西田宗千佳の
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E3 2009特別編 ホームエンタテインメントへMicrosoft本格攻勢

~「全身認識」「1080p/5.1ch映像配信」「ソーシャルメディア化」~


 今年も、世界最大のゲームイベント「E3(Electronic Entertainment Expo)」の季節がやってきた。会期は6月2~4日(現地時間)で、Los Angeles Convention Centerを中心会場として展開する。限りなく「AV」の範疇からハズレがちなこの「特別版」を、今年もお送りする。

Xbox360 E309 Media Breefingの模様会場のGalen Center

 E3はこのところ、色々と揺れていた。各社が負担するコストの大きさに音を上げ、2007年に規模を大幅に縮小。サンタモニカに場所を移して開催されたものの、評判はあまり良くなかった。2008年には再びロサンゼルス・ダウンタウンに戻り、コンベンションセンターでの開催となったが、縮小の方針は貫かれ、やっぱり評判は悪かった。

 その反省からか、今年からは以前と同様、派手なブースと巨大な垂れ幕が戻ってきた。文字通りの「巨大イベント」へ回帰したのである。

 とはいえ、「節約」の教訓が見えてくることもある。以前は、ロサンゼルスの各地に分散した、巨大な会場を借り切ってのプレスカンファレンスが多かったが、今年はコンベンションセンター周辺の施設に集約された。ホテルを含め、コンベンションセンターの半径5km以内で事が済むのは、動き回る側としても実にありがたい。

Zune HD

 最初のイベントは、Microsoftの「Xbox360 E309 Media Breefing」だ。コンベンションセンターからほど近い「Galen Center」というホールで開かれた。特に北米市場では、もっとも人気のあるハイデフ世代のゲーム機ということもあり、来場者からの注目も高かった。

 事前の「噂」としては、PS3の追撃をかわすための独占タイトルの増加と、Wii対抗のモーション・コントローラの発表、そして特にAV関連では、直前に発表されたポータブル・メディアプレイヤー「Zune HD」との連携が発表される、との観測であった。

 だが、ふたを開けてみると、Microsoftの「本気度」はそんなものではなかった。ゲーム市場を統べるだけではなく、ホームエンターテインメント全体をXbox360で埋め尽くすべく、ありとあらゆる手段を打ってきた、といっていいだろう。

 

■ ヨーコもリンゴもポールも登場! 「メタルギア」奪取でソフトの充実をアピール

 イベントは「アップル」とのコラボレーションから始まった。といっても、アメリカのアップルではなく、イギリスの方だ。

 現在アメリカを中心にロングヒットとなっている音楽ゲーム「Rock Band」(開発・Harmonix)に、ビートルズの楽曲、45曲をフィーチャーした「The Beatles:Rock Band」が登場することを受けてのものだ。すばらしい楽曲を、実際に自分で歌ったり演奏したりして楽しめるのは、洋の東西を問わず楽しいもの。それが、ビートルズという文字通りの「キラー」タイトルなのだから、会場も非常に盛り上がった。

Rock Bandにビートルズ版登場。ギターやドラム、マイクなどのコントローラーを使って、実際にバンド感覚で楽曲の演奏が楽しめるのが特徴。ビートルズのオリジナルアルバムの曲が、そのまま収録されている
ソフトは他機種でも販売されるが、「All You Need Is Love」のダウンロード販売が行われるのはXbox 360版だけとなる

 このソフトはXbox 360の独占タイトルというわけではないが、ここで最初に発表されたのには訳がある。名曲「All You Need Is Love」が、Xbox Liveのみでの独占ダウンロード供給となることが発表されたからだ。ちなみにその収益はすべて、国境なき医師団へと寄付される。

 そして、ビートルズにゆかりの人々がゲストとして登場する。まずは、壇上にオノ・ヨーコと、ジョージ・ハリスンの妻であるオリビア・ハリソンが呼ばれる。これだけでも大変な歓声だ。そして、彼女たちが壇上から降りると、さらに驚くべき人々の名が呼ばれた。

 なんと、リンゴ・スターとポール・マッカートニーが一緒に登場したのだ! 会場がこれで盛り上がらないはずはない。

 彼らはさすがに、このゲームのことをあまり知らないようで、少々おどけながら簡単なメッセージを話すにとどまったが、彼らは終始ご機嫌で、Rockbandというゲームの地位・認知度・人気の高さを思わせた。

オノ・ヨーコ(右)と、オリビア・ハリスン(左)がまず登場。会場はこの時点ですでに大変な騒ぎだったが、まさかこのあとまた驚くことになるとは……リンゴ・スターとポール・マッカートニーが並んで壇上に。“登場できる”ビートルズ・メンバーは全員が来場したことになる、自らエアギターをして、おどけてみせる一幕も
ジョン・シャパート氏。今回はゲームタイトルの紹介を行なった

 このような文字通りの「ホットスタート」を受けて登場した、米Microsoft LIVEサービス&ソフトウエア担当コーポレートバイスプレジデントのジョン・シャパート氏は、次のように宣言した。

「今日は、台数の話も、ソフトの販売本数の話も、アタッチレート(ハード一台当たりのソフトウェア売上本数)の話もしない。みていただくのは、10本の”初公開”ソフト。そして、新しい友達とつながる方法だ」

 イベントは、彼のいう通り進行した。


コナミ・小島プロダクションの小島秀夫監督。ゲームタイトルとしては最後に「サプライズ」の形で発表された

 最新ソフトとして「初公開された」ものの多くは、ゲームファンに強くアピールするものだった。詳しくは僚誌GAME Watchのレポートに譲るが、PLAYSTATION 3販売促進の要であった「ファイナルファインタジーXIII」、そして、コナミの「メタルギアソリッド」シリーズ最新作「メタルギアソリッド・ライジング」がXbox 360用として公開されたことを挙げるだけでも、「対ライバル」という点で、非常に強力なラインナップとなったことがおわかりいただけると思う。

 むしろ、Microsoftの戦略として興味深いのは、この後の部分である。


 


■ 「1080p・即時配信」で映像配信を大幅強化。英国ではテレビ「生放送」にも対応

Last.fmの利用画面。基本的にはSNSで、プロフィール登録した上で、興味のある楽曲のコミュニティに参加する。リビングで好きな曲を「流しっぱなし」にできるのは非常に魅力的だ

 Microsoftの考える「友人とつながる新しい方法」とは、もちろん、Xbox 360用ネットワークサービス「Xbox Live」のことだ。昨年のE3にて、New Xbox Live Experienceと呼ばれる新UIを発表、秋に導入されたが、今年も同様に、様々な機能追加が発表された。

 まずは「Last.fm」との提携だ。Last.fmはイギリス発祥の、インターネットラジオを活用したSNSサービスで、たくさんの楽曲をストリーミングで試聴し、そこからコミュニティを広げていけることが魅力のサービスだ。

 今回はまずこれをXbox LiveのUIに組みこみ、登録されたあらゆる楽曲を、リビングでXbox 360を使い「聞き放題」にできる。サービスはXbox Liveのゴールドメンバー(有料会員)を対象に、年内に、「全世界」で開始される予定。ということは、日本からも利用できるということだ。


Netflixの機能も強化。パソコンを使わず、Xbox LiveのみでQueが入れられるようになり、使い勝手が増した

 次に発表になったのは、動画サービスの強化だ。昨年より米国では、ネットレンタルサービス「Netflix」との連携機能が搭載されており、映像のオンライン配信が利用できた。だが元々Netflixは、日本で言えば「ぽすれん」や「TSUTAYA DISCAS」のような「宅配レンタル」が中心のサービス。会員権はXbox Liveと共通化されていたが、機能の連携は薄かった。今回のアップデートでは、宅配してもらうための「Que」を、Xbox Live上で指定する機能が追加され、連携が強化された。この機能は、アメリカのユーザーには待ち望んだものであるようで、ひときわ高い歓声が上がっていた。

 そして、「イギリス向けのサービス」と断った上で発表されたのが、Skyグループとの提携による「テレビ放送のIP配信」だ。BSkyBの放送をそのままインターネット経由で配信し、Xbox Live上で視聴できる。シャッパート氏曰く、「世界初の、チューナや外付け機器を一切使わない、ゲームコンソールでの、インターネットによるテレビ受信」である。チャンネル切り換えなどには、Xbox LiveのUIがそのまま利用されており、非常にビジュアル性が高い。もちろん、EPGなども実装されている。

 面白いのは、Xbox Liveの利用者同士で、同じテレビ番組を一緒に見られる「Xbox Live Party機能」があることだ。これは、米国でのNetflix・オンライン配信サービスで実現されているものと同様の仕組みだが、サッカーのプレミア・リーグなどを「生観戦」すると、いかにも盛り上がりそうである。

英国で行われる、Xbox Liveによる「BSkyB」サービスのイメージ。ライブ放送の他、オンデマンド配信も行なわれるEPGも、一般的なSTBと同様に使える。もちろん、ライブ放送を見るためのものだSkyサービスと連携しての「Xbox Live Party」。ライブ放送を遠隔地の友人と一緒に楽しむ、という体験が可能だ

 さらに、映像配信系のもっとも大きなトピックとして発表されたのが、Xbox Live Video Marketplaceのリニューアルだ。北米を中心に8カ国で、以前より720pまでの映像をダウンロード配信しており、それなりの利用者を得ていたが、この秋に「Zune Video Store」としてリニューアルし、大幅な強化が行なわれる。

Zuneにあわせ、ビデオストアは完全に刷新。UIこそ以前と大きく変わらないが、サービス内容は大きく変化する。別途入手したスクリーンショットからのヒトコマ。以前はここから「ダウンロード」が始まったが、新ストアでは即座に再生が開始される

 最大の強化点は、映像配信がダウンロードからストリーム方式に代わり、解像度も1080pへと向上したことだ。また音声も、2chから5.1chへとクオリティアップを果たしている。Microsoftはこの変化を、「Push of a button, No discs, no waiting for downloads and no delays.」(ボタンを押せば、ディスクなし・待ち時間ナシ・遅れナシ)と称している。現時点では、ライバルであるPlaystation StoreやiTunes Storeがダウンロード配信であることを意識してのものだろう。デモこそ行なわれなかったが、これらはすべてポータブル・メディアプレイヤーであるZune HDと連携するものと思われる。

 スタートは秋。新たに10カ国でサービスが追加され、18カ国で利用できるようになる。新たな10カ国とは、オーストリア、オーストラリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス。残念ながらここでも、日本は含まれていない。なお、映像のビットレートなどの詳細は不明だ。後日インタビューの機会があるため、日本での対応も含め、確認ができれば続報をお伝えしたい。


■ facebookとtwitterに対応。有力SNSと組んで「世界を広げる」戦略に

 そして、Xbox Liveへの機能追加の中でも、もっとも来場者の歓声を浴びていたのが、「コミュニケーション系」サービスへの対応だ。

 まず発表されたのは、米国で利用者が急増しているSNSである「facebook」との提携だ。通常のfacebookは、もちろんウェブ上で利用するものなのだが、Xbox Live上では、操作性が統一された専用アプリケーションを利用する。といっても、facebook上のアプリケーションはほとんどが利用できており、「TV上での操作に最適化されたサービス」として、非常に完成度が高く思えた。

Xbox Live版facebook。PC版よりも画面が相当にすっきりと整理され、みやすくなっているのが特徴。操作はもちろん、コントローラーで行なえる
日本でも利用者増加中のTwitterもXbox Liveに。ゲームをしながらぼそっと「つぶやく」だけでなく、つぶやきをテレビでぼーっと眺める、といった使い方も可能

 また同時に対応が発表されたのが「Twitter」だ。こちらも、ウェブ同様の機能を、Xbox Live上にアプリケーションとして、操作性を統一した形で実装されている。

 これらの機能は、Last.fmと同様に、Xbox Liveの外にある「有力なコミュニティ」をXbox Live内に取り込む、という戦略にある。例えばfacebookの場合、実名ベースで顔写真を載せてコミュニケーションが行なわれていることが多いのだが、そこに、Xbox LiveのIDに当たる「ゲーマータグ」も組み込んで表示し、両者を結びつけて利用させよう、という意図が見て取れた。

「ゲーム業界」や「Microsoft」からは「閉鎖的」という言葉がイメージされがちだが、これらの戦略はむしろ逆だ。新たにコミュニティを作って囲い込むのではなく、現在人気のコミュニティに対して「窓口」を設け、その強みを取り込もうとしているわけで、非常に興味深い。

 そしてそのとき、Microsoft側が武器とするのは、「ゲーム」の強さであり、「TVに特化している良さ」である。

「ウェブとは違う、テレビならではのネットの活用法」という点で、Microsoftはかなり良い答えを見つけつつあるのかも知れない。

 


■ コントローラを「消す」、Project NATAL。スピルバーグ監督も絶賛

 そして会見の最後に、多くの人を驚愕させたのが、新プロジェクト「Project NATAL」である。

Xbox担当シニア・バイスプレジデントのドン・マトリック氏。今回は特に、ハードウエア戦略に関わる「Project NATAL」を中心に解説をした

 紹介するために壇上に立った、Xbox担当シニア・バイスプレジデントのドン・マトリック氏は、その狙いを次のように語った。

「我々は、次の夢を追いかけることにする。(Wiiのような)モーションコントローラはどうするんだ? と聞かれる。もちろん、答えは”イエス”。多くの人にとって、コントローラーは”障壁”だ。コントローラーの壁を越えることができれば、多くの人がすぐにエンターテインメントを楽しめるようになる。我々は、”あなた”自身をコントローラーにできるのだ! 操作に必要な体験は(ゲームへの習熟ではなく)、あなたの”生活”である」


ディスプレイの下にある、小さな棒状のカメラが、Project NATALのためのセンサーカメラ。これまでのゲーム用センサーに比べ、かなり高機能なものになっているようだ

「あなた自身をコントローラーにする」ものの正体とは、モーションと声を正確に認識し、「体の動きと音声」でゲーム機をコントロールする技術のことである。この開発計画こそが、今回公開された「Project NATAL(ナタル)」こと、「コントローラー・フリー・ゲーミング」プロジェクトだ。

 利用するのは、特殊なカメラ。資料によれば、RGBカメラ(通常の撮影用カメラ)とCMOSのDepthセンサー、マルチアレイ方式のマイク、さらに、「Microsoftのプロプラエタリなソフトウエア・レイヤーが動作するための」マイクロプロセッサーが組みこまれているという。Depthセンサーというのは、おそらく赤外線などで被写体までの距離の差を計るもので、今回の技術の「キモ」だろう。そしておそらくもう一つのキモが、Microsoftの独自ソフトウエアということになる。

 その前で動くと、背景と人の体を区別した上で、きちんと「モーション」を認識する。しかも、映像の範囲に複数の人が入っていても、である。その前で格闘をすればキャラクターがそのまま動き、ハンドルを動かす動きをすれば、車が操作できる。

 デモ映像ではゲームの他、Xbox LiveのUIを、空中でのジェスチャー操作と「声」で動かす様も含まれていた。その様子はまさに、SF映画などで見る「未来のコンピューティングスタイル」そのものだ。

Project NATALの紹介ビデオより。手をハンドル的に動かせば、その動きを読み取って車が走る。周囲に人がいても、それで誤動作することはない。人の体全体を「モーションキャプチャ」するようなイメージなので、動きそのものをゲームの操作に生かせる。また、カメラとしての機能もあるので、テクスチャの撮影や、ビデオ電話にも使える

 必要なのはカメラと対応ソフトウエアだけであり、現行のすべてのXbox 360で動作する。そして「将来的には、すべてのXbox 360に組みこまれて出荷されることになるだろう。我々は、エンターテインメントの世界を次の時代へと、”新しいコンソールをローンチ”することなく、進めることができる」とメトリック氏は説明する。

映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏。本日6人目かつ、最大のシークレット・ゲスト。NATALの動作は、そういえば「マイノリティリポート」を思い起こさせる

 そして、「プロジェクトのためのクリエイティブ・パートナー」として紹介されたのが、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏である。

「これは10年くらい前にドン(マトリック氏)と話したことだが……。多くのユーザーはコントローラーを怖がっている。エンターテインメントの可能性はひろがっているのに、ゲームコントローラーがそれを阻害しているんだ。まだ60%の家庭が、ビデオゲームコンソールを持っていない。誰もにインタラクティブ・エンタテインメントを浸透させるには、技術が”透明”にならなくてはいけない。この技術は、ひとりのゲーマーとして見ても、とてもスリリングな技術。歴史的な瞬間に立ち会えて光栄だ」

 スピルバーグ氏はこの技術に最大限の賛辞を送る。数年前より、スピルバーグ氏はみずからゲーム制作を指揮することが多くなっているのだが、現在は、この「NATAL」を使ったゲームの開発を行なっているという。


上の画面が操作中の、下の人がNATALで操作をしている。アバターが、ほぼ同じポーズをしているのに注目

 それに続き、実機で行なわれたデモンストレーションは、確かに新たな可能性を見せるに十分なものだった。

 カメラの前で自分が動くと、自分を模したアバターもそのまま同じ動きをする。また、操作画面に切り換えて腕を動かすと、ちょうどiPhoneで「CoverFlow」を行なった時のように、スムーズにメニューが送られていく。テレビの前でリモコンを持たずに、映像の選択や音量調整などができるようになれば、確かに革命的だ。

 また、より高い可能性を感じさせたのが、「Paint Party」と呼ばれるお絵描き用ソフトウエアだ。イメージとしては、前衛芸術家が行なう、絵の具を投げて絵を描く風景に近い。声で絵の具の色を指定し、手を振って絵を描くことになる。面白いのは、人のシルエットを使って「ステンシル」を作れること。しかも、複数の人が組んだり、物を持ったりしてもいい。デモでは、2人がかりで「象」のシルエットを作っていた。

NATALのデモソフト「Picture Party」。透明の人型が自分。体を動かすと、それにあわせて動き、絵を描く。人のシルエットから象型のステンシルを作り、絵の上に刷り込む、といったことも可能だ
ピーター・モリニュー氏が開発中の対話ソフト・デモ。映像は、紙に描いた絵を「中の人」に渡そうとしているところ。カメラの方へ紙を近づけると、それを感知して受け取ろうとする。当然、カメラはその絵を読み取り、中の絵に反映される。細かな動作が非常にリアルだ

 アプリケーションとしては単純なものだが、その体験はたしかに、どんなコントローラーでも不可能なものであり、「コントローラーがない」ことの成果といえるだろう。

 また、「ポピュラス」や「Fable」シリーズなどを手がけ、AIなどに造詣が深く、斬新なゲームデザインをすることで知られる、ピーター・モリニュー氏も壇上に上がり、現在開発中のソフトのデモ映像を公開した。これは、人の表情や声、動きを読み取って反応する、少年を模したAIキャラクター「Milo」と対話するもの。AIキャラクターとの対話というと、不自然でぎこちないものを思い浮かべるが、映像で示されたMiloとの対話は、まさに「そこに誰かがいるような」印象を受けるものだった。これはNATALによって、常に人の動きや声を読み取って、こまかく反応を行っているからであるようだ。

 NATALがいつ製品に生かされるのか、どのくらいの価格で販売されるのか、といったことは一切明かされなかった。しかし、開発キットは「本日」より供給が開始された、とのことなので、おそらく来年に向けて、商品化の時期などが決定することになるだろう。

 


■ Xbox LiveとUIを軸に「家電へ進出」? 開発者達のつかみは「成功」か

「ゲームとエンターテインメントの未来は今ここで、Xbox 360だけで始まる」。この言葉で、プレスカンファレンスは終了した。

 ゲームはいうまでもないが、「映像」「音楽」を軸にしたAV的な方向性でも、そして、UIの革新による「ゲーム機の家電進出」という軸でみれば、確かにMicrosoftは、ありとあらゆる方向に向けて、Xbox 360で攻め込む準備を終えている。ソニーがSCEを先陣として、アップルなどとも闘おうとしているのと同様、Microsoftは、「Xbox 360」、いや、「Xbox Live」というサービスを先頭に、家電業界やアップルと闘おうとしているのである。日本国内では利用できないサービスが多く、いまひとつピンとこないかも知れないが、今回の発表は、様々な方向へ波紋を投げかけたことだろう。

 独自の武器であるNATALは、ひとつひとつの技術を分析して考えると、Microsoftがこれまで、先端リサーチの分野で公開してきた技術の集大成といえる。商品になったとき、それがどこまで理想的に働くのか、そして、多くの人を満足させられるソフトを用意できるのか、という点については、まだ疑問も残る。しかし、開発者ならば、このデモを見て「燃えない」方がおかしい。それだけでも、十分に「第一段階は成功」といえるのではないだろうか。

(2009年 6月 2日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]