西川善司の大画面☆マニア

257回

'20年の4K/8Kテレビ動向が見えた! CESで見つけた“大画面”総まとめ

今年も宜しくお願いします! 2020年の大画面☆マニアはCES特別編!!

大画面☆マニア2020年の一発目は、CES2020で見かけた大画面系のネタを総まとめしたレポートとしてお届けしたい。筆者がCESからの帰国後、飛行機内感染によるインフルエンザで病床に倒れていたため、だいぶ入稿が遅れてしまった。申し訳ない。

CES2020の会場となったラスベガスコンベンションセンター

ソニーは全機種「X1 Ultimate」~北米先行販売の8Kブラビアは日本に来る?

海外で先行発売されている8Kブラビア。8K放送が予定されている東京オリンピックの会期に向け、高確率で日本にも投入されるとは思うが、CESでは早くも'20年モデルの8Kブラビアがデビューした。

ソニーブース

日本では未導入の8Kブラビア・ラインナップを整理しておこう。

8Kブラビアは現状、液晶モデルのみがラインナップされている状況で、すでに'19年に「Z9G」が海外で発売されている。ただし、8Kチューナーなどは非搭載で、実質的に4K→8Kのアップスケール視聴を楽しむための製品となっている。これは「フルHD→4Kのアップスケール試聴」を主目的としていた最初期の4K“対応”テレビの立ち位置とよく似ている。

このZ9Gシリーズは、ソニーが誇るウルトラハイエンド機の証である「バックライトマスタードライブ」(BMD)と呼ばれる高密度直下型LEDバックライトシステムを採用しており、98型と85型の特大画面モデルのみが発売されている。

左がブラビアの全シリーズ中最大画面サイズにして最上位モデルの98型「Z9G」。価格は7万ドル。右は85型モデル。ソニーのブラビアのトップブランドは「Master」シリーズの冠を掲げている

'20年モデル「Z8H」は、数字が1つ減り、アルファベットが1つ進んだ型名で、ソニーの説明によれば「頂点に君臨するのは依然Z9Gであり、Z8Hはその下に来るモデル」とのこと。気になるZ9GとZ8Hの大きな違いはバックライトシステムで、Z8HのバックライトシステムはBMDではなく、従来型の直下型LEDバックライトシステムになった。

従来型のバックライトシステムではあるものの、Z9Gと同じ最上位映像エンジン「X1 Ultimate」を搭載しており「Z9Gに肉迫した高画質を実現できた」と説明。ブースでは、X1 Ultimateが表示映像をリアルタイム分析して、映像中の局所的な明部に最大3倍の電流を投入して輝度をブーストさせる「コントラスト拡張技術」を実演。実際に、展示を見た感じでは、暗がりの背景に一部、高輝度表現があるような映像でも、BMDに近いコントラスト表現ができていたように思えた。

「コントラスト拡張技術」の実演デモ。そのハイコントラスト感はBMD採用モデルに肉迫しているように感じる

Z9Gの北米参考価格は98型で約7万ドル、85型で約1.3万ドルとかなり高価だったが、Z8Hはそれよりはだいぶ安価になると見られる。Z8Hシリーズの画面サイズは85型と75型で、既に日本でも少し前から導入実績のある画面サイズなので、日本での投入がいつになるのか気になるところではある。

2020年の8Kブラビア「Z8H」の75V型モデルと85V型モデル

'20年モデルの4K有機ELブラビアが「A8H」。昨年は最上位シリーズの「A9G」がラインナップされ、その下に「A8G」が存在していたが、最新モデルはそのA8Gの後継となる。

特徴は、前機種では「X1 Extreme」だった映像エンジンが、上位機と同じ「X1 Ultimate」になったこと。A8Hにおいては「ピクセルコントラストブースト」と言う名称のコントラスト拡張技術を使い、高輝度表現と色味表現のベストバランスを実現するという。

'20年モデルの有機ELブラビア「A8H」。左が65V型、右が55V型。"8"モデルでも映像エンジンが最上位ブラビアと同じ「X1 Ultimate」となったことがホットトピック

実機展示は見当たらなかったが、4K有機ELブラビアには、48型の「A9S」が追加されている。映像エンジンに「X1 Ultimate」を採用しており、スペック的にはA8Hと同等。画面サイズが小さいからといって下位モデル、ということではないようだ。個人的には、このモデルが一番気になっている。

クリエイター垂涎の新発想ディスプレイ「Eye Sensing Light Field Display」

ソニーブースで、パッと見、何が体験できるかよく分からない感じで展示が行なわれていたのが「Eye Sensing Light Field Display」(以下、ES-LFD)だ。

意味としては、Eye Sensingが「視線追跡」、Light Field Displayが「あらゆる光を表示するディスプレイ」といった感じだろうか。

何やら難しそうだが、一言で表せば「裸眼立体視ディスプレイ」ということになる。つまりは“映像が飛び出る”だけでなく、超高速応答の視線追跡を組み合わせることで、視点の動きをリアルタイムに呼応し立体映像を表示させるもの。イメージ的にいえば「運動視差にも対応した裸眼立体視ディスプレイ」という感じだろう。

これまでも、視線追跡に対応した裸眼立体視ディスプレイは発表されているが、それらの多くは表示面に対し、ユーザーが左右に動いてその視点から見た映像が見られるというものだった。

ソニーが発表したES-LFDは、上下左右20度、奥行き方向は50cm~100cmの範囲でユーザーが頭部を動かしても、ちゃんとそこから見た立体映像が見える。ユーザーの頭部の動きを3軸で追跡しているのだ。

たとえば、画面にテーブルが表示されていたとすると、ここから頭を下げると、テーブルの下側が見える事になる。画面には上下左右に"縁"があり、それを超えて映像を表示することはできないわけだが、顔を上下左右に振ってみれば、それまで見えていなかった領域の映像が見えてくる。

「Eye Sensing Light Field Display」を体験中の筆者

よく、ゲームなどで「そんなことしても意味ない」と分かっていても、プレイに夢中になると画面の端のさらに向こう側を見たいがために顔を左右に動かしたり、あるいは背伸びをして画面を見てしまうような行動を取ってしまうことがあるが、このディスプレイではそうした行動に対応して映像を見せてくれるわけである。これは面白い。

左の柵が邪魔で、柵の向こう側にあるテーブルがよく見えない。でも顔をずらせばちゃんと見えるようになる。ビデオウォールベースのバーチャルセットのパーソナル版のようなもの…と例えることもできるか

開発チームによれば、3Dモデラーやゲーム開発者向けのディスプレイとして訴求できないか、と考えているという。たしかに、フォームファクターが特殊なので一般家庭に普及するタイプのものではないとは思うが、3面図を見たり、マウスで回転させながらモデリングしたり、3Dシーンを制作しているクリエイターからすれば、このディスプレイは「夢のデバイス」といえそうだ。

ハードウェア的には、4K/60Hzの15型液晶パネルにレンチキュラーレンズを組み合わせた構成で、ユーザーがやや見下ろした感じで使用することを想定してか、表示面自体は斜めに傾斜してボディに組み付けされている。

パーソナルユースを想定していることから、表示映像は一対の左右の目から見ることを前提とした2視点分を描画する。といっても、左右の視点からの映像を交互に表示するようなアクティブ3Dメガネ式の3D映像とは違い、左右の目からの視線がレンチキュラーレンズを通して液晶パネルの表示面と交差するサブピクセルに適合する2視点レンダリングを同時に実践しなければならない。いうなれば、レイトレーシング的なアプローチで描画しなければならないため、GPU負荷はそれなりに高そうだ。

右側にあるのが、視線追跡、ユーザー位置認識などを処理して、ユーザーの目の位置からリアルタイムにCG描画を担当するPC

なお、ユーザーの視線追跡技術は、ソニー独自の専用チップを使って実践しているとのこと。説明を聞く感じでは、いわゆる強膜反射法、角膜反射法、眼球画像認識法などの視線追跡技術ではなく、顔位置認識技術をベースにしたもののようだ。

顔面の位置座標の検出から目の位置を確定させるパイプラインになっており、映像表示用映像パネルに対するユーザーの視線ベクトルと視位置座標を算出。映像パネル側が動かないことを逆手に取り、ユーザーの顔面の3軸位置座標の検出だけで6軸自由度相当のリアルタイム3D映像表示を実現したわけだ。

ユーザーの画面からの遠近上下左右に応じて、表示対称物の拡大率も変更できる。3Dモデリングを行なっている時など、画面に近づけばそのディテールが見えるわけで、このES-LFDをしばらく見ているとなんだかVRをやっているような気分にも陥る。

直近で製品化の予定はないと言うが、PlayStationプラットフォームを有するソニーグループだけに、このES-LFDを聞きつけたゲーム開発者からの引き合いは強まりそうな気がする。

パナソニックの4K有機ELビエラは「HZ2000」へ

パナソニックの有機ELビエラも、'19年モデルの「GZ2000」から、'20年モデルの「HZ2000」へ切り替わる。パナソニックブースでは、このHZ2000のデモンストレーションが行なわれていた。

パナソニックブース
65型サイズの「TH-65HZ2000」

いま市場にある4K有機ELテレビは、全てLGディスプレイのパネルを採用しているが、GZ2000では、このLGディスプレイ製の有機ELパネルをチューンナップして採用するという、アクロバット的アプローチで他社との差別化を行なった。このチューンナップにより、従来比で30%近くも輝度が向上しているらしい。

パナソニックが独自チューンナップした有機ELパネルには「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」というブランド名が付けられている。HZ2000もこの技術を継承

最新のHZ2000も、同様のチューンナップを施すも、パネル世代がGZ2000から上がっているかは非公開。実際のところ、量産時にどういうパネルになるのかが分かっていないのかもしれない。

HZ2000の特徴は、'19年8月にアナウンスされたUHD Alliance提唱の「Filmmaker Mode」への対応と、CESで発表された「Dolby Vision IQ」への対応だ。

Filmmaker Modeは、映画制作者が意図するアスペクト比、色空間、フレームレートで表示する画質モードのこと。Dolby Vision IQは、ドルビーが提唱するHDR映像規格・Dolby Visionのアップデート版で、Dolby Visionに“HDR表示の際に視聴環境に最適化させるガイドライン”を付加したものだ。

HZ2000はHDR10、HDR10+、HLGにも対応しているので、同社は「もっとも多様な最新HDR映像形式に対応したテレビ製品」とアピールする。

興味深かったのは、Dolby Vision IQ対応のために搭載した視聴環境の最適化機能を“Filmmaker mode”にも適用しているところ。Filmmaker modeではそうしたガイドラインは規定されていないそうなのだが、HZ2000では、せっかく搭載した視聴環境の明るさを検出する照度センサーを有効活用しようということで、このような実装になったらしい。実際、暗室でも室内照明が灯っている時でも、かなり似たコントラスト表現が実現できていた。

室内をある程度の明るさにしてHDR表示した様子。左のHZ2000の方が、最暗部が黒つぶれせず暗色をそれなりの輝度で描画できている。右の非対応機は暗室試聴に合わせた画調モードなので全体的に暗いままだ

Dolby Vision IQモードは、Dolby Vision対応コンテンツ、ないしはDolby Vision IQ対応コンテンツでないと有効化されない。Dolby以外のHDR映像コンテンツで、周囲の照明環境に最適化したHDR映像表示を楽しみたい場合にはFilmmaker Modeを利用すればいい。映画を見るときは、Filmmaker modeという感じで活用方針も分かりやすい。

ディズニーリゾートのSW施設に採用されたパナソニックプロジェクタ

パナソニックブースで、多くの人がLEDディスプレイと勘違いしていたのが、400インチの8K映像を表示していた大画面ビデオウォールコーナー。実は、あまりにも高輝度で、筆者もLEDディスプレイと勘違いし、近寄ったら自分の影が画面に現れて「ああ」と気が付いた次第。

その高輝度・大画面映像を投射していたのが昨年12月にリリースされた輝度5万ルーメン(!)の新型3チップDLPプロジェクター「PT-RQ50KJ」だ。

'19年12月リリースの新型3チップDLPプロジェクタ「PT-RQ50KJ」。メンテナンスフリーでダストフィルターの交換も不要という

光源はレーザーなのだが、民生機のように青色レーザーから波長変換して赤色と緑色を生成するのではなく、純色の赤色レーザーも光源として利用している。赤色レーザーを採用したのは、パナソニック初とのこと。

緑色は、青色レーザー光からの波長変換で生成されるが、民生機とは違い青色レーザー発信源も、異なる2波長を出力する仕様となっている。つまり、青色レーザーは波長の長短で異なる2タイプを光源ユニットに実装しているわけだ。緑色レーザーを採用しなかった理由は「コスト・消費電力・発熱などのバランスから」とのことだった。

3枚のDMDチップの解像度は4,096×2,160ピクセルのDCI 4K仕様。DMDチップサイズは1.38インチ。投射レンズは別売りで、レンズシフトは上下45%、左右16%。輝度性能は前述したように5万ルーメンで、光源寿命は2万時間。光源ユニットは交換不可。

ブースでは、四台のPT-RQ50KJを用いて「田」の字状に4K映像を投射することで400インチの8K映像の表示をデモ。5万ルーメンはとてつもなく明るく、ほとんどLEDディスプレイのような感じで見える

レーザー光源ユニット内に実装されている半導体レーザー素子は複数個あるため、保証期間外に半導体レーザーの一部が破損しても、色味バランスを調整すれば若干輝度性能が犠牲になる程度で投射をし続けることが可能という。

対応リフレッシュレートは120Hzまで。3D映像の投射にも対応。色域はDCI-P3色空間を91%カバーする。騒音レベルは52dBで、「5万ルーメンのプロジェクターとしてはかなり静か」と担当者。ブース内はうるさすぎたため、その静音性? はよく分からなかった。参考価格は約25万ドル。

パナソニックはDCI(デジタルシネマイニシアチブ)に非加盟のため、PT-RQ50KJが映画館に導入される予定はないそう。直近の導入事例としては、ディズニーリゾートの新アトラクション「STARWARS MILLENNIUM FALCON:SMUGGLERS RUN」と「STARWARS RISE OF THE RESISTANCE」を挙げていた。この2つのアトラクションを訪れた際にはPT-RQ50KJを探してみてはいかがだろう。

プラズマ技術が活きている? 真空断熱ガラス「Glavenir」ディスプレイ

パナソニックのテレビでは「プラズマテレビ時代の技術が活かされている」などのエピソードを耳にするが、実はプラズマテレビ開発のエンジニア達が活躍する場はテレビだけではなかった。

同社の真空断熱ガラス「Glavenir」の最新応用事例として、透明有機ELパネルと組み合わせた真空断熱ガラスディスプレイが展示されていた。

真空断熱ガラスとは、ガラスの両面の熱伝導を遮断する効果を持つガラスのことで、冷蔵・冷凍ショーケースはもちろん、空調効率のよいガラス窓用建材としても訴求される製品だ。

一般的な断熱ガラスが右側で厚みは3cm以上ある。左側がGlavenirで、厚さ6mm程度。断熱性は同等
Glacenirの構造。ちなみにGlavenirはガラスとアベニール(フランス語で未来の意)との合成語だそう

真空断熱ガラスは2枚のガラスを高温で溶かした封着材で溶着(ボンディング)する製造工程があるのだが、一般的にガラスは高温で加熱すると強度が低下してしまう。Glavenirでは、新開発の「超低温封着材」を用いて、ガラスの強度が低下しない温度帯での溶着を実現。この溶着技術こそ、プラズマディスプレイパネルの製造で培った技術を応用したものだというから面白い。

ごく一般的な断熱ガラスは、複数枚のガラス板に希ガスなどを封入した構造になっていて、断熱効果を重視する場合は3枚のガラスからなるものもある。その場合には、厚さが3cmを超え、重量も嵩む。

対してGlavenirは、厚さ数ミリの2枚のガラスの間に真空層を設けた構造とすることで、わずか6mm程度の厚さで前述の断熱ガラスと同等の遮音性を実現する。真空となればガラス面に大気圧が掛かるわけで、2枚のガラス面が大気圧に負けて曲がったりくっついたりして断熱効果が無くならないようにする必要がある。

そこでピラーと呼ばれるスペーサー素材を使って、(1ピラーあたり)200Mpaもの大気圧がかかっても真空状態を保持するわけだが、今回のGlavenirでは従来の金属素材から新開発の透明素材へ変更することでディスプレイへの応用を実現したのだという。気になる新素材がどのようなものかは企業秘密だそうで、詳細を聞くことは出来なかった。

従来型のピラーはよく見ると配置された場所に黒いドットが見える
新開発の透明型ピラーは目を凝らすと存在が分かるのだが遠目には分からない

ブースでは、このGlavenirに透明の有機ELパネルを組み合わせた断熱ガラスディスプレイを展示。Glavenirの先進的な応用事例として訴求していくという。

たとえばレストラン、お店、レジャー施設などの商業建造物の窓ガラスや、バス、列車など乗り物の窓ガラスに利用すれば、空調効率を高めつつ利用者に情報提示やインタラクティブコンテンツを提示することができる。一般家庭に来るようなものではないが、新型のディスプレイ技術として興味深いものであった。

Glavenirベースの断熱ガラス有機ELディスプレイの実用イメージ

ハイセンス~尖ったコンセプトの製品が続々。一部は市場への投入も

アイディア商品的な尖ったコンセプトモデルは以前、日本メーカーが得意としていたが、近年はサムスン/LGなどの韓国メーカー勢から出てくることが多い。

一方、北米市場で勢力を伸ばす中国系メーカーはどうかといえば、性能の割りに安い“コストパフォーマンス重視”の製品が中心で、これまではとりたてて見るまでもないものばかりだったが、最近はそうでもなくなっている。韓国メーカー勢を脅かしそうなものも出てきているためだ。そんな雰囲気を感じさせてくれたのが、今や東芝のテレビ事業を傘下に持つハイセンスである。

ハイセンスブース

実は、昨年も変わり種コンセプト製品が多かったのだが、今年もかなりユニークな製品が多かった。その1つが四隅丸角の液晶テレビ「55V7F」。その名の通り、映像パネルの四隅が「丸く欠けている」形状が特徴で、それ以外はごく普通の液晶テレビである。

ウリは「機能よりは見た目」「おしゃれでスタイリッシュな部屋とマッチするデザイン」だそう。以前、日本のメーカーもベゼル色を有彩色にした薄型テレビを発売したことがあったが、そのような「おしゃれ系」テレビ製品に、最近の自由形状液晶パネルを適用した事例ということになる。

この55V7F。スペックが意外にまともで、4K解像度の直下型バックライトを採用して、180エリアのローカルディミングに対応。最大輝度1,500nitのHDR表示にも対応する。発売日・価格は未定だ。

四隅丸角の液晶テレビ「55V7F」。四隅の丸角は半径5mm(R5)の曲率だそうである

スタイリッシュ繋がりでいえば、電動ピボット対応の「55V5F」「55V5X7」も取り上げたい。電動ピボット…すなわち「画面が回転する」というわけで、要は縦画面と横画面でコンテンツが楽しめる製品。

「ただのネタ」かと思いきや、ハイセンスはかなり大真面目。というのも、最近の中国では家庭にある最も大きな画面で楽しみたいのは、テレビ放送ではなく“スマートフォン上のコンテンツ”だそうで、そうなると「大画面テレビを縦画面で楽しむ機能が欲しい」という要望が普通に、しかも強く、ユーザーから上がってくるらしい。

つまり、この電動ピボットテレビは、メーカーから「こんなのどうでしょうか?」という提案ではなく、市場要求に応えたコンセプトモデルなのだ。さすがに、55型クラスだと、PCモニターのように手軽に手動回転させることもできないので電動ピボット回転機能を新設計することにしたという。

現状はコンセプトモデルということもあって、電動ピボットはプログラムで自動動作させているにすぎないが、製品化の暁にはリモコン操作やスマートフォンアプリからの回転に対応させたいとのことだった。また、民生向けだけでなく、デジタルサイネージ向けの業務用への展開も構想中という。

「55V5F」と「55V5X7」の違いは取り付け機構で、「55V5F」はウォールマウントタイプで、「55V5X7」はスタンド付きタイプとなっている。スペックは「4K解像度パネルを採用」以外は非公開。

スタンド組み付けタイプの「55V5X7」
ウォールマウントタイプの「55V5F」
電動ピボットを実現するヒンジ部。この部分は「55V5F」と「55V5X7」で共通仕様である
【西川善司の大画面☆マニア】ハイセンス「55V5X7」の電動回転映像

最近“追いつけ追い越せ有機EL”的な目標を掲げ、各社で開発が進むのが「Dual Cell」(デュアルセル)液晶テレビだ。

デュアルセルとは、映像表示用の液晶パネルと、バックライト光量制御専用の白黒液晶パネルを貼り合わせた液晶パネルのこと。

日本でもパナソニック液晶ディスプレイが新型液晶パネルを開発していたり、これを採用したマスターモニター「BVM-HX310」がソニーから登場したりしている。昨年はIFA2019にてパナソニックがデュアルセル液晶パネルを採用した55型4K液晶テレビの試作モデルを公開するなど、ユーザーからの関心も高まっているのだが、ハイセンスはついに昨年8月、中国で量産モデルを市場投入した。

ブースで展示していた65型の「65XD9G」は、その北米市場モデルだそうで、'20年第3四半期の発売を予定。価格は、'20年モデルのハイエンド有機ELテレビの価格なども吟味して決定するそうだ。ブースの北米市場担当者によれば「基本的にはハイエンド有機ELテレビよりも安価な価格を設定したい」と語っていた。

表示面の液晶パネルは4K、バックライト制御用の白黒液晶パネルはフルHDになっていて、エリア分割は200万ゾーン(エリア)になるという。バックライト制御用パネルはRGBサブピクセルに対応した3サブピクセル構造パネルらしいが、ここにカラーフィルタは無く、純粋に白黒の濃淡だけを表示・制御するという。将来的に、表示パネルが8K化した際には、バックライト制御に4Kパネルを採用する計画もあり、その際は2,400万ゾーンのエリア駆動を実現する予定というから興味深い。

コントラスト性能は15万:1。最大輝度は1,000nit。液晶パネルには量子ドット技術を組み合わせていることから広色域も謳っていた。

ハイセンスはデュアルセルパネル採用液晶テレビを「Premium ULED XD」シリーズとしてラインナップする。写真はデュアルセル効果によるエリア駆動の有り無しで映像表示のコントラストがどう変化するかを体験できるデモコーナー
一応、右が「白黒液晶パネルによるエリア駆動を可視化したもの」というデモなのだが、どう見ても粗いので「雰囲気デモ」のようである

ハイセンスとしては、このデュアルセル液晶パネルを採用した製品を多角的に展開したい狙いがあるようだ。65XD9とは別に、映像業界や放送業界向けのプロフェッショナルディスプレイ製品の開発も進めている。その試作モデルが「D32A Pro」だ。

D32A Proは画面サイズは32型で、マスターモニターやクリエイター向けディスプレイとして好まれるサイズ。解像度は4,096×2,160ピクセルのDCI 4K。ピーク輝度ではなく、コンスタントに1,000nitで光らせる輝度/HDR映像表示性能も持つ。色域はAdobe RGB色空間カバー率114%。

いまや日本市場にも進出するハイセンスだけに、今後、こうしたデュアルセルモデルが日本にもやってくるのか、そして同グループ傘下の東芝レグザもこのデュアルセルモデルの開発計画があるのか、気になるところだ。

デュアルセルパネル採用32V型はマスターモニターやクリエイター向けディスプレイとして展開。型式番は「D32A Pro」となっているが発売は未定。

TCL~なにげに凄かったMini LED採用バックライトシステム「Vidrian」

中国系で勢いのあるテレビメーカーとしてはTCLもある。同社は昨年、日本市場にも進出し話題になったが、CESでは青色光源のMini LEDバックライトと量子ドットシートを組み合わせた「QLED TV powered by Mini LED Backlight」がブースを賑わせていた。

Mini LEDとは、発光するLEDチップのサイズがμm級という超小型LEDチップを指す。チップサイズが小さいため、配線分のスペースを確保してもLEDチップを数mm間隔で配置できる利点がある。

従来の直下型LEDバックライトシステムの場合、LED同士の間隔は数cm以上の間隔で配置するのが普通だったので、Mini LEDベースになるとかなり高精度に映像の明暗に連動したバックライト制御ができるようになる。必然的にLEDチップの数も多くなるので、高輝度、ハイコントラストな映像表現も可能だ。

量子ドットは、カドミウム、亜鉛やセレン、硫黄などを組み合わせた数nmサイズの微粒子素材で、これを用いたフィルターに光を当てると、量子ドットの種類に応じて光の波長を変調することができる。

近年、青色光からスペクトル幅の狭い純度の高い赤や緑を生成できる量子ドットシートを組み合わせた製品が出始めた。日本を含めた環境法規制の厳しい国では、カドミウムなどの規制が厳しいため、大画面サイズのテレビ製品での量子ドット活用が難しいのではないか、という指摘もあるそうだが、一方でカドミウムなどの重金属フリーの量子ドット開発も進んでいる。

TCLはこのMini LEDと量子ドットの活用に力を入れており、今年のブースは「Mini LED×量子ドット」のコンビネーションを打ち出していた。

特に注目されるのは、新開発のMini LED採用バックライトシステム「Vidrian」だ。これは、膨大な数のMini LEDチップと、これを駆動するためのTFT回路を透明ガラス基板に直接実装する技術。これにより、Mini-LEDベースのバックライトシステムの生産コストを下げるだけでなく、最終製品の液晶ディスプレイ部材を薄く軽く作ることも可能という。

ブースでは、既に中国では先行販売が始まった従来のMini LEDバックライトシステムを採用した4Kテレビ製品に加え、'20年に発売を予定する新開発のMini LED採用バックライトシステム「Vidrian」採用の8Kテレビ製品も展示していた。

中国では発売済みのMini LEDバックライトシステム採用で量子ドット活用の4Kテレビ製品。最大輝度1,200nit、DCI-P3色空間カバー率100%、コントラスト性能100万:1を謳う
Mini LEDバックライトシステム採用機ではないが、100型の超大型4K液晶テレビ「100X6C」も展示されていた。売りは最大輝度4,000nitの高輝度性能、コントラスト性能10万:1を持ちつつ、価格がなんと1万1,000ドル程度という安さ。100インチクラスの超高輝度4Kテレビ製品としては破格ということで話題になっていた
新開発のMini LED採用バックライトシステム「Vidrian」採用の8Kテレビ。型式番、価格は不明だが年内発売を予定しているという。写真のモデルは75型

Royole~曲がる有機ELパネル専業メーカーがブース出展

ディスプレイメーカーのRoyole(ロヨル)社が昨年に引き続き、今年もブースを出展。日本ではあまり認知度が高くないが、同社は「曲がる有機ELパネル」の専業メーカーである。

この木なんの木、折れ曲がる有機ELパネルの木。これまでは「折れ曲がる有機ELパネル」というとショーケースに入った一枚の試作品が見られるだけだったが、さすが専業メーカー、展示の物量が凄い
葉っぱに相当する折れ曲がる有機ELパネルは実際に映像表示に対応しているのがお見事

'18年末に「FlexPai」と呼ばれる「折れ曲がるスマートフォン」を中国本国で発売。「折れ曲がるスマホ」といえば、サムスンのGalxy Foldが有名だが、その約1年前からRoyoleは「折れ曲がるスマホ」を発売してきた実績がある。

ブースでは、今年も「FlexPai」を展示していただけだったが、パネル技術の面白い話も聞けたので軽くレポートしておこう。

Royoleの有機ELパネル(AMOLED)は、厚さが0.01mmで曲げ半径が1mm、つまり1Rの曲率で曲げられる。曲げ耐性は20万回を謳っており、これは1日に100回曲げても5年半故障しない曲げ耐性を持つ。現状は中小型パネルの開発製造に特化しており、テレビ向けの大型パネルの開発製造には注力していないという。

中国本国では約14万円(9,000元)で販売中の折れ曲がるスマホ「FlexPai」。広げて7.8インチ、解像度は1,920×1,440ピクセル。映像表示面を外側にして曲がる構造
【西川善司の大画面☆マニア】Royole「FlexPai」の折曲げ実演

曲げ耐性よりも水分の侵入の方がクリティカルな問題であり、有機EL画素の水密性が気になったが、そのあたりの話を聞くことは出来なかった。

ブース内には、前衛アートのような曲げまくったスマートフォンサイズのタブレットサイズの有機ELパネルが怒濤の如く展示されていたので、ブース内を歩き回っているうちに「曲がる有機ELパネル」が珍しいものではないような感覚となってくるのが新鮮であった。

毎年恒例のサムスン対LGの韓流メーカーバトル。今年の戦況は如何に?

韓国メーカー勢についての動向もまとめておこう。

まずはLGから。

今年もLGブースの入口は、フルHD解像度の湾曲型55型有機ELディスプレイを200枚使ったビデオウォールが設置されていた。総ピクセル数は約4億1千万!!

LGは、有機ELテレビが好調だが、'20年には8K有機ELテレビ「ZX」シリーズを投入する。画面サイズは77型と88型の2タイプ。価格は未定。面白いのがゲームユースに対応するためVESA Adaptive Syncに加え、NVIDIA G-SYNC COMPATIBLEに対応。リフレッシュレートも120Hzまで対応するそうだ。なお、LG担当者によれば、'20年モデルでは巻き取り対応有機ELテレビの「RX」シリーズを除く全ての有機ELテレビ(具体的にはBX/CX/GX/ZXシリーズ)がVESA Adaptive Syncに加えNVIDIA G-SYNC COMPATIBLEに対応するという。

88型の8K有機ELテレビ「ZX88」
LGの'20年一押しモデルは、ついに市販化されることになった巻き取り対応型4K有機ELテレビ「RX」シリーズ。画面サイズは65型のみ。
【西川善司の大画面☆マニア】LG「RXシリーズ」のデモ映像……展示コーナーの天井と台にRXシリーズを設置し、コンピュータ制御で上から下から画面を出したり引っ込めたりしつつ、その画面の動きに合わせた映像を表示していた。LGは最近、デモの見せ方が上手くなった

液晶テレビについては量子ドット系の技術を使ったNanoCell TVシリーズの8Kモデルを65型、75型サイズで投入する。興味深かったのは、LGもMini LEDバックライトシステムを採用した次世代8K液晶テレビを展示していたところ。コンセプトモデルの画面サイズは80型で最大輝度は4,000nit。

Mini LEDバックライトシステムを採用した80型の試作モデル。最大4,000nitが特徴。コントラスト性能は有機ELと拮抗するという

続いてサムスン。

サムスンブース

「ライバルのLGからパネルを購入して有機ELテレビなんか作ってなるものか」と言わんばかりに、サムスンブースは今年も液晶一本だった。

一押しは8KのQLEDテレビ「Q950」シリーズ。QLEDテレビとは、サムスンが作り出した造語で、LEDバックライトシステムに量子ドット技術を組み合わせた液晶テレビのことを指す。

2019年から8K QLEDテレビは発売されていたが、'20年モデルでは映像エンジンを進化させ、ベゼルの更なる極狭化をアピールしていた。

8K液晶テレビの2020年モデル「Q950」シリーズは65型、75型、82型、98型をラインナップ。サムスン製は全てVA型液晶パネル

有機ELに取って変われるか。どうなる、Micro LEDディスプレイ

前述したように、次世代薄型テレビとしての「有機ELテレビ」製品を持たないサムスンは「コモディティ化した液晶」にかわる次世代テレビ製品の投入に力を入れている。

今年もMicro LEDディスプレイ(テレビ)「THE WALL」の新モデルを市場投入する。「THE WALL」は、'18年に発表され、昨年から発売を開始してはいたのだが、今年はさらに完成度を上げた第2世代モデルを投入する。ただ、依然として提供は完全受注生産となり、サムスンと直接商談をすることになるので、民生向け製品とは言いがたい雰囲気ではある。

現状のMicro LEDディスプレイの多くは、1枚パネルで大画面を形成するのではなく、ある一定サイズ、一定解像度のパネルモジュールを縦横に複数繋ぎ合わせて大画面を形成する。

サムスンのTHE WALLは、1つのパネルモジュールが横806mm×縦453mmで、重さは12.5kg。サイズ的には約37型程度で、解像度はフルHDの縦横半分の960×540ピクセルとなっている。ピクセル間距離(ピクセルピッチ)としては0.84mm。最大輝度は2,000nit。HDR10/HDR10+形式のHDR映像表示に対応する。

サムスンブースでは、一番目立つところに、このパネルモジュールを8×8構成で設置した292型8Kディスプレイ「THE WALL」を設置。超大画面による2,000nit輝度のHDR映像表示を行なっていた。この展示物は実際に顧客に対して納入が可能なものだそうだが、価格を明らかにしてはいない。ただ、パネルモジュールが単品で約2万ドルくらいという情報があるので、292型の8×8構成だと約130万ドル程度という概算が成り立つ。実際には冷却や施工、インターフェイスボックスなどの費用も追加されるので、もっと高価になるはずではあるが。

Micro LEDパネルモジュールを8×8構成で組み上げた「THE WALL」の最大セット。画面サイズ292型。8Kリアル表示に対応

ブースに居た「THE WALL」担当者によると、最小構成がパネルモジュールが4×4構成の146型で、解像度的にはこれが4K対応となる。この担当者によると「この146型モデルは最も引き合いが強いであろうということで、サムスンではパッケージ製品としてリリースする計画がある」と述べていた。こちらもパネルモジュールを組み合わせて作ることに変わりないが、工場出荷状態で146型の4K Micro LEDテレビとして組み上げて出荷するのだそう。要は146型4Kテレビとして巨大な箱に詰められて納入するわけだ。

Micro LEDパネルモジュールを4×4構成で組み上げた146型4Kモデル

最大構成は、ブース入り口に設置されていた8×8構成の292型の8K対応セットという。219型の6K対応セットも提案できるそうだが、この場合は映像エンジン側で4K映像をアップスケール、8K映像をダウンスケールして表示する。

既に「THE WALL」には立派なカタログも用意されていて、後述する他社が現状は「まだコンセプトモデルどまり」であることを踏まえると、かなり先行している印象を受ける。有機ELテレビ製品を持たないサムスンとしては「意地」を見せているといったところか。

Micro LEDパネルモジュールの継ぎ目は、遠目には気が付かないが、画面に近づけばこのように分かってしまう。離れて見る用途ではいいが、比較的近づいて見ることになる家庭用途でこのクオリティは少々つらいという意見が出てくる可能性も…

なお、今回のCESでは、LGも遅ればせながら、Micro LEDディスプレイの試作機を展示していた。発売予定のないコンセプトモデルで、公開情報はほとんどないが「画面サイズは145型」「4K解像度表示に対応」といったあたりを積極アピール。サムスン「THE WALL」の主力セットと完全に競合してくるあたりはさすがである。

LGのMicro LEDディスプレイの試作機展示コーナー
近づいて見ると「シーム」(単位パネルモジュールの継ぎ目)が見えてしまっていた

Micro LEDディスプレイに関しては、中国系メーカーのブースでもプロトタイプが出始めていた。一般ユーザー向けの製品はまだまだ先だろうが、富裕層向け製品としては、サムスンのTHE WALLを皮切りにして、開発競争が激化しそうな雰囲気がある。

TCLのMicro LEDディスプレイ試作機「The Cinema Wall」。名前からしてサムスンを意識している。4K解像度対応。総LED個数は2400万個(≒3840×2160×RGB)とアピールされていた。最大輝度は1,500nit。コントラストは250万:1
こちらも単位パネルモジュールの継ぎ目があるのが分かる

日本メーカーでは、ソニーがMicro LEDディスプレイの開発に力を入れている。以前は「CLEDIS」、最近では「Crystal LED Display」(CLED)の名称で製品化。また、既に業務用の分野では採用事例も増えてきている。

実は'19年9月から、このCLEDを富裕層向けに発売する計画を打ち出しているのを知っているだろうか。これは「サムスンの“THE WALL”に遅れてなるものか」というソニーの心意気の現れ……と捉えるのは邪推が過ぎるとしても、今回のソニーブースにはその富裕層向けのデモ機が展示されていた。

ソニーのCLED展示コーナーは、他社とは違い、「富裕層のホームシアターっぽい風情の部屋」を想定したような演出。暗部階調や黒表現を楽しめる、暗めの照明環境で行なわれていた。「明るいところでもよく見えます」というような、Micro LEDディスプレイの高輝度性能をアピールする他社とはやや違ったおもむき

CLEDのピクセル間距離は1.26mmで、RGBサブピクセルをひとまとめにした1ピクセル分の面積は0.003mm2として発表されている。

単位パネルモジュールを繋ぎ合わせて大画面を構成する構造は、サムスンのTHE WALLと同じで、そのパネルモジュールのサイズは横約40cm、縦約45cmで、重さは約10kg。解像度は320×360ピクセル。最大輝度は1,000nitでHDR表示に対応。リフレッシュレートは120Hz対応。

ブースには、220型の4Kセットを展示。このセットは、単位パネルモジュールを横12枚、縦6枚の計72枚で構成。関係者によれば、価格は約7,000万円。最小構成は単位パネルモジュールを横6枚、縦3枚の計18枚で構成した110型のフルHDセットとなる。

同社はCLEDの画素発光の放射角度が水平・垂直180度という、ほぼ完全な点光源特性であることに着目し、あらゆる角度から撮影しても色変移、輝度変移が起きない特性を何かに利用出来ないかと思案してきたのだとか。

しかも自発光という特性だけでなく、その輝度もすこぶる高いことから、バーチャルセット向けのビデオウォールソリューションとして応用できないか、と創案。実際に、この開発プロジェクトの成果物は、'20年公開予定の映画「ゴーストバスターズ/アフターライフ」の撮影にも活用され、システム一式をブース内で公開していた。

このシステムは、カメラの位置と向きに合わせた背景映像をCLEDがリアルタイム表示するもので、映像背景と演技中の役者達をそのまま同時に撮影してしまう大胆なバーチャルセットとして活用する。担当者によれば「撮影された映像がビデオウォール映像には見えない」「トータルコストではポストプロダクションでCGを合成するより安価」とのことで、その成果には手応えを感じているようだ。点光源発光/高輝度特性のMicro LEDディスプレイ技術の面白い活用事例だといえよう。

CLEDを活用したバーチャルセットシステム。カメラの位置にあわせて、リアルタイムにカメラから見える情景CGを生成するシステムは、本記事で紹介した「Eye Sensing Light Field Display」の仕組みと似ている

おわりに~40型前半4Kテレビは'20年絶滅? 今後はMini LEDとデュアルセルの戦いか

まとめを最後に少し。

液晶テレビは、Mini LEDバックライトシステムと量子ドット技術を組み合わせたテレビ製品開発が活発になっていて、ハイエンドモデルを中心に'20年は色々と出てきそう。日本メーカーからの登場も期待したいところだ。

それから、全メーカーの'20年モデルを横断的にチェックして気が付いたのは「8K液晶テレビは65型からで、8K有機ELは77型から」、そして「4Kテレビは48型から」となったこと。

何が言いたいかというと「8Kは大画面オンリー」、「40型、43型といった4Kテレビ製品の40型前半モデルが消滅した」ということだ。

昨年から「40型前半台は4K映像パネルは市場が要求する単価が安すぎて、いまや映像パネルメーカーが作れば実質赤字。その生産に消極的になっている」という情報を関係者から掴み、他メディアのコラムでそうした情報をまとめたことがあったが、まさにそれが現実となった印象。40型前半台の4Kテレビ製品の購入希望者は急いだ方がいいかもしれない。

Micro LEDディスプレイ(テレビ)は「来るぞ来るぞ」と言われながらも、まだ高価すぎて、今の有機ELテレビ的な立ち位置になるまで相当に時間が掛かりそうである。単位パネルモジュールの継ぎ目も、家庭用として依然として気になる課題だ。

今年以降の民生向けの次世代薄型テレビの本命は「Mini LEDバックライトシステム vs デュアルセル方式」の対決になってきそうな予感がする。

さて、大画面☆マニアは毎回長くなる傾向にあるが、今回は恐らく過去最高に長くなってしまったので、このあたりで筆を置くことにする。この他、シャープの31.5型の屋外サイネージ向けのフルカラー反射型液晶ディスプレイ(IGZOベース)などもあり、その話もしたいのだが、またの機会に。

だいぶ遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。

シャープの屋外サイネージ向けの、31.5型フルカラー反射型液晶ディスプレイ。IGZOベースのTFTでは、電位保持できている期間であれば、画素駆動電圧をOFFにしても表示に影響がないというユニークな特性がある。つまり、通電しなくても映像表示が継続できるわけで、消費電力を押さえることができる。この駆動電圧OFFを介入させる液晶画素駆動方式は「休止駆動」と呼ばれており、図版表示主体の屋外サイネージ用液晶ディスプレイとして、おあつらえ向きなのだ。また機会を改めて解説することにしよう

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
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