西田宗千佳のRandomTracking

第422回

'19年のソニーBRAVIAは「超大型化」と「Apple対応」で攻める

ソニーは今年のCESでは、最上位クラスである「BRAVIA Master Series」に属する、8K液晶の「Z9G」と、有機EL(OLED)の「A9G」を発表した。製品化時期や価格、投入する市場などの発表は“今春”なのだが、高画質・高付加価値路線を今年も継続することは明確になった。

CES2019で発表されたソニーMaster Seriesの新ラインナップ

ソニーにとって2018年のテレビ市場はどうだったのか? そして2019年はどうしようと考えているのか? ソニーのテレビ商品企画の責任者である、長尾和芳氏に聞いた。

ソニービジュアルプロダクツ・企画マーケティング部門・部門長の長尾和芳氏

2018年は好調、19年は「超大型」シフトに

まず、2018年末テレビ市場の振り返りから入ろう。ソニーとしては「好調」といえる状況だったようだ。

長尾氏(以下敬称略):年末商戦は、日米欧は想定通りです。現在、中小型(40型以下)は縮小しています。特に55型以上は伸びています。販売シェアとしても想定通りですね。

ここには2つのキーフォーカスがあります。それはOLEDの販売構成比増加と、大型比率の増加です。特に75型以上の市場を拡げ、その中でちゃんとしたポジションを築きたいと考えています。

というのは、10.5世代の液晶工場が稼働してくると、プレミアムとしての中心は65/75型になってきます。55型はかなりコモディティ化する。65型、できれば75型サイズの市場でビジネス的な優位性を確保したい、と考えています。

また昨年の日本向けビジネスでは、OLEDが伸び、「BRAVIA A8F」がヒットモデルになりました。ただ、液晶であっても、直下型LEDを採用した「BRAVIA X9000F」は好評でした。特に、49型を導入したことで、ここもプレミアムにすることができました。

では、それを受けての2019年戦略はどうか? 「基本的には2018年路線の踏襲」という。

長尾:75型オーバーで、ソニーとしての市場をドライブしたい。昨年は75型の展示台数や露出も増やし、コンスタントに売れています。日本はさすがにそこまで大きいものは……、と言われてはいるのですが、ポテンシャルはあると思います。

というのは、欧州も日本と同様に「大きいサイズは厳しい」と言われているのですが、75型はしっかり売れています。そこから考えると、日本でも75型の市場はあるのでは……ということになるんです。

8K液晶テレビ「Z9G」シリーズは98型と85型を用意する

8Kパネルを使いつつ「8Kを声高に主張しない」ソニーの真意

70型を超える「超大型展開」の中で、特にひとつの軸になっているのが「8K」だ。今回発表された「Z9G」は、大型化しただけでなく8Kパネルを採用したことがポイントである。

今年のCESではにわかに「8Kテレビ」が増えてきた状況だ。だが長尾氏は「8K、という数字にはあまりこだわっていないし、8Kテレビ市場、という見方はしていない」と話す。

長尾:今年から「超大型」の市場が立ち上がります。去年となにが変わったのか、というとやはりサイズ。Master Seriesの超大型化が商品企画のポイントです。

超大型が求められる市場とはいえ、そこで「価格の安さ」だけで市場を大きくするのでは意味がありません。

だとすれば超大型の価値はどこにあるのか、といえば「シネマティックエクスペリエンス」、すなわち迫力と没入感です。

私どもは、「8K」「8K」と声高に言うつもりはありません。あくまで「超大型で映画を楽しんでほしい」。これが全世界に対するメッセージです。見た目的にはCES会場全体が8K、という風に見えますが、お客様は解像度でテレビを買うわけではない。

4Kの時も苦しんだのですが、8Kも(ネイティブ解像度の)コンテンツがない。それはお客様もみなさんご存知です。ですから、4K+HDRのコンテンツをいかにアップコンバートし、良い体験を作るかが重要です。

輝度ひとつとっても、8Kパネルは透過率が非常に低いので、バックライト構造が同じだと輝度感が落ちます。Z9Gではバックライト構造を見直し、透過率が低いにもかかわらず、ピーク輝度は以前のモデルよりも高い状態を実現しました。

バックライト構造を8K用に見直した

そういう意味で、4Kのトップエンドと8Kを比べた時、「解像度以外は4Kを超えられない」製品を出しても意味がない。違いがちゃんとわかっていただけるポイントはなにか、ということです。

今回、ソニーはOLEDでは4Kを発表し、8Kモデルは出さなかった。これは、OLEDの超大型サイズのパネルがない、ということもあるが、輝度を含めた製品性で、今年は4Kと8Kの間で差別化ができない、という判断に基づく。

長尾:私たちはHDRの推進が非常に重要だと思っています。まさに映像表現が変わる転換期、リアリティが一気に変わるタイミングです。ここでしっかりしたコントラストを出すために、OLEDや直下型LEDバックライトを採用しました。HDRを生かしきっていい体験にするためには、どのデバイスとどの構造がいいのかを考えて採用しています。

Z9Gは、一昨年の「Z9D」で採用されていた「Backlight Master Drive」が復活している。Z9DとZ9Gでは同じものが使われているわけではないが「コンセプトは同じ」(長尾氏)であるという。

長尾:必要なところに集光すること、超多分割の構造といったコンセプトは同じです。ただし、バックライト構造やLED、アルゴリズムはすべて作り直しました。8K解像度に最適化し、Z9Dよりも明るくなりました。

バックライト マスタードライブの動作イメージ

また、昨年モデルに搭載した、液晶の視野角問題を解決する「X-Wide Angle」も搭載している。

長尾:「超大型」において問題だったのが視野角です。 「Z9D」で100型のモデルを導入した時、どうしても気になったのが、近くで見た時、視野角の問題で両端が少し色変化を起こしてしまうことでした。

今回の「Z9G」は「X-Wide Angle」があるので、近くで見ても視野角の問題がありません。あの技術は解像度に悪い影響を与えないので、8Kパネルでも問題なく使えます。

98型・8Kを暗室で観ると、本当に窓、その場にいるような感覚になりますね。

X-Wide Angleのイメージ

同様に、大型化で重要になるのが「音」だ。

長尾:大型の画面になると、音像と画像の不一致が問題になっていきます。特に85・98型になると、いかにセンター定位を確保することが重要です。OLEDでは(画面が振動して音を出す)「アコースティックサーフェス」を使っていますが、液晶でも「アコースティック・マルチオーディオ」を導入し、画面の上下にスピーカーを配置しています。

一方、テレビが大型化していくと気になるのは「プロジェクター」市場とのバッティングだ。「そこには難しい点がある」ことを長尾氏も認める。

長尾:市場全体を見ていると、低価格帯のプロジェクターは、実際に80型程度のテレビに吸収される傾向にあります。よりハイエンドな部分で差別化していく必要があるでしょう。一方、プロジェクターはプロジェクターで、4K+高コントラストでの画質戦略は筋を通しているので、お客様には必要なものを選んでいただける状態ではあると思っています

AirPlay 2、HomeKit対応。将来はBRAVIAでEcho Show化

今年のCESにおけるテレビ商品での「驚き」は、「自社路線」を貫いてきたアップルが、テレビメーカーに対して門戸を開いたことだ。1月6日(現地時間)にサムスンが発表したことを皮切りに、サムスン・LG・VIZIO・ソニーの4社が「AirPlay 2」「HomeKit」連携をテレビに搭載すると発表した。

ソニーは日本向け製品でも「AirPlay 2」「HomeKit」連携の搭載を予定している。

長尾:特に日本はiPhoneのシェアが大きい。以前からChromecast連携は行なっていたのですが、「そのiPhone版はないのか」というご要望は非常に多かった。ですから、以前から搭載を希望していたのですが、今回実現しました。

交渉の経緯ですか? 交渉の詳細な経緯は申し上げにくい。アップル側にどのような方針転換があったかはコメントできませんが、昨年になって話が通るようになったのは事実です。

弊社としては、お客様が見たいと思うコンテンツにはできるだけ対応したい、と考えており、今回の対応もその一環です。

ソニー8K BRAVIA「Z9G」と4K「A9G」がAirPlay 2に対応。現行Z9F/A9Fのアップデート対応も発表された(写真はA9G)

他方で、もうひとつの重要な要素として長尾氏は「HomeKit連携」を挙げる。今回各社は、アップルの音声アシスタント「Siri」を軸にしたホームネットワーク連携フレームワークである「HomeKit」への対応も発表しており、iPhoneなどから音声でテレビが操作可能になるだけでなく、アップルのスマートスピーカーである「HomePod」との連携が実現する。

長尾:音声アシスタント連携はすでに必須です。特にアメリカ市場では一家に2台・3台のレベルになっていますから。GoogleアシスタントとAlexaには対応済みだが、残るメジャーはどこか、ということになればアップルですよね。消費者が好きな音声アシスタントを選べることは重要な要素です。

昨年Alexaへの対応も強化していて、アメリカでは「Alexa Smart Screen SDK」を内蔵しました。音声コマンドへのビジュアルフィードバックを実現するもので、最終的には「Echo Show」でできていることをBRAVIAでもできるようにしたい、と思っています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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