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パナソニックに聞く「4K VIERA」の画質向上。「AX800」でプラズマ越えを

 パナソニックは、2013年にテレビ戦略を大きく変えている。プラズマディスプレイを軸にしたやり方から、液晶を軸にした商品作りになっている。そして、そのフラッグシップとなるのが、4Kパネルを使ったVIERAシリーズだ。4Kという解像度はプラズマディスプレイでは難しかった一方で、プラズマの発色の良さなどを評価し、液晶への移行に不信感を持つ人もいる。

 そんなこともあってか、パナソニックは4K VIERAにて、「発色」の改善を強くアピールしている。では、そうした製品はどのような背景で生まれ、どこに改善ポイントがあるのだろうか? また、高画質化における4Kと発色の関係を、パナソニックはどう考えているのだろうか?

 今回は、現行商品である「VIERA AX800シリーズ」について、同社のテレビ技術担当者と商品企画担当者に話を聞いた。お答えいただいたのは、パナソニック・アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 テレビビジネスユニット 電気設計グループ 第二設計チーム 設計第四ユニットの清水浩文氏と、同 商品企画グループ 日本チーム 主事の野村美穂氏だ。

パナソニック・アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 テレビビジネスユニット 商品企画グループ 日本チーム 主事の野村美穂氏(左)と、同電気設計グループ 第二設計チーム 設計第四ユニットの清水浩文氏(右)

「プラズマに負けない」画質を目指すAX800、液晶的な「ゆがみ」を補正で解消

 清水氏は、AX800で使われている高画質化技術について、次のような方針であたっている、とまず説明した。

テレビビジネスユニット 電気設計グループの清水 浩文氏

清水氏(以下敬称略):プラズマからは撤退しましたが、ファンの方は非常に多い。「プラズマは高画質、広色域」という点を評価していただけていました。ならば、そうした方々にも満足していただける液晶テレビを、ということを考えました。

 昨年秋に投入した4K対応VIERA「WT600」と今春の「AX800」の差は、パネルを広色域化したことです。

 より忠実な色再現を目指すということは、「ヘキサクロマドライブ」で実現しています。ヘキサクロマドライブとは、いわゆる三次元のカラーマネジメントシステム、マスモニなどで使われているルックアップテーブル方式を指します。

 広色域、いわゆるDCI規格の色域にも対応しています。液晶は最近やり始めたところですが、プラズマではずっとやっていました。いわゆる「ハリウッドカラーリマスター」と呼んでいるものです。液晶にも、プラズマで培った信号処理を盛り込んでいます。

 この際重要なのは、単純に色域を伸ばすのではなく、肌色などの残すべきところは残し、それ以外は伸ばす、ということです。

 プラズマの良さとして「映画での再現力がいい」と言われます。どういうところが評価されていたのかというと、暗いシーンでの質感です。プラズマは自発光なので、当然そういったシーンは得意です。液晶という投写型のデバイスでどう表現するかを、あらためて見直しました。

 暗い映像では、色域が、縮んでねじれる傾向があります。これはプラズマにはない特性です。極端な例としては、赤が朱色やピンクにねじれます。物体としては同じ色でないといけないのに、明るさによって発色が変わってしまってはいけません。そこで、そうした「ねじれ」を戻して、BT.709(筆者注:放送業界やBlu-rayなどでの標準規格の色域)を再現しています。

 信号処理の黒の再現性、そしてバックライトの制御見直しにより、プラズマの色、黒の質感を目指したのが今回の製品です。WT600の色域は、DCI比で87%でした。今回、シート構成やLEDの見直しで、DCI比98%になりました。ヘキサクロマドライブにより、明るいところはカラーリマスターをかけ、液晶では暗いシーンでの「ひずみ」にも応用展開しています。こうした処理はプラズマでは不要でしたが、液晶では必要です。

 単にプラズマと見比べるだけでなく、映画をどう表現するかが重要です。PHL(パナソニック・ハリウッド研究所)にセットを持ち込んで、実際にプロジェクターで映画を表示した映像と比較しながら、映画の風合いが再現できるよう、いままで以上にこまかく調整を繰り返しました。

TH-65AX800。スタンドを一体型し、画面を上方向に傾斜させたスラントデザインも特徴

 ここで、AX800に関する筆者の感想を述べてみたい。単純な明暗コントラストでは、他社製品に劣ると感じる。暗い部分で圧倒的に暗い、というほどではない。しかし、色合いについては、確かにいままの液晶のイメージとはちょっと違う。なんというか、きつさや不自然さの少ない、満足度の高い色合いだ。清水氏の主張する通り、暗くなった時にも色がずれていく感じがせず、トータルで自然な色合いである。といっても薄味というわけではなく、特に赤・黄色の支配度が強い部分(例えば肌色など)では、よりしっかりとコクのある印象になっている。

商品企画担当のテレビビジネスユニット テレビ商品企画グループ 野村美穂氏

 商品企画担当の野村氏も、AX800を企画する上で考えたことを、次のように話す。

野村:パナソニックとしての絵作りは、やはり他社とは異なる、と多くの方に認識していただけている、という分析があります。好きな絵作り、好みの絵で見たい、という方にご支持いただけているはずです。4Kの1号機・2号機としても、まずは「パナソニックの絵作りを支持していただいたお客様」にご支持いただけなくてはいけません。それはコアなファンの方々に向けて、ということです。そうした方々だけを前提としているわけではありませんが、大切にしなければいけない要素です。

 フルHDの液晶の絵作りは、どうしても派手なものになりがちです。それに対しプラズマは、忠実な階調を見せる、無理に持ち上げない絵作りをしていました。

「色が暖かい感じがする」「ギトギトしていなくてきれい」と、今回の製品についても、そういうところをお気に召して購入していただいた方々もいるようです。プラズマファンだけでなく、新しい液晶、進化した画質を気に入っていただけた点が大切です。

 現在は4Kユーザーの幅も広がっており、ご高齢の方からも「きれい」「みやすい」と評価してお買い求めいただいているようです。

清水:4Kの映像を見ると、いままでのような絵作りをするとヘンになることがあります。せっかくの精細感のある絵から、立体感が失われます。ボケ感・遠近感・立体感を生かすには、フルHDのようなギラギラな絵より、忠実でぼけ味をもった絵の方が、伝わってくるものが多くなります。無理やりに、ないもの、解像感を出そうとした方が余計不自然に見えますね。

 つまり、「液晶はこんな感じだ」という絵作りの常識が浸透しているところに、「プラズマで培われた色」を持ち込んだことがAX800のアピール点であり、ポイント、ということになるのだろう。それは「4K」という解像度では横並びになる中で、「パナソニック」にあるブランド価値を生かすための作戦でもある。

液晶の強みを生かし「明るいプラズマ」的な評価に

 他方、プラズマと液晶はやはり違うデバイスである。そのため、いくら「プラズマの知見・経験を反映した製品」であっても、AX800とプラズマのVIERAは違うものだ。

 というと、プラズマの発色・コントラスト感を懐かしむような話につながりがちだが、筆者はそう判断していない。「4K」という解像度もそうだし、それ以外にも、液晶にはプラズマにない良さがあり、これからの製品ではそこを訴求すべきだ、という印象もある。もちろん、パナソニックもそれを理解している。ポイントは「明るさ」だ。

清水:液晶にもいいところがあります。それは、明るい部屋でもきれいだ、ということです。ですから今回の製品は「明るいプラズマ」的に使っていただければ、と思います。

 AX800はエッジライトですが、エッジ型で出来る最大限のことをしています。バックライトを消した時の黒の表現力に注力し、エッジでも黒をここまで出せる、というところまでもってきました。

 バックライト制御とガンマの見直しで、より良い画質を目指しています。これはチューニングの世界ですね。今までのモデルに比べ、大幅にバックライトとコントラストの制御を変えているんです。

 正直、「液晶ではこれぐらいしかできない」と思っていた部分もあるのですが、新しい技術とチューニングによって、「明るいプラズマ画質」といえるほど、大きく変えることができました。

 バックライトは、いままではあまり明るさを下げられなかったんです。階調を見せようとすると、どうしても一定より、バックライトを暗くするわけにはいきませんでした。しかし、ガンマの処理を見直すことで、もっと適応的に処理が出来るようになり、いままでよりも明るさを下げることもできました。

 他方、AX800は、現状、パナソニックのフラッグシップ機ではあるものの、他社のフラッグシップ機に対し、欠ける部分もある。バックライトが「エッジ式」で、直下型ではない、ということだ。CESで、パナソニックは直下型のものも技術展示を行なっているが、まだ商品化にはいたっていない。

清水:もちろん、直下型には直下の良さはあります。しかし、本体の厚みやコストなど、トレードオフとなる部分も色々あります。今回の製品では、エッジ型でもあきらめずに、高品質を実現した、とお考えいただければ幸いです。

 正直、直下かエッジかで(市場は)動いていないのではないか、とも思います。派手だったらいいということではなく、忠実な絵作りが重要です。まずは、エッジで画質を徹底的に追い込みます。その後に直下型で、という判断はあるかもしれません。

 弊社としては「エッジで、最高峰」。エッジでもここまでできる、ということを追求したつもりです。

画面を上方向に傾斜させたスラントデザインを採用

 現在、AX800の店頭価格は、他社の同サイズ製品と比較した場合、「4Kの下位モデルよりちょっと高く、上位機種よりはぐっと安い」という、中庸なものになっている。その辺は、パーツコストの違いによる部分だろう。パナソニックは、今後の製品計画について公表していないが、AX800が「ずっとフラッグシップ」というわけではないと予想される。

 とはいえ、AX800の画質が良好であることに変わりはない。直下型か否かで変わる部分よりも、バックライトの発色そのものや、液晶パネルのフィルターなどで変化する部分や、パナソニックが注力した「発色のコントロール」が効いているためだ。消費者として「どの4Kを選ぶか」といった場合には、スペックよりも実質的な画質とコストも重要になる。価格帯を考えると、AX800は検討に値する。

プライベートコンテンツから広がる4K、ネット対応を含め「先を見る」部分も

 4Kが普及しはじめたとはいえ、その販売台数はまだ多くない。高額商品なので注目が集まりがちだが、4Kそのものがメインの商材になるか否かは、今後の展開にかかっている。パナソニックとしては、現在の4Kテレビをどう考えているのだろうか? いわゆる「4Kネイティブコンテンツ」との関係はどうだろう? 「放送がなければ4Kテレビは時期尚早」という声もある。その中で、今の4Kテレビをどう位置づけるのだろうか。

野村:まずは地デジ、BDソフトを楽しんでいただく、という形かと思います。ご存じのように、テレビは買い換え期間が7〜8年です。そう考えると、一般の方まで4Kが浸透するまでにはまだ時間があります。今は放送は見れないが、先行きの安心感、は大切かと考えます。

 他方、その安心感という意味では、周辺機器やネットが持つ価値は大きいと考えています。YouTubeは4K化してきていますし、弊社のLUMIX GH4などでも手軽に4K撮影ができます。そうしたものを「普通に映してもきれい」という部分があります。特に、カメラのハイアマチュアの方々を中心にそうした部分が支持され、広がった世界ができつつあります。

 プライベートコンテンツの4K化、という部分は、どのメーカーも推す部分である。パナソニックもまずはそこで、と考えているようだ。特にパナソニックは、自社テレビソリューションの中で、YouTubeを気軽に見るための方法を訴求している。4Kでもその部分を、というのはよくわかるところだ。

 このところ同社は「スマートVIERA」の名称で、ネット接続機能と音声検索の連携や、UIの改善による操作性の向上を訴求している。そうした部分は、販売施策上どのような位置付けにあるのだろうか?

野村:残念ながら、店頭で訴求するという意味では画質が優先であり、操作性面での訴求はなかなか難しいとは思います。

 しかしもっと広い目でみると、スマホ・Wi-Fiなどの普及により、家の中で、テレビに限らずですが、VODなどを楽しむ環境は整っています。調査データでは、すでにテレビの3〜4割がネットに接続されている、と見られます。

 スマート系機能をなるべく簡単なものにし、誰もが使いこなせて、スマートフォンからのミラーリングがどのくらい簡単にできるか、が重要です。誰でも使える音声認識の機能を入れてあげることで、AV/ITが難しいという敷居を下げられるのでは、と考えています。

 そういった点は「買った後の安心」が基本コンセプトです。買う時には選択肢に上がりづらくとも、買った時の満足度は、非常に高い。ですから、次につながる要素として重要です。

VIERA AX800シリーズでは新UIを採用
付属リモコンを使った音声操作も

 他方で、AX800には、先々への準備として、HEVC映像デコーダも搭載している。HEVCは、今後の4K放送でも使われるが、AX800には4K放送のチューナーは内蔵されていない。そうした関係もあり、今年の4Kテレビでは、HEVC対応の状況がメーカーによって割れている。パナソニックとソニー、シャープはHEVCデコーダを内蔵しているが、東芝はしていない。どちらにしろ、放送用のチューナーはない以上、出荷時点では、HEVCのデコーダはほとんど使われていない。この辺の扱いはどうだろう?

清水:現状ではまだ使い方が定まっているわけではありません。しかし、HEVCデコーダがある安心感はあるかと思います。放送はチューナーがないので受信できません。現状では、HEVCデコーダを積んだ機器がどれくらい増えてくるか見えていない状況でもあります。

 ただ、ネット配信を考えると、H.264だけでは容量の問題で、扱いづらい側面があります。今のところ、弊社の内蔵デコーダでの扱いがどうなるか決まってはいませんが、日本国内でも、HEVCでの配信を検討しておられるところはありますので、色々な活用が考えられます。

 HEVCデコーダは、主に海外での用件で必須となりつつある要素だ。特にアメリカでは、Netflixが採用を決めていることもあり、必要とされている。現在の日本向け製品にも搭載されているのは、そうした要素からくる「おこぼれ」の面もあるが、日本においても、今後の映像配信をテレビ単体で受信することを考えると、デコーダの存在はプラスに働くはずだ。

 現在の4Kテレビは、多分にそうした「先々の予測含み」で動いている部分がある。画質に加え、そうした部分での見通しをどう評価するかが、選択の難しさの一つだと感じる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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