで利用することができました。お詫びして訂正いたします(編集部)


■ 1台で幅広く使えるスピーカーに

 以上、Sound BlasterAxxについて見てきたがいかがだっただろうか? 新しいアプローチの製品であることは間違いないし、使っていてもなかなか面白い。とくにSBX 20になると、かなりパワフルな音が出せるので、音楽再生用として、映画などの鑑賞用スピーカーとしても使えそうだ。

 1点気になったのはPCと接続した際の置き場所。デスクトップ上だと大きすぎて画面の邪魔にもなってしまうからだ。机の下に設置するのがいいのだろうが、個人的には下から出る音は低域が強くなる傾向で好きではないのが困ったところ。まあ、音質補正すれば結構聴ける音にはなるが、この辺は好みが分かれるところかもしれない。使いようによってはコンパクトなSBX 10あたりでも、かなりの音量も出るので、十分かもしれない。

 

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(2012年 8月 6日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]