鳥居一豊の「良作×良品」

サウンドバーの頂点。ソニー「HT-ST9」の実力を体感

ヤマトの壮大な旅と音楽をハイレゾで振り返る

 ホームシアターシステムと呼ばれる商品にはさまざまなタイプの製品があるが、その大きな目的は、映画などで当たり前となったサラウンド音声を家庭で手軽に楽しむためのものだ。部屋に5本または7本のスピーカーとサブウーファーを置くのは無理でも、一体型のスピーカーとサブウーファーのセットならば比較的容易に設置でき、サラウンド再生を楽しめる。

 そんなシステムも、比較的安価な価格帯のものを含めて各社から発売されているが、今回取り上げるソニーのHT-ST9(実売価格約15万円)は、同社の一体型ホームシアターシステムの頂点に立つモデルだ。

ソニー「HT-ST9」

 大口径65mmコーンを採用したユニットが合計7つ並び、7.1chの再生が可能なスピーカーシステムを備えたという点では、2013年発売のフラッグシップ機「HT-ST7」と同様だが、本機はハイレゾ再生に対応。高音質を追求し、両端にあるフロントch用、中央のセンターch用のスピーカーは同軸配置の2way構成とし、ハイレゾ再生に対応した広帯域化が図られている。もちろん、デジタルアンプは、超高音域を含めた再生帯域のノイズ除去性能を改善した「S-Master HX」を搭載。さらに、CD音源やMP3などの圧縮音源をハイサンプリング化とハイビット化をすることで、失われた情報を復元する「DSEE HX」も備えている。

 また、映像面では動画配信サービスの増加など、コンテンツ環境が整い始めている4K信号に対応。4K放送や動画配信サービスの映像に適用される著作権保護技術HDCP2.2にも対応している。

 ワイヤレスサブウーファーの採用による、配線の簡易化や、Bluetooth搭載などの特徴ももちろん継承。ウォークマンなどの対応機器の音楽をより高音質で楽しめる「LDAC」にも対応している。

大柄なサイズだが、高さと奥行きを小さくし設置性向上

 さっそく、メーカーからお借りした取材機を我が家の試聴ルームに設置してみた。形状としては、真正面から見るとシンプルな四角形に見えるバースピーカー部は、上から見ると六角形になっており、HT-ST7などのデザインを継承していることがわかる。サイズ感はHT-ST7とほぼ同じような印象だ。

HT-ST9。サウンドバー部とワイヤレスサブウーファから構成

 調べてみると、HT-ST7の1,080×110×129mm(幅×奥行き×高さ/スタンド無し)に対し、HT-ST9は1,130×133×88(同/グリル装着)。横幅と奥行きがわずかに大きくなった一方、高さが短くなっている。最近のスタンド部分の高さが低く、画面下のベゼル部分が狭い薄型テレビとの組み合わせを意識したものだろう。

バースピーカー部の正面からの写真。同じ六角形ながらもシンプルさが際立つフォルムに仕上がっている

 逆に設置場所の自由度が高いサブウーファーは、サイズが一回り大きくなっている。内蔵するユニットも180mmコーンと200×300mmのパッシブラジエーターと大口径化されている。

サブウーファ部
大型のパッシブラジエーターを内蔵
サブーウーファの背面

 外観の大きな特徴である同軸配置の2wayスピーカーは、フロント用にあたる両端の2つと、センター用の中央の1つで合計3つとなる。ウーファーは65mmの磁性流体スピーカーで、トゥイーターは18mmソフトドーム型だ。同軸配置は2wayとしてもボディのサイズ(特に高さ)に影響が出ないし、中低音と高音の音源位置が一致するため、音の定位にも優れる。フロントとセンターのユニットを同じものとすることで、前方チャンネルの音のつながりの向上に配慮している。

中央部のスピーカー部分。中央がセンターで、サラウンドch、サラウンドバックch用のユニットとなる
左側のスピーカー部分。センタースピーカーと同じく同軸2way構成のユニットとなる。斜めにカットされた部分にはNFCのマークもある

 設置自体は、バータイプのスピーカーを薄型テレビなどの前方に置き、サブウーファーはテレビラックの横や部屋の隅の邪魔にならない場所などに置けばいい。それぞれを電源コンセントにつなげば、バータイプスピーカーの電源を入れるだけでサブウーファーと無線で接続し、電源も入る。このあたりの使い勝手の良さは、これまで通りだ。

バースピーカー部の正面からの写真。同じ六角形ながらもシンプルさが際立つフォルムに仕上がっている
バータイプスピーカーを上方から見たところ。両端部が斜めにカットされた六角形形状であることがわかる
背面の接続端子部。ひとつだけHDMI入力端子が正面向きにあるのがわかる。他の端子は横向きの配置となっている
HDMI入出力端子。横向きの配置でやや深めの位置に端子がある。HDMI入力1とHDMI出力がHDCP 2.2に対応している
アナログ入力や光デジタル音声入力、LAN端子も、横向き配置となっている。端子などが出っ張ることがなく、奥行きが狭い場所でも使える
本体の操作ボタンは天面の奥側に配置。ボタン類を目立たせず、すっきりとした印象になっている
側面部(後ろ側)にあるUSB端子。スマホなどとの接続のほか、ハイレゾ音源を保存したUSBメモリーを接続して再生することも可能

 新機能と言えるハイレゾ音源の再生は、DLNAベースのネットワーク再生のほか、側面部に備えたUSB端子経由での対応プレーヤーやUSBメモリでの再生が可能。ネットワーク再生は、画面に表示されるGUIで操作が可能だ。

 今回の試用機では対応していなかったが、スマホ用アプリ「SongPal」を使ったネットワークオーディオ再生も可能。「SongPal」は、本機だけでなくソニー製の多くの機器のリモコンアプリとして使用できるもので、ソニーの機器のユーザーならばすでに自分のスマホにインストールしている人も多いだろう。入力の切り替えやサウンドフィールドの変更などさまざまな設定が行なえる。

 便利なのは、無線LANとの接続設定をスマホなどの設定情報を引き継いで行なえること。Bluetooth接続のペアリング設定などもガイド付きで詳しく手順が説明されるので、こうした機器が苦手な人でも困ることは少ない。1つのアプリで多くの機器のリモコン操作ができることをはじめ、なかなかよく出来ている。

【訂正】記事初出時に、「SongPalからネットワーク音楽再生できない」と記載しておりましたが、使用機材の問題に起因するもので、発売製品ではネットワーク再生可能です。(7月16日)

「SongPal」での使用機器の選択画面。操作可能な機器がアイコンで表示されるので、操作したい機器を選択する。
「SongPal」の入力選択画面。わかりやすいインターフェースで入力の選択ができる。画面を下にスクロールすると、ほかの入力ソースも選べる
「SongPal」の入力選択画面その2。アナログ(ステレオミニ)入力やUSB、ミュージック(スマホの音楽再生)などが選べる。各種設定もここから行なう
「SongPal」の設定画面。機器の設定としては、「サウンド」と「ネットワーク設定」がある。このほか、アプリ関連の設定項目もある。
「サウンド設定」には、ClearAudio+をはじめ、サウンドフィールド切り替えなどの各種切り替えが可能
サブウーファーの音量やサウンドの微調整(トーンコントロール)なども操作できる。
「ネットワーク設定」では、使用しているスマホなどの無線LAN接続設定を使って、ほぼ自動でネットワーク設定を完了できる。これも便利な機能だ
Bluetooth接続を行なうときのペアリング設定などを、わかりやすい手順でガイドしてくれる。操作などに困ることはまずないだろう

「宇宙戦艦ヤマト2199」の劇場用完全新作のストーリーを音楽とともに楽しむ

 HT-ST9に組み合わせる良品は、今回は特別に2本立て。といっても「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」の本編と、サウンドトラックの「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟 オリジナル・サウンドトラック 5.1chサラウンド・エディション」だ。

宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟(初回限定盤)
宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟(通常盤)

 個人的な印象として、オリジナルの「宇宙戦艦ヤマト」も含めて、音楽がもうひとつの主役と言いたくなるくらいの存在感があり、本編を楽しむだけでなく、その壮大な音楽もセットで楽しみたかったからだ。

 まずは、「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」を上映しよう。こちらの音声は、ドルビーTrueHDの5.1ch(48kHz/16bit)と、リニアPCMのステレオ音声で、当然ながら5.1ch音声で聞いている。

 オープニングでは、メインメロディ(本来ならば歌のパート)を葉加瀬太郎がヴァイオリンで弾くという大胆な主題歌に乗せて、惑星イスカンダルまでの旅をダイジェストで振り返っていく。最近はノンアルコールのビール飲料でも使われるほどに世代を超えて有名なイントロが鳴るだけで心が躍る。しかも、数々の激闘が次々に出てくる映像は見応えがある。ちなみにここはストーリーを振り返るだけでなく、この後の物語で登場する人物を紹介する意味も持つ。ヤマト側の乗組員は問題ないが、ガミラス側の登場人物やデスラー総統やドメル提督といった印象的な人物ではなく、その部下である現場の指揮官や戦闘員たちなので、ほとんどの人は名前も覚えていないだろう。ただし、その主要な登場エピソードは神回(七色星団でのドメル艦隊との戦闘)なので、事前に見直しておくと、本編がより楽しめるはず。

 さて、このオープニングを見ていて、取材の準備をやり直した。実はHT-ST7をリビングルームのスピーカーとして現在も使用中で、今回の取材でもリビングルームでHT-ST7と比較しながら紹介しようと考えていた。しかし結局、試聴ルームに運んで再度設置しなおした。音質の向上はもちろんだが、50インチのテレビどころか、120インチのスクリーンと組み合わせても良さそうなほど豊かな音場が味わえたからだ。要するに音が良すぎて、50インチの薄型テレビでは映像が負けてしまったわけだ。サイズ的にも50インチどころか、60インチクラスやそれ以上のサイズの薄型テレビと釣り合う製品だが、HT-ST9が描き出す音場の広がりと音の厚みはそれ以上のスケール感がある。HT-ST7を使っていた自分自身としても、これは予想以上の進化だった。

大胆にも120インチの4K映像と組み合わせて試聴。厚みのある音像は特大画面にふさわしい豊かなサウンドを再現した

 では、試聴室に場所を変えて、上映を再開。強敵であったガミラスとは停戦が成立し、地球への帰路は大きな危険がないように思われた。とはいえ、ガミラス側の最前線で戦った者は、未だヤマトや地球人を敵視している者も多かった。しかも、デスラー総統を失って勢力を大幅に弱めているこの機会に、大きく勢力を伸ばそうとするガトランティスの台頭もあり、決して宇宙は平和というわけではないようだ。

 ガトランティスは、ガミラス側の視点からすると蛮族扱いで、技術力ではガミラスに及ばないものの、ガミラスの支配下にある国家や艦隊から技術を奪うことで、その勢力を増してきているようだ。登場するガトランティスの面々も、海賊や屈強な武人という印象で、対話よりも力による支配を好む者たちとして描かれる。

 落ち着いたムードのヤマトだったが、あるものを探索しているガトランティスの艦隊が偶然に遭遇。ガミラスを倒したヤマトの力を自らのものにしようとガトランティスは問答無用でヤマトに攻めてくる。両者の戦闘におけるムードの違いを、音楽で豊かに描いている。ヤマトの劇伴は伝統的にオーケストラ編成となるが、軽快なムードの音楽であってもオーケストラ編成となると聴き応えが出てくるし、船内の弛んだ空気感もよく出る。対して、ガトランティス側の描写は重厚なドラムが前面に出た勇ましい曲調で、臨戦態勢にある雰囲気が出ている。こうした曲調の違いを、HT-ST9は表情豊かに描き出す。

 音楽を含めてサラウンド音声ということで、包囲感や移動感といった音場も豊かに広がるが、それ以上に基本となる音質が実によく練り上げられている。サブウーファの受け持つ低音は量感もたっぷりだが、弛んでもたつくようなことがなく、ズシっとした重みのある再現になるし、クリアーな中高域は楽器の音色も鮮明だ。まずはこうした素性の良さに感心した。HT-ST7も素性の良さは十分に優秀だが、HT-ST9はハイレゾ対応も含めてさらに質を高め、映画再生用というよりも本格的なオーディオ再生用として磨き上げられたような方向性の違いを感じた。映画のための音楽が実に臨場感豊かに鳴っているということがまず第1印象として感じたのだ。

(c)西﨑義展/2014 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

 さて、ガトランティスの艦隊に攻撃されたヤマトは、ワープを駆使して現場から離脱する。が、ワープ後に現れたその場所は、通常の宇宙空間とは異なる「次元の狭間」であるとわかる。さらに、何者かに艦のコントロールを奪われ謎の惑星に着陸することになり、そこにはなんと戦艦大和の姿が!! という予想外の展開に。古代たちは激しい死闘を繰り広げたガミラスの兵士たちと共同生活を送ることになる。

 SF的なアイデアを盛り込んだ展開は、これまでの物語も含めてよく練られたもので深く考察するのも興味深い。だが、やはり核心はちょっと前まで壮絶に殺し合いをしていた面々が同じ場所に集められてしまったという状況の緊張感だろう。奇妙な状況からの脱出を試みるなかで、地球人とガミラス人のそれぞれの内面が抱えている葛藤が描かれていき、何者かの存在の操作で両者の対立がお膳立てされていく、このあたりの流れはミステリ風でもある。こうした場面では、彼らが交わす言葉のやりとりや、携帯した非常食を分け合って食べるような生活シーンの雰囲気のリアルさがよく出ていた。こうした異常な状況を描く場合、夢が多くの場合支離滅裂なものであっても見ている最中は現実として受け入れてしまっているように、日常のリアルさが絵や音で表現されていないと不条理さが感じにくくなる。クラッカーのような携帯食を食べるときのかすかな音、ホテル内の足音、そういった細かな音を鮮明に、かつしっかりと存在感のある音で再現してくれた。このあたりは、サウンドバータイプのスピーカーながらも、65mmと十分に大きな口径のユニットを備えていることのメリットだろう。各チャンネルに配置される音のひとつひとつに存在感があり、生々しく再現される。これは本機の大きな魅力だ。

(c)西﨑義展/2014 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

 物語のクライマックスとなる。基本的に単艦で行動することの多いヤマトとガミラス艦隊との共同作戦は、大きな見どころにもなっている。戦闘シーンの音楽は、オリジナルのスコアからのモチーフも数多く使われており、曲を聴いただけで血湧き肉躍るものがある。

 そして、ヤマトをはじめとする多数の艦隊と、艦載機たちが繰り広げる戦闘の迫力も見事だ。HT-ST9はHT-ST7と同じく波面制御技術を組み込んだ、バーチャルサラウンド技術によるサラウンド再生を行なっているが、映画用のサウンドフィールドは「ムービー1」と「ムービー2」が選択できる。

 「ムービー1」は音場の広がりと音像の厚みをうまくバランスさせたもので、広い範囲でその音場を楽しめるもの。「ムービー2」は良好なサラウンド効果を得られるエリアはやや狭くなるものの、特に後方への音の回り込みや移動感の再現を強めたものだ。戦闘場面を中心に両者を聴き比べてみたが、「ムービー2」の方が確かに後方の音の粒立ちが増し、ヤマトに飛来するミサイル群やそれを打ち落とす機銃の音が四方から聴こえてきて、バーチャルサラウンドではあるもののかなりのレベルのサラウンド感が得られる。ただし、その効果が得られる範囲は限定的。試聴ルームでの配置はバースピーカーと試聴位置の距離が約2mほどだが、3人が横に並んで聴くのが精一杯で、家族みんなで見る場合にはちょっと窮屈になりそう。

 「ムービー1」は聴き比べてしまうと後方の音の存在感がやや曖昧になると気付くが、音楽の包囲感やホテル内の足音の響きなどは自然に感じられる。そして、ヤマトでは肝心な砲撃シークエンスでのやり取り(三式弾装填! 撃てッ!など)の緊迫した声が存在感のあるものとして聴き取れた。HT-ST7に比べると、全体的な質の向上を含めて後方の音の再現力も不満のないレベルなので、個人的には「ムービー1」でもサラウンド感は十分と感じた。

 効果音が前後左右のさまざまな位置から自由自在に聴こえるのはサラウンドの大きな魅力だが、やはりそれらとともに重要な要素である、ダイアローグの実体感や音楽のスケール感などがしっかり再現されることも大事。これらの3つの要素のバランスが高いレベルで成立していることがHT-ST9の最大の魅力と言えるだろう。

96kHz/24bitで、数々の音楽とエンディング曲を満喫する。

宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟 オリジナル・サウンドトラック 5.1chサラウンド・エディション

 戦いは勝利をもって終わり、壮大な結末が描かれる。そして、ヤマトはようやく地球へと帰還することになる。ここで映画の上映は終了。今度はサウンドトラック版の上演だ。BDミュージック仕様でパッケージ化されたサウンドトラックは、96kHz/24bitでしかも5.1ch収録。このほかに、ステレオ音声も96kHz/24bitで収録している豪華仕様だ。その代わり映像コンテンツはなく、画面に表示されるのは選曲などが行えるメニュー画面のみ。これを、5.1ch再生で聴いてみた。

 まず驚くのは、ダイナミックレンジが大幅に拡大されていること。聴き慣れた主題歌はもちろんのことだが、音圧のレベル差がはっきりと出ていることで、音の粒立ちや個々の音のエネルギー感が高まっていることがわかる。映画本編は48kHz/16bitなので、周波数帯域も音圧レベルも拡大されているが、それ以上に映画の中で音楽だけが突出しないように、劇伴としてのバランスに収められているとわかる。素材は同じでも、音の情報量もマスタリング自体も違うので、別物と言っていいクオリティの差がある。5.1chのサラウンドも前方の音場の深みを加えるような音で、本編の包囲感のある再現(だが、BGM的な漠然とした感じ)ではなく、ホールトーンを思わせる豊かな響き感のあるものになっている。自分の好きな映画のサントラをハイレゾ5.1chで楽しめるのは最高の贅沢だと感じた。特に「宇宙戦艦ヤマト2199」のような音楽の出来も素晴らしい作品ならばなおのことだ。

 平原綾香の歌うエンディングテーマ「Great Harmony~for yamato2199」も、豊かな声量に支えられた表情の豊かな声をリアルに楽しめた。ここで、音声設定をいろいろと試してみた。サウンドフィールドなどの設定を自動で最適なものにしてくれる「Clear Audio+」では、サウンドフィールドは「ミュージック」に切り替わる。「ムービー1」のままだと広がり感は豊かだが、音楽再生は後方の音がやや突出しすぎる感じがあるなど、ちょっと派手さが強調された感じになる。「スタンダード」は無難なバランスだが、音場の深みや声の再現性がぐっとエネルギー感を増す「ミュージック」が一番良好だった。

 しかし、ステレオ音声に切り替えてみても「ミュージック」のままでは、サラウンドに近い再生を行なっているようだ。フロント用の両端の2つだけでなく、センター用のスピーカーからも音が出ているのだ。「スタンダード」や「ムービー」は明らかにステレオ音声にサラウンド感を加えた再生になるので、「ミュージック」ではステレオ音声主体ながらもセンターのみ音を追加してボーカルなどを立たせているものと考えられるが、できれば、「ピュアオーディオ」的なステレオ音声を2つのスピーカーだけで再生するモードも欲しくなった。

 これについては、いろいろと試してみたところ、USBメモリー経由のハイレゾ音源では「ミュージック」モードでも、両側の2つのスピーカーからだけ音が出る再生になっていた。つまり、ハイレゾ再生時は「ピュアオーディオ」的な再生はできるようなので、僕のように神経質なレベルのHiFi至上主義者でも問題はなさそうだ。

 だが、BDソフトの再生の場合、BDミュージックのような音楽用パッケージであっても、純粋な意味でのステレオ再生ができないのは気になった。聴感上違和感を感じることはないのだが、できればステレオソース専用で構わないので「ピュアオーディオ」モードの追加も期待したい。

120インチの映像にも負けない大スケールの音は、バーチャルサラウンドとしては圧巻

 試聴の冒頭で、あえて不釣り合いなサイズである120インチスクリーン投射と組み合わせたと書いておきながら、映像と音のサイズ感についてはまったく触れなかった。何故かというと、まったく不満を感じなかったからだ。

 もちろん、大型スピーカーを中心とした5.1ch再生と比べれば違いはあるが、それはスピーカーの質的な差だ。リアル5.1chとバーチャル5.1chという意味での差はほとんど感じなかったということ。特に音質的なレベルは、一体型のバータイプスピーカーのそれを超えている。

 15万円を超える価格は高価ではあるが、価格ではなく、環境的な意味でリアル5.1chを実現できない人にとっては、大きな価値のある製品だと思う。これは個人的な予想でしかないが、まったく同じ価格で7本のスピーカーとサブウーファー、そしてAVアンプを揃えたシステムと聴き比べたとき、サラウンドの後方の音の再現こそ多少物足りないかもしれないが、それ以外では同等だと思えるし、質的には超えることもありうると思う。

 今後、映画も定額でのストリーミング再生が普及し、スマホ視聴で音はヘッドフォンというスタイルが定着するのかもしれない(DTS headphone:Xが普及してくれるとうれしいが)。そんな時代になっても、サラウンドで制作された映画はサラウンドで見たいと思うし、サラウンドは映画館だけで十分と潔く割り切れない人もいるだろう。そんな人にとって、バータイプスピーカーのホームシアターシステムは頼もしい味方だ。

 また、音質を重視し、「シアターシステムの音なんて……」と思っている人ほど、HT-ST9の音は体験してみるべきだ。きっと予想以上の音に驚くはずだ。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。