鳥居一豊の「良作×良品」

第87回

どっちを選ぶ? ソニー「ZX500」とFiiO「M11 Pro」。音も機能も魅力満点な2機種で「SW:ep9」

ハイレゾも音楽配信も、良い音で楽しむならば専用プレーヤーがいい

今回はポータブルプレーヤーを取り上げる。最近は音楽プレーヤーもデジカメも、携帯ゲームもほとんどがスマホに取り込まれてしまった感もあるが、専用機だからこその良さがあるのは間違いない。音楽プレーヤーにしても、音質の点では専用機の方が有利だし、最近のスマホは高級機を中心にヘッドフォン出力を省略したモデルも増えてきている。そんな流れをうけてか、最近の音楽プレーヤーは高級機を中心にバランス出力の採用が定着しつつある。有線接続でより高品質に音楽を楽しみたい人にとっても、専用の音楽プレーヤーは良いことずくめなのだ。

今回取り上げるFiiO「M11 Pro」(左)、ソニー「NW-ZX507」(右)

というわけで、手の届く価格帯でバランス出力を備えたモデルを探してみると、今回紹介するソニーの「NW-ZX507」(直販8万円)、FiiOの「M11 Pro」(同8万3,332円)が最新モデルとしてはどちらも高い人気となっている。ソニーのNW-ZX507は、ZXシリーズの最新モデルでAndroid OS搭載に回帰した。普及が進んでいる定額制音楽配信サービスに対応するためで、愛称も“ストリーミングウォークマン”とした。まだ詳細は検討中ということだが、今後は機能向上のためのアップデートがいくつか準備されているようで、将来性の点でも楽しみ。

FiiOはハイレゾ対応プレーヤーが注目を集めはじめたころから、コストパフォーマンスの高いモデルが多いことで知られてきた中国のブランド。最近は高音質を重視したモデルを投入し、ますます人気を高めてきている。M11 Proはその最新モデルだ。こちらもAndroid OS搭載で、音質にさらに磨きをかけている。さらに、筐体をステンレススチール(SUS316)とした上位バージョンも発売されている。なお、今回紹介するM11 Pro(Black)の筐体はアルミニウム合金だ。

NW-ZX507(左)とM11 PRO(右)。大きさとしてはM11 Proが一回り大きく、ディスプレイのサイズ差はさらに大きい。
手に載せてみたところ。ともに片手で軽快に操れるサイズだが、どちらもやや厚みはあるので、小さめのNW-ZX507の方がハンドリングは良かった

ともにAndroid OS搭載となる2台で、価格的にも同クラス。どちらを選べばよいか悩んでいる人も多いはず。まずはそれぞれのモデルをじっくりと見ていこう。

手の平におさまるコンパクトなサイズで、高音質を追求したソニー「NW-ZX507」

まずはソニーのNW-ZX507。サイズ感はZX300シリーズとほぼ同じで、Android端末と考えるとコンパクトなサイズだ。ディスプレイは3.6型で解像度は1,280×720ドット。搭載するフルデジタルアンプ「S-Master HX」は、最上位モデルのWM1シリーズ用に開発されたものを継承し、DSD音源のネイティブ再生(最大11.2MHz)、PCM音源は最大384kHz/32bitに対応する。さらに、CD音源や圧縮音源をハイレゾに近い音質で再生する「DSEE HX」も搭載。AI技術を採用し、楽曲のタイプを解析することでそれぞれに最適な音質でのアップスケールが行なえる。

ソニーのNW-ZX507。高音質とコンパクトさの両立を目指しており、従来モデルとほぼ同じサイズを踏襲。ポケットに入れてもかさばらず、手軽に使えるサイズ感

大きく変わっているのが、充電やPCとの接続用端子が、従来のWM端子からUSB Type-Cへと変わったこと。端子の位置もボディの左側面に移っている。これは、デジタル部とアナログ部のちょうど境目にある位置で、それぞれの回路の相互干渉を少なくできる場所だそうだ。

NW-ZX507の左側面にあるUSB Tyoe-C端子。充電やPCなどとの接続が専用ケーブルではなく汎用のUSB Tyoe-Cケーブルで行なえるようになったのは朗報

内蔵ストレージは64GBで、さらに増設用としてmicroSDメモリーカードスロットを1基内蔵する。上部にあるのがヘッドフォン出力で、3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの2系統となっている。どちらも真鍮部品で接続部の剛性を高めており、音質的に配慮しただけでなく、見た目の高級感も高めている。右側面には操作ボタン類があり、音量のほか、選曲操作などが行なえる。

左側面下側にあるmicroSDカードスロット。mciroSDHC、microSDXCに対応している
上面部のヘッドフォン出力端子。左が3.5mmシングルエンドで、右が4.4mmバランス端子
右側面部の操作ボタン。写真の右から電源、音量調整、再生操作ボタン、ホールドスイッチとなる

Android OS 9.0搭載となったことで、音楽再生機能もアプリ搭載という形になったが、このほかに音質設定のための機能もアプリとして搭載されている。イコライザーや「DSEE HX」といった機能の切替時は、「音質設定アプリ」を呼び出す。音楽再生アプリの起動中は、アプリの設定から「音質設定」を選ぶことでアプリが切り替わる。このため、音楽再生での操作感はこれまでのウォークマンに近い感覚になっている。

フルデジタルアンプ特有の低音感をアナログアンプに近づける「DCフェーズリニアライザー」や「ダイナミックノーマライザー」のほか、アナログレコードに近い感触の音を再現する「バイナルプロセッサー」も備える。

ちょっと面白い機能として、音楽再生時にカセットテープが回っているイメージで再現するスキンも備える。これがなかなかマニアックなレベルでこだわった代物で、再生する音源によってテープの種類が変わる。ノーマルテープやクローム、メタルとかつてのソニーのカセットテープのデザインが再現されている。再生している曲名がインデックス部分に表示されるし、きちんとスピンドルが回転し、曲の時間に合わせてテープの量が変化しているなど、芸が細かい。

出荷時の起動画面。搭載されているアプリは最小限で、音楽再生アプリや音質設定アプリなどがあらかじめ登録されている
プリインストールされている「高音質ガイド」という書類では、本機の高音質面での特徴を紹介している
設定でカセットテープ表示をオンにすると、カセットテープ画面に切り替わる。画面をタップすれば通常の再生画面に切り替わる
DSEE HXの設定画面。機能のオン/オフだけでなく、技術解説も掲載されている
DCフェーズリニアライザーの画面。タイプによって低音感が変化するので、好みに合わせて使い分けよう
アナログレコードに近い感触の音を再現するバイナルプロセッサー。単なるイコライザーではなく、思った以上にアナログレコードの特性を解析・再現しており、音の変化が楽しい

高音質の追求という点では、従来のZXシリーズで積み重ねた技術やパーツを惜しみなく使用している。アルミブロックを切削加工したシャーシの採用は従来通り。CPUや内蔵メモリーを搭載したデジタル部には金メッキ加工した銅切削ブロックを設置している。デジタル部のグラウンド安定性を高めてS/Nを向上している。このほかにも、バランス出力用アンプ部の電源に高分子コンデンサーを4基搭載するのをはじめ、ヘッドフォン出力のフィルターに採用した大型高音質抵抗、アンプからヘッドフォン端子への線材に使った低抵抗の無酸素銅ケーブルなど、高音質パーツを数多く採用している。

また、NW-XZ507はAndroid OS搭載ということで、オーディオ部とデジタル部を上下に分離した基板レイアウトを採用。相互の悪影響を排除し、S/Nを向上している。

高機能と高音質を高いレベルで実現。3系統のヘッドフォン出力を持つFiiO「M11 Pro」

今度はFiiOのM11 Pro。サイズ感は一般的なスマホサイズで、ディスプレイも5.15型(1,440×720ドット)と大きめだ。音楽プレーヤーとしてだけでなく、YouTubeなどの動画も楽しむならばより大きな画面というのは便利だ。SoCにはサムスンの「Exynos7872」を搭載し、デジタルオーディオプレーヤーとしては最高クラスの高速動作を実現している。そして、DACチップは旭化成エレクトロニクス製の「AK4497EQ」を左右独立構成で2基搭載。DSD11.2MHzのネイティブ再生に対応するほか、PCMは最大384kHz/32bitまで対応する。

最大の特徴が、3.5mmシングルエンドと、4.4mmバランス、2.5mmバランスの3系統のヘッドフォン出力を採用すること。ヘッドフォン用のバランス出力はこのほかにもいくつかあるが、ポータブルオーディオ用と考えれば、この3種類があればほぼ万全と言えるだろう。バランス出力に対応したヘッドフォンやイヤフォンに幅広く対応できるのは大きな魅力だ。

M11 Proを手に持った状態。ソニーよりは大きいが片手で持って使えるサイズだ
M11 Proの底面にある3系統のヘッドフォン出力。左側がバランス(4.4mm/2.5mm)で、右側がシングルエンド(3.5mm)。中央にあるのは充電用のUSB Type-C端子

操作ボタンは左側面にあり、ボリューム調整はダイヤル式。ボリュームについては、専用のアナログボリュームを採用。さらにADCボリュームコントロール機能を加えることで、細かな音量調整やギャングエラーの発生を抑えている。内蔵ストレージは64GBで、microSDカードスロットを1基搭載だ。

左側にある操作ボタン。上から再生/一時停止ボタン、ボリュームダイヤル、曲戻し/曲送りボタン。立体的な造形で操作性を高めている
右側には、増設用のmicroSDカードスロットがある。専用の金具を使ってトレイを出し入れるするタイプだ

実はM11 Proは見た目も含めてほぼAndroid OSだが、正確にはAndroid 7.0ベースのカスタム仕様だ。大きな違いとして、OSが標準で搭載するサンプリングレートコンバーターを回避する仕組みが加わっている。さらに、音楽再生専用として動作する「Pure Musicモード」への切り替えも可能。より音楽再生を重視した設計だ。

その代わりに、M11 ProはGoogle Playが利用できない。各種のAndroidアプリの追加は、「Applications」というアプリが用意されていて、音楽用アプリならば、SpotifyやDeezer、Amazon Musicと多彩な音楽サービスのアプリが利用可能だ。音楽プレーヤーとしてはまったく問題ないだろう。

こうした独自の機能には、8つのプリセットを備えた10バンドのイコライザー機能、すべての信号をDSD 2.8MHzに変換して再生する「DSD変換モード」などを備える。音楽プレーヤーとして十分な機能を持っている。こうしたオーディオ設定は、Android OSの「設定」アプリ、あるいは音楽再生アプリの「設定」から選択できるようになっている。「Pure Musicモード」への切り替えのみ、ディスプレイの上部から下に向けてスライド操作すると現れるメニューから切り替える。こうした操作自体はAndroid端末と同じなので、特に操作に困ることはない。

M11 Proの画面。基本的にAndroid OSと変わらないUIだが、内部的にはカスタム仕様となっている
スライド式のメニューにある各種設定切り替えで、「Pure Musicモード」への切り替えが可能。これを使うと、音楽再生専用の動作となる
「Applications」のMUSICの項目にあるアプリの一覧。国内外向けの多彩な音楽サービス用のアプリが用意されている
オーディオ設定の画面。このあたりはAndoroid端末と変わらない操作だ。独自の機能として、あらゆる音源をDSD変換して再生する「DSD変換モード」などもある。
オーディオ設定の画面での、DACのフィルター設定の選択画面。6種類のフィルター特性から好みのものを選択できる。
こちらは音楽再生アプリの設定メニュー。イコライザー設定やMQA再生のオン/オフなどが選択できる

より具体的に、両者の違いについてチェックしてみた

ここまでの紹介だけでも、同じAndroid OS採用モデルと言っても、ヘッドフォン出力や独自機能の有無でそれなりの違いがあることがわかる。実際にスペック表を並べて比べてみると、連続再生時間や機能には細かく違いがある。ここでは製品選びで重要になりそうな項目をピックアップしてみた。

まず、連続再生時間だが、NW-ZX507はバランス出力時で約9~19時間。ずいぶんと差があるが、DSD 2.8MHz再生時が約9時間で、FLAC 96kHz/24ビット再生時が約17時間、MP3(128kbps)再生時が約19時間。再生する音声フォーマットによって再生時間に差があるわけだ。M11 Proはバランス出力時で約8.5時間となっている。音声フォーマットによって差があるとはいえ、NW-ZX507の方が再生時間に余裕があるようにみえる。

続いては、ネットワーク機能や外部オーディオ出力について。これはM11 Proの圧勝。DLNA再生やAirPlayに対応し、USB DAC機能も備えている。NW ZX507はこれらには非対応。このあたりは、機能の取捨選択と高音質設計との兼ね合いで、それぞれの考え方の違いが浮き彫りになっているようで興味深い。

同様にボリューム調整もそれぞれ異なっている。M11 Proはすでに解説したようにOSのサンプリングレートコンバーターを回避するオーディオ処理を採り入れており、さらにアナログボリュームを採用する。音質調整のステップ数は120ステップだ。対するソニーは、Android OSの持つ音量調整と独自に搭載した「Master Volume」の掛け合わせで音量を調整する仕組みを採用。音量調整のステップ数は奇しくも同じ120段階だ。機能的な差はないが、音量調整周りのソフトウェアや設計でより本格的な作りになっているのはM11 Proのように感じる。

そして、最後は、音声出力。NW-ZX507は、50mW+50mW(3.5mmシングルエンド/ハイゲイン出力/JEITA 16Ω/mW)、200mW+200mW(4.4mmバランス/ハイゲイン出力/JEITA 16Ω/mW)。M11 Proは294mW以下(3.5mmシングルエンド出力/16Ω/THD+N<1%)、460mW以下(2.5mm・4.4mmバランス出力/16Ω/THD+N<1%)。あくまでも両者のスペック表での数値を比べただけではあるが、M11 Proの方がより大出力となっていることがわかる。

ちなみに、M11 Proは完全バランス設計のTHX AAA回路を採用していることも特徴のひとつで、より高効率で大出力、しかもS/Nに優れ、低歪みといった実力を持つようだ。もちろん、これに合わせて4系統独立の電源や金メッキ6層基板の採用、超高精度抵抗の使用など、音質にこだわった作りになっている。

かなりおおざっぱに両者のカタログスペックを比較してみたが、どちらも高音質を追求した作りであるのは同じとしても、ソニーはより小さなディスプレーの採用も含め、バッテリー寿命も意識した実用性との兼ね合いも考えた作りで、M11 Proはバッテリー寿命よりも高音質を重視した作りであるように感じた。果たして、こうした差が音質面でどのように現れるのかが実に興味深いところだ。

なお、この記事では詳しく紹介しないが、Bluetooth機能は当然どちらも備えており、対応コーデックも同じ。LDACやaptX HDといった高音質コーデックにも対応している。

いよいよ試聴! 今回は「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」を聴く

いよいよ試聴だ。試聴の前に今回の試聴で使ったイヤフォンなどについて紹介しよう。試聴曲は「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け オリジナルサウンドトラック」(192kHz/24bit FLAC)を使用した。試聴に使うイヤフォンはテクニクスの「EAH TZ700」を使用している。

「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け オリジナルサウンドトラック」

今回は、4.4mmバランス出力での再生をメインに聴いたので、ケーブルはONSOの「iect_01_b14m_b」を使っている。ONSOは日本のヒサゴ電材という会社の自社ブランドで、イヤフォン用の各種ケーブルなどを幅広くラインアップしている。ONSOを選んだ理由は、ケーブル素材がEAH-TZ700の付属ケーブルと同じPCUHD+OFCで、長さも同じ1.2mであるため。EAH-TZ700の付属ケーブルと一緒に比較試聴に使える同じグレードのケーブルとみなして試聴で使っている。

4.4mmバランス出力を中心にした音質レビューをすることにした理由は、スマホとの差別化を意識したため。当然ながら、Bluetooth再生であってもスマホよりも再生専用のプレーヤーの方が音質が良いはずだし、ユーザーもそれを期待しているだろう。バランス出力でより高音質再生が期待できるというのは、スマホを使った音楽再生からのステップアップの理由の大きなものになると思うからだ。ほぼすべてのヘッドフォンやイヤフォンで使える3.5mmシングルエンド出力の音質についても同じように重要だが、音質が良いとされるバランス出力に比べてどういう違いがあるか、そういう観点で紹介したい。

「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」はすでに多くの人が映画館に足を運んで楽しんだものと思う。筆者も丸の内ピカデリーのドルビーシネマ上映と、池袋グランドシネマサンシャインのIMAXシアター上映で見た。全9作の偉大なシリーズ作品としてみると、筆者としては全9作の完結となる作品として十分に満足した。人によってさまざまな意見はあるだろうが、ストーリーはもちろん、映像・音響的な見応えという点でも満足度はトップクラスで今からUHD BDの発売が待ち遠しい。

そういう作品のオリジナルサウンドトラックを購入するのは言うまでもない。自宅で、ポータブルプレーヤーで、いつでもあの物語を頭の中に蘇らせることができるからだ。それにしても、最初に公開されたエピソード4から40年以上も経つが、全9作をジョン・ウィリアムズが作曲を担当していることに改めて驚く。彼の紡ぎ出す音楽が、壮大なシリーズを構築する柱のひとつになっているのは間違いないだろう。

まずは、1曲目の「ファンファーレ&プロローグ」を聴いた。おなじみのいつものメロディーだ。壮大にして、物語が始まる期待感に満ちたファンファーレが鳴り響く。FiiOのM11 Proは、その金管楽器の音色を輝かしく鳴らし、大太鼓や打楽器などの低音楽器の音も力強く響かせる。そのため、スケール感が大きく、まさに壮大なイメージの演奏となる。

一方でソニーのWM-ZX507は、やや落ち着いた印象だ。出力の値に違いもあるが、聴感上同じ音圧を得るには音量を少し大きめにしている。絶対的なエネルギー感や音の勢いではM11 Proの方が上回っていて、曲のイメージには合う。そこで、WM-ZX507はハイゲイン出力として聴いた。EAH-TZ700は能率が高いので本来ならハイゲイン出力は必要としないが、音質的にもハイゲイン出力とした方がエネルギー感のある鳴り方になるし、芯の通った力強い低音の鳴り方もハイゲイン出力の方がマッチしていると感じた。

NW-ZX500の音質調整で「ソースダイレクト」を選んだ状態。イコライザーなど音質調整機能はすべて無効となる
NW-ZX500のOS側の設定でハイゲイン出力が選べる。2系統の各端子ごとに切り替えが可能だ。ヘッドフォンやイヤフォンのインピーダンスに合わせて選ぶのが基本だが、音質的にもより力強いものになると感じた

この状態でM11 Proと聴感上同じ音量になるようにボリュームを調整して聴いてみると、曲の壮大さや各楽器のエネルギー感の不足はなくなった。とはいえ、全体に整った音というか、バランスのよい鳴り方が大きく変わることはなく、M11 Proの方がエネルギー感は高く、金管楽器の輝くような音色も含めて鮮度の高い生き生きとした音になる。

このまま、2曲目の「エクセゴルへの旅」を聴く。エピソード7からの三部作は、フォースと暗黒面の相克がこれまでの作品以上に重く描かれており、クライマックスであるエピソード9ではよりシリアスなムードだ。なにより、カイロ・レンは前作でファースト・オーダーの最高指導者だったスノークを倒し、彼に変わってその座についている。そんなわけで、冒頭からカイロ・レンは暗黒面全開だ。ルーク・スカイウォーカーもその場所を探索していたというエクセゴルへと到達したカイロ・レンの孤独な戦いが描かれる。曲調も重厚感のあるシリアスなバトル曲で、M11 Proで聴くと力強い打楽器のリズムや厚みのある弦楽器の鳴り方はパワフルだし、切れ味もよい。

NW-ZX507もハイゲイン出力としたことで音の厚みや力強さの差はほとんどないが、曲の力強さを濃厚に描くというよりも、緊張感を高める木管楽器や金管楽器の音色を豊かに鳴らす。要所で帝国のテーマと言えるフレーズを採り入れ、ファースト・オーダーとそのさらに深奥で今なお生き続けるシスの暗黒面の不気味さがよく伝わる。迫力と雄壮さのM11 Pro、曲に込められたストーリーを語るように奏でるNW-ZX507、描き方は異なるが、どちらもなかなかの表現力だ。

それにしても、ジョン・ウィリアムズの曲は実に語り口が雄弁だ。ことに冒頭では、重々しくも力強さにあふれたメロディーと暗黒面の深奥に迫るミステリアスなフレーズが交錯し、映画を見ているかのようにストーリーが語られる。このあたりが、彼の楽曲の魅力と言えるだろう。

今度は3曲目の「スカイウォーカーの夜明け」。一転して優雅なイメージの優しい曲で、弦の音色が優しくそして情感たっぷりだ。M11 Proは、そんな優しいメロディーは鮮やかな音色で新鮮な感触で描く。曲の後半で、悲哀を奥に込めながら困難に立ち向かっていく力強さがしっかりと出る。NW-ZX507は、静かで落ち着いたメロディーを実に表情豊かに描く。個々の楽器の音も粒立ちがよく、音の構成を解きほぐすようにして語っていく。音場の広がりやステレオイメージの再現性も見事なもの。低音感は勢いやエネルギー感こそM11 Proの方がパワフルに感じるが、芯の通った低音の伸びや量感をともなった豊かな鳴り方という点ではNW-ZX507の低音再現も見事なものだ。

5曲目「スピーダー・チェイス」では、M11 Proの「Pure Musicモード」を試してみた。その名の通りのアクションシーンで使われる曲で、疾走感と緊迫感にあふれた曲だ。こうしたスピード感のある曲とM11 Proの鳴り方は相性もぴったりだが、「Pure Musicモード」に切り換えると、音の粒立ちがよくなり、音色もよりみずみずしいものに感じられた。音楽再生専用とすることで音への悪影響が減り、質感や細かな再現がより豊かになった。Android端末としての機能は大幅に制限されるものの、音楽再生時はぜひとも使いたいモード。NW-ZX507も楽器の音色をきめ細かく描くし、音場感では優れると感じていたが、「Pure Musicモード」ならばそうしたきめ細やかな再現でもその差はわずかだ。

M11 Proにはまだまだ奥の手がある。それが「DSD変換モード」。音声信号をDSD 2.8MHzに変換して再生するモードだ。弱点としては、連続再生時間がおよそ半分ほどになってしまうこと。電力消費が激しいのだ。このモードで7曲目「悪の賛歌」を聴く。混声のコーラス主体で静かにはじまり、やがて悲劇的とも言いたくなるほどドラマチックに展開していく。「DSD変換モード」では、音はより滑らかになり、表現もきめ細やかさが増す。特にコーラスの男女の声の描き分けなどが達者になり、表現力としては豊かになる。ただし、持ち味というべき出音の勢いの良さや切れ味のよい鳴り方は少々おとなしくなってしまう。電力消費が激しいこともあり、常用はしにくいモードだ。試聴でも、エネルギー感や生き生きとした鳴り方が好ましかったので、以後は「DSD変換モード」は使用していない。

M11 Proに比べると、NW-ZX507は「Pure Musicモード」や「DSD変換モード」はないのでいろいろと試すことは少ない。「バイナルプロセッサー」など音質調整の機能はあるが、それは少々趣旨が違う気もする。とはいえ、オーディオ的な分解能や音場感といった点ではNW-ZX507は十分に優秀で、「Pure Musicモード」などを使うとM11 Proも分解能の高さや音場感でも差がなくなるというイメージだ。両者の実力はまさしく互角で、それだけにそれぞれの持ち味の差がよくわかる。

ではいよいよ、クライマックスと言える11曲目「戦いの時」、12曲目「最後の決闘」、13曲目「レジスタンスの戦い」を聴こう。ファースト・オーダーと後ろに控えるファイナル・オーダーに対し、共和国のレジスタンスが戦いを挑む場面だ。戦いにおもむくレジスタンスの決意にあふれた心情、静かだが緊張感に満ちたメロディーといった表現力はNW-ZX507がなかなか聴き応えのある鳴り方だ。一転して出撃時の徐々に盛り上がっていく感じ、戦いの高揚感など、雄壮さや迫力はM11 Proがいい。

緊迫したムードを描く場面は、どちらの表現もなかなかのもの。M11 Proは力強さと勢いの良さがあり、テンションの高い演奏になる。エネルギー感たっぷりという感じの映画音楽として聴き応えのあるものだ。NW-ZX507はそれに比べるとやや落ち着いた印象になるが、テンションの高さはきちんと伝わるし、低音のエネルギー感をふくめて力強さも決して負けていない。パッと聴いた印象ではM11 Proの方が印象がよいのだが、NW-ZX507はじっくりと聴いていくほどにその良さがわかってくる感じだ。

そして、ピアニッシモの部分とフォルテッシモの部分で表現のきめ細かさや音の再現性が変化しないのもNW-ZX507の良いところだ。M11 Proはフォルテッシモでの高揚感が素晴らしく、思わず身体が動いてしまうような生き生きとした音が魅力だが、ピアニッシモの部分はやや元気が足りない感じがしがち。弱音と強音の差が大きいというか、得意不得意がはっきりしているイメージもある。あくまでも両者を比較しての印象なので、M11 Proがロックやポップスは素晴らしいが、小編成の室内楽では魅力半減というような落差があるわけではない。

シングルエンドとバランス出力を比較。ストリーミング音楽サービスも聴いてみた

それぞれのモデルで4.4mmバランス出力と3.5mmシングルエンドでそれぞれ通してアルバムを聴いている。FiiOのM11 Proは2.5mmバランス出力でも聴いた。それらの出力による違いを紹介しよう。まずは、M11 Pro。4.4mmバランス出力で聴いた後で、2.5mmバランス出力を聴いてみた。ポータブル機器向けのバランス出力は2.5mmの方が先行していたし、端子が小さいこともあってポータブル機器との相性は良さそう。

しかし、両方の端子を比べてみると端子の太さがかなり違う。同じシングルエンド出力でも3.5mmよりも6.5mmの標準ジャックの方が音質的に有利と言われるように、単純に接点の面積が大きい方が音質としては良好なことが多い。M11 Proもバランス出力の回路自体は同じで、出力部で端子が2つに別れているものと思われる。出力値も同じなので、音量的な差はないしかし、2.5mm端子では細かな音の再現性や音場の広がりがやや乏しくなるように感じた。出音の勢いの良さなどは変わらないが、情報量には差がある感じで、4.4mmの方が音質的には良好だと感じた。

このまま、3.5mmシングルエンドに切り替えると、やや音量が小さくなった感じはあるが音量差自体はごくわずか。音場感や細かな音の再現性が不足した感じになるのは仕方のないところだが、持ち味である音のエネルギー感や出音の勢いの良さも物足りなく感じたのがやや残念。高域から低域までの音のバランスや音色の再現に大きな変化はないので、やや落ち着いた感触になる。聴きやすいバランスの音とも言える。

ソニーのNW-ZX507の場合は、どちらもハイゲイン出力で聴いたが音量差はそれなりにあるし、音場感やスケール感にも差がある。それ以上に全体の音のバランスも変化していると感じた。個々の音はしっかりと厚みがあるので、より音像をくっきりと描く方向の音になっている。元々のキャラクターが変わってしまうほどではないが、ボーカルをより近い距離で聴きたいという場合にはシングルエンドの音もなかなか良いと感じる。バランス出力だけでなく、シングルエンド出力もきちんとチューニングして音を仕上げた印象だ。出力値はかなり小さくなっているのだが、それも含めて音質チューニングをきちんと行っているようなので、落差を感じないどころか、(絶対的な情報量の差はあるが)好みに合わせて選んでもいいと言いたくなるほど。

M11 Proは4.4mmバランスの音が明らかによく、3.5mmシングルエンドもまとまりの良い音だが音質的な差が気になりやすい。NW-ZX507は、4.4mmバランスが良いのは確かだが、3.5mmシングルエンドも音質的な差を感じにくい仕上がり。こうした違いも両者の設計思想などがよく現れていると思う。ずばり、単純に3.5mmシングルエンド同志で音を比較するならば、NW-ZX507の方が音の粒立ちや表現力の豊かさで上回っていると感じた。

さらにオマケとして、ストリーミング音楽サービスの音も聴いてみた。どちらもSpotify対応で、今回聴いた「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のオリジナルサウンドトラックを聴くこともできる。試聴は4.4mmバランス出力で行なっている。

聴いたのは、19曲目の「フィナーレ」。これもおなじみのフレーズではじまる定番曲。冒頭こそいつものメロディーだが、そこから物語全体を総括するように、いくつものテーマが織り交ぜられて展開する。スカイウォーカーの壮大な物語をまとめた曲になると思いきや、終盤ではしっかり帝国のテーマのモチーフも盛り込まれている。銀河帝国はまだまだ不滅というメッセージなのだろうか。Spotifyで聴くと、どちらもわずかではあるが情報量が不足した感じや低音の伸びやエネルギー感が物足りない感じはあるが、圧縮音源とは思えない音質で楽しむことができた。ストリーミング音楽サービスも十分な高音質で楽しめるのは間違いない。

M11 Proはエネルギー感のある鳴り方なので、あまり落差を感じさせない。スケール感豊かで雄大なサウンドだ。NW-ZX507はやや線が細くなった印象はあるものの、情報量の不足はあまり感じさせないし、音場感も良好。これは、「DSEE HX」を加えて、ハイレゾ音源に近い音のアップサンプリングしているのも理由だろう。このおかげもあり、ストリーミング音楽サービスを聴いた印象としては、NW-ZX507の方が聴き応えのある音だと感じた。

どちらを選べばいいのかは、かなり悩ましい選択になりそう

結局のところ、どっちの方が良かったの? という質問に答えるのはとても難しい。M11 Proのダイナミックで鮮度の高い音はかなり魅力があるし、NW-ZX507の情感豊かな音の再現も捨てがたい。「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のサントラに限って、あえて言うならば、4.4mmバランス出力の音はM11 Proが好ましかった。「Pure Musicモード」をオン、「DSD変換モード」もオンで、連続再生時間を犠牲にして高音質最優先の設定にしたときの、ダイナミックさと自然で豊かな質感や表現力は抗しがたい魅力がある。NW-ZX507も決して負けてはいないのだが、「Pure Musicモード」や「DSD変換モード」といった攻めた高音質追求がわずかに差をつけた。

3.5mmシングルエンド出力やSpotifyなどのストリーミング音楽サービスの音はNW-ZX507が上。きちんと音を仕上げている完成度の高さ、Andorid OSの他社製アプリの動作でもきちんと音質をキープしているなど、トータルバランスの良さ、完成度の高さを感じる。

筆者としても、どちらを買おうかというと、かなり悩む。気になっている読者も実際にじっくりと試聴して、おおいに悩んで決めてほしい。その時は、お店やほかのお客に迷惑をかけない範囲で、なるべく時間をかけてじっくりと聴き比べよう。オーディオ機器に限らないが、購入する機種を検討しているときの楽しさは筆舌に尽くしがたい楽しい時間でもある。こんな時間もオーディオの楽しみのひとつなのだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。