鳥居一豊の「良作×良品」

ワンボディで7.1.2chサラウンド! ヤマハ「YSP-5600」驚異の臨場感

「マッドマックス 怒りのデスロード」に大興奮

 家庭環境におけるサラウンド再生は、コンポーネントの進化や新たに登場するサラウンド技術によって、映画館に匹敵する臨場感が味わえるようになった。しかし、そのために必要なスピーカーの数はどんどん増えていき、最新のドルビーアトモス(Dolby Atmos)では、5.1chまたは7.1chのスピーカーに加えて、天井に設置するトップスピーカーもある。部屋の後方にスピーカーを置くだけでも難関なのに、今度は天井と、実現の難易度は高まるばかりだ。

 Dolby Atmosが採用したレンダリング方式のサラウンド技術は、膨大な数の音源を室内の自由な場所に定位させることを可能にし、サラウンド空間の再現力は飛躍的に向上した。しかし、後方や天井へのスピーカー設置というハードル故に、自分の家でDolby Atmosや、サラウンド再生を諦めている方も多いはず。

 だが、ついにヤマハから「YSP-5600」(実売価格189,000円)が登場した。ヤマハのYSPシリーズは、複数のスピーカーを高精度に制御して音のビームを作り出し、壁の反射を利用して、ワンボディながらもリアルな5.1/7.1ch再生を可能にしてきたデジタル・サウンド・プロジェクター。最新にして最上位モデルとなるYSP-5600は、天井の反射を利用してトップスピーカーの音を再現する7.1.2ch再生が可能なモデルだ。

YSP-5600をラックに設置したところ

 Dolby Atmosはもちろん、今後登場予定のDTS:Xにもアップデート対応予定となっており、最新鋭のサラウンドをワンボディで実現できるのだ。手軽なワンボディのシステムとはいえ、価格もかなり高価だが、興味を持っている人は多いのではないだろうか。

総数46個のスピーカー群が、3次元的なサラウンド音場の再現を可能に

 まずはYSP-5600について詳しく説明していこう。このところ、薄型テレビのデザインに合わせた背の低いバータイプのモデルが多かったが、YSP-5600は久しぶりの大柄なボディを採用。搭載されるスピーカーは、ベースとなる5.1/7.1ch再生を行なう水平ビーム専用アレイスピーカー(40mm口径)が3列配置で32個、トップスピーカーの音を再現する垂直ビーム専用アレイスピーカー(28mm口径)が左右各6個、さらに低音再生用のウーファが左右各1個の合計46個ものスピーカーを内蔵する。

合計44個のアレイスピーカーと2つのウーファを搭載する

 3列構成の水平アレイスピーカーは、従来は3列がほぼ同数で配列されていたが、YSP-5600では、上段が11個、中段が14個、下段が7個という変則的な配置となっている。22個×1列の配列を採用した下位モデルの開発の経験などから、より水平方向に向けた音のビームの放射に適した配列を採用している。これは別途垂直方向へ音を放射するアレイスピーカーが追加されているため、水平専用に特化できたとも言えるだろう。

 その垂直アレイスピーカーは、上方に角度をつけたホーンを組み合わされている。これも適切な角度で天井へ音のビームを放射するための工夫だ。Dolby Atmosなどでの天井に配置するチャンネルの再生だけでなく、映画の台詞などの音が定位する高さを調整できるダイアローグリフト機能としても使用される。

 サラウンド機能としては、Dolby Atmosの7.1.2ch相当の再生が可能となるが、もちろん、従来の5.1ch/7.1ch再生も一通り対応する。さらに、従来のサラウンド音声に対して、レンダリング方式で高さ方向の音場効果を加えて再現するドルビーサラウンドにも対応。しかも、ヤマハ独自のサラウンド音場再生技術「シネマDSP」も搭載。AVアンプでも、最上位モデルとなるAVコントロールアンプのCX-A5100でしか実現していない、Dolby Atmos+シネマDSPの再生も可能になっている。つまり、これまでのあらゆる音声を7.1.2構成の立体的なサラウンド音場で楽しめるというわけだ。

 もちろん、最新のホームシアターシステムとして、サラウンド以外の機能も充実している。Wi-Fi、Bluetooth機能を内蔵し、ネットワークオーディオ再生やBluetoothを使ってのワイヤレス再生が可能。ネットワーク再生では、最大192kHz/24bitのハイレゾ音源の再生が可能で、AirPlayにも対応している。インターネットラジオ(vTuner)、radiko.jpの聴取も可能だ。

 このほか、ネットワーク接続された対応機器同士で連携し、YSP-5600に接続された機器(テレビ、BDレコーダ、CDプレーヤーなど)の音を、家の中のさまざまな場所に置かれた機器へ配信できる「MusicCast」に対応している。これらの機能は、無料で提供されている「MusicCast Controler」で操作可能。機器の各種操作を行なう「HOME THEATER CONTROLER」(無料提供)と連携し、YSP-5600の操作からネットワーク再生まで快適に操れる。

 映像信号についても、4入力/1出力のHDMI端子は、HDCP2.2、4K/60p映像信号に対応。ネイティブ4Kコンテンツや4K放送の入出力にも対応と、最新の映像コンテンツへの対応も万全だ。

サイズはやや大きめだが、奥行きは短い。ワンボディなので配線も容易

 さて、いよいよ設置だ。ボディサイズは横幅が1,100mm、高さが216mmとやや大柄なサイズとなる。ただし、奥行きは122mmと短めで設置面積は思ったよりも小さい。薄型テレビと組み合わせる場合も、テレビの手前に置くことは可能だろう。この場合、画面の下部が隠れてしまうので、テレビの下に小さな台を置いて高さを調整するといいだろう。また、壁掛け設置にも対応しているので、テレビとともに壁掛けしてもいい。

正面から見たところ。最近のバータイプスピーカーと比べると高さがあり、正面からはやや大柄な印象になる。前面はパンチングメタルのカバーで保護されている

 機器との接続は、プレーヤーからのHDMI出力をYSP-5600につなぎ、YSP-5600のHDMI出力を薄型テレビに接続すればいい。HDMIケーブル2本で接続が済むのは、さすがはワンボディシステムだ。このほか、音声入力としてアナログ×1、光デジタル×2、同軸デジタル×1も備える。出力はHDMI出力のほか、サブウーファ用出力も持つ。

横から見たところ。スタンド部分がやや出っ張っているが、ボディそのものは薄型で設置面積はそれほど大きくはない
上部にある基本操作ボタン。電源およびボリューム、Bluetooth接続のためのCONEECT/入力切り替えボタンがあるだけのシンプルな構成だ
背面から見たところ。スタンドや壁掛け金具の設置のためのネジ穴がある。接続端子は中央付近に集中
下部のアナログ音声/デジタル音声入力端子は、ボディの奥まった位置。配線時にコネクタが出っ張らない。Etherentは写真の右端
HDMI入出力端子。上から4つが入力端子で、下のひとつがHDMI出力だ
背面の接続端子群。HDMI端子は横向きの接続

 我が家では、YSP-5600をテレビ用のラックに置き、120インチ用のスクリーンと組み合わせて視聴を行なった。そして、今回はサブウーファの「NS-SW700」(実売価格48,380円)も一緒に使用している。NS-SW700は25cmウーファを内蔵し、サイズも大柄だが、アクション映画の重低音を存分に味わうならばこのクラスのサブウーファが欲しくなる。

自宅のシアタールームにYSP-5600とNS-SW700を設置した状態。後方にある120インチスクリーンと比べても見劣りのしない堂々たる風格だ

 なお、別売でワイヤレスサブウーファキット「SWK-W16」(実売価格16,740円)もある。これを使うことでYSP-5600とサブウーファの接続をワイヤレス化でき、電源も連動する。サブウーファを部屋の隅などに置く場合、配線を引き回す必要がなくなるので便利だろう。

「インテリビーム」で測定後、手動で微調整を行って、万全の再生を目指す。

 ひととおりの設置・接続が完了したら、次は自動音場補正機能「インテリビーム」による測定・補正を行なう。付属する専用マイクを前面のマイク入力に接続すれば、後はリモコンでスタートをするだけで自動で測定が行なわれる。

付属する測定用のマイク。前面にある入力端子と接続し、マイクを視聴位置にセットする。製品にはマイクを設置するための簡易スタンドも付属している

 測定時は無用なノイズを減らすために部屋の外に出ることが推奨だが、一度は同じ部屋で音場測定の様子を見てみると面白い。AVアンプなどの音場測定のように各チャンネルからテスト信号が再生されるのは同様だが、室内に反射させるビームの角度を最適にするための測定が面白い。テスト用の信号が部屋中をぐるりと回る。まさしく音のビームで部屋の形状をスキャンしているようだ。

 基本的には「インテリビーム」の測定のみで作業は完了だが、さらに良好な再生をするならば、手動での微調整も行いたい。測定した結果を元に、聴感で各スピーカーの位置や高さ、音の定位などを微調整できるのだ。測定した結果を見てみると、部屋の形状や家具の配置などにより、左右の角度や距離(壁の反射を経由して視聴位置に音が届くまでの距離)などはかなりバラついているのがわかる。手動調整では、各スピーカーの水平角度と垂直角度が調整できるので、ここで各チャンネルの位置が左右でだいたい揃うように微調整しよう。

「インテリビーム」実施の画面。マイクを設置した後、リモコンで決定を押せば自動的に測定が始まる
測定開始後、10秒間の待機時間がある。この間に部屋から出るわけだ
測定中の画面表示。「ビーム角度測定」では、音のビームが部屋中をぐるりと回る様子がわかる
周波数特性などの音質調整のための測定時の画面。サブウーファを接続しておけば、サブウーファの有無や音量、距離なども同時に測定してくれる

 家具の配置を移動するなど、大がかりな工事を必要としない程度の模様替えで済むならば、測定した数値が左右で揃うように部屋自体の調整をしてもいいだろう。部屋の形状の問題などにより、適切な位置に反射する壁がないような場合は、適切な大きさの反射板を用意するのもひとつの方法だ。

 ビーム経路長や焦点距離は、音像の立ち方(フォーカス感)を調整するが、違いは微妙なので自動調整任せでも大丈夫だ。あとはチャンネル出力で各チャンネルの音量が揃っているかを確認すればOKだ。

 僕は各社の自動音場補正機能に興味があり、使いこなすためにいろいろと面倒な手順を踏む。この視聴でも音場測定は何度もやり直したが、最終的にはまずは「ビーム調整+音質調整」を行なってから、手動で水平・垂直方向の微調整をし、最終的に「音質調整」を行なった。これは、ビームで放射される各スピーカーの位置をきちんと決めてから、改めて壁面や天井面の反射による音質的な変化を補正するという考え方。自動調整でも同様の考え方で行なわれていると思うが、時間に余裕にある人にはおすすめだ。

YSP-5600の設定メニューにある、ビーム調整のメニュー画面。上の「インテリビーム」が自動調整で、下にある項目が手動調整だ
インテリビームの調整項目。自動で行う場合は、「ビーム調整+音質調整」を行なう
水平角度の調整。各スピーカーの角度を耳で聴きながら微調整する。フロントの左右など、左右のペアがほぼ対称となるように調整しよう
垂直角度の調整。こちらはハイトチャンネル(トップスピーカー)の調整項目も加わっている
チャンネルレベルの調整。各スピーカーの音量が揃うように調整する。自動調整されているので、確認程度に一通り聴くくらいで十分だ
サブウーファを追加した場合の設定画面。オーディオケーブルで接続する場合は「有線」、サブウーファなし、あるいはワイヤレスサブウーファキットを使う場合は「フロント/無線」を選ぶ
クロスオーバー周波数の調整。サブウーファに受け持たせる低域周波数の上限を設定する。初期設定値は100Hz。低音感に違いが出るので、実際に映画などを再生しながら好みに合わせて選択する
サブウーファの距離の設定。これは「インテリビーム」での測定結果が反映されるので、特に変更する必要はない

秀作、人気作揃いのDolby Atmos作品だが、今の一番は「マッドマックス」!

【初回限定生産】マッドマックス 怒りのデス・ロード ブルーレイ&DVDセット

 ではいよいよ「良作」の出番。Dolby Atmos音声を収録したタイトルは、まだ決して数は多くはないが、最近の人気作、ヒット作が採用する傾向が強く、当然ながらいずれも優れた音場や迫力のあるサウンドを味わえるものばかりだ。なかでも、今一番気に入っている作品が「マッドマックス 怒りのデスロード」。1979年に公開された第1作から始まる3部作から、およそ30年近くを経て製作された第4作だ。核戦争後の荒廃した世界を舞台に元警察官のマックスが活躍するという設定はそのまま。その後の多くのクリエーターに影響を与えたバイオレンスな世界観はさらに深みを増したものとなっており、登場人物たちや改造自動車の意匠や造形はすでにアートの域だ。

 全編のほとんどがカーアクションという、エンターテイメント全開の作品で、しかもV-eight(登場する多くの自動車に搭載されるV8エンジン)が神格化されていることからわかるように、爆音映画である。YSP-5600は単体でも十分なレベルの低音再生能力を持っているが、ここはサブウーファなしでの再生は考えられない。

 では、いよいよ上映しよう。どの映画も例外なく製作会社などのロゴマークが現れるわけだが、最近は映画に雰囲気に合わせてマークに加工を加えた作品も増えていて、案外面白い。本作の場合はワーナーブラザーズのマークが赤錆にまみれた金属的な質感になっており、重厚さと荒廃した感じがたっぷり。しかも、マークが消える間際に野太いエンジンの始動音が入る。車が好きな人ならば、大排気量エンジンならではの迫力ある咆吼だとすぐに気付くだろう。ここはもちろん、V8エンジンに間違いないと思っておこう。低音の底力はもちろん、ぶっといエキゾーストから吹き出す排圧の大きな感じも含めて、YSP-5600+NS-SW700の組み合わせは十分満足できる再現だ。

付属のリモコン。各入力の切り替えや、サラウンド音場モードの切り替えなどは専用のボタンが用意され、快適に使用できる

 そして、マックスのモノローグの形で、これまでの物語が語られる。元警官である自分の素性、核戦争の勃発とその後の混乱があったことだ。そこでは、モノローグに加えて、さまざまな性別、年齢の声が部屋のあちこちから響いて、マックスの語りを生々しく肉付けしていく。ここで、7.1ch環境であれば部屋の四方から声が聞こえてくるわけだが、Dolby Atmosとなると、その声に高さ感が加わる。それが立体的なサラウンド空間と言えるわけだが、実はあまりにも自然(普段自分が聴いている音はすべて方向と高さの情報があり、耳はそれを認識している)なので、「Dolby Atmos凄い!」とはならず、「思ったより普通」と感じたりする。だが、これを従来の7.1ch再生で試すと(YSP-5600の場合、リモコンにある「3Dサラウンドボタン」でDolby Atmos、「サラウンドボタン」でドルビーTrueHD7.1ch音声が切り替わるので比較視聴ができる)、従来の四方からのサラウンドの再現が平面的で不自然な音の聞こえ方だと感じる。これだけはっきりと、Dolby Atmosと従来の7.1ch音声の違いがわかるというのは、ビームによる天井チャンネルの音がしっかりと再現されていることに他ならない。

 正直なところ、冒頭のモノローグを聴いているだけで、このスピーカーのサラウンド再生能力がタダモノではないことに戦々恐々とした気分になった。音質的な違いなどは別としても、苦労して我が家の視聴室の天井に設置した4本のスピーカーでのDolby Atmos再生とサラウンド空間の再現性では遜色がなかったのだから。

 と、製品のレビューとあまり関係のないことでヒヤヒヤしているうちに、マックスと愛車のインターセプターは、暴走集団に追われて派手に転倒、大破。車は奪われるし、自分は輸血袋として暗いアジトで逆さ吊りになっている始末だ。

 マックスが捕らえられた暴走集団は、イモータン・ジョーが支配する集団で、彼らは水源地を独占することで地域に住む人々も支配している。偶像として崇拝するのが、頭蓋骨とV-eight(V8エンジン)。イモータン・ジョーはまるで儀式でも行うように、水源の水を人々に振る舞うが、高い岩山の頂上付近にある放水口から滝のように水が溢れ出し、その水を確保しようと水流に群がる人々の様子はまさに祭礼のようにも見える。頭上から降り注ぐ水の音も、高さ感を伴って見ている自分にも降り注ぐ。

 物語はいたって単純。イモータン・ジョーの集団の資産である水を、巨大な都市であるガス・タウン(大規模な油田あるいは精油所のように描かれている)でガソリンと交換するために、大隊長であるフュリオサが水を満載したタンクローリーで出発する。だが、フュルオサはイモータン・ジョーを裏切り、彼の5人の妻と共に逃亡する。その逃亡の様子をひたすらに描くものだ。要するに、後はすべて見せ場(カーアクション)だ。

 ウォーボーイズと呼ばれる若者達は、イモータン・ジョーのために勇ましく戦って死んだ者は死後に生まれ変われるといった教義で洗脳され、死を怖れない凶暴な集団となっている。象徴的なのがニュークスで、病のために輸血を必要とする身体でありながら、崇拝するイモータン・ジョーのためにマックスを輸血袋として帯同させ、フュリオサたちの追跡に参加する。という感じで、マックスもこの逃走劇に巻き込まれ、結果的にフュリオサたちの逃亡を手助けすることになる。解説はこれで十分すぎるだろう。映画の素晴らしさについては、文字で情報を仕入れるよりも見た方が早い。

 そのカーアクションは、撮影時に人が死んでいないのが不思議なくらいの迫力で、アクション映画に見慣れた人でも痺れるような場面が連続する。これを支えているのは間違いなく音だ。この映画をテレビの内蔵スピーカーで見ている人に、英雄の館の門は開かれないだろう。V-eightに対する冒涜である。

 フュリオサの操る大型タンクローリーに何台もの改造車が群がる場面では、大地を駆ける走行音と、迫力たっぷりのエンジン音が縦横無尽に駆け抜けていく。もともと、YSPシリーズは前方や後方の音の定位が明瞭で、そのサラウンド感はリアルに複数のスピーカーを配置したシステムに匹敵する再現力を持っていたが、定位感が明瞭すぎて空間感とか音に包まれる感じが希薄になると筆者は感じていた。しかし、YSP-5600はDolby Atmosの採用もあり、この空間感が大幅に向上している。改造車の走行音はもちろん、ウォーボーイズが使う武器であるサンダーロッド(命中すると爆発する槍)の爆発音が、その場所からの爆発が聴こえるだけでなく、燃え上がる炎が広がる様子までリアルに再現する。このスピーカーとスピーカーの間が音で埋め尽くされている感じは、本格的な5.1/7.1chのシステムでも十分な調整などをしないと得られないものだ。

 サラウンド感だけでなく、基本的な音の質もなかなかのものだ。劇中のセリフは極めてシンプルだが、その声もしっかりと厚みがあって、力強い声で再現される。だから、最初はフュリオサたちの逃亡には関わらず、一人でイモータン・ジョーから逃げようとしたマックスが、いつしか彼女たちのために命がけで戦うようになる心の変化がよくわかる。ぶっきらぼうで自分の面倒だけで精一杯な男だが、心根は優しい。劇中で決してスーパーヒーロー的な活躍を見せない(むしろ、カッコ悪い場面の方が多い)マックスだが、それでもカッコイイヒーローとして心に残るのはそんな優しさ(そして自らが抱える苦悩や弱さ)が随所に感じられるからだろう。

Dolby Atmos+シネマDSPで、さらに臨場感を高める!

 YSP-5600の音の良さは、最近のモデルではあまり使われなかった大口径ユニットをアレイスピーカーに採用した点もあるし、最上位モデルとして音質的にもかなりこだわっていることが理由だろう。重低音についてはサブウーファのおかげの面もあるが、エンジン音や爆音だけでなく、キレ味の良い音楽の再現などでもその実力の高さがよくわかる。

サブウーファ「NSーSW700」と一緒に置いた状態。アクション映画などでは不足しがちな重低音を増強できる

 それがよくわかるのが、ドーフ・ウォリアーによる炎のライブだ。彼らは追撃に帯同するものの、戦いには参加せず、満載のスピーカーと何台もの太鼓を積んだ車両に吊り下げられた状態で、ギターとベースが一体になったボディで迫力のプレイをするだけだ。要するに戦いを鼓舞する役割だ。

 劇中のBGMで激しいパワー・コード・リフが加わると彼らの出番で、ドーフ・ウォリアーが現れると、その激しいプレイが一段と大きな音になる。ディストーションを激しく聴かせたその音も力強さに満ちていて、まさしく血湧き肉躍るような感覚になる。

 ここで、Dolby Atmos+シネマDSPの効果を試してみた。シネマDSPの音場モードには、映画用として、アドベンチャー、スペクタクル、SFXがある。シネマDSPの音場効果もDolby Atmosに合わせて最適にチューニングされているようで、以前のように明らかに音場感は変わるが、不要な響きが多すぎるという感じにはならない。むしろ、シネマDSPとしての効果は控えめで、Dolby Atmosの音場感を良い具合に盛り上げるという感じになる。だから、アドベンチャーでは特に低音の厚みが増して、ドーフ・ウォリアーの演奏ではギターよりもベースの音が骨太になる。スペクタクルはよりキレ味のよいスピード感があり、ギターのキレ味もさることながら演奏の合間に吹き出す火炎放射の勢いが出て、なかなかにスリリングだ。SFXは全体に音の粒立ちが増す感じで、音質的な演出は少なめ、音の定位がより明瞭になるので、後半でポールに登ってタンクローリーに飛び移ろうとする曲芸アクションなどがより楽しくなる。

 Dolby Atmosだけのストレートな再生でも、音場の広がりや音の包囲感は十分なので、決してそれを邪魔することのない絶妙な味付けだ。これならば、HiFi的にストレートデコード再生を身上とする人でも、不自然さを感じることはない。映画に合わせてよりマッチした音場効果を使い分けて楽しめるだろう。

 物語はいくつかのドラマチックな場面をはさみながら、最後まで息つく暇もなく疾走していくので、体感時間としてはあっという間に終わってしまう感じがする。すでに多くの人が魅了されている作品だからあまり心配していないが、初見で面白くないと感じた人は暴力的な描写、あるいはこういうタイプの映画が苦手な人くらいだと思う。そうでない場合は、鑑賞したシステムの音の実力を疑おう。特にサブウーファを。

 YSP-5600とNS-SW700などのサブウーファの組み合わせならば、この作品に対する満足度はかなり高いはず。きっと、4本の指を×印に交差して(これはV8エンジンの8つのシリンダーを意味する)、頭上に掲げて「V-eight!!」と叫んでいるはずだ。

単体でも十分に優秀で、音楽再生の満足度も高い優れたシステム

 最後にサブウーファなしの単体での再生も試してみた。「マッドマックス 怒りのデスロード」のような爆音映画を見るには重低音のパワー感が不足するのは仕方がないが、それでも2つの10cmコーンウーファが低音再生を担当するようで、思ったよりも迫力不足な音にはならない。絶対的な低音は足りないが低音感はあるというやつで、単体でもなかなかにバランスがいい。

 ネットワーク機能で音楽再生も試してみたが、大編成のオーケストラの曲でもコントラバスのような低音楽器の音域をそれなりに再現できていた。また、ステレオ再生モードでは、垂直方向用のアレイスピーカーをトゥイーターとして動作させるようで、ステレオ的な音場感もなかなか良好で音楽再生もかなり楽しめる実力を備えている。

 現在のシアター機器では、サラウンド再生は当然として音楽再生やネットワーク機能なども盛り込まれるが、ステレオ再生からDolby Atmosまで一通りこなしてくれるというのは活躍の幅も広いので、音質の良さを考えれば20万円近い価格も納得できるものがある。

 映画の冒頭で、YSP-5600とNS-SW700の組み合わせは自宅の4.2.4ch構成のシステムに匹敵するかもと、心配になるほどの実力の高さを感じさせてくれた。だが、あえてシビアに判定するならば、大音量再生(防音された視聴室でも昼間でないと近隣に迷惑のかかるレベル)となると、やや歪み感が増して聴きづらくなり、低音域もブーミーになる。このあたりはそれなりのサイズのスピーカーのシステム(B&W MATRIX801 S4を4台)とは差を感じる。ただ、このあたりは多くの家庭環境ではあまりデメリットにならないだろう。微細な点を挙げるならば、後方を含めて音の定位感は良好なのだが、後方の音像にもう少し厚みや実体感が欲しくなるといった点くらいだ。そのレベルで音質の良さを求めるならば、それなりの投資と工事を覚悟してリアル5.1.2chや7.1.2chのスピーカー構成を実現するしかない。

 およそ20万円で、AVアンプとスピーカーを最低で7本、サブウーファ1本を購入するとしたら、その勝敗はセッティング次第となるのは間違いない。価格の範囲内で優れたスピーカーを吟味し、セッティングをある程度理想的な状態で行なうことができれば、リアル5.1.2ch構成でより音を追い込むことは可能だ。しかし、そこまでの手間をかける時間、そしてノウハウの蓄積や情熱が足りなければ、マニュアル通りに設置して、自動音場補正でセットアップしたYSP-5600が、満足度の高い音を出す可能性は高いと思う。20万円あまりの予算があることが前提だが、本機を選ぶかどうかは、設置する場所の環境の問題のほか、このあたりのことも合わせて検討するといいだろう。

 YSPシリーズはワンボディでリアルサラウンドを実現できるシステムとして、バーチャルサラウンド技術を利用した一般的なワンボディシステムとは別格として扱われてきたが、YSP-5600はそれを超えて、AVアンプと複数のスピーカーによるシステムと同等の音場を再現できる本格的なモデルとしての実力を得たと言っていい。予算が、ではなく物理的に複数のスピーカーを設置できないという人にとってはまさに福音のような製品だ。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。