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第402回

コミュニティとサービスの時代のゲーム体験を追求するSIE。E3 2018の変化

カンファレンス会場となった、LA Center Studioの一部。ここだと「講堂」「体育館」のようで、発表会場には見えにくい

 E3レポートの2本目として、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のプレスカンファレンスレポートと、毎年おなじみとなった、SIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏へのインタビューをお届けする。昨年と同じく、SIEのプレスカンファレンスは「タイトル推し」。ハードウェアの話やビジネス状況にはほとんど触れず、VRの話も「プレスカンファレンス会場では」行なわれなかった。それがどういう意味を持っているかも解説したい。

ゲームの世界に引き込むために会場まで演出

 SIEのプレスカンファレンスは、基本的に、SIEが推しているPlayStation 4のタイトルを紹介するスタイルを採っている。そのため、SIEのプレスカンファレンスでは、ビジネスに関する話はほとんど出てこなかった。徹頭徹尾、タイトルの紹介だ。

 しかも、その紹介の方法が凝っていた。

 まず記者団が招かれたのは、いわゆる「講堂」のような場所。天井には素朴な電飾があり、演壇にはシンプルな椅子があるくらい。かなり狭く、椅子も来場者の十数分の1の数もない。

 カメラとメモを抱え、立ち見で開始を待っていると、SIE・ワールドワイド・スタジオ チェアマンのショーン・レーデン氏が現れ、今回発表するゲームの方針に関する、ちょっとした挨拶を行なった。

SIE・ワールドワイド・スタジオ チェアマンのショーン・レーデン氏

 その後、ゲームの映像が画面に流れ始めると、一見不自由にも思える会場を選んだ訳がわかった。映像に現れた風景と、自分たちがいる場所がそっくりだったからだ。「The Last of Us Part II」のデモシーンと同じ場所からスタートすることで、より高い演出効果を狙ったのだ。

会場には人がぎっしり。天井からは、今時質素にも思える電飾があるのだが、これが実は重要だった
「The Last of Us Part II」のデモシーン。いきなり、自分達がいる場所と同じ電飾がクローズアップするところから始まり、演出に引き込む作りだ

 「The Last of Us Part II」のデモが終わると、今度は会場を移動するよう促された。通路は和風の「渡り廊下」で、小さな庭園まである。海外では、日本人からは違和感のある日本「っぽい表現」が少なくないが、この通路はそういう印象をあまり受けない。そして通されたのはドーム型の広い会場。横長のスクリーンには、ススキが生えた丘が広がっている。日本を舞台にした「Ghost of Tsushima」の世界を体感してもらうためだ。

日本風庭園を通って次の会場へ。かなり立派な作り
ススキの野の前で、尺八の演奏が。西洋人の方らしいが、非常に素晴らしい演奏だった
「Ghost of Tsushima」。蒙古襲来の時代、対馬を舞台にしたオープンワールド型ゲームになるという

 Ghost of Tsushimaのゲームプレイが展開され、その映像美に驚いていると、今度は、いつものプレスイベントのようにゲームの紹介が続く。小島秀夫監督作品「Death Stranding」など多数のゲームの映像が発表されたのち、9月7日に発売が近づいている「Spiderman」のプレイ映像がじっくりと流された。

小島秀夫監督作品「Death Stranding」。ゲームの内容はわからないが、強く心にささる映像が小島監督作品らしい。ヒロインとして、「バイオニック・ジェミー」主演のリンゼイ・ワグナーが、当時の姿で登場する
最後には、9月発売の「Spiderman」のプレイを紹介。発売が近いこともあり、かなり具体的にプレイスタイルのわかる内容だった。

 すべての映像プレゼンテーションが終わり会場を出ると、そこには、ニューヨークの街並みを模した試遊会場が広がっていた。ここからは、試遊時間でありパーティーだ。Ghost of Tsushimaのイメージか、アジア的な軽食を提供するところには、流れに沿って枡に入ったサラダが流れる演出までされていた。

奥はロサンゼルスの本当の風景だが、手前は作り物。「借景」を活かし、リアルな街並みを作り、その前で「Spiderman」を試遊させる、という趣向だ
新聞スタンドがあると思ったら、配っているのは、スパイダーマンに出てくる「Daily Bugle」の号外
パーティー会場は「Ghost of Tsushima」をイメージした「和」の雰囲気
なぜ升に入ったサラダが流れているのかは不明だが、「和」なのだろう

 だが、発表にはさらにしかけがあった。発表会場の移動中や会の前後に、ストリーミング配信では、ステージで紹介しきれない多数の作品をアピールする番組を流していたのだ。実は、現場で取材している記者よりも、自宅でストリーミングを見ているゲーマーの方が、ずっとリッチな情報を得ていたのである。

 こうした傾向は、けっして今に始まったことではない。各社がストリーミング配信をプロモーションに活用する時代になって以降、「イベントにあわせて映像を見てくれるゲーマー」を大切にする形が基本になっている。それだけ、ゲームを熱心にプレイするファンを大切にすることが、ゲームのプロモーションにとって重要なことになっている、ということなのだ。

 記者としては少々微妙な気持ちであることは否定しない。しかし、本来情報は誰のためのものなのか、ということを考えれば、納得せざるを得ない部分がある。メーカー側としては、記者には「映像だけでは伝わらないインパクト」や「プレイ感」を伝えようとしたのではないか。そんなことを、取材しながら感じていた。

ゲームは「コミュニティとサービス」の時代になった

 さて、ここからは、SIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏の単独インタビューをお届けする。PS4が収穫期の只中にあり、ゲームのクオリティも高まっていることは、発表会から強く感じられた。では、そうしたタイトルはどのような方針で開発されているのか、VRなどのビジネスはどうなっているのかなどを聞いた。

SIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏

――プレスカンファレンスに参加しましたが、今年もファーストパーティーのゲーム群の出来がすごいですね。

吉田氏(以下敬称略):ありがとうございます。

 もはや「プレスカンファレンス」とは言っていないですね。プレスに情報を出すというより、ゲームファンに向けてアピールするものになっていますね。

――そこは、プレスとしては忸怩たるものもありますが、確かに、今のE3では、「誰に向けてゲームの情報を出すのか」という本質でいえば、ストリーミングを見ているゲームファンに、という部分が大きいと感じます。実際、それが正しい姿勢ですし。

吉田:とはいえ、来場される方々にも楽しんでいただきたいということで、色々演出を凝らしてみました。いかがでしたか?

――取材する側として、会場を移動しながら、というのはちょっと大変でした。しかし、カンファレンスが終わった直後に、ロサンゼルスのビルを「借景」にしてニューヨークを再現した場所で、「Spiderman」の試遊ができる……といった演出は面白かったです。

吉田:竹林が用意されていたりね。色々と演出に趣向を凝らしました。

――こういうパターンの演出は、SIEらしいなあ、とも思いました。

吉田:そうかも知れませんね。PSX(注:PlayStation Experience。年末にアメリカで開催される、SIE主催のユーザー向けイベント。最新のゲームをユーザーが体験できるものになっている)もそうなんですが、大規模なスケールで、ひとつひとつのゲームの世界を作り込むようなブースにしています。ゲームの世界に入り込むような感覚をもっていただきたいという意図です。最近の我々のゲーム製作の流れに合わせて考えてくれたんじゃないかな、と思います。

――ゲーム制作も、PS4世代では「3ターン目」に入ったようにも思えます。ローンチに合わせたタイトル、その後に出たタイトル、そして現在です。PS4の開発にも慣れ、うまく周り始めた結果が品質に結びついているのかな、と思うのですが。

吉田:そう言えるとカッコイイのですが……。いま発売を迎えた、評判のいいタイトル・期待されているタイトルは皆、PS4が発売前から開発を続けているものばかりなんです。それだけ力を入れて作ってきたので、先日発売した「God of War」(注:日本では4月20日発売。発売一カ月で世界累計500万本を発売した)も高く評価いただけたのかな、と思っています。

 我々にも予想外だったのは、PS4の世代になって野心的にやりたいことを広げようとすると、それが実際に可能になる場合が多く、想定よりも開発に時間がかかってしまっている、ということです。ローンチタイトルはスケジュール厳守ですが、それ以降については、わりと自分達のクリエイティビティには制約をかけずにやってきました。PS4はハードウェア的にゲームが作りやすいものですが、そういう部分ではないところで苦労していますね。

 規模もそうですが、プレイタイムも変わっています。

 「God of War」にしても、過去のシリーズは高く評価していただけているものの、プレイ時間は十数時間、というところでした。いまやゲームのジャンルがクロスオーバーしていて、アクションでありアドベンチャーでありRPGであり、しかもオープンワールド。そういうゲームが増えています。「God of War」もそうした構造になっています。自然に、プレイ時間も40時間・50時間になります。それは、ユーザーの方々が求めているプレイスタイルにも合っていると思います。特に、「God of War」のようなシングルプレイのゲームも、すぐに遊び終えるようでは「終わったら中古に売ってしまおう」という方が出てくる可能性もあります。開発の長期化には、深いゲームプレイやオプションを用意し、長く遊んでいただけるようにしたい……という部分もあるように思います。

――今のゲームシーンは「コミュニティ性」が高くなっています。PlayStation Networkのような意味での「コミュニティ」もありますが、その外にある「タイトル」のコミュニティもある。特に今年は「Fortnite」(注:Epic Gamesが提供中のバトルロワイヤルゲーム。現在、世界中で大ヒット中)旋風がすごい。ゲーム実況やグッズ関連では、Fortnite一色です。「コミュニティ」とゲームの関係をどう考えていますか。

吉田:シングルプレイヤーであれマルチプレイヤーであれ、プラットフォームを超えたところでのコミュニティや、ソーシャルメディア上での対話は、必ず意識して作っていますね。ストーリーベースのゲームであっても、動画が共有された時に「こういう展開があるのか」「こういう攻め方ができるのか」という刺激があるようにしています。

――先日SIEから発売された「Detroit: Become Human」もそうですね。

吉田:はい、「自分のプレイと全然違う」という風に。プレイせず見ても楽しい、そして、自分のプレイを見せたくなる要素をゲームの中に仕込んでいくことは、ゲーム制作において、すべての開発者がそうではないかも知れませんが、多くの開発者が考えていることである、と言えます。

 元々PS4以前から「シェア」の流れはあって、我々開発者も楽しんでいたものですが、PS4で簡単に実況・動画シェアが行なえるようになったことがひとつの流れを作れた、と、我々としては思いたいところですね。

――この変化は非常に大きいものだと思うのですが、ゲームにあまり興味がない人にはまだ伝わりきっていないのかな、とも思います。「今年はハードウェアの発表がないのでニュースがない」といった反応はその典型です。私ももう少し、現状の変化をきちんと伝えねばいけない……とは思うのですが。

吉田:PS3くらいの頃から、業界としても意識して「プロダクトベースからサービスベースへ」という変化を進めてきました。モバイルはパッケージがないですから、最初からサービスベースですよね。サービスであるから生まれるコミュニティの良さを、家庭用ゲーム機でもゲーム単位で採り入れてきて、それが大きな流れになってきているのだ、と思います。

 ユーザーからみれば、「Fortnite」にしろ「Overwatech」にしろ、常に新しい要素があって、イベントがあって、自宅で楽しんでも、出かけてイベントに参加してもいい。その双方が楽しい、ということですよね。

――プラットフォーマーとして、ああした巨大な「サービスベース」の作品を作れる、作りたい、と思っていますか?

吉田:ああした作品は、まず「大ヒットする」ことが前提ですよね。大ヒットはなかなか計画してできることではない。それは、コミュニティベース・サービスベースの作品かどうかに関わらず、確実なものではありません。

 その中でゲーム制作のプロとして、各スタジオが「どういうものが受け入れられるのか」を考えて作る際には、各スタジオが強みを活かせるものにする傾向にあります。

 我々としては、狙い、というわけではないのですが、得意としているのは「ストーリーベースで、インタラクティビティがあって、世界観が素敵なタイプのゲーム」ですし、チーム同士が刺激しあい、新しい挑戦を続けています。また、ユーザーの方々からも、そうしたゲームを評価していただけています。だから、そこを中心に取り組んでいるんです。

――だから、SIE ワールドワイド・スタジオの作るタイトルは、ああいうテイストのものが多いんですね。

吉田:そういうものが多いですね。サービス型のものを作らない、というわけではなく、いいアイデアがあればやりたいとは思います。また、ストーリーベースのゲームでも、ビッグタイトルの間に、規模の大きなダウンロードコンテンツや、単独で遊べるオフシュート(番外編)などを出していき、ユーザーさんとの関係を続けていくことは意識してやっています。

 それに、ゲームの世界ではアナリティクスの技術が進化していて、想像以上に使われているんですね。シングルプレイのゲームでも、ユーザーがどのようにプレイしているのかがかなり詳細にわかるようになっています。だから、「ここでひっかかる」ということが分かれば緩和して……といったこともできます。

シアトルのスタジオが「日本の美」をゲームで追求

――話は変わりますが、日本のユーザーとしては「Ghost of Tsushima」が気になりました。海外制作で日本を舞台に……というと、どうしても「どこか奇妙なものになるのでは」という危惧があります。しかし、映像を見る限り、その点では不安感がない。非常に「日本的」です。もちろんウソはあるんですが、それは時代劇的な、ある意味で「正しいウソ」に思えます。相当にこだわり、リサーチして作っているのだな、と感心したのですが……。

Ghost of Tsushimaのデモシーンより。紅葉が舞い散る印象的な映像なのだが、非常に「日本的な美」にこだわって作られているという

吉田:Ghost of Tsushimaを作るぞ、と決まった時から、開発元のSucker Punch(注:SIE傘下のゲーム開発プロダクションで、米・シアトルを本拠地としている)の側が、日本人のSIEメンバー以上にこだわっています。PS4のタイトルですから、市場的には日本よりも欧米の方が大きいです。しかし彼らは「日本で発売した時、ヘンだと言われるものは出したくない」と言っています。だからジャパンスタジオとの協力関係についても、Sucker Punchの側から言い出しています。実際、対馬も含め、日本にも取材に訪れ、できるだけオーセンティック(本物)な形でゲームを作ろうとしています。

 ただし、対馬って、小さい島なんですよ。ですから気候や地形ってそんなに変わらない。なので、ゲームとして、エンタテインメントとして楽しんでいただくために、そこでは拡大解釈して、「日本全体がもっている美、みたいなものは、拡大解釈していれていこう、採り入れちゃおう」ということにしています。でも、日本のイメージを期待されるでしょうし、そこはあってもいいですよね。「拡大解釈された日本の良さ」、あるいは「侍のかっこよさ」を、時代考証があるにしろ、こだわりすぎず、エンタテインメントとしていいものを採り入れていく考えです。

 余談だが、吉田氏のインタビューのあと、Ghost of Tsushimaの開発元・Sucker Punchで本作のクリエイティブ・プロデューサーを務めるネイト・フォックス氏を初めとした開発チームに話を聞くことができた。そこで、筆者は、ずっと気になっていた質問をぶつけてみた。

 それは「なぜ蒙古襲来の時代を選んだのか?」ということだ。サムライものなら、江戸期や戦国時代、遡るならばいっそ源平の時代など、もっとメジャーな時期があるはず。日本人からみてもマイナー……というか地味に感じる蒙古襲来の時代を、外国人が選んだのにはもちろん理由があるはずだ。

 フォックス氏が教えてくれたのは、意外な答えだった。

「それは、火薬が刀と対決した初めての時代だから」

 「震天雷」「鉄火砲」といった火薬を使った武器を使う元軍と刀を武器にする侍が戦うのは、絵面的にもゲームメカニクス的にも非常に多くの可能性がある。他にもいくつか理由はあるそうだが、これが筆者にはもっともインパクトがあった。

 そのくらい彼らは、真剣にこの時代と文化をリサーチした上で、「サムライ」のゲームを作っているのである。

PSVR、3年目は「VRにしかできない」「濃くて長いゲーム」を提供

――VRについてうかがいます。E3全体を見ると、VRはそこまで大きなトピックではありません。一方で、5月にはOculusが「Oculus Go」を出しており、スタンドアローンVRがヒットする機運もあります。一方、PCのハイエンドVRも含め、台数的にはAAAの大規模ゲームを支えきれる状況にない。だからE3では目立たないのだと思います。PlayStation VR(PS VR)の状況も含め、今のVRをどう見ていますか?

吉田:まず、PS VR向けのタイトルは「1つ」じゃないです(笑) カンファレンスの会場では1つだけが流れましたが、ストリーミングで見ていた方向けには、たくさんの新規タイトルを紹介しています。

 ずっと前からそのような考えで準備しているのですが、VRというのはまったく新しい体験が作れます。初代PSで初めて3Dグラフィックスのゲームが作れるようになった時に近く、新しい表現ができます。ですから、小さい規模のゲームでも新鮮で楽しいものができる。規模によらずにアイデアによるところを追求します。すでにあるゲームをVRにするのではなく、VRのゲームでなにができるのか、新しいジャンルや表現を生み出すことを中心に捉えてきました。

 その中でインディーゲームも含め、大ヒットがいくつも出ましたよね? どれも「VRでなにができるか」に特化したところが金脈を掘り起こしているのだと思います。

 PS VRの立ち位置としてはユニークなもので、「ハイエンドのグラフィックスを実現しつつ、コンソールなので扱いやすい」「コンソールなので開発環境が均一である」「ユーザーがほぼゲーマーである」ということが特徴です。そこでユーザーさんが求めるものが、やはりみなさんゲーマーですから、「深いゲーム体験」「長く遊べるもの」になってきています。それは予想していました。

 初年度、はじめて技術に取り組む時には「とにかく金脈を探そうぜ」「VRの技術を活かしたゲームを探そうぜ」という意識でした。それは今も続けているのですが、2年目・3年目のタイトルについては、少しずつ規模やゲーム性の深さを増していこうとしています。

――それもあって今年、フロム・ソフトウエアさんと組んで作られるVRタイトル「Deracine」を発表されたんですね。

吉田:あれは「根無し草」という意味だそうです。時の止まった世界を探索する古典的なアドベンチャーゲームです。

 VRの技術に触れた宮崎さん(注:フロム・ソフトウエア社長でゲームディレクターの宮崎英高氏)が考えた新しい使い方によるものだと思います。VRは圧倒的なキャラクターの存在感を生み出します。一方、CGだからとはいえ、すべてのタイミングでインタラクションが可能なわけではありません。そこを乗り越えるために、自分は時間の止まった世界にいるフェアリーで、相手に見えないけれど存在に気付いてもらえる……、というあたりに活かしたのかな、と思います。宮崎さんは非常に計算される方なので、他のキャラクターがあまり動かない中でのインタラクションをやりたかったのかな、と思います。

 あくまで私の理解では、ですよ(笑)

――なるほど、そういう可能性があったんですね。

吉田:これは、他のデベロッパーがまだやっていないVRの使い方ですよね。我々も楽しみに思い、大切に開発してきたタイトルです。

 今年出るVRタイトルは、他も似た要素があります。他がやっていないVRの使い方、ユーザーに支持された価値を、2年間かけて作ってきているんです。最初のインパクトは、小さく色々と試作をしたものを鮮度の高い形でみなさんに提供し、3年目の今年は大きいものを出せるかな、と。一部、まだ発売タイミングがわからないものがありますが。

――そこは、通常のPS4向けのゲームの開発サイクルが違うところですね。ライフサイクルの中で慣れ、進化していくような作り方は、初代PSやPS2の頃のスタイルなんですね。

吉田:そうです。テレビでのゲームは20年くらいやってきました。でもVRはまだ3年目です。その中でいうと、この3年はとてもいい形で進んできていると思います。

 発売の年は、まず作る時に、VRの作り方を理解し、ユーザーさんも気持ち良く遊んでいただけるものを作ることが重視されました。要は「地雷」をきちんと避けられたか、足元を固めるところからはじめていました。

 しかし最近は、みなさん基本的な部分はしっかりと作ってこられる。全然そういうところは心配ないです。お互いに作ったものをみて、学習するサイクルが非常にうまく働いているんですね。

 また、「インディーは物足りない」と言われるかもしれませんが、私の目から見れば、インディーゲームのクオリティと規模もちょっとずつちょっとずつ大きくなっています。AAAとはいえないけれど、「A」くらいにはなりました。今年デベロッパーさんから見せていただいたタイトルも、非常に価値が高くなったものが多いです。深く遊べる、システマチックによくできたゲームも多数見ます。

――スタンドアローンVRはどう見ていらっしゃいますか? PS VRを含むハイエンドは、競合できると見ていますか?

吉田:私は全然不利だとは思っていないんです。

 元々、コンソールとスマートフォンのゲームの違いのように、あるいはスマホそのものの存在のように、モバイルをベースにした一体型が、特定の層にはVRを(ハイエンドよりも)先に知ってもらうものになるかな、と思っていました。Oculus Goのあれだけの価格設定は、VR全体の普及にはプラスです。

 ただ、体験という意味で、モバイルSoCの限界は明らかです。PCベース・PS4ベースのエクスペリエンスとは別である、と言えます。

――すなわち、体験のシンプルさや開発できるものの深さなどで差別化できると。

吉田:そうです。スマートフォンのゲームに満足する人もいれば、PCやコンソールで満足する人もいるわけで、ニーズに応じてVRが使われていくようになると思います。

――一方で、PS VRには「毎日使ってもらう」モチベーションに欠けるところがあります。「ハレの日」にゲームをやるのはいいのですが、コミュニケーション性のような、人と一緒にプレイする部分が弱い。そこはどう見ていますか? 不利だとは思いませんか?

吉田:PS VRが軽くなればいいとか、将来的に「こうなればいい」と思っていることはありますが、スタンドアローンVRと比較して「ハイエンドVRは不利ですよね」と言われると、同意しないです。どういう視点でのものか、ということになりますから。それは私にはわかりませんが、我々はそうは思っていません。

――主に「毎日使ってもらう手軽さ」が違う、と思います。やはり、ハレの日にだけ使うのではなく、毎日使いたいと思うのが、今のゲーム機にふさわしい状況です。

吉田:なるほど。確かにOculus Goはすごく手軽ですよね。そういう部分は彼らの強さだと思います。とはいえ、やはりコンテンツやサービスが重要かと思います。コミュニケーションの高いアプリのうち、日本だと出ていないものもあるのですが……。ソーシャルVRの良さはあるので、そこの充実は今後も継続的にやっていきたいです。

「Dreams」はクリエーションのプラットフォーム、サービスとして長く展開

――最後に。「Dreams」が気になっています。まだ開発中のようですね。カンファレンスでも、タイトルの合間に「ちょい見せ」みたいな形で、作ったものが出てきましたが。

カンファレンスの中で、ゲームのトレイラーの間に流された映像のひとつ。実は「Dreams」で作られた映像作品である

吉田:あれは、Dreamsのブランドが弱かったかもですね。気付かなかった方もいたようで。

――あれは、通常の環境でなにかを作るにも、VR空間でなにかを作るにも、きっと興味深いものになる、と期待しているんですが……。

吉田:そうですね。開発元のMedia Moleculeが、Little Big Planet2(2011年発売)の後からずっと取り組んできて。PS4の発表イベントでデモしていますから、2011年から作っていることになりますね。

 作るのにも時間がかかっていますが、私の中であれは「サービスプラットフォームである」と思っているんですね。サービスとして長く続けていければ、と思っています。思いとして、あれはクリエーションのプラットフォームであって、ゲームであっても映像であっても、音楽であっても、クリエイティブな人が非常に簡単に使えるツールとして提供していきたいと考えています。

――では、一般的なゲームのように流行り廃りを考えるものではなく、長い目で見るものになる、と。

吉田:Dreamsは、「時間が経てば経つほどすごくなる」ものだ、という風に思っていただきたいです。発売の時点から、ものすごくたくさんのツール群を用意していきますので、できることの奥深さ・幅広さがあって、しかも操作も簡単なUIを用意していますので、おそらく、製品版どころかベータ版の段階から、色々なものが出てくるはずです。

 なので、コンテンツの意味でもボリュームのある世界が展開できるのではないか、と楽しみにしています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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