西川善司の大画面☆マニア

第248回

新世代有機EL REGZA「65X920」は明るく美しい。地デジの安定感+4K(試験)放送体験

 今回取り上げるのは、東芝の有機ELテレビの第2世代モデル「REGZA 65X920」だ。今期のREGZAは、2018年12月より開始される新4K/8K衛星放送対応チューナーの内蔵を強く訴求しているが、今回取り上げるX920と、液晶のBM620X、M520Xの3シリーズがBS 4K対応となる。

65X920

 BS 4Kチューナの搭載だけでなく、新世代の有機ELパネルや新映像エンジン「レグザエンジンEvolution PRO」の採用など、画質も機能も2018年仕様にバージョンアップ。X920の実売価格は55型「55X920」が40万円前後、65型「65X920」が70万円前後。昨年のX910シリーズの登場時価格よりは20~30万円ほど安価になっている。同サイズの液晶と比較するとまだまだ高価だが、有機ELテレビもかなり身近になってきた。今回は65型の65X920を紹介する。

設置性チェック~約9mmの狭額縁デザイン

 スタンド取付時の本体寸法は144.6×26.7×84.6cm(幅×奥行き×高さ)で、本体総重量は46.5kg。

 ディスプレイ部は上半分が非常に薄くできており、こちらは実測してみるとわずか5mm程度しかない。下半分には制御基板などか実装されていることから厚みはあるのだが、それでも68mm程度だ。

筆者宅での設置風景。65型は大きくて大迫力だ
圧倒的な狭額縁

 東芝によれば、薄いディスプレイ部に強度を確保するため、スチール製のフレームを採用したことで、比較的重心が高くなるため、転倒防止のためにスタンド部を重く設計したとのこと。ちなみに、ディスプレイ部は28.2kg、スタンド部は18.3kgという内訳になっている。

 かなり重いので、設置後の移動は一人で行なうのは難しい。設置時の位置決めなどは事前に念入りに検討した方が良さそうだ。

 ディスプレイ部の額縁は先代65X910よりもさらに狭くなり、上左右はすべて約9mmに押さえられている。下は約12mmだが、これでも十分に狭いと思う。

 スタンド部は完全固定のリジッドタイプで角度調整機能などはないが、わずかながら上向きの仰角が付いている。着座位置から見たときに、画面中央をやや見降ろし気味の位置に設置した方が良さそう。つまり、設置台はなるべく低めのものを選びたい。

 X920接地面とディスプレイ下辺の隙間は、わずか約12mm。ブルーレイパッケージは1本しかこの隙間にはいらない。X910のときはこの隙間は約26mmでBDパッケージは2本入ったので、さらにスタンドの背が低くなった。

接地面とディスプレイ部の下辺までの隙間はわずか12mm。3枚組みブルーレイケースが1つ入るくらいの隙間だ

 設置後の65X920の佇まいをみると、狭額縁デザインと低いスタンドデザインにより「そこに画面しかない」ように見える。ソニーの有機ELテレビ BRAVIA A1シリーズに近いイメージだ。

 表示面はX910と同様のグレア(光沢)加工。周囲の映り込みがないわけではないが、最低限に抑えられており、それほど気にはならない。

 サウンドシステムはX910のものを基本的には継承し、大容量バスレフ搭載のフルレンジ+ツイーターの2Wayシステムを採用。出力はフルレンジ15W+15W、ツイーターは8W+8Wで、総出力46Wで、スピーカーはディスプレイ部の下部左右に下向きにレイアウト。X920では、接地面との隙間がさらに狭くなったため、音質が心配されるところだが、出音に違和感はない。画面から音が出ているような聴感が維持されている。東芝によれば、X910の機能を継承しているが、スピーカーシステム自体は、X920の外形や筐体デザインに合わせ、最適化されているそうだ。

 音質的にはテレビ内蔵スピーカーとしては頑張っている。地デジ番組を見ている範囲では音量を上げていってもビビリ音もない。ただ、いつも聞き慣れている音楽ソースなどを聞いた感じでは、個人的には、中音域の伸び、低音のパワー感、ステレオのワイド感がもう少し欲しい気がした。

 稼動中の動作音は気にならず。有機ELパネルは自発光ゆえに「焼き付き」問題が避けられない。画素駆動電極の電荷バランスが崩れたことによる軽微な焼き付きについては全画面白表示などで解消できる場合があるが、X920には「パネルメンテナンス」モードが搭載されており、これを利用することで軽微な焼き付きを解消できる。ちなみに、実行すると1時間ほど本機を利用できなくなるので注意。

接続性チェック~HDMIは全て18Gbps対応、1080p/120Hz入力も

 接続端子は、正面向かって左側の側面と背面側にレイアウトされている。HDMI入力は4系統で、全てが18Gbps、HDCP2.2、HDRに対応している。オーディオリターンチャンネル(ARC)はHDMI1のみが対応。

 HDMI1、2が側面、HDMI3、4が背面。ARC対応のHDMI1が側面になっているのが残念。AVアンプ等と常時接続するはずのARC対応HDMI端子は背面のほうがよかった。

背面。新4K/8K衛星放送のアンテナ線は、これまで通りのBS/110度CSアンテナ端子に接続すればいい
HDMI1、2は側面に移設。ARC対応は常時接続なので背面のほうがよかった
HDMI階調レベルの手動設定にも対応
18Gbps HDMIを有効化するには「高速信号モード」に設定する必要がある

 HDMI入力は、1,920×1,080ピクセル/120Hz、2,560×1,440ピクセル/60Hzの入力に対応し、ゲーミングモニター的な活用に対応しているのが嬉しい。120Hz入力に対応した大画面有機ELゲーミングモニター製品はほとんど存在しないので、ゲームファンからするとX920はまさに希有な存在だと言えよう。

 この機能は、筆者の長年にわたってのリクエストが採用されたものなので、是非とも活用していただきたい(笑)。本機以外でも、この機能はここ最近REGZA 4K上位機には採用されているので要チェックだ。

1,920×1,080ピクセル解像度で120Hzが選択できるのは最近のREGZAの特長のひとつ
信号情報表示で実際に対応している事を確認できる

 アナログビデオ入力は、コンポジット入力1系統のみ。背面にはLAN端子、USB×2(タイムシフトマシンHDD用のUSB 3.0×1と通常録画用USB 2.0×1)、光デジタル音声出力、地デジ用アンテナ端子、BS/110度CS用アンテナ端子、スカパー! プレミアム アンテナ端子などが列ぶ。

 側面側に汎用のUSB 2.0端子、ヘッドフォン端子を備える。SDカードスロットはX920では削除され、代わりにUSBメモリなどに格納した静止画、動画の再生に対応する。動画は4K/60Hz解像度まで、コーデックはMPEG-2からMPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265と幅広く対応。静止画も16,384×16,384ピクセルまで、2億6千万画素のJPGに対応する。なので、SDカードスロットがなくなったデメリットは小さい。また、USBキーボードを接続してみたところ、ちゃんと使うことができた(マウスは不可)。

リモコンが新デザインに。2画面機能が復活

 リモコンもリファインされた。一見しただけではこれまでと同じに見えるが、注意深く見ていくと、全体的に直線基調のデザインとなっていることに気付く。以前のリモコンでは下部に実装されていたな小さなボタンは姿を消したが、全体的な使い勝手は以前のものと大きくは変わらない。

 目を惹くのが上部にある[4K]ボタン。これは新4K/8K衛星放送への切り替えスイッチになる。本放送は12月からなので、筆者が評価した時点では試験放送を視聴できた(インプレッションは後ほど)が、試験放送は7月23日で終了してしまった。つまり、[4K]ボタンが本領を発揮するのは12月になってからということになる。

実は新デザインの。[4K]ボタンが新4K/8K衛星放送対応の証

 電源オン操作から地デジ放送が映るまでの所要時間は約9.0秒。これは最近のテレビとしてはやや遅め。HDMI→HDMIの入力切換の所要時間は約3.0秒で標準的だ。

 全録のタイムシフトマシンももちろん搭載。タイムシフト用HDDは標準HDDと増設HDDの二台が接続できる。メーカー保証対象外だが、RAID0やJBODなどの複数ハードディスクボックスなどを利用すれば、1台あたり16TBのHDDを接続可能。つまり、トータルで32TBのハードディスクを接続できることになる。なお、32TB時のタイムシフト録画時間は640時間とのこと。

 また通常録画用のHDDも、USB 3.0ハブを利用することで一度に4台まで認識可能。1台あたりの最大8TBまで対応し、8TB×4台=32TBまでのHDDを接続できる(HDDの登録自体は8台まで可能)。

 スマート系の機能も一通り搭載。ユーザーの興味のありそうな番組をタイムシフトマシンコンテンツからピックアップしてくれる「ざんまい」機能、ユーザーが事前登録したテーマに準拠したコンテンツをまとめてくれる「みるコレ」機能、次に何を見るかを提案してくれる「次みるナビ」機能など、録画機能とクラウド機能を相互連携させた便利機能は、最近のハイエンドレグザに搭載されているものはほぼ全搭載されている。新リモコンにもちゃんと[ざんまい][みるコレ][次みるナビ]という専用ボタンが搭載されていて、メーカー側も「使わせたい」気が満々である。

「ざんまいスマートアクセス」機能。タイムシフトマシンで録画したコンテンツを視覚的に検索可能。ボイス機能にも対応しリモコンのマイクに向かって見たい番組名や人物名を言うだけで関連する番組やシーン、動画が検索できる

 筆者がお気に入りの「まるごとチャンネル」も搭載。[まるごとCH]ボタンを押して一発で呼び出せる。現在放送中のデジタル放送の6チャンネル分のライブサムネイル画面を表示してくれるもので、「今、他のチャンネルで何をやっているのか」を効率よくチェックできて超便利だ。

「まるごとチャンネル」機能。放送中の地デジ番組のライブ映像のサムネイル画面を見ながら番組選択が行なえる。ライブ映像はコマ送り風の動画となるのは、受信チャンネルを切り換えてサムネイル画像を生成しているため

 リモコンにはマイクを内蔵し、音声操作にも対応。言語の認識精度は先代よりも改善されている印象。固有名詞の認識精度が向上しているのか、以前はダメだった「YouTubeで高田馬場ゲーセンのゲーム映像を検索」もバッチリ通った。これならばスマホで検索するよりも楽ちんかもしれない。

YouTubeの動画検索も音声でできる。けっこうマニアックな音声入力にも対応できた

 機能面でのホットトピックは2画面機能が復活したこと。新リモコンにも[2画面]の専用ボタンを備えている。

 2画面表示の組み合わせは「放送+外部入力」「放送+放送」のみ。「外部入力+外部入力」や録画再生を絡めた2画面はサポートされない。表示される各画面の倍率は3段階で拡大縮小に対応する。

 2画面機能は家族の多い家庭から復活の声が大きかったそうだ。「大人はニュース、子供はアニメ」といった使い方はもちろんだが、ワールドカップ、オリンピックなどの大型スポーツイベントで同時間帯に複数の放送局で競技中継が同時放送されるケースで2つの試合を同時チェックする際にも便利だろう。

2画面機能が復活。[2画面]ボタン一発で呼び出せるので使いやすい。2画面のサイズは大小バランスをリアルタイムに調整可能

 メニューデザインもリファインされた。これは「レグザ・エンジンEvolution PRO」の搭載に合わせて、ソフトウェアを一新したため。

 基本的な使い方に違いはないが、これまで階層を潜ると上層のメニューが消えてしまったが、新メニューでは新しく開いた下階層メニューが右方向に広がるようにして表示されるようになった。

新デザインとなったメニュー画面。使い勝手は同じだが開いたメニューが右に広がっていくUIとなった
4K解像度を活かした精細表示に対応した番組表

 メニュー関連の機能面で面白いのは「映像調整」-「映像分析情報」だ。2ページ構成となり、1ページ目は従来通りの輝度分布ヒストグラムと質感リアライザーのリアルタイム補正カーブの推移表示だが、2ページ目にピーク輝度と平均輝度の推移グラフと、映像の水平周波数ヒストグラムが表示できるようになった。

上が平均輝度とピーク輝度を時間経過と共に確認できる「輝度推移」、下は映像の水平解像度の周波数をリアルタイムにヒストグラム表示する「周波数ヒストグラム」

 このモードはHDMI入力映像に対しても動かせるので、映像コンテンツの分析にも役立つ。相変わらず、レグザの機能はマニアックである(笑)。

信号表示モードも健在。HDRコンテンツに関して、ここまでの詳細情報を表示してくれるのはレグザだけだ。マニアックである(笑)

 今回も公称遅延値約3ms、1080p/60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測行なった。計測は両者、最速の「ゲームダイレクト」モードで実施した。

画調モード(映像メニュー)を「ゲーム」以外にすると選べる「低遅延モード」とは、その他の画調モードでも「ゲーム」モードと同等の低遅延を実践するためのものだ

 結果は、約16ms、60fps換算で約1フレームの遅延が計測された。ちなみに、東芝が発表している公称値では、60Hz入力時の表示遅延は約17.5ms。LG式有機ELパネルでは、焼き付き防止制御のためのゲイン制御が発生し、これが約8.3msあり、60fps映像入力時、倍速駆動回路でバッファリングされるため、原理的に理論値0.5フレーム(約8.3ms)が発生するので、理論値で16.6ms遅延することになる。これは丁度60fps時の1フレーム分の遅延になるので、計測結果とほぼ合致する。

ゲームダイレクトでは約16ms(60fps時1.0フレーム)の遅延を計測

 同様に、X920を補間フレームありの「ゲームスムーズ」、黒挿入ありの「ゲームクリア」でも計測。それぞれ約19ms、約16msの結果となった。

 ゲームクリアは、ゲームダイレクトにおいてフレーム表示後に黒挿入を行なうだけなので、計測遅延が同一なのもうなずけるところ。

 ゲームスムーズは、ゲームダイレクトやゲームクリアよりも、やや遅い計測結果だが、東芝によれば、ゲームスムーズでは補間フレーム生成工程が追加されるため、ゲームダイレクトに対して+0.5フレーム多く遅延するとのことで、「遅くなる」ということ自体はあっていそうだ。

画質チェック~新有機ELパネルに注目。地デジが美しい

 X920の映像パネルは4K/3,840×2,160ドットのLGディスプレイ製有機ELパネルだ。東芝によれば、X920では、2018年版最新設計の有機ELを採用しているそうで、現状X920が一番乗りなのだとか。他社製の第2世代モデルにおいても、この2018年デザインパネルがランニングチェンジで採用される可能性はあるが、「どのロットから新型パネル採用なのか」という情報は購入時に把握できない。X920は「確実に新型パネル」だ。

 その新型パネルの特徴は「赤色サブピクセルの面積が拡大されたこと」という点にある。

 LGディスプレイの調査では、赤サブピクセルは利用頻度が高いため、劣化速度が早いことが分かってきたそうだ。これに対策するべく赤サブピクセルを拡大したようだ。

 LG式有機ELパネルは全てのサブピクセルが白色で発光しており、RGBW(赤緑青白)サブピクセルサイズのカラーフィルターを適用することでフルカラー表示する。発光体は同一素材の有機物なので、特定の色のサブピクセルの寿命が短いということはない。しかし、利用頻度の高い色の(カラーフィルターが被せられた)サブピクセルは確かに利用頻度に伴って経年劣化のスピードが速くなるという理屈のようだ。

 そこで、赤カラーフィルターを被せる白有機ELサブピクセルを拡大し、ここを駆動する際の電気密度を下げることで寿命を稼ぐことにした。つまり、単位面積あたりは暗く光らせる。しかし、面積が拡大されているので、トータルで得られる光量は同じとなる。

 画質面で、このリファインはどう影響するのか? あるいは影響しないのか?

 前述したように「単位面積あたりは暗く光らせる」「面積を拡大しているのでトータルの光量は先代パネルと変わらない」という理屈なので、赤のサブピクセルのピーク輝度は変わらない。ただ、面積が拡大している分、赤成分の階調力は向上することだろう。つまり色域拡大は期待できないが、色分解能の向上は期待できることになる。

X910のサブピクセル顕微鏡写真(参考再掲)
X910の有機ELパネルはRGB+Wの各サブピクセルは「白>青>赤≒緑」という大きさ関係だった。この大きさ関係は今年の他社製有機ELテレビも同様である
X920のサブピクセル顕微鏡写真
対してX920の有機ELパネルはRGB+Wの各サブピクセルは「白≒赤>青>緑」という大きさ関係となった。LG製有機ELパネルの2018年モデルの特徴の1つ

 また、東芝によれば2018年パネルは実測で緑方向に色域が拡大されているそうだ。DCI-P3色空間カバー率はX910の98%に対してX920は99%に拡大しているとのこと。

 さらに、全体的な画質特性もリファインを受けているとのことである。

 意外と分かりやすい違いは明るさだ。これは筆者も一目見て違いが分ったほど。

 地デジ放送などを見ると、画面がシンプルに明るいのだ。液晶に近い明るさ……とは言いすぎにしても、一瞬それくらいの明るさに見えるほど。

 2018年パネルでは、ピーク輝度は先代パネルの800nitに対して+200nitの1,000nitに向上しているのだ。1000nit÷800nit=1.25なので、25%もピーク輝度が上がったことになる。ただそれだけでなく、一般的な映像で利用頻度の高い輝度領域にはややブーストをかけてより高い輝度で表示するようなチューニングとなっているらしい。

 ということはやや階調カーブが技巧的なものになっている可能性があるが、地デジ放送などを見る限りは違和感は無かった。まぁ、一般ユーザー向けにはこのチューニングの方がウケはいいはずで、店頭でも映えるだろう。

 もちろん、画質モードの「映画プロ」などでは、従来通りのしっとりとしたリニアな階調を再現する映像が楽しめるようになっている。

 X920では、映像エンジンもリファインされ、「レグザ・エンジンEvolution PRO」を搭載する。

X920のシステム基板の写真。上側のチップが「レグザ・エンジンEvolution」で、上下の2チップを組み合わせたシステムが「レグザ・エンジンEvolution PRO」。ちなみに新メニューシステムは下のチップが担当している

 新エンジンで提供される機能はいくつかあるが、今回の評価で印象的だった「BS/CS 4KビューティX PRO」「地デジビューティX PRO」「HDRリアライザーPRO」の3つの効能のインプレッションをお伝えしたい。

 まず、「BS/CS 4KビューティX PRO」と「地デジビューティX PRO」だ。なお、前者は「BS/CS」という名前は付いているが地デジ放送にも適用されているし、後者は「地デジ」という名前は付いているが従来のBS/2K放送にも適用されている。

 ます地デジ放送をみると、シンプルに美しいという印象を持った。

 どう美しいか。まず、地デジの映像なのにブルーレイの映像と思わせるほど、「映像にスタビリティがある」「解像感が高い」というところ。

 前者のスタビリティというのは「映像が安定して見える」という意味だ。

 地デジ放送、BS/2K放送はMPEG-2でエンコードされていることもあり、モスキートノイズやブロックノイズといったMPEGノイズが出がちだ。なのでカメラが固定されている映像であっても、その映像に描かれている各所が時間方向に揺れるような見え方をする。平易にいえば「ちらつく」「ノイジー」と言うことになるだろうか。これがX920では、地デジ映像がまるでH.264でエンコードしたかのような「揺れない映像」に見えるのだ。

 東芝によると、このカラクリの中核技術には、意外にも「超解像技術にある」というのだから面白い。

 従来のレグザでも、複数フレームをバッファリングし、過去フレーム、現在フレーム、未来フレームの3フレームを参照して、超解像処理とノイズ低減を行ない、時間方向で損失した解像度情報を復元しつつ、ノイズ低減を両立させる処理を行なっていた。X920では、これの処理を改善した。

 どう改善したかというと、地デジ放送のMPEG-2映像のIフレーム(情報量:大)、Pフレーム(情報量:中)、Bフレーム(情報量:小)の登場周期に合わせ、過去・現在・未来の3フレームを参照して超解像を実践するフレームの組み合わせを同種フレーム同士で行なえるように調整したというのだ。現在フレームがBフレームだとしたら、参照先の過去フレームも未来フレームもBフレームを選択して超解像処理を行なう。

 デジタル放送のGOP(Group of Pictures)構造は「IBBPBBPBBPBBPBB」からなる15GOPが主流なので、映像技術研究開発チームは、この過去・現在・未来の参照距離を3フレーム離すことで、異種フレームの参照を抑止できることに着目し、時間方向のフレーム相関超解像処理をこのようにリファインしたというのだ(従来は参照フレーム距離は1フレームだった)。この理屈だと、Pフレームに着目しているときにはIフレームを参照するケースもあるわけだが、Pフレームはそれなりに情報量が多い(というかIフレームの影響度が強い)ので「この組み合わせについては問題なし」と判断したのだろう。

「3フレーム離し」による「過去・現在・未来」参照からなる超解像&ノイズ低減処理を行う「BS/CS 4KビューティX PRO」。この機能は実際には地デジ放送の映像処理時にも適用されている

 この「3フレーム離し」による「過去・現在・未来」参照からなる超解像&ノイズ低減処理により、超解像処理による復元された解像度が安定し、さらに的確にノイズ低減ができるようになったと言うわけである。ちなみに、こちらの論文によると、人間の視覚メカニズムは10Hz付近周期の揺らぎが最も不快(≒気になる)のだそうで「3フレーム離し」は「60i=30P」映像における10Hz周期の揺らぎ抑止やノイズ低減に結びつくことになる。つまり、30Pは30Hzであり、3フレーム離しの超解像&ノイズ低減は30Hz÷3フレーム=10Hz周期の超解像&ノイズ低減となるからだ。結果的にこのあたりの効果も実現できたことになり、映像技術研究開発チームとしてもこのリファインは想定以上の効果があったと感じているそうだ。

 さて、もう一つ、X920の地デジ放送映像の表示が「解像感が高い」というのは、ここまで述べてきた「3フレーム離し」の「過去・現在・未来」参照からなる超解像&ノイズ低減処理の恩恵も大きいが、東芝によると、新たに盛り込んだ「水平解像度1,440ピクセル→1,920ピクセルの解像度変換処理」のリファインも大きいのではないか、という。

 ご存じの方も多そうだが、地デジ放送はもともと水平解像度は1,440ピクセルしかなく、衛星放送も民放はBS 4K放送開始に配慮した帯域整理によって、多くのチャンネルが今春から1,440ピクセルに減らされてしまった。表示解像度は16:9の1,920×1,080ピクセルでも、映像解像度は4:3の1,440×1,080ピクセルしかないのだ。

 多くの他社製テレビや従来のレグザでは、この水平解像度の1,920ピクセル化はいわゆる線形変換ベースのスケーラーで実践していた。X920では、この解像度変換にも再構成型超解像処理を適用してしまったというのである。これまでは一次元的なラインベースの解像度変換だったものを、X920では空間(二次元)方向の相似性に配慮した適応型の解像度変換を実践するようにしたと言うことだ。

「地デジビューティーX PRO」は超解像技術を駆使して解像度変換を行うもの。こちらも逆にBS放送の映像処理時にも利用されている

 店頭でぜひともX920でデジタル放送を見てみるといい。驚くはずだ。

 「HDRリアライザーPRO」は、HDR映像を表示したときの表示品質の最適化に相当する機能だ。

 Ultra HD Blu-ray(UHD BD)で採用しているHDR10は、規格上最大10,000nitの輝度情報までを含めることを可能にしているが、実際の最大輝度はコンテンツごとにバラバラ。そしてこれを表示するテレビ/ディスプレイの最大表示輝度もまちまちである。

 「HDRリアライザーPRO」は、あらゆる最大輝度のHDR映像がやってきてもX920の有機ELパネルの表示特性に最適な表示を行なう機能になる。

HDR関連の調整「HDR調整」は「コントラスト感調整」メニュー階層下にある

 今回の評価ではいつもの「マリアンヌ」「ララランド」に加え「リメンバーミー」「トゥームレイダー」などの新作UHD BDを視聴してみたが、明るいシーンでは、そのピーク輝度が液晶に迫るように伸びやかに見えて、暗いシーンではしっかりと沈み込んだ暗部を表現できていながらも、暗色を階調豊かに描ききる、まさに「高いダイナミックレンジ性能」を体感することができた。

 いうなれば、X920の有機ELパネルの美味しいところを使い切った表示になっている……といったかんじだ。

 X920の有機ELパネルはピーク輝度は1,000nit程度なので、これを上回るピーク輝度を伴う映像は想定通りに表示できない。かといってこれを最大1,000nit基準で階調を圧縮してしまうと、全体的に暗くなってしまう。たとえば最大4,000nitの映像が来たときには4,000nit÷1,000nitで入力階調を4分の1に圧縮して表示することになり、入力値200nitは50nitで表示しなければならなくなり暗くなってしまうと言うわけだ。

 では、1000nit以上は全部1,000nitに丸め込んでしまったらどうか。こうすれば、暗くなることを回避はできるが1,000nit以上の高輝度階調が全部飽和してしまい、せっかくの高輝度階調の表現を楽しめないことになる。

 そこで、「HDRリアライザーPRO」は、入力映像をX920の表示能力の優れた最大500nit付近とそれ以上とで分けてゲインを制御することで様々なピーク輝度の映像が来たときでも安定した明るさと階調を維持させるのだ。

 たとえば最大輝度4,000nitの映像が来たときは、その映像の500nitから4,000nit高階調を500nitから1,000nitまでに割り当てる。これで映像の高輝度部分の階調はそれなりの階調分解能が維持できる。一方この映像の500nit以下は、X920の有機ELパネルの階調特性に比較的リニアに割り当てて、ほぼそのままに近い形で表示する。これで極端な階調圧縮は避けられ、映像が暗く表示されることを回避出来るわけである。

 「HDRコントラスト」は中明部のゲイン制御を行なうものでプラス設定で暗部からの中明部までの輝度をブーストし、マイナス設定ではこれを抑止する方向の設定になる。手動設定の10が、明部の階調を犠牲にして明部を最大輝度に飽和させる設定、0は最明部まで階調を分かりやすく表示するが全体的に映像は暗くなる設定となる。

 「HDR調整」には「HDRエンハンサー」という項目もあるが、これはHDRコンテンツだけで無く、SDRコンテンツ表示時に「HDR復元」をオンにしたときにもいじれる設定で、オン設定とすると積極的にX920の有機ELパネルの表示性能の美味しいところで表示を行なう。これは有機ELパネル側に搭載されている機能で、彩度の低い(≒色味の薄い)映像表示に対しては特にピーク輝度がブーストされるような振る舞いをする。X920のHDR画質は基本的にこれをオンにして作り込んでいるそうなので、HDR映像視聴時は基本オート設定で良いと思う。なお、オフとするとピーク輝度は500nitにまで抑えた表示制御になる。

 一般ユーザーにとっては、オンの方がHDR映像らしいHDR表現を楽しめることは間違いないが、様々な映像を見ている中で「本当はもっとこのシーンは暗くてよいのではないか」と思わせるような場面があった場合には、このあたりをいじってみたりするといいだろう。

導光板の概念がない有機ELテレビではユニフォミティ(輝度均一性)も優秀だ

 X920は、12月より開始される新4K/8K衛星放送対応チューナーを内蔵しているが、今回はその試験放送をX920の実機で見ることが出来た。

BS/CS 4K視聴チップを本体側面の専用端子に接続

 筆者宅では、この夏、新4K/8K衛星放送に対応したアンテナを設置した。

 今回設置したアンテナは、右旋円偏波に加えて左旋円偏波の受信にも対応したものだ。というのも新4K/8K衛星放送では左旋、右旋の両方に対応していないと全チャンネルが見られないため。なお、これまでのBS/110度CS放送は右旋波のみを使っている。

 筆者宅ではアンテナで受信した映像信号は屋根裏部屋にあるブースターを介して電波強度を上げているが、従来型のブースタでは2.6GHz以上の信号はカットしてしまう。新4K/8K衛星放送では実用信号周波数が3.2GHzにまで拡大されているので、環境をそのまま活かすためにはブースタの買い換えが必要だ。そのため、今回立てた新アンテナはブースタへ接続せず、エアコンの配管を通して外から直接リビングに引き込み、分配なしで利用することとした。

アンテナ設置とアンテナ線のリビングへの引き込み工事の一コマ。屋根裏のブースター兼分配器は今回はそのままとしたため、新4K/8K衛星放送はこの線を直結させたリビング機器でしか視聴できないことになる

 実際に視聴した試験放送番組は「フラワーカーペット」「TOKYO ARCHIVES-東京タワー」「ビキニクライマー/DEEP WATER SOLO」「My Favorite Place-自分を発見、見つめ直す旅」「ニコライ・バーグマン Color of Life 東京」「真夜中のショコラティエ サントス・アントワーヌ シェフ」など。

 地デジ放送と同様に、「BS/CS 4KビューティX PRO」の「3フレーム離し」の「過去・現在・未来」参照からなる超解像&ノイズ低減処理の恩恵もあって、映像のスタビリティは良好。「ビキニクライマー/DEEP WATER SOLO」での俯瞰撮影された岩肌の微細凹凸も、ちらつくことなくきっちりと見えていた。「フラワーカーペット」でも、無数の草花が揺れるシーンでもチラツキはなく、陽光に照らされて繊細なハイライトと陰影で描き出される草花の葉脈の解像感が感動的であった。

 「My Favorite Place-自分を発見、見つめ直す旅」では案内役の北原里英のアップでは肌の肌理やシワがよく分かるどころか、「化粧のノリ」のようなものまで伝わってきて4K映像放送の表現能力に驚かされる。地デジ放送時代になってTVタレントはコレに最適化したメイクを開始した……と言われているが、4K時代になると、そのメイクのノリまでが分かってしまうので大変だ(笑)。

 X920の色再現性については、「ニコライ・バーグマン Color of Life 東京」「真夜中のショコラティエ サントス・アントワーヌ シェフ」が分かりやすかった。「ニコライ・バーグマン Color of Life 東京」では室内撮影された洋式生け花の色の艶やかさが素晴らしく、「真夜中のショコラティエ サントス・アントワーヌ シェフ」では鮮烈な色の花びらとその上に注がれる焦げ茶色のチョコレートソースの混色加減がとてもリアルでそのまま指ですくえそうな質感に見えたのが面白かった。

 地デジ放送よりかなり色域が広く見えたのだが、これらの放送がBT.2020色空間で制作されているためかもしれない。

今回の評価では新アンテナでしか見られない新4K/8K衛星放送の左旋放送の試験放送を視聴

 「TOKYO ARCHIVES-東京タワー」は夜景がよかった。有機ELは黒が漆黒なので、夜景が映えるのだ。夜空に浮かび上がる赤い東京タワーは、ライトアップ用の照明からの直接光で照らされた箇所はオレンジにも似た明るい色で輝くが、直接光が届かない箇所はとても渋く暗い赤で、漆黒の夜空に染み入るような表現で、とても立体的に見えていた。

 視聴した試験放送番組にはHDRコンテンツはなかったため、UHD BDの画質を大きく凌駕するような体験はなかったが、それでも従来のデジタル放送とは一線を画した高画質が実感できた。

 新4K/8K衛星放送の圧倒的な解像感は、大規模な競技場やフィールドを映し出すのに良さそうで、これで見るスポーツ中継は楽しそうだ。それこそ、画面にかじりつくようにしてみれば、画面上ではそれほど大きく映し出されていない各選手の表情まで確認できることだろう。東京オリンピックではこの新4K/8K衛星放送が利用されるはずなので今から楽しみである。

 最後に、恒例の色度計の計測結果を示しておこう。測定してここに示したのは代表的な画調モードのみとした。というのも、どのモードで計測してもあまり傾向が変わらなかったためだ。

 スペクトルは概ねX910から変わらず、どの画調モードでも青が強い。白色有機ELの発光体が青色ベースに起因するためだろう。緑は青よりはだいぶ弱く、赤はさらに弱い。緑ピークと赤ピークの分離が芳しくないため、緑と赤の混色系の色ダイナミックレンジはあまりよくなさそうだ。

 輝度優先ならば「あざやか」、映画視聴ならば階調重視の「映画プロ」がオススメだ。デジタル放送視聴時は自動画調選択を行なう「おまかせ」でいい。

「あざやか」モード
「標準」モード
「映画プロ」モード
「モニター/PC」モード

明るく、地デジが美しく、BS4K。1年で有機EL REGZAが大きく進化

 型番は+10されただけだが、REGZA X920の進化の幅は大きい

 ひとつは、2018年式有機ELパネルを採用し、画質、耐久性、ピーク輝度を向上させていること。特に液晶テレビか? と思ってしまいそうな明るい表示になったことは一般ユーザーにも刺さるはずだ。

 第二にデジタル放送の映像がとても美しいこと。本文でも述べたようにH.264でエンコードしたかのようなスタビリティの高い映像になっていることに驚く。ぜひ、店頭で見てほしい。

 第三に新4K/8K衛星放送に対応したチューナーを搭載していること。2018年12月より開始される本放送に向けて導入したいという人には響くはずだ。別途チューナやレコーダを買わずに、テレビだけで4K放送を手軽見られるというのは大きなポイントだ。そして現時点ではBS 4Kチューナ内蔵テレビは東芝REGZAだけだ。

 昨年のX910のレビュー時には、「有機ELはまだ暗く、天井照明の明るい日本では液晶テレビの置き換えにはならない」という主旨のコメントを述べているが、X920はこの問題をかなり克服してきた。液晶の明るい画質が好きなユーザーも、X920は検討する余地はあると思う。X910の登場からわずか1年であるが、その画質や機能の進化は大きなものだ。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら