西田宗千佳の
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SCEに聞く、薄型PS3とソフトウエアVer.3.00の秘密

~小型/軽量/静穏化やDTCP-IPなど、バージョンアップの狙い~


左から商品企画部の橋本氏、ネットワークプラットフォーム開発部11課 第1グループの吉増氏、同開発部 高瀬氏

 9月3日、薄型化・低価格化されたPlayStation3(CECH-2000A)が発売される。また、その直前である9月1日には、システムソフトウエアが「3.0」にバージョンアップし、様々な機能追加も行なわれる予定だ。

 薄型モデルは、これまでのモデルに比べどこが違うのだろうか? また、新システムソフトウエアの開発コンセプトは、どのようなものになっているのだろうか? SCEに取材した。

 今回登場していただくのは、PS3の商品企画を担当する、商品企画部チーフの橋本智志氏と、システムソフトウエアの開発を担当する、ネットワークプラットフォーム開発部11課の高瀬昌毅課長、同開発部 1グループ・チーフの吉増一氏の3名である。


 


■ 3分の2のサイズ、3分の2の消費電力。薄型モデルは「さらなる静穏化」も実現?

 まずは「薄型PS3」の話から行こう。一見して分かるように、このモデルの最大の特徴は小さくなった、ということである。初代モデルに比べ、おおむね3分の2のサイズになっている。しかも、電源をアダプター化せず、内蔵してのことだから、率直にたいしたものだと思う。価格も29,980円と3万円を切り、ようやく手が届きやすいものになった。

新PS3「CECH-2000A」。大幅にデザインが変更され、薄く小さくなった薄型PS3の背面。電源スイッチがなくなり、電源が2芯のメガネケーブルになるなど、全体的にシンプルに

 だが橋本氏は、「機能・スペック面で、既存モデルとの差違はほとんどない、と認識している」と話す。

商品企画部・チーフの橋本智志氏

橋本氏:サイズもそうですが、消費電力も単純比較で、初代モデルに比べ3分の2になっています。これは、Cellが45nmプロセスに、RSXが65nmプロセスに変更になったことが大きな理由です。RSXは80GBモデル(CECHL00)とほぼ同じものを利用していますが、今後も継続的にシュリンクを行なっていきます。音声出力などのクオリティも、商品としてのスペック上、変化はありません。

 薄型モデルでは、既存モデルに比べ、電源ケーブルが2芯のいわゆる「メガネケーブル」になっているなど、小型/薄型化のために変更になった部分が少なくない。それらは、ごく小さな音質の差を大切にするピュアオーディオの分野で、なんらかの差を生み出す可能性もある。だが、それは初代モデルとそれ以降のモデルの間でも起こりうるレベルの話であり、薄型だからどうこう、という話ではない。一般的なテレビやAVアンプにつないだ場合、「従来モデルと同じ」と考えていいだろう。

 他方、気になるのはやはり「静穏性」だろう。

橋本氏:主観になってしまう部分もありますが、動作音については、動かしてみると実際には小さくなったのではないかな……と感じます。最大にファンが回った時の音は変わらないのですが、そこまで必要とするシーンというのがすごく少ない。省電力化により、ファンを高速に回さねばならないうシーンが少なくなっています。ですので、今回のものの方が、基本的には静かになっていると思います。初代モデルよりも80GBの方が静かに感じるでしょうし、さらに今回のモデルの方が、それよりも静かに感じるはず、と考えています。

 PS3のファンコントロールは、内部的には10段階の動作に分かれている。そもそも、ファンの回転速度が速い=動作音が大きいレベルというのは、外気温が高かったり、長時間高負荷で動作させ続けた場合に起きるもので、多くの場合、ファンの回転数は低く抑えられている。実のところ、ゲームをプレイしたりDVDをアップコンバートしながら視聴したりしても、相当条件が悪くないと、「一番うるさい状態」には到達しにくい。すなわち、動作状況や置かれている場所により、PS3の動作音は大きく異なる、ということである。80GBモデルが投入された際には、PS3の動作音のスペックが示されていたが、今回SCEはそれを示していない。その理由は、「動作音を隠したい」という意図ではなく、「状況によって大きく変化するので、正しく数値を示しづらい」という判断からであるようだ。

 すでに述べたように、薄型モデルではCellの半導体製造プロセスルールが、それまでの65nmから45nmに変更されている。その結果、最も大きな発熱源であったCellの消費電力と発熱も、かなり抑えられたものと推察される。どうやら「放熱能力を最大限に発揮しないと厳しい状態」では、既存のPS3と同様の騒音になるものと思われる。だが、発熱が抑えられたことにより、そもそも「積極的にファンを回さねばならない」シーンが減った結果、体感の静穏性は向上したように感じられる場合が多い、という形になっている。

 基本的な性能では変化はないものの、新機能として追加された部分もある。それは主にHDMIの機能である。

橋本氏:新機能としては、ドルビーTrueHD、およびDTS-HD Master Audio音声を、HDMI端子からビットストリーム出力できることと、HDMI CECへの対応が挙げられます。これは、PS3に使われているHDMI処理用のチップを変更したために可能となりました。ですので残念ながら、既存モデルでは対応できません。CECは、動作保証を行なうのは、基本的にソニーの「ブラビアリンク」のみです。

 これまでも、ロスレス・音声コーデックでのビットストリーム出力や、HDMI CECへの対応は、PS3に強く望まれてきた。だが、PS3はHDMI普及の初期段階で開発された機器であったため、採用していたHDMIトランスミッターLSIが、これらの機能に対応していなかった。薄型モデルの開発にともなう再設計の際に、新しいHDMIトランスミッターが採用され、ようやく対応したということだ。

 他方、HDMIはさらに進化を続けている。「HDMI 1.4」では、HDMI上にEthernetを重畳、Ethernetケーブルを使わずにネットワークへ接続できる、という機能が追加される。しかしさすがに、そこまでの対応は行なわれていないようだ。

橋本氏:HDMI 1.4での、Ethernetの重畳に関する機能は、今回のモデルには入っていないです。対応しようと思うと、おそらく、もう一段ハードウエアを変えないといけないと思います。注目はしているのですが、現状ではHDMIの仕様として、誰がゲートウエイの上位になるのか、といったことも固まっていないので、まだまだ先になると思います。

 逆に削減されたのが、「Other OS(他のシステムのインストール機能)」のサポートだ。初代から80GBモデル(CECHL00)までのPS3では、PS3ネイティブの通称「Game OS」の他、Linuxを中心に、他のOSをインストールして併用する機能が搭載されている。AV系では、フィックスターズがMPEG-4 AVC/H.264のエンコードを高速化する「CodecSys CE-10」にて、この仕組みを活用していた。しかし薄型PS3からは、他のOSのインストールそのものが出来なくなる。

ネットワークプラットフォーム開発部11課 1グループ吉増氏

高瀬氏:基本的には、PS3専用のソフトウエアを利用していただきたい、ということです。PS3はすでに2,000万台出荷しています。今後も、それらのモデルでOther OSインストールの機能を排除することはありませんので、そのままお使いいただけます。Other OS機能がセキュリティ対策の上で穴になるから、という見方をされる方もいますが、PS3では、非常に強固なセキュリティ対策が行なわれており、そういった問題はいまのところありません。どちらかといえば、その分のサポートパワーを軽減する、といった意味合いが強いです。

 残念ではあるが、利用率の低いOther OS機能をカットしなければならないほど、低コスト化の要求が大きかった、ということなのだろう。

 同様に、コスト削減の目的で変更されたのが、電源やディスクイジェクト用のボタンである。これまではタッチセンサー式であったものが、一般的なタクトスイッチになった。ただしこの点については、単に低コスト化だけが目的ではなかったようだ。

ネットワークプラットフォーム開発部11課の高瀬昌毅課長

高瀬氏:従来、電源スイッチで電源を切る場合には、電源スイッチを2秒押し続けないと切れませんでした。それは、不意に間違ってスイッチに触れた場合でも電源が切れないように、という配慮からだったのですが、「分かりづらい」という声も少なくありませんでした。そこで薄型からは、タクトスイッチを押すとすぐ電源が切れる形に変更になっています。物理的なスイッチなので、間違えて押す、ということもないですから。

橋本氏:実は、せっかちな方だと、タッチセンサー式のスイッチの反応が待てず、背面の強制電源スイッチで止めている、という方もいらっしゃったようです。そうすると、HDDにデータを書き込みしている最中でも電源が切れてしまうので、データ破損などの原因になっていたんです。

高瀬氏:今回は、背面のスイッチもなくなり、電源スイッチを押して電源を切る場合には、必ず出来る限り安全な状態で電源が切れるようになっています。

 HDDは従来底面から入れていたが、今回より前面から入れる形となった。交換の際には、底面にある隠し蓋を開け、プラスドライバーでビスを1本抜いて作業を行なう。隠し蓋にするのはコストがかかるが、「絶対にネジは見せたくない」(橋本氏)というこだわりから、採用された機構だ。

 ちなみに、具体的にどのくらい低コスト化できたかについては、「ノーコメント」(橋本氏)だった。ただし、相当な低コスト化が行われたことは間違いないようである。

電源スイッチは、タッチセンサーからタクトスイッチに。シンプルな機構にすることでのコストダウンに加え、「トラブル回避」という狙いもあったという薄型PS3でHDDを交換する場合には、まず底面の「隠し蓋」を空け、プラスドライバーでネジを外す必要がある。HDD自身は、ドライブ下部の前面から入れ替えを行なう

 


■ ロゴは「よりなじんだものへ」の変更。ロードが「ちょっぴり」高速化

 薄型PS3では、ロゴが大文字の「PLAYSTATION 3」から、PS2時代と同様の「PlayStation 3」へと変更になっている。また、本体側面に書き込まれていたロゴも、「PS3」というシンプルなものになった。これは、どういった意図で行なわれた変更なのだろうか?

橋本氏:従来よりもさらに広い層に普及させていきたい、ということで、ソフトもハードも、受け入れていただきやすいやわらかいデザインを目指しました。そこで、視認性も高く、これまでのプレイステーション・ロゴと統一性も高いものに変更した、ということです。

 ちなみに、PS2と既存型のPS3では、縦置き・横置き両方に対応できるよう、PSロゴが「回転」するギミックがつけられていた。だが、薄型ではなくなっている。

橋本氏:今回の薄型は、横置きをメインに考えていまして、回転ロゴがなくなりました。コスト的には微々たるものなんですが……。ロゴデザインも、今回からシルバー単色のシンプルなものになったため、回転させるより浮き出している形にした方がデザイン上良い、と考えたためです。

 補足しておきますが、別売のスタンド(CECH-ZS1/2,000円)を買っていただければ、もちろん縦置きでも使えます。放熱などの特性にも問題はありません。

 もうひとつ気になる点がある。既存モデルでは、ゲーム起動時に「PLAYSTATION 3」のロゴが表示されているが、これはどうなるのだろう? 「PlayStaion 3」なのか、「PS3」なのか? 答えは実に意外なものだった。

橋本氏:薄型ではですね…… 実は、PS3のロゴは出ません。

高瀬氏:といいますか、実は、システムソフトウエア・バージョン3.0からは、既存モデルについても、ロゴは出なくなるんですよ。

 本体起動時に、これまでソニーコンピュータ・エンタテインメントの文字が表示されていましたが、3.0からは、プレイステーションのファミリーロゴと、「PS3」ロゴ・「PlayStation 3」ロゴが同時に表示されるようになります。

システムソフトウエア3.0導入後の起動画面。「PS3」のロゴが出るのはここだけになり、「PLAYSTATION 3」ロゴは姿を消した

橋本氏:要するに、PS3専用のゲームだけでなく、ビデオやフォトなど、PS3上で動くすべてのコンテンツが「PS3のコンテンツ」だ、という発想になったんです。ですから、ゲームを起動する時にロゴを出すのは止めました。毎回出すよりは、起動時に1回、ロゴを出してそれを示してしまおう、という考え方です。ですので、ロゴを出さない分、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけですけど、ゲームの起動が速くなったんです(笑)。ただし、PS1のタイトルを動かす時には、エミュレータの仕様上、いままで通りロゴが出ますが。

 そういった事情から、新機種だけでなく、既存モデルに関しても、システムソフトウエア3.0を導入後には、「ソフトウエア上みかけるすべてのPS3ロゴ」が、「PS3」もしくは「PlayStaion 3」ロゴに変更になるという。

 なお、薄型PS3に関しても、製造上の事情により、出荷時のシステムソフトウエアは3.0ではない。購入後ネットワークにつなぐと、既存機種同様、アップデートが行なわれる仕組みになっている。

 


■ システムソフトウエア「3.0」ではPSNへの「導線」を重視

 薄型モデルの話はこのくらいにして、ここからは、9月1日に公開される「システムソフトウエア3.0」に話を移そう。

 3.0で、外見上最も目立つ変更は、画面上に大きな「情報表示」が追加されたことである。「What's New」という名称の機能で、新着情報を表示するためのものである。

システムソフトウエア3.0の、起動直後の画面。必ず「What's New」にカーソルが合うようになった。内容は、ネットワーク経由で自動的に更新される。一番上が「各国のお勧め」、二番面が「ユーザーが最近使ったコンテンツに関するお勧め」、それ以降が「プレイステーションに関わる新情報」になる

橋本氏:情報はすべてネットワークから取得します。実はこれまで、起動直後には「ゲーム」列にカーソルがあたるようになっていたのですが、3.0からは、「ネットワーク」列の「What's New」にあたるように変更になっています。

 設定を変更すれば、以前同様ゲーム列からスタート、という形にもできますが、我々から「いまこんな面白いことをやっていますよ」という情報をお伝えできるよう、変更を加えた、と思っていただけるとありがたいです。

高瀬氏:従来はディスクが入っていると、自動的にディスクから起動していましたが、3.0からは自動起動せず、What's Newが表示されます。本体を起動したタイミングで、最新情報をできるだけユーザーに提供したいという思いから、仕様を変更しました。ただし、挿入したディスクのアイコンにフォーカスが当たる位置まで自動的に進む設定に変えることも可能です。

 What's Newで表示されるのは、ネットワークサービスである「PlayStation Network」(PSN)の情報だけではない。

 例えばWhat's New表示の一番上は、ユーザーの属する国のSCE、日本ならばSCEジャパンからのお勧め情報であり、新ハードやソフトの紹介が主。二番目の列は、ユーザーが直近に触れた3つのコンテンツに関する最新情報が表示されるようになっている。例えばゲームならば、そのゲームの追加コンテンツや公式サイトなどの情報だ。そしてさらにそこから下には、主にプレイステーションに関わる新着情報が表示されることになる。

 こうした新しい導線は、「ネットワーク」列だけにあるわけではない。ゲーム列やビデオ列にもそれぞれ存在しており、そこでは、PlayStation Store上の「ゲームに関する新着情報」「映像配信に関する新着情報」が見られるようになっている。

XMBのまま、操作しないで放置するとこのような画面に。What's Newの情報が、順番に画面上に流れていく

橋本氏:ゲームのダウンロードコンテンツが配信されたとか、ネットサービス内でこんな「祭り」状態になっていますよ、といったことは、これまでの場合、ご自身で公式サイトなどにアクセスしてもらわないと分からなかったんです。前のめりな方でなくても、最新の情報に接していただけるようになります。

高瀬氏:What's Newをクリックすると、その情報がある場所へと直接ジャンプしていきます。例えば、トレイラー公開のお知らせであったら、選択すると直接映像の再生が始まります。ウェブサイトへのリンクだったら、ウェブブラウザーが起動して表示されます。

 これまでですと、PSNかウェブブラウザーを自分で開かねばなりませんでしたが、その必要はないです。いわば、ネットワークコンテンツへの「ユーザー導線」になるよう工夫されているのです。

 どのゲーム機でも、iPhoneのような携帯端末でも、ネットワークコンテンツへ誘導は大きなテーマとなっている。どんなコンテンツが登場したのか、どんなものが人気なのか、といった情報に触れづらいため、結局一部の人気コンテンツしか利用されない、という状況になりやすい。XMBにPSNの導線を組みこむことは、そういった問題を解決するためのアプローチといえる。

 従来、PS3ではその役割を、画面右上にあった「インフォメーションボード」が担っていたが、3.0からは「基本的になくなります。What's New のテキスト情報が、時計と一緒に表示されるだけになります」(橋本氏)という。

高瀬氏:実はですね、画面右上の時計のうち、アナログ時計の表示は、「ビジーインジケーター」になっているんです。ウェブブラウザーの読み込み時などには、時計がクルクル回って、動作中であることを示します。分かってくれるといいんですけどね(笑)。

 XMBにネットワーク情報の表示を組みこむことにあわせ、「3.0」では、ユーザーインターフェイス表示全体の見直しも行なわれれている。

高瀬氏:実は、文字やアイコンの表示も、サイズを少し大きくしています。これまでは「ハイデフの精細感」を重視していたんですが、フォーカスがあたっている部分を大きくし、よりわかりやすくしたんです。

 設定項目にも、ひとつひとつに文字で説明が表示されるよう、変更を加えました。これが意外と大変なんですよ。なにしろ、16カ国語分ありますので。

 XMBに関しては、もうひとつ大きな変化がある。これまでは静止画+アイコンが基本であったが、3.0からは動画などを使った、よりダイナミックに動く背景を使ったテーマが使えるようになる。標準の波打つような映像のテーマについても、細かな光球(パーティクル)が動くものに変更されている。

橋本氏:背景については、ゲーム開発に使うSDKを利用して作っています。ですから、一般的な静止画や動画とは、ちょっと違います。

高瀬氏:細かい話ですが、メニューの動作によって、パーティクルの動く方向が違うんです。下にスクロールすれば下の方に、左にスクロールすれば左の方に、パーティクルが流れるようになっています。

 よく見ると、パーティクルは上下だけでなく、XMBにオーバーラップする形で、細かく前後方向にも動く。ゲームのSDKを使うだけあって、以前に比べ相当に細かく制御できるようだ。残念ながら、そういった複雑なテーマの開発方法は、個人には公開されないようだ。いままでと同様、静止画をベースとしたテーマならば、個人でも製作は可能だ。

 


■ ついにDTCP-IPに対応! アナログスティックを使った「新トリックプレイ」に注目

 本連載の読者ならば、やはり気になるのは、AV面での機能強化だろう。特に今回の目玉は、DTCP-IPのサポートである。2007年5月にDLNAをサポートして以降、デジタル放送の録画番組を見るためにも、待ち望まれていた機能の一つといえる。

吉増氏:動作確認を行なっているのはソニーのブルーレイレコーダだけですが、MPEG-2やAVCなど、一般的なコーデックはすべてサポートしていますし、音声についても同様ですので、多くの機器に対応できているものと期待しています。また、シーンサーチ機能や、早送りなどのトリックプレイも使えます。ただし、逆方向へのコマ送りとスローだけはできないのですが。

 時間がかかった理由には、技術的な点もあります。PS3の中で、DTCP-IPの定めるセキュリティ条件を満たすのがなかなか難しかったのです。

高瀬:全体の機能の中での優先順位、という問題もありました。この機能は、録画に関する著作権保護の厳しい、日本でのみ求められる機能ですので……。ただ、各方面との調整など、技術面以外の問題も大きかったのも事実です。要望が多かったのは理解していたのですが。

 吉増氏のコメントにあるように、現時点で動作検証が終了しているのは、ソニーのレコーダと組み合わせた場合である。

 その中には、26日に発表されたばかりの新機種も含まれる。DTCP-IPを利用するものというと、スカパー! HDのネットワーク録画があるが、こちらもSCEからの情報によれば、「ソニーの新機種内に録画されたスカパー! HDの番組については、DTCP-IP経由での再生が確認されている。NASや他社のレコーダーでの動作状況は、まだ確認が取れていない」という。なお、スカパー! HDのチューナの録画映像を直接PS3内に蓄積したり、他のDTCP-IP対応DLNAサーバー内にある著作権保護された映像を「ムーブ」したりすることはできない。DLNAサーバーとしての機能も備えていない。

 取材中、DLNA+DTCP-IPによる再生を実際に体験してみたが、確かに何の問題もなく再生できた。現行のシステムソフトウエアでは、著作権保護されたコンテンツの場合、映像のタイトルすら取得できず、「未対応データ」になってしまうが、3.0以降では下の写真のように、きちんとタイトルが表示される。

 この写真にて映像のサムネイルが取得できていないのは、「DLNAサーバー側の実装に依存するもの」(吉増氏)であり、サーバー側がサムネイルを出していれば、PS3側でも表示できるという。

SCE社内に配置された、DLNAに対応したソニーのBDレコーダーを、PS3経由でのぞいた画面。以前と違い、きちんと番組名が取得できるようになっている現行ファームウエア(2.80)では、ジャンルまでは表示されるが番組名は取得できない

 なお、1点だけ注意が必要なのだが、DTCP-IPの機能を使うには、まず1度「ネットワーク認証」を行なう必要がある。Windows Media Audioの再生機能などでも必要になったものだが、その方法が少々特殊になっている。3.0にアップデートした直後には、ネットワーク認証をするための設定項目が「隠れている」からだ。

 まず、認証を行なうまえに「再生」をしてみる必要がある。すると、DTCP-IPが必要であることを認識し、「DTCP-IPが有効になっていません。[設定][本体設定]でDTCP-IPを有効にしてください。」という表示が出る。そこでXMBに戻ると、初めて設定項目の中にネットワーク認証の項目が現れ、設定が行なえるようになっている。

 このような面倒な方法になっている理由は、「海外など、DTCP-IPが不要な地域では、設定項目そのものを見せないようにするため」(橋本氏)だという。

DTCP-IPの設定項目。従来通り「設定」の中にある。今回より、設定項目の内容を説明するテキストが表示されるようになっている

 PS3で見るメリットは、なんといっても動作の軽さだ。ローカルファイルを見る場合とさほど大差なく、快適に見られる。吉増氏のいう通り、PS3の持つ各種トリックプレイが使えるのも大きい。

 DLNAは基本的に映像を素直にストリームで送るだけなので、レコーダ側で設定されたチャプター情報が使えない。そのため、「チャプターに対応するには、特定のレコーダーに特化した仕様にせざるを得ない」(吉増氏)という。そこで、サムネイルを出してシーンを選択できる、シーンサーチのような機能が有効なのだ。

 そしてもう一つ、3.0から追加されたトリックプレイ機能が、大きな役割を果たす。事前に公開された「追加機能リスト」の中に、「右スティックを使った早送り・巻き戻し」という項目がある。実はこの機能、かなり変わった操作性を備えたものだったのである。

 再生中に右のアナログスティックを倒すと、映像はまず「一時停止」になる。そこから、スティックを時計回りに「回す」と、映像が1倍速までの「スロー再生」、1倍速から4倍速までの「高速再生」になる。逆に反時計回りに回せば、同様にスロー逆再生・高速逆再生になる。スティックを回した角度に合わせて速度が変わる「ジョグシャトル」のような機能と思えばいいだろうか。画面左下には、現在の再生速度と再生方向が、アナログスティックの「回転状況」と合わせて表示される。

アナログスティックを使った早送り中の画面。画面左下に「リング」が現れる。このリングは、アナログスティックの「枠」だと思えばいい。スティックを12時の位置から回した角度にあわせ、再生速度が0.01倍速刻みで、4倍速まで変化する。1倍速から2倍速までは、音声も、リニアに速度を追従させつつ再生が行なわれる

吉増氏:再生速度の区切りは0.01倍速単位です。順方向の再生の場合、2倍速までは、リニアに音声の再生速度も変わります。もちろん、DLNAでも利用可能です。

高瀬氏:この機能は、「映像の好きな場所を簡単に見つけたい」というニーズから生まれたものです。ですから、スティックから手を離すと「1倍速再生」に戻ります。

 せっかくパッドを使っているので、それを生かした快適な操作方法はないか、ということで、まずブルーレイプレーヤー機能の開発を行なっているチームから提案がありました。その後、動画ファイル再生機能の側でも有用だろうということで、そちらにもあわせて搭載されました。今回、バージョン3.0になるのを待って、同時に実装したわけです。

 音声の「同時出力」に対応したのも、便利なポイントといえる。例えば、HDMIと光出力を併用する場合、以前は毎回設定変更が必要になったが、3.0からは同時出力ができる。

橋本氏:映像出力で設定したメインの出力は、5.1chや7.1chでの出力も行なわれますが、それ以外の出力についても、5.1chまでの出力設定のとき、すべて2chにミックスされて出力できるようになります。

吉増氏:なかなか実現できなかったのは、ゲームなどで様々な出力形式に対応している場合、動作検証が難しかったためなんです。

「音声同時出力」をオンにすると、メインの音声出力以外の端子からも、2chの音声が同時出力されるようになる

 なお、事前公開された追加機能リストには含まれていなかったが、3.0にて「音楽系」の機能も強化されていることがわかった。

 2007年5月に公開された「1.80」以降、音楽CDについて、88.2KHzもしくは176.4KHzへのアップコンバートが行なわれている。この機能はこれまで、音楽CDにのみ適用されるものであったが、バージョン3.0以降では、ハードディスク内やUSBで接続された各種ストレージ内にある音楽ファイルに関しても、同様のアップコンバートが行われるようになったという。

 PS3の場合、WAVでの音楽取り込みに対応していない上に、WAVファイルではタグ情報の管理機能がないため、曲名やアーティスト名などの管理ができない、という欠点がある。そのため、「ファイルからのアップコンバート再生」を狙って、PS3だけで音楽ファイルの管理を行なう、というのは、あまり現実的ではない。音質面での強化が行われたのだから、次には「ジュークボックス的な楽曲管理機能」の強化を望みたいところである。

 


■ ハードにあわせて「メジャーバージョンアップ」。サービス基盤の整備が目的か

 その他細かい点としては、ウェブブラウザーにて、表示中のウェブのスクリーンショット保存と印刷が出来るようになっている。

ウェブブラウザでは、印刷とスクリーンショットの保存機能が追加に。印刷に対応しているのは、特定のプリンタに限られるが、LAN経由での印刷も出来る

吉増氏:プリンタについては、USB接続の他、LAN経由でも利用できます。実は、DLNA 1.5の機能を利用したものなのです。ただし対応しているのは、エプソンやキヤノン、HPなどの特定の製品のみです。詳しくは、プリンタメーカー側が公表している情報をご覧ください。

高瀬氏:ウェブの情報をデータとして保存する機能がないので、まずは印刷とスクリーンショットから、という気持ちで対応しています。またプリンタメーカーの皆さんから見ると、ニーズの拡大という意味で、PS3での印刷対応は望まれていた、という部分もあります。

 また、「コピー&ペースト」の機能も拡大しています。これまでも、ブラウザ内ではコピー&ペーストができたのですが、フォームの中などで利用できなかった。ウェブからブログへ情報を貼り付ける、といったことができるようになります。

 また、PSNのフレンドへのメッセージでも、コピー&ペーストに対応したので、ウェブのアドレスや情報などを、メッセージに貼り付けて送る、といった活用が可能になります。

 ここまでの情報でおわかりのように、「3.0」は、PS3のシステムソフトウエアにとって、かなり大きなアップデートといえる。このところ、システムソフトウエアが話題になることは少なかったが、それにも事情があったようだ。

高瀬氏:今回は、ハードウエアの登場に合わせて、「狙って」3.0へとアップグレードしました。正直に言うとこれまでは割と、「地道にアップデートしていたら、バージョン番号が2に近づいたので”2.0"にした」という感じで決めていました。そういう意味では初めて、意図的にメジャーバージョンを上げた、といえるかも知れません。

橋本氏:ゲームへの(システムソフトウエア更新の)影響については、同時にSDKに変更が加えられているので、変更があります。しかしそれは一般論でいえば、数カ月後、ゲームタイトルが出た時に影響が出てくるもの、ということになります。

吉増氏:HDDがありますから、システムソフトウエアのサイズそのものには、まだまだ機能アップの余裕があります。ただ、様々な他の機能と「同時に動く」ものについては、メモリー容量の問題もありますので、調整をしながら進めていかなくてはいけません。でも、まだまだやることはあります。今後とも、要望を見て検討していきたいと思います。

 東京ゲームショウに向け、SCEはまだいくつかの「発表」を残している、と言われている。その多くは「ゲームタイトル」そのものだろうが、中にはシステムソフトウエアの絡む「サービス」などが含まれる可能性もある。3.0は、DTCP-IPなど、AV面で大きなトピックもあったが、特に「PSN」を生かすための機構が組みこまれたアップデートだったといえる。SCEにとっては、「次の成長」を目指す上での基盤整備であるのだろう。

(2009年 8月 27日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]