鳥居一豊の「良作×良品」

第90回

デザイン良し! 音良し! 価格良し! 初めてのHiFiに最適、DYNAUDIO & ATOLL「Luft Eu★S2」

「Luft Eu★S2」

世界中で猛威を振るう新型コロナウィルスの影響はまだ終息の行方が見えない。ウイルスという見えない敵が相手だけに不安を抱えた日々を過ごしている人も少なくないだろう。そんな状況で、DYNAUDIO JAPANは、DYNAUDIOのスピーカー「Emit M10」(単品9万円/ペア)、ATOLLのCDプレーヤー「ATOLL CD30」(同9万5,000円)、プリメインアンプ「ATOLL IN30」(同8万5,000円)をセットにした「Luft Eu★S2」(販売価格20万円)というセットを発売した。

台数は50セット限定(台数追加の可能性はあり)だが。単独で購入するよりも7万円も価格を抑えたお買い得なシステムだ。DYNAUDIO JAPANによれば、誰でも使えて、できるだけ手頃な価格を優先したそうで、発売のアナウンスの後、問い合わせなども数多くきているという。

音楽を聴くというのは、家の中で過ごす時間を快適で豊かにしてくれる。そのための機器を販売するメーカーが、今の時期に自社の製品を安価で発売するというのは実に立派なことだと思う。自宅で過ごす時間が増えることをきっかけにオーディオやAV機器の充実を図ろうとする人も多いだろうし、ハードルが高いと思われがちな本格的オーディオとの出会いの機会が増えるのはいいことだ。

などと、ちょっと上から目線でニュース記事を読んでいたのだが、「いやまて、このシステムって価格だけでなく、音やデザインも含めてかなり良さそうじゃないか?」と気がついた。実は筆者自身が、小型スピーカーとそれに合わせるのにぴったりなアンプやCDプレーヤーなどによるシステムを検討していて、サイズ感やデザインも含めてなかなか魅力的に感じたのだ。これはぜひとも実際に音を確認したい。きっと、気になるけど、音の実力も確かめたいと考えている読者も多いはず。というわけで、今回取り上げることにした。

デンマークのDYNAUDIOとフランスのATOLL、それらのエントリーモデルのセット

「Luft Eu★S2」と名付けられたセットは、それぞれのブランドのエントリークラスのモデルを組み合わせたものだ。まずはそれぞれの製品を詳しく紹介していこう。

スピーカーのDYNAUDIOは、デンマークのスピーカーメーカーで、ドライバー・ユニットからエンクロージャーまですべてを自社で生産していることが特徴だ。同社のすべてのスピーカーはそれぞれ専用に設計されたものを贅沢に使用している。これも自社生産ができるメーカーならではだ。

Emitシリーズはコストパフォーマンスを重視した手頃な価格のシリーズだが、独自設計のスピーカーユニットの採用や丁寧に作られたエンクロージャーなど、DYNAUDIOの魅力をしっかりと受け継いでいる。Emit M10はブックシェルフ型と呼ばれるコンパクトなスピーカーで、口径28mmのソフトドーム・ツイーターと、口径14cmのMSP(ケイ酸マグネシウム・ポリマー)コーン・ウーファーによる2ウェイ構成。顔付きもオーソドックスなものだ。

DYNAUDIOのスピーカーは無色透明と評される色づけのない音で知られるが、上級機も含めてインピーダンスが4Ωとアンプに負担の大きなモデルが多い。しかし、Emit M10はエントリークラスということでインピーダンスは6Ωで、さまざまなアンプと組み合わせやすい設計になっている。

お借りした製品も、この価格帯では珍しく塗装仕上げとなっていて安っぽい見た目になっていない。もちろん、純木製のエンクロージャーも剛性のしっかりとした作りで、板の継ぎ目の見えない組み立て方になっていて、しかも案外重い(5.6kg)。エンクロージャーを軽く叩いてみると、クセの強そうなカンカンでも、ひ弱そうなボコボコでもない、コツコツと心地良い音がして不要な鳴きのない作りであると感じる。

Emit M10の正面(右)と背面(左)。バッフル面は四方の角を斜めにカットし不要な音の反射を低減する作り。見た目の質感の高さにも通じる。背面にはスピーカー端子とバスレフポートがある
Emit M10を側面から見たところ。バッフル面が斜めにカットされているのがわかる。板の継ぎ目が見えないことも手の込んだ作りであるとわかる

続いてはATOLLのCD30とIN30。ATOLLはフランスのメーカーで、開発から生産までフランスの自社工場で行なっているメーカーだ。手の届く価格帯ながらも実力の高い製品が多く、ヨーロッパを中心に高い評価を得ている。ATOLLのロゴの洒落たデザインからも推し量れるが、デザインセンスが素晴らしく、上級機の400seシリーズなどを見ると非常に凝った造形になっている。

CD30やIN30はエントリークラスのモデルなので、造詣としてはオーソドックスな立方体だが、CDとプリメインアンプの背の高さを揃えた薄型の形状や、前面だけでなく天面や側面、裏面までブラック仕上げとなっていることから、デザインへのこだわりがきちんと受け継がれているのがわかる。筐体は鋼板を使ったものだが、前面や天面はもちろん、側面や背面からもネジが1つも見えないようになっている。エントリークラスのモデルでやることだろうか。こういうところに美学を感じる。

CD30は機能としては一般的なCDプレーヤーだが、背面にはUSB端子も備えていて、MP3形式の音楽データの再生にも対応している。アナログ音声出力の出力段は左右対称設計のディスクリート構成を採用している。

CD30のディスクトレイを出したところ。一般的なトレイローディング型だ。ATOLLのロゴのO(オー)の字の中に型番が記されているのが洒落ている
CD30の背面。出力はアナログ出力と同軸デジタル出力が各1系統で、MP3音源再生用のUSB端子もある

プリメインアンプのIN30も外観からネジの見えない作りは同様。放熱は天面と背面から行なわれるため、穴の空いた造りになっている。ライン入力は4系統で、ボリュームなどを経由しないバイパス入力が1系統、プリアウト出力が1系統となっている。スピーカー端子はバナナプラグにも対応する端子だ。このほか、前面には携帯プレーヤーなどと接続ができるステレオミニ端子のライン入力、ヘッドフォン出力も備わっている。

天面の開口部からアンプ基板を見てみると、左側にトロイダルトランスが置かれ、左右の回路が対称設計となっていることがわかる。ヒートシンクは板状でサブシャーシのように基板の下に敷かれたような構造になっているのが独創的。一般的なプリメインアンプではあまり見かけない構造だ。

こうした細かなところまで見ていくと、国内のオーソドックスなプリメインアンプとは随分違っていることがわかる。前面のボタンの配置もIN30はボリュームがツマミではないが、インジケーターが円形に配置されて、音量を視覚的にわかるようにしているなど、機能性を兼ね備えた洒落たデザインに惚れ惚れとさせられる。多少の誤解や偏見があるかもしれないが、フランス製らしい独創的な作りや設計という感じだ。こうした他ではあまり見かけないオリジナリティーに溢れているのも海外製オーディオの面白さだ。

IN30を上から見たところ。放熱口の奥に出力トランジスターが縦に4個配置されているのがわかる。写真の右で少しだけ見えているのが電源部のトロイダルトランス
IN30の背面。入出力端子と、バナナプラグ対応のスピーカー端子が並んでいる。電源コネクターの横にはメインスイッチもある
CD30とIN30の前面パネルの操作ボタン群。CD30の方は一般的なボタン配置。IN30はボリュームと入力セレクターのインジケーターが円を描くような配置になっているのがユニーク。音量を視覚的に把握しやすい

なお、「Luft Eu★S2」のセットには、スピーカーとCDプレーヤー、プリメインアンプのほか、操作用のリモコン、RCAケーブル(1ペア)が同梱される。スピーカーケーブルは同梱されないので、購入時に手頃な価格のスピーカーケーブルを別途購入するようにしよう。

「Luft Eu★S2」に同梱されるリモコン。CDプレーヤーおよびプリメインアンプの操作をまとめて行なえるタイプとなっている

今聴いても新しい。YMOの「TECHNODON [Remastered 2020]」を聴く

今回の試聴で使った良品は、YMOの「TECHNODON [Remastered 2020]」。完全に趣味だ。YMOのアルバムは数年前からハイレゾ音源化されているが、1983年の散開(解散)後、1993年の再生(再結成)で発売された「TECHNODON」もついにハイレゾ音源(96kHz/24bit FLAC)で発売された。しかも、新たにリマスターされたバージョンでのハイレゾ化だ。もちろん、ハイレゾ版だけでなく、CD、SACD、アナログ盤も揃って発売された。SACDがハイブリッド仕様なのでCD以外のすべてを手に入れた。

試聴に使った「TECHNODON」。左から、アナログ盤、紙ジャケット仕様のSACD盤、1993年発売のCD盤

ファンの欲目もあるだろうが、テクノ音楽をもとにテクノポップを生み出したYMOが1993年当時世界的に流行していた最新のテクノ音楽も取り込んだうえで生み出した新たなテクノポップは、いかにもYMOの音楽でありながら、今聴いても新しさを感じてしまう。YMOを知らない人が聴いたとしても、現在のEDMと同じ感覚で楽しめるだろうし、EDMとしてみてもやはり独創的だ。

試聴では、DYNAUDIOのEmit M10を前方に設置し、視聴位置の後方にATOLLのCD30とIN30を置いている。自宅のシステムに合わせた配置だ。Emit M10は、手持ちのスピーカースタンドであるTAOCのHST-60HBを使って設置した。もちろん、スタンドのベース部にあるスパイクでガタ付きのないように調整し、スタンドとスピーカーの間にはJ1プロジェクターのいつものインシュレーターを敷いている。

まずは「Luft Eu★S2」のシステムで、聴き慣れたクラシック曲やボーカル曲などのCDを聴いてみたが、第一印象は鮮明できめ細かな音だと感じた。小型スピーカーとは思えないほど低音も量感豊かに鳴るし、それでいて小型スピーカーにありがちな低音感を強調した膨らんだ感じがせず、特に中低音域の解像感の高さには驚かされた。高音域は鮮明で、華やかな感触で細かな音がフワッと広がるような解放感のある鳴り方だ。

それでいて、音場感豊かな再現ではなく、実体感のある音像をしっかりと立てる鳴り方。中低音域が充実していることもあって、音像は骨太と言ってもいいほどでグラマラスな美女を見ているかのように厚みのある声を聴かせてくれる。

DYNAUDIOのEmit M10は以前にも聴いたことがあるが、無色透明という一般的な評価の通り、ここまで明確な主張のある音だとは感じなかった。低音の再現性、特にベースの音階がよくわかるような解像感の高さ、充実した中音域によるニュアンスの豊かなボーカル、粒立ちのよい高音域と、基本的な実力の高さは変わらない印象。だが、もともと印象に残っていた細い鉛筆で緻密に描いたデッサンのような色彩よりも陰影を豊かに描くタイプの忠実さではなく、むしろ色彩感が豊かで筆致も力強い油彩に近い感触だと思った。

これまでのEmit M10の印象とは違うが、かなり魅力的だ。これは、間違いなくATOLLのコンポーネントによるものだろう。というわけで、急遽予定を変更し、自宅のMac miniのAudirvana PlusとUSB DACの「Hugo2」、パワーアンプはアキュフェーズの「A-46」として、SACD盤の「TECHNODON [Remastered 2020]」のCD層をリッピングした音源(つまり、44.1kHz/16bitのCD音源)と聴き比べてみた。このシステム構成はスピーカー以外はほぼ自宅でステレオ再生を行なうときと同じものだ。

1曲目の「BE A SUPERMAN」は、シンセサイザーによる浮遊感のあるメロディーと、軽快なパーカッションやドラムスによるリズムによる楽曲だ。面白いのはコーラスの女性の声が右から左、左から右へとパンニングしながら聞こえるところ。YMOらしいリズム感豊かなポップスだ。

聴き慣れたシステムで聴いたDYNAUDIOのEmit M10の音は、やはり陰影の豊かな再現で色づけの少ないストレートな音だと感じた。音の広がりというよりも、音場の広がりがさらに豊かになり、鳴りっぷりのいい低音と合わせて、小型スピーカーとは思えないスケール感が出てくる。このあたりは、USB DACやパワーアンプの実力が大幅に優れるせいもあるが、やはり基本的にはモニター調の忠実感や色づけのないストレートな音が持ち味のようだ。

ATOLLのCD30とIN30がこれに絶妙な華やかさを加えてくれていたというわけだ。また、低音自体のグラマラスな感触もATOLLの持ち味のようで、自宅のシステムとEmit M10ではもう少し細身の引き締まった低音となる。ニュートラルな音調でしかも忠実度の高いEmit M10の音も価格を考えたらかなり優秀な音だと思うが、趣味で自分の好きな音楽を楽しむならば、ATOLLとの組み合わせの方が聴いていて楽しい。

ATOLLとDYNAUDIOの組み合わせに戻し、「BE A SUPERMAN」で、1993年発売のオリジナル盤と、リマスターされた2020年盤の違いについても紹介しよう。音源はもちろんどちらもCDだ(リマスター盤の方はSACD盤のCD層を再生)。

一番の違いは音の広がり。シンセサイザーによる浮遊感のある音の数々がより豊かに部屋中に広がる。個々の音の位相を巧みに制御しているのだろうが、スピーカーの外側にまで音が広がる。ステレオ再生というよりもサラウンド再生のような音場感になっている。現代ならば、こうしたサウンドデザインの楽曲も増えているが、1993年当時は斬新過ぎたか、あるいは聴き手や作り手もここまでの音場の広がりに慣れていなかったかと思う。すなわち、2020年のリマスターで本来の音の響きや広がりが再現されてと個人的には思う。

音場というよりは、実体感豊かでグラマーな音像が持ち味のシステムと言ったが、こうした音源の違いにはきちんと反応し、音の広がりの違いをきちんと描き分けた。個性が強いといっても強すぎるわけではないし、音源の違いをきちんと描く表現力も十分にある。だからこそ、華やかさやグラマラスな感触を魅力的だと感じるのだ。

続いては、4曲目の「DOLPHINICITY」。赤ん坊の声にも似たイルカの鳴き声をサンプリングして使っているのが印象的な曲だ。イルカの声がとても生々しく、鴨川で見たイルカを思い出す。軽快なリズム主体の曲が、男性と女性のコーラスを重ねながら、スリリングに展開していくが、厚みのある音はシンセサイザーを多用した曲とは思えないライブ感がある。こうした生っぽさ、グルーブ感が出るところが、一番の魅力だと思う。

今度は96kHz/24bitのハイレゾ版とCD盤の違いを聴き比べる

5曲目の「HI-TECH HIPPIES」では、リマスター盤CDと同じリマスター音源を使ったハイレゾ盤(96kHz/24ビット、FLAC)を聴き比べてみた。ハイレゾ版はMac miniとHugo2の組み合わせで再生し、アナログ音声出力をIN30に接続している。

音源自体が同じなので、基本的な鳴り方は共通。色気のある音調も同様なので、CD以外の音源を聴く場合でも、グラマラスな音の魅力を楽しめるとわかった。

ハイレゾ版では、より細やかに音を描く。この曲に限らないが、シンセの様々な音はもちろん、生のドラムも使ったリズムセクションやボーカルに至るまで、それぞれの音に細かな加工を加えて、定位感や浮遊感を加えているのがよくわかる。こうした細かな仕掛けがわかると、YMOの音楽が電子楽器を多用しただけでなく、スタジオワークも含めてさまざまな音の再現に挑戦してきたことがよくわかる。

現代ならば位相などの加工で、後方にまで音が回り込むような再現も可能だし、そのノウハウもあるだろうが、1993年当時にはそのようなバーチャルサラウンド的な音を追求していたのは凄いことだ。おそらくはYMOやアルバムの作り手が相当なノウハウを蓄積しているだろう。そして、そうした不思議な音の感触を巧みに操って、楽曲として構築しているところに筆舌に尽くしがたいレベルでのセンスを感じる。

ダンサブルなポップスでありながら、気持ち良く音楽に耳を傾けているつもりが、気がつくと音楽の中に取り込まれてしまったかのような感覚を覚える。目の前のスピーカーから音が出ているのに、ヘッドフォンで聴く頭内定位のような感覚もあるなど、独特の音楽に浸る気持ちよさがある。

こうした、巧みの音の加工を存分に味わうならば、ハイレゾ版が有利だ。とはいえ、リマスターされたCD盤を聴いていても、十分に独特の音場感や気持ちよさはきちんと伝わる。

今度は、9曲目の「WATERFORD」。エコーを強めにかけた男性ボーカルも含めて、左右の広がりだけでなく、奥行きの深さを感じさせる楽曲だ。軽快なリズムに民族音楽のような音色で懐かしさを感じるメロディーが重なる。

中近東なのか、南欧なのか、それともアフリカか、無国籍とも言える不思議な懐かしさだなぁと思っていると、波の音が重なっていることに気付き、胎内で聴く音楽の感触なのかなと連想してしまう。どの曲も滋味の深い心地良い音なのだが、この曲は特に包まれるような感触と気持ちよさを感じる。

Emit M10のたたずまいを眺めなら聴いていると、この心地よさはソフトドームならではの柔らかな感触かなとも感じる。ソフトドームでも厳しい音は出るし、硬質な音を出すソフトドーム・ツイーターを採用したスピーカーもあるのはわかっているが、自分自身、金属素材のハードドーム・ツイーターを気に入ることが多く、特にハイレゾ音源の普及した今はハードドーム系を採用するスピーカーが増えていることが多い。

そんな音に慣れてしまっていると、電子楽器のある意味で単調な音、パルシブな音を鮮明に出しながらも、どことなくソフトな感触が伝わるのは魅力的に感じる。特にYMOの電子楽器を多用しながら決して無機質な音にはしない曲の数々との相性が良いと思う。

独特の柔らかな感触の良さを求めて、アナログ盤でも聴いてみた。

DYNAUDIOとATOLLの組み合わせによる「Luft Eu★S2」の独特の味わいは、アナログ的な感触と通じるものがあるかもしれない。そこで、アナログ盤も聴いてみた。

プレーヤーはテクニクスのSL-1500C(カートリッジは付属のものの上位モデルであるオルトフォンの2M Blackに交換している)。ATOLL IN30はライン入力専用なので、SL-1500C内蔵のフォノイコライザーを使ったライン出力を接続した。SL-1500Cの良いところは、最近多いライン入力専用の機器とも容易に接続できるところだ。

SL-1500C自体は、テクニクスがこだわるダイレクトドライブを継承し、正確なディスク回転を追求している。上級機と比べてコストダウンが図られたモデルだが、ワウフラッターをはじめとした機械的な性能では上級機と同等を維持している。実際、アナログレコードは温かく柔らかい音だと言われがちだが、きっちり厳しい音も出す。アナログプレーヤーこそ、モデルによる音の個性、そしてユーザーのチューニングによる味わいの違いは千差万別だ。

アナログ盤も音源自体は2020年リマスターなので、大きな違いはない。むしろ、ハイレゾ版にも迫るような細かな音の仕掛けまで描き出す音を聴いていると、アナログレコードのポテンシャルの高さに改めて驚く。アナログ盤はディスク2枚組(4面)、180gの重量盤仕様なので、音質にもこだわっていると思うが、きちんとアナログ盤のための調整なども行なっているようで、かなり質は高いと感じた。

大きく感じるのは、低音の感触。もともと、パワフルにバスドラムが鳴り響くような激しい低音があるわけではないが、シンセベースのかなり低い音域まで伸びたような音の深さなどはやや抑えられた感じがある。最低音域や最高音域の伸びがある程度制限されたというか、耳に届く実音の帯域をギュッと凝縮したような濃厚さがある。これをナローレンジなどと言うつもりもないが、CD盤やハイレゾ版とは違った独特の感触になる。

アナログレコードらしい感触が、YMOのテクノポップをより人間味のあるものにしてくれたという感じはある。彫りが深い音像の肉厚さがよりリッチに感じられるし、電子楽器主体とは思えない、生音っぽさやライブ感がよく出てくる。それでいて、浮遊感のある生音にはない電子音の感触やエコーやディレイを使った細かな仕掛けもわかる。これは実に面白い。YMOが大好きという人は、ぜひともアナログ盤も聴いてみてほしい。

オーディオのはじめの一歩にぴったりで、楽しく音楽を聴けるシステム

「Luft Eu★S2」は、基本的な実力の高さと色気を感じる華やかさやグラマラスな感触が心地良い非常によく出来たシステムだ。穿った見方をすれば、DYNAUDIO JAPANが取り扱っているブランドから、価格的にも手頃なシステムを集めただけと思われがちだが、そんなことはない。当然ながらきちんと組み合わせた状態で音を確認し、DYNAUDIOの良さもATOLLの魅力もきちんと伝わる音になっているからこそ、セット販売を決めたのだと思う。これで20万円は本当にお買い得だ。

USB DACやフォノイコライザー内蔵のアナログプレーヤーを追加すれば、ハイレゾ音源やアナログ盤の良さをきちんと再現できる実力もあり、その意味でも長く愛用できるシステムだと思う。

新型コロナウィルスの影響は、命の危機だけでなく経済的な困窮も伴うので、将来的な不安の中、決して必須ではないオーディオ装置に過大なコストを投じることができない人もいるだろう。ただし、新型コロナウィルスの影響とは別に、そろそろ本格的なオーディオシステムを揃えたいと思っていた人にはぜひともオススメしたい。

そしてなにより、音楽や映画を積極的に楽しんでほしいと思う。定額制の音楽配信サービスや動画配信サービスを活用すれば、多額のコストをかけなくても音楽や映画をたっぷりと楽しむことはできる。もともとインドア派で自宅で楽しめる趣味ばかりの筆者ですら、現在のムードは息苦しく、普段は嫌いな電話でさえついつい長電話になりがちだったりする。つまりは人恋しいのだ。そんな物足りなさ、息苦しさを音楽や映画はきっと癒してくれると思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。